7つの睡眠-覚醒障害群と16の臨床症状と疫学病因・病態
睡眠と覚醒は密接に関連し、どちらかが影響を受ければ、他方にも影響が及びます。例えば、睡眠が障害されると、日中の覚醒度や注意力に問題が生じやすくなります。その一方で、覚醒が乱れると、睡眠の質やパターンに変化が現れることがあります。
睡眠関連呼吸障害は、精神疾患と密接な関連があり、精神症状の悪化を促進させることがあります。実際に、精神疾患の患者の中で、約4人に1人が睡眠関連呼吸障害を抱えています。このような障害は、睡眠の質を低下させ、日中の生活に影響を及ぼす可能性があり、その治療や管理は重要です。
不眠症や過眠症は、単に睡眠時間や夜間の症状の程度だけでなく、日中の生活への影響を考慮して評価すべきです。つまり、これらの睡眠障害は、個人の日中の機能や生活品質にどのような影響を及ぼしているかが重要な要因となります。それに基づいて、適切な診断と治療が提供されるべきです。
睡眠と覚醒の調和が維持され、睡眠障害が適切に評価され、治療されることで、個人の身体的および精神的健康をサポートすることが可能となります。
睡眠-覚醒障害の疾患概念
睡眠-覚醒障害には、さまざまな病態が含まれており、ICSD-3(第3版 国際睡眠障害分類)に基づいて分類されています。次に、疾患概念について3つの一般的な睡眠異常パターンとICSD-3による7つの障害群を紹介し、それぞれを解説します。
一般的な睡眠異常パターン
- 不眠症(Insomnia)
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不眠症は、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒など、十分な睡眠を得ることが難しい症状を特徴とします。不眠症は主に初期不眠症、中間不眠症、末期不眠症の3つのタイプに分けられます。
- 過眠症(Hypersomnia)
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過眠症は、過度の眠気や日中の過度の眠りを特徴とします。これには、ナルコレプシー(突然の睡魔)、概日リズム睡眠障害、過度の睡眠(長時間の夜間睡眠と日中の居眠り)などとなります。
- 睡眠時障害(Parasomnia)
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睡眠時障害は、睡眠中に異常な行動や現象が起こる障害です。これには、夢酷夢症、寝ぼけ症状、夜間食事障害、性交中の睡眠障害などとなります。
ICSD-3による7つの障害群
ICSD-3は、睡眠-覚醒障害を7つの主要な障害群に分類しています。
ICSD-3による7つの障害群 |
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不眠症障害(Insomnia Disorders) |
初期不眠症、中間不眠症、末期不眠症などの不眠症に関連する障害などになります。 |
睡眠時障害(Sleep-Related Breathing Disorders) |
睡眠時無呼吸症候群(SAS)、中等度および重度の無呼吸症候群などになります。 |
概日リズム睡眠障害(Circadian Rhythm Sleep-Wake Disorders) |
時差ぼけ、非24時間睡眠覚醒障害、不眠症型概日リズム障害などになります。 |
過眠症障害(Hypersomnolence Disorders) |
ナルコレプシー、特発性過眠症、再帰性過眠症などになります。 |
睡眠-覚醒周期障害(Parasomnias) |
錯乱性覚醒、睡眠時游行症、夜間食事障害、寝ぼけ症状などとなります。 |
睡眠運動障害(Sleep-Related Movement Disorders) |
レストレスレッグ症候群(RLS)、周期性四肢運動障害(PLMD)などになります。 |
その他の睡眠障害(Other Sleep Disorders) |
睡眠時低酸素障害、睡眠関連の片頭痛、中途覚醒後の焦燥症候群など、他の特定のカテゴリには入らない睡眠障害などになります。 |
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睡眠障害の鑑別診断の手順
睡眠障害の鑑別診断は、患者の症状と臨床所見に基づいて行われます。
睡眠障害の鑑別診断の一般的な手順を示しますが、これは概略的なものであり、実際の診断は医師や睡眠専門家による詳細な評価が必要です。
このフローチャートでは、最初に患者の主訴を収集し、次に睡眠障害の種類を特定します。それから、症状を詳細に評価し、睡眠日誌の取得や身体検査、必要に応じて血液検査や画像検査を行います。その後、睡眠障害を鑑別診断し、診断が確定する場合は治療計画を立案します。
治療のモニタリングと調整が行われ、治療の効果が評価されます。必要に応じて治療が修正され、治療結果が評価され、治療が成功したかどうかが確認されます。
1 | 開始 | 9 | 診断が確定する場合 |
2 | 患者の主訴を収集 | 10 | 治療計画の立案 |
3 | 睡眠障害の種類を特定 | 11 | 治療のモニタリングと調整 |
4 | 症状の詳細な評価 | 12 | 治療効果の評価 |
5 | 睡眠日誌の取得 | 13 | 治療の修正 |
6 | 身体検査 | 14 | 治療結果の評価 |
7 | 血液検査・画像検査 | 15 | 治療成功の確認 |
8 | 睡眠障害の鑑別診断 | 16 | 終了 |
このフローチャートは、睡眠障害の鑑別診断の一般的な手順を示していますが、個々の症例によって異なります。また、睡眠障害の診断と治療は、患者の個別の症状や状態に合わせて行われるべきです。診断と治療には医師や睡眠専門家の専門的な判断が不可欠です。
睡眠-覚醒障害の臨床症状と疫学
睡眠-覚醒障害は、様々な症状と疫学的特徴を持つ一群の障害です。次に示すのは、一般的な睡眠-覚醒障害の一部ですが、ICSD-3には他にも多くの障害が提示されています。疫学的には、睡眠-覚醒障害は年齢、性別、遺伝的要因、生活スタイル、精神的・身体的健康状態に影響を受けることがありますので、正確な疫学データは国や地域によって異なり、特定の障害や症状によっても異なります。
不眠症(Insomnia)
- 臨床症状
不眠症の主要な症状は、入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒などの睡眠障害です。患者は十分な睡眠を得られないことに苦しみ、日中の眠気や集中力の低下、イライラなどが見られることがあります。 - 疫学
不眠症は一般的で、世界中の人々に影響を与えています。一時的な不眠症がある場合もありますが、慢性的な不眠症も存在します。特に高齢者や女性に多く見られます。
過眠症(Hypersomnia)
- 臨床症状
過眠症は、過度の眠気や日中の過度の眠りが特徴です。ナルコレプシーのように、突然の睡魔や筋肉の弛緩(カタプレキシー)があることもあります。 - 疫学
過眠症障害は比較的まれで、ナルコレプシーなどの特定の過眠症障害はよりまれです。一般的な過眠症は、若い成人や思春期の人に見られます。
睡眠時障害(Parasomnia)
- 臨床症状
睡眠時障害にはさまざまな臨床症状があります。錯乱性覚醒、睡眠時游行症、夜間食事障害、性交中の睡眠障害、歩行中の睡眠障害、寝ぼけ症状などがあります。これらは通常、睡眠中に異常な行動や現象が起こるものです。 - 疫学
睡眠時障害の発生率はさまざまで、特定の症状によって異なります。一般的に、子供や若い成人によく見られ、年齢とともに減少します。
睡眠-覚醒障害の病因・病態
睡眠-覚醒障害の病因と病態は、それぞれの障害や症状によって異なりますが、一般的な原因やメカニズムをいくつか紹介しますが、睡眠-覚醒障害は多くの場合、複数の要因が組み合わさって発症します。
総括すると、睡眠-覚醒障害の病因と病態は多岐にわたり、個々の障害や症状によって異なります。診断と治療には、患者の症状と臨床所見を詳細に評価し、必要に応じて専門家の指導のもとで行うことが重要です。
不眠症の病因・病態
- 心理的要因
ストレス、不安、うつ病などの心理的要因が不眠症の原因となることがあり、これらの要因が睡眠を妨げています。 - 生活習慣
睡眠の不規則な生活習慣、カフェインやアルコールの摂取、長時間のスマホなどのスクリーン時間などが不眠症の原因となることがあります。 - 身体的疾患
慢性疾患や疼痛、特定の薬物の副作用が不眠症を引き起こすことがあります。
不眠症の病態は、通常、睡眠調節の障害や過度の覚醒が関与しています。脳の覚醒状態を調節する神経伝達物質やホルモンのバランスが崩れることが、不眠症の症状を引き起こす一因と考えられています。
過眠症の病因・病態
- 神経学的要因
過眠症の中で最もよく知られているのは、ナルコレプシーという障害です。これは、脳のオレキシン(ヒスタミン)の制御不全によって引き起こされます。ナルコレプシーは睡眠と覚醒の調節に関与する神経系の異常に関連しています。 - 遺伝的要因
過眠症障害は家族間での発症率が高いことがあり、遺伝的要因が関与している可能性があります。 - 身体的要因
一部の過眠症障害は、脳損傷、神経系の疾患、または特定の薬物の副作用に関連しています。
睡眠時障害の病因・病態
- 神経伝達物質の異常
一部の睡眠時障害は、脳内の神経伝達物質の異常に関連しており、これが錯乱性覚醒、睡眠時游行症やカタプレキシーなどの症状を引き起こす原因となります。 - 概日リズムの異常
概日リズム睡眠障害は、体内時計の調整に関与する脳の部位に問題があることによって引き起こされることがあります。 - 遺伝的要因
一部の睡眠時障害は遺伝的要因に関連しており、家族歴がある場合、リスクが高くなります。
その他の睡眠-覚醒障害
特定の睡眠-覚醒障害には、その病因と病態に関する独自の要因が関与しています。それぞれの障害に関しては、臨床的な詳細と医学的な評価が必要です。
睡眠-覚醒障害の治療
睡眠-覚醒障害の治療は、非薬物療法と薬物治療を組み合わせることが一般的です。治療アプローチは、障害の種類、症状の重症度、患者の状態に応じてカスタマイズされます。
非薬物療法と薬物治療を組み合わせることで、症状の管理と睡眠の質の向上が可能となります。治療計画は患者の個別の状態に合わせて調整され、専門医の監督のもとで実施されるべきです。また、薬物治療には潜在的な副作用や依存性があるため、慎重に管理する必要があります。
非薬物療法
非薬物療法は、睡眠-覚醒障害の管理において重要な役割を果たします。次に示すのは、非薬物療法の主要なアプローチです。
- 睡眠衛生の改善
睡眠習慣の改善は、不眠症などの障害の管理に役立ちます。これには、規則的な寝起き時間の設定、快適な睡眠環境の整備、寝る前のリラックス技術の実践などが該当します。 - 認知行動療法(CBT)
CBTは不眠症の治療に特に有効です。CBTは、不安や抑うつなどの心理的要因を対象とし、睡眠への影響を軽減する技術を提供します。 - 光療法
概日リズム睡眠障害(例:時差ぼけや冬季季節性情動障害)の治療には、特定の時間に特定の強度の光線を暴露する光療法が有用です。 - 運動と栄養
健康的な生活習慣、適切な栄養、適度な運動は、一般的な睡眠の質を向上させるのに役立ちます。
薬物治療
薬物治療は、特定の睡眠-覚醒障害に対して有効です。薬物治療は、医師の指導のもとで行うべきであり、薬物の種類や投与量は個別の症例に合わせて調整されます。一般的な薬物治療の選択肢には次のものがあります。
- 睡眠薬
睡眠薬は不眠症の症状を緩和するのに使用されます。一般的な選択肢には、ベンゾジアゼピン系薬物や非ベンゾジアゼピン系薬物になります。 - 刺激剤
過眠症障害、特にナルコレプシーの治療には、覚醒剤様薬物(モジオデンやアリモダフィンなど)が使用されます。 - 抗うつ薬
一部の睡眠-覚醒障害には、抗うつ薬が処方されます。これは特に概日リズム睡眠障害に対して効果的です。
精神科的疾患に合併する睡眠-覚醒障害
精神科的疾患に合併する睡眠-覚醒障害は、精神疾患と同時に存在する睡眠障害のことを指します。これらの障害はお互いに影響し合い、症状や治療へのアプローチに複雑さを加えることになります。
これらの睡眠-覚醒障害が精神科的疾患と合併すると、患者の症状や生活品質にさらなる影響を与える可能性があります。精神疾患の治療プランにおいて、睡眠-覚醒障害も適切に評価され、治療が行われるべきです。これらの障害は相互に影響し合うため、総合的なアプローチが重要です。
いくつかの精神科的疾患とそれに合併する睡眠-覚醒障害を解説します。
- うつ病と不眠症
不眠症はうつ病患者の中で非常に一般的です。うつ病に伴う不眠症は、入眠困難、早朝覚醒、睡眠の質の低下などの症状を特徴とします。不眠症の存在は、うつ病の症状の悪化や回復の遅延につながります。 - 不安症状と睡眠障害
不安症状(一般的な不安障害、恐怖症、PTSDなど)は、過度の心配、緊張、不安などを伴い、これらの症状は睡眠障害と関連しています。不安症状は入眠困難、中途覚醒、夜間の覚醒、悪夢などの形で現れます。 - 統合失調症と睡眠障害
統合失調症は、幻覚や妄想などの精神症状を特徴とする疾患で、睡眠障害も頻繁に報告されています。統合失調症患者の睡眠障害は、幻覚や妄想の悪化につながります。 - 薬物乱用と睡眠障害
薬物乱用や依存症は、睡眠障害の原因となります。一部の薬物は睡眠の質を低下させ、睡眠障害を引き起こす可能性があります。 - 双極性障害と睡眠障害
双極性障害(躁うつ病)の患者は、躁状態やうつ状態に応じて睡眠パターンが変化します。過眠は双極性Ⅰ型で抗うつ薬を服用している場合に出現しやすくなり、睡眠時無呼吸症も併発することもあります。また、躁病エピソードは入眠困難と中途覚醒が現れるだけでなく、睡眠時間が短くなるのが特徴です。
精神科的疾患に合併する睡眠-覚醒障害は、主に次のような形で現れることがあります。
- 不眠症
不眠症は精神疾患との関連が非常に高い睡眠障害です。うつ病、不安障害、統合失調症、双極性障害など、多くの精神疾患の患者が不眠症を経験します。不眠症は、これらの疾患の症状を悪化させたり、回復を妨げたりします。 - 睡眠時過剰傾眠症 (Hypersomnia)
一部の精神疾患、特にうつ病や双極性障害、統合失調症などに伴って、患者は極端な昼間の眠気や過度の日中の睡眠を経験します。これは睡眠時過剰傾眠症の一形態と考えられます。 - 夢遊病やレム睡眠行動障害 (RBD)
一部の精神疾患、特に統合失調症など、脳の神経制御に異常を持つ疾患において、夢遊病やRBDのような睡眠時の異常な運動や行動が見られます。 - 過度な悪夢や寝ぼけ
一部の精神疾患、特にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を患う人々は、過度な悪夢や寝ぼけを経験します。これらの症状は、睡眠の質を低下させ、日中の機能に影響を与える可能性があります。 - 薬物乱用と睡眠障害
薬物乱用や依存症は、精神疾患と一緒に存在することがあります。一部の薬物は睡眠障害を引き起こす可能性があり、また、薬物の乱用が睡眠障害を悪化させることがあります。
睡眠-覚醒障害を引き起こしやすい治療薬の薬剤と睡眠の及ぼす影響
睡眠-覚醒障害を引き起こしやすい治療薬には、睡眠に対するさまざまな影響を及ぼすものがあり、個人差や摂取量、摂取タイミングによっても異なる影響となります。
睡眠-覚醒障害を引き起こしやすい薬剤を使用している場合、その影響を最小限にするために、睡眠の健康に対する注意を高めることが重要です。また、これらの薬剤を使用する際には、医師の指導に従い、適切な用法・用量を守ることが重要です。
一般的な睡眠-覚醒障害を引き起こしやすい薬剤のカテゴリーと、それらが睡眠に及ぼす影響について解説します。
- 刺激物質および覚醒薬
- カフェイン: カフェインは中枢神経系を刺激し、覚醒を促進する作用があります。摂取量やタイミングによっては、就寝前にカフェインを摂取すると入眠困難や睡眠の質の低下を引き起こす可能性があります。
- アルコール: アルコールは初めは眠気を誘発することがありますが、後半部分で覚醒を促進し、深部睡眠を妨げます。したがって、過度のアルコール摂取は睡眠障害を引き起こす可能性があります。
- 薬物および薬物乱用
- 覚醒薬: 薬物乱用や非合法な覚醒薬(アンフェタミン、メタンフェタミンなど)は、睡眠障害を引き起こしやすくなります。これらの薬物は覚醒を増強し、睡眠の質を低下させます。
- 一部の処方薬: 一部の処方薬(例:一部の抗うつ薬、抗不安薬、抗てんかん薬)は、睡眠のパターンに影響を及ぼすことがあり、副作用として不眠症を引き起こすことがあります。ただし、これらの影響は個人によって異なります。
- 抗ヒスタミン薬
- 一部の抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)は、眠気を引き起こす副作用を持つことがあります。これは、特にセカンドジェネレーションの抗ヒスタミン薬でよく見られます。
- ステロイド薬
- 長期間にわたるステロイド薬の使用は、不眠症や夢遊病などの睡眠障害を引き起こす可能性があります。ステロイド薬は中枢神経系に影響を与えるためです。