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アルツハイマー病とレビー小体型認知症の臨床

目次

認知症の原因であるアルツハイマー病とレビー小体型認知症の臨床・診断・療法

認知症は、年齢とともに認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす病気の総称です。主な原因としてアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などがあります。それぞれの認知症には特徴的な症状があり、診断には臨床的観察や画像検査、神経心理学的検査などが用いられます。
治療法には薬物療法やリハビリテーションなどがあり、早期発見・早期治療が重要です。
予防には、認知機能を刺激すること、健康的な生活習慣の維持、ストレスの軽減、高血圧や糖尿病などのリスクファクターの管理が必要です。
このページでは、「アルツハイマー病」と「レビー小体型認知症」の原因の臨床、診断、検査、療法などをみていきます。

アルツハイマー病

アルツハイマー病(AD)は、認知症の一種であり、神経変性疾患の一つです。主に中高年以上の人々に発症し、徐々に進行する病気で、最終的には日常生活に支障をきたすほどの深刻な障害を引き起こします。

ADの主な症状は、認知機能の低下です。初期段階では、軽度の記憶障害や言葉の出しにくさ、物忘れ、迷子になることなどが現れます。進行すると、判断力や認知能力が低下し、物事を理解することが困難になり、日常生活の自己管理が難しくなります。最終的には、自己介助が必要な状態になります。

ADは、脳内の神経細胞の死滅や萎縮が原因で起こります。死滅した神経細胞の主要成分であるアミロイドβ(Aβ)タンパク質が異常に蓄積され、神経細胞の機能を破壊することが原因の一つとされています。また、別のタンパク質であるtauタンパク質の異常も、神経細胞の死滅に関与していると考えられています。

ADの診断には、神経心理学的検査、神経画像検査、脳脊髄液検査などがあります。現在の治療では、ADの進行を遅らせる効果があるとされるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗薬が用いられますが、完治する方法はありません。

※2023年には、アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」承認をしています。今までは対処療法に限られていましたが、「レカネマブ」はアルツハイマー病の原因物質に直接働きかける新薬で進行を穏やかにする効果を証明した保険適用の治療薬としています。
2024年7月には、アメリカの製薬会社が開発したアルツハイマーの初期症状の進行を遅らせる「ドナネマブ」(発売名称「ケサンラ」)が承認になりました。この薬はアルツハイマーの患者の脳に蓄積されるアミロイドβの異常なたんぱく質を取り除くことで、進行を遅らせるというものです。

※2025年4月2日、英国の科学誌『ネイチャー(Nature)』に、スタンフォード大学を中心とする研究チームによる画期的な研究結果が発表されました。この研究では、帯状疱疹ワクチン(Zostavax)の接種が認知症の発症リスクを約20%低下させる可能性が示されました。

アルツハイマー病の原因

アルツハイマー病の病因は、脳内の神経細胞の死滅や神経細胞の間のシナプスの機能低下に関与する病理学的な変化が主な原因とされています。
具体的には、アミロイドβプロテインの異常蓄積とTauタンパク質の異常リン酸化が、神経細胞死やシナプス機能低下につながる神経細胞内のタンパク質凝集体の形成につながります。
これによって、脳内の神経細胞の機能低下、神経細胞死、脳萎縮などの病理学的な変化が起こり、ADが進行していきます。また、遺伝的要因も関与していると考えられており、遺伝子の異常がアミロイドβプロテインやTauタンパク質の凝集を促進することが報告されています。

アルツハイマー病の臨床所見

アルツハイマー病の臨床所見は、初期段階では主に認知症の兆候が現れます。次に、軽度、中度、重度の3つの段階に分かれる臨床経過を見ていきます。

段階
【軽度(初期)】

軽度のADでは、主に記憶障害が現れます。日常生活に支障をきたす程度ではなく、本人自身も認知障害に気付かない場合があります。そのため、家族や周囲の人が異変に気付き、病院を受診することが多くなります。また、記憶障害以外にも、言語障害や判断力の低下、注意力の低下などが見られることがあります。

段階
【中等度(中期)】

中等度のADでは、認知障害がより進行し、日常生活に支障をきたすようになります。家族や周囲に依存することが多くなり、自己中心的な行動や反応が増えることがあります。また、言語障害や行動障害、空間認知障害が現れることもあります。

段階
【重度(後期)】

重度のADでは、認知障害が深刻なものになり、日常生活の自立が不可能になります。脳萎縮が進行し、体重の減少、寝たきり状態、運動機能の低下など、身体的な問題も増えてきます。最終的には、言語障害、失認、失禁などが現れ、最終的には死亡することが多くなります。

以上のように、アルツハイマー病は徐々に進行し、軽度から重度へと段階的に進行していく病気です。

アルツハイマー病の診断基準

ICD-11におけるアルツハイマー病の診断基準は以下の通りです。

  • 主要症状
    • 急激な始まりではない、持続的な認知機能の障害
    • 認知症のために日常生活に支障がある
  • 病理組織学的所見
    • βアミロイドの沈着と神経原線維変化、神経細胞の損傷、または神経細胞死による神経原線維変化の証拠がある
    • 注意欠陥、失語、失行、失認、失用のような異常行動があることがある

これらの症状がある場合、アルツハイマー病の診断が疑われます。ただし、臨床的に確認された病理組織学的所見がある場合に限り、確定的な診断が可能です。

アルツハイマー病の鑑別診断

アルツハイマー病の鑑別診断には、他の種類の認知症や神経変性疾患を含めたいくつかの疾患があります。次にいくつかの例を挙げます。

  • レビー小体型認知症
    認知症とパーキンソン病の症状を合わせ持つ疾患。視覚空間障害、錯覚、幻覚などの精神症状も見られる。
  • 前頭側頭型認知症
    社会的判断力や抑制力の低下、強迫的・刺激的な言動、認知症の前段階には行動・言語の変化が見られる。
  • パーキンソン病性認知症
    パーキンソン病の症状(震え、筋硬直、動きの遅延)と認知症を合わせ持つ疾患。
  • 前頭側頭葉変性症
    言語障害、行動異常、情動性、自己介入的な行動、不適切な判断力や社会的振る舞いが見られる。
  • 脳血管性認知症
    脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患が原因で発生する認知症。急性の発症や、症状が局所的であることが特徴。
  • 薬物性認知症
    長期間の薬物使用、または薬物の誤使用が原因で発生する認知症。特定の薬物が原因である場合もある。

これらの疾患を鑑別するために、症状の詳細な調査や検査が必要となります。診断には臨床医の経験や知識、画像検査や神経心理学的検査などの情報を総合的に考慮することが重要です。

アルツハイマー認知症の最新情報(2025年)

アルツハイマー病の血液検査:米国FDAが初承認 2025年5月16日、米国食品医薬品局(FDA)は、アルツハイマー病の診断を補助する初の血液検査「Lumipulse G pTau217/β-Amyloid 1-42 Plasma Ratio」を承認しました。この検査は、日本の富士レビオ社が開発したもので、55歳以上で認知症の症状がある患者を対象としています。

特徴と利点

  • 非侵襲的:従来のPETスキャンや腰椎穿刺に比べ、血液採取のみで済みます。
  • 高精度:臨床試験では、陽性判定の精度が約92%、陰性判定の精度が97%以上と報告されています。
  • 早期診断:アミロイドβやリン酸化タウ(pTau217)を測定し、脳内のアミロイドプラークの蓄積を推定します。

治療への活用:抗アミロイド薬(例:Leqembi、Kisunla)の適用判断にも利用可能です。

この検査は、米国内の約50の専門医療機関で6月から導入される予定です。

日本におけるアミロイドPET検査の保険適用拡大

日本では、アミロイドPET検査が2025年4月1日より保険適用の範囲が拡大されました。これにより、以下のようなケースでも保険が適用されます:

  • 治療薬の効果判定:抗アミロイド薬の投与継続や中止の判断材料としての利用。
  • 治療期間の最適化:不要な投薬を避け、患者の通院負担を軽減。
  • 検査の所要時間は2時間から3時間であり、一定の要件を満たした場合だけ保険適用。

保険適用には一定の要件があり、3割負担の場合、費用は約7万〜7万5千円程度とされています。

今後の展望と注意点

  • 日本での血液検査導入:富士レビオ社の検査が日本国内でいつ導入されるかは未定ですが、今後の動向に注目が集まっています。
  • 検査の位置づけ:血液検査はあくまで診断の補助ツールであり、確定診断には他の検査との併用が推奨されます。
  • 早期発見の重要性:早期診断により、治療や生活支援の選択肢が広がります。

認知症の14の修正可能なリスク要因

2024年7月31日に発表された英国の医学誌『ランセット(The Lancet)』の報告によると、認知症の発症リスクを最大45%まで予防または遅延させる可能性がある14の修正可能なリスク要因が特定されました。これは、2020年の報告で示された12のリスク要因(予防可能性40%)に、新たに「高LDLコレステロール」と「未治療の視力低下」の2つが加わったものです。

この報告は、認知症予防においてライフステージごとの介入が重要であることを強調しています。特に中年期のリスク要因(高LDLコレステロール、難聴、うつ病など)への対応が、将来的な認知症リスクの低減に大きく寄与する可能性があります。また、教育の充実や社会的なつながりの維持、大気汚染の軽減など、個人の努力だけでなく、社会全体での取り組みが求められます。

認知症の14の修正可能なリスク要因とライフステージ別の影響

この報告では、人生の各段階(18歳未満、18〜65歳、65歳以上)におけるリスク要因の影響が示されています。

18歳未満(幼少期・青年期)

  • 低学歴:中等教育を修了していないことが、認知症リスクの増加と関連しています。教育は「認知予備力」を高め、脳の老化や病理に対する耐性を強化します。

18〜65歳(中年期)

  • 難聴:聴力の低下が認知症リスクを高めることが示されています。
  • 高血圧:中年期の高血圧は、後年の認知症リスクと関連しています。
  • 肥満:中年期の肥満が認知症リスクを増加させる要因となります。
  • 糖尿病:2型糖尿病が認知症の発症リスクを高めることが知られています。
  • 喫煙:喫煙は認知症リスクを増加させる要因の一つです。
  • うつ病:うつ病の既往が認知症リスクと関連しています。
  • 頭部外傷:スポーツや事故による頭部外傷が、後年の認知症リスクを高める可能性があります。
  • 高LDLコレステロール:中年期の高LDLコレステロール値が、認知症リスクの増加と関連しています。

65歳以上(高齢期)

  • 社会的孤立:社会的なつながりの欠如が、認知症リスクを高める要因となります。
  • 大気汚染:大気中の汚染物質への曝露が、認知症リスクと関連しています。
  • 未治療の視力低下:視力の低下が認知症リスクを増加させることが示されています。
  • 身体的不活動:運動不足が認知症リスクを高める要因となります。
  • 過度のアルコール摂取:過度のアルコール摂取が認知症リスクと関連しています。

 14のリスク要因の概要

リスク要因主な影響時期備考
低学歴幼少期〜青年期認知予備力の低下と関連
難聴中年期補聴器の使用が推奨される
高血圧中年期血圧管理が重要
肥満中年期適正体重の維持が推奨される
糖尿病中年期血糖管理が認知症予防に寄与
喫煙中年期禁煙がリスク低減に効果的
うつ病中年期早期の治療とサポートが重要
頭部外傷中年期ヘルメットの着用など安全対策が推奨される
高LDLコレステロール中年期食事・運動・薬物療法による管理が有効
社会的孤立高齢期社会的なつながりの維持が重要
大気汚染高齢期居住環境の改善や政策的対応が求められる
未治療の視力低下高齢期定期的な視力検査と適切な矯正が推奨される
身体的不活動高齢期定期的な運動習慣の確立が効果的
過度のアルコール摂取高齢期節度ある飲酒がリスク低減に寄与
アルツハイマー67%(厚労省)

帯状疱疹ワクチンの接種が認知症の発症リスク低下

2025年4月2日、英国の科学誌『ネイチャー(Nature)』に、スタンフォード大学を中心とする研究チームによる画期的な研究結果が発表されました。この研究では、帯状疱疹ワクチン(Zostavax)の接種が認知症の発症リスクを約20%低下させる可能性が示されました。

この研究は、帯状疱疹ワクチンが認知症予防に寄与する可能性を示す重要な証拠となりました。特に高齢者にとって、ワクチン接種は帯状疱疹の予防だけでなく、認知症リスクの低下にもつながる可能性があります。今後の研究や政策の動向に注目が集まります。

 研究の概要

  • 対象者:イギリス・ウェールズ在住の71歳から88歳の成人約28万人。
  • 追跡期間:2013年から7年間。
  • 研究手法:2013年9月2日を境に、誕生日によってワクチン接種の対象となるか否かが決定された自然実験を活用。この手法により、他の健康行動や社会経済的要因の影響を最小限に抑え、ワクチン接種の効果を評価しました。

 主な研究結果

  • 認知症リスクの低下:ワクチン接種者は、非接種者に比べて7年間で新たに認知症と診断される確率が3.5ポイント(相対的に20%)低下しました。
  • 性別による差異:この保護効果は特に女性で顕著でした。

他の健康指標への影響:ワクチン接種は帯状疱疹の発症リスクも約18.8%低下させましたが、他の予防接種や健康行動への影響は見られませんでした。

考えられるメカニズム

  • ウイルスの再活性化抑制:水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化を防ぐことで、神経炎症や脳血流障害を軽減し、認知症リスクを低下させる可能性があります。

免疫系の強化:生ワクチンによる免疫刺激が、他の神経炎症性疾患に対する防御効果をもたらす可能性があります。

日本での状況と展望

現在、日本では帯状疱疹ワクチンとして、生ワクチン(Zostavax)不活化ワクチン(Shingrix)の2種類が使用されています。今回の研究はZostavaxに焦点を当てていますが、Shingrixについても同様の効果があるかは今後の研究が待たれます。

アルツハイマー病の画像診断

ADの画像診断には、主に次の方法がある

  • 脳神経核医学検査
    • ポジトロン断層法(PET):脳内に蓄積したアミロイドβや神経原線維変化の指標となるタウタンパク質などを可視化し、アルツハイマー病の診断に役立つ。しかし、高価格であることや、放射能被曝のリスクがあることから、臨床現場での利用は限定的である。
    • シンチグラフィー:アルツハイマー病の病態に関連する生理活動の指標となる脳内の代謝物質や受容体を可視化する。PETよりも低コストであり、診断に役立つ。
  • 磁気共鳴画像(MRI)
    • 脳の萎縮の程度:脳内の神経細胞の死滅や脱落によって脳が小さくなる現象である脳萎縮が、アルツハイマー病の診断に役立つ。
    • 脳領域の萎縮:ADの初期症状は海馬にみられるため、海馬部分の磁気共鳴画像を確認することが診断に役立つ。
  • CT
    • 脳の萎縮の程度:MRIと同様に、脳萎縮の程度がアルツハイマー病の診断に役立つ。

ただし、これらの画像診断は診断に必須というわけではなく、臨床症状、神経心理学的検査結果、および血液・脳脊髄液検査結果を含めた総合的な評価が重要であることに留意する必要があります。

ADの画像診断には、主に次の2種類がある

構造的画像診断

構造的画像診断では、脳の形態的変化を評価するために、主にMRI(磁気共鳴画像)が使用されます。アルツハイマー病では、脳の萎縮(atrophy)が見られることがあります。
脳萎縮は特に海馬や側頭葉に影響を及ぼすことが多く、これらの領域の萎縮度合いは、アルツハイマー病の進行度合いを評価するための指標として使用されます。

機能的画像診断

機能的画像診断では、脳の活動や代謝を評価するために、主にPET(陽電子放出断層撮影法)やSPECT(単一光子放出型コンピュータ断層撮影法)が使用されます。
アルツハイマー病では、脳内のβアミロイド蛋白質が蓄積することがあり、βアミロイド蛋白質は、アミロイドプラークと呼ばれる斑点状の構造を形成することがあります。これらの斑点の存在は、アルツハイマー病の診断において重要な指標の1つとされています。また、アルツハイマー病では脳内のグルコース代謝率の低下が見られることがあり、機能的画像診断ではこの低下を評価することができます。

以上のように、アルツハイマー病の画像診断においては、脳の構造や機能の変化を評価することが重要となります。ただし、診断には臨床症状や他の検査結果との総合的な判断が必要であり、単独での画像診断だけでは診断が確定されない場合もあります。

アルツハイマー病の薬物療法

アルツハイマー病に対する薬物療法は、主に症状の軽減や進行の遅延を目的として行われます。次に代表的な薬剤について、中核症状に対する効果や注意点などをまとめました。

コリンエステラーゼ阻害薬

アルツハイマー病患者の脳内アセチルコリン濃度が低下することが知られています。コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンの分解を抑制し、脳内のアセチルコリン濃度を上昇させることで症状の改善を図ります。
代表的な薬剤としてドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンがあります。これらの薬剤は、軽度から中等度のアルツハイマー病患者に対して効果があり、認知機能の改善や日常生活動作の維持・改善が期待されます。

NMDA受容体拮抗薬

NMDA受容体拮抗薬は、グルタミン酸という神経伝達物質の作用を抑制し、神経細胞の死滅を防止することで症状の改善を図る薬剤です。メモリーに関する症状に効果があるとされています。
代表的な薬剤としてメマンチンがあります。

抗精神病薬

アルツハイマー病患者には、幻覚や妄想などの中核症状が現れることがあります。このような症状に対しては、抗精神病薬が投与されることがあります。
代表的な薬剤としてリスペリドン、オランザピンがあります。しかし、アルツハイマー病患者に抗精神病薬を使用する場合、注意が必要であり、薬剤によっては副作用や死亡リスクの増加につながる可能性があるため、慎重に使用する必要があります。

現在、アルツハイマー病の根治薬として承認されているものはありません。病気の進行を遅らせることができる薬物はいくつかありますが、病気を完全に治すことはできません。病気の進行を遅らせる薬物には、コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンがあります。

近年、アミロイドβタンパク質を除去することを目的とした新しい治療法が研究されています。アミロイドβタンパク質はアルツハイマー病において重要な役割を果たしているため、アミロイドβタンパク質を除去することができれば、病気の進行を遅らせることができる可能性があります。例えば、抗アミロイドβ抗体療法やベータセクレターゼ阻害薬が、アミロイドβタンパク質の除去に効果的であるとされています。しかし、これらの治療法はまだ臨床試験の段階にあり、安全性や効果について確立されているわけではありません。

※2023年7月には、アルツハイマー病治療薬「レカネマブ」承認をしています。今までは対処療法に限られていましたが、「レカネマブ」はアルツハイマー病の原因物質に直接働きかける新薬で進行を穏やかにする効果を証明した保険適用の治療薬としています。
・塊になり始めたアミロイドβを除去します。
・早期段階の症状の軽い人向けで、認知機能低下を2~3年遅らせます。

※2024年7月には、アメリカの製薬会社が開発したアルツハイマーの初期症状の進行を遅らせる「ドナネマブ」(発売名称「ケサンラ」)が承認になりました。この薬はアルツハイマーの患者の脳に蓄積されるアミロイドβの異常なたんぱく質を取り除くことで、進行を遅らせるというものです。臨床試験では、1年半の間に病気が進行するリスクの29%低かったと認められています。ただし、2%に深刻な副反応が認められています。
・過剰に蓄積したアミロイドβの塊を除去します。
認知機能の低下を約1年半後時点で28.9%抑制します。

アルツハイマー病に対する免疫療法

アルツハイマー病に対する免疫療法については、現在も研究が進んでいる段階であり、まだ治療法としての確立には至っていません。過去には、アルツハイマー病の治療に向けたアミロイドβタンパク質を標的としたワクチン療法の研究が行われましたが、副作用の問題から中止された例があります。

近年、抗アミロイドβ抗体療法によるアルツハイマー病治療が注目を集めています。抗アミロイドβ抗体は、アミロイドβタンパク質の異常な蓄積を抑制することができます。いくつかの臨床試験が行われており、一部の研究では脳萎縮の進行を遅らせる効果が認められたと報告されていますが、有効性や安全性についてはまだ十分な検証が必要です。

アルツハイマー病の非薬物療法

アルツハイマー病の非薬物療法は、患者の生活の質を改善することを目的としています。以下は、一般的な非薬物療法の例です。

  • 認知療法
    認知療法は、患者が正確に思考し、問題解決能力を向上させるために、患者が日常的に行っている認知的活動の継続を奨励することを含みます。また、認知療法は、記憶、言語、注意、問題解決など、特定の認知機能の訓練にも用いられます。
  • 運動療法
    運動療法は、認知症患者の運動能力を向上させ、筋力やバランスを改善し、身体的活動性を促進することを目的としています。また、運動療法は、認知症患者のうつ症状を軽減するのにも効果的であるとされています。
  • 音楽療法
    音楽療法は、患者の心身機能を改善し、コミュニケーションや社会的交流を促進することを目的としています。音楽療法は、認知症患者の記憶力や認知機能を向上させ、行動障害を軽減するのにも効果的であるとされています。
  • アート療法
    アート療法は、患者が絵を描いたり、彫刻を作ったりすることで、認知症患者の創造性を刺激し、自己表現能力を向上させることを目的としています。アート療法は、認知症患者のうつ症状を軽減し、自尊心を高めるのにも効果的であるとされています。
  • 娯楽療法
    娯楽療法は、認知症患者に楽しい時間を提供し、彼らの社会的交流や心理的健康を促進することを目的としています。娯楽療法は、音楽、ダンス、映画、演劇、ゲームなどの活動が該当します。

アルツハイマー型認知症と「遺伝」「家族歴」に関する理解

アルツハイマー型認知症と「遺伝」「家族歴」に関する理解は進化しており、近年の研究では次のようなことがわかってきています。

対策と予防

  • 家族歴がある人ほど「生活習慣の改善(運動、睡眠、食事)」「脳の活動」「社会的交流」が 予防的に効果を持つことがわかっています。
  • 近年では、早期のリスクスクリーニング(遺伝子検査や血液バイオマーカー)の研究も進んでおり、家族歴がある人向けの個別予防アプローチが注目されています。
項目内容
アルツハイマーは遺伝病か?基本的には遺伝病ではない
第一度近親者の影響2〜3倍のリスク上昇
第二度近親者の影響リスク増加の傾向あり(累積数に依存)
重要な遺伝子APOE ε4(ε3、ε2型との比較)
対策生活習慣+認知予備力を高める行動

アルツハイマー型認知症は「遺伝病」ではないが「遺伝的要因」はある

遺伝病ではない理由:

  • 95%以上のアルツハイマー型認知症は「孤発性」であり、特定の遺伝子変異によって直接的に引き起こされる「家族性アルツハイマー病(FAD)」は 非常に稀(全体の1~2%未満) です。
  • 孤発性のアルツハイマー型認知症は、遺伝だけでなく、生活習慣、環境因子、加齢などの影響が重なって発症します。

 家族歴があるとリスクはどうなるか?

🧬 第一度近親者(親、兄弟姉妹)にアルツハイマーがいる場合:

  • 発症リスクが約2〜3倍に増加するというエビデンスがあります。
  • 家族歴のある人は、40代からアミロイド沈着が始まる可能性があるという研究も。

🧬 第二度近親者(祖父母、おじおば、甥姪など)の場合:

  • リスクの上昇は第一度ほど顕著ではないものの、複数の第二度近親者に認知症歴がある場合、統計的にリスク上昇が見られるという報告があります。

🧬 家族歴の多さとリスクの関係:

  • 2020年以降の研究では、「近親者(第一度・第二度)に複数のアルツハイマー病患者がいる場合、自身の発症リスクは着実に上昇する」ことが明らかになってきました。
  • 遺伝的リスクは数値モデル(Polygenic Risk Score: PRS)で推定され、特定のリスク遺伝子の組み合わせ(例:APOE ε4)を多く持つほど発症確率が高まるとされます。

特に重要な遺伝子:APOE(アポリポプロテインE)

  • APOE ε4遺伝子を1コピー持つと、発症リスクは 約2~3倍
  • 2コピー(両親から1つずつ受け継ぐ)持つと、約10〜15倍に跳ね上がります。
  • ただし、ε4を持っていても発症しない人は多く、持っていなくても発症する人はいます。

家族歴がある方向けのアルツハイマー型認知症セルフチェックリスト

「家族歴がある方向けのアルツハイマー型認知症セルフチェックリスト(予防・早期対応のためのリスク認知)」の試案です。目的は、家族歴のある方が「自分のリスクを知る」「今できることに気づく」ための心理教育的なセルフチェックです。

家族歴がある方向け アルツハイマー型認知症セルフチェックリスト

(全20項目/該当するものにチェックしてください)

家族歴がある方向け アルツハイマー型認知症セルフチェックリスト
セクション1:家族歴と遺伝リスク
1.第一度近親者(親または兄弟姉妹)にアルツハイマー型認知症を発症した人がいる
2.第二度近親者(祖父母・おじおば)に認知症を発症した人が2人以上いる
3.家系に「早発性認知症(65歳未満で発症)」の人がいる
4.家族にAPOE ε4型(遺伝子)保有者がいると判明している
5.過去に自分自身がAPOE遺伝子検査を受けたことがある
セクション2:生活習慣と身体の状態
6.毎日の睡眠時間が6時間未満、または質が悪いと感じている
7.定期的な運動(週に3回以上の有酸素運動)をしていない
8.野菜・魚・ナッツ類の摂取が少なく、加工食品や糖質を多く摂取している
9.高血圧・糖尿病・高コレステロールなどの慢性疾患を持っている
10.喫煙を現在している、または10年以上喫煙歴がある
セクション3:心理・認知的な自覚
11.最近、物忘れや予定の抜けを自覚することが増えた
12.同じ話を繰り返すことが周囲から指摘されたことがある
13.注意力が散漫になり、仕事や家事でミスが増えたと感じる
14.見慣れた場所で道に迷いそうになることがある
15.言葉が出にくくなったと感じることがある(例:「あれ」「それ」ばかりになる)
セクション4:予防・対策への姿勢
16.認知症の家族歴があることを自分の健康行動の指針にしている
17.脳トレや趣味、学習などを意識的に行っている(週3回以上)
18.1日1回以上、他人と会話するなど社会的接触を持っている
19.健康診断や脳ドックを定期的に受けている
20.認知症リスクに備えた資金・介護・終活などの話し合いをしたことがある

結果の見方(参考)

  • 0〜5項目該当:リスクは低めですが、日々の生活習慣の見直しが予防になります。
  • 6〜10項目該当:リスク因子の複合が考えられます。認知予防のための具体的な行動が推奨されます。
  • 11項目以上該当:複数の危険因子が存在します。医療機関での相談、遺伝子検査・アミロイドPET・血液バイオマーカーなども視野に入れてください。

家族歴がある方向けアルツハイマー型認知症 生活改善ワークシート

家族歴がある方向けの「認知症予防のための生活改善ワークシート」です。認知科学や公衆衛生の最新の知見に基づき、行動を見える化し、日々の生活習慣を点検・改善するための実践ツールです。

 Step 1|リスク低減に有効な9つの生活習慣チェック(週ごと)

1週間を振り返って、以下の項目がどの程度できたか〇をつけてください。

① 30分以上の有酸素運動(散歩、サイクリングなど)をした
② 6〜8時間の質の良い睡眠がとれた
③ 野菜・果物・魚・ナッツ類を意識して食べた
④ 塩分・糖分・加工食品を控えめにした
⑤ 1日1回以上、他者と会話・交流をした
⑥ 新しいこと(本・趣味・クイズ)に挑戦した
⑦ 深酒・喫煙を避けることができた
⑧ ストレスを感じたとき、対処法を使えた
⑨ 認知症予防に関する情報を1つ学んだ

Step 2|振り返りと気づき

以下の質問に一言でも構いませんので記入してみましょう。

  1. 今週、一番達成感があったことは何ですか?
     →_____________________
  2. できなかった項目は、どんな理由やハードルがありましたか?
     →_____________________
  3. 小さな一歩として、来週チャレンジしたいことは何ですか?
     →_____________________

 Step 3|脳に効く行動カレンダー(選択制)

1日1つだけでも良いので、以下の中から「今日はこれをやる」と選んで〇をつけてください。

カテゴリーおすすめ行動(例)
認知刺激知らない言葉を調べる/新聞コラムを読む/暗算してみる
身体活動一駅歩く/階段を使う/ストレッチする
食生活朝食に果物を加える/夕食を減塩にする
社会交流昔の友人に連絡/近所の人と挨拶/SNSで1つ感謝を伝える
睡眠・休息寝る前にスマホを見ない/就寝時間を一定に保つ
学習TED・YouTubeで学習動画/図書館で1冊借りる

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症(DLB; Dementia with Lewy Bodies)は、脳内に存在するレビー小体というタンパク質の異常蓄積によって引き起こされる神経変性疾患の一つで、加齢に伴って発症することが多くなります。レビー小体はアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患でも見られますが、DLBでは特に大量に存在することが特徴となります。

レビー小体型認知症の症状・診断・療法

【症状】

DLBの主要な症状としては、注意力・意識レベルの変動や、視覚幻覚、錯乱状態、運動機能障害、抑うつ症状、自律神経症状などが挙げられる。また、アルツハイマー病やパーキンソン病と同様に、DLBでも痴呆症状が見られる。

【診断】

診断には臨床症状、脳画像、脳波検査、またはSPECTやPETなどの脳機能画像検査などが用いられる。DLBはアルツハイマー病やパーキンソン病と鑑別が必要であり、特にDLBとパーキンソン病の認知症(PDD; Parkinson’s Disease Dementia)は症状が類似しており、区別が困難な場合もある。

【治療】

治療には、アルツハイマー病の治療に用いられるコリンエステラーゼ阻害剤や、パーキンソン病の治療に用いられるドーパミン作動薬が一部有効である場合がある。また、抗精神病薬が幻覚や錯乱などの精神症状に対して効果がある場合がある。

レビー小体型認知症の疫学

レビー小体型認知症(DLB)は、認知症全体でみてADの4割程度、認知症全体の15%程度と予測されます。DLBの男女比は1:1.5〜2程度と考えられています。

DLBの病因は明確にはわかっていませんが、脳内のレビー小体と呼ばれる神経細胞内のタンパク質の異常が原因であると考えられています。レビー小体は、アルツハイマー病やパーキンソン病でも見られますが、DLBでは特に脳幹部や大脳皮質に多く存在することが特徴です。また、DLBの発症には、遺伝的要因や環境的要因も関与している可能性があります。

ICD-11でのレビー小体型認知症の診断基準

ICD-11では、以下のようにレビー小体型認知症(DLB)が診断されます。

  • 主要な診断基準
    • 注意の障害、視覚空間的障害、錯乱、幻覚または妄想を含む認知症症状がある。
    • パーキンソン症状(筋強剛、ジストニア、レストレスレッグス症候群など)がある。
    • レビー小体が脳の自由水準に存在することが確認された。
  • 確定診断基準
    • 必須項目:主要な診断基準を満たすこと。
    • 補足的な診断基準:うつ病、不安症状、不随意運動、自律神経症状などがある場合、それを示唆する徴候がある。
    • 排除基準:パーキンソン病、多系統萎縮症、前頭側頭型認知症など、他の原因による認知症がある場合は除外する。

これらの診断基準に合致する場合に、レビー小体型認知症の診断がつけられます。

レビー小体型認知症の臨床・経過・画像

DLBの全体的な臨床所見には次のようなものがある

  • 認知症状の進行
  • 注意欠陥、視覚空間的困難、錯視、幻視などの錯覚・幻覚・妄想
  • 異常な昼夜リズム
  • 可逆的な意識レベルの変動
  • 自律神経機能障害(例:起立性低血圧)
  • 筋強剛(カタプレキシー)
  • 不随意運動(例:パーキンソン症候群様症状)

DLBの臨床経過は、次のように大まかに分けられる

段階
前期(初期)

認知症症状、注意欠陥、視覚空間的問題、幻視などの錯覚や妄想が見られます。また、昼夜リズムの変化や、意識レベルの変動が起こることもあります。

段階
中期(進行期)

認知症症状が進行し、注意力や日常生活動作に問題が生じます。幻覚や妄想などの錯覚が増加することもあります。パーキンソン症候群様症状、筋強剛、または不随意運動などの異常運動が現れることもあります。

段階
後期(高度期)

認知症症状がさらに進行し、患者は自己の判断力を失い、完全に介護が必要になることがあります。また、筋肉の硬直や、高次脳機能の障害による言葉の理解力や意思決定能力の低下なども起こります。

DLBの画像所見

レビー小体型認知症(DLB)の画像所見は、アルツハイマー病と重なることが多く、脳萎縮や脳室拡大、脳血流の低下が観察されることがあります。
DLBの特徴的な所見としては、脳幹の機能障害がある場合に、脳幹周辺の代謝低下が認められることがあります。また、DAT(ドパミン輸送体)PETを用いることで、レビー小体が存在する脳領域でのドパミンシグナルの低下が認められることがあります。ただし、レビー小体自体はMRIやCTでは観察できず、診断には主に臨床所見が用いられます。

レビー小体型認知症の薬物療法

レビー小体型認知症 (DLB) の薬物療法は、症状を改善するためのものがありますが、その他の薬剤は注意が必要です。主な薬物療法には次のものがあります。

  • コリンエステラーゼ阻害剤
    DLBには認知症の特徴であるアセチルコリン欠乏が関与しているため、コリンエステラーゼ阻害剤が使用されることがあります。この薬剤は、アルツハイマー病にも使用されています。
  • NMDA受容体拮抗薬
    認知症におけるグルタミン酸シグナルの過剰刺激がDLBにおいても関与しているため、NMDA受容体拮抗薬が使用されることがあります。
  • 抗精神病薬
    DLBには幻覚や妄想などの精神症状が見られることがあります。抗精神病薬は、これらの症状を改善するために使用されることがありますが、注意が必要です。DLBに対して一般的な抗精神病薬であるハロペリドールは、副作用が多く、使用する際には慎重に判断する必要があります。
  • レビー小体除去剤
    DLBには脳内のレビー小体が特徴的に見られるため、これらの除去を目的とした薬剤が研究されていますが、まだ臨床的に確立されていません。

注意が必要なのは、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬、抗うつ薬、鎮静剤、オピオイド系薬剤など、DLBにおいては錐体外路症状を引き起こすことがある薬剤があります。これらの薬剤の使用は、DLBの症状を悪化させる恐れがあるため、注意が必要です。

  • 「認知症ケアQ&A」(杉山泰介、廣済堂出版)
  • 「認知症診療マニュアル」(加藤徹、医学書院)
  • 「認知症の介護とケア」(高橋千晶、中央法規出版)
  • 「認知症患者の家族のためのケアブック」(石田昌子、南江堂)
  • 「認知症の看護ケア」(神田由紀子、医学書院)
  • 「認知症を理解する」(宮下順子、PHP研究所)
  • 「認知症と向き合う」(西野芳彦、講談社)
  • 「認知症の人を理解する」(河村和子、中央法規出版)
  • 「認知症介護の実践」(田中勝美、医学書院)
  • 「認知症を生きる」(高橋源一郎、講談社)
  • 「標準精神医学第8版」(尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉/医学書院)
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