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PTSDの歴史と生理学的原因、合併疾患の統計と症状評価測定方法

目次

トラウマ体験は海馬と偏桃体、前頭前野で固定や異常な活動をします。PTSDの原因は解明されていませんが、他の精神疾患との合併症を起こすことも考えられます。

生理的原因・病態

複雑性心的外傷ストレス障害(C-PTSD)がICD-11で新たに取り入れられた背景には、従来の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状に加えて、長期にわたる心的虐待や乱暴な扱い、社会的虐待、または離別や放置などの複雑なストレス体験が関与しているということがあります。PTSDは主に1つの外傷的な体験によって引き起こされるとされてきましたが、C-PTSDは繰り返し起こる、または長期にわたる虐待や不遇な体験が原因であることが多く、その症状も異なっています。

また、恐怖記憶などの生理的プロセスだけでなく、幼少期に経験した不遇な体験が脳の発達に影響を与え、感情や行動の調節に問題が生じることがPTSDやC-PTSDの病態形成に関与しているとされています。このような幼少期のストレス体験は、脳のストレス応答系の機能を変化させ、精神的な問題や健康問題を引き起こす可能性が高まることが知られています。

しかし、現在でも心的外傷後ストレス障害の病態や生理的原因については完全には解明されていない部分があります。将来的には、より精度の高い診断や治療法の開発のために、より深い研究が求められていて、現在も様々な生理的原因が研究されていますが、下記のようなことを挙げてみます。

例えば、恐怖記憶の例を挙げると、外傷的出来事(トラウマ体験)は恐怖記憶が固定化されると考えられています。その後、通常は再想起時に海馬と偏桃体で恐怖記憶の再固定化となり貯蔵されますが、一方では偏桃体と前頭前野での遺伝子発現レベルの増加で新たな学習プロセスが恐怖感の消去を誘導し、再想起時には恐怖反応を軽減します。
PTSDの発症は過度の記憶再固定化や恐怖記憶消去機能の異常と捉えることができ、PTSDの病態形成に密接に関与していると考えられています。また、幼少期の不遇な体験も危険要因ですが、PTSD発症以前のトラウマ要因の関与もあるといわれています。

しかし、トラウマ体験が恐怖記憶として海馬と偏桃体で固定されることがPTSDの原因となるという考え方は、一部の研究者や専門家によって支持されていますが、現在ではより総合的な理解が進んでいます。

例えば、トラウマの体験の際に大量のノルアドレナリン(ノルエピネフリン)が分泌され、そのために偏桃体の反応性が亢進し恐怖の条件付けが形成されやすくなり、海馬も刺激され記憶の記銘が亢進するなどが想定されています。
また、視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系の活性化が導かれ、副腎皮質ホルモンであるコルチゾールの血中への分泌が亢進します。
そのことが認められることからアドレナリン・ノルアドレナリン・コルチゾールは偏桃体や海馬などに存在する受容体を介して脳内の遺伝子発現の変動が引き起こされ、その機能に影響を与えることも示唆されています。

また、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や複雑性心的外傷ストレス障害(C-PTSD)の症状として知られる再体験、回避、過覚醒などは、脳内での情報処理の障害が原因とされています。
具体的には、ストレス反応に関与する脳の構造である扁桃体、海馬、前頭前野などが、トラウマ体験によって異常な活動を示すことで、情報処理の障害が引き起こされるとされています。また、PTSDやC-PTSDの患者の脳内では、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が低下していることが知られています。

PTSDの病因・病態については未解明の状況ですが、過覚醒症状は明らかに交感神経系(アドレナリン系)の過剰興奮ですので、交感神経を賦活するような様々な刺激によって増悪する可能性を秘めています。

PTSDの有病率と合併疾患

米国のNCS-Rの調査では、PTSDの時点有病率6.8%、生涯有病率は男性で3.6%、女性で9.7%で平均的には8%すが、今後は複雑性PTSDの有病率も示されていくと思います。
アメリカの精神保健疫学的調査 ・有病率6.8%  ・生涯有病率 男性3.6% 女性9.7% ・戦闘や性的暴力では50%にも上る
世界保健機構の世界精神保健調査 ・PTSDになる人は1.1~1.6% ・その中で20代~30代前半では3.0%~4.1%

心的外傷後ストレス障害の症状には、身体的な症状や病態も伴うことがあります。例えば、慢性的なストレス反応が引き起こす免疫機能の低下や、自律神経系の乱れが、頭痛、めまい、胃腸の不調、不眠症などの身体的な症状を引き起こすことがあります。また、PTSDやC-PTSDの患者は、うつ病や不安障害、身体表現型障害、物質使用障害など、他の精神疾患との合併症も起こしやすいとされています。

アメリカKesslerの研究(1995)(PTSD患者の合併している精神疾患) 合併症では、他の精神疾患の合併率が男女ともに80%~90%弱と高い研究結果も示されています。

・アルコール依存症:男性52%、女性30% 
・うつ病:男性48%、女性49% ・行為障害:男性43%、女性15% 
・薬物依存:男性35%、女性27% 
・恐怖症:男性31%、女性29% 日本のデータでは、生涯有病率は(日本の総人口比率)1.3%に生じる
・トラウマの生涯体験率:男性61% 女性51%
心的外傷後に起こる精神障害(PTSDの合併症も含む)

・うつ状態 ・パニック状態 ・不眠障害 ・不安障害 ・全般性不安障害 ・社交不安障害 ・解離性障害 ・行動障害 ・身体化障害 ・適応障害 ・摂食障害 ・不安症 ・自傷行為 ・境界性人格障害 ・嗜癖障害など

異常な状況に対する正常な反応:心的外傷後ストレス反応

1か月まで:急性ストレス障害(ASD)
3か月未満に発症:急性PTSD
3か月以上に発生:慢性PTSD6か月以後に発生:発症遅延PTSD このように症状は外傷的体験から数か月~数年経過してから出現することもあります。

PTSDストレス症状測定質問票(症状評価方法)

改訂出来事インパクト尺度【IES-R】(1~22問)

 最近の1週間の状態について〇でお答えください0.全くなし 1.少し 2.中くらい 3.かなり 4.非常に
1どんなきっかけでも、そのことを思い出すと、
その時の気持ちがぶり返してくる。
     
(№2~21)
 最近の1週間の状態について〇でお答えください0.全くなし1.少し2.中くらい3.かなり4.非常に
22そのことについては話さないようにしている。       

上記の「改訂出来事インパクト尺度【IES-R】」無料でお使いいただけます。
公益財団法人東京都医学総合研究所ウェブサイト
http://www.igakuken.or.jp/mental-health/IES-R2014.pdf

C-PTSDの症状評価

C-PTSDの症状評価には、次のような症状評価尺度があります。

  • C-PTSD症状尺度(CPTSD-RI)
    C-PTSD症状尺度は、C-PTSDの診断に特化した症状評価尺度で、侵入的記憶や自己認識、感情、関係、生理的反応などの領域を評価する質問項目から構成されています。
  • 国際C-PTSDアセスメント(ICAA)
    ICAAは、C-PTSDを診断するための半構造化面接のガイドラインです。このアセスメントは、既存の症状評価尺度の欠点を補完し、C-PTSDの症状評価に有用であることが示されています。
  • 総合的创傷経験尺度(TES)
    TESは、過去のトラウマ経験や現在のストレス反応に関する情報を収集するために使用されます。この尺度は、C-PTSDの診断には特化していませんが、C-PTSDの症状の評価に有用であることが報告されています。
  • PTSD評価尺度(PTSD-Ⅳ)
    診断基準に準拠したPTSD診断と重症度評価を行うための自己記入式評価尺度です。
    日本語版を外的指標とし、妥当性が検証されていて保険診療報酬の適用となっています。

これらの尺度は、C-PTSDの診断や治療の進捗を追跡するために使用されることがあります。ただし、これらの尺度はあくまで一般的な指標であり、個々の患者の症状を詳しく把握するためには、臨床的な面接や観察などの総合的なアセスメントが必要です。

心的外傷後ストレス障害の歴史

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の歴史は、20世紀の戦争に起源を持ちます。第一次世界大戦で、戦闘での体験が原因で「shell shock(シェル・ショック)」と呼ばれる神経症状が現れる兵士が多く現れました。これが、PTSDの初期的な記述の1つとなりました。

その後、アメリカ軍のベトナム戦争帰還兵の中で、PTSDの症状が顕著に現れたことが明らかになりました。1980年にアメリカ精神医学会が発行したDSM-IIIにおいて、PTSDが公式に精神障害の一つとして認定されました。これにより、PTSDはより広く認知され、研究が進められます

その後、PTSDの診断基準は数回にわたって改訂され、2013年に発行されたDSM-5において、現在の診断基準が定められました。また、PTSDはICD-11でも精神障害の一つとして認定されています。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の歴史は比較的新しいもので、現代の概念は1970年代になってから形成されました。しかし、心的外傷が人類の歴史の中で重要な問題であったことは明らかです。以下に、PTSDの歴史を詳しく説明します。

  • 19世紀:戦場の恐怖症として認識される

19世紀には、戦場の恐怖症としてPTSDに似た症状が認識されていました。この症状は、戦場での銃声や爆発音によって引き起こされ、今日で言うところの「再体験症状」に相当します。当時の医学的知見に基づき、この症状は「戦争神経症」と呼ばれていました。

  • 20世紀:心的外傷を持つ人々の存在が認識される

20世紀に入ると、心的外傷を持つ人々の存在がより広く認識されるようになりました。第一次世界大戦や第二次世界大戦では、大量の兵士が戦場で心的外傷を経験しました。これにより、戦争神経症が医学的に認められるようになり、治療法が模索されるようになりました。

  • 1970年代:PTSDの概念が確立される

1970年代になると、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の概念が確立されました。当時、アメリカ軍においてベトナム戦争退役軍人の心的健康状態が懸念され、PTSDの診断基準が策定されました。また、女性がセックス・トラウマなどの性的虐待を受けた場合にも、PTSDの症状が現れることが認められています。

1980年には、DSM-IIIが発行され、心的外傷後ストレス障害が初めて正式な診断名として認定されました。当初、この診断名は主に戦争や災害などの短期的なトラウマ体験に関連していましたが、その後、乱暴な児童期や性的虐待などの長期的なトラウマ体験にも適用されるようになりました。

その後、1994年にはDSM-IVが発行され、PTSDの診断基準が変更され、解離症状が含まれるようになりました。そして、2013年にはDSM-5が発行され、PTSDの診断基準が再度変更され、陰性症状が含まれました。

2019年には、ICD-11が発行され、心的外傷が長期間にわたって続く場合に現れる症状を指す「複雑性心的外傷ストレス障害(C-PTSD)」の概念が提唱され、C-PTSDは、PTSDの診断基準に加えて、感情の調整異常・否定的自己像・対人関係の障害がPTSDの中核的症状に加えて位置づけられました。

PTSDの持続エクスポージャー療法ワークブック:星和書店
バーバラ・O・ロスバウム/エドナ・Bフォア/エリザベス・A・ヘンブリー監訳:小西聖子/金吉春
訳:本田りえ/石丸径一郎/寺島ひとみ:は対象者にとって、とても分かりやすい内容です。

PTSDの持続エクスポージャー療法ワークブック:星和書店

バーバラ・O・ロスバウム/エドナ・Bフォア/エリザベス・A・ヘンブリー監訳:小西聖子/金吉春
訳:本田りえ/石丸径一郎/寺島ひとみ

臨床精神医学講座 外傷後ストレス障害/中山書店2000

「トラウマと回復 ― PTSDからの再生」Judith Herman著、長田暁子訳、明石書店

「PTSDの治療――認知行動療法による効果的なアプローチ」Edna B. Foa, Terence M. Keane, Matthew J. Friedman著、太田良治・小森佳恵訳、金剛出版

「心的外傷を持つ人のための認知行動療法」Victoria M. Follette, Jacqueline Pistorello著、加藤英明・森田明子訳、金剛出版

「TRUST理論に基づく心的外傷後ストレス反応の治療」藤田 昇 著、新興医学出版社

「Trauma and Recovery: The Aftermath of Violence–from Domestic Abuse to Political Terror」Judith Herman著、Basic Books

「The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma」Bessel van der Kolk著、Penguin Books

「The Post-Traumatic Stress Disorder Sourcebook: A Guide to Healing, Recovery, and Growth」Glenn R. Schiraldi著、McGraw-Hill Education

「Overcoming Trauma and PTSD: A Workbook Integrating Skills from ACT, DBT, and CBT」Sheela Raja著、New Harbinger Publications

公益財団法人東京都医学総合研究所ウェブサイトhttp://www.igakuken.or.jp/mental-health/IES-R2014.pdf

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