うつ病とは感情的、生理的、認知的、行動面の機能障害の程度が強く、持続期間も長く絶望感、自責感、悲哀、無価値観、易怒性があり、自殺念慮や自殺企図の可能性もあり精神的、身体的な症状が生活に強く支障となります。
うつ病は、気分障害の一種で、慢性的な悲しみや絶望感、無気力感などを特徴とする病気です。うつ病にかかると、生活に支障をきたすほどの悲観的な考え方や感情が日常的に続き、活力や喜びを感じにくくなります。
うつ病の主な症状には、次のようなことが挙げられます。
- 悲しみや絶望感、無気力感
- 興味や楽しみを失うこと
- 睡眠の問題(寝付きが悪い、途中で目が覚める、朝起きられない)
- 食欲の問題(食欲不振、または過剰な食欲)
- 疲れや疲労感、活力の低下
- 集中力や判断力の低下
- 自分に対する否定的な考え方や自己評価の低下
- 死について考えること、自殺念慮や自殺企図
うつ病は、原因として遺伝的要因、脳の神経化学的な変化、ストレスやトラウマ、身体的な疾患などが考えられています。また、男性よりも女性に多く見られることが知られています。
うつ病の治療には、薬物療法や心理療法などがあります。抗うつ薬などの薬物療法は、神経伝達物質のバランスを整え、症状を緩和する効果があります。心理療法には、認知行動療法、精神分析療法、対人関係療法などがあり、患者の症状や背景に応じて適切な治療法が選択されます。
うつ病の患者数と自殺者の推移
うつ病は5大疾患の一つで400万人を超えていて4人に1人が生涯でうつ病などの気分・不安・物質関連障害などを経験しています。うつ病の自殺者数は全体の20%をしめるという怖い病気ですが、治療方針が確立されていますので早期の段階で精神科を訪ねてください。
上のグラフは、気分障害、重度ストレス障害・適応障害、うつ病の患者が病院を訪れた数です。実際、過去12カ月にうつ病になった患者が精神科を受診した割合は24.2%、一般医療機関を受診した割合は15.2%だけなのです(川上憲人)。約7割のうつ病の方は医療機関を訪れてないことになります。
上のグラフから2021年には自殺者数20,840人に対し、うつ病と判断される人数に絞っても3,968人となっています。15年遡って2007〜2021年を見てみると「自殺者数に対するうつ病のみの割合は20.32%」にもなります。
うつ病以外に自殺者の原因とみられる生活、勤務、学校、男女間、家族、健康、孤独問題が当てはまると見られていますが、ある調査では「自殺者の70〜90%が精神疾患であり、その中の60〜70%はうつ病であった」と推測しています。このように精神疾患の原因の項目から見ても精神的問題が全体に関わっていることは予想できます。
WHOが調査した自殺と精神疾患についての結果では、自殺者の95%は最後に何らかの精神疾患の診断に該当する状態にあるとしています。しかし、適切な治療を受けられている精神疾患では10〜20%程度であったことも調査されています。
怖いことに先ほどのデータからも約7割のうつ病、うつ状態の人は病院も受診できずに、適切な治療を受けられないで自尽を目的とした行動に及んでいることも想像できます。
DSM-Ⅳ-TRでは重症のうつ病に該当する患者の6人に1人は自殺に至るという報告があります。
経済協力機構(OCD)のメンタルヘルスに関する国際調査によると、先進諸国でもCOVID-19によるパンデミック以降、大うつ病、不安障害の有病率が25%増えているとの報告がありました。
世界保健機関(WHO)によるとパンデミック以前でも、うつ病の羅患者は3億2200万人おり、うつ病関連での自殺者は年間約80万人と推定しています。
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うつ病とは
誰しもが気分の落ち込みや意欲の低下などの精神的な症状、また眠れない、だるい、疲れやすいなどの身体的症状が起きることはありますが、うつ病とは、精神的な症状も身体的な症状も生活するうえで強く支障が出てしまう病気です。
うつ病はうつ状態の程度が強く、持続期間も長く、感情的、生理的、認知的、行動面の機能障害をもたらす特徴があります。特に強い絶望感、自責感、悲哀、無価値観、易怒性があり、自殺念慮や自殺企図の可能性があります。
一般的には、この精神的な感情や身体的な症状が起きるには明確な原因があり、原因の解消や気分転換、時間の経過によって次第に回復していきます。しかし、うつ病の場合は原因が思い当たらないことが多く、たとえ原因が定かであって、その問題が解消されたとしても気分が回復せず、会社や学校に行くことが困難で家に閉じこもるなど生活に大きな支障が出てしまいます。このように症状の多様さは、けがや痛み、検査で診断できる病気とは違い、うつ状態の自覚症状は目に見えなく、他者に説明しにくいことから対処の仕方や病院の診察や選択にも困ることが多くなってしまいます。
厚労省の調査ではうつ病の生涯有病率は6.7%(軽度うつやうつ病を伴う他の疾病は含まれない)で15人に1人がうつ病を経験していることからも、誰にでもかかる病気であり、決して珍しいことではありません。しかし、対処できなく治療もできなく放置していると、最悪自殺に至ることを想定するような怖い病気でもあります。
欧米の調査では若年層に多く、平均発症年齢は20歳代~40歳前が半数を占めています。日本では若年層に加えて中高年層も高くなっています。また、世界的な傾向では生涯有病率は女性が男性の約2倍であることが確認されています。
うつ病の自覚症状
うつ病の特徴は多様ですが、次の症状を気づくための視点としてみます。
うつ病の診断基準をDSM-5とICD-11で比較
次の9個の症状のうち5つ以上が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち➊の抑うつ気分、または❷の興味または喜びの喪失、が少なくとも1つが含まれている。
※抑うつエピソードの➊ ❷が基本症状となる。
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアルより抜粋(うつ病エピソード)
- その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望感を感じるか)か、他者の観察(例:涙を流しているように見える)によって示される1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
- ほとんど1日中、ほとんど毎日の活動における興味、または喜びの著しい減退
- 食事療法はしていないのに食欲の減退または増加、あるいは体重の減少または増加(1か月で体重の5%以上の変化)
- ほとんど毎日の不眠、または過眠
- ほとんど毎日の精神運動の焦燥、または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではないもの)
- ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
- ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある . 単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)
- ほとんど毎日の思考力の減退、または決断困難
- 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)、または自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりした計画
- その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
- そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。
上記の症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または重要な領域における機能の障害を起こしている。
そのエピソードは、物質の生理学的作用(アルコール依存や薬物依存などの物質依存)、または他の医学的疾患(一般的な疾患)によるものではない。
※過去の躁病エピソードの有無により、双極性障害は除外する。
重症度 | 診断基準の合致 | 症状 |
軽症 | 5項目を満たす程度 | 対人関係や職業に対する苦痛は感じられるがわずかな状態 |
中等症 | 6〜7項目 | 軽症と重症の間の症状 |
重症 | 8項目以上 | 機能障害が顕著に損なわれていて極めて苦痛を強く感じる状態 |
うつ病とは、うつ病エピソードの症状がみられます。DSM-5精神疾患の診断基準で9項目のうち、2週間の経過中に5項目以上を満たすものをうつ病(大うつ病症)と呼び、5項目に満たない、または症状の軽い状態をうつ症状(小うつ病症)と呼び、5項目に満たないが、うつ症状が2年以上持続しているものを持続性抑うつ症(気分変調症)とします。
ICD-11(国際疾病分類第11版)では、うつ病は「心境(気分)障害」の一つとして分類されています。具体的には、「不安とともに、持続的な気分低下、または興味の喪失が特徴的な状態」と定義されています。ICD-11では、次の2つの種類のうつ病を区別しています。
⒈うつ病性エピソード(Depressive episode)
- 持続的な気分低下、または興味喪失を示す期間が、少なくとも2週間続く
- うつ病には、次のうち少なくとも1つが含まれる
- 自己評価の低下、または罪悪感・無価値感
- 喜びや楽しみの喪失
- エネルギー不足、疲労感、または活力低下
- 上記の症状に加え、次の症状がある場合がある
- 睡眠障害
- 食欲障害
- 集中障害、決定能力低下、または自殺念慮
⒉うつ病性障害(Depressive disorder)
- 2回以上のうつ病性エピソードがある場合に診断される
- うつ病性エピソードのあいだに、明らかな気分変動がある場合、双極性障害と診断される可能性がある
ICD-11では、うつ病の重症度を次の4段階に分類しています。
- 軽度(Mild)
- 中等度(Moderate)
- 重度(Severe)
- 最重度(Extreme)
治療は、症状や重症度に合わせて、薬物療法や心理療法、生活習慣の改善などが選択されます。また、治療によって症状が改善されたとしても、うつ病性障害は再発する可能性があるため、定期的なフォローアップが重要です。
DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル:高橋三郎、大野裕(監訳)/医学書院
標準精神医学第8版:尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉/医学書院
内科医のためのうつ病診療第2版:野村総一郎/医学書院
うつ病の治療ポイント:平井孝男/創元社
うつの正しい理解と治療法:野村総一郎/創元社
うつ病治療ガイドライン 第2版:日本うつ病学会、気分障害の治療ガイドライン作成委員会/
医学書院精神疾患の有病率に関する大規模疫学調査研究:川上憲人、他
「うつ病の正しい理解と治療」(小泉茂雄・森田寛子 著) – 中央法規出版
「うつ病を自力で克服する本」(池田裕子 著) – 日本実業出版社
「うつ病にならないための7つの習慣」(ショーン・アカー 著) – 日本経済新聞出版社
「はじめてのうつ病」(柴田明夫 著) – 講談社
厚労省 患者調査 https://www.mhlw.go.jp/seisaku/2010/07/03.html
妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル 公益財団法人日本産婦人科医会
http://www.jaog.or.jp/wp/wp-content/uploads/2017/11/jaogmental_L.pdf
警察庁 自殺者数 https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R04/R3jisatsunojoukyou.pdf
- WHO. (2019). ICD-11 – Mortality and Morbidity Statistics. [Online] Available at: https://icd.who.int/browse11/l-m/en#/http%3a%2f%2fid.who.int%2ficd%2fentity%2f1448597234 [Accessed 22 Apr. 2023].
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