トラウマが背景にある生きづらさに対する具体的な心理療法の内容をセラピスト・クライエントの両立場に解説する具体的例話法マニュアル
2024年●月◎日、41歳の女性からの相談です。
私が物心つく頃には、父親のアルコール依存で母親が常に暴力を受けていました。中学1年の夏には両親の離婚がもとで転校することになりましたが、転校先では度々同級生の嫌がらせを受けています。例えば、教科書を焼却炉で焼かれたり、運動着や靴、上履きを隠されるようなことから、私に声をかけてくる同級生をシャットアウトするようなことまでされています。そのため、いつも孤独と恐怖を感じながら周りのことばかり気にする毎日でした。最終的には新たに転校することになりましたが、2回目の転校先でも、同級生や先生が怖くて人を信用できない感情が強く、友達を1人も作ることができませんでした。転向後の中学生活では何一つ良い思い出もなく、母親の精神が安定していないこともあり、私は高校には進学しませんでした。
中学卒業とともに、スパーマーケットに就職し、私が18歳の時に、職場で知り合った12歳年上の男性と結婚することになりました。夫婦生活は半年もすると、私の家族の時のように夫の暴言や暴力が頻繁に起こりましたが、男性は父親しか知らなかったために普通のことだと思っていました。しかし、夫は5歳の子供を連れて新しい女性と暮らし始めました。そんなことがあり、今までの職場を退職して再就職することになりました。
ところが夫は月に数回アパートを訪れて、身体目的の暴力行為を続けました。お金はなかったのですが、母親の助言もあり一念発起で東京に上京し、母親と住むことになりました。それから3年費やしましたが、私が29歳の時に離婚は成立しています。しかし、無念なことに子供の親権は父親にあります。
東京での暮らしは、同業種のスーパーマーケットに勤務して12年目です。職場では上司から中卒は仕事もできないなどと罵られ、そのこともあり周りとの人間関係は上手く行っていないと感じていて、仕事でのストレスも溜まっています。信頼を寄せる相手もいたのですが、結果的には遊ばれただけでした。社会人になっても友人と呼べるような人もいないため、憂さ晴らしや相談する相手もいません。アパートに帰えっても、依存されている母親がいるので話を聴くことが多い毎日です。
自分がまたいつ嫌われてしまうのかと不安で、いつも精一杯の笑顔を振りまいていますが、他人の言動が気になって仕方ありません。また、人間不信だけではなく、目先にも将来にも希望が持てなく絶望感が強く現れています。
このような相談がありました。実際のカウンセリングとセラピーは、相談者の背景にトラウマ的な体験があることを考慮し、深刻な人間関係の問題とトラウマから続いている不安や絶望感が根底にあると考えました。しかし、トラウマの強度は父親、いじめ、夫、また現在の職場といずれも同じ強さであるということから、トラウマの相手をもう一人の自分自身にあると想定して、エンプティチェア技法で進めることが適切だと判断しています。この具体的なセラピー内容は抜粋になりますが、セラピスト・クライエントの両立場を汲んで、できる限り具体的なアプローチを例話法を交えて解説します。
※Web掲載のため、実際の相談内容を大きく改変したうえでケース例として取り上げています。
このページを含め、心理的な知識の情報発信と疑問をテーマに作成しています。メンタルルームでは、「生きづらさ」のカウンセリングや話し相手、愚痴聴きなどから精神疾患までメンタルの悩みや心理のご相談を対面にて3時間無料で行っています。
ラポールとアセスメント
深刻なトラウマを抱え、生きづらさを感じているクライエントに対して心理カウンセリングやセラピーを行う際には、特に「ラポールの構築」が重要です。ラポールとは、クライエントとセラピストの間に信頼関係を築くことであり、効果的なカウンセリングの基盤となります。ラポールの構築は、クライエントがセラピストに対して信頼を持ち、安心して話せる関係を築くことが重要です。そのためには、受容、共感、非判断的態度、傾聴、自己一致、クライエントのペースに合わせることが不可欠です。また、トリガーへの配慮や境界線の設定、文化的感受性、自己ケアも重要な要素となります。このようなアプローチを通じて、クライエントが安全で支えられていると感じる環境を提供することができます。具体的なアプローチのステップを挙げます。
ラポール構築のステップ
- クライエントの感情や経験を否定せず、そのまま受け入れることが重要です。
- クライエントの語る内容に対して共感を示し、「それはとても辛かったですね」といった応答を行います。
- クライエントがどのような話をしても、評価や批判を避けることです。
- 中立的かつ支持的な態度を保ち、クライエントが安心して話せる環境を作ります。
- アクティブリスニングを用いて、クライエントの話をしっかりと聞き、時折要約や反復を行いながら理解を示します。
- 言葉だけでなく、非言語的なサイン(表情、姿勢、アイコンタクト)も重要です。
- セラピストは自分の内面と外面が一致していて一貫性のある態度を保ち、秘密厳守や生きづらさに役立つセラピーができることの約束を示します。
- 定期的なセッションの時間や場所を設定できることも信頼関係を築く上で重要です。
- クライエントが話したくないことを無理に引き出そうとしないことです。
- クライエントのペースに合わせて、話したい時に話させることが大切です。
- 適度な自己開示を行い、セラピストも人間であることを示すことでクライエントの安心感を高めます。
- ただし、過度な自己開示は避け、クライエントの話を中心にします。
- トリガーへの配慮
- クライエントがトラウマを再体験するような質問や話題には慎重になることです。
- クライエントが安全と感じる範囲で話を進めます。
- 境界線の設定
- セラピストとクライエントの間の適切な境界線を保ち、専門家的な関係を維持することです。
- 文化的感受性
- クライエントの文化的背景や生活環境、価値観を尊重し、その視点を理解することです。
- クライエントが置かれている状況や経験を文化的な文脈で理解することが重要です。
- 自己ケア
- セラピスト自身も自己ケアを怠らず、バーンアウトを防ぐことです。
- スーパービジョンや同僚との話し合いを通じて、適切なサポートを受けることも必要です。
ラポールの構築は、クライエントとの信頼関係を築くための重要なステップです。具体的な質問や会話を通じて、クライエントが安心して話せる環境を提供し、共感と理解を示すことが求められます。非判断的態度、適度なペース、生活の背景による感受性、プライバシーの尊重を念頭に置きながら、クライエントとの関係を深めていくことが大切です。
ラポール構築のための具体的な質問や会話の例
「こんにちは。今日はお越しいただきありがとうございます。私の名前は[セラピストの名前]です。ここはあなたにとって、リラックスできてゆっくりと話せる場所でありたいと思っています。」
「今日はあなたがどのような問題を抱えているのかを少しずつお話ししてもらいたいと思います。何か話しにくいことがあれば無理に話す必要はありませんので、安心してください。」
- 「少しあなたの背景についてお聞きしてもよろしいですか?例えば、家族や現在の生活の状況などです。」
- 「今どんなお仕事をされていますか?職場でのご状況について教えていただけますか?」
- 「どのようなことが特に辛いと感じていますか?」
- 「最近、どんなことがあなたにとってストレスになっていますか?」
- 「それは本当に大変だったでしょうね。どのように対処してきましたか?」
- 「そのようなご経験をされたことは、とても辛かったと思います。ここでお話しいただいてありがとうございます。」
- 「その時、どのようなお気持ちでしたか?」
- 「あなたがその時に感じたことをもう少し教えてもらえますか?」
- 「今後、どのようなサポートが必要だと感じますか?」
- 「私たちのセッションが少しでもあなたのお役に立てればと思います。どんなことでもお話しいただければと思います。」
- 「私も時々ストレスを感じることがありますが、あなたはどうやって対処しているのか教えてください。」
- 「リラックスするために何か趣味や好きなことはありますか?」
- 「これまでの人生で特に誇りに思う出来事や成功体験はありますか?」
- 「どのような時に自分自身が一番強く感じますか?」
- 「今日は色々なお話を聞かせていただき、ありがとうございます。次回はどのようなことについて話したいと思いますか?」
- 「今日のセッションで特に印象に残ったことや気づきはありますか?」
アセスメントや問題の理解
アセスメントやトラウマ問題や生きづらさの理解のためには、クライエントの背景や現在の状況、感情や行動のパターンを深く理解するための具体的な質問や会話が必要です。適切な質問を通じて、クライエントが自身の問題を整理し、セラピストがその問題の本質を理解することが重要です。その際、トリガーへの配慮や非判断的態度、文化的や生活背景の感受性を保ちながら進めることが求められます。
- 「あなたのご家族について教えていただけますか?」
- 「現在のお住まいや生活環境について少しお聞かせいただけますか?」
- 今日ここに来てくださった理由をお聞かせいただけますか?」
- 「どのようなことが一番気になっていますか?」
- セラピスト: 「今日はどのようなことでお話ししたいと思われましたか?」
- クライエント: 「最近、職場で上司や同僚とうまくいかなくて、とても辛いんです。」
- セラピスト: 「それは大変ですね。具体的にどのようなことがあったのか、少し詳しくお聞かせいただけますか?」
- 「幼少期からこれまでに、特に印象に残っている出来事はありますか?」
- 「ご両親の離婚について、その時どのように感じていましたか?」
- 「学校でのいじめについて、どのような経験をされましたか?」
- セラピスト: 「幼少期の家庭の状況についてお伺いしてもよろしいですか?」
- クライエント: 「父親が母親に対して暴力をふるっていました。とても怖かったです。」
- セラピスト: 「その時のことを思い出すのは辛いかもしれませんが、どのような場面が特に印象に残っていますか?」
- 「最近、どのような感情を感じることが多いですか?」
- 「具体的に、どのような状況で不安を感じますか?」
- 「抑うつ症状がある場合、それはどのくらいの頻度で、どのくらいの期間続いていますか?」
- セラピスト: 「最近、どのような時に特に不安を感じますか?」
- クライエント: 「職場に行く前の朝が一番辛いです。お腹が痛くなったり、頭痛がしたりします。」
- セラピスト: 「そのような体調の変化があったとき、どう対処していますか?」
- 「ストレスを感じたとき、どのように対処していますか?」
- 「最近の生活リズムや習慣について教えてください。」
- 「現在の職場での人間関係について教えてください。」
- 「職場で上司や同僚とどのようなやり取りがありますか?」
- 「友人や家族との関係はどのような感じですか?」
- 「あなたが得意なことや好きなことについて教えてください。」
- 「これまでにどのような方法で困難を乗り越えてきましたか?」
- 「職場での具体的な出来事についてもう少し詳しく教えてください。」
- 「どのような状況で上司から中卒だから仕事ができないと言われましたか?」
- 「その時、どのように感じましたか?どのように対処しましたか?」
- トリガーの認識と配慮
- クライエントが過去のトラウマを再体験する可能性のある質問には慎重に対応し、必要に応じてセッションを調整します。
- 非判断的・非批判的態度
- クライエントの話を評価せず、受け入れること、また批判やアドバイスを急がないようにします。
- 文化的や生活背景における感受性の保持
- クライエントの文化的背景や生活背景、価値観を尊重し、その視点を考慮して評価を行います。
- インフォームド・コンセントの徹底
- アセスメントや心理検査の目的、方法、予想される結果についてクライエントに十分に説明し、同意を得ることが重要です。
- 柔軟性の保持
- クライエントの状態やニーズに応じて、評価方法やアプローチを柔軟に変更します。
具体的アセスメントや問題の理解
アセスメントや問題の理解のためには、クライエントの背景や現在の状況、感情や行動のパターンを詳細に理解するための具体的な質問や会話が重要です。クライエントのペースに合わせ、共感を示しながら、信頼関係を深めることが大切です。適切な質問と会話の展開を通じて、クライエントが自身の問題を整理し、セラピストがその問題の本質を理解するための支援を行います。
- 「あなたの幼少期の家族関係についてもう少し詳しく教えていただけますか?」
- 「両親の離婚があなたにどのような影響を与えましたか?」
- 「転校後の学校生活はどのようなものでしたか?」
- セラピスト: 「あなたの幼少期の家族関係についてもう少し詳しく教えていただけますか?」
- クライエント: 「父親は母親に対して暴力的で、私もそれをよく目にしていました。」
- セラピスト: 「それはとても辛いご経験だったと思います。その状況でどのように感じていましたか?」
- セラピスト: 「職場での問題が辛いと感じる一方で、過去の経験が影響しているかもしれませんね。幼少期の家庭でのご経験が現在の感じ方にどのように影響していると感じますか?」
- クライエント: 「父親の暴力がいつも怖かったので、人間関係に対して常に不安を感じています。」
- セラピスト: 「それは非常に理解できます。過去の経験が今の不安感にどのように繋がっているのか、一緒に探っていきましょう。」
- 「現在の住居環境や近所の関係について教えてください。」
- 「職場以外での生活はどのような感じですか?例えば、友人関係や趣味などのことです。」
- 「職場で具体的にどのような場面で上司や同僚との問題が起こりますか?」
- 「上司に『中卒だから仕事ができない』と言われたとき、どのように感じましたか?」
- 「その後、どのように対応しましたか?」
- セラピスト: 「最近、どのようなことが一番気になっていますか?」
- クライエント: 「職場での人間関係が辛くて、毎日が憂鬱です。」
- セラピスト: 「職場で具体的にどのような場面で辛さを感じることが多いですか?」
- 「最近感じた強い感情やそのきっかけについて教えていただけますか?」
- 「その時に体にどんな変化がありましたか?例えば、心拍数が上がったり、手が震えたりしましたか?」
- セラピスト: 「最近感じた強い感情やそのきっかけについて教えていただけますか?」
- クライエント: 「職場で上司に叱られたとき、とても不安になりました。心臓がドキドキして、手が震えました。」
- セラピスト: 「その後、どのように対処しましたか?」
- セラピスト: 「その時、どんな感情が湧き上がってきましたか?」
- クライエント: 「とても悲しくて、自分が価値のない人間だと感じました。」
- セラピスト: 「そう感じるのはとても辛いですね。悲しみを感じるとき、どのように対処していますか?」
- 「ストレスを感じたとき、具体的にどのように対処していますか?」
- 「最近、どのような活動や行動を避けるようになっていますか?」
- セラピスト: 「ストレスを感じたとき、具体的にどのように対処していますか?」
- クライエント: 「家に帰って一人で泣いたり、アルコールに頼ったりしています。」
- セラピスト: 「その方法が短期的には効果的かもしれませんが、長期的にどのような影響があると感じますか?」
- 「普段の睡眠パターンについて教えてください。よく眠れていますか?」
- 「食事の習慣や運動についてはどうですか?」
- 「職場での同僚や上司との具体的なエピソードを教えていただけますか?」
- 「職場外で支えになっている人やリソースはありますか?」
- 「これまでに困難な状況を乗り越えた経験について教えてください。」
- 「自分が誇りに思うことや得意なことは何ですか?」
- セラピスト: 「あなたが得意なことや好きなことについて教えてください。」
- クライエント: 「昔から絵を描くのが好きです。それが私にとっての逃げ道でもありました。」
- セラピスト: 「それは素晴らしいですね。絵を描くことがどのようにストレス軽減に役立ってきたか、もう少し詳しく教えてください。」
クライエントの強みの発見と未来の希望を見出すことは、セラピーの重要な要素です。強みを見つけることで自己肯定感を高め、未来への希望を持つことで前向きな変化を促すことができます。
趣味や興味を通じて強みを見つける
- セラピスト: 「趣味や好きなことについて教えてください。」
- クライエント: 「音楽が好きで、ギターを弾くのが得意です。」
- セラピスト: 「素晴らしいですね。ギターを弾くとき、どんな気持ちになりますか?」
- クライエント: 「とてもリラックスできますし、自分自身を表現できる感じがします。」
- セラピスト: 「そのように感じることができるのは、素晴らしい強みですね。音楽を通じて他の人と繋がることはありますか?」
過去の成功体験から強みを見つける
- セラピスト: 「これまでの人生で特に誇りに思う出来事はありますか?」
- クライエント: 「転校前の中学の時に科学コンテストで優勝したことがあります。」
- セラピスト: 「それは素晴らしい経験ですね。その時にどのように努力しましたか?」
- クライエント: 「毎日遅くまで実験を繰り返し、チームと協力して結果を出しました。」
- セラピスト: 「その努力と協力の精神は、今後の様々な場面で大いに役立ちますね。」
現在の仕事や役割を通じて強みを見つける
- セラピスト: 「現在の仕事で、自分が得意だと感じることは何ですか?」
- クライエント: 「チームリーダーとして、メンバーをサポートすることが得意です。」
- セラピスト: 「そのサポートの仕方をもう少し教えていただけますか?」
- クライエント: 「メンバーの意見を聞き、皆が最善を尽くせるようにアドバイスやサポートをしています。」
- セラピスト: 「そのリーダーシップとサポートのスキルは、大きな強みです。今後もその強みを活かしていける場面がたくさんありそうですね。」
小さな成功体験やポジティブな瞬間を探ることから始め、少しずつ自己肯定感を高めることが大切です。また、日常生活で実践している価値観や信念に注目し、それを強みとして認識させることも有効です。
小さな成功体験やポジティブな瞬間を探る
- セラピスト: 「最近、少しでも嬉しかったり、ホッとしたりした瞬間はありますか?」
- クライエント: 「特に思い当たることはないです。」
- セラピスト: 「例えば、日常の中でちょっとした達成感を感じたことは?それがどんなに小さなことでも構いません。」
- クライエント: 「毎日、仕事に行っていることが、唯一の達成感かもしれません。」
- セラピスト: 「それは素晴らしいことですね。毎日仕事に行くことは、とても大切で立派なことです。それを続けるために、どのような工夫をしていますか?」
他人からのポジティブなフィードバックを探る
- セラピスト: 「他の人から褒められたことや感謝されたことはありますか?」
- クライエント: 「あまり褒められたことはないですが、子供の世話をしていたときに、友達が『よく頑張っているね』と言ってくれました。」
- セラピスト: 「それは重要なことです。子供の世話をすることは大変なことで、友達もその努力を認めてくれたんですね。」
価値観や信念を探る
- セラピスト: 「自分にとって大切だと思う価値観や信念はありますか?」
- クライエント: 「正直でいることが大切だと思います。」
- セラピスト: 「その正直さは素晴らしい価値です。それをどのように実践していますか?」
日常の中でのポジティブな出来事を探る
- セラピスト: 「最近、一日を通して少しでも良いことがあったと感じる瞬間はありますか?」
- クライエント: 「そうですね、今日は同僚がコーヒーをおごってくれました。それは嬉しかったです。」
- セラピスト: 「それは素敵な出来事ですね。同僚との関係が良好な証拠かもしれませんね。その瞬間、どのように感じましたか?」
小さな達成を認める
- セラピスト: 「仕事で何か一つでもうまくいったことはありますか?」
- クライエント: 「毎日、定時に仕事を終わらせることができています。」
- セラピスト: 「それは素晴らしいことです。日々の仕事をきちんとこなすことは、非常に大切なことです。それに対して自分をどう評価しますか?」
自分の大切にしていることを探る
- セラピスト: 「あなたが日々大切にしている価値観や信念について教えてください。」
- クライエント: 「誠実であることが重要だと思っています。」
- セラピスト: 「その誠実さは、どのように日常生活で表れていますか?」
- クライエント: 「友達や同僚に対して、いつも正直でいるように心がけています。」
- セラピスト: 「その姿勢は非常に素晴らしいです。正直でいることは信頼を築く基盤です。」
- セラピスト: 「これまで、ストレスを感じたときに有効だった対処法はありますか?」
- クライエント: 「友人と話すと少し楽になりますが、最近はその友人とも疎遠になってしまいました。」
- セラピスト: 「友人と話すことで楽になっていたんですね。新たなサポートシステムを作るために、どのようなことができるか一緒に考えてみましょう。」
- セラピスト: 「これからどのようなサポートが必要だと感じますか?」
- クライエント: 「自分に自信を持てるようになりたいです。」
- セラピスト: 「それは大切な目標ですね。自信を持てるようになるために、具体的にどのようなサポートがあればいいと思いますか?」
目標設定を通じて未来の希望を見出す
- セラピスト: 「将来、どのようなことを達成したいと考えていますか?」
- クライエント: 「自分のビジネスを立ち上げて、成功させたいです。」
- セラピスト: 「そのビジネスの具体的なアイディアを教えてください。」
- クライエント: 「カフェを開いて、人々が集まりやすい場所を作りたいです。」
- セラピスト: 「素敵なアイディアですね。そのためにどのようなステップを踏んでいけばいいと思いますか?」
理想的な未来のビジョンを描く
- セラピスト: 「理想的な未来についてイメージしてみましょう。例えば、5年後にどのような生活を送りたいですか?」
- クライエント: 「安定した仕事と家庭を持ち、趣味の時間も楽しんでいたいです。」
- セラピスト: 「その生活を実現するために、今からどのようなことを始めれば良いと思いますか?」
- クライエント: 「まずは、スキルアップのための勉強を始めることが必要だと思います。」
- セラピスト: 「具体的にどのようなスキルを学びたいですか?」
未来への希望を見出すためには、大きな目標ではなく、小さな現実的な目標を設定し、その達成感を積み重ねていくことが重要です。クライエント自身が利用できるリソースやサポートを探る手助けをし、具体的なステップを一緒に考えることで、未来に対する希望を少しずつ育んでいくことができます。
小さな目標設定
- セラピスト: 「今後、どんな小さなことでもいいので、達成したいと思うことはありますか?」
- クライエント: 「特に大きな目標はないですが、健康のために毎日少し歩くことを始めたいです。」
- セラピスト: 「それは素晴らしい目標ですね。どのくらい歩くことを目指しますか?」
リソースの活用
- セラピスト: 「目標を達成するために、利用できるリソースやサポートはありますか?」
- クライエント: 「特にないと思います。」
- セラピスト: 「例えば、地域のウォーキンググループに参加することや、健康アプリを使うことはどうでしょうか?」
未来のビジョンを少しずつ描く
- セラピスト: 「もし、少しずつでも今の状況が良くなったとしたら、どんな生活を送りたいですか?」
- クライエント: 「少しでも安心して暮らせるようになりたいです。」
- セラピスト: 「そのために、どんな小さなステップを踏んでいくことができそうですか?」
小さな目標を設定する
- セラピスト: 「将来に向けて、小さなことでもやりたいことはありますか?」
- クライエント: 「もっと健康に気を使いたいです。」
- セラピスト: 「具体的にどのようなことを始めたいですか?」
- クライエント: 「毎朝、少しだけ散歩することから始めてみたいです。」
- セラピスト: 「それは素晴らしい目標ですね。どのようにそれを実践していきますか?」
長期的なビジョンを少しずつ描く
- セラピスト: 「もし、1年後の自分を想像してみてください。どのような生活を送りたいですか?」
- クライエント: 「もっと安定した生活と、人間関係がうまくいっていることを望んでいます。」
- セラピスト: 「そのために今からできる小さなステップは何だと思いますか?」
- クライエント: 「まずは、コミュニケーションスキルを向上させるために、本を読むことから始めたいです。」
- セラピスト: 「それはとても良いアイデアですね。具体的にどんな本を読みたいと思いますか?」
- セラピスト: 「目標を達成するために、どのようなサポートが必要だと感じますか?」
- クライエント: 「専門家からのアドバイスと、家族の理解と支援が必要です。」
- セラピスト: 「そのために具体的にどのような行動を取る予定ですか?」
- クライエント: 「まずは、家族に自分の夢と計画を話して理解を求めます。」
- セラピスト: 「それはとても良い第一歩ですね。専門家への相談も具体的に進めていきましょう。」
日々のサポートとモチベーション
クライエントが小さな成功やポジティブな瞬間を認識することで、自己肯定感を高め、前進する意欲を持てるようになります。日常の中での些細な達成や、価値観に基づく行動を強調することで、クライエントの内面の強さを引き出すことができます。また、現実的で達成可能な小さな目標を設定し、その進捗を確認することで、未来への希望を少しずつ育んでいくことが大切です。
定期的な振り返り
- セラピスト: 「毎週少しずつ進捗を確認してみましょう。何か新しい気づきや進展はありましたか?」
- クライエント: 「小さなことですが、毎朝の散歩が習慣になってきました。」
- セラピスト: 「それは素晴らしいですね。健康面で何か変化を感じていますか?」
成功体験の共有
- セラピスト: 「最近の成功体験をもう少し共有させていただけますか?」
- クライエント: 「職場で新しいプロジェクトに参加して、少し自信がつきました。」
- セラピスト: 「それは素晴らしいですね。そのプロジェクトにどのように貢献したか、詳しく教えてください。」
- セラピスト: 「今日は色々なことを話していただきありがとうございました。特に印象に残ったことや気づきはありましたか?」
- クライエント: 「自分の感情を初めて言葉にすることができました。それが少しだけ楽になったように感じます。」
- セラピスト: 「それは素晴らしいですね。次回のセッションでも引き続き自分の感情を言葉にする練習を続けていきましょう。」
具体的な質問や会話の例は、クライエントとの信頼関係を築き、問題の理解を深めるために非常に役立ちます。セッションの中でクライエントが安心して話せるような雰囲気を作り出し、共感と理解を示すことが重要です。また、クライエントの強みやリソースを活かしながら、具体的な対処法や未来への希望を見出すサポートを提供することも大切です。
心理検査・質問票
トラウマを抱えるクライエントに対する心理評価や尺度、測定には、クライエントの具体的な問題や症状に応じた適切な質問票を使用します。これらの評価ツールを通じて得られた情報を統合し、臨床的な判断や観察を加えることで、クライエントの全体像を把握し、効果的な支援を提供します。その際、文化的や生活背景の感受性やインフォームド・コンセント、トリガーへの配慮、評価の柔軟性などの注意点を守りながら進めることが重要です。
次に、具体的な心理評価や尺度、測定についての質問票の例を挙げます。また、セラピストの見立ての理解や方法、注意点についても解説します。
- 使用する心理評価や質問票と自己評価チェックリスト
-
- PTSDやトラウマの評価
- PTSD診断尺度(PDS-5)
PTSDの症状を評価するための質問票です。過去のトラウマ体験と現在の症状を詳細に評価します。 - 改訂版影響イベント尺度(IES-R)
トラウマ後のストレス反応を測定します。侵入症状、回避症状、過覚醒症状について評価します。
- PTSD診断尺度(PDS-5)
- 抑うつの評価
- ベック抑うつ質問票(BDI-II)
抑うつ症状の重篤度を評価するための自己記入式質問票です。 - 患者健康質問票(PHQ-9)
抑うつ症状の重篤度を評価する短い質問票です。
- ベック抑うつ質問票(BDI-II)
- 不安の評価
- 状態-特性不安質問票(STAI)
状態不安と特性不安を評価するための質問票です。 - 総合不安尺度(GAD-7)
一般的な不安症状の重篤度を評価します。
- 状態-特性不安質問票(STAI)
- 自尊感情の評価
- ローゼンバーグ自尊感情尺度(RSES)
自尊感情のレベルを測定します。
- ローゼンバーグ自尊感情尺度(RSES)
- 人間関係の評価
- 人間関係診断テスト(RI)
対人関係に関する問題やストレスを評価します。
- 人間関係診断テスト(RI)
- 自己効力感の評価
- 一般的自己効力感尺度(GSES)
自己効力感のレベルを測定します。
- 一般的自己効力感尺度(GSES)
- PTSDやトラウマの評価
- 自己評価・セルフチェックリスト
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- 認知バイアスセルフチェックリスト
自己の心理的認知バイアス・歪みがわかります。110のバイアス質問による自己評価チェックリストです。 - 不適応的スキーマセルフチェックリスト
不適応的スキーマは生きづらさを起こす無意識の信念・価値観・ルールです。出来事や状況を不適応的な思い込みや偏りで捉える思考に影響を与えます。 - 愛着障害/アタッチメント障害の自己評価3種チェックリスト
愛着グレーゾーンの自己評価・愛着スタイル4分類評価・抑制型反応性愛着障害と脱抑制型対人交流障害の自己評価のためのセルフチェックリストです。 - 毒親傾向セルフチェックリスト
毒親傾向やナルシシズムの強烈な毒親チェックリストです。 - 自己肯定感セルフチェックリスト
一般的な自己肯定感の要素を評価するための簡単なチェックリストです。 - 孤独感セルフチェックリスト
孤独や寂しさを感じているかの18問の簡易セルフチェックリストです。 - 適応障害のセルフチェックリスト
適応障害の自己評価ですが、ストレスや生活の変化に対する自分の反応を評価するのに役立ちます。
- 認知バイアスセルフチェックリスト
- セラピストの見立ての理解や方法
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- 包括的な情報収集
- 初回面接: クライエントの背景情報、主訴、生活史、家族歴などを詳細に聴取します。
- 継続的な評価: セッションごとにクライエントの状態や反応を観察し、記録します。
- 臨床的判断と観察
- 行動観察: クライエントの言動や非言語的なサイン(表情、姿勢、アイコンタクトなど)を注意深く観察します。
- 感情の反応: クライエントの感情表出や変化に注意を払い、その背景を理解しようとします。
- 統合的アプローチ
- 心理検査結果の統合: 複数の心理検査や質問票の結果を総合的に解釈し、クライエントの全体像を把握します。
- 他の専門家との連携: 必要に応じて精神科医や他の専門家と連携し、総合的な見立てを行います。
- 包括的な情報収集
- 注意点
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- 文化的感受性
- クライエントの文化的背景や生活環境、価値観を尊重し、その視点を考慮して評価を行います。
- インフォームド・コンセント
- 心理検査や評価の目的、方法、予想される結果についてクライエントに十分に説明し、同意を得ます。
- トリガーの配慮
- クライエントが過去のトラウマを再体験する可能性のある質問や評価方法には慎重に対応し、必要に応じて調整します。
- 評価の柔軟性
- クライエントの状態やニーズに応じて、評価方法やアプローチを柔軟に変更します。
- 自己ケア
- セラピスト自身もバーンアウトを防ぐために自己ケアを怠らず、スーパービジョンや同僚との話し合いを通じて適切なサポートを受けます。
- 文化的感受性
ラポール・アセスメント後に行うトラウマセラピーの技法は2ページ目をご覧ください。