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統合失調症の概要と病因

目次

統合失調症の概要と歴史、疫学と病因・病態を詳しく説明!

統合失調症(SZ)は、現実感覚や思考、感情、行動などの異常を特徴とする重度の精神疾患の一つで、青年期に発症し、約120人に1人が罹患します。幻覚や妄想、錯覚、感情の平坦化、社交不安、言葉の理解や表現の困難、行動の制御困難、注意力や記憶力の低下などの症状を引き起こします。

統合失調症の症状は、患者ごとに異なりますが、一般的には思考や感情の障害が中心的な症状とされています。幻覚や妄想は、現実を錯誤する原因となり、周囲の人々との交流も困難にします。また、感情の平坦化や行動の制御困難は、社交的な場面で不自然な振る舞いを引き起こすことがあります。

統合失調症の原因はまだ完全に解明されていませんが、遺伝的要因、神経化学的異常、ストレスなどが関与すると考えられています。治療には、抗精神病薬などの薬物療法が一般的に用いられます。心理療法や社会的な支援も有効な治療法の一つとされています。

架空の症例

【ケース1】ある男性、Aさんは最近、周囲の人々の話を理解するのが難しく、意味が取れない言葉や奇妙な発想を持つようになりました。特に、会話の中で何かが自分に向けられていると感じ、時には人々が自分を監視していると感じることもあります。また、夜中には奇妙な音が聞こえることがあり、それが自分を監視していると感じることもあります。Aさんは日々の生活でもうまく振舞えなくなっており、友人や家族との交流も減ってしまいました。最近は食欲不振が続いているようで、体重も減っています。時には奇妙な発言をするようになりました。また、最近は部屋にいると突然叫び出すこともあります。

【ケース2】彼女は人前が苦手で人見知りをし、うつむいてしゃべることが多かったのですが、最近はますます社交性が失われているように感じました。彼女は不条理な幻覚と妄想に苦しみ、私には、彼女の思考のパターンをつかむことができないと感じています。最近では、彼女は自分の身体に奇妙な感覚を感じ、周囲の音や光に過敏に反応するようになっていました。彼女は私たちの会話の中で何度も話題を脱線させ、不自然な反応をすることが多くなっています。
そして、幻覚も発現するようになり、友人や家族、知らない人たちが彼女の周りにいるような錯覚をもたらします。また、聴覚幻覚により、見知らぬ人の声を聞いたり、呼びかけられたりすることがあります。このため、彼女は家に閉じこもってしまい、友人や家族との関係が悪化してしまいました。
また、彼女は妄想を抱くことが増えています。例えば、彼女は警察に追われていると信じ、常に監視されていると感じています。このようなこともあり、彼女は外出することを避け、家に閉じこもっています。

統合失調症の歴史

統合失調症は、精神医学の分野において長い歴史を持っています。最初にこの疾患が特定されたのは、19世紀のフランスの精神科医、ベネディクト・オージェによってでした。彼は「病的な自己破壊」という用語を用いて、統合失調症の特徴を説明しました。

その後、統合失調症は、ドイツのエミール・クレペリンによって、精神病の中での独自の疾患として特定され、「 認知症 praecox (早発性痴呆)」という用語が用いられました。しかし、この用語は、病的な老化という意味で誤解を招くことがあり、後に「統合失調症」という用語が一般的に使われるようになりました。

20世紀に入ると、統合失調症の症状を軽減するための薬物療法が開発され、初めての抗精神病薬であるクロルプロマジンが1950年代に登場しました。これによって、統合失調症の治療において薬物療法が一般的に使われるようになりました。

その後、統合失調症の病態生理や神経化学的異常の研究が進み、新しい抗精神病薬の開発が行われるようになりました。また、心理社会的アプローチも、統合失調症の治療において重要な役割を果たすようになりました。

現在では、統合失調症の治療において、薬物療法と心理社会的アプローチの組み合わせが一般的に用いられています。また、病態生理や神経化学的異常の研究も進み、統合失調症の治療においてより効果的な方法が模索されています。

統合失調症の疫学

統合失調症は、世界中で比較的広く分布している精神疾患の1つです。次は、統合失調症の疫学的特徴のいくつかです。

発症年齢

統合失調症の発症年齢は、10代後半から30代前半にかけてが最も多く、一般的には20代に発症することが多いとされています。世界保健機構によると、世界で約2,000万人の患者がいるとされ、厚労省の2017年の患者調査によると、広義の意味での患者数は79万人と推定されています。

性差

男女比はおおよそ1:1ですが、男性にやや多く見られる傾向があります。発病は男性の方がやや早く、ピークは男性が15〜24歳で、女性は25〜34歳です。平均発症年齢は、男性が21歳で女性が27歳とされています。

発症が12歳未満のものを小児期発症統合失調症といい、40歳以降のものを遅発性統合失調症といいます。また、60歳以上のものを最遅発性統合失調症と呼びます。

頻度

統合失調症は、世界中の人口の約0.5〜1%に発生するとされています。一方、日本においては、0.4〜0.6%程度とされています。発生率や有病率から推算される発生危険率は約0.8%であり、120人に1人罹患する疾患といわれています。

人種差

統合失調症の発症頻度には、人種差があります。アフリカ系アメリカ人の発症率が高く、アジア系の発症率は比較的低いとされています。

地理的分布

統合失調症は、社会的・文化的要因によって発症率に地理的な変異が見られます。例えば、都市部での発症率が高く、発展途上国においては、農村部での発症率が高いとされています。

遺伝的要因

統合失調症は、遺伝的要因が関与しているとされています。例えば、一卵性双生児の間での罹患率が高いことが報告されています。

以上のように、統合失調症の疫学は複雑であり、さまざまな要因によって影響を受けることが示されています。

統合失調症の病前性格

統合失調症にかかる人の病前性格については、いくつかの研究がありますが、一般的には次のような特徴が報告されています。

  • 社交性の低下
    統合失調症にかかる人は、社交性が低下し、友人関係や社会的交流が少ない傾向があります。
  • 神経症的傾向
    統合失調症にかかる人は、神経症的な傾向を持っています。例えば、不安や強迫的な傾向、人前での緊張などが報告されています。
  • 経験的感受性の高さ
    統合失調症にかかる人は、経験的感受性の高さを示すことがあります。つまり、外界からの刺激に敏感であり、直感的な思考をする傾向があるとされています。
  • 思考や行動の異常
    統合失調症にかかる人は、思考や行動の異常を示すことがあります。例えば、思考が不連続であったり、無関連な言動を繰り返すことがあります。

ただし、これらの特徴はあくまでも一般的な傾向であり、必ずしもすべての統合失調症の人に当てはまるわけではありません。また、これらの特徴があったとしても、必ずしも統合失調症になるとは限らないことに注意が必要です。

統合失調症の病因・病態

統合失調症の病因については、遺伝的、生物学的、心理社会的な要因が関与していると考えられています。

遺伝的要因

家族研究や双生児研究により、遺伝的な要因が統合失調症の発症に関与していることが示唆されています。例えば、統合失調症を発症した人の親や兄弟姉妹の発症率が高いことが報告されています。また、一卵性双生児の片方が統合失調症を発症すると、もう片方も発症する可能性が高いことが報告されています。
統計的には統合失調症患者を親に持つ子供の生涯発症危険率は約10%であり、一般人口の10倍にあたります。また、一卵性双生児における罹患一致率は約50%であるのに対し、二卵性双生児での一致率は約10%であることから発端者の近親度が高いほど生涯発症危険率は上がります。

養子研究によっても、遺伝的要因が統合失調症の発症に関与していることが示されています。例えば、統合失調症の生物学的親がいる養子は、そうでない養子よりも統合失調症を発症するリスクが高いことが報告されています。

遺伝様式と脆弱性遺伝子

統合失調症の遺伝様式については、複雑なものと考えられています。単一遺伝子の劣性遺伝、優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X連鎖劣性遺伝など、複数の遺伝様式が提唱されていますが、一つの遺伝様式だけで説明できるものではないとされています。

また、脆弱性遺伝子の病因については現在も解明が進んでいて、統合失調症に関連する遺伝子の解析から、多くの候補遺伝子が同定されています。例えば、DISC1、COMT、DTNBP1、NRG1などです。これらの遺伝子は、神経発生や神経伝達に関与していると考えられています。

一般的に、統合失調症の発症には、脆弱性遺伝子の存在が必要であるとされています。しかし、脆弱性遺伝子を持つ人が必ずしも統合失調症を発症するわけではなく、環境要因などの影響も考慮する必要があります。脆弱性遺伝子と環境要因の相互作用によって、統合失調症が発症すると考えられています。

産科的合併症、母体のウイルス感染

  • 母体のウイルス感染
    出生前に母体が感染したウイルスが、胎児の脳に影響を与えることがあると考えられています。例えば、風疹ウイルス、インフルエンザウイルス、サイトメガロウイルスなどが知られています。
  • 妊娠、出産、早期育児の問題
    胎児の発育不良、低出生体重、早産、出産時の酸素欠乏、母親との接触不足などが、統合失調症の発症リスクを高めることが示唆されています。

脳構造の異常

統合失調症は脳構造の異常が示唆されています。次にその詳細を説明します。

脳構造の変化

統合失調症患者は、脳内の灰白質や白質のボリュームや密度に変化が見られることが報告されています。
例えば、海馬や前頭前野、扁桃体などの脳領域での灰白質の減少が報告されています。また、脳内の白質での損傷や機能的接続の変化も見られます。

脳構造画像

脳構造の変化を評価するために、MRIなどの画像診断が使われます。
MRI画像では、脳内の各領域の灰白質や白質の密度や体積を評価することができます。

死後脳

統合失調症患者の死後脳の解剖により、脳内の神経細胞の異常、神経回路の変化が見られることがあります。
例えば、海馬や前頭前野などの脳領域で、神経細胞の密度が減少していることが報告されています。

これらの研究により、統合失調症は脳構造の変化と関係していることが示唆されています。ただし、この変化が病因なのか、それとも病気の進行に伴って生じる変化なのかはまだ明らかになっていません。

脳機能画像による脳血流、脳代謝

脳機能画像を用いた研究により、統合失調症患者は健常者に比べて、特定の脳領域における脳血流や脳代謝の異常が観察されています。
例えば、脳血流量を測定するPET(陽電子放出断層撮影)やSPECT(単一光子放出型コンピュータ断層撮影)による研究では、前頭前野や頭頂葉、海馬などの脳領域で、統合失調症患者は健常者よりも低下が認められます。
また、脳代謝を測定するfMRI(機能的磁気共鳴画像法)やPETによる研究では、統合失調症患者は特に前頭前野や頭頂葉、側坐核などの脳領域で脳代謝の低下が報告されています。

これらの異常は、認知機能の低下や思考・感情の調整に関わる脳領域の機能不全につながっていると考えられています。

神経科学的変化ードパミンの関与

統合失調症の神経科学的変化には、ドパミンの関与が重要な役割を果たしています。現在、多くの研究がドパミン説を支持しています。
ドパミン説によると、統合失調症の発症や症状発現には、脳内のドパミンの異常が関与しているとされています。具体的には、脳内のドパミンの量や活性が異常に増加することが原因の一つとされています。
また、脳内のドパミンシステムの異常が、認知や感情などの脳機能にも影響を与えると考えられています。
例えば、脳内のドパミン活性の異常が、統合失調症患者の妄想や幻覚などの陽性症状を引き起こす可能性があるとされています。

最近の研究では、ドパミンシステム以外の神経伝達物質や神経回路も、統合失調症の発症や症状発現に関与していることが示唆されています。このように、ドパミン説は依然として有力な説であり、統合失調症の治療法の開発にも重要な役割を果たしています。

神経科学的変化ーグルタミン酸とアミノ酪酸(GAVA)の関与

統合失調症においてグルタミン酸とGABAの神経科学的変化は、ドパミン系の異常と同様に注目されています。グルタミン酸は興奮性神経伝達物質であり、脳内で最も多く存在する神経伝達物質の1つです。統合失調症患者の脳内において、グルタミン酸の放出が異常になっていることが報告されています。また、グルタミン酸の受容体の密度が減少していることも示されています。

一方、GABAは抑制性神経伝達物質であり、グルタミン酸とは反対に興奮性を抑制する作用を持ちます。統合失調症患者の脳内において、GABAの機能的異常が報告されています。具体的には、GABA受容体の密度やGABA神経細胞の数が減少していることが示されています。

これらの変化は、統合失調症における神経伝達物質のバランスの崩れを示唆しています。グルタミン酸とGABAの神経科学的変化は、ドパミン系の異常と相互作用することが知られています。したがって、これらの神経科学的変化は、統合失調症の病態生理を理解する上で重要な役割を果たしています。

事象関連電位と眼球運動

統合失調症の神経生理学的変化に関する研究の1つに、事象関連電位 (event-related potential, ERP) に関するものがあります。ERPは、脳が特定の刺激に対してどのように反応するかを測定するために使用されます。統合失調症患者は、特定のERPコンポーネントで異常を示すことが知られています。たとえば、P300コンポーネントは、認知的処理に関与しており、統合失調症患者では遅延しています。また、N400コンポーネントは、言語処理に関与しており、統合失調症患者では増幅することが知られています。

眼球運動に関する研究もあります。統合失調症患者は、視線運動の制御に問題を抱えていることが知られています。例えば、スムーズ追跡アイボール運動の制御に問題があり、追跡課題でより多くのスキップや不規則な運動を示すことがあります。また、反射的な視線移動に関する研究でも、統合失調症患者では異常が報告されています。これらの異常は、脳内のドパミン神経伝達の変化に起因する可能性があります。

神経発達障害の仮説

統合失調症の神経発達障害に関する仮説は複数存在しますが、次に代表的なものをいくつか紹介します。

神経発達の早期段階における異常仮説

この仮説では、胎児期や幼児期に神経発達に異常が生じ、それが後に統合失調症を引き起こすとされています。
具体的には、胎児期や幼児期に遺伝子の変異や感染症などが原因で神経回路の形成や機能が異常をきたすと考えられています。

神経成熟の障害仮説

この仮説では、神経発達は正常に進行しているが、脳の成熟に問題が生じ、神経回路の正常な機能が失われることが原因で統合失調症が発症するとされています。
脳の成熟には、神経伝達物質の働きや神経回路の形成・修正が関与しており、これらの機能が失われることが統合失調症の症状につながるとされています。

シナプス可塑性の障害仮説

この仮説では、神経細胞間の情報伝達に関与するシナプスの可塑性に異常が生じ、神経回路の機能が変化することが原因で統合失調症が発症するとされています。
具体的には、神経伝達物質の放出や受容体の密度、シナプスの数や構造が変化し、神経回路の機能が失われることが統合失調症の症状につながるとされています。

これらの仮説はいずれも、統合失調症の発症において、神経発達や神経機能に異常が生じることが関与していると考えられています。しかし、統合失調症の病態は複雑で、まだ解明されていない部分も多くあります。

脆弱性のストレスモデル

統合失調症のエピソードの脆弱性のストレスモデルは、環境ストレスが遺伝的に脆弱な個人に影響を与え、統合失調症の発症や再発につながるとするモデルです。このモデルは、ストレスが統合失調症の症状を引き起こす原因となるという考えに基づいています。
このモデルでは、ストレスとは、感情的または物理的なストレス、社会的孤立、社会的支援の不足、過度の感情的負荷、身体的疾患、薬物使用などが該当します。これらのストレスは、統合失調症の発症や再発のリスクを増加させます。
また、脆弱性は、遺伝的要因、胎児期および早期の神経発達障害、社会的環境の不利な要因、ストレスへの適応性の低下などが関与しています。これらの要因は、脳の発達、機能、および構造に影響を与え、脆弱性を引き起こす可能性があります。

ストレスと脆弱性の相互作用により、統合失調症の症状が発生する可能性が高くなります。したがって、統合失調症のエピソードの脆弱性のストレスモデルは、環境ストレスが遺伝的に脆弱な個人に影響を与えることで、病気の発症や再発を説明する重要なモデルとなっています。

『統合失調症の治療―実践ガイドライン2020年版』(日本精神神経学会編集、南江堂、2020年)

『統合失調症の臨床ガイドライン』(編者:小林宏彰、発行:精神神経学会、2019年)

『精神科看護実践ガイドブック』(編者:長崎勇、発行:医学書院、2018年)

『統合失調症―診断と治療の実際』(著者:鈴木康雄、発行:中外医学社、2017年)

『統合失調症の最新治療』(編者:近藤徹、発行:医学書院、2017年)

『統合失調症と回復―その理論と実践』(著者:森川真也、発行:金剛出版、2017年)

『統合失調症の理解と対応―精神科医・看護師・臨床心理士・社会福祉士・保健師のために』(編者:糸賀幹夫、発行:医学書院、2016年)

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