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抜毛症と皮膚むしり症

目次

抜毛症(抜毛壁)と皮膚むしり症の概念、疫学、症状、ケース例、治療

抜毛症と皮膚むしり症の精神疾患は、元来は、他のどこにも分類されない衝動制御の障害に分類され、行為直前、または抵抗時の緊張感の高まり、行為中の快感、満足、開放感が中核的にあると捉えられていました。しかし、現在は「緊張し意識を集中させる」だけではなく、習慣性の様相が強い「無意識に自動的に生じる」があることから、緊張感の高まりや満足感、開放感が伴わないことも示されています。
このことから、「捉われ」の認知的プロセスの関与は少ないとされ、衝動制御障害との併存はなく、強迫スペクトラム障害と密接な関連性から強迫症および関連症群に移行されていて、分類される身体集中反復行動(Body-Focused Repetitive Behaviors, BFRBs)の一種です。
似たような病気では、後半に示す皮膚ひっかき症や爪かみ症があります。

メカニズム

  • 自己治療
    痛みや刺激を与えることによって、緊張を緩和する自己治療を行っています。初期は緊張緩和の効果を感じて回数が増えていきますが、回数を重ねると徐々に効果が弱まってきます。
  • 強迫症状
    強迫的に行動を繰り返さずにはいられない強迫観念に襲われてきて、強迫行為を行うことになります。
  • 無意識の習慣
    強迫行為が慢性化してくると、無意識の習慣になってしまいます。

このページを含め、心理的な知識の情報発信と疑問をテーマに作成しています。メンタルルームでは、「生きづらさ」のカウンセリングや話し相手、愚痴聴きなどから精神疾患までメンタルの悩みや心理のご相談を対面にて3時間無料で行っています。

抜毛症(TTM)の概要

抜毛症は、自己苦痛や機能的障害を引き起こす程度に髪を引き抜くことによって特徴づけられる精神障害の一種です。抜毛症は、局所的な髪の引き抜きを伴うもの(局所性抜毛症)と、全身的な髪の引き抜きを伴うもの(全身性抜毛症)の2つのタイプがあります。局所性抜毛症は、主に頭皮やまつ毛、眉毛などの限定的な部位に現れます。一方、全身性抜毛症は、全身の毛髪を引き抜くことによって特徴づけられます。

抜毛症は、精神的なストレス、不安、うつ病、トラウマ、ある種の神経学的状態などに関連していることがあります。抜毛症は、成人期あるいは思春期における一般人口の12カ月有病率は1〜2%とされていて、性別は1:10と圧倒的に女性に多く見られます。

TTMの臨床症状

抜毛症の主な臨床症状は、特定の部位から髪の毛を引き抜くことによって生じる脱毛です。次に詳細を示します。

局所性抜毛症

局所性抜毛症の最も一般的な形態は、頭皮の限定的な領域から髪を引き抜くことによって生じる円形脱毛症です。この状態では、網状の脱毛部位が見られることがあります。また、まつ毛、眉毛、髭など、他の部位の毛髪を引き抜くこともあります。

全身性抜毛症

全身性抜毛症の症状は、頭髪だけでなく、体全体の毛髪の脱落によって特徴付けられます。これには、眉毛、髭、腋毛、体毛、陰毛などが含まれます。

抜毛症による脱毛は、通常、毛穴が開いたままになります。また、一度に多くの毛髪を引き抜いたり、継続的に引き抜いたりすることによって、頭皮に炎症が起こることがあり、多くは頭皮にかゆみ、痛み、炎症が生じています。

ICD-11の抜毛症の診断基準

ICD-11(国際疾病分類第11版)では、抜毛症は「トリコティロマニア」として分類されています。トリコティロマニアは、反復的な髪や毛の引き抜きを特徴とする、強迫性障害の一種です。

  1. 髪の引き抜きを繰り返す強い衝動があること。
  2. 引き抜く行為によって、毛髪が局所的な脱毛や毛根の損傷を引き起こしていること。
  3. 引き抜く行為が、社会的、職業的、またはその他の日常生活上の重要な機能に支障をきたすか、または苦痛を引き起こすこと。
  4. その行為が、他の条件によって説明されるわけではないこと。

この診断基準により、トリコティロマニアの診断を行うためには、髪の引き抜きの行為が反復的かつ強い衝動によって支配されていることが必要です。また、この行為が機能的な障害や苦痛を引き起こしており、その原因が他の病気や状態ではないことが必要です。

専門の精神医療専門家がトリコティロマニアを診断する際には、患者の症状や状況について詳しく聞き取りを行い、必要に応じて身体検査などを行うことがあります。治療には、認知行動療法や薬物療法などの方法が用いられる場合があります。

抜毛症の架空のケース例

【ケース1】
高校2年生の女性、夏休み中にボブカットにしたところ、ふとしたきっかけで髪の毛を触ってから、自分でも気づかないうちに抜き始めてしまいました。最初は数本程度だったのが、次第に癖になり、ついには一度に20本以上も抜いてしまうようになりました。鏡を見るのも怖くなり、外出するのも嫌になってしまい、友人とも距離を置くようになりました。家族には相談できずに一人で悩んでいました。
【解説】
このように、髪の毛を抜く癖がついてしまった場合、その癖が強くなると自制することができなくなるため、抜毛症に陥ることがあります。

【ケース2】
25歳の男性、仕事のストレスから抜毛症になりました。最初は髪の毛を引っ張る癖があり、そのうちに頭皮が傷ついて薄くなったことに気づきました。それでも癖を直そうとせず、ストレスが増すにつれ、髪の毛を抜く回数が増えました。やがて、完全に禿げ上がり、周囲の人々から避けられるようになりました。彼は社交的であったのに、今では自分から人と話をすることができず、孤独に暮らしています。
【解説】
このように、ストレスなどの精神的な問題から抜毛症が発生することがあります。抜毛症は、周囲の人々から避けられたり、孤独になることで、生活に深刻な影響を与えることがあります。

脱毛症の自己評価セルフチェックリスト

抜毛症(Trichotillomania, TTM)の自己評価セルフチェックリストをそれぞれ20問です。はい・いいえでお答えください。このリストはあくまで自己評価のためのものであり、診断を確定するためには専門の医療機関での評価が必要です。

抜毛症(TTM)自己評価セルフチェックリスト
1.髪の毛を抜くことに強い欲求を感じますか?
2.髪の毛を抜くことが日常生活に支障をきたしていますか?
3. 髪の毛を抜いた後に一時的な満足感や安堵感を感じますか?
4.髪の毛を抜く行為を抑えようとすると、ストレスや不安を感じますか?
5.髪の毛を抜くために特定の儀式や手順を踏んでいますか?
6.髪の毛を抜くことで、外見に変化が生じていますか?
7.抜いた髪の毛を食べる、または噛むことがありますか?
8.髪の毛を抜くことで、他人に気づかれることを恐れていますか?
9. 抜いた髪の毛を特定の場所に集める習慣がありますか?
10.髪の毛を抜く行為により、頭皮や他の部位に痛みや傷を感じることがありますか?
11.髪の毛を抜くことが自分の意思とは無関係に行われていると感じますか?
12.髪の毛を抜くことをコントロールできないと感じますか?
13.髪の毛を抜くことで、学業や仕事に集中できないことがありますか?
14.抜いた髪の毛を他の人に見せたり、自慢したりすることがありますか?
15.髪の毛を抜く行為が特定の場所や時間に行われることが多いですか?
16.髪の毛を抜くことで、自尊心が低下していると感じますか?
17.抜いた髪の毛を保存する習慣がありますか?
18.髪の毛を抜くことで、社会的な活動を避けるようになりましたか?
19.髪の毛を抜く行為に対する後悔や罪悪感を感じることがありますか?
20.髪の毛を抜くことを他人に知られるのが怖いと感じますか?
脱毛症の自己評価セルフチェックリスト

皮膚むしり症(ED)の症状・診断

皮膚むしり症の主な臨床症状は、以下のようなものが挙げられます。

  • 無意識に皮膚を引っ張ったり、引っかいたりする習慣
  • 傷口を広げたり、深く掘り込んだりすることで、皮膚に傷や瘢痕が残る
  • 頻繁に皮膚を触っていることに気づかず、他人に注意されるまで止められない
  • 皮膚を引っ張っている間に快感や安心感を感じることがある
  • 皮膚むしり症をやめられないことによるストレスや不安を感じることがある

これらの症状は、個人によって異なり、重症度にも差があります。いずれも思春期あるいはそれ以降に発症することが多く、慢性的な疾患であるため慢性的に続き症状の消長が繰り返されます。

ICD-11において、皮膚むしり症の診断基準は以下のようになっています。

ICD-11(国際疾病分類第11版)においては、皮膚むしり症(ED)は「皮膚摘発障害」として分類されています。皮膚摘発障害は、皮膚の表面から異物を取り除くために、反復的な摘発行為が行われる精神疾患です。

ICD-11における皮膚摘発障害の診断基準は次の通りです

  • A. 皮膚を引っ張り、掻きむしったり、擦ったり、引っ掻いたり、振動を与えたりすることによって、自己傷害が引き起こされる。傷は、顔や頭皮、口唇、手、腕、足、脚などの1つ以上の部位に存在する。
  • B. 摘発行為は、非生理的な苦痛、、または機能的な障害を引き起こし、社会的、職業的、またはその他の重要な領域で問題を引き起こす。
  • C. 他の心理社会的障害、薬物使用障害、または医学的状態によって説明されるものでない。
  • D. 症状が軽度であるか、または短期的である場合は、適応障害として分類する。
  1. 皮膚を引っ張り、掻きむしったり、擦ったり、引っ掻いたり、振動を与えたりすることによって、自己傷害が引き起こされる。傷は、顔や頭皮、口唇、手、腕、足、脚などの1つ以上の部位に存在する。
  2. 現象は、非生理的な苦痛、、または機能的な障害を引き起こし、社会的、職業的、またはその他の重要な領域で問題を引き起こす。
  3. 他の心理社会的障害、薬物使用障害、または医学的状態によって説明されるものでない。

この診断基準により、皮膚摘発障害の診断には、反復的な皮膚摘発行為が必要であり、この行為によって皮膚に損傷が生じ、社会的、職業的、またはその他の日常生活上の機能障害や苦痛があることが必要です。また、この行為が他の病気や状態によって説明できないことが必要です。

専門の精神医療専門家が皮膚摘発障害を診断する際には、患者の症状や状況について詳しく聞き取りを行い、必要に応じて身体検査や検査を行うことがあります。治療には、認知行動療法や薬物療法などの方法が用いられる場合があります。

EDの架空ケース例

【架空ケース例1】
高校生のAさんは、ストレスがたまると、自分の腕や足の皮膚をむしり始める癖がありました。数年前に父親を事故で亡くし、その悲しみから抜け出せず、毎日がつらいと感じていました。彼女は皮膚を傷つけることで、感情を解消しようとしていました。しかし、皮膚をむしりすぎて、痛みが強くなり、感染症を引き起こすこともありました。
【解説】
Aさんの場合、ストレス解消法を身につけることが大切でした。自分の感情を認識するためにカウンセリングを受け、自己肯定感を高め、ストレス解消のための新しい技術を学ぶことが大切です。病的な皮膚むしりは、ストレスや不安と関連しており、治療の目的は、このようなストレス要因を除去することです。

【架空ケース例2 】
Bさんは、肌に何かがいるように感じ、痒いと思い、皮膚を引っ張っては、小さな傷を作る癖がありました。しかし、それは止まらなくなり、次第に皮膚を深く傷つけてしまい、血まみれになってしまいました。彼女はこの病気に苦しんでいましたが、自分の家族にも話すことができず人生を送っていました。

【架空ケース例3】
Cさんは、長年にわたり皮膚むしり症に悩んでいた。仕事中でも、家にいるときでも、常に手がかりとなる何かを探していた。小さなニキビやざらつきがあると、ついついその部分を掻き毟ってしまい、指先が血まみれになってもやめられなかった。最近は、特にストレスがたまると、顔中を掻き毟り、炎症や傷跡が残るようになってしまった。Cさんはもともと几帳面で、いつも緊張している性格でした。ある日、傷のかさぶたを剥がすと気持ちが楽になるのを覚えたのがきっかけでした。Cさんはこの症状によって、社交的な場面やデートの約束などを避けるようになってしまった。

皮膚むしり症の自己評価セルフチェックリスト

皮膚むしり症(Excoriation Disorder, ED)の自己評価セルフチェックリストをそれぞれ20問です。はい・いいえでお答えください。このリストはあくまで自己評価のためのものであり、診断を確定するためには専門の医療機関での評価が必要です。

皮膚むしり症( ED)の自己評価セルフチェックリスト
1.皮膚をむしることに強い欲求を感じますか?
2.皮膚をむしることが日常生活に支障をきたしていますか?
3. 皮膚をむしった後に一時的な満足感や安堵感を感じますか?
4.皮膚をむしる行為を抑えようとすると、ストレスや不安を感じますか?
5.皮膚をむしるために特定の儀式や手順を踏んでいますか?
6.皮膚をむしることで、外見に変化が生じていますか?
7.皮膚をむしった後に出血や傷ができることがありますか?
8.皮膚をむしることで、他人に気づかれることを恐れていますか?
9. 皮膚をむしった後の皮膚片を保存する習慣がありますか?
10.皮膚をむしる行為により、痛みや感染症のリスクを感じることがありますか?
11.皮膚をむしることが自分の意思とは無関係に行われていると感じますか?
12.皮膚をむしることをコントロールできないと感じますか?
13.皮膚をむしることで、学業や仕事に集中できないことがありますか?
14.むしった皮膚片を他の人に見せたり、自慢したりすることがありますか?
15.皮膚をむしる行為が特定の場所や時間に行われることが多いですか?
16.皮膚をむしることで、自尊心が低下していると感じますか?
17.むしった皮膚片を保存する習慣がありますか?
18.皮膚をむしることで、社会的な活動を避けるようになりましたか?
19.皮膚をむしる行為に対する後悔や罪悪感を感じることがありますか?
20.皮膚をむしることを他人に知られるのが怖いと感じますか?
皮膚むしり症の自己評価セルフチェックリスト

皮膚ひっかき症と爪かみ症

皮膚ひっかき症や爪かみ症は、「強迫症および関連症群(Obsessive-Compulsive and Related Disorders)」に分類される身体集中反復行動(Body-Focused Repetitive Behaviors, BFRBs)の一種です。これらの行動は、多くの場合、強迫的に始まり、やがて無意識の習慣として慢性化していく特徴があります。

1. 概念と分類

皮膚ひっかき症(Skin Picking Disorder / Excoriation Disorder)

  • DSM-5では「皮膚むしり症(Excoriation, Skin-Picking Disorder)」として記載。
  • 皮膚を繰り返し引っ掻く、つまむ、押し出すなどして、皮膚の損傷が生じる。
  • 多くは、ニキビ、かさぶた、虫刺され、毛穴などを対象に無意識に行う。
  • 行動後に一時的な緊張の解放や快感を感じる場合があるが、後悔や罪悪感を伴うことも。

爪かみ症(Onychophagia)

  • DSM-5には明記されていないが、「その他の特定される強迫関連症群」として位置づけられる。
  • 爪、爪の周囲の皮膚、時には甘皮までをかむ行為。
  • 幼少期から始まり、ストレス・不安への対処行動として現れることが多い。
  • 無意識に行っていることが多く、深爪や指の感染症を引き起こす場合もある。

2. 疫学

項目皮膚ひっかき症爪かみ症
有病率約1.4%~5.4%(生涯)約20~30%(特に子どもと青年期)
性差女性にやや多い性差は明確でない(児童では男女差なし)
発症年齢思春期前後が多い幼児期~学童期に始まることが多い
併存症強迫症、不安障害、抑うつ障害、ADHDなどADHD、不安障害、抜毛症などとの併存が多い

3. 症状と特徴的な行動

皮膚ひっかき症の行動例
  • 鏡を見ながら皮膚をチェックし、気になる部位をつまむ、ひっかく
  • ベッドに入ったあと、手持ち無沙汰なときに始まる
  • ストレス・不安・退屈を感じたときに無意識に行う
  • 傷口が化膿し、皮膚科を受診するが行動は続く
爪かみ症の行動例
  • 授業中・テレビを見ながら無意識に爪をかむ
  • 爪の凹凸やひっかかりがあると気になり、むしる・かむ
  • 手を口元に近づけていると安心感がある
  • 他人から指摘されてもなかなかやめられない

4. ケース例(臨床的)

【ケースA:高校生の皮膚ひっかき症】

  • 17歳女子。顔や腕のニキビ・かさぶたをひっかいてしまう。
  • 試験前や人間関係のストレスが強くなると悪化。
  • 鏡で肌を確認することがルーティンになっており、1日2~3時間かかることも。
  • 皮膚科での治療では改善せず、カウンセリングに来室。
  • 「気づいたらやってしまっている」と話し、罪悪感と自己否定感が強い。

【ケースB:小学生の爪かみ症】

  • 10歳男子。1年生の頃から爪をかむ習慣。
  • 授業中や家庭での注意時に特に頻繁にみられる。
  • 両親は「やめなさい」と叱るが改善せず。
  • 本人は「なんでか分からないけど、かんでると落ち着く」と話す。
  • ADHD傾向と軽度の不安傾向あり。

5. 臨床的な補足

  • BFRBsは意識的行動(focused)と無意識的行動(automatic)の両面をもつ。
  • 対処には、行動療法(HRT: 習慣逆転訓練)マインドフルネス認知行動療法などが有効。
  • 場合によっては薬物療法(SSRIなど)を併用。
  • 家族や教師の「やめさせようとする圧力」が逆効果になることも。

治療方法

抜毛症や皮膚むしり症、皮膚ひっかき症、爪かみ症などの身体集中反復行動(Body-Focused Repetitive Behaviors:BFRBs)に対しては、明確な「標準治療法」はありませんが、行動療法を中心に複数の技法を組み合わせていくことが臨床上効果的とされています。

具体的には、「併存症の治療」「セルフモニタリング」「暴露妨害法」「ストレスマネジメント」の方法の中で組み合わせていきます。

薬物療法

選択薬物

  • セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI): 一般的な抗うつ薬の一種が選択肢で、抜毛症や皮膚むしり症に対して不安や抑うつを軽減する効果が期待されます。
  • 併存症の治療
    うつ病や強迫性症の場合は、抗うつ薬を使います。
  • セルフモニタリング
    無意識の習慣にならないように、行う前と行っている時の状態、意識を観察したうえで、行う前に止めるように意識していきます。
  • 暴露反応妨害
    抗うつ薬などと合わせて、行うことを敢えてやらないことを繰り返し、不安に馴らしていきます。並行して手を別な意味で動かす「代替行動」を取り入れていきます。
  • ストレスマネジメント
    要因としてストレスや体調不良などもあります。緊張などの場合はリラックスできる方法を対策として取り入れていきます。

治療法には、次のようなものがあります。

  • 認知行動療法(CBT)
    この治療法は、抜毛症の行動的、感情的、および認知的側面を扱います。患者は、自分の行動を監視し、トリガーを特定し、代替行動を学びます。心理教育が重要となり、自己評価や感情の管理方法を学びます。
  • 習慣逆転法(HRT)
    習慣逆転法はチック症の治療として開発されています。
    • 意識化練習
    • 拮抗反応の学習:衝動が高まった際に抜毛や皮膚むしりを阻害する安全な代替行動を行います。
    • リラクゼーション
  • マインドフルネス瞑想
    この技法は、患者が自分の感情や思考に気づくことを促し、自己認識を高めることによって、ストレスや不安を軽減します。
  • 応用行動分析学
    この治療法は、抜毛症や皮膚むしり症の行動を変更するためのツールや戦略を提供します。患者は、自分自身の行動を見直し、健康的な代替行動を見つけることができます。
  • サポートグループ
    患者は、同じ状況にある他の人たちと共感し、情報交換をすることで、ストレスを軽減することができます。
  • 行動療法
    皮膚むしり症によって損傷を受けた皮膚の治療を含む、生活習慣改善、皮膚ケアの改善、傷を治すための措置など、具体的な治療を行うことも有効です。
  • 薬物療法
    選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、非定型抗精神病薬などが用いられますが、有効性は十分に確認されていません。

治療は、患者が治療の必要性を認識し、積極的に治療に参加することが重要です。また、家族や友人からのサポートや理解も治療において非常に重要です。

一人でできる具体的な治療の流れ

治療全体の流れ(例)

  1. セルフモニタリングで気づきを得る
    • 無意識の行動を可視化・トリガーを同定
  2. 暴露と反応妨害で「行動しない体験」を積む
    • 衝動と距離を取る練習
  3. 拮抗反応を使って衝動に代わる習慣を形成
    • 新しいパターンを神経的に学習
  4. ストレスマネジメントや感情調整のスキルも並行して学ぶ
    • マインドフルネス、呼吸法、CBTなど
STEP
セルフモニタリング(自己観察)

▶目的:

  • 無意識の行動を「意識化」するため。
  • 行動の「きっかけ」「時間帯」「感情」「場所」を把握。

▶方法:

  • 行動記録表(トリガーログ)を用いる。
  • 「どこで」「いつ」「何をしていたか」「どんな感情だったか」「なぜ始まったか」「止められたかどうか」を記録。
  • アプリやスマートフォンのメモ、紙の記録用紙などを活用。

▶記録の例:

日時行動きっかけ感情場所止められたか
5/20 21:00右手の爪をかんだ宿題が終わらず焦っていた不安勉強机
STEP
暴露反応妨害法(ERP:Exposure and Response Prevention)

▶目的:

  • 「行動への衝動が起きる状況」に意図的に暴露しつつ、実行を防ぐことで、衝動や不快感を減弱させる。
  • 通常はOCDに使われるが、BFRBsにも適応。

▶方法:

  1. トリガー状況に意図的に身を置く(例:鏡の前に立つ、手にひっかきやすいものを持つなど)
  2. 行動を「行わずに耐える」(反応妨害)
  3. 感情の波を観察する(ピーク→減衰を体験)

▶具体例:

  • 鏡を見ると肌を触りたくなる→「鏡を見る」ことを意図的に行い、そのまま5分耐える
  • 爪をかみたくなるとき、ガムを噛む・手をグーに握る・指にバンドエイドを貼る

▶注意点:

  • 感情の耐性(Distress Tolerance)を高めることが鍵
  • 耐える時間を「見える化」するとモチベーションが維持されやすい(例:タイマー、記録)
STEP
 拮抗反応の学習:代替行動(Habit Reversal Training, HRT)

▶目的:

  • 問題行動の**「代わりとなる適応的な行動」**を学習・定着させる。

▶方法:

  1. 初期の兆候を察知する
    • 「手が顔に近づく感覚」「ザラつきが気になる」「そわそわする」などの前駆サインを捉える。
  2. 拮抗反応(Competing Response)を行う
    • 対象の行動ができないような身体動作を行う(2分程度持続)
    • 無意識になりがちな行動を意図的に「止める技」を身につける
  3. 一般化と練習
    • 生活のさまざまな場面で繰り返し実践し、「自動化」していく。

▶拮抗反応の具体例:

問題行動拮抗反応(代替行動)
爪かみ手を握る・こぶしを作る・手を膝に押しつける
皮膚ひっかき指先をこすり合わせる・ストレスボールを握る
抜毛帽子をかぶる・手袋をする・編み物をする
むしり(甘皮など)ネイルオイルを塗る・手をひざの下に入れる

衝動の強さと代替行動チェック表(BFRBs対応)

このシートは、抜毛症・皮膚むしり症・爪かみ・皮膚ひっかきなどの衝動行動への気づきと、適切な対処(代替行動)を選ぶためのセルフモニタリングツールです。

◆ 使用方法

  • 衝動を感じたタイミングで1枚記入
  • 衝動の「強さ」「きっかけ」「感情」を可視化
  • 自分に合った「代替行動」を選び、実施
  • 実施後の「評価」を記録して、習慣化につなげる
  • このシートを使って「自分の衝動のパターン」「効きやすい代替行動」が明確になります。
  • 初期段階ではうまくいかなくてOKです。記録が習慣をつくります。
  • セラピストとの共有にも活用できます。

◆ チェック表フォーマット(1枚分)

| 記入日時:________  記入場所:__________ |

STEP
 衝動の強さ(0~10段階)
数字状態の説明
0衝動なし。落ち着いている。
1~3少しムズムズするが耐えられる。
4~6気になってしかたがないが、まだ我慢できる。
7~9強い衝動。今にも行動しそう。
10もうやってしまっている。止まらない。

現在の衝動の強さ:__/10

STEP
きっかけ(複数選択可)

☐ 退屈/暇なとき
☐ ストレスやイライラ
☐ 鏡を見たとき/鏡の前
☐ 肌や爪のザラつきを感じたとき
☐ 考えごとをしていたとき
☐ 不安・心配ごとがあった
☐ TVやスマホを見ながら
☐ 勉強中・作業中
☐ その他:______________

STEP
感情・気分(自由記述 or 選択)

今感じていること:___________________________
例:不安、イライラ、寂しさ、罪悪感、焦り、モヤモヤ、空虚、喜び など

STEP
選んだ代替行動(拮抗反応)チェック

実施した行動にチェックしてください。

行動カテゴリ内容チェック
身体の動き手をグーに握る・膝に押しつける
感覚を切り替えるガムを噛む・氷を握る・冷水に手をつける
指の代用運動指先マッサージ・ストレスボールをにぎる
遮断アイテム使用手袋をつける・帽子をかぶる・絆創膏を貼る
替わりの集中塗り絵・折り紙・スマホアプリ・タイピング
呼吸とマインドフルネス呼吸に3分集中/5感に気づく練習
その他___________________
STEP
実施後の評価
  • 衝動の強さ(実施前)__/10 → (実施後)__/10
  • 気持ちの変化(自由記述):_____________________
  • 実施できたことへの自己評価(0〜10):__/10
  • 今の自分に一言(例:よくがんばった!/次は別の方法も試してみよう):
     → _________________________________

エリアス・アブジャウデとロリン・M・コーラン編集「衝動調節障害」2010年/ケンブリッジ大学出版局

「衝動調節障害:行動依存症の理解と治療のための臨床医のガイド」、ジョンE.グラントとマークN.ポテンザ2018年/W.W.ノートン&カンパニー

Eric HollanderとDan J. Steinが編集「Handbook of Impulsive and Compulsive Disorder」2010年/John Wiley & Sons

ハーヴェイ・B・ミルクマンとケネス・W・ワンバーグが編集「衝動調節障害」2007年/アメリカ心理学会

ナンシーM.ペトリーが編集「行動中毒:DSM-5以降」2016年/オックスフォード大学出版局

ブライアン・P・マコーミック著、2009年/ProQuest「行動の知覚と調節に対する実行機能と動機づけの自己規律の相乗的貢献の神経心理学」

尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉:標準精神医学第8版/医学書院

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