スキーマの活性化に対し、スキーマに服従・回避・過剰補償の「3つのF」コーピングスタイルで対処反応し、4分類10種のスキーマモードで状況に対する今の自己の状態をつくる仕組みまでを「スキーマ」と呼んでいます。
はじめに
早期不適応スキーマは、幼少期から思春期においては本人にとって適応的であると自覚していて、さらに緻密化され本質的自己規定(アイデンティティー)の信念となっていきます。しかし、成長することによって早期不適応的スキーマが活性化される状況によっては、今まで通りに反応すると適応誤差が生じてきます。そこで、それまで身についたその人なりの「対処反応」が起きるのに対し、その人の特性パターンである「コーピングスタイル」で対処することで個別の「具体的な反応」になります。
- スキーマの活性化
スキーマとは自分の中に内在化された深いレベル、無意識の思いやルール、価値観です。スキーマはいつも現れているのではなく、スキーマを活性化する状況がセットされると、おのずと活性化されます。 - コーピング
早期不適応的スキーマに対して、その人なりの機能的、または非機能的な「対処反応」のことです。 - コーピングスタイル
活性化されたスキーマに対処するための全般的なコーピングのパターンであり、その人の「特性」となります。 - コーピング反応
ここの場面における個別の対処反応であり、そのような性質を持った人のその時々の「具体的な反応」です。
このページを含め、心理的な知識の情報発信と疑問をテーマに作成しています。メンタルルームでは、「生きづらさ」のカウンセリングや話し相手、愚痴聴きなどから精神疾患までメンタルの悩みや心理のご相談を対面にて3時間無料で行っています。
- スキーマ療法の知識
- スキーマ療法の治療戦略と技法
- 不適応的スキーマのセルフチェック180問と解説
- 不適応的スキーマと防衛機制・認知バイアス・自己認識
- 18の不適応的スキーマの克服に一人で取り組む自己ワーク
非機能的コーピングスタイル
脅威に対して示す基本的な3つの反応(3つのF)
- スキーマの服従(麻痺する)3つのF/freeze
そのまま鵜吞みにし、スキーマに従うことやスキーマを確証するような行動をとります。
・ひたすらスキーマに従うことで、それ以上の被害を防ごうとする。
- スキーマへの回避(逃げる)3つのF/flight
スキーマに直面した際に活性化されないように用心します。
スキーマにかかわる思考や感情など体験することを避け続け、スキーマが存在しないかのように振る舞い、活性化されそうになったら素早くその状況や自らの反応を抑え込もうとします。
・スキーマが活性化されないように注意深くする。活性化されたときの反応を回避する。
- スキーマへの過剰補償(闘う)3つのF/fight
スキーマと正反対のことをあたかも事実であるかのように振る舞い、スキーマと闘おうとします。スキーマを意識的、あるいは無意識的に避け、まったく違う存在であろうとします。
・スキーマの正反対こそが「真実」だと考え、自分のスキーマと闘い続ける。
スキーマの活性化
スキーマの活性化とは
- 今現在、その人において活性化されているスキーマ、およびスキーマ作用のことです。
早期不適応的スキーマといえども、そのスキーマを獲得したときには状況に適応するために身に着けたものですので、過去と似た状況に陥ったときに自己防衛的にスキーマが発動します。これが活性化されているスキーマといえます。
・スキーマが信念だとすると、コーピングは脅威に対して反応するパターンであり、モードは反応された状態に、さらに追加された状態変化となります。
スキーマモード
スキーマモードとは
活性化されたスキーマに非機能的コーピングは服従することも、回避することも、過剰補償することもあります。しかし、その時たまたま活性化されたスキーマと、その時たまたま選択されたコーピングスタイル(コーピング反応)という「特性」に焦点をあてた概念だけでは説明できず、ヤングはスキーマモードという「状態」に焦点をあてた概念で説明しています。
スキーマモードの活性化
スキーマの活性化とコーピングスタイルの反応が相互作用することで、スキーマモードが活性化されます。スキーマモードは、特定の感情、思考、行動のパターンであり、個人の感情体験や行動に影響を与えます。スキーマモードは、過去の経験に基づいて形成された自己の特定の側面を表現し、一時的に他の健康なモードを抑制することがあります。
当然ながら、その時々の状態や反応は無数にあることになりますが、わかりやすく以下の4つに分類しました。
第1分類 ・チャイルドモード |
第2分類 ・不適応対処モード |
第3分類 ・非機能的ペアレントモード |
第4分類 ・ヘルシーアダルトモード |
スキーマモードの細分化
スキーマ―モードは無数にありますが、細分化されている一部を掲載します。
保護モード(Protective Modes):
- 被害者モード(Victimized Mode)
- 被害者加害者モード(Victimizer Mode)
- 弱者モード(Subjugated Mode)
- 追従者モード(Compliant Surrenderer Mode)
- 隠蔽者モード(Detached Protector Mode)
自己規制モード(Overcompensating/Overcontrol Modes):
- 完璧主義者モード(Perfectionist Mode)
- 厳格な規則者モード(Punitiveness Mode)
- 無感情モード(Emotionally Cut Off Mode)
- 統制欲モード(Self-Aggrandizer Mode)
- 堅苦しいモード(Rigid Mode)
無力モード(Surrender Modes):
- 放棄モード(Abandonment Mode)
- 麻痺モード(Emotional Deprivation Mode)
- 無力感モード(Helplessness Mode)
- 認知的閉塞モード(Defectiveness/Shame Mode)
- 無気力モード(Depressed Mode)
刺激追求モード(Self-Stimulation/Self-Aggrandizement Modes):
- エンターテイナーモード(Entertainer Mode)
- エキサイトメントシーカーモード(Excitement-Seeking Mode)
- 自己中心的なモード(Grandiosity Mode)
- 自己鼓舞モード(Self-Stimulator Mode)
- 冒険者モード(Adventurer Mode)
連続性モード(Connectedness Modes):
- 関係依存モード(Dependence Mode)
- 過剰な共感モード(Mistrust/Abuse Mode)
- 規範への順応モード(Approval-Seeking/Recognition-Seeking Mode)
- 他者の依存モード(Subjugation to Others Mode)
- 反抗モード(Counterdependence Mode)
これらの細分化モードは一般的な例であり、実際の人々の経験には個別のバリエーションや組み合わせが存在しています。
スキーマモード
保護モード、無力モード、自己規制モード、刺激追求モード、連続性モードの中から一般的なスキーマモードを4分類に分けて、わかりやすいモード名で説明します。
第1分類・チャイルドモード |
生得的なもので、人類の先天的な子供の感情表現です。幼少期の環境が子供モードを強めたり弱めたりしますが、以下の4つの子供モードを表現することができます。 |
➀ 脆弱なチャイルドモード |
【原因】見捨てられた、虐待された、愛情をかけてもらえなかった、きちんとしつけてもらえなかったなどで不機嫌や不安な感情があります。「恐怖」「悲しみ」「無力」を表現します。 |
【状態】・悲しみ・苦しみ・寂しさ・心細い・怖がる・恥ずかしい・消えたい・謝る・不安 |
【スキーマ】見捨てられ・不信/虐待・情緒剥奪・欠陥/恥・社会的孤立/疎外・依存/無能 ・損害や疾病に対する脆弱性・巻き込まれ/未発達の自己・否定/悲観的 |
➁ 怒れるチャイルドモード |
【原因】見捨てられた、虐待された、愛情をかけてもらえなかったことに対して怒っています。中核的な欲求が満たされないと感じる時、また中核的スキーマに関して不公平な扱いを受けたと感じる時に怒りを放出します。「怒り」を表現します。 |
【状態】傷ついて怒っている |
【スキーマ】見捨てられ・不信/虐待・情緒剥奪・服従/征服 |
③ 衝動的/非自律的チャイルドモード |
【原因】自己制御することなく、限界や他者の要求、気持ちを顧みず、自己制御することなく、自らの欲望や感情のままに行動する子供の状態です。親のしつけによって自己制御できるようになる前の子供はこのようなモードになります。 |
【状態】傷ついて癇癪を起す・悔しくて地団太踏む |
【スキーマ】権利要求/尊大・自制と自立の欠如 |
④ ハッピーチャイルドモード |
【原因】中核的感情欲求が満足され、愛されている、結合しているなど満たされていて楽しみや喜びに満ち溢れたハッピーな子供の状態です。 |
【状態】喜んでいる・安心している・はしゃいでいる・すやすや眠っている・にこにこしている… |
【スキーマ】適応的スキーマ |
第2分類・不適応対処モード(非機能的コーピングモードの下位) |
非機能的コーピングモードの下位モードで服従・回避・過剰補償のそれぞれのスタイルに対応したモードです。 |
⑤ 従順/服従モード |
【スタイル】言いなりで依存的な対処スタイルを用います。自らのスキーマに屈服し、受け身で無力な子供に戻って服従します。 |
➅ 遮断/防衛モード |
【スタイル】感情的引きこもり、接触の遮断、孤立、回避行動などの対処スタイルを用います。感情的に引きこもる、薬物を乱用する、何らかの自己刺激を起こす、他者との関わりを避けたりするなど、さまざまな回避的手段を用いて、スキーマがもたらす心理的な苦痛を防ごうとします。 |
➆ 過剰補償モード |
【スタイル】反撃と支配の対処法を用います。自らのスキーマに反撃するために、他者を不当に扱ったり、極端な振る舞いを示したりします。 |
【状態】⑤⑥⑦ ・先延ばし・くずくず・お酒に走る・過食・過薬・感情遮断・自傷行為・過眠 ・お祭り騒ぎ ・ネットに没頭・過買い物・セックスに走る・異性に依存・他人に逆ギレ・心を閉ざす ・他人の支配・服従・尽くす ・自分の心を無視… |
第3分類・非機能的ペアレントモード(懲罰的/批判的親モード) |
内在化された養育者(多くは親)の状態を示しています。 |
➇ 懲罰的ペアレントモード |
【スタイル】チャイルドモードの自分に対し「悪い子」だと断じて懲罰を与えます。 |
➈ 要求的ペアレントモード |
【スタイル】チャイルドモードの自分に対し過度に高い基準を押し付け、プレッシャーをかけます。 |
【状態】⑧⑨ ・理不尽に叱ってくる・罰を与えてくる・脅してくる・要求してくる・命令してくる ・傷つけようとする ・冷たく突き放そうとする・見捨てようとする・聞く耳を持たない ・辱めようとしてくる・傷つけようとしてくる… |
第4分類・ヘルシーアダルトモード(健康な親/大人モード) |
健康な大人の状態を表します。自分自身をモニターし、そのあり様を理解し、受け入れたうえで必要であれば何らかの対処を行います。自らの中核的感情欲求を理解し、自分で自分の欲求を適切な形で満たそうとします。 |
ヘルシーアダルトモードの力が大きい場合 |
大きければ大きいほど、他のモードが活性化されていてもそれに巻き込まれることはなく、それらに気づきマインドフルに受け止め、落ち着いて対処し大丈夫だと構えていられるようになります。ヘルシーアダルトモードが大きければ大きいほど自分を幸せにすることができます。 |
ヘルシーモードが小さい場合 |
小さければ小さいほど①②③のチャイルドモードや非機能的対処モード、非機能的ペアレントモードに簡単に巻き込まれ、ネガティブな体験をすることが多くなってしまいます。 |
参考・引用文献
自分でできるスキーマ療法ワークブックBook2:伊藤絵美/星和書店
認知行動療法実践ガイド基礎から応用まで第2版₋ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト:翻訳伊藤絵美、神村栄一、藤澤大介/星和書店
スキーマ療法₋パーソナリティの問題に対する総合的認知行動療法アプローチ:ジェフリー・E・ヤング、ジャネット・S・クロスコ、マジョリェ・E・ウェイシャー(共著)伊藤絵美(監訳)/金剛出版
スキーマ療法入門₋理論と事例で学ぶスキーマ療法の基礎から応用:伊藤絵美(著・編集)・津高京子・大泉久子・森本雅理(著)/星和書店
スキーマの概念とスキーマ療法のレビューに関する一考察₋スキーマの修復に関する人材開発手法の研究のために:加藤雄士/研究ノート
慢性化した抑うつ症状を訴える男性に対する総合的認知行動療法₋スキーマ療法を併用した症例報告:佐野正剛/大阪径大論集・第68巻第6号
・自傷行為とつらい感情に悩む人のために:ボーダーライン・パーソナリティ障害(BPD)のセルフマニュアル 著者ロレーヌベル/誠信書房
・中核的な思い込みスキーマより75問の引用と15問を作成、追加しています。