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パーソナリティ障害の診断は精神病や人格障害ではない治療できる病気

目次

パーソナリティの著しい偏りを医学では精神病質から人格障害へと、そしてパーソナリティ障害からパーソナリティ症と改訂してきた。5つの症状の特徴があり、診断基準はDSM-5・ICD-11で定義している。

パーソナリティ障害にいたる歴史

パーソナリティ障害の精神医学の代表といえば(1801)フランスのピネル.Pの気質、概念「怒りの発作」の妄想なき狂気に始まり、自己統御行動面の異常の社会病質、遺伝的特質、体質的特質の精神障害、精神病と正常の中間に位置付ける「中間者」、精神病と関連する人間の情意面障害、精神病質のパーソナリティ「7類型」、そして(1923)シュナイダー.Kの「平均からの偏倚」精神病質10類型が現在の概念となっています。
「精神病質」は生まれつき持った素質で治らないものとして捉えられていました。しかし、パーソナリティ障害が他の精神障害を併発していない場合は、幻覚症状や気分障害などの症状がなくとも、認知や行動の障害を示すのです。
日本では精神病質や神経症を彷彿させる「人格障害」と呼んでいましたが、人間性に問題がある「性格」ではなく、もって生まれた気質、器質、養育・社会環境が影響する性格の統合的な「障害」であり、パーソナリティの偏りは医学的検知からも修正、そして治療もできるとしています。

パーソナリティ障害は「性格」か「人格」か「障害(病気)」か

 パーソナリティーを理解するうえで性格、人格、パーソナリティの区分けとパーソナリティ障害(自己認知の偏り)の特徴を知ることが大切となります。

 先ほども述べたように、かつて日本では「パーソナリティー障害」を「人格障害」と呼んでいました。しかし、人格は道徳観や倫理観を含めた人間性のことを指しています。
 さらに時代を遡ると「精神病質」と呼ばれ、生まれつき持った素質で治らないものとして捉えられていました。精神病質というイメージが悪いだけでなく修正ができない性格という概念だったのです。
このことからもわかるように修正のできない「性格」から、治療ができる「障害(病気)」としての見方が医学的データからも証明されてきています。
 パーソナリティ障害の精神症状は特定の病状に限定されない精神機能の障害です。これは社会へ適応の困難な認知、行動の偏りのパターンとタイプの精神障害です。このパターンは、遺伝的要素、器質の要因、養育や環境的要因などが深く絡み合って、乳幼児期から成人期にかけてその人特有のパターンやタイプを作り上げます。この偏りの特徴は他の精神疾患と類似しているため誤診が多いことや、タイプの違うパーソナリティ障害との併発や他の精神疾患との併発が多く起きますので、診断の難しさも際立つのだと思います。
しかし、誰しもがパーソナリティの偏りはある程度あるのですが、「単独でもパターンやタイプが強く現れた」「タイプが2種類以上の併発」「他の精神障害との併発」「自殺関連行動」「衝動的に起こる暴力などの行動化」などで、初めて苦しさに気づき医療機関を訪ねるようになります。
このことからも、パーソナリティ障害の多くの人は生きづらしさを感じながらも修正できず、不安などを抱えたままで過ごしているのだと思うと心配を拭い去ることはできません。

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気質(素質的要因)先天的器質要因後天的器質要因性格(環境的要因)パーソナリティ人格
遺伝的要素で生得的側面遺伝的要素で脳の器質的障害や身体的障害後天的に病気や外傷などの影響を受ける環境的要因の影響で形成される性質気質と先天、後天的器質、性格の統合パーソナリティに包括的な概念の人間性

パーソナリティ障害の判断は

パーソナリティ障害を一言にすると「認知の偏りが大きく社会生活に支障をきたしている」です。
人は誰でも程度の差はありますが、パーソナリティの偏りを持っていて意外と身近にも偏りを強く感じる人がいると思います。少し強く現れると「個性的」だとか「変わり者」だと呼ばれるようになりますが、もともとパーソナリティ障害の人も個性が強かったことに加えて何かの際に躓いたり、何かの挫折が大きかったことにより、個性が強いだけではなく問題言動を起こすようになったというケースが多くあります。躓きや挫折でものの受け止め方や考え方が極端になったり、偏りが強くなることで認知の柔軟性がなくなり、周りに軋轢を生むような言動をとっています。
次のような5つの偏りはパーソナリティ障害の特徴となります。

  1. 全か無か、白か黒か、敵か味方か、成功か失敗かの両極端な二文法的認知で柔軟さや中途、グレーゾーンがない。
    「両極端で単純化した二文法的認知」
  2. 意識において自分と他者には境目や区別の認識ができなく、自分の視点が他者も同じであると捉えた言動をする。
    「自己と他者の区別が認識しにくく問題を混同しやすい」
  3. 相手を信頼することに安心感を持てなく、相手からの好意も感じられずに常に相手に不信感を持ち続けている。
    「他者と恒常性のある信頼関係を築きにくい」
  4. 自己の尊大なプライドにより万能感を持っているだけではなく、同時に強い劣等感も併存している場合もある。
    「プライドと劣等感の同居」
  5. 感情の揺れが激しく、衝動のコントロールが適切にできなく感情的な振る舞いや破壊的な言動をする。
    「爆発や行動化を起こしやすい」

このようにパーソナリティ障害の人は、特徴的な眼鏡をかけているものとして考えてみます。このレンズを通して見えているものは正しいものだと捉えられます。その眼鏡をかけているため認知や思考の言動が特徴的になってしまいます。レンズはその人その人の個性の歪みがありますので、捉え方は違いますが許容範囲からズレ度が大きくなると柔軟性がなく極端に物事を捉えてしまいます。

パーソナリティ障害の全般的診断基準

パーソナリティ障害とは、その人が属する文化から期待されるものから著しく偏り、広範でかつ柔軟性がなく、青年期または成人期早期に始まり、長期にわたり変わることなく、苦痛または障害を引き起こす内的体験および行動の持続的様式である。
DSM-5のパーソナリティ障害の定義
Aその人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式。この様式は以下のうち2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
持続的なパターン
パーソナリティ障害は、個人の内的体験および行動の持続的なパターンとして現れる。これは、文化的な期待から著しく逸脱していることが多い。
 1認知(自分自身や他人の認識や解釈)
 2感情性(感情の範囲、強度、適切性、および感情反応の安定性)
 3対人関係機能
 4衝動の制御
 Bその持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の比較的広い範囲に広がっている。
持続性と一貫性
このパターンは広範囲にわたって柔軟性がなく、個人的および社会的状況において一貫している。
 Cその持続的様式は臨床的に意味のある苦痛または、社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
臨床的に意味のある苦痛または機能障害
このパターンは臨床的に意味のある苦痛または社会的、職業的、その他の重要な機能領域における機能障害を引き起こしている。
 Dその様式は安定し、比較的長時間続いており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期までさかのぼることができる。
安定性と長期間の持続性
このパターンは安定していて長期間にわたるものであり、少なくとも青年期または若年成人期にまで遡ることができる。
 Eその持続的様式は、他の精神疾患の現れ、またはその結果ではうまく説明されない。
他の精神疾患による説明ができない
このパターンは、他の精神疾患の経過中に限定されるものではない。
 Fその持続的様式は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない。
物質の使用や身体疾患によるものではない
このパターンは、物質(薬物、薬物乱用など)の直接的な生理的影響や一般的な身体疾患によるものではない。

このように、パーソナリティ障害は、個人の認知、感情、対人関係、および衝動の制御における持続的で広範なパターンとして特徴付けられ、それが臨床的に意味のある苦痛や機能障害を引き起こすことが必要条件となります。

DSM-5の10種類の具体的なパーソナリティ障害

  • 偏執性(猜疑性・妄想性)
    パーソナリティ障害(Paranoid Personality Disorder)
  • 統合失調型パーソナリティ障害(Schizoid Personality Disorder)
  • 統合失調型パーソナリティ障害(Schizotypal Personality Disorder)
  • 反社会性パーソナリティ障害(Antisocial Personality Disorder)
  • 境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder)
  • 演技性パーソナリティ障害(Histrionic Personality Disorder)
  • 自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder)
  • 回避性パーソナリティ障害(Avoidant Personality Disorder)
  • 依存性パーソナリティ障害(Dependent Personality Disorder)
  • 強迫性パーソナリティ障害(Obsessive-Compulsive Personality Disorder

各パーソナリティ障害の詳細な診断基準は、個々のパーソナリティ障害に固有の症状と行動パターンに基づいています。

「自己機能」「対人機能」

新しいWHOの診断基準ICD-11では、パーソナリティ症は理解するうえで「自己」と「対人関係」の側面から機能不全によって定義されますが、パーソナリティ症の診断に重要な「自己機能」と「自己機能不全」、「対人機能」と「対人機能不全」について解説します。

  • 自己機能と自己機能不全
    • 自己機能(Self-function): 個人が自己を理解し、他者との関係を通じて安定感やアイデンティティを形成し、自らの目標を達成するために必要な心理的機能や過程の総称です。
    • 自己機能不全(Dysfunction of self-function): 個人が自己機能の一部または全部で問題を抱えている状態を指します。これにはアイデンティティの混乱、感情の不安定さ、自尊心の低さ、現実感覚の歪みなどが該当します。自分自身を理解し、他者との関係を築く能力が阻害されていると考えられます。
  • 対人機能と対人機能不全
    • 対人機能(Interpersonal function): 個人が他者との関係を築くために必要な心理的機能や過程の総称です。これには適切なコミュニケーション、共感、協力、対人的な信頼などが該当します。
    • 対人機能不全(Dysfunction of interpersonal function): 個人が他者との関係を築く際に問題を抱えている状態を指します。これには人間関係での問題、コミュニケーションの障害、信頼の不足、対人的な不安定さなどが該当します。他者との関係の構築や維持が困難な状態が続くことが考えられます。

ICD-11の診断基準などについては、現段階(2022.5.31)では厚労省の承認前ということと情報の不確実な状態で作成していますので、閲読やご利用には十分な注意が必要となります。

ICD-11

今までアメリカ精神医学会が発行しているDSM-Ⅳ・5の「精神疾患の統計マニュアル」によって、パーソナリティ障害の診断、診療をしてきましたが、世界保健機関ではICD-10に次ぎ約30年ぶりとなるICD-11「精神疾患の診断ガイドライン」の改訂版を発行しました。この改訂版によって、従来のパーソナリティ障害の診断内容が大きく改変されました。

ICD-11では、パーソナリティ障害は全体的な重症度に基づいて「軽度」「中等度」「重度」と分類されることが特徴です。また、特定のパーソナリティ障害のタイプ(例:回避性、境界性など)を示すことも可能です。

ICD-11による「パーソナリティ障害の診断基準」

ICD-11による「パーソナリティ障害の診断基準」は、パーソナリティ機能の持続的な障害に基づいています。具体的な診断基準は次の通りです。

持続的なパターン

パーソナリティ障害は、内的体験および行動の持続的なパターンとして現れ、これは文化的な期待に著しく逸脱しています。

臨床的に意味のある障害

この持続的なパターンは、臨床的に意味のある苦痛や、社会的、職業的、その他の重要な機能領域における障害を引き起こします。

安定性と長期間の持続性

このパターンは安定しており、長期間にわたるものであり、少なくとも青年期または若年成人期にまで遡ることができます。

他の精神障害や身体疾患による説明ができない

このパターンは、他の精神障害の経過中に限定されるものではなく、物質(薬物、薬物乱用など)の使用や身体疾患の影響によるものでもありません。

ICD-11のパーソナリティ障害の特徴的分類

  • ICD-11では、パーソナリティ障害の分類を簡素化し、次のように特徴づけています。
    • 軽度のパーソナリティ障害
    • 中等度のパーソナリティ障害
    • 重度のパーソナリティ障害

これに加えて、特定の特徴を示す「特定のパーソナリティ障害特性(診断コード)」を使用して、患者のパーソナリティの詳細な評価が可能です。

ICD-11の特定のパーソナリティ障害特性を診断コード

  • 回避性パーソナリティ障害特性(Avoidant Personality Disorder Traits)
  • 境界性パーソナリティ障害特性(Borderline Personality Disorder Traits)
  • 反社会性パーソナリティ障害特性(Antisocial Personality Disorder Traits)
  • 強迫性パーソナリティ障害特性(Obsessive-Compulsive Personality Disorder Traits)
  • 自己愛性パーソナリティ障害特性(Narcissistic Personality Disorder Traits)
  • 依存性パーソナリティ障害特性(Dependent Personality Disorder Traits)

ICD-11の診断基準では、個人のパーソナリティ障害の重症度と特定の特徴を組み合わせることで、より詳細な診断と治療計画が可能になります。

診断コードの付加する際の注意点として、特定のパーソナリティ障害に近い特性を示す群と共通する傾向はありますが、完全に重複しないことに注意が必要です。

パーソナリティ障害に不可欠な特徴は以下のとおりである。
Aパーソナリティ(自己または対人関係)機能における中等度またはそれ以上の障害
B1つまたはそれ以上の病的パーソナリティ特性
Cパーソナリティ機能の障害およびその人のパーソナリティ特性の表現は、比較的柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。
Dパーソナリティ機能の障害およびその人のパーソナリティ特性の表現は、長期にわたって比較的安定しており、その始まりは少なくとも青年期または成人期早期にまでさかのぼることができる。
Eパーソナリティ機能の障害およびその人のパーソナリティ特性の表現は、他の精神疾患ではうまく説明されない。
Fパーソナリティ機能の障害およびその人のパーソナリティ特性の表現は、物質または他の医学的疾患(例:重度の頭部外傷)の生理学的作用によるものだけではない。
Gパーソナリティ機能の障害およびその人のパーソナリティ特性の表現は、その人の発達段階または社会文化的環境にとって正常なものとしてはうまく理解されない。
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル:高橋三郎、大野豊(監訳)
/医学書院2014/より転載

パーソナリティ障害は偏った考え方や先の例に挙げた5つの言動のパターンがあり、社会生活に支障をきたしている状態です。薬物や病気、けがなどによって症状が一時的に現れたものは障害に含まれません。
著しく偏った肉体的体験や行動の持続的様式は、青年期から成人早期、18歳~29歳位の年齢に当てはめます。
18歳未満のケースでは「発達障害」「情緒障害」「行為障害」などと診断されることが普通です。また、加齢や認知症の発症によって人柄が変わる現象は人格の変化と呼んでいます。従来からあった「自己中心的」「猜疑心」「頑固」「嫉妬」などが増強されるようになります。

参考図書

自己の修復ハインツ.コフート(著)本条秀次、笠原嘉(監訳・翻訳)/みすず書房

自己愛と依存の精神分析:和田秀樹/PHP研究所

自己心理学入門 コフート理論の実践:アーネスト.S.ウルフ、安村直己、角田豊/金剛出版

パーソナリティ障害がわかる本:岡田尊司/法研

パーソナリティ障害:岡田尊司/PHP研究所

メラニー.クライントゥデイ:スビリウスE.B(著):松木邦裕(監訳)/岩崎学術出版社

精神分析辞典:小此木啓吾他/岩崎学術出版社

パーソナリティ障害:林直樹(監修)/法研

標準精神医学第8版:尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉/医学書院

DSM-Ⅳ-TR  精神疾患の診断・統計マニュアル新訂版:高橋三郎・大野裕・染矢俊幸(訳)/2004医学書院

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル:高橋三郎、大野裕(監訳)/医学書院

日本精神神経学会・精神神経学雑誌第124巻第4号:パーソナリティ症および関連特性群-正常なパーソナリティ機能とパーソナリティ症、パーソナリティ特性/加藤敏

精神医学61巻3号・パーソナル障害:松本ちひろ/医学書院

ICD-11・DSM-5準拠新・臨床家のための精神ガイドブック:池田健/金剛出版

自分でできるスキーマ療法ワークブックBook2:伊藤えみ/星和書店
WHO ICD-11 https://icd.who.int/

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