抗うつ薬を心理臨床において機能指標・回復の5段階の観察と他剤とトリンテリックスの比較
トリンテリックス(一般名:ボルチオキセチン臭化水素酸塩)は、従来のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)同様に神経細胞表面のセロトニントランスポーターの働きを阻害することで、セロトニン回収を妨げ、細胞外のセロトニン濃度を上昇させます。さらにセロトニン受容体調整作用(セロトニン5-HT3受容体、5-HT7受容体及び5-HT1D受容体拮抗作用、5-HT1B受容体部分作動作用、5-HT1A受容体作動作用のマルチモーダル抗うつ薬)で脳内のセロトニンを増やすだけではなく、複数のセロトニン受容体に直接働きかける「多岐序作用として、セロトニンだけでなく、ノルアドレナリン、ドパミン、アセチルコリン、ヒスタミンの分泌(遊離)を調節するメカニズムを持っています。
また、副作用はとてもマイルドで、性機能障害や離脱症状、眠気や悪心、体重増加の副作用が少ないと報告されています。
2019年に承認された比較的新しい抗うつ薬ですが、現状ではうつ病やうつ状態改善のための第一選択薬ではなく準第一選択、その他の精神症状に使われるケースが多いようです。
抗うつ薬として、S-RIMと第三世代のSSRIや第四世代のSNRI、NaSSA、S-RIMと比較と心理臨床の観点から詳しく解説していきます。

作用機序・臨床効果・副作用特性・他剤との違い
臨床現場での心理教育や服薬理解に役立つよう、作用機序・臨床効果・副作用特性・他剤との違いを、医学的に整理して解説いたします。
トリンテリックス(一般名:ボルチオキセチン)の特徴と効能
- 分類
- 抗うつ薬
- マルチモーダル抗うつ薬(multimodal antidepressant)
- 日本では主に うつ病・うつ状態(MDD) に適応
従来のSSRIは、セロトニン再取り込み阻害(SERT阻害)のみでしたが、
ボルチオキセチンは
(A)再取り込み阻害
- セロトニントランスポーター(SERT)阻害
→ シナプス間のセロトニン濃度↑
(B)受容体調整作用(ここが特徴)
| 受容体 | 作用 | 臨床的意味 |
| 5-HT1A | アゴニスト | 抗不安・抗うつ |
| 5-HT1B | 部分アゴニスト | 情動調整 |
| 5-HT3 | 拮抗 | 認知機能改善・吐き気軽減 |
| 5-HT7 | 拮抗 | 睡眠・認知改善 |
| 5-HT1D | 拮抗 | セロトニン放出調整 |
さらに結果として、ドパミン・ノルアドレナリン・アセチルコリン・ヒスタミン・グルタミン酸
などの神経伝達も間接的に調整します。
臨床的まとめ:「セロトニン量を増やす薬」ではなく、神経ネットワークのバランス調整薬
1)抗うつ効果
- 抑うつ気分
- 興味・喜びの低下
- 意欲低下
- 不安症状
効果発現は、2~4週間程度
2)認知機能改善(重要な特徴)
研究で報告されている改善領域:
- 注意力
- 作業記憶
- 処理速度
- 実行機能
これは、5-HT3・5-HT7遮断+アセチルコリン・ドパミン増加の影響と考えられています。
臨床的には:
- 「頭が回らない」
- 「集中できない」
- 「思考が遅い」
といったうつ病の認知症状に強いのが特徴です。
3)不安・緊張の軽減
5-HT1A刺激作用により
- 全般性不安
- 身体緊張
- 反すう思考
にも、効果が期待されます。
比較的少ないとされるもの
① 性機能障害
SSRIより低頻度
理由:受容体調整作用によりセロトニン過剰が起きにくい
② 離脱症状
半減期:約66時間
→ 血中濃度が安定
→ 中断時の離脱症状が比較的少ない
③ 体重増加
- ほぼ中立(weight neutral)
比較的多い副作用
最も多いもの:吐き気(10~20%)
- 特に開始初期
- 数日~2週間で軽減することが多い
その他:
- 頭痛
- めまい
- 便秘
向いているケース
- 認知機能低下が強い
- 仕事・社会機能を維持したい
- 性機能障害を避けたい
- 高齢者のうつ(比較的安全)
- SSRIで副作用が強かった
ボルチオキセチンの特徴を一言で言うと、「感情」よりも「思考・認知」を整える抗うつ薬」
そのため、クライエントの変化として:
- 頭が整理される
- 反すうが減る
- 集中できる
- 会話の理解が良くなる
という改善が見られることがあります。
心理療法との相性もよく、薬で前頭前野機能を底上げセラピー効果が入りやすくなるという臨床感覚が報告されています。
トリンテリックスの特徴
- マルチモーダル作用(受容体調整+再取り込み阻害)
- 抗うつ+認知機能改善
- 性機能障害・体重増加・離脱が少ない
- 主な副作用は初期の吐き気
- 社会機能維持型のうつに適する
第一選択薬としての使用状況(現状)
「第一選択としての位置づけ」と「適応外も含めた実際の使用場面」を、現在の処方傾向ベースで整理いたします。
第一選択として主流ではないが、第一選択として使われるケースは増加中ですが、臨床位置づけは次の通りです。
現在の第一選択の主流
うつ病初期治療では依然として
- SSRI(セルトラリン、エスシタロプラム など)
- SNRI(デュロキセチン、ベンラファキシン)
が基本です。
理由
- 長期エビデンスが豊富
- ガイドラインでの位置づけが安定
- 医師の使用経験が多い
- コスト面
トリンテリックスの位置
ガイドライン上のニュアンス:第一選択「として使用可能」しかし臨床感覚では、準第一選択(early second-line)と考える医師が多い状況です。
近年、以下のタイプでは初回から選ばれる頻度が増加しています。
① 認知症状が強いタイプ
- 頭が働かない
- 集中できない
- 判断力低下
- 仕事ができない
→ ボルチオキセチンの強み
② 社会機能維持が重要な人
- 会社員
- 管理職
- 医療・専門職
理由
- 鎮静が少ない
- 認知機能改善
- 日中パフォーマンス維持
③ 性機能副作用を避けたい場合
- 若年者
- 性的活動が重要な年齢層
④ SSRIで副作用経験あり
主な理由は4つです。
- 発売が比較的新しい(日本2019)
- 長期・大規模エビデンスがSSRIほど多くない
- 薬価がやや高い
- 医師の経験差
ただし、使用は確実に増加傾向です。
正式適応は、うつ病・うつ状態ですが、臨床では以下の場面で使用されることがあります。
1)不安症状が主体のケース
効果が期待される症状
- 全般性不安
- 反すう思考
- 心配過多
- 緊張
理由
- 5-HT1A作用(抗不安)
- 認知柔軟性改善
※適応外使用
2)軽度~中等度の認知機能低下
例
- うつ関連の認知低下
- 高齢者の抑うつ+物忘れ様症状
※認知症治療薬ではないが補助的に使用されることあり
3)双極性障害の抑うつエピソード
- 気分安定薬併用下で慎重に使用
※単剤使用は推奨されない(躁転リスク)
4)身体症状優位のうつ
- 疲労感
- 思考鈍麻
- ブレインフォグ様状態
このタイプでは臨床的に好まれることがあります。
逆に、以下では選択されにくいです。
強い症状
- 重症うつ
- 強い不眠
- 強い不安発作
- 強い焦燥
→ 鎮静が弱いため
この場合は
- ミルタザピン
- クエチアピン
- SSRI+補助薬
が選ばれることが多いです。
現在の精神科実感ベース:
SSRI / SNRI
→ 標準第一選択
ボルチオキセチン
→
- 機能回復型うつ
- 認知症状型うつ
- 社会機能維持型うつ
での第一選択または早期選択薬
トリンテリックスが使われるケースの特徴:
クライエントの主訴が
- 「考えがまとまらない」
- 「頭が回らない」
- 「反すうが止まらない」
- 「仕事ができない」
このタイプは前頭前野機能低下型うつであり、心理療法では、セラピーが入りにくいタイプ
薬で認知機能が改善すると
- 内省が深まる
- 思考の柔軟性が出る
- CBT・対話療法の効果が上がる
現在の流れ:
従来「気分を上げる薬」
現在「機能を回復させる薬」
ボルチオキセチンはこの流れの代表的薬剤です。
SSRI/SNRI/NaSSA との比較
用語をまず整えてから、S-RIM(=ボルチオキセチン)を、臨床でよく比較される SSRI/SNRI/NaSSA と「実務で選び分ける観点」で横並び比較します。
S-RIM は、ボルチオキセチンのような serotonin reuptake inhibitor and serotonin modulator(再取り込み阻害+受容体調整) を指す呼称として使われます。
「第三世代SSRI」「第四世代SNRI」という世代分類は、教科書や流派で揺れがあります(厳密な国際標準分類ではありません)。ここでは 新しめのSSRI/SNRIという臨床的な意味合いで扱います。
1) 作用機序の差(いちばん重要)
| 分類 | 代表薬(例) | 主作用 | “脳内で何が起きるか”の要点 |
| SSRI | エスシタロプラム、セルトラリン等 | SERT阻害 | セロトニン↑(主に1系統) |
| SNRI | デュロキセチン、ベンラファキシン等 | SERT+NET阻害 | セロトニン+ノルアドレナリン↑(疼痛・意欲に寄与しやすい) |
| NaSSA | ミルタザピン | α2遮断+5-HT2/3遮断 | NA/5-HT放出↑+眠気/食欲↑が出やすい(鎮静が武器) |
| S-RIM(ボルチオキセチン) | トリンテリックス | SERT阻害+複数5-HT受容体調整 | “セロトニン量”だけでなく、受容体調整でネットワークを再調律(認知症状に焦点が当たりやすい) |
2) 臨床効果の「得意領域」比較(現場向け)
| 観点 | SSRI | SNRI | NaSSA | S-RIM(ボルチオキセチン) |
| 抑うつ全般 | 標準的 | 標準〜やや強め | 標準(睡眠/食欲を立て直しやすい) | 標準(大差は出にくいが“質”が違うことがある) |
| 不安・緊張 | 得意 | 得意(人により賦活) | 鎮静で落ちることが多い | 得意寄り(反すう・認知の詰まりに効くことがある) |
| 認知症状(集中/思考速度/実行機能) | 改善は“二次的” | 改善は“二次的” | 鎮静が強いと日中は不利 | 比較的狙って改善を取りに行ける(ここが最大の差) |
| 疼痛・身体症状(神経痛/線維筋痛など) | △ | ◯(強み) | △ | △(疼痛狙いならSNRIが優位になりがち) |
| 不眠 | △(薬により) | △(賦活で悪化も) | ◎ | △(眠気は少なめで、睡眠狙いの主役にはなりにくい) |
3) 副作用プロファイルの差(よく揉める点)
| 副作用/運用 | SSRI | SNRI | NaSSA | S-RIM |
| 性機能障害 | 出やすい | 出やすい | 比較的少なめ | SSRI/SNRIより少ないことが多い(ただしゼロではない) |
| 体重増加 | 薬により | 薬により | 増えやすい | 中立〜増えにくい(傾向) |
| 眠気 | 薬により | 少なめ〜薬により | 強い | 少なめ |
| 吐き気 | あり | あり | 比較的少なめ | 出やすい(開始初期) |
| 離脱症状 | 起きやすい薬がある | 起きやすい(特に急減) | あり | 比較的軽めになりやすい(半減期の長さが寄与) |
| 併用注意(CYP等) | 薬ごとに差 | 薬ごとに差 | 比較的少なめ | 併用は要確認(ただし“最難関”ではない) |
4) 「結局、どれを先に選びやすいか」実務的な目安
- “標準的うつ+不安”で大外ししにくい
- エビデンス・経験値が圧倒的に多い

- 疼痛・身体症状が強い(慢性痛、神経障害性疼痛、線維筋痛など)
- だるさ・意欲低下が前面で、SSRIで弱いとき

- 不眠・食欲低下・体重減少が強い
- 焦燥が強く、まず睡眠を回復させたい
- 主訴が「気分」より “頭が回らない/集中できない/反すうで詰まる”
- 日中機能を落としたくない(仕事・専門職など)
- 性機能副作用を避けたい・離脱が怖い
- SSRI/SNRIで効果はあるが「認知面の改善が弱い」ケース
5) 「その他の精神症状」での使われ方(臨床での実際)
正式適応は うつ病・うつ状態ですが、実務上は
- 不安症状が主体の抑うつ(反すう・心配過多)
- ブレインフォグ様の抑うつなどで検討されることがあります(適応外含む/最終判断は処方医)。
トリンテリックスが効いているサイン
臨床でのモニタリングに使えるよう、ボルチオキセチン(トリンテリックス)特有の改善パターンを反映した「効いているサイン|心理面チェック」を、配布・面接の両方で使える形式で作成しています。
この薬の特徴は気分の改善より先に「認知・思考・機能」が整うことが多いという点です。
そのため、一般的な抗うつ薬の評価項目とは少し構造を変えています。
トリンテリックスが効いているサイン:心理面セルフチェック(20項目)
評価方法
過去2週間と比べて
0=変化なし 1=少し改善 2=はっきり改善 3=かなり改善
| Ⅰ.思考・認知の変化(この薬の最重要領域) |
| 頭の中のモヤモヤが少し晴れてきた |
| 物事を考えるスピードが少し戻ってきた |
| 集中できる時間が増えてきた |
| 会話や文章の理解がしやすくなった |
| 判断や決断が以前より楽になった |
| Ⅱ.反すう・思考の柔軟性 |
| 同じことをぐるぐる考える時間が減った |
| 悪い考えから抜け出しやすくなった |
| 「別の見方」ができるようになってきた |
| 考えが極端になりにくくなった |
| 心配や不安に飲み込まれにくくなった |
| Ⅲ.意欲・行動の変化 |
| 何かを始めるハードルが少し下がった |
| 先延ばしが減ってきた |
| 日常の作業が以前よりこなせる |
| 外出や人との関わりへの抵抗が減った |
| 「少しやってみよう」と思える瞬間がある |
| Ⅳ.感情の変化(遅れて改善することが多い) |
| 気分の落ち込みの時間が短くなった |
| 感情の波が少し穏やかになった |
| 以前より絶望感が弱くなった |
| 小さなことで少し楽・安心と感じることがある |
| 未来について完全な悲観ではなくなってきた |
判定の目安(臨床用)
| 合計点(最大60点) |
| 0~10点 |
| まだ効果初期または未反応 |
| 11~25点 |
| 軽度反応→ 服薬継続で改善余地あり |
| 26~40点 |
| 中等度反応→ 有効の可能性高い |
| 41点以上 |
| 良好反応 |
重要な臨床ポイント(トリンテリックス特有)
効果の順番
多くのケースで① 思考が軽くなる② 反すうが減る③ 行動が増える④ 気分が改善
つまり、「気分がまだ暗いのに効いていない」と誤解されやすい薬
面接での確認質問(セラピスト用)
次の質問が特に有効です:
- 「頭の回り方は少し変わりましたか?」
- 「考えが止まらない感じは減りましたか?」
- 「物事を始めるまでの重さはどうですか?」
- 「同じことを考え続ける時間は減っていますか?」
※これらが改善していれば、薬効は出始めています。
要注意サイン(効いていない可能性)
以下が4週以上続く場合は、処方医への相談を勧める目安
- 吐き気のみ続く
- 認知・集中の改善なし
- 不安や焦燥が悪化
- 活動性の低下が続く
心理臨床的な理解(重要)
この薬が効き始めるとクライエントは:
- 話の整理ができるようになる
- 内省が深くなる
- セッションの理解が進む
- 認知再構成が入りやすくなる
つまり、「心理療法の入り口が開く薬」
抗うつ薬別「効いているサイン」比較
抗うつ薬は同じ「効いている」でも、改善の出方(改善パターン)が薬理ごとに異なります。
ここを理解していると、
- 「効いていない」と早期に誤判断しない
- クライエントへの説明が適切になる
- 薬物療法と心理療法のタイミングが合う
臨床で使える形で、SSRI・SNRI・NaSSA・S-RIM(ボルチオキセチン)効いているサイン比較を整理します。
抗うつ薬別「効いているサイン」比較
改善の順序(典型)
① 不安・緊張 ↓
② 情動の安定
③ 気分改善
④ 行動回復
効いているサイン
情動面
- 不安や焦りが減る
- イライラが減る
- 心が少し落ち着く
思考面
- 悪い考えに巻き込まれにくくなる
- 過敏さが減る
行動面
- 人と関わる負担が減る
- 外出の抵抗が減る
臨床特徴
→ 情動の過敏性が下がる薬
セラピスト面接での確認質問:「心の緊張や不安はどう変わりましたか?」
改善の順序
① 身体エネルギー回復
② 疲労感の軽減
③ 活動量増加
④ 気分改善
効いているサイン
身体面
- 体のだるさが減る
- 朝起きやすくなる
- 疲れにくくなる
行動面
- 動ける時間が増える
- 作業量が増える
心理面
- 「やれる感じ」が戻る
臨床特徴
→ エネルギー系の回復薬
セラピスト面接での確認質問
「体のだるさや疲れやすさはどうですか?」
改善の順序
① 睡眠改善
② 食欲改善
③ 不安・焦燥の低下
④ 気分改善
効いているサイン
生理面
- 眠れるようになった
- 夜中に目が覚めにくい
- 食欲が戻る
心理面
- 夜の不安が減る
- 焦燥感が落ち着く
行動面
- 日中の安定感が出る
臨床特徴
→ 安全・休息回復型
臨床で重要な誤解ポイント
NaSSA服用→「まだ気分が落ちています」しかし、眠れている→食べられている=効いている
セラピスト面接での確認質問:「睡眠と食欲はどう変わりましたか?」
改善の順序
① 思考の明瞭化
② 反すう減少
③ 行動回復
④ 気分改善
効いているサイン
認知面
- 頭のモヤが減る
- 集中しやすい
- 判断しやすい
思考面
- 同じことを考え続けない
- 視野が広がる
行動面
- 取りかかりが楽
臨床特徴
→ 前頭前野機能回復型
臨床で重要な誤解ポイント
ボルチオキセチン服用→「まだ楽しくありません」しかし、集中できる→反すう減少=効いている
セラピスト面接での確認質問:「頭の回り方や集中力は変わりましたか?」
| 薬 | 最初に変わるもの | セラピー導入のサイン | 臨床的コア理解 |
|---|---|---|---|
| SSRI | 心の揺れ・不安 | 情動安定 | 情動のブレーキ |
| SNRI | 体のエネルギー | 活動量増加 | エネルギーのアクセル |
| NaSSA | 睡眠・食欲 | 睡眠安定 | 神経系の休息 |
| S-RIM | 思考・集中 | 思考整理可能 | 思考の再起動 |
「薬で何が変わり始めるかを見抜ける目」
心理臨床において求められるのは、薬理の専門知識そのものよりも、「薬で何が変わり始めるかを見抜ける目」の認識は、臨床の現場では非常に重要な意味を持ちます。
心理職に必要なのは、薬を知ることではなく、薬で起きる“心の変化の順序”を知ることです。
例えば:クライエント「まだ気分は良くなりません」
しかし実際には
- 眠れている
- 集中できている
- 外出できている
これは医学的には改善過程の中期段階です。
このときセラピストが「まだ効いていませんね」と言うと、
- 服薬中断
- 不信感
- 治療ドロップアウト
につながる可能性があります。
薬が効き始めると、最初に変わるのは苦しさではなく神経機能
見るべき変化
- 話が整理されてきた
- 言葉が増えた
- 反応速度が上がった
- セッション理解が深まった
- 表情がわずかに動く
これらはすべて、神経機能の回復サインです。
薬の評価をするのではなく、クライエントに返す言葉
「まだつらさはあると思いますが、集中できる時間が少し増えていますね」「気分は重いままでも、行動が少し戻ってきています」このフィードバックは、
- 希望の回復
- 治療継続
- 自己効力感
に直結します。
診断・薬の判断をしないことよりも、変化の方向を一緒に見つけることが最も有効です。
安全な関わり方:
- 「薬が効いているかどうかは主治医と相談してください」
- 「心理面では、こんな変化が見えています」
この二層構造が理想です。
抗うつ治療でよく起きる問題は、回復初期に本人が「悪化した」と感じること
例:
- 動けるようになった→ 問題に気づく→ 苦しく感じる
これは回復過程であり、ここを理解している心理職は、治療の安定度が大きく変わります。
薬の知識が心理臨床で役立つ理由は、薬理ではなく、回復の時間軸を共有できることです。
抗うつ回復の順序(概念)
- 睡眠・身体
- 思考・集中
- 行動
- 気分
- 希望
多くの方は「4→5」を期待しますが、実際はその前に2と3が起きています
- 長時間対面
- 機能変化を丁寧に見る
- 言語化して返す
このスタイルは、薬物療法の効果を最大化する心理支援になります。
精神科医がよく言う言葉があります。薬は脳を回復させる。セラピストは回復に意味を与える。

