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ミュンヒハウゼン症候群と代理ミュンヒハウゼン症候群

目次

自らの健康状態を故意に病気や怪我を作り出す「ミュンヒハウゼン症候群」と子どもや被介護者に病気や怪我の捏造、または引き起こす「代理ミュンヒハウゼン症候群」とセルフチェックリスト

ミュンヒハウゼン症候群(Munchausen Syndrome:MS )は、自らの健康状態を虚偽的に装い、あるいは故意に病気や怪我を作り出して医療機関に過度に依存する心理的な障害です。この症候群は、「虚偽性障害(Factitious Disorder)」の一形態とされ、患者は自分が病人として扱われることを強く求めます。この症状の核心は、「病人としての注目や他人からのいたわりなどの役割を得ることへの強い欲求」です。患者は自分自身や他者の心に深刻な害を与える可能性があるため、注意深い診断と治療が必要です。

「虚偽性障害(Factitious Disorder)」

虚偽性障害(Factitious Disorder)とは

虚偽性障害(Factitious Disorder)は、精神医学的な診断カテゴリーであり、患者が意図的に病気やけがを作り出したり、偽装したりする行動を特徴とします。この行動の目的は、外部的な利益(例:金銭的補償、法的免責)を得ることではなく、主に医療従事者や他者からの注意や同情を引くためである点が特徴的です。

主な特徴

  1. 症状の偽装または捏造
    患者は、病気や障害の症状を偽装する、誇張する、または実際に身体を傷つけることで症状を作り出します。例として、血液を捏造するために指を切る、薬物を摂取して意図的に体調を崩すなどがあります。
  2. 外部報酬の欠如
    虚偽性障害では、詐病(Malingering)と異なり、金銭、保険金、法的免責などの外部的な利益を目的としていません。主な動機は注意を引くことや「患者として扱われたい」という心理的欲求に基づいています。
  3. 病院や医療施設の頻繁な訪問
    虚偽性障害の患者は、多くの場合、複数の病院を訪れ、症状を訴えて検査や治療を受けようとします。これを「ドクターショッピング」と呼ぶこともあります。
  4. 行動の持続性
    虚偽性障害は長期的かつ反復的なパターンを示すことがあり、患者は治療や医療介入を通じて一貫して「病気の役割」を維持しようとします。

また、代理ミュンヒハウゼン症候群((Munchausen Syndrome by Proxy:MSBP)は、主に子どもや被介護者に対する虐待行為の特殊型の精神疾患です。この障害では、加害者(通常は母親などの近親者)が被害者(子どもや高齢者、障害者など)に病気や怪我を「捏造」または「引き起こし」、かいがいしく面倒をみることや熱心に看護する振りをして医療関係者や周囲の人からの注意や注目されることで同情を得ようとします。患者は自らに同情や称賛が集まることで心の安定をはかることができています。代理ミュンヒハウゼン症候群は、被害者の症状の捏造や誘発が行われることが特徴的であり、早期の発見が極めて重要です。診断には医学的根拠を基にした詳細な観察と多職種連携が必要で、適切な介入による被害者の保護が最優先されます。

ミュンヒハウゼン症候群および代理ミュンヒハウゼン症候群の行動は、他者からの関心や承認を得たいという深い欲求と、自己評価の低さに根ざしています。過去のトラウマや心理的苦痛が原因となることが多く、行動におよぶ理由は病的な方法で心理的ニーズを満たそうとする結果です。これらの症候群の治療は困難を伴いますが、早期発見と専門的な精神医療による介入が重要です。

ミュンヒハウゼン症候群と代理型の精神状態と理由
  1. 幼少期のトラウマ
    幼少期に虐待やネグレクトを受けた経験が影響し、他者の注意を引きたい、または自己価値を高めたいという欲求が形成される。
  2. 人格障害の併存
    境界性人格障害や反社会性人格障害などが背景に存在することが多くある。
  3. 自己認識の歪み
    病気の役割を通じて、自分が価値ある存在だと感じようとする。
  4. コントロール欲求
    他者を病気にすることで状況を支配し、医療従事者や家族を操ろうとする動機。

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ミュンヒハウゼン症候群

ミュンヒハウゼン症候群の具体的ケース

症例:30代女性Aさんの場合

Aさんは幼少期から家庭内での愛情不足に苦しみ、母親の注意を引こうと頻繁に仮病を使っていました。成人後もこの行動は続き、職場ではときおり体調不良を訴え、周囲の同情を集めていました。医療機関を受診する際には、複雑で珍しい病気の症状を詳細に説明し、多数の検査を受けるものの、医学的根拠が見つからないことが多かったといいます。

ある日、Aさんは緊急外来を訪れ、「激しい腹痛と吐き気が止まらない」と訴えました。医師はすぐに精密検査を実施しましたが、異常は見つかりませんでした。それでもAさんは症状の重篤さを強調し、入院を要求しました。さらに「過去に手術を受けた箇所が再発している可能性がある」と語り、医療スタッフに詳細な病歴を述べましたが、その記録は確認できませんでした。

入院後、Aさんは自身の症状について周囲の患者や医療スタッフに熱心に話し、「私は珍しい病気に苦しんでいる」と繰り返しました。その結果、一部の医療スタッフは同情的になりましたが、他のスタッフは症状に矛盾があることに気付き、精神科のコンサルテーションを依頼しました。

精神科医との面談で、Aさんの行動の背景には幼少期からの愛情不足や孤独感があることが明らかになり、注意を引きたいという強い欲求が、病気を装う行動に結びついていることがわかりました。Aさんは当初治療を拒否しましたが、信頼関係の構築を経て、認知行動療法を開始し、症状の認識と対処法の学習に取り組みました。

症例の特徴・原因・診断・治療

ミュンヒハウゼン症候群は、自らの健康状態を虚偽的に装い、あるいは故意に病気や怪我を作り出して医療機関に過度に依存する心理的な障害です。

主な特徴

  1. 意図的な症状の捏造または誘発
    • 実際には存在しない身体的または心理的な症状を装う。
    • 症状を作り出すために、自傷行為や薬物の不適切な使用などを行う場合もある。
  2. 医療機関への頻繁な訪問
    • 医師や病院を頻繁に訪れ、多くの検査や治療を求める。
    • 過剰な検査や手術を受けるケースもあり、医療費や身体的リスクが増加する。
  3. 注意や同情を求める心理的動機
    • 病人としての立場を得ることで、他者からの注意や配慮を受けることを目的とする。
    • これは、経済的利益や法的利益を得るための詐病(Malingering)とは異なる。
  4. 詳細な医学知識を有する場合が多い
    • 自分の症状を信じさせるために医学書やインターネットで知識を得ていることが多い。
  5. 診断や治療の妨害
    • 病気であると信じさせるために、検査結果を意図的に操作したり、治療を妨害したりする。

原因

ミュンヒハウゼン症候群の原因は完全には解明されていませんが、次のような心理的・環境的要因が関連していると考えられています。

  1. 幼少期のトラウマ
    • 児童虐待やネグレクト(放置)などの経験。
  2. 自己評価の低さ
    • 他者の関心や同情を受けることで自己価値を感じようとする傾向。
  3. 未解決の心理的葛藤
    • 愛情や承認を求める欲求が抑圧されている場合。
  4. 過去の医療体験
    • 幼少期や成人期における長期の病気や入院経験が関与する可能性。

診断と治療

診断基準
ミュンヒハウゼン症候群の診断は難しい場合が多いのですが、診断には以下が必要とされます。

  • 病気の証拠がない、または矛盾がある。
  • 症状が意図的である証拠がある。
  • 患者が症状を装う動機を有している。

治療
治療には多くの困難が伴います。患者は自らの行動を認めない場合が多く、治療を拒むこともあります。主なアプローチは以下の通りです。

  1. 心理療法
    • 認知行動療法(CBT)や精神分析療法が効果的とされる場合がある。
  2. 支持的な関わり
    • 患者に非批判的な態度で接し、安心感を提供することが重要。
  3. 医療チームとの連携
    • 医師やカウンセラーが協力して患者の行動をモニタリングする。
  4. 家族への教育
    • 家族が適切な対応を取れるよう支援を提供する。

予後

ミュンヒハウゼン症候群の治療は長期的なものであり、再発の可能性が高くなります。しかし、患者が症状を自覚し、心理的支援を受けることで改善するケースもあります。

ミュンヒハウゼン症候群の症状

ミュンヒハウゼン症候群は、身体的および心理的な症状を故意に作り出したり装ったりする精神的障害です。この症状の核心は、「病人としての注目や役割を得ることへの強い欲求」です。患者は自分自身や他者の身体や心に深刻な害を与える可能性があるため、注意深い診断と治療が必要です。具体的には次の症状のステップとなります。

STEP
身体的な症状の捏造または誘発

患者は、自分の身体に病気があるように見せるために、次のような行動を取ります。

  • 意図的な自傷行為
    • 傷を作る、皮膚を切る、体を打つなど。
  • 薬物や物質の誤用
    • 下剤、吐き気を引き起こす薬、インスリンなどを乱用して症状を引き起こす。
  • 感染症の自己誘発
    • 傷口に汚れた物を当てる、感染症を誘発する行為を行う。
  • 手術や検査を必要とさせる症状を訴える
    • 例えば、激しい腹痛や胸痛を訴えることで手術を受けようとする。
STEP
精神的な症状の捏造
  • 精神疾患の装い
    • うつ症状、不安症、記憶喪失、幻覚などの精神的症状を装う。
  • 心理的混乱を主張
    • 人前で突然錯乱したり、パニック発作のような行動を取ることがある。
  • 過去のトラウマの捏造
    • 実際には存在しない過去の虐待や重大な出来事を述べることがある。
STEP
医療機関への依存的な行動
  • 頻繁な病院訪問
    • 短期間で複数の病院を訪問し、検査や治療を求める。
  • 複数の医師を利用
    • 異なる医療機関や医師に同じ症状を繰り返し訴える(いわゆる「ドクターショッピング」)。
  • 医療機関への執着
    • 病院に通うことや医師と接することに強い執着を見せる。
STEP
症状の矛盾や説明不可能なパターン
  • 検査結果と一致しない症状
    • 訴えた症状と医療検査の結果が一致しない場合が多い。
  • 突然の症状の悪化や変化
    • 病状が説明できない形で突然悪化したり、逆に回復したりする。
  • 治療への抵抗や逆効果の訴え
    • 標準的な治療が効果を示さない、または副作用を過剰に訴える。
STEP
他者からの注目や同情の追求
  • 病気に対する注目を得たい
    • 他者からの同情、配慮、支援を強く求める。
  • 病人としての役割を求める
    • 自分が「特別な患者」であることをアピールする。
  • 感情的な操作
    • 周囲の人々を感情的に巻き込み、支援を引き出そうとする。
STEP
医療知識の過剰な所有
  • 高度な医学用語を使用
    • 医療従事者並みの医学知識を持っていることがある。
  • 検査や治療の詳細な情報を要求
    • 診断プロセスや治療法について詳細に質問する。
STEP
治療や診断を妨害する行動
  • 検査結果を操作
    • 血液や尿のサンプルを偽造する、検査前に薬物を摂取する。
  • 治療の効果を台無しにする
    • わざと治療に従わず、病状を悪化させる。

代理ミュンヒハウゼン症候群の症状(特別なケース)

  • 他者に症状を作り出す
    • 子どもや高齢者、動物などに虚偽の病状を装わせる。
  • 他者を医療機関に連れて行く
    • 病気の代理人を連れて頻繁に病院を訪問する。
  • 代理者の状態に執着
    • 代理者の病状について医師に詳細な情報を提供し、治療を強く求める。


ミュンヒハウゼン症候群の診断と分類

ミュンヒハウゼン症候群は診断が非常に難しい障害の一つです。患者は意図的に嘘をつき、症状を偽造するため、医師や精神科医が慎重な観察と評価を行う必要があります。

そのため、ミュンヒハウゼン症候群の診断は、詳細な観察と慎重な判断を要します。この症候群には複数の形態があり、それぞれの特徴に応じた対応が必要です。診断後は、医療チームが患者の心理的および身体的安全を確保しながら、長期的な治療計画を立てることが重要です。ここでは、診断の流れと分類について詳しく説明します。

STEP
ミュンヒハウゼン症候群の診断基準

ミュンヒハウゼン症候群は「虚偽性障害(Factitious Disorder)」の一形態として、DSM-5
(精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)で以下の基準が設定されています。

DSM-5の診断基準

  1. 偽造された身体的または心理的症状
    • 症状の捏造、もしくは病気や怪我を意図的に引き起こす行為がある。
  2. 症状の動機が外的利益ではない
    • 経済的、法的、または職業上の利益を得るためではなく、他者の関心や同情を求める内的動機がある。
  3. 他の精神疾患では説明できない
    • この行動は他の疾患(例えば妄想性障害や重度のうつ病など)によるものではない。
STEP
診断の流れとポイント

医師が行うアプローチ

  • 詳細な病歴の聴取
    • 過去の病歴や治療歴を確認し、不自然なパターン(例:頻繁な医療機関の変更や複数回の検査で異常が見つからない)を探る。
  • 検査結果と症状の一致を確認
    • 訴えられた症状が客観的な検査結果と一致しているかを評価する。
  • 観察と記録
    • 患者の行動や言動を長期的に観察し、症状が自己誘発的である証拠を収集。

重要な特徴

  1. 矛盾する情報
    • 言動や症状に矛盾が見られる。
  2. 異常な医学知識
    • 患者が高度な医学用語や治療方法について詳しい。
  3. 医療機関への過度な依存
    • 頻繁な入院や診察を要求し続ける。
  4. 症状の操作
    • 自傷行為や検査結果を意図的に操作している証拠が見られる。
STEP
ミュンヒハウゼン症候群の分類

ミュンヒハウゼン症候群の主な形態

  1. 身体症状型
    • 身体的な病気や怪我を装う。
    • 例:腹痛、発熱、呼吸困難などの捏造。
  2. 精神症状型
    • 精神的な障害や症状を装う。
    • 例:幻覚、妄想、不安発作、記憶喪失などを訴える。
  3. 混合型
    • 身体的および精神的な症状を同時に装う。

代理ミュンヒハウゼン症候群(Munchausen Syndrome by Proxy)

  • 代理人への症状の捏造
    • 子ども、配偶者、高齢の家族、またはペットに病状を装わせる。
  • 特徴
    • 代理人を医療機関に連れて行き、病気に見せることで注目を得ようとする。
STEP
他の障害との鑑別診断

次の疾患とミュンヒハウゼン症候群を区別する必要があります。

  1. 詐病(Malingering)
    • 病気を装う目的が外的利益(例:金銭、刑罰回避)である。
    • ミュンヒハウゼン症候群は内的動機が中心。
  2. 心身症(Psychosomatic Disorder)
    • ストレスや心理的要因が原因で身体症状が現れるが、意図的ではない。
  3. 自己傷害性障害(Self-Injury Disorder)
    • 自傷行為が主な特徴であるが、病気を装う目的はない。
STEP
診断の課題と注意点
  • 患者の隠蔽行動
    • 患者は自分の行動を隠そうとするため、診断が遅れる場合が多い。
  • 医療従事者の訓練不足
    • 医師や看護師がこの症候群について詳しくない場合、見逃されることがある。
  • 倫理的配慮
    • 患者が嘘をついていると指摘することが、患者との信頼関係を損なうリスクがある。
STEP
診断後の対応
  • 医療チームの連携
    • 精神科医、心理療法士、ソーシャルワーカーが連携し、患者を包括的にサポートする。
  • 心理療法の開始
    • 認知行動療法(CBT)や対人関係療法が効果的な場合がある。
  • 患者の安全確保
    • 自傷行為や過剰な医療行為を防ぐため、患者の行動をモニタリングする必要がある。

ミュンヒハウゼン症候群の疫学と予後

ミュンヒハウゼン症候群の疫学

ミュンヒハウゼン症候群(MS)は、自己を故意に病気や怪我に見せかけ、医療従事者に治療を求める心理的障害です。

  1. 発症率と有病率
    正確な発症率は不明ですが、ミュンヒハウゼン症候群は非常に稀な疾患とされています。一般的に、医療機関での診断が難しく、また患者が意図的に病気を隠すため、診断が遅れることが多くなります。
    • 成人に多く見られますが、子どもへの代理ミュンヒハウゼン症候群(Munchausen Syndrome by Proxy, MSBP)は特に注目されており、ときより虐待事件として発覚します。
  2. 性別と年齢分布
    • 性別に関しては、女性が男性よりも多い傾向があります。女性患者は、医療従事者の注意を引くために病気の症状を演じるケースが多く見られます。
    • 年齢層としては、20代から50代に多く見られます。子どもを対象にした代理ミュンヒハウゼン症候群の報告もありますが、成人期に発症することが一般的です。
  3. 関連する精神疾患
    ミュンヒハウゼン症候群の患者は、他の精神的な疾患(うつ病、人格障害、依存症、トラウマ体験など)と併発することがあります。また、幼少期の家庭環境や虐待経験が症候群の発症に影響を受けているていることがあります。
  4. 社会的・文化的要因
    MSは、社会的に注目を集めることで精神的な報酬を得ようとする動機から発生することが多いため、社会的期待やメディアに対する過剰な反応が影響を与えることがあります。

ミュンヒハウゼン症候群の予後

ミュンヒハウゼン症候群の予後は患者の治療と支援に依存することになります。適切な治療と介入がなければ、症状が悪化したり、健康状態がさらに悪化することもあります。
ミュンヒハウゼン症候群は珍しい障害ですが、深刻な心理的および社会的問題を引き起こす可能性があり、治療には時間と努力が必要ですが、患者が自己認識を高め、サポートを受け入れることで予後が改善することがあります。

  1. 治療における挑戦
    MSの患者は自己欺瞞的な特性を持ち、症状を故意に作り出すため、治療への協力が得られないことが多くなります。このため、診断と治療が遅れることがあり、患者が病院や医師との関係を繰り返し破壊するため、治療の継続が難しいこともあります。
  2. 精神的・心理的治療
    治療の中心は、患者が自分の行動の問題を認識し、他者に対する不適切な依存行動や病気の作成を改善することです。認知行動療法(CBT)や精神療法が有効であるとされていますが、根本的な原因となる精神疾患(例えば、過去のトラウマや人格障害)に焦点を当てた治療も重要です。
  3. 家族支援と社会的支援
    患者の治療には、家族や友人などのサポートも必要です。家族支援が適切に行われると、患者の回復の可能性が高くなります。
  4. 代理ミュンヒハウゼン症候群(MSBP)の予後
    代理ミュンヒハウゼン症候群では、加害者である親の治療が進まない限り、被害を受けた子どもが再び危険にさらされる可能性があります。親が治療を拒否し続ける場合、子どもは一時的に保護され、長期的には親の治療が進まない限り、再度虐待が繰り返される危険性があります。
  5. 自殺リスク
    ミュンヒハウゼン症候群を患っている人の一部は、自己価値感が低く、他者の注意を引くために病気を演じるため、深刻な心理的苦痛を抱えていることが多くなります。そのため、うつ病や自殺のリスクが高いことがありますので、自殺の予防の適切な心理的支援と治療が必要です。

ミュンヒハウゼン症候群の治療

ミュンヒハウゼン症候群の治療は非常に難しく、患者自身が病気を捏造していることを認識していない場合が多いため、専門的かつ慎重なアプローチが必要です。また、治療には医療チーム全体の協力が不可欠です。

治療の目標
  1. 患者の身体的・心理的安全の確保
    • 自傷行為や過剰な医療処置を防ぐ。
  2. 患者の自己認識を促進
    • 症状の捏造や行動の背景にある心理的要因を理解してもらう。
  3. 患者の生活の質の向上
    • 健全な対人関係を築き、病気を装う以外の方法で他者とのつながりを持てるよう支援する。
  4. 医療リソースの適切な利用を促す
    • 不必要な診察や治療を減らす。
治療の具体的な方法

心理療法

心理療法は治療の中心的役割を果たします。

  1. 認知行動療法(CBT)
    • 患者の行動とそれに関連する思考のパターンを修正する。
    • 主な目的:
      • 病気を装う行動の背後にある信念や感情を理解する。
      • 健全なストレス対処法を学ぶ。
    • 例:注意を引くための行動を、より健康的な方法で代替する練習。
  2. 対人関係療法(IPT)
    • 対人関係の問題に焦点を当てる。
    • 患者が他者との関係でどのように注目を求めているのかを探る。
    • 健全な関係を築く方法を模索する。
  3. 精神分析療法
    • 幼少期のトラウマや未解決の感情が現在の行動にどのように影響しているかを分析する。
    • 自己理解を深める長期的なアプローチ。
  4. 集団療法
    • 他者との交流を通じて、患者が自身の行動パターンを学ぶ機会を提供。
    • 注意:他者に影響を与える可能性があるため、慎重な監視が必要。

家族療法

  • 家族が患者の行動や症状にどう反応しているかを分析。
  • 家族が患者を過度に支援しないよう教育する。
  • 家族が適切なサポートを提供できるよう指導する。

薬物療法

薬物療法は直接的な治療ではありませんが、併存する精神疾患の症状を緩和するために使用されることがあります。

  1. 抗うつ薬
    • 併存する抑うつ症状や不安障害に対処するために処方される。
  2. 抗精神病薬
    • 重度の妄想や解離症状がある場合に使用されることがある。
  3. 抗不安薬
    • 慢性的な不安を軽減するために使用される。

医療従事者の関与

患者との信頼関係を築くため、医療従事者は一貫したアプローチを採用する必要があります。

  1. 非対立的な姿勢
    • 症状の捏造を直接指摘するのではなく、患者が感じている苦痛を受け入れる。
    • 例:「あなたがどれほど辛い状況にいるかを理解したいと思っています」という姿勢を示す。
  2. 治療チームの協力
    • 精神科医、心理療法士、看護師、ソーシャルワーカーが連携し、包括的なサポートを提供する。
  3. 境界設定
    • 患者の不適切な医療行動を制限しつつ、治療の範囲内で支援を行う。
    • 例:不必要な検査や処置を避ける。
治療における課題

患者の治療拒否

  • 患者は自分が治療を必要としていると認めたがらない。
  • アプローチ:
    • 非対立的なコミュニケーションを重視する。
    • 小さな目標を設定し、患者が進歩を実感できるようにする。

信頼関係の構築

  • 医療従事者に対する不信感を抱いている場合がある。
  • アプローチ:
    • 一貫性を持って接し、患者の感情を否定しない。

再発リスク

  • ミュンヒハウゼン症候群は慢性化することが多い。
  • アプローチ:
    • 長期的なフォローアップと再発防止のための計画が必要。
代理ミュンヒハウゼン症候群の場合の特別な対応

児童虐待のリスク

代理ミュンヒハウゼン症候群(Munchausen Syndrome by Proxy)の多くは児童虐待と関連していますので、次の対応が求められます。

  1. 即時の保護
    • 子どもや被害者を安全な環境に移す。
  2. 法的措置
    • 児童保護サービスや警察と連携。
  3. 加害者への治療
    • 症状の背景にある心理的要因を治療する。
治療の展望
  • 完全な治癒は難しいが改善は可能
    • ミュンヒハウゼン症候群の完全な治癒は稀ですが、患者が自己認識を高め、健康的な対処法を学ぶことで行動を改善することが可能です。
  • 社会的支援の重要性
    • 健全な社会的つながりを構築することが患者の回復につながります。

ミュンヒハウゼン症候群のチェックリスト

ミュンヒハウゼン症候群(Munchausen Syndrome: MS)の自己評価・セルフチェックリスト

次のセルフチェックリストは、ミュンヒハウゼン症候群に関連する可能性のある特徴や行動パターンを評価するためのものです。各質問について、該当する場合は「はい」、該当しない場合は「いいえ」と回答してください。

ミュンヒハウゼン症候群の自己評価・セルフチェックリスト
1.病気やけががないのに、体調が悪いと周囲に伝えたことがある。
2.症状を誇張して医療機関に相談した経験がある。
3.他人の注意や同情を引くために体調不良を装ったことがある。
4.医師に対して、実際とは異なる病歴を伝えたことがある。
5.自ら薬物を摂取するなどして、意図的に症状を作り出したことがある。
6.自傷行為を行い、意図的に医療機関の診察を受けたことがある。
7.医師や看護師の関心を得ることに満足感を感じることがある。
8.他人に「病気である自分」を強く認識させたいという思いがある。
9.医療機関での診察や検査に安心感や満足感を覚えることがある。
10.医療従事者から否定されたり疑われると不安や怒りを感じることがある。
11.症状が改善しないことを周囲にアピールすることがある。
12.同じ病状で複数の病院や診療所を訪れたことがある。
13.過去に受けた医療処置を誇張して話したことがある。
14.他者が病気や体調不良で注意を受けていると、嫉妬を感じることがある。
15.病気であることを証明するために、検査や治療を強く要求したことがある。
16.医療機関での治療が満足できず、新しい病院を探した経験がある。
17.病気の症状について詳しく調べ、それを自分に当てはめて考えることがある。
18.体調が悪いことを理由に、職場や家庭での責任を回避しようとしたことがある。
19.医療従事者に過剰に感謝し、良好な関係を築こうと努めたことがある。
20.周囲に「献身的な患者」と見られることに満足感を覚えたことがある。
21.周囲の人に自分の健康問題について頻繁に相談することがある。
22.自分の体調不良について、話を大きくして伝えた経験がある。
23.症状が改善する兆しが見えても、それを認めたくないと感じることがある。
24.医療従事者からの注目が減ると、不安や虚しさを感じることがある。
25.周囲に心配してもらうために、症状を訴えたことがある。
26.他人に「病気の自分」に関心を持ってもらうことで、心が満たされることがある。
27.意図的に病気やけがを装い、仕事や責任を避けた経験がある。
28.健康でいることに喜びを感じるよりも、「病気の自分」に価値を感じることがある。
29.病気や症状が医師に否定されると、強い不快感を抱くことがある。
30.医師の診断に納得がいかず、さらに他の医療機関を訪れたことがある。
31.医療の専門用語や病気の知識について詳しく調べた経験がある。
32.健康状態を心配してもらうために、自分から症状について積極的に話すことがある。
33.病気の役割(患者としての自分)に強いアイデンティティを感じることがある。
34.医療従事者からの注目がなくなると、空虚感を覚えることがある。
35.症状が他人に信じられないと感じると、ストレスを感じることがある。
36.症状や体調不良について、話を盛ることで安心感を得たことがある。
37.病院で治療を受けることが、一種の満足感を与えてくれると感じることがある。
38.症状が明確な理由なく悪化しているように感じることが多い。
39.病院での治療後に症状が続くことを医師に伝えた経験がある。
40.症状が他人に信じてもらえないとき、自分に価値がないと感じることがある。
ミュンヒハウゼン症候群の自己評価・セルフチェックリスト

評価

  • 各「はい」に対して1点を与えます。
  • 合計点を計算してください。
合計点評価
0-10点この範囲では、ミュンヒハウゼン症候群の兆候はあまり見られません。日常生活において病気の偽装や誇張による役割を過度に重視していません。
11-20点症状の誇張など病気に対する意識が強い傾向が見られる場合がありますが、特定の状況やストレスに関連している可能性があります。さらなる観察が必要です。
21-30点病気の捏造や偽装、誇張による役割に対する強い関心が見られる可能性があります。医療機関の利用頻度や周囲の注意に対する依存があるかもしれません。専門家への相談を検討してください。
31-40点ミュンヒハウゼン症候群の可能性が高い行動パターンが見られます。医療機関や心理専門家に相談することを強くお勧めします。

代理ミュンヒハウゼン症候群(MSBP)については2⃣ページ目で解説しています。

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