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ICD-11新基準「パーソナリティ症および関連特性群」

目次

2022.5.31、SM-Ⅳ・5に基づいてICD-11の新基準を仮定した結果

2022.5.31現在、パーソナリティ障害を従来のDSM-Ⅳ・5に基づいて解説していき、後半ではあくまでもICD-11の新基準の仮定でしたが、パーソナリティ症を認知できるように取り組んだ結果は次の通りになりました。

ICD-11の診断基準などについては、現段階(2022.5.31)では厚労省の承認前ということと情報の不確実な状態で作成していますので、閲読やご利用には十分な注意が必要となります。

ICD-11はDSM-5第3部のパーソナリティ障害の代替モデルを継承し発展させています。

パーソナリティ障害に不可欠な特徴は以下のとおりである。
Aパーソナリティ(自己または対人関係)機能における中等度またはそれ以上の障害
B1つまたはそれ以上の病的パーソナリティ特性
Cパーソナリティ機能の障害およびその人のパーソナリティ特性の表現は、比較的柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。
Dパーソナリティ機能の障害およびその人のパーソナリティ特性の表現は、長期にわたって比較的安定しており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。
Eパーソナリティ機能の障害およびその人のパーソナリティ特性の表現は、他の精神疾患ではうまく説明されない。
Fパーソナリティ機能の障害およびその人のパーソナリティ特性の表現は、物質または他の医学的疾患(例:重度の頭部外傷)の生理学的作用によるものだけではない。
Gパーソナリティ機能の障害およびその人のパーソナリティ特性の表現は、その人の発達段階または社会文化的環境にとって正常なものとしてはうまく理解されない。
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル:高橋三郎、大野豊(監訳)
/医学書院2014/より転載

DSM-5第3部の代替診断基準では、パーソナリティ障害はパーソナリティ機能の4つの領域で2つ以上、中程度以上の障害であることが条件であると規定されています。

パーソナリティ機能の領域説明
自己機能① 同一性・自己と他者の明瞭な境界を持って、唯一の存在として自己を体験すること
・自尊心の安定性と自己評価の正確さ
・幅広い感情を体験し制御する能力
自己機能② 自己指向性・一貫した有意義な短期および人生の目標の追求
・建設的で向社会的な行動規範を利用すること
・生産的に内省する能力
対人関係機能① 共感性・他者の体験と動機の理解と尊重
・異なる見方の変容
・自分自身の行動が他者に与える影響の理解
対人関係機能② 親密さ・他者との関係の深さと持続
・親密さに対する要求および適応能力
・対人行動に反映される配慮の相互性
DSM-5代替診断基準で規定されているパーソナリティ機能の4領域
脳科学辞典https://bsd.neuroinf.jp/w/index.php?title=%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%8A%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E9%9A%9C%E5%AE%B3&mobileaction=toggle_view_mobile

DSM-5第3部の代替診断基準では、加えて5つの病的特性が認められることが診断基準ともなります。この5つの特性を判断するうえで「不安傾向」「親密さ回避」「虚偽性」「衝動性」など25種の側面があります。

病的特性説明
否定感情VS情動安定性広範囲で高度の否定感情がしばしば体験される。それらは、不安、抑うつ、罪悪感、羞恥心、怒りなどの感情であり、それらに基づく自傷行為などの行動や依存などの対人関係の問題が生じる。
離脱VS
外交
社会的感情的かかわりを避ける。対人関係からひきこもる。楽しむことなどの感情体験を避けるといった特徴を示す。
対立VS
同調性
自己イメージが尊大。自分だけに特別な計らいを求めること。他者に嫌悪感、反感を抱くこと。他者への配慮なしに自分の為に利用すること。などの他者との対立をもたらす行動を示す。
脱抑制VS誠実性直接的に要求の充足を求めて、その考えや感情、状況からの刺激に反応して衝動的な行動に走る。
精神病性VS透明性文化にそぐわない奇妙な、普通でない行動や認知を示す。
DSM-5パーソナリティ障害代替モデルの病的パーソナリティ特性
精神標準医学:医学書院/p497より転載

また、DSM-5第3部の代替診断基準には、5種類の病的パーソナリティ特性と下部の側面に関連して、パーソナリティ障害の6種類のタイプに5つの病的特性強度を加え診断していきます。下表の○は強度の高い項目となります。

スクロールできます
病的
パーソナリティ特性
反社会性
パーソナリティ障害
回避性
パーソナリティ障害
境界性
パーソナリティ障害
自己愛性
パーソナリティ障害
強迫性
パーソナリティ障害
統合失調型
パーソナリティ障害
否定感情○高○高○高
離脱○高○高○高○高
対立○高○高○高
脱抑制○高*低
精神病性○高
*:脱抑制の反対の特性である「硬直した完全主義」が強迫性の特性であるため、強度は低くなります。
DSM-5代替モデルの6種のパーソナリティ障害と病的パーソナリティ特性との関連
精神標準医学:医学書院/p498より転載

DSM-5のパーソナリティ障害とICD-11のパーソナリティ症の診断基準の比較

DSM-5ICD-11
パーソナリティ障害のタイプパーソナリティ症「自己」機能障害「対人関係」機能障害
クラスターA群(オッドタイプ)否定的感情的特性・側面
妄想性(猜疑性)パーソナリティ障害離隔(分離)的特性・側面
統合失調質(シゾイド)パーソナリティ障害非社会性的特性・側面
統合失調型パーソナリティ障害脱抑制的特性・側面
クラスターB群(ドラマチックタイプ)制縛性(強迫性)的特性・側面
反社会性パーソナリティ障害パーソナリティ症に付することができる(特性ではない)
境界性パーソナリティ障害・ボーダーライン(境界性)パターン
演技性パーソナリティ障害機能不全診断後に重症度の評価(顕在化・側面・領域…)
自己愛性パーソナリティ障害軽度:特定の領域の機能不全、自傷と関連しない
クラスターC群(アンクシャスタイプ)中度:状況に大きな歪み、思い込み…が生じることがある
回避性パーソナリティ障害重度:状況に極度の歪み、思い込み…がしばしば生じる
依存性パーソナリティ障害重大度が指定されない
強迫症パーソナリティ障害困難(難易度):軽度以下であるが、2年間以上の機能不全

世界保健機関/ICD-11によるパーソナリティ症の改定と新基準

ICD-11 「精神疾患の診断基準」の日本語版は現時点では刊行されていません。そのため、新基準は筆者の個人的な仮の内容(2022.5.31現在)として考察しているだけです。今後、日本人の特有性を基に翻訳される日本語の改訂版により正確な内容を加筆修正したいと思います。

パーソナリティ症および関連特性群

 ICD-10のパーソナリティ障害と比較し、ICD-11では全面的な改訂がなされ、パーソナリティ障害からパーソナリティ症と診断名が変更されました。
「パーソナリティ症および関連特性群」となり、パーソナリティ症を「自己」と「対人関係」の側面から5つの特性の機能不全に分類し、重症度で診断していきます。

 最近では養育環境、社会環境も変化し続けた影響により、例えば境界性パーソナリティ障害の症状は従来女性に多くみられていたものが、男性の増加傾向もあります。語弊はありますが、男性に多い自己愛性パーソナリティ障害、女性に多い境界性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティは境目にありますが、性別に当てはめるような診断をしていた傾向もあります。実際には特定不能のパーソナリティ障害がの方が多かったのかもしれません。
これらのことも含め、DSM-5第3部の代替診断基準で示されたのは確かなことであったと思います。そしてWHOのICD-11でも継承した事実は、数年前からの研究や臨床的知見の蓄積によって診断基準が発展してきたことは間違いありません。その上で疾患名を改訂し、5特性領域のパーソナリティ構造に注目したうえで、主たる病態、症状に視点をあてることにより、今まで以上に細かくパーソナリティを診断できるようになったことは、今後の診療や治療に細やかな見立てに確診感を与えていくことになります。 

「自己」「対人関係」

パーソナリティ症は「自己」と「対人関係」の側面から機能不全によって定義します。
自己の機能における問題は「自己機能不全」、対人関係は「対人機能不全」といいます。

自己機能不全・機能障害⑴アイデンティティ
自分の拠りどころがある
⑵自己価値
自分の存在に肯定的な価値を持ち合わせている
⑶自己方向性
自己の将来に向け視界(目標)を見出している
対人機能不全・機能障害⑴他者と親密で相互的関係を維持できる機能
⑵他者の視点で立場を理解する機能
⑶他者との対立する葛藤を管理できる機能
診断基準の必須条件⑴自己機能における不全、対人機能における不全の広汎性の程度は、機能不全の症状はいずれかまたは両方の特徴として長期(少なくとも2年以上)にわたる不適応などの異常が続いている。
⑵不適応などの異常は、認知、情動(感情表現・感情行動)に柔軟性がなく統制が規制されているパターンが明らかである(個人的、または社会的状況のパターンの常時、または限定的に生じる場合もある)。
⑶不適応などの特徴は発達上適切でなく、政治的、社会的、文化的要因によって説明されるものではない。
⑷パーソナリティ機能不全は個人、家族、学業、社会、職業での苦痛やその他の範囲での症状の現れと関連している。
※青年期前でも顕著な不適応な特性は観察されることがあり、これは前兆ともみなされる(発達過程にパーソナリティ不全の病理があり、青年期の社会環境で顕在化することもある)。

パーソナリティ症の領域と特性およびボーダーライン

顕著な特性領域は5つのパーソナリティ症の位置づけとパーソナリティ困難(混乱)と判断します。特性領域はパーソナリティ症やパーソナリティ困難(混乱)を持たない個体において正常な特性と連続性を持つものです。
特性領域は診断カテゴリーではなく、潜在的なパーソナリティ構造と一連のディメンションを表すものです。また、より重度を示すパーソナリティ症は多くの特性領域を有する傾向があります。

ただし、ICD-11では、特定のパーソナリティ障害特性を診断コードとして付加することができるようになっています。これにより、患者のパーソナリティの詳細な評価が可能です。

  • 回避性パーソナリティ障害特性
  • 境界性パーソナリティ障害特性
  • 反社会性パーソナリティ障害特性
  • 強迫性パーソナリティ障害特性
  • 自己愛性パーソナリティ障害特性
  • 依存性パーソナリティ障害特性

診断コードの付加する際の注意点として、特定のパーソナリティ障害に近い特性を示す群と共通する傾向はありますが、完全に重複しないことに注意が必要です。

否定的感情
特性領域
不安傾向分離不安猜疑心抑うつ悲観
羞恥心・罪悪感否定的感情服従・従順固執敵意・怒り
主たる関連症状
離脱・離隔・分離
特性領域
親密さ回避アンヘドニア引きこもり社会への忌避感情の制限
抑うつ傾向猜疑心
主たる関連症状
非社会性
特性領域
冷淡尊大他者へ嫌悪感虚偽性誇大性
注意喚起敵意演技性攻撃性自己愛性
主たる関連症状
脱抑制
特性領域
衝動性転導性無謀さ無責任散漫性
主たる関連症状
制縛性・強迫観念
特性領域
完全・完璧主義秩序・倫理志向固執性責任感頑固・こだわり
主たる関連症状

「ボーダーラインパターン」は特性領域を示すものではなく、診断に際し5つの領域・特性に対する特定用語になります。ボーダーラインは5つの特性領域との情報と多くの重複がありますが、力動的精神療法や弁証法的行動療法など精神治療的視点を重視していることと、特徴を浮き彫りにするために特性領域と重症度の診断に必要とされれば特定用語として付け加えられます。

ボーダーラインパターン
特定用語
否定的感情非社会性脱抑制
抑うつが目立つ対人操作衝動性が高い
典型的にボーダーラインに関連性が高い機能不全
理想化と脱価値観・対人関係の不安定性で強烈なパターン不安定な自己像・イメージ・アイデンティティ
慢性的な空虚感、感情感情的な覚醒における一過性な解離症状、精神症様
不適切な激しい怒りや制御不能な情動自己破壊の衝動性、浪費・性行為・物質乱用…
自傷行為、自殺の素振りの行動化、エピソードの繰り返し見捨てられ不安を避けるためのなりふり構わぬ行動
著しく顕著な気分反応性の感情不安無力・嫉まれ・疎外感・孤独感・過敏な反応
特徴

パーソナリティ症の重症度

パーソナリティの機能不全の特性領域での診断後に重症度を評価します。
診断基準の必須条件としては次の3項目とします。

  1. 自己機能における不全、対人機能における不全の広汎性の程度は、機能不全のいずれかまたは両方の特徴として長期(少なくとも2年以上)にわたる不適応などの異常が続いている。
  2. 不適応などの異常は、認知、情動(感情表現・感情行動)に柔軟性がなく統制が規制されているパターンが明らかであり(個人的にも社会的状況のパターンの常時、または限定的に生じる場合もある)、パターンの機能不全の広汎性に対しての重症度および慢性度。
  3. パーソナリティ機能不全は個人、家族、学業、社会、職業での苦痛やその他の範囲での機能不全と関連している。

    ※不適応などの特徴は発達上適切ではなく、政治的、社会的、文化的要因によって説明されるものではない。
    青年期前でも顕著な不適応な特性は観察されることがあり、これは前兆ともみなされる(発達過程にパーソナリティ不全の病理があり、青年期の社会環境で顕在化することもある)。
軽度
・自己機能の基本的なアイデンティティ、自己価値、自己方向性の不全がいくつかの特性領域で挙げられる、または全般的に特性領域でみられるが機能不全の影響は軽度である、もしくは表面化しない。また、自己機能不全は苦痛を伴っているが、著しい自傷との関連性がない。
・対人機能の基本的な相互関係、他者の立場の理解、対立する葛藤の管理の不全が特性領域で挙げられ、問題も抱えているが維持や遂行ができている。また、対人機能不全は社会生活上著しい苦痛を伴うが、特定の社会生活の範囲内、もしくは社会の全般的範囲ではあるが軽度である。
・自己機能不全または対人機能不全、または両方の症状が起こる社会生活の範囲は、例として個人生活、家族生活、学業、交際や職場関係のようなことである。
中等度
自己機能不全または対人機能不全、または両方の症状は軽度より重く、状況や社会範囲に対応する機能不全、障害が明確に現われ、対人関係に大きな歪みが生じることがある。それは軽度の解離状態あるいは精神症の思い込み(被害妄想など)が生じることがある。
重度
自己機能不全または対人機能不全、または両方の症状は中等度より重く、状況や社会範囲に対応する機能不全が明確に現われ、対人関係に極度の歪みが生じることがある。それは解離状態あるいは精神症の思い込み(極度の被害妄想など)が頻繁に生じる。
パーソナリティ困難・(混乱)「難易度
軽度パーソナリティ症と診断はできないが、自己機能不全または対人機能不全、または両方の症状は顕著ではないが、2年間以上にわたり機能不全の困難を指していて、認知、情動(感情表現・感情行動)に観察されるパーソナリティ難易度は断続的、もしくは特定の状況に限定される。

診断時の具体的な症例

  1. 【パーソナリティ症】重症度:軽度/特性領域:否定的感情および脱抑制を伴う
  2. 【パーソナリティ症】重症度:重症/特性領域:非社会性および離脱(離隔)を伴う
  3. 【パーソナリティ症】重症度:中等度/特性領域:否定感情、非社会性、脱抑制を伴う/特定用語;ボーダーラインパターン
  4. 【パーソナリティ困難(混乱)】特性領域:否定感情および制縛性を伴う
※ボーダーラインパターンは領域・特性に加えて特徴を浮き彫りにするための特定用語です。

具体的症例の 「[【パーソナリティ症】重症度:中等度/特性領域否定感情、非社会性、脱抑制を伴う/特定用語;ボーダーラインパターン」を図にしました。

ICD-11の特定のパーソナリティ障害特性を診断コード

ICD-11の診断基準では、個人のパーソナリティ障害の重症度と特定の特徴を組み合わせることで、より詳細な診断と治療計画が可能になります。

  • 回避性パーソナリティ障害特性(Avoidant Personality Disorder Traits)
  • 境界性パーソナリティ障害特性(Borderline Personality Disorder Traits)
  • 反社会性パーソナリティ障害特性(Antisocial Personality Disorder Traits)
  • 強迫性パーソナリティ障害特性(Obsessive-Compulsive Personality Disorder Traits)
  • 自己愛性パーソナリティ障害特性(Narcissistic Personality Disorder Traits)
  • 依存性パーソナリティ障害特性(Dependent Personality Disorder Traits)

診断コードの付加する際の注意点として、特定のパーソナリティ障害に近い特性を示す群と共通する傾向はありますが、完全に重複しないことに注意が必要です。

参考図書

自己の修復ハインツ.コフート(著)本条秀次、笠原嘉(監訳・翻訳)/みすず書房

自己愛と依存の精神分析:和田秀樹/PHP研究所

自己心理学入門 コフート理論の実践:アーネスト.S.ウルフ、安村直己、角田豊/金剛出版

パーソナリティ障害がわかる本:岡田尊司/法研

パーソナリティ障害:岡田尊司/PHP研究所

メラニー.クライントゥデイ:スビリウスE.B(著):松木邦裕(監訳)/岩崎学術出版社

精神分析辞典:小此木啓吾他/岩崎学術出版社

パーソナリティ障害:林直樹(監修)/法研

標準精神医学第8版:尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉/医学書院

DSM-Ⅳ-TR  精神疾患の診断・統計マニュアル新訂版:高橋三郎・大野裕・染矢俊幸(訳)/2004医学書院

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル:高橋三郎、大野裕(監訳)/医学書院

日本精神神経学会・精神神経学雑誌第124巻第4号:パーソナリティ症および関連特性群-正常なパーソナリティ機能とパーソナリティ症、パーソナリティ特性/加藤敏

精神医学61巻3号・パーソナル障害:松本ちひろ/医学書院

ICD-11・DSM-5準拠新・臨床家のための精神ガイドブック:池田健/金剛出版

自分でできるスキーマ療法ワークブックBook2:伊藤えみ/星和書店
WHO ICD-11 https://icd.who.int/

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