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マレーの欲求理論
アメリカの心理学者ヘンリー・マレー(Henry A. Murray)は、1938年に著書『Explorations in Personality』の中で、人間の動機づけを説明するために「欲求(Needs)」という概念を用い、それらを分類しました。
マレーは人間の行動を引き起こす根源的な動因を「欲求(needs)」と呼び、これを一次的欲求12(11)種類、生理的欲求(臓器発生的欲求)と二次的欲求である28種類の社会的欲求(心理発生的欲求)の2つに分類しました。これらは動物にも共通し、人間の生理的・原初的な動機づけの基盤を形成します。
マレーの一次的欲求(生理的・臓器発生的欲求)
一次的欲求(Primary Needs/生理的・臓器発生的欲求) | |
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身体的、生物学的な基盤に基づく本能的・生理的欲求です。生存や身体の恒常性維持に直結していて、11種類で示しています。 | |
欲求名 | 説明 |
欠乏から摂取に導く欲求 | |
吸気欲求 | 酸素を取り入れたい欲求。 |
飲水欲求(水分) | 水分を摂取し脱水を防ぎたい欲求。 |
食物欲求(食べ物) | 栄養を摂取して空腹を満たしたい欲求。 |
感性欲求(安静) | 身体的な感覚を楽しみたい欲求。疲労を回復するために安静を求める欲求。 |
膨張から求める排泄欲求 | |
排泄・排便欲求 | 体内の老廃物(尿や便)を排出したい欲求。 |
性的欲求(性行動) | 生殖や性行為を通じて性的関係や快楽を得たい欲求。 |
呼気欲求 | 息を吐きたい欲求 |
授乳欲求(母性的欲求) | 授乳したい欲求。他者(特に子ども)を守り育てたいという本能的欲求。 |
危機から求める回避欲求 | |
暑熱回避欲求 | 暑さから身体を守り、適切な体温を維持したい欲求。 |
寒冷回避欲求 | 寒さから身体を守り、適切な体温を維持したい欲求。 |
毒性回避欲求 | 有毒物を回避し逃れたい欲求。 |
障害回避欲求 | 身体的苦痛や危険を避けたい欲求。病気・けが・死を避けたい。 |
- 一次的欲求を11種類とする場合は、吸気欲求と呼気欲求を呼吸欲求とし、13種類とする場合は、運動欲求を加えます。
マレーの二次的欲求(社会的・心理発生的欲求)
環境や文化、社会的関係の中で学習され、発達する欲求です。自己概念、社会的地位、関係性の中で生じる心理的・対人的な欲求群です。マレーは28種類に分類しています。
二次的欲求(Secondary Needs/社会的・心理発生的欲求) | |
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物質に関する欲求 | |
獲得欲求(Acquisition) | 地位や人望、財産など様々なものを手に入れたい欲求。お金や財産など物や地位を手に入れたい欲求 |
保持欲求(Retention) | 所有物や金銭など手放さずに保持したい欲求。所有物や知識を保持したい欲求 |
保存欲求(Conservance) | 物を集めて大切に保存していたい欲求 |
秩序欲求(Order) | 整理された環境や計画にこだわる傾向。整理整頓し、秩序ある状態を維持したい欲求 |
構成・建設欲求(Construction) | 何かを作り出したい、形にしたいという欲求。物事を創造し、形にしたい欲求。 |
野心や向上心に関係する欲求 | |
優越欲求(Dominance) | 自分が上だと感じたい、認められたいと思うことがある。他者より優位に立ちたい、支配したい欲求。 |
達成欲求(Achievement) | 成功や達成感を得るために努力している。難しい目標に挑戦し、成功をおさめたい欲求 |
承認欲求(Recognition) | 他人から認められたい、褒められたいという思いが強い。他者から認められたい欲求。 |
顕示欲求(Exhibition) | 自分を表現し、注目されたい欲求。自己演出により他人に刺激を与えたい欲求。 |
自己防衛や保身に関連する欲求 | |
防衛欲求(Defendance) | 非難または軽視に対して自己を防衛しようとする欲求。自己の行為を正当化しようとする欲求。 |
劣等感回避欲求(Infavoidance) | 不確実なことや失敗、恥辱などのリスクを避けたい欲求。劣等感が現れるのを隠したい欲求。 |
中和・反動欲求(Counteraction) | 失敗をリベンジしたい、弱さを克服したい欲求。名誉のため報復しようとする欲求。 |
不可侵欲求(Inviolacy) | 自尊心を失わないような行動維持しようとする欲求。 |
支配や権力に関連する欲求 | |
支配欲求(Dominance) | 自己の影響力を拡げて支配したい欲求。他人に影響を与え統制しようとする欲求。 |
同一化欲求(Identification) | 尊敬する対象と自分を同一視したい欲求。他人を同一視して感情移入しようとする欲求 |
対立欲求(Contrariance) | 規則や権威に反発したり、他人と差別化できる行動欲求。他人と異なった独自的行動によって反対の側に立とうとする欲求。 |
恭順欲求(Deference) | 権威ある人に従い、評価されたい欲求。優越者を賞賛して喜んで仕えようとする欲求 |
自律欲求(Autonomy) | 他人に指示されるより、自分のやり方でやりたい。他人の支配を受けず、自立したい欲求 |
攻撃欲求(Aggression) | 怒りを感じやすく、誰かにぶつけたくなることがある。他者を傷つけたい、支配したいという衝動が起こる欲求。 |
屈従欲求(Abasement) | 自分を低く見て罪を仕方なく承服しようとする欲求。自分を犠牲にしてでも服従したい欲求 |
禁止に関係する欲求 | |
非難回避欲求(Blame Avoidance) | 衝動や非難を避けることやルールを守りたい欲求。法律や規則に反する衝動を抑えることによって非難、追放、処罰を避けようとする欲求。 |
他社との愛情に関係する欲求 | |
親和欲求(Affiliation) | 誰かの役に立ちたい、助けたいという保護の気持ちが強い。他者と親しくつながり、仲間でいたい欲求。 |
救護欲求(Succorance) | 援助、保護または同情を求めようとし、依存的であろうとする欲求。愛されたい、慰められたい、看護されたい欲求。 |
保護欲求(Nurturance) | 他者を守り、援助したい欲求。他社を養い、助け、または保護する欲求。 |
拒絶欲求(Rejection) | 他人を差別し、鼻であしらい、無視し、排斥しようとする欲求。他者や状況を拒絶したい欲求 |
遊戯に関係する欲求 | |
遊戯欲求(Play) | 楽しさや遊び心をもっと生活に取り入れたい。楽しさや娯楽を求める欲求。 |
情報に関係する欲求 | |
証明・情報欲求(Cognizance) | 知的知識や情報を提供したい欲求。情報の説明や解釈し、講釈しようとする欲求。 |
認知・分析欲求(Exposition) | 知識を学び理解したい、理論的に捉えたい欲求。情報を探索し好奇心を満足させる欲求 |
臨床やカウンセリングでの活用ポイント
- アセスメント:どの欲求が満たされず、どれが過剰かを見ることで、クライエントの心的葛藤を読み解けます。
- 欲求の優先順位:人によっては「承認」が強く、「自律」が低いなど、パーソナリティ傾向の理解に有効です。
- 相反する欲求の葛藤:たとえば「親密になりたい(Affiliation)」と「距離を置きたい(Autonomy)」という対立も。
- 欲求充足の手段の再構築:不適応的な方法(例:攻撃)から、より建設的な方法(例:協調や表現)へ導ける可能性。
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