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血管性認知症と前頭側頭型認知症、軽度認知障害の臨床

目次

血管性認知症、皮質下性血管性認知症、大脳皮質型血管性認知症、前頭側頭型認知症、軽度認知障害臨床・診断・療法

血管性認知症

血管性認知症は、脳血管障害によって引き起こされる認知症のことを指します。脳内の血管が病気や老化によって損傷を受け、脳細胞が酸素や栄養素を受け取れなくなることで、認知機能の低下が生じます。血管性認知症はアルツハイマー病と並んで最も一般的な認知症の原因の一つであり、高齢者の中でよく見られます。

血管性認知症には多くの種類があり、大きくは次の2つに分類されます。

  • 多発性脳梗塞型認知症
    多数の脳梗塞を繰り返し発症することによって認知症を引き起こすものです。
  • 小血管性認知症
    小さな血管の病気によって脳内の微小な血管が損傷を受け、認知症を引き起こすものです。

それぞれの種類によって、症状や治療法が異なってきます。血管性認知症は、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病の発症と密接に関係しており、予防には健康的な生活習慣を維持することが重要です。

血管性認知症の疫学

血管性認知症(vascular dementia, VD)の疫学は、人口ベースの研究によってさまざまな結果が報告されています。一般的に、純粋な血管性認知症(VD)は高齢者の認知症の割合の約10%であると推定されています。年齢とともに発症率が上昇し、75歳以上ではVDの割合が増加する傾向にあり、男性に多く発生する傾向があります。

また、神経病理学的にAD病理とVD病理が混在するいわゆる混合型認知症(MD)の場合がむしろ多く、15%とされています。

血管性認知症の主な病因は、脳血管障害による脳梗塞や脳出血などが考えられます。脳血管障害により、脳内の血管が狭窄・閉塞・破裂することによって、脳内の神経細胞が酸素や栄養素を失うことになり、認知機能に障害を引き起こします。高血圧、糖尿病、高脂血症、脳血管疾患の既往、喫煙、肥満、運動不足などの生活習慣病やリスクファクターが、血管性認知症の発症に関連しています。

血管性認知症の臨床所見

血管性認知症の臨床所見は、患者によって異なる場合がありますが、次に一般的なものをいくつか挙げます。

  • 認知機能の低下
    認知機能の低下は、血管性認知症の主要な症状です。記憶、言語、判断力、問題解決能力、空間認知などが影響を受けます。
  • 注意力の低下
    注意力の低下がみられることがあります。
  • 体の不自由さ
    歩行障害や筋力低下があります。
  • てんかん発作
    てんかん発作が起こることがあります。
  • 神経症状
    感覚異常や麻痺、失語症などがあります。
  • 他の身体症状
    頭痛やめまい、視覚障害などがあります。

これらの症状は、脳梗塞や脳出血など、患者の脳に影響を与える血管疾患によって引き起こされます。血管性認知症の症状は、進行するにつれて重篤化することがあります。

ICD-11の診断基準による血管性認知症の診断は、「臨床的に証明された脳血管疾患による、記憶・学習能力、言語、注意、判断力、空間認知、問題解決能力の障害が見られる認知症」とされています。また、血管性認知症の診断にあたっては、脳血管疾患の既往や診断方法(脳画像診断等)が重要な情報となります。

血管性認知症の治療

血管性認知症の治療において、中核症状や周辺症状に対しては次のような治療が行われます。

【中核症状に対する治療】
  • 血管リスクファクターの改善
    高血圧、糖尿病、高脂血症などの治療が必要
  • 抗血小板療法
    アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬を用いて、再梗塞の予防を行う
  • 血液薄化療法
    ワルファリンや新しいDOACなどの抗凝固薬を用いて、再梗塞の予防を行う
  • 血管拡張薬
    脳血管を拡張して、脳への血流量を増やす効果がある
  • 認知症改善薬
    アリセプトやメマリーなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が、認知症状の改善に有効であるとされている
【周辺症状に対する治療】
  • 身体機能の改善
    理学療法や作業療法、スポーツなどを用いて、筋力やバランスを改善することで、転倒の予防や日常生活動作の支援を行う
  • 認知症改善薬
    中核症状に加えて、注意力低下や記憶力低下などの周辺症状も改善するため、アリセプトやメマリーなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が用いられることがある
  • 抗うつ薬
    抑うつ症状がある場合には、抗うつ薬が投与されることがある。また、抗うつ薬は脳内のセロトニンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質を増やすことで、注意力や興味関心、集中力などの改善にも役立つことがある。

皮質下性血管性認知症

皮質下性血管性認知症(subcortical vascular dementia, SVD)は、小脳や脳幹、脊髄に生じた微小血管障害によって引き起こされる認知症です。
SVDは、白質病変、小脳症状、脳幹症状を示すことが特徴であり、多発性微小梗塞(lacune)や、脳実質の微小出血(microbleeds)、白質病変などがみられます。また、SVDの主要な原因としては高血圧や動脈硬化が挙げられ、アルツハイマー病と並んで高齢者に多く、認知症の原因としては重要なものの一つとされています。

皮質下性血管性認知症の画像所見

皮質下性血管性認知症(SVD)の画像所見には、次のような特徴があります。

  • 後頭部の白質病変が目立つ
  • 小脳と基底核の障害が認められることがある
  • MRIにおいて、T2-加重画像においては、高信号域が、FLAIR画像においては、低信号域が見られることがある
  • 椎骨内動脈や大脳の分岐部分に狭窄や閉塞が認められることがある

また、皮質下性血管性認知症に関連する病理学的特徴として、皮質下白質脳変性、微小血管病変、脳室周辺白質病変が知られています。MRIによる脳の検査が重要です。

大脳皮質型血管性認知症

大脳皮質型血管性認知症(CVD)は、脳血管障害に起因する認知障害の一形態で、脳の大脳皮質に影響を与えます。
主な病因は脳梗塞、脳出血、脳血管炎、小血管障害などです。CVDは、加齢、高血圧、糖尿病、高脂血症、心血管疾患、喫煙などのリスク要因と関連しています。
臨床症状には、認知機能障害、運動障害、感覚障害、言語障害などがあり、アルツハイマー病などの神経変性疾患と区別されます。治療には、基礎疾患の治療、血栓溶解療法、抗血小板薬、脳脊髄液シャントなどがあります。

大脳皮質型血管性認知症の画像所見

大脳皮質型血管性認知症(CVD)の画像所見は、脳血管障害が脳の大脳皮質部位に局在することによって特徴づけられます。CVDの主要な画像所見には次のようなものがあります。

  • 多発性脳梗塞灰白質変化(WMLs):T2加重画像やFLAIR画像で高信号域として現れます。これらは、小さな脳梗塞の穿孔によって発生する小さな出血災変の結果として現れます。
  • 硬化性小脳変性症(SCA):T2加重画像やFLAIR画像で、小脳白質の高信号域を示します。
  • 脳室周囲白質腫瘍(PVWM):T2加重画像やFLAIR画像で、脳室周囲の白質領域で見られる高信号域です。
  • ミクログリア反応:TSPO PET画像で、CVD患者では炎症性のミクログリア反応が見られます。

これらの画像所見は、CVDによって引き起こされる脳の変化を示しています。

戦略的脳部位の梗塞による認知症

戦略的脳部位の梗塞による認知症は、特定の脳部位に梗塞が起こり、その梗塞部位が認知症の原因となる疾患です。梗塞部位によっては、脳梗塞が起こる前までは認知症の症状がなかった場合もあります。

このタイプの認知症は、脳の前頭葉や額頭葉、側頭葉の一部など、戦略的な脳部位に梗塞が起こることが一般的です。認知症の症状は、梗塞部位の場所や大きさによって異なりますが、注意力、言語、思考力、計画的な行動などの認知機能が低下します。

戦略的脳部位の梗塞による認知症の治療は、主に原因となる脳梗塞の治療が中心となります。予防としては、高血圧、高脂血症、糖尿病などのリスクファクターのコントロールや、喫煙、運動不足などの生活習慣改善が推奨されます。

戦略的脳部位の梗塞による認知症の画像所見

戦略的脳部位の梗塞による認知症の画像所見としては、脳梗塞部位に応じた脳の萎縮が見られることがあります。また、脳梗塞部位周辺の白質の変性や萎縮も見られることがあります。これらの変化は、MRIなどの脳画像検査によって観察されます。ただし、このタイプの認知症には、梗塞が生じる脳の部位によって、様々な症状や画像所見が現れるため、症例によって異なります。

軽度認知障害

軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)とは、認知症の前段階の状態で、認知症に進展する可能性が高いとされる状態のことを指します。
MCIの人は、日常生活において一定程度の認知機能の低下があるものの、それによって社会的・職業的な機能に支障をきたすほどではありません。MCIの症状には、記憶力の低下、言葉の出しにくさ、判断力の低下、物忘れなどが含まれます。

ただし、MCIが必ずしも認知症に進展するわけではありません。病気の進行が非常にゆっくりであったり、治療やリハビリテーションによって改善される場合もあります。また、MCIの人のうち、ある一定割合が認知症に進展する可能性があるため、適切な診断とフォローアップが必要です。MCIの診断には、一般的に認知機能検査や脳画像検査などが用いられます。

軽度認知障害の臨床所見

軽度認知障害(MCI)の臨床所見は、通常の年齢相応の認知機能の変化よりも進行が著しく、認知症ではないものの、一般的な日常生活に支障をきたす程度の軽度の認知障害が見られる状態です。主な臨床所見は、次のとおりです。

  • 記憶障害
    一般的には、新しい情報や出来事を覚えることに困難を感じることが多く、繰り返し確認することが必要になる場合があります。
  • 認知機能の低下
    情報処理能力が低下し、言語、空間、時間、計算などの認知機能に支障が出ることがあります。
  • 仕事や趣味に影響がある
    日常生活において、仕事や趣味などの活動に支障が出ることがあります。
  • 社交的な相互作用に影響がある
    コミュニケーションや社交的な相互作用に支障が出ることがあります。

これらの症状は、MCI患者によって異なります。また、MCIは、一般的には認知症に進展する可能性があるため、早期に治療を受けることが重要です。

前頭側頭型認知症・前頭側頭葉変性症

前頭側頭型認知症(FTD)は、主に前頭葉や側頭葉における神経細胞の変性や萎縮によって引き起こされる認知症の一種であり、主に中年期から高齢期にかけて発症します。
FTDは、認知症の中でも比較的少ない疾患であり、アルツハイマー病やレビー小体型認知症といった他の形態の認知症と区別されます。FTDは、個性や社会的行動の変化、判断力の低下、言語障害などの症状が現れ、抑うつや不安などの精神症状も伴うことがあります。

前頭側頭葉変性症(FTLD)は、FTDを含む一群の神経変性疾患の総称であり、約40%がFTDを引き起こします。FTLDには、Tauタンパク質やTDP-43タンパク質の異常が原因で発症するFTD-tauやFTD-TDP、FUSタンパク質の異常が原因で発症するFTD-FUSなど、いくつかの異なる亜型があります。FTLDは、主に40歳から70歳の間に発症することが多く、症状は徐々に進行します。FTDの症状は、脳のどの部分が影響を受けるかによって異なりますが、個性の変化、社会的行動の変化、判断力の低下、言語障害などが一般的です。

FTDまたはFTLDの臨床症状

前頭側頭型認知症(FTD)または前頭側頭葉変性症(FTLD)の臨床症状は、主に次の3つのカテゴリーに分類されます。

  • 行動・性格の変化
    パーソナリティの変化、社会的・倫理的判断力の欠如、感情の欠如、刺激的な行動の増加、不適切な社会的行動、自己中心的な態度などが挙げられます。
  • 言語の障害
    言語能力の低下、文章を理解する能力の低下、語彙の減少、話し方の変化、固定された言葉遣い、文法の誤りなどが挙げられます。
  • 運動機能の障害
    運動失調、不随意運動、筋肉の萎縮、拘縮、失調、失行動、局所性の筋萎縮、筋緊張、筋力低下、徐々に進行する筋疾患などが挙げられます。

これらの症状は、FTD/FTLDの3つの亜型のうちの1つに関連していることがあります。亜型には、行動変容型(bvFTD)、原発性進行性失語症(PPA)、運動失調型(MND-FTD)があります。

プリオン病

プリオン病とは、異常プリオンタンパク質の蓄積により、神経細胞が死滅して神経機能が障害される疾患群のことを指します。プリオンタンパク質は正常な場合には神経細胞の生存や機能維持に関わるたんぱく質であり、脳や中枢神経系に広く分布していますが、異常プリオンタンパク質が蓄積すると神経細胞に障害をもたらします。プリオン病には、クロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、臨床的に異なる疾患が含まれます。

プリオン病の特徴的な点は、伝染性であることです。感染した場合、異常プリオンタンパク質が蓄積することにより、神経細胞が変性し、死滅していきます。この過程は比較的ゆっくりと進行することが多く、脳に穴が開いたような病巣が形成されます。

プリオン病の原因は、通常、異常プリオンタンパク質を含む組織や物質を摂取したことにより感染することが考えられています。感染源は、脳や中枢神経系の組織、神経系を含む人や動物の体液や組織、感染した家畜からの食品などが挙げられます。遺伝的な要因も関与することがあります。

プリオン病は、症状が現れてからの治療法が限られているため、特に感染リスクがある人々は、感染源を避けることや衛生管理に配慮することが必要です。

感染性認知症による進行麻痺

感染性認知症による進行麻痺は、感染症によって引き起こされる認知症の一形態で、進行性の運動障害が特徴的です。感染症によって細胞外蛋白質の凝集が引き起こされ、神経細胞が死滅するため、神経変性が進行し、筋肉の緊張や弛緩の調整に関わる前頭葉や頭頂葉が萎縮することで運動障害が生じます。

代表的な感染症としては、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が挙げられます。CJDは、異常なプリオンタンパク質の蓄積によって引き起こされる、非常にまれな神経変性疾患です。他にも、ウエストナイル熱、エイズ関連脳症、敗血症性脳症などが感染性認知症を引き起こす原因となることがあります。治療法としては、原因となる感染症の適切な治療が必要です。

HIV(エイズ)認知症

HIV(エイズ)認知症は、HIVウイルスが中枢神経系に侵入し、脳や脊髄に炎症を引き起こすことで発症します。HIVウイルスは脳細胞に直接感染することがあります。また、HIV感染によって免疫機能が低下することで、脳炎や脳卒中を引き起こすリスクが高まります。

HIV認知症の症状は、認知症、うつ病、不安、運動障害、感覚異常、脳神経障害、てんかん発作などがあります。初期症状は、軽度の認知障害や注意力の低下、判断力の低下、思考速度の低下などです。病気が進行すると、記憶障害、認知症、運動障害、感覚障害、言語障害などが現れます。

HIV認知症の治療には、HIVウイルスの増殖を抑える抗レトロウイルス療法(ART)が使用されます。ARTは、脳炎や脳卒中を引き起こすHIVの増殖を抑えることで、認知症症状を改善することができます。また、神経学的症状の治療には、抗てんかん薬や抗うつ薬が使用されます。

  • 「認知症ケアQ&A」(杉山泰介、廣済堂出版)
  • 「認知症診療マニュアル」(加藤徹、医学書院)
  • 「認知症の介護とケア」(高橋千晶、中央法規出版)
  • 「認知症患者の家族のためのケアブック」(石田昌子、南江堂)
  • 「認知症の看護ケア」(神田由紀子、医学書院)
  • 「認知症を理解する」(宮下順子、PHP研究所)
  • 「認知症と向き合う」(西野芳彦、講談社)
  • 「認知症の人を理解する」(河村和子、中央法規出版)
  • 「認知症介護の実践」(田中勝美、医学書院)
  • 「認知症を生きる」(高橋源一郎、講談社)
  • 「標準精神医学第8版」(尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉/医学書院)
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