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疾患回避型不安障害(病気不安症)物語-医学的知識編

目次

疾患回避型不安障害(旧:病気不安症)「IAD」の架空のケースから症状の理解と知識を学ぶ精神医学物語-6弾

疾患回避型不安障害の症例物語

仮名、村上美穂は毎年健康診断を受けていた。彼女は自分の健康には非常に注意しており、健康的な食事と運動を欠かさず行っていた。しかし、ある年の健康診断の結果には異常が見つかり、心臓の数値が高くなっていた。これを受け、彼女は不安に陥った。彼女は医師に相談し、心臓に関する検査を受けることになった。その検査の結果、特に異常は見つからず、医師は彼女に「大丈夫ですよ! 緊張したり、運動不足だったりすると、心臓の数値が高くなることもありますから」と説明した。

しかし、彼女は繰り返し検査を受け、さらには自分自身でネットで調べるようになった。彼女は恐怖心にとらわれ、毎日自分自身を診断し、異常を見つけるたびに、再び病院へ通うようになった。彼女はまた、自分が病気であることを認めようとせず、自分が検査や治療を受けないと死んでしまうと思い込んでしまった。

その後も、彼女は体調不良を感じると必ず病院に行くようになり、仕事やプライベートの時間を削ることも多くなった。友人たちからも心配され、家族からも「病気じゃないんだから」と言われてはいたが、彼女は自分の不安をコントロールできなかった。

そんなある日、彼女は新しい心療内科の医師に出会った。その医師は、病気不安症という病気があることを教えてくれた。彼女は、自分が病気ではなく病気に対する恐怖を持っているだけだと知り、少し安心した。
新しい医師からは、認知行動療法と薬物療法の併用が勧められた。彼女は、自分が病気にかかってしまうことを恐れていたが、新しい医師からは、「自分に何か異常があるのではなく、誰にでも健康でいたいという気持ちがある」と教えられた。彼女は、自分自身を変えようと思い治療を開始した。

最初は、認知行動療法に抵抗があったが、徐々に自分の考え方が変わっていくのを感じた。過去には「健康診断で異常があると、すぐに病気だと思ってしまう」という思い込みがあったが、今では「異常値が出ても、健康的な生活を続けることで改善できる可能性がある」と考えるようになった。また、過剰な検査を受けることや病気について調べることも減らし、健康的な生活習慣を取り入れることに力を入れるようになった。

治療を受けてからしばらくして、彼女は病気不安症から疾患回避型不安障害に診断が変更された。医師の説明だと、この名称が採用されたのは、病態が病気や健康に対する異常な不安だけでなく、病気や健康に対する回避行動も特徴としていることを表現されているそうだ。彼女は納得できると思った。また、この名称は、従来の病気不安症よりもより中立的で、患者の健康への不安をより的確に表現しているようだ。
今では、彼女は以前よりも自分の健康に対する不安が軽減され、より健康的な生活を送っている。

疾患回避型不安障害の解説

疾患回避型不安障害は、過剰な健康上の不安を抱え、自分に何らかの病気や疾患があるのではないかと慢性的に心配する傾向がある疾患です。

病気や健康に対する異常な不安に加えて、疾患回避型不安障害の「回避」の特徴的な症状として、病気や健康に対する回避行動があります。つまり、病気や健康に関連する情報を避けたり、健康に関するテレビ番組やニュースを見ないようにしたり、病院や医師の診察を受けることを避けたりするなど、病気や健康に関する行動を制限する傾向があります。

例えば、喉の痛みを感じた場合、疾患回避型不安障害の人は、喉の痛みが喉頭癌などの深刻な疾患であると考え、過剰な不安を感じることがあります。そのため、医療機関での診察や検査を受けることを避けたり、病気に関する情報を避けたりすることがあります。

疾患回避型不安障害の人は、健康に関する情報や病気に関する情報を過度に注意し、不安を抱えることで日常生活に支障をきたしています。

疾患回避型不安障害(IAD)の概要

IADとは、病気にかかることや病気を発症しているかもしれないという過度な不安・恐怖が主な症状となる精神障害です。別名、病気不安障害、健康不安障害、ヒポコンドリアとも呼ばれます。

この疾患の特徴は、体のあらゆる症状を自己診断して「自分は病気だ」と不安になってしまうことです。例えば、頭痛や胸痛、腹痛、めまい、息切れなどの症状が現れると、自分は脳腫瘍や心臓病、がんなど重大な病気にかかっているのではないかと不安になります。また、自分が病気であることを疑いつつも、病院で検査しても異常が見つからない場合でも、「何か見落とされている」という不安を抱えることがあります。
また、病気や健康に関連する情報を避けたり、健康に関するテレビ番組やニュースを見ないようにしたり、病院や医師の診察を受けることを避けたりするなど、病気や健康に関する行動を制限する傾向があります。

このような不安は、病気を引き起こすリスクを減らすための正常な注意と違い、病気がないにもかかわらず、日常生活や社会生活に支障をきたすほど強いものになることがあります。逆に病気であるにもかかわらず医療機関での診察や検査を受けることを避けたり、病気に関する情報を避けたりすることがあります。

IADの主な臨床症状は、以下のようなものが挙げられます。

  • 頻繁な身体検査や医療機関への受診の欲求
  • 軽度な症状に対する過剰な不安や恐怖
  • 異常なまでに健康に対するこだわり
  • 自己診断や自己治療の傾向
  • 病気に対する過剰な情報収集
  • 仕事や社会生活への影響
  • 避けるべき場所や物の拡大
  • 病気や健康に対する回避行動
  • 病気や健康に関連する情報を避ける
  • 医療機関での診察や検査を受けることを避ける
  • 不眠や食欲不振、身体的な症状の増悪などの身体的な問題
  • 不安やパニック発作などの精神的な問題

これらの症状が、日常生活や社会生活に支障をきたすほど強い場合、IADの可能性が考えられます。しかし、これらの症状があるからといって、必ずしもIADであるとは限りません。過剰な不安や恐怖を感じる場合は、精神科医や心療内科医の受診を検討することが望ましいです。

ICD-11の診断基準

ICD-11の診断基準
  1. 病気や病気に関する身体的な異常に対して、持続的な強い不安や恐怖を感じ、以下のような症状が6ヶ月以上続いている。
    • 病気や健康に対する異常な不安により、日常生活に支障が出ている。
    • 疾患の存在を過剰に懸念し、またはその可能性が極めて低い場合でも、疾患に関連する身体的な症状を強く注目する。
  2. 病気や健康に関する情報に過度に注意し、過剰に健康を維持するための行動(例えば、病気や健康に関する情報を避けたり、医療機関での診察や検査を避けたりするなど)を行っている。
  3. 病気や病気に関連する不安や恐怖によって、日常生活や社会的・職業的機能に支障がある。
  4. 他の心理疾患や医学的な疾患による理由ではなく、診断のための偽病的行動ではない。

上記の基準に合致する場合、疾患回避型不安障害と診断されます。ただし、診断にあたっては、他の病気や疾患によって引き起こされる健康不安と区別する必要があります。また、健康に関する情報を収集すること自体は健康的であり、疾患回避型不安障害の診断には、病気や健康に関する情報を過剰に避ける行動があるかどうかも考慮されます。

IADの経過・予後

疾患回避型不安障害の経過は個人差が大きく、一過性のものから慢性的なものまであります。一部の患者は数ヶ月で自然に改善する場合もありますが、症状が持続する場合もあります。
また、挿話的、再発性、慢性的な側面があります。挿話的な場合は、特定の疾患に関する懸念がある期間に限定され、その期間が過ぎると自然に症状が改善することが多いです。再発性の場合は、症状が一度改善した後に再発することがあります。慢性的な場合は、症状が長期にわたって持続することがあります。
寛解については、治療や自然治癒によって症状が改善する場合がありますが、病気不安症は再発する可能性があるため、注意が必要です。

高齢者においては、病気への不安が記憶の低下を招くことがあります。この場合、疾患回避型不安障害そのものが原因となっている可能性もありますが、高齢者には認知機能の低下が伴う場合があるため、それらの要因も考慮する必要があります。

総じて言えることは、疾患回避型不安障害の経過や予後は患者個人によって異なるため、専門医の適切な治療とフォローアップが必要であるということです。

IADの病因・病態

疾患回避型不安障害の病因や病態については、まだ完全に解明されているわけではありませんが、いくつかの研究や仮説が存在しています。

病因としては、遺伝的、神経生物学的、心理社会的な要因が考えられています。遺伝的な要因としては、遺伝子の多型性が関与しているとする研究もあります。また、脳の生理学的な変化や脳内物質のバランスの変化も疾患回避型不安障害の病態に関与しているとされています。

心理社会的な要因としては、ストレスやトラウマ、過剰な健康情報の受容、病気に対する社会的なスティグマなどが関与しているとされています。

疾患回避型不安障害の病態については、過剰な恐怖反応や認知バイアス、反復的な回避行動などが関与しているとされています。具体的には、健康に関する情報や症状に対する過剰な注意、誤った自己診断の傾向、回避行動が生じ、これらが不安症状を強化する悪循環が繰り返されることで、疾患回避型不安障害が慢性化していくとされています。

今後も研究が進み、疾患回避型不安障害の病因や病態の解明が進むことが期待されています。

疾患回避型不安障害の疫学に関する研究はまだ限られていますが、以下のような情報が報告されています。

  • 有病率
    疾患回避型不安障害の有病率は、様々な国や地域で調査が行われていますが、その中でもっとも高い有病率が報告されているのは日本で、一部の調査では、成人の総合有病率が5〜6%に達するとされています。一方で、他の国々ではより低い有病率が報告されています。
  • 発症年齢
    疾患回避型不安障害は、多くの場合、青年期から中年期にかけて発症しますが、小児期や高齢期でも発症することがあります。
  • 性差
    女性の方が男性よりも発症しやすいとされていますが、1:1との報告もあります。
  • 関連疾患
    疾患回避型不安障害は、他の不安障害やうつ病、身体表現性障害、適応障害などとの合併が報告されています。

ただし、疾患回避型不安障害については、疫学調査がまだ不十分なため、これらの数字には限界があります。今後の調査によってより正確な情報が得られることが期待されています。

IADの治療

疾患回避型不安障害の治療法には、認知行動療法や薬物療法があります。

認知行動療法では、現実的な思考や行動を身につけることで、病気への不安を軽減することができます。
具体的には、症状に対する理解や情報収集、症状に対する対処方法の学習、身体的な緊張を解消するリラクゼーション法などが行われます。対人療法では、信頼できる相手や家族、友人などとのコミュニケーションを増やし、支援を受けることで不安を軽減することが目的とされています。
また、回避行動を改善することもあります。まず、患者の不安を引き起こす思考パターンや信念を特定し、それらを払拭するための新しい思考パターンや信念を学習します。その上で、回避行動を徐々に行わないように訓練していきます。 例えば、患者が病気にかかることを恐れている場合、医療機関への受診や健康診断などについて、少しずつでも行動を変えていくように指導されます。

薬物療法では、抗うつ薬や抗不安薬が使用されることがあります。特に、過度の不安がある場合は、抗不安薬が使用されることがあります。また、うつ病との合併が見られる場合には、抗うつ薬が併用されることもあります。

治療法は個人によって異なります。治療計画は、医師や心理療法士との相談に基づいて決定されます。適切な治療法を見つけ、専門家の指導を受けることが重要です。

「疾患回避型不安障害:診断から治療まで」(高野 恵美子、2020年)

「回避の心理学:病気・不安・トラウマ・不調」(村上 純、2018年)

「疾患回避型不安障害:DSM-5からICD-11へ」(山崎 慎、2019年)

「疾患回避型不安障害の治療」(小堀 裕之、2021年)

尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉:標準精神医学第8版/医学書院

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