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PTSDの暴露・現実エクスポージャー療法を一人で実践する

目次

トラウマを思い出す状況を回避することがPTSDを長引かせています。不安階層を作成し、避けてきた状況に繰り返し向かうことで恐怖が軽減され馴化するまで安全を学習します。

回避行動の壁

 トラウマの出来事に関連する苦痛を長引かせる大きな原因は、記憶、思考、感情、および行動の「回避」です。このトラウマ体験を思い出させる状況を避けることがPTSDを長引かせています。短期的には避けることである程度落ち着くことはできますが、長い目で見れば避け続けることで事態は悪化するだけではなく恐怖感を乗り越えることができないのです。

 そこで、このトラウマに関する思考や状況に対処することができるように、向き合っていくことが最大の目標となります。この治療のことを持続エクスポージャーと呼んでいます。エクスポージャーには、想像エクスポージャーと現実エクスポージャーがありますが、想像エクスポージャーは、治療者の関りが必要となります。そこで「PTSDひとりでチャレンジ心理療法」では現実エクスポージャーを中心に思考面にも触れていく治療法を行います。

現実エクスポージャー

現実エクスポージャーの効果(馴化)

  1. トラウマ関連の状況を回避することで不安を減らすという習慣ができています。回避によって不安を解決するたびに回避の習慣はより強くなります。トラウマ体験についての感情を整理し、丁寧に順を追って避けている状況に向き合っていくことで、回避する不安を減らすという習慣を乗り越えられます。
  2. 危ないと思って今まで避けてきた状況に繰り返し自分で向きあってみると、何も起こらないということがわかります。そしてこれらの状況は実は安全だったのだ、何も避ける必要がないのだということを学習します。
  3. 不安を感じるところに長くいると不安はいつまでも続くとか、さらに大きくなって正気を失ってしまうと考えています。ところが実際には十分な時間その場にとどまっていることで不安は減ってくるという馴れ(馴化)がわかります。
  4. 怖いと思う状況に向き合うことで自分の恐怖心を克服すると、自分で対処できたと自信が生まれ自分の能力の評価が高まります。そのことで社会での活動範囲が広がっていきます。

SUDS(サズ)(苦痛の主観的評価点数)の不安階層の作成

SUDSは0~100点までの尺度です

100点これまで体験した中で最高レベルの恐怖体験と苦痛でありパニック状態のことです。
極限状態として身体に次のような症状が起きます。

・手のひらに汗をかく
・動悸がする
・呼吸困難になる
・めまいを感じる
・強い不安が起きる

ただし、これは自己の主観的評価点数によって表わします。
  0点何のストレスもなく、くつろいだ状態です。
点数例状況例
  0点ソファーでクッキーを食べながらテレビを観ている。コーヒーを飲みながら本を読んでくつろいでいる。
 25点電車やバスに乗って買い物に出かける。
 50点仕事の営業成績が上がらなく、上司に説教されている。
 75点営業途上で助手席に乗っていたが、同僚の運転で軽い接触事故を起きた。
100点車での大事故のときに感じた最悪の状態であった感覚(トラウマの原因)の再現。

現実エクスポージャーのための不安階層表の作成

トラウマ体験が原因で回避してきた状況や関係した人、場所などのリストを作成し、対応するSUDSレベルを記入します。これは、繰り返し練習ができる課題リストを作成するためですので、実際に実行できる状況を選ぶ必要があります。そのうえで課題とする状況は一般的、概念的なものではなく、繰り返し練習ができる具体性のものであるということです。
もちろん、一人で行う場合は、客観的に見て安全で危険性の少ない状況を選ぶことが大切となります。

ドライブに行く➡目的地に行く 何時に出発してどの道順で帰り時間は?など
買い物に行く➡具体的に3時に○○商店街に洗濯機を買いに○○電気店へバスで行く

トラウマ体験者が回避する典型的な状況(具体的なリストではありません)

  • 見知らぬ男性や女性が急に近づいてくる
  • 特定の匂いや香水を嗅ぐ
  • 映画やテレビ番組でトラウマとなるシーンを見る
  • 暴力や喧嘩が起きている場面に遭遇する
  • 車が突然停止する
  • 人混みの中にいる
  • 公共の交通機関(電車、バスなど)を利用する
  • スポーツイベントや大きな集まりに参加する
  • 屋外で歩くことや外出すること
  • 一人で家にいること(特に夜間)
  • 誰かが近くに立っていること
  • 駐車場にいること
  • 見知らぬ人と同じ車に乗ること
  • 道路を横断すること
  • 他人に話しかけられること
  • 特定の音(銃声、怒号など)を聞くこと
  • トラウマを思い出させる場所に行くこと
  • 特定の色や物を見ること
  • 急に周囲が暗くなること
  • 特定の食べ物や飲み物を食べる・飲むこと
  • 突然の騒音や大きな音を聞くこと
  • 特定の衣服や服装を見ること
  • 閉所にいること(エレベーターや密閉された空間など)
  • 特定の天候や季節を経験すること
  • 特定の言葉やフレーズを聞くこと
  • 特定の曜日や時間帯を経験すること
  • 水辺や海に近づくこと
  • 特定の行動(寝る前の特定の行動、特定の習慣など)をすること
  • 特定の感覚を経験すること(触覚、視覚、聴覚など)
  • 特定の感情を体験すること(怒り、恐れ、不安など)
  • 特定の状況で固執されること(コントロールの喪失、拘束など)
  • 特定の動物を見ること
  • 特定の建物や施設に入ること
  • 特定の記号やシンボルを見ること
  • 特定の技術や機器を使うこと
  • 特定の行動パターンを経験すること
  • 特定の文化的な行事や催し物に参加すること
  • 特定の芸術や表現を見ること
  • 特定の社会的状況を体験すること
  • 特定のメディアや情報に接すること
  • 特定の場面や景色を見ること
  • 特定の人物や顔を見ること
  • 特定の体験を思い出させる言動をすること
  • 特定の空間や環境にいること
  • 特定の場所にいること
  • 特定の身体的な感覚を経験すること(体温、湿度など)
  • 特定の経験や記憶を呼び起こす匂いや味を感じること
  • 特定の活動や運動を行うこと
  • 特定の思考や思い出を持つこと
  • 特定の状況下での行動をすること

セラピストや支えとなる友人、または家族と同行する現実エクスポージャーの順番の例

公園内でPTSDが発生した例
同行者(協力者)が日中、公園にあなたと一緒に同行し、一緒に公園内を歩いて回ります。
同行者が日中、一緒に公園に同行し、あなたが一人で歩いている間、公園内の特定の場所にいます。
同行者が先に公園内の特定場所にきていて、あなたが後から一人で公園を散歩した後に落ち合います。
一人で公園を散歩した後に、公園外の近くの喫茶店で同行者と落ち合います。
一人で公園を散歩した後、自宅に待機している同行者に電話をします。
同行者に連絡をせず、一人で公園を散歩した後に同行者と一緒に行った喫茶に行きます。
※公園内の散歩は時間帯を変えることでSUDSが変化してきます

実際の現実エクスポージャーの実施

  1. 不安階層のリストを元にして、現実エクスポージャーの課題を選択します。
    目標はトラウマ体験を思い出させる状況に馴化(馴れる)することですが、最初から過度の不安を生じる状況からのスタートではなく、少し不安になるけれども対処可能だと思えるSUDSが40~50点(%)位から始め、徐々に、より困難な状況へと練習を進めていきます。
  2. 現実エクスポージャーの練習はSUDSが十分に下がるまでその場にとどまるようにします。
    不安を感じたままでその場を離れてしまうと、やっぱりその場面はとても危険だったと思い続けてしまい、自分でも何か恐ろしいことが起きるのではないかとレッテルを貼ることになり、回避も以前より強く行うようになります。また、時間帯や人混みなどのような各状況でもSUDSのレベルは違ってきますので低い~高い、の調整で練習を行います。状況によって異なりますが、一般的には30分~60分程度はエクスポージャーに充てる必要があります。
  3. 現実エクスポージャーの練習は、当初のSUDSが半分以下に下がるまで練習を重ねます。
    恐怖を克服するには、実際に怖がっていたことが起こらなかったと納得することが大切です。次の不安階層の課題に取り組むためには、少なくてもSUDSが半分以下に減少することを目安にします。

・「本当はここには危険がない」ことに気づけば不安は治まり、結果としては怖い思いをせずにその場面や同じような状況に立ち向かうことができるようになります。また、不安階層表のそれぞれの状況について練習を重ねれば重ねるほど、不安を感じないようになるまでの到達がより早くなります。

現実エクスポージャーのための不安階層表「リスト」

日付氏名
場面・状況の項目                                最初SUDS点数
(練習前)
最終SUDS点数
(練習終了)
     
     
     
     
     
     
     
常に項目の見直しをして、他に避けている場面、状況があれば付け加えてください。

現実エクスポージャーの記録用紙

現実エクスポージャーの補足

現実エクスポージャーとは「現実の生活の中で避けてきた状況に向き合う」ということです。今までトラウマを思い出してしまうために、直接的、間接的に避けてきた回避行動を改善するのにとても有効的です。

「現実エクスポージャー」と、次の段階で行う「想像エクスポージャー」は次のことが改善されます。

  1. 記憶を思い出すことで、トラウマの体験についての感情を整理することができます。
  2. トラウマについて考えることは危険ではないことがわかります。
  3. トラウマを思い出すことの恐怖感が減ってきます。
  4. トラウマの恐怖や苦痛は自分でコントロールができるようになります。
  5. 自分が避けてきた記憶や状況に繰り返し向き合うことで恐怖や苦痛は激減します。

現実エクスポージャーの階層表の作成について

 不安階層の作成は、あなたにとって恐怖や苦痛な場面をあなた自身で構成させます。もし、この作成する段階で恐怖や苦痛の場面の核心から外れた階層表を作っていたとしたら、時間を掛けて行う現実エクスポージャーの練習は意味がないものになってしまいます。既に不安階層を作る段階であなたが懸命になって回避行動をとってしまったことになります。それは恐怖構造の重要な部分を失わせてしまうことになります。

現実エクスポージャーの重要な実践

 実践では、恐怖や苦痛を感じる場面で恐怖が軽減されるまで逃げ出さないで、十分に時間を掛けなければなりません。もし、実践の中で巧妙な回避や安全な行動をとっているのであれば、その場面が危険ではないということを理解できないままになり恐怖は軽減されません。
 巧妙な回避の例として、男性が不安階層の対象の場合、安全な人々だけと付き合うことや、男性を避けられるようスーパーが混雑していない時にしか買い物をせず、レジも女性の店員だけを選ぶようなことです。また、自分でも気づかず回避している例としては、夜間に一人で外出する実践でも家が見えてくると鍵を握りしめて、焦りながら玄関に小走りで駆け寄り、急いでドアを開けロックするようなことです。閉まるドアの音を聞いて、やっとここで危険から逃れられたと感じて安心しているような実践のことです。
 重要なことは、玄関の外の暗闇には何も怖いものがないと心で納得していないことが治療につながらなかったからです。
このような実践中にトラウマ体験を思い出させるきかっけや、認知、感情など情動のすべてを切り離し、意図的に回避するようなことも治療に影響をおよぼしすべてが無駄になってしまいます。それどころか巧妙な回避を執ったことによって以前より悪くなります。
課題の実行に苦労するのであれば、回避で逃げずに階層表の不安の段階を細かく設定し直すことも必要かもしれません。

PTSDの持続エクスポージャー療法ワークブック:星和書店
バーバラ・O・ロスバウム/エドナ・Bフォア/エリザベス・A・ヘンブリー監訳:小西聖子/金吉春
訳:本田りえ/石丸径一郎/寺島ひとみ:は対象者にとって、とても分かりやすい内容です。

PTSDの持続エクスポージャー療法ワークブック:星和書店

バーバラ・O・ロスバウム/エドナ・Bフォア/エリザベス・A・ヘンブリー監訳:小西聖子/金吉春
訳:本田りえ/石丸径一郎/寺島ひとみ

臨床精神医学講座 外傷後ストレス障害/中山書店2000

「トラウマと回復 ― PTSDからの再生」Judith Herman著、長田暁子訳、明石書店

「PTSDの治療――認知行動療法による効果的なアプローチ」Edna B. Foa, Terence M. Keane, Matthew J. Friedman著、太田良治・小森佳恵訳、金剛出版

「心的外傷を持つ人のための認知行動療法」Victoria M. Follette, Jacqueline Pistorello著、加藤英明・森田明子訳、金剛出版

「TRUST理論に基づく心的外傷後ストレス反応の治療」藤田 昇 著、新興医学出版社

「Trauma and Recovery: The Aftermath of Violence–from Domestic Abuse to Political Terror」Judith Herman著、Basic Books

「The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma」Bessel van der Kolk著、Penguin Books

「The Post-Traumatic Stress Disorder Sourcebook: A Guide to Healing, Recovery, and Growth」Glenn R. Schiraldi著、McGraw-Hill Education

「Overcoming Trauma and PTSD: A Workbook Integrating Skills from ACT, DBT, and CBT」Sheela Raja著、New Harbinger Publications

公益財団法人東京都医学総合研究所ウェブサイトhttp://www.igakuken.or.jp/mental-health/IES-R2014.pdf

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