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単純性PTSD・複雑性C-PTSDの心的外傷後ストレス障害

目次

トラウマ反応と心的外傷後ストレス反応を知ることで、単純性(PTSD)と複雑性(C-PTSD)心的外傷後ストレス障害の症状・診断を理解する

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、過去に体験したトラウマなどの強いストレスが原因で発症する精神障害の一種です。PTSDを発症する原因としては、戦争、災害、暴力、レイプ、虐待、交通事故、重大な病気などの身体的、精神的な脅威によるものが挙げられます。

PTSDの症状には、過去のトラウマを再体験する「フラッシュバック」、トラウマに関連するものを避けたり、無関心になる「回避症状」、恐怖や不安などの過剰な反応を示す「過覚醒症状」、自分自身や他人に対する否定的な感情や思考などを含む「陰性症状」があります。

PTSDの治療法には、認知行動療法、曝露療法、EMDR、薬物療法などがあります。また、PTSDを発症する前にトラウマの影響を受けた人には、ストレスコーピングスキルの習得や精神的なサポートが効果的です。

複雑性心的外傷後ストレス障害(C-PTSD)

複雑性心的外傷後ストレス障害(C-PTSD)は、長期的な暴力、乱暴、虐待、侵害的な親密性、戦争や難民キャンプなどの長期的なストレスの結果として発生する心的外傷後ストレス障害(PTSD)の一種です。C-PTSDは、PTSDと同様に再体験、回避、過覚醒、負の気分、解離などの症状を引き起こしますが、C-PTSDにはPTSDにはない追加的な症状が含まれます。これらの症状には、自己評価の低下、間欠性の解離状態、不安や恐れを引き起こすトリガーの広範囲、過剰な恥、怒りの爆発、長期的な対人関係の問題などが含まれます。

C-PTSDは、子どもの虐待や複数回の性的虐待、戦争や社会的混乱、長期的な病気や障害、災害、拷問、人身売買、誘拐、精神的な拷問、幼児期の慢性的な無力感など、慢性的な強制力や傷害の存在下での長期的なストレスによって発症します。C-PTSDの治療には、心理療法や薬物療法がありますが、治療には長期間かかることがあります。

(C)-PTSDのICD-11による診断基準

ICD-11の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断基準は以下のようになっています。

  1. 一つ以上のトラウマ的なイベントによって引き起こされる、反復的な不快な思い出、夢、またはフラッシュバックを含む、不快な反復的思考、または感情の無意識または意図的な回避の存在。
  2. トラウマ的なイベントに関連する強い陰性感情(恐れ、恐怖、怒り、悲しみなど)が存在し、イベントの再現、再体験、または回避によって生じる。
  3. トラウマ的なイベントに関連して、規則的な生活の一部またはすべてが妨げられている(例:社会的、職業的、教育的、またはその他の重要な領域で機能障害がある)。

C-PTSDの診断基準には、PTSDの診断基準に加えて、次のようなことが加わります。

  1. 感情規制の欠如、または感情の高まり。
  2. 自己認識と自己肯定感の欠如。
  3. 関係におけるトラスト(信頼)とインターアクション(人との関わり)能力の問題。
  4. 長期的な統合されていない反復的なトラウマ。

C-PTSDは、PTSDの診断とは異なり、長期間にわたって慢性的なストレスや心的外傷にさらされた場合に発生する症状を記述します。C-PTSDの診断基準は、その症状が長期間にわたって発生し、他の症状に影響を与える場合にのみ適用されます。

ICD-11では、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は「複雑なストレス反応障害(Complex PTSD:C-PTSD)」とは異なる独立した診断として扱われます。C-PTSDは、長期的な心的外傷が原因で発生する症状を含み、通常のPTSDよりもより広範囲で深刻な症状を示す場合があります。

ICD-11の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断

ICD-11における心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断ガイドラインは以下の通りです。

  1. 前提条件
  • 一つ以上の外的ストレス性の事象、例えば、死亡、脅威、重大事故、性的暴力行為、身体的虐待、戦争、テロなどが経験されたこと。
  • 心的外傷後ストレス障害は、そのストレス事象に対する反応である。
  1. 症状
  • 4週間以上にわたって、次の1つ以上の反応を示す。
  • 反復的な、不快な、侵入的な記憶、夢、幻覚、閃乱、感情的な反応、物理的な反応の形で、外的ストレス性の事象の再体験。
  • 避けるための試み、例えば、外的事象や周囲の人々、場所、考え方、感情の回避。
  • 感情や気分の不安定性、自己肯定感の低下、否定的な信念や期待、世界観の変化。
  • 過度の興奮、過剰な反応、不安、攻撃性、怒り、不眠症、集中力の低下、過度の警戒、過剰な反応、振動、肉体的な反応。
  1. 診断
  • 心的外傷後ストレス障害の診断は、反応が外的ストレス性の事象によって引き起こされ、ストレスが解消された後も、4週間以上持続することが必要である。
  • 以上の症状が、日常生活の中で機能障害を引き起こす必要がある。
  • 診断に際しては、関連する疾患や問題の排除が必要である。

ICD-11の複雑性心的外傷後ストレス障害(C-PTSD)の診断

ICD-11における複雑性心的外傷後ストレス障害(C-PTSD)の診断基準は、以下のようになります。

  1. 継続的な/反復的な心的外傷体験
    患者が1つ以上の心的外傷体験を持っていることが必要です。また、これらの体験が継続的であるか、または反復的であることが必要です。
  1. 継続的な/反復的な強い恐怖・無力感・抑圧感
    C-PTSD患者は、心的外傷体験に関連する強い恐怖、無力感、または抑圧感を継続的に経験します。これらの感情は、回避、ハイパーヴィジランス(パニック状況)、および過剰な興奮を引き起こすことがあります。
  1. 関係・自己観に影響
    C-PTSD患者は、自己観や他者との関係について、常に強い影響を受けます。これらの影響は、恐怖、無力感、抑圧感、またはシェーマ(視覚的情報)の形成に関連しています。
  1. 適応機能の喪失
    C-PTSD患者は、適応機能の喪失、または社会的および職業的機能に悪影響を及ぼすことがあります。これらの機能障害は、自己認識の喪失や症状の増悪に関連していることがあります。
  1. 専門家による評価
    C-PTSDの診断には、心理学的評価や臨床面接による専門家による評価が必要です。

C-PTSDは、ICD-11ではPTSDとは異なる障害として分類されています。C-PTSDの診断には、PTSDの診断基準に加えて、上記の要件が必要です。

C-PTSDは、以下の3つの症状群から成り立っています。

  1. 外傷体験の再体験 外傷によって引き起こされた、繰り返し起こる嫌な思い出や夢、フラッシュバックといった外傷体験の再体験が含まれます。これらの再体験は、C-PTSD患者にとって非常に辛く、ストレスを引き起こすことがあります。
  2. 継続的な感情的ハイパーアラウェイス C-PTSD患者は、外傷体験から引き起こされる継続的な感情的ハイパーアラウェイスを経験します。この症状は、常に危険が迫っていると感じること、過剰な警戒心、怒り、焦燥感、恐れ、抑うつなどを含みます。
  3. 回避、遮断、または乱れた調整 C-PTSD患者は、外傷体験を回避するために行動することがあります。また、感情を遮断する、自分を麻痺させる、自己調整が乱れる、または継続的な恐怖や不安のために、自分自身や周囲の人々との関係が困難になることがあります。

以上の3つの症状群が、C-PTSDの診断のために必要な症状とされています。ICD-11では、C-PTSDは、PTSDの診断の後に追加診断として行われることが推奨されています。

トラウマ(心的外傷)・急性ストレス反応・急性ストレス障害

トラウマとは過去に自己では対処できないような「肉体的」「精神的」に強烈で圧倒的な衝撃を実際に体験をしたか、またはその脅威に曝されて被る著しい恐怖、無力感、戦慄などの心理的ストレス(心的外傷)を負ってしまった「心の傷」のことです。例えば、直接的に身体に受けた重篤なけがや暴力、死などの脅威の体験であり、間接的には他者に起こった衝撃的な出来事を目撃することや、近親者や友人に起こった悲劇的な出来事を知ることなどがあります。
このトラウマが長期間にわたり継続することや、一度や数度に起きた強烈で圧倒的な衝撃を受けた体験ではなく、虐待や拷問などのように長期にわたる反復的、慢性的、継続的なトラウマ体験をしてきた小児、青年、成人にも適用されます。

トラウマの原因となるような出来事の体験や目撃

  • 戦争、大量虐殺、強制収容、宗教カルト、人為災害、自然災害、およびそれに関連した身体的外傷
  • 通り魔、誘拐、監禁、リンチ、暴力の犯罪被害を受けるか目撃
  • 自動車、鉄道、飛行機などの重傷を負うような交通事故
  • レイプ、性的搾取などの性被害・年齢不相応な身体的、性的虐待などの性体験への暴露など
  • 外傷性脳挫傷、大火傷、重い病気や手術、重症なけがなど
  • 家族や大切な人の死への直接的な体験、その他重要な喪失体験など
  • 体罰や虐待、家庭内暴力(DV)、拷問、いじめ、ハラスメントなど慢性の反復する長期間の外傷や 精神的変調
  • 拷問、隷属化、長期のDV、反復的な幼少期の虐待

トラウマ反応、急性ストレス反応(ASR)とは

トラウマの原因となるような外傷体験でトラウマ反応が生じます。トラウマ反応は異常な体験ではなく、極度の危険に巻き込まれた人ならば誰にでも生じる反応であり、「異常な状況に対する正常な反応」と考えられ、時間経過とともに徐々に消失していきます。
ただし、個人差が大きいもののASRは「心の病気」のように情緒面、思考面、行動面、身体面などの変調(変化)があり、苦痛や生活上の支障をきたしてしまいます。

ASRは、通常、ストレスフルなイベントの直後から数時間後に発生し、1日から数日で症状がピークに達し、2週間以内に解消することが多いです。ASRは、PTSDやASDよりも短期的な症状であり、ASRが継続する場合は、より長期的な心的外傷後ストレス障害(PTSD)や急性ストレス障害(ASD)への移行が考えられます。

ASRの症状は、以下のようなものがあります。

  • 緊張感、不安感、緊張性不眠、回想、妄想、恐怖、不安定な情動、振戦
  • 身体的症状としては、頭痛、めまい、嘔吐、胃痛、倦怠感、手足の痺れ、筋肉痛、心拍数の上昇、呼吸困難、手汗、口渇などがあります。

ICD-11において、急性ストレス反応(Acute Stress Reaction, ASR)は、短期的なストレスが原因で生じる反応として定義されています。以下に、ICD-11におけるASRの診断基準を示します。

  • 精神的外傷後直ちに現れる、あるいはそれに続いて1週間以内に発現する、以下のような症状がある。
    • 焦り、不安、および/または混乱
    • 持続的な亢進状態、不安定さ、あるいは衝動的な反応
    • 自律神経症状(たとえば、心拍数や呼吸の上昇)
    • 睡眠障害、いびき、あるいは異常な疲労感
    • 注意力、集中力、記憶力の低下、あるいは混乱
    • 回避、抑圧、または感情的麻痺
  • これらの症状が、ストレス反応を引き起こした事象の重大性や影響と矛盾している場合がある。
  • これらの症状が、ASD、PTSD、うつ病、不安障害、統合失調症、あるいは薬物乱用などの他の状態によって説明される場合は、ASRを診断してはならない。

ASRは、一般的には自然発生的な軽度のストレス反応であり、一般的には時間の経過とともに症状が改善することが多いとされています。しかし、症状が重度である場合や長期化する場合は、ASDやPTSDに進行する可能性があるため、早期の評価と治療が重要となります。

急性ストレス障害(ASD)とは

甚だしく外傷的な出来事に遭遇することによって引き起こされる、急性の反応性精神障害です。代表的な症状は解離性健忘や離人症、感情の麻痺といった解離性症状や、外傷的な出来事へのフラッシュバック様の再体験などを呈する疾患です。PTSDに臨床症状は類似していますが、症状は外傷的体験ご1か月以内に寛解する点が特徴です。

ICD-11における急性ストレス障害(Acute stress disorder, ASD)の診断基準は以下の通りです。

  • 直接または間接的に経験した実際または脅威的な死亡、重大なけが、または性的暴行などの極度のストレス刺激が存在した。
  • 以下のいずれかの反応が3日以上、1か月以内に寛解した。
    • 侵入的な思考、感情、妄想、再体験、または回避行動(症状群A)
    • 顕著な不安、反応性の減弱、または回避行動(症状群B)
    • 神経系の過敏性や興奮、注意欠陥や集中力の欠如、または睡眠障害(症状群C)
  • 症状群Aのうち、少なくとも1つの症状が3日以内に開始され、1か月以内に寛解した。
  • 症状が明らかな社会的、職業的、またはその他の機能の損失を引き起こしている。
  • 症状は物理的な状態または物質使用障害、医療的状態、または他の精神障害によって説明できない。

各症状の大部分に強く苦痛を生じているか、日常生活に大きく支障をきたしているかが診断基準となります。診断のためには、症状群A、B、Cの少なくとも1つが必要であり、診断基準の全体としては、ASDが発生した後30日以内に症状が寛解する必要があります。

有病率は自動車事故で13〜21%・軽度外傷脳挫傷で14%・重度熱傷で10%・暴行で19%・性的暴力や銃乱射の目撃で20~50%報告されています。男性より女性に発症する例が高いとされています。

ASR/ASD/PTSD/C-PTSDの比較

病名急性ストレス反応(ASR)急性ストレス障害(ASD)
発症ストレス体験直後ストレス体験直後
症状経過・正常なストレス反応の強度:数時間~数日間(衝撃期) 多くは1か月程度で回復するが軽反応、それ以上の場合もあります(反動期/回復期)。
・症状が継続している場合はASDの診断を受けることができます。
・3日後以内~1か月 ASRから衝撃期が繰り返され症状が軽減せず移行されたが1か月以内に寛解します。
・ASDの症状は、PTSDの症状と非常によく似ており、侵入的な再体験、過剰な興奮、回避行動、陰性症状などが含まれます。
臨床症状・正常なストレス反応範囲内:感情思考の変化、身体の変化、行動の変化
・一過性のストレス反応であり、通常は1か月未満で症状が解消することが多いため、症状の持続期間はASDやPTSDよりも短くなります。
・症状の種類や強度も比較的軽度であり、ASDやPTSDと比較して、回復が速いことが特徴です。
・ASRよりも症状の持続期間が長く、一定期間(3日以上、1か月未満)症状が続くことが特徴です。
・ASDの症状は、PTSDと比較して、侵入的症状や過覚醒症状がより強く、回避症状がより軽度であることが報告されています。
病名心的外傷ストレス障害(PTSD)複雑性心的外傷ストレス障害(C-PTSD)
発症ストレス体験1か月後ストレス体験1か月〜数年後
症状経過・1か月以上続く ASDからそのままの症状で移行されます。
・刺激が発生してから1か月以上継続している場合に診断されます。PTSDの症状は、ASDと同様のものがありますが、より長期間続きます。
ASDやPTSDのような侵入的な再体験や過剰な興奮、回避行動、陰性症状だけでなく、自己認識の問題、対人関係の問題、感情の調節の問題なども含みます。
CPTSDは、通常、長期間にわたる複雑なトラウマの結果として発生するため、治療が難しいことがあります。
臨床症状過去の心的外傷体験に関連して、侵入的症状、過覚醒症状、回避症状の3つの症状クラスターが主な特徴となります。
症状の持続期間はASDと同様に1か月以上とされますが、症状が持続することが多く、ASDと比較して重度の症状を示すことがあります。
持続的な心的外傷体験や複雑なストレス体験によって発生し、侵入的症状や過覚醒症状、回避症状に加え、感情調整や人間関係に関する困難、自己評価や自己認知に関する問題など、陰性症状がより強く現れることが特徴です。
症状の持続期間はPTSDと同様に1か月以上とされていますが、ストレス体験が長期間によることが多いため、症状の重症度や持続期間は患者によって異なり、多様な症状が見られることがあります。
PTSD映画

トラウマ・心的外傷後ストレスPTSDを描いた映画:「ミステック・リバー」「再開の街で」「アメリカン・スナイパー」が参考になります。

心的外傷後ストレス障害(PTSD/C-PTSD)の症状

単純性PTSDの主な症状と診断

・自己や他者、社会に対する持続的、かつ過剰な否定的信念や予想を持って、他者から孤立感や疎遠の感覚があり、心的、外傷的出来事に関連した認知があり、感情・身体症状・行動の陰性変化があります。

  • 再体験症状:解離性フラッシュバック、悪夢
  • 回避症状:出来事に対する思考や感情、想起刺激となる状況の回避
  • 過覚醒症状:脅威の切迫性の知覚

PTSD

外傷となった出来事の侵入(再体験)症状

トラウマとなった出来事や体験を意識していない状況下でも思い出されたり、悪夢として反復されます。あたかも体験が繰り返されるような解離的反応(フラッシュバック)が起きます。

外傷となった出来事に関連する持続的(想起)な回避症状

外傷体験や出来事の関連する記憶や感情を避けようとしたり、思い出させる人物や場所、状況、会話を回避します。

外傷となった出来事に関連する認知と気分の過敏、陰性(ネガティブ)な変化

外傷となった重要な局面を思い出せない、自分や他者に対しての否定的な認知、恐怖・怒り、罪悪感などの感情が持続し、周囲との疎外感や孤立感を感じてしまいます。

外傷となった出来事に関連する覚醒度と反応性の著しい変化

イライラ感や怒り、無謀または自己破壊的行動、過覚醒、過剰な警戒心、亢進した驚愕反応、集中困難、睡眠障害がみられます。

PTSDの診断

上記の症状が1か月間以上みられることで診断を満たすことになります。

遅延顕症型PTSD

上記の症状が6か月後までにみられないこともあります。

PTSDの中核的症状・トラウマの再体験・回避 ・持続的な過覚醒状態
再体験症状(侵入症状:フラッシュバック)
過覚醒(覚醒亢進症状、防御・戦闘モードと極度の不安・緊張)
回避・麻痺症状(外傷関連の回避、記憶・感覚・反応の鈍化)
陰性症状(自己・他者否定思考)

ICD-11のPTSDの3つの症候群(症状)

  1. 再体験症状
    トラウマ体験を思い出すこと、あるいはそれに関連する感情・感覚・身体的反応などが、突然かつ強烈に現れる症状です。具体的には、以下のような症状が挙げられます。
    • 悪夢や、トラウマ体験を思い出すことが多いという日常生活の中でのイメージ(閉じたままではない)などの再体験
    • 過去のトラウマ体験を思い出すことによって、非常に不快な感情が現れること
    • トラウマ体験を思い出すことによって、身体的反応(発汗、息切れ、動悸、吐き気など)が現れること
  2. 過剰な刺激反応症状(過覚醒反応)
    過剰な刺激反応症状:過剰な刺激反応症状は、トラウマ体験によって引き起こされた過剰な不安や緊張などの感情に対する反応のことです。具体的には、以下のような症状が挙げられます。
    • 外部からの刺激(音、におい、風景など)に対して、過剰に反応すること
    • 外出することが怖くなり、家に引きこもってしまうこと
    • 過剰な注意力や備えによって、過剰に反応すること
  3. 回避行動症状
    回避行動症状は、トラウマ体験に関連する場面や状況を避けるために行動する症状です。具体的には、以下のような症状が挙げられます。
    • トラウマ体験に関連する人物、場所、出来事などを避けること
    • トラウマ体験を話したり、思い出したりすることを避けること
    • 感情を抑制して、無感情な状態を保とうとすること

DSM-5でのPTSDの5つの症候群

  1. 侵入的症状(再体験)
     トラウマとなる出来事や恐ろしい悪夢、フラッシュバックなど突然、心の中に浮かび上がってくる侵入的な記憶です。これは出来事を思い出させるような関連があるとき、それを思い出させるものがないときにも侵入的な記憶がおこります。この侵入的な記憶は寝ている、リラックスしている、退屈な時によく起こりますが、これはトラウマティックな出来事の後に起こる自然な症状です。
  2. 過覚醒症状
    出来事を思い出すと、とても強い感情を体験します。入眠や睡眠持続の問題、イライラや怒りの爆発、危険を省みない自己破壊的な行動、集中困難、また大きな音がするとか誰かが背後を歩いた際に飛び上がるような驚愕反応、そのため理由もなく警戒することや背後を確認するといった身体の反応が伴います。
  3. 陰性症状
    慢性的にネガティブな気分が続き、罪悪感、恥、怒り、恐怖、悲しみといった感情をよく感じるようになってしまいます。活動する気力を失い、ポジティブな感情を感じられなくなり、自分、他者、社会について否定的に考えるように変わります。トラウマが起こるのを防げなかったことについて自分や他者を非難してしまいます。
  4. 解離症状
    出来事すべてや一部を思い出せなくなる人もいます。ポジティブな感情が麻痺するような、遮断されたように感じます。周りや社会から切り離されたように感じます。
  5. 回避症状
    出来事を思い出させるような場所や状況、人を避けてしまう回避です。また、出来事に関連するテレビ番組やニュース観ないようにとか、新聞を読むことを避ける人もいます。出来事のことを考えることや感情の感じることも避けます。そして特定の光景、音、においでも思い出されるために、避けたり逃げたりしてしまいます。ただし、そうした思考や感情を押しやろうとしたくなるのは自然な反応です。アルコールや薬物の摂取量が多くなることも思考や感情などの回避であり、回復を遅らせてしまいます。

複雑性PTSDの症状と診断

2018年のICD-11では、PTSDの診断がPTSDと複雑性PTSDに分けられ、その内容は「持続性の逃げるのが困難なストレス体験」に要約されています。要するに逃れることが困難な状況下での長時間、および反復的な著しい脅威や恐怖の外傷体験からもたされるストレス障害となります。例えば長時間、長期間に及び続いた家庭内などの虐待、DV、小児期のネグレクト、精神的・性的虐待、人身売買、戦争捕虜、拷問、監禁などの複雑な体験であり、持続性、慢性的に困難な対人関係機能の領域が挙げられます。

複雑性PTSDの症状と診断

・反復的、長期的に対人的トラウマとして、意図をもって行われた攻撃や犯罪行為の加害である。
・家族、社会、職業、教育の場など重要な生活範囲において起こる。
・PTSD症状に加え自己組織の障害(DSOの3カテゴリー)「感情調整障害」「否定的自己概念」「対人関係障害」特徴を有します。

  • 感情抑制、感情調整の障害における問題
  • 否定的な自己概念で、恥や罪悪感の感覚が自己肯定感を低くし、敗北感の信念
  • 他者との親密性の人間関係などの対人関係の困難

C-PTSD

ストレスに関連する障害

逃れることが困難な状況下での長時間、および反復的な著しい脅威や恐怖の外傷体験からもたされるストレス障害となります。
例えば長時間、長期間に続いた家庭内などの虐待、DV、小児期のネグレクト、精神的・性的虐待、人身売買、戦争捕虜、拷問、監禁などの複雑な体験であり、持続性、慢性的に困難な対人関係機能の領域が挙げられます。これは幼少期の虐待や拷問など長期にわたる反復的、慢性的、継続的なトラウマ体験をしてきた小児、青年、成人にも適用されます。

症状の特徴

PTSDの「トラウマの再体験」「トラウマの想起回避」「過覚醒症状」に加え、3つの自己組織化の障害が特徴となります。
➀「情動調節障害」感情のコントロールの脆弱性・情動の暴力的な爆発、無謀、自己破壊的な行動・解離症状や離人症状
➁「対人関係障害」人間関係を維持し他者を親密に感じることへの持続的困難・対人面での交流の困難さのため場を避ける、対人の軽蔑または無関心
➂「否定的自己概念」無価値観の持続的思い込み、ストレス因に関する罪悪感、恥辱感、挫折感などを伴う

障害の持続性と診断

個人、家族、社会生活、職業、学業など重要な機能領域において、深刻な機能障害をもたらします。
PTSDの診断に加え、上記の3つの自己組織化の障害症状が深刻であり持続していることが複雑性PTSDの診断に必要となります。

C-PTSDは境界線パーソナリティ障害とオーバーラップが多いため、診断が難しいところがありますが、C-PTSDは一貫しての否定的自己像もつのに対し、境界線パーソナリティ障害は不安定で変化する自己像を持っています。

ICD-11のC-PTSDの3つの症候群(症状)

C-PTSDは、PTSDの中核的症状に加えて自己組織化の障害症状が伴う状態として位置づけています。

  • 関係障害群 関係障害群は、C-PTSD患者が他人とのつながりに問題を抱えていることを示します。具体的には、以下のような特徴が挙げられます。
    • 信頼の欠如や、過剰な依存心
    • 対人関係での問題や孤立感の増加
    • 他人とのつながりを避けるような回避行動や社交不安障害(SAD)の症状
  • 変化した自己認識群 変化した自己認識群は、C-PTSD患者が自分自身に対して持つ認識に問題を抱えていることを示します。具体的には、以下のような特徴が挙げられます。
    • 自己肯定感の低下や、自己劣等感の増加
    • 精神的な脆弱性の増加や、自分自身に対する否定的な信念
    • 自己同一性の喪失や、自分自身を取り戻すための試みの失敗
  • 関連する変化した感情・意識群 関連する変化した感情・意識群は、C-PTSD患者が感情の調節に問題を抱えていることを示します。具体的には、以下のような特徴が挙げられます。
    • 強い感情的な反応や、感情の制御の欠如
    • 無力感や、孤独感、不安、怒りの増加
    • 恐怖や緊張感が日常生活に影響を与えるような症状の増加
C-PTSDの自己組織化の障害・感情の調整異常・否定的自己像 ・対人関係の障害
対人関係の障害(対人面の引きこもり) ・信用できないなど人間関係の維持、継続の困難 ・再外傷の不安や他者に不安を与えてしまう
否定的自己像(無価値感、罪悪感) ・加害者から取り込んだ歪められた認知、理想化 ・恥辱(恥の意識) ・卑小(価値の低さやみすぼらしい感覚) ・慢性的な罪悪感と自責感 ・絶望・希望喪失・信念喪失
感情調節障害(感情コントロールの脆弱性) ・慢性的な感情制御や怒りへの調節困難 ・自己破壊や衝撃的危険への行動
解離症状や離人感(自己の現実感、人格の変容) ・解離エピソード・健忘 ・苦痛の感覚と感情の隔離・感情の切り離し ・周囲の状況と無関係な行動

PTSDの持続エクスポージャー療法ワークブック:星和書店
バーバラ・O・ロスバウム/エドナ・Bフォア/エリザベス・A・ヘンブリー監訳:小西聖子/金吉春
訳:本田りえ/石丸径一郎/寺島ひとみ:は対象者にとって、とても分かりやすい内容です。

PTSDの持続エクスポージャー療法ワークブック:星和書店

バーバラ・O・ロスバウム/エドナ・Bフォア/エリザベス・A・ヘンブリー監訳:小西聖子/金吉春
訳:本田りえ/石丸径一郎/寺島ひとみ

臨床精神医学講座 外傷後ストレス障害/中山書店2000

「トラウマと回復 ― PTSDからの再生」Judith Herman著、長田暁子訳、明石書店

「PTSDの治療――認知行動療法による効果的なアプローチ」Edna B. Foa, Terence M. Keane, Matthew J. Friedman著、太田良治・小森佳恵訳、金剛出版

「心的外傷を持つ人のための認知行動療法」Victoria M. Follette, Jacqueline Pistorello著、加藤英明・森田明子訳、金剛出版

「TRUST理論に基づく心的外傷後ストレス反応の治療」藤田 昇 著、新興医学出版社

「Trauma and Recovery: The Aftermath of Violence–from Domestic Abuse to Political Terror」Judith Herman著、Basic Books

「The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma」Bessel van der Kolk著、Penguin Books

「The Post-Traumatic Stress Disorder Sourcebook: A Guide to Healing, Recovery, and Growth」Glenn R. Schiraldi著、McGraw-Hill Education

「Overcoming Trauma and PTSD: A Workbook Integrating Skills from ACT, DBT, and CBT」Sheela Raja著、New Harbinger Publications

公益財団法人東京都医学総合研究所ウェブサイトhttp://www.igakuken.or.jp/mental-health/IES-R2014.pdf

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