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心理的スキーマ・5つの中核的感情欲求と早期不適応的スキーマとは

目次

生きづらさの根本的要因には、無意識の核の歪みが大きく影響しています。薬物治療や精神療法でも回復しにくい凝り固まった頑固な信念で、「スキーマ」と呼んでいて、5つの中核的感情欲求からなる早期不適応的スキーマが原因となります。

はじめに

薬物治療や心理・精神療法を何度となく試しても、次のような症状やメンタルの問題などで「生きづらさ」が回復してこない場合があります。

  • 憂うつなどの落ち込み
  • 食欲の変化
  • 焦燥など精神運動の変化
  • 興味や喜びの消失
  • 睡眠障害
  • 倦怠感など気力の低下
  • 自己の価値否定や非現実的な評価
  • 思考力や集中力の減退
  • 自殺念慮や企図

当然ながら、職場や家族、社会生活にも大きな影響が出ているはずです。もしかして、それは心の奥底にある無意識の否定的認知(信念の「思い込み」が施行に現れる)が原因となっている可能性があります。

アーロン・T・ベックは、思考や行動を修正する認知療法、構造化された「認知行動療法」の心理療法でエビデンスを実証してきました。さらにジェフリー・E・ヤングは思考と信念「思い込み」に対するスキーマ療法で認知行動療法やゲシュタルト療法・アタッチメント理論・対象関係論などを含めた統合的な療法を展開してきています。

スキーマ療法は、ジェフリー・E・ヤングによって開発された心理療法の一種で、深層心理学的アプローチに基づいています。スキーマとは、過去の経験から形成された固定的な思考・感情・行動のパターンであり、現在の問題やストレスに対して影響を与えるとされています。

スキーマ療法では、患者の過去の経験から形成されたスキーマを明らかにし、それらが現在の問題にどのように影響しているかを認識し、変容させることを目的としています。スキーマは、原始的な欲求やニーズ、経験されたトラウマなどから形成されるため、個人によって異なるものとなります。

スキーマ療法の中心的な手法には、以下のようなものがあります。

  • スキーマの特定と評価
    患者とのインタビューを通じて、特定のスキーマを明らかにし、それらがどのような問題を引き起こしているかを評価します。
  • スキーマの認識と変容
    患者に自己観察を促し、スキーマが現在の問題にどのように影響を与えているかを認識させます。そして、そのスキーマを変容するための手法を用いて、新しい、より健全なパターンを形成させます。
  • 応用的な手法
    スキーマ療法は、認知行動療法や精神分析的アプローチなど、他の心理療法とも組み合わせて使用することができます。また、感情調節や自己肯定感の向上など、様々な目的に応じた手法が存在します。

スキーマ療法は、慢性的な問題や反復的なパターンに苦しむ患者に対して効果があります。例えば、うつ病、不安障害、人間関係の問題、パーソナリティ障害などが挙げられます。

このように精神障害の中核(心の核)にある非機能的な認知構造がもたらす慢性的なうつ症状や性格(パーソナリティ)上の特徴にもアプローチできるスキーマ療法が大きく活かされています。 これは幼少期や思春期における心の問題に起因する早期不適応的スキーマを探索します。そして早期不適応的スキーマに服従や回避、過剰に反応するような非機能的コーピングで活性化されていたスキーマに意識的に機能的(適切的)スキーマモードでアプローチすることで変容していこうとする療法です。

ワークは「中核的感情欲求と早期不適応的スキーマとは」№1・№2・№3・「コーピングとモードとは」・№4~№10と内容が続いているため、№1質問用紙90問から順序にワークすることを奨励します。

スキーマとは

 人は対象や出来事、情報について自分が持っている記憶や価値観、認知(イメージ的発想)がありますが、これは先入観による認知構造であるため、「信念」や「思い込み」とされています。
実は信念や思い込みは心の奥底にある無意識の認知構造であるということです。このことを中核的信念(スキーマ)と称されています。例えば、小さい頃に犬と接した経験や家族からの教えや学習が「思い込み」(スキーマ)として強く刻まれている場合は、同じ条件下で犬が現れた際の認知、情動反応は次のように変わります。

信念や思い込みの認知構造

スキーマの多くが幼少期に形成され、その後さらに緻密化を続けます。そして、幼少期には適応的だったスキーマが年齢を重ねることで不適応になったとしても、不正確なスキーマを通して人生に活用され続けます。これが現実とギャップができてしまう不適応で歪曲された自滅的な認知となります。この自滅的な認知と感情、行動のパターンを早期不適応的スキーマと称しています。ただし、スキーマは幼少期以降に形成されるものもあり、またポジティブで適応的なスキーマもあります。
スキーマ療法では、幼少期、発達の段階で形成された非機能的である早期不適応的スキーマに焦点を当てていきます。

早期不適応的スキーマは、子供(幼少期)が養育者に対し持って当然の欲求が満たされなかった「中核的感情欲求」によって形成されています。ジェフリー・E・ヤングは中核的感情欲求の5つを挙げています。

① 養育者、または親密な他者との安全なアタッチメント・安全で安定した滋養的かつ受容的な関係:愛してもらいたい。守ってもらいたい。理解してもらいたい。
② 自立性、有能性、自己同一性の感覚 有能な人間になりたい。いろんなことがうまくできるようになりたい。
③ 正当な欲求と感情を表現する自由 自分の感情や思いを自由に表現したい。自分の意思を大切にしたい。
④ 自発性と遊びの感覚 自由にのびのびと動きたい。楽しく遊びたい。生きいきと楽しみたい。
⑤ 現実的な制約と自己制御 自立性のある人間になりたい。ある程度自分をコントロールできるようになりたい。

中核的感情欲求とは

中核的感情欲求の5つは、人間にとって最も普遍的で中核的な感情欲求であり、人間の精神的健康は生育過程においてこれらの欲求が適度に満たされることで育まれます。
早期不適応的スキーマは中核的感情欲求が満たされなかったことや、幼少期の苦痛な体験と生得的気質が相互作用して現れます。

【苦痛な体験とは】
幼少期や思春期において、中核的感情欲求が何らかの形で満たされなかったり疎外されたりすると、その人にとっての「苦痛な体験、傷つき体験」となります。

【早期不適応的スキーマ】
・生まれ持った特徴である生得気質や生得特徴の一部が影響を与えることも多くなります。
・苦痛な体験や、小さな傷つき体験でも繰り返されることなどで現れます。

 スキーマ療法は、中核的感情欲求が満たされないことによって、その人の心や生き方のどの部分に損傷を受けるのかについて仮説をたて、満たすための適応的なやり方を見つけることになります。
そのためには、自らの早期不適応的スキーマを理解し、満たされなかった中核的感情欲求が、治療を通じてある程度満たされ、不適応的スキーマが緩和され、新たな適応的スキーマを手に入れる「スキーマの修復」となります。
自動思考(浅い認知)を変えれば行動が変わります。しかし、早期不適応的スキーマ(深い認知)は頑固であるため、治療で目指すところは、自分を生きづらくさせるいくつかの早期不適応的スキーマを理解したうえで、それらを緩和すると同時にうまく付き合っていくということになります。

スキーマ構造

 「不器用である」「左利きである」「落ち着きがない」「障害がある」など、生まれ持った生得的特徴と苦痛な体験や傷つき体験、養育者に問題があった、不安定な環境で育ったケース、誤った学習などによって満たされない中核的感情欲求が損傷を受けます。そして、幼少時代から思春期に確立され、人生において繰り返しよみがえる自己敗北的感情などの早期不適応的スキーマがあらわれて「生きづらい」自己をつくっていきます。

 幼少期の悲劇的な出来事や恐怖、心に受けた深い傷、愛情の欠如、抑えられた心などが知識や思考と同化や調節され、その記憶が自己の判断する見方や価値観、信念となり認知構造を作り上げていきます。
しかも、スキーマが現実とは合わないと気づいていたとしても一貫性を保つために正当化され、自滅的な認知と感情が生涯にわたって維持されていきます。

早期不適応的スキーマ5つの領域と18の下位分類

5つの領域/満たされなかった中核的感情欲求18の早期不適応的スキーマ
1.       断絶と拒絶
「養育者または親密な他者との安全なアタッチメント(安全で安定した滋養的かつ受容的な関係)」が満たされないことによって損傷を受けるスキーマ領域
⑴ 見捨てられ/不安定
⑵ 不信/虐待
⑶ 情緒的剥奪
⑷ 欠陥/恥
⑸ 社会孤立/疎外
⒉      自律性と行動の損傷
「自立性、有能性、自己同一性の感覚」が満たされないことによって損傷を受けるスキーマ領域
⑹ 依存/無能
⑺ 損害や疾病に対する脆弱性
⑻ 巻き込まれ/未発達の自己
⑼ 失敗
⒊     他者への追従
「正当な欲求と感情を表現する自由」が満たされないことによって損傷を受けるスキーマ領域
⑽ 服従
⑾ 自己犠牲
⑿ 評価と承認の希求
⒋     過剰警戒と抑制
「自発性と遊びの感覚」が満たされないことによって損傷を受けるスキーマ領域
⒀ 否定/悲観
⒁ 感情抑制
⒂ 厳密な基準/過度の批判
⒃ 
⒌   制約の欠如
「現実的な制約と自己制御」が満されないことによって損傷をうける領域
⒄ 権利欲求/尊大
⒅ 自制と自立の欠如
早期不適応的スキーマ5つの領域と18の下位分類

スキーマの特性

  • スキーマは本来、適応的である。
  • スキーマは首尾一貫性を保とうとする。
  • スキーマは無意識であり、心身に染み込んでいる。
  • スキーマは学習によって形成されるものである。

スキーマは適応的と不適応的の2分類がありますが、幼少期から思春期に形成された早期不適応スキーマに焦点をあてていきます。

階層的認知モデル図

階層的認知モデル図

自分の早期不適応スキーマが明確になることで、自分の生きづらさについての理解が進みます。

そのためには、多くのワークステップが必要となりますが、今回はスキーマ質問用紙によって見当(当たり)し、仮説を立て易くする過程の療法で理解していきます。

参考・引用文献

自分でできるスキーマ療法ワークブックBook2:伊藤絵美/星和書店
認知行動療法実践ガイド基礎から応用まで第2版₋ジュディス・ベックの認知行動療法テキスト:翻訳伊藤絵美、神村栄一、藤澤大介/星和書店
スキーマ療法₋パーソナリティの問題に対する総合的認知行動療法アプローチ:ジェフリー・E・ヤング、ジャネット・S・クロスコ、マジョリェ・E・ウェイシャー(共著)伊藤絵美(監訳)/金剛出版
スキーマ療法入門₋理論と事例で学ぶスキーマ療法の基礎から応用:伊藤絵美(著・編集)・津高京子・大泉久子・森本雅理(著)/星和書店
スキーマの概念とスキーマ療法のレビューに関する一考察₋スキーマの修復に関する人材開発手法の研究のために:加藤雄士/研究ノート
慢性化した抑うつ症状を訴える男性に対する総合的認知行動療法₋スキーマ療法を併用した症例報告:佐野正剛/大阪径大論集・第68巻第6号

・自傷行為とつらい感情に悩む人のために:ボーダーライン・パーソナリティ障害(BPD)のセルフマニュアル 著者ロレーヌベル/誠信書房   

・中核的な思い込みスキーマより75問の引用と15問を作成、追加しています。

https://www.wikihouse.com/cognitive/index.php?FrontPage

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