
フランクルのロゴセラピー的対話構成
フランクル「生きる意味」の語りをカウンセラーが翻訳4
フランクルの哲学的表現 | クライエント向けカウンセラーの翻訳 |
「人生が我々に問いかけている」 | 「人生って、私たちが“答えを探す”んじゃなくて、“あなたは今どう生きますか?”って問いかけてくることがあるんです」 |
「意味は見つけるものではなく、見出すものだ」 | 「意味って、外から与えられるものじゃなくて、“これかもしれない”って、自分の中から少しずつ感じていくものなんだと思います」 |
「どんなに困難な状況でも、態度を選ぶ自由がある」 | 「状況を変えるのが難しくても、“自分がどう向き合うか”は、まだ自分で選べることがあるんです」 |
「将来あなたを待っている“誰か”や“何か”がある」 | 「今は何も見えなくても、これからの人生で、まだ出会ってない人や出来事が“あなたを待ってる”って考えたことはありますか?」 |
「苦しみにも意味がある」 | 「つらい出来事って、“それ自体に意味がある”って言うより、その中で自分がどう向き合ったかに、意味が宿ることがあるんです」 |
ロゴセラピー的 対話構成
目的:問いを病的ではなく、生きている証・人間らしさの表れとして受け止める
カウンセラーの語り例:
「“私は何のために生きているのか”って、すごく大きくて深い問いですよね。多くの人が、ふとしたときに感じるものです。答えが出ないままでも、こうして言葉にできるって、とても大事な一歩です。」
「今、その問いを抱えるに至った背景や、最近の気持ちを少しずつ聞かせてもらえたらうれしいです。」
目的:ロゴセラピーの3つの価値(創造/体験/態度)をもとに、「今ここ」にある意味の可能性に焦点を当てる
質問・語り例:
「最近、“これをしてよかったな”と感じることは何かありましたか?」(創造的価値)
「逆に、誰かの言葉や出来事に“救われた”と感じたことはありますか?」(体験的価値)
「苦しいときに、自分の中で何かを“選び直した”経験ってありませんか?」(態度的価値)
「意味がすぐに見つからなくても、小さな感情や行動の中に、“かけら”みたいなものがあるかもしれませんね。」
目的:問いに「答える」ことより、“問いと共に生きる”構えを支援する
カウンセラーの語り例:
「“意味が見えない”って感覚は、今も続いていますか? それとも少し景色が変わってきたような感じがありますか?」
「今、〇〇さんが大切にしている姿勢や選び方があれば、それがもう“意味を生きる”ということかもしれませんね。」
「答えが見えなくても、問いをもって生き続けること――それ自体が人生への“応え方”なのかもしれません。」
ロゴセラピー的6ステップ構成プラン
ワーク × 対話で「生きる意味」と向き合うための実践的ガイド
【全体目標】
- 「意味の不在」に苦しむクライエントに対し、意味を“探す”のではなく“見出す”姿勢を支援する
- 対話と記述式ワークを組み合わせて、意味の3価値(創造・体験・態度)に気づく土壌を耕す
- 「問いを持つ力」そのものを肯定し、答えなき問いを“生きる力”へと昇華していく
面接テーマ:「この問いと、どう出会ったのか?」
ワーク名:「今の心の風景を言葉にしてみる」
ワーク内容:
「最近、“私は何のために生きているのか”という問いが浮かんだ瞬間について、できるだけ具体的に思い出してみましょう。そのときの情景、身体感覚、心の中にあったことを、自由に言葉にしてみてください。」
セラピストの対話例:
「この問いが“自分の内側”から出てきたのか、“外側の何か”によって引き出されたのか…どちらに近い感じがしますか?」
「“こんなことを考えるなんて変だ”と思う人もいますが、この問いは実は、健康や成長の表れでもあるんです。」
「ここに、〇〇さんの“何かを大切にしたい”という気持ちがあるように感じます。」
1. いま、心に浮かんでいる“風景”は?
2. それは、どんな色・音・気配ですか?
3. それを言葉にすると、自分の気持ちはどんなふうに動きますか?
書き込み欄例:
- そのときの場所/時間/状況:
- 心に浮かんだ言葉や感覚は?:
- 誰かの顔が浮かんだ?浮かばなかった?:
- それは「問い」でしたか?それとも「気づき」でしたか?:
- 質問例:「“生きる意味”という問いが浮かぶとき、どんな気持ちになりますか?」
- 意味の問いを否定・解釈しすぎず、共に立ち止まる姿勢を大切にする
- フランクルのコペルニクス的転回の翻訳版(前述)を紹介
面接テーマ:「この問いは、どんな“存在の願い”から生まれたのか?
ワーク名:“こんなふうに生きたかった”を聴く
ワーク内容:
「『私は本当は、こんなふうに生きたかった』という想いや希望が、問いの奥に隠れていることがあります。たとえ今はそれが叶っていなくても、その“願い”の存在を大切に聴いてみましょう。」
セラピストの対話例:
「“こんなふうに生きたかった”という気持ちが、今の問いの形をとって表れているのかもしれませんね。」
「その願いがあるからこそ、苦しんでいるのかもしれません。だからこそ、大切なものだとも思えます。」
1. 本当はどんなふうに生きたかった?
2. それを思い出したとき、どんな気持ちになりますか?
3. 今、その願いはどこにありますか?
書き込み欄例:
- 本当はこんなふうに生きたかった、という願いは?:
- それを思い出したとき、どんな気持ちになりますか?:
- 今、その願いは、どこにあると思いますか?消えてしまった?まだ残っている?:
面接テーマ:「自分にとって“価値”があると感じた瞬間は?」
ワーク名:“意味の芽”だったかもしれない場面を思い出す
ワーク内容:
「過去に“ちょっとだけ心が動いた瞬間”“これは大切だったかもしれない”と感じた場面を思い出してみましょう。それが、あなたにとっての“価値”との接点かもしれません。」
セラピストの対話例:
「“意味があるかないか”は、外から与えられるものではなく、あなた自身が“感じたこと”の中にあります。」
「ささいな瞬間でも、それが“生きる意味の芽”になることもあるんです。」
1. 最近(または昔)、ふと心が動いた出来事は?
2. そのとき何が“価値あること”に感じられましたか?
3. それは今のあなたとどうつながっていますか?
書き込み欄例:
- 最近(または昔)、ふと心が動いた出来事は?:
- そのとき、何が“価値あること”のように感じられましたか?:
- 誰かとの関係/何かを作る・伝える/ただ感じる…どの価値のタイプでしたか?:
- それは、今のあなたとどうつながっていますか?:
面接テーマ:「受け取ってきたものの中に、何かはあるか?」
ワーク:「感動・安心・癒しを感じた場面」を思い出す
- 質問例:「最近、“心が動いた”体験はありますか?」
- 最近、心が自然と動いた出来事(感動、癒しなど)はありますか?
- 子どもの頃、大切に思っていた場所や時間はありますか?
- あなたが「大切にされている」と感じた経験はありますか?
- あなたの中に残っている「忘れられない言葉」はありますか?
- 誰かとの関係の中で、「生きていてよかった」と感じた瞬間は?
- 美しい風景・音楽・芸術などに触れて、救われたことはありますか?
映画・景色・誰かの言葉など、「受け取る価値」への感受性を開く。
“意味を感じる力”がまだ生きていることに気づいてもらう
面接テーマ:「何をしていると、自分でいられる気がするか?」
ワーク:「これをやってよかった」と思えることリスト
- 質問例:「今までの人生で、“これをやって誇らしかった”経験はありますか?」
- 最近、「これをしていると自分らしい」と思える活動はありますか?
- あなたが時間を忘れて没頭できることは何ですか?
- 誰かに「ありがとう」と言われて、心に残っていることはありますか?
- 今までの人生で「これはやってよかった」と思える挑戦は何でしたか?
- 自分が役に立った、貢献できたと感じた瞬間はいつですか?
- 「もし1日自由に過ごせるなら、どんなことに取り組みたいですか?」
仕事・家庭・趣味・人との関係性など、自分の力で“生み出したこと”に目を向ける
面接テーマ:「どうにもならない中で、自分は何を選べるか?」
ワーク:「苦しみの中で、自分が選んだもの」
- 質問例:「変えられなかった状況の中で、“自分で選んだ姿勢”ってありましたか?」
- 苦しい状況の中で、何を支えにしてここまで来られましたか?
- 「あのとき逃げなかった」「踏みとどまった」自分を覚えていますか?
- 変えられない現実に対して、自分が選んだ“向き合い方”は何でしたか?
- 「これは意味があった」と思える苦しみはありますか?
- あなたが“あえて選んでいる姿勢”はどんなものでしょう?
- 絶望しそうなとき、自分にどんな言葉をかけてきましたか?
ここで初めて「苦しみの意味」に触れるが、肯定や美化を避けることが重要
面接テーマ:「この苦しみに、“意味があるかもしれない”としたら?」
ワーク名:苦しみが問いかけてきたことを言葉にしてみる
ワーク内容:
「今抱えている(または過去に経験した)“苦しみ”が、もし何かをあなたに問いかけていたとしたら、それはどんな問いだったと思いますか?」
セラピストの対話例:
「苦しみを、“ただの傷”としてではなく、“問い”として聴き直すことで、少し違う景色が見えてくるかもしれません。」
「意味のすべてが今見えなくても、“意味があるかもしれない”という仮の視点を持つことで、自分との関係が変わっていくこともあります。」
1. 苦しかった出来事は?
2. その苦しみを通して、自分に問われていたことは?
3. “意味があるかもしれない”としたら、どんな意味?
書き込み欄例:
- 苦しかった出来事、または今苦しんでいることは?:
- その苦しみを通して、自分に問われていたと感じることは?:
- 「この苦しみの意味は、〇〇かもしれない」と思えることがあるとしたら?:
- 今、それをどう受け止め直したいと思っていますか?:
面接テーマ:「答えがないことを、どう生きるか」
ワーク名:“意味の不在”との関係を見つめ直す
ワーク内容:
「“意味が見えない”“わからない”と感じるとき、自分はどう感じて、どうふるまう傾向があるのか――過去と現在をふりかえりながら、“意味の不在”との付き合い方を見直してみましょう。」
セラピストの対話例:
「“意味が見つからない”という時期は、実は誰の人生にもあります。」
「それを“自分のせい”にしてしまう方も多いけれど、意味の“空白”は成長の通過点でもあるんです。」
「問いとともに生きている、そのプロセス自体がすでに“応答”だと思いますよ。」
1. “意味が見えない”と感じたときの体験は?
2. そのとき、どんなふうに自分と向き合っていましたか?
3. “意味のなさ”と、どう付き合っていきたいですか?
書き込み欄例:
- “意味が見えない”と感じた出来事は?(過去/最近):
- そのとき、自分の気持ち・考え方・行動は?:
- それは「避ける」「耐える」「受けとめる」どの傾向だったと思いますか?:
- 今、どう向き合ってみたいですか?:
- 質問例:「“意味が見えない”とき、自分はどう過ごしてきたか?」
- フランクルの語りを再度紹介し、「生きている限り、意味の可能性はある」と共有する
面接テーマ:「“自分にとっての意味”に、今どこまで触れられたか?」
ワーク名:今の自分にとっての“意味の仮説”を書く
ワーク内容:
これまでのプロセスをふり返って、“今の自分にとっての意味”を仮の言葉で構いませんので書き出してみましょう。
セラピストの対話例:
「“完璧な意味”じゃなくていいんです。いま、“仮の意味”を持って生きていくことの方が大切かもしれません。」
「問いの始まりに戻ってみると、あのときと“今の自分”はどんなふうに変わりましたか?」
「この仮説は、これからの日々のなかで“問い直しながら育てていくもの”でもあると思うんです。」
1. これまでをふり返って、どんなことが印象に残っていますか?
2. 今の自分にとって“意味”とは何でしょう?
3. この“意味の仮説”をこれからどう育てていきたいですか?
- 最終回で初めて「意味」という言葉を再定義
- 質問例:「今、“意味”という言葉に、どんなイメージを持っていますか?」
- 書き出し例:「まだわからないけれど、私にとっての意味は…かもしれない」
西田哲学に基づく「生きる意味」と向き合う面接
西田幾多郎の思想(特に「生きることの意味」「矛盾の中で生きる」「死を意識することによる生の意味」)をベースにした、臨床で使える対話スクリプトを示します。
対話スクリプト:西田哲学に基づく「生きる意味」と向き合う面接
テーマ:「自分はなぜ生きているのか?」
CL(クライエント):
「…正直、生きている意味がわからなくなってしまうんです。」
TH(セラピスト):
「はい…。それはとても大きくて、誰にとっても答えのない問いですね。」
「“なぜ生きているのか?” “何のために生きるのか?”――それを考えること自体、苦しい時間だったかもしれません。」
(少し間をおいて)
「実は西田幾多郎という哲学者も、“人間のもっとも深い疑問は、生まれた理由と死ぬ意味がわからないことだ”と語っています。」
「その問いと向き合う時間こそ、生きている証でもあるのかもしれません。」
TH:
「たとえば、“矛盾を抱えたままでも生きていける”ということはどう思われますか?」
CL:
「矛盾って…?」
TH:
「はい。“生きたい”と思いながら、“死にたい”と思う気持ちもある。“幸せになりたい”と思いながら、“自分なんか幸せになれない”とも思ってしまう…。
そんなふうに、心の中に反対の気持ちが同時にあるのは、ごく自然なことです。」
「西田は、“世界は矛盾に満ちていて、それをそのまま受け入れて生きていくのが人間だ”と言いました。」
CL:
「矛盾があってもいいんですね…」
TH:
「はい。どちらかに答えを出さなくても、“その矛盾を生きている自分”が、もうすでに意味のある存在なんだと思います。」
TH:
「…もし、“自分がいつか死ぬ存在だ”って、心から実感するとしたら――」
「“だからこそ、今この一瞬をどう生きよう?”って、何かが浮かぶかもしれません。」
CL:
「たしかに、いつか死ぬって思うと、今のことが大事に思えてくる気もします。」
TH:
「そうですね。西田も、“永遠の死を知ることこそ、自分が自分である理由だ”と語っています。」
「死を考えることは、ただ怖れることではなく、“今をどう生きるか”という問いへの入り口でもあるのだと思います。」
TH:
「理屈ではなく、“ただ感じていた”時間ってありますか? 例えば、景色を見て心が動いたとき、誰かの言葉に胸を打たれたとき…。」
CL:
「…この前、友だちの言葉で、急に涙が出てきたことがあって。」
TH:
「それがまさに、西田のいう“純粋経験”に近いかもしれません。」
「言葉にならない、ただ感じたこと――それこそが、生きている意味を教えてくれることもあるんです。」
TH:
「“なぜ生きているのか”という問いに、はっきりした答えが出ないままでも、私たちは生きています。」
「そして、時にその問いを抱えたまま、誰かとつながったり、何かを感じたり、ふと微笑んだりしている。」
「それこそが、“答え”に近づいている瞬間かもしれませんね。」
西田幾多郎の哲学的ワークシート
西田幾多郎の哲学(純粋経験、矛盾的自己同一、死と生の意識)をベースに構成した、
ワークシート『いま、自分の“生きている実感”はどこにあるか?』 を示します。
このワークのねらい
項目 | 意図 |
感じたことを言葉にする | 純粋経験に近づくプロセス |
矛盾を否定しない | 「矛盾的自己同一」の受容 |
世界との関係を意識する | 自己は常に世界と共にある |
死を通して今を見る | 死を考えることで「今」に意味を見出す |
言葉にできない思いも大切にする | 哲学的問いを“生きる体験”として扱う |
ふと心が動いた瞬間。うれしかった、涙が出そうになった、言葉にならないけど胸に残っている…
そんな出来事や体験を思い出してみてください。
最近「なんとなく心が揺れた」できごと:
例:道端の花に目がとまった。 誰かの言葉が妙に心に残った。音楽を聴いて涙が出た。
→ あなたの場合:
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こんなふうに思う自分と、でも反対にこうも思う…。
矛盾しているけれど、どちらもあなたの一部です。
今、あなたの中にある「ふたつの気持ち」:
① _________________
② _________________
☑ 両方とも、本当の気持ちかもしれない。
世界はあなたを苦しめることもあれば、あなたを支える何かを差し出すこともあります。
この1週間で、「世界とつながった」と感じた瞬間を思い出してみましょう。
最近、誰かや何かに「応えた」「受け取った」と感じたことは?
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あなたが“死”を思ったとき、逆に“今の一瞬”に感じるものは何でしょうか?
死を思ったとき、あらためて「大切にしたい」と感じたこと:
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生きる意味は、時に“わからない”ままでいいのかもしれません。
でもそれでも「今日、自分は生きている」と思えるのは、なぜでしょう?
自分が「いま、生きている」と感じるのは、どんなとき?
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すぐに答えが出なくてもかまいません。
書きながら、自分の中に何が動いたか、どんな言葉が出てきたかを自由に綴ってみてください。
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