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解離性障害群の6障害の臨床症状

目次

離人感・現実感喪失障害

離人感・現実感喪失障害(Depersonalization-Derealization Disorder, DPDR) は、自己や外界に対する認識が非現実的または変容して感じられる解離性障害 です。多くの場合、ストレス、トラウマ、不安障害、パニック障害などが引き金となります。この障害の症状は、大きく 「離人感(Depersonalization)」と「現実感喪失(Derealization)」 の2つに分けられます。

  • 離人感:自分の体や意識が自分のものではないように感じる(自己の変化)
  • 現実感喪失:世界が夢のようにぼんやりし、非現実的に感じる(外界の変化)


これらの症状は、強いストレスやトラウマ、不安障害と関連し、慢性化すると生活の質を著しく低下させます。治療には、認知行動療法(CBT)、グラウンディング技法、トラウマ治療、ストレス管理 などが有効です。

DSM-5では解離症群(Dissociative Disorders)の一つとして分類され、ICD-11でも独立した診断カテゴリーに含まれます。

主要症状

離人感(Depersonalization)

離人感とは、「自分が自分である」という感覚が失われる症状のことを指します。患者は、自分自身の思考、感情、体の感覚が現実味を失い、まるで「自分がロボットになったような」「映画を見ているような」感覚を抱きます。

  • 自分自身が自分でないように感じる
  • 体、思考、感情が自分から切り離されている感覚(「ロボットのよう」「夢の中にいるよう」)
  • 鏡を見ても自分が誰かわからない、声が他人のように聞こえる
  • 感情の鈍麻(情動の喪失)
自己の感覚の変化
  • 「自分が自分でない」「自分の体が他人のもののように感じる」
  • 「鏡を見ても、自分の顔が他人のように見える」
  • 「自分の感情が鈍くなった」「感情が遠くにある感じがする」
  • 「自分の声が自分のものではないように聞こえる」
身体感覚の変化
  • 「手や足のサイズが変わったように感じる」(身体の変形感)
  • 「自分が透明人間になったような感覚」
  • 「体が現実のものではないように感じる(まるでゴムやプラスチックのよう)」
行動の自動化(オートパイロット状態)
  • 「体が勝手に動いているように感じる」
  • 「何かを話しているのは自分のはずなのに、自分が話している実感がない」
  • 「現実感のない状態で、ただ生きているような感覚」
時間感覚の変化
  • 「過去の出来事が現実ではなく、まるで夢の中の出来事のように感じる」
  • 「時間の流れが速すぎる、または遅すぎると感じる」
  • 「昨日のことが何週間も前のように感じる」
現実感喪失(Derealization)

現実感喪失とは、外界の現実性が失われ、周囲の世界がぼんやりしたり、非現実的に感じられる症状です。離人感が「自己の感覚の変化」なのに対し、現実感喪失は「周囲の環境の変化」に関する症状です。

  • 周囲の世界がぼやけたり、映画のセットのように感じる
  • 人々や物が人工的に見える、現実感が欠如する
  • 音がこもって聞こえる、視界が歪んで見える
  • 時間の感覚が異常(スローモーション、加速)
視覚の変化
  • 「世界が夢の中のように見える」
  • 「周囲の物が遠くに見える(または近くに見える)」
  • 「世界が霧がかかったように見える(現実がぼやける)」
  • 「色がくすんで見えたり、逆に鮮やかに感じることがある」
音の変化
  • 「音が遠くに聞こえる」「こもった音に聞こえる」
  • 「周囲の音が現実のものではないように感じる」
  • 「周囲の人の声がロボットのように聞こえる」
空間の変化
  • 「周囲の世界が平面的に感じる(立体感が失われる)」
  • 「距離感が狂う(遠くのものが近くに、近くのものが遠くに感じる)」
  • 「建物や道が見慣れたはずなのに、まるで初めて訪れた場所のように感じる」
人間関係の変化
  • 「親しい人が知らない人のように見える」
  • 「家族や友人と話していても、まるで映画の登場人物と話しているような感覚」
  • 「周囲の人がロボットのように見えたり、感情を持っていないように感じる」
離人感と現実感喪失の共通症状
自己と世界の乖離感
  • 「自分が現実に存在しているのかわからない」
  • 「自分と世界が切り離されている感覚がある」
  • 「目の前の出来事が現実ではなく、フィクションのように感じる」
不安やパニック
  • 「このまま現実に戻れないのではないかという恐怖」
  • 「自分が狂ってしまうのではないかという強い不安」
  • 「身体は健康なのに、意識が現実から切り離されてしまっているような感覚」
記憶のあいまいさ
  • 「最近の出来事を思い出すのが難しい」
  • 「会話した内容や、自分が何をしていたかを思い出せない」
  • 「頭がぼんやりしていて、集中できない」
慢性的な感情の鈍麻
  • 「嬉しい、悲しいという感情が湧かなくなる」
  • 「感動するはずの場面でも何も感じない」
  • 「愛する人がいても、愛情が実感できない」
その他の特徴
  • 現実検討能力は保たれている(精神病性障害とは異なり、非現実的な感覚が「自分の錯覚である」と理解できる)
  • ストレスや不安で症状が悪化 しやすい
  • 慢性化しやすく、再発を繰り返す

離人感・現実感喪失障害の特徴

症状の一過性 vs. 慢性化
  • 一時的な離人感・現実感喪失は 強いストレスや睡眠不足、過労、薬物使用 などでも起こることがある。
  • 慢性化すると「離人感・現実感喪失障害(DPDR)」として診断される。
トリガー(引き金)
  • 強いストレス(人間関係、職場、家庭問題)
  • トラウマ(虐待、事故、暴力、死別)
  • パニック発作や強い不安症状
  • 過労や睡眠不足
  • 薬物やアルコールの影響
  • 瞑想や感覚遮断の影響(過度な自己観察が解離を促す場合もある)
共存しやすい疾患
  • パニック障害
  • PTSD(心的外傷後ストレス障害)
  • 強迫性障害(OCD)
  • 解離性障害(DIDを含む)
  • うつ病・不安障害

疫学・病因病態(Epidemiology & Pathophysiology)

疫学
  • 生涯有病率:1〜2%
  • 発症年齢:10代後半~20代前半(平均発症年齢16歳)
  • 性差:男女差なし
  • 発症契機
    • トラウマ(虐待・いじめ・暴力)
    • 極度のストレスや不安
    • 解離を起こしやすい素因
    • 薬物(大麻、幻覚剤、MDMA)による誘発
病因(Etiology)

DPDRの発症には、トラウマやストレス応答が関与していると考えられる。

  • トラウマ理論(Trauma Model)
    • 幼少期の虐待、家庭内暴力、学校でのいじめがリスク要因
    • 極端なストレス下での適応反応として発症
    • PTSDと高い合併率
  • 情動処理の異常(Emotion Processing Dysfunction)
    • 扁桃体の機能低下 により、情動が過度に抑制される
    • 感情の鈍麻(Emotional Numbing) が生じる
  • 認知理論(Cognitive Model)
    • 解離に対する 過度の意識的な焦点化(「自分が現実から切り離されているのでは?」という自己モニタリングが悪化要因)
    • 不安障害や強迫性障害との関連が深い
病態生理(Pathophysiology)
  • 前頭前野の過剰な制御 → 扁桃体の抑制 → 感情の消失
  • 島皮質(Insular Cortex)の異常 → 自己感覚の歪み
  • 前帯状皮質(ACC)の低活動 → 注意の過度な内向き傾向

ICD-11診断基準

  1. 持続的または反復的な離人感または現実感喪失のエピソード
  2. 現実検討能力は保たれている
  3. 苦痛や日常生活の機能障害を引き起こす
  4. 他の精神疾患、神経疾患、薬物の影響によるものではない

経過・予後(Course & Prognosis)

経過・予後
経過
  • 発症は急性または慢性
  • ストレスの増大で再発しやすい
  • 半数は慢性化し、長期間持続
  • 改善は可能だが、完全な寛解は少数
経過・予後
予後
  • 早期治療で軽快することもある
  • PTSDや不安障害が併存すると長期化しやすい
  • トラウマ処理や認知再構成を行うことで改善可能

治療(Treatment)

治療
心理療法(Psychotherapy)
認知行動療法(CBT)
  • 「非現実感」に対する過度の意識化を減らす
  • 現実感を取り戻す訓練(グラウンディング技法)
弁証法的行動療法(DBT)
  • 感情調節スキルを強化
  • 過覚醒を抑えるための「マインドフルネス訓練」
精神力動的療法
  • 幼少期のトラウマに焦点を当てる
  • 自己統合を強化
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理療法)
  • PTSDのトラウマ処理に有効
  • DPDRのトラウマ誘発型に効果的
補助的療法
  • 運動療法(ウォーキング、ヨガ):現実感を取り戻す
  • 感覚刺激(冷水に触れる、香りを嗅ぐ):グラウンディングの補助
  • 社会的支援:家族や友人とのつながりを維持
治療
薬物療法(Pharmacotherapy)

現在、DPDRに特化した治療薬はないが、以下の薬剤が補助的に使用される。

  • 抗うつ薬(SSRI・SNRI)
    • 不安、抑うつの管理
    • セルトラリン、パロキセチンなど
  • 気分安定薬(ラモトリギン)
    • 離人感の軽減に有効とされる
  • NMDA受容体調整薬(ケタミン)
    • 研究段階だが、DPDRの即時効果を示唆する報告あり
  • 抗精神病薬(非定型)
    • 解離性幻覚が強い場合に使用(オランザピンなど)

解離性転換障害/解離性神経症性障害

解離性神経症性障害(Dissociative Neurological Symptom Disorder, DNSD)/解離性転換障害(Dissociative/Conversion Disorder)は、精神的ストレスやトラウマが身体症状として表れる障害です。運動機能や感覚機能に異常が生じるものの、神経学的・医学的な原因が見つからないのが特徴です。

近年の神経科学的研究により、解離性転換障害(Functional Neurological Disorder, FND)が単なる心理的要因だけではなく、脳の機能的ネットワークの異常に関連していることが示唆されています。

臨床症状(Clinical Symptoms)

解離性転換障害の症状は、主に運動症状感覚症状に分かれます。明確な器質的損傷が見られない障害であり、これらの症状はストレス状況下で突然発症することが多く、精神的苦痛やトラウマとの関連が深いのが特徴です。

運動症状(Motor Symptoms)
  • 四肢の麻痺・脱力(手足が動かせない、歩行困難:転換性歩行障害)
  • けいれん・発作(てんかんに似た発作だが脳波に異常なし)
  • 失声(声を出せない)
  • 嚥下障害(食べ物や水が飲み込めない)
  • 異常姿勢(不自然な姿勢が続く)
感覚症状(Sensory Symptoms)
  • 失明・視覚障害(視力低下や視野狭窄があるが、眼科的検査では異常なし)
  • 難聴・聴覚障害(耳鳴りや聞こえなくなるが、耳鼻科的検査では異常なし)
  • 無痛症(痛みを感じない)
  • しびれ・感覚麻痺(体の一部が無感覚になる)
解離性症状
  • 記憶喪失、意識変容
  • 離人感・現実感喪失
  • 人格の交代

疫学・病因病態(Epidemiology & Etiology)

疫学(Epidemiology)
  • 有病率は一般人口の約0.5~2%。
  • 女性に多く(男性の2~3倍)、10~35歳の若年層で発症しやすい。
  • 発展途上国での報告が多い(文化的要因が関与する可能性)。
病因病態(Etiology & Pathophysiology)

解離性転換障害の発症には、心理的要因と神経生理学的要因が関与します。

  • 心理的要因
    • トラウマや強いストレス(虐待、DV、戦争体験など)が引き金となる。
    • 防衛機制の一つとして発症(無意識に身体症状でストレスを表現)。
    • 注意を引きたい・病的な役割を求める心理(二次的利得)も影響。
  • 神経生理学的要因
    • 扁桃体(情動処理)と運動・感覚野の機能低下
    • 異常な脳ネットワーク(機能的MRIで異常が確認される)

脳の機能的ネットワークの異常

近年のfMRI(機能的MRI)やEEG(脳波)研究により、解離性転換障害は特定の脳ネットワークの異常な機能的結合(functional connectivity, FC)と関係していることが明らかになってきました。

FNDは「心の問題」ではなく、「脳の機能的ネットワークの異常」が関与している神経疾患として捉えることが重要です。今後の研究によって、さらなる治療法の開発が期待されています。

STEP
感情制御と自己認識に関与するネットワークの異常

🔹 前頭前野(PFC)と島皮質(Insula)

  • 前頭前野(PFC, Prefrontal Cortex)は感情制御や認知機能に関与
  • 島皮質(Insula)は自己の身体状態や感情のモニタリングに関与
  • FNDの患者では、これらの領域の機能的結合が低下し、身体感覚の処理異常が生じる

🔹 扁桃体(Amygdala)と辺縁系の過活動

  • 扁桃体は恐怖・ストレス反応を制御する領域
  • FND患者では、扁桃体の過活動が見られ、ストレスやトラウマに過敏に反応する傾向
  • これにより、感情的なトラウマが身体症状として表れるメカニズムが示唆される
STEP
運動と感覚のネットワーク異常

🔹 運動系の異常

  • fMRI研究では、運動指令を出す一次運動野(M1)と補足運動野(SMA)の機能低下が観察される
  • さらに、大脳基底核(Basal Ganglia)と補足運動野(SMA)の接続が低下していることが報告されている
  • これは、「運動の意図はあるが、実行に必要な神経活動が阻害されている状態」と考えられる

🔹 感覚ネットワークの異常

  • 感覚皮質(S1, S2)の活動低下
  • 体性感覚処理の異常により、「身体の感覚が正しく認識されない」
  • これにより、「腕がないように感じる」「足の感覚がない」といった転換性の症状が発生
STEP
「トップダウン制御の異常」

解離性転換障害では、「身体運動・感覚のネットワーク」と「感情・認知のネットワーク」が適切に統合されていない」ことが示唆される。特に、前頭前野(PFC)による「トップダウン制御」の機能低下が関係していると考えられる。

  • 通常、PFCは「これは本当の麻痺ではない」と認識し、適切な運動指令を出す。しかし、FND患者では「自分は動かせない」という信念が強まり、運動制御ネットワークが抑制される。その結果、「運動麻痺」や「感覚喪失」が生じる
STEP
自己認識の異常と解離

解離性転換障害では、「自己認識」の異常が重要な役割を果たしていると考えられる。

🔹 自己認識(Self-awareness)と身体所有感の異常

  • fMRI研究では、解離症状が強い患者では、「自己認識」に関与する頭頂葉(Parietal Cortex)の活動異常が報告されている。これにより、「自分の体が自分のものではない」という感覚が生じる(離人感・解離性症状)
STEP
臨床的意義と治療の方向性

🔹 治療アプローチの示唆

  • 認知行動療法(CBT) → 「誤った身体認識や自己認識」を修正
  • グラウンディング技法 → 感覚・身体のリアリティを回復
  • 経頭蓋磁気刺激(TMS) → 運動野の機能回復
  • 神経可塑性を利用したリハビリ → 「動ける」経験を積ませる

ICD-11 による診断基準(ICD-11 Diagnostic Criteria)

ICD-11では、「解離性神経症性障害(Dissociative Neurological Symptom Disorder, DNSD)」として分類されます。

診断基準の主なポイント

  1. 運動・感覚機能の障害がある(麻痺、けいれん、失声、失明など)。
  2. 医学的・神経学的に説明がつかない(検査で異常がない)。
  3. 症状は心理的ストレスやトラウマと関連している
  4. 意識的に作り出した症状ではない(詐病や作為障害とは異なる)。

ICD-11では、個別の症状別に診断サブタイプ(例:運動症状型、感覚症状型、発作型)を細かく分類するようになっています。

経過・予後(Course & Prognosis)

  • 急性発症の場合、数週間~数か月で自然回復することが多い
  • 慢性化すると難治化しやすい(特に症状が長期化し、社会的な役割を失った場合)。
  • 治療によって回復可能だが、再発するケースも少なくない。
  • 児童・青年期の患者では、適切な心理的介入によって良好な経過をたどることが多い。

治療(Treatment)

治療
心理療法(Psychotherapy)
認知行動療法(CBT)
  • 患者の症状が心理的要因と関連していることを理解させる
  • 身体症状への注意を分散し、症状の軽減を図る。
トラウマ焦点化療法(TF-CBT, EMDR)
  • トラウマが関与する場合に有効。
  • EMDR(眼球運動による脱感作)が適応されることもある。
精神力動的療法
  • 症状の背景にある無意識の葛藤を理解し、解決へ導く。
催眠療法
  • 一部のケースで有効(解離性障害の治療の補助として)。
身体的リハビリテーション(Physical Rehabilitation)
  • 運動療法や作業療法で、症状の改善を促す。
  • 無理に歩かせる・動かすのは逆効果なので慎重に行う。
治療
薬物療法(Pharmacotherapy)

治療する薬はないが、以下の薬剤が補助的に使用される。

  • SSRI・SNRI(不安・抑うつ症状が強い場合)
  • 抗てんかん薬(解離性発作がある場合)
  • 抗精神病薬は原則使用しない(効果が乏しい)。

解離性障害(特定不能の解離性障害, DDNOS)

解離性障害(特定不能の解離性障害, DDNOS) は、DSM-IV-TRで用いられていた診断名であり、DSM-5では「他の特定される解離性障害(Other Specified Dissociative Disorder, OSDD)」および「特定不能の解離性障害(Unspecified Dissociative Disorder, UDD)」へ分類が変更されました。ICD-11では「その他の特定される解離性障害」に相当します。

DDNOS/OSDDは、解離性障害の診断基準を完全には満たさないものの、明らかに解離性の病態が認められる場合に適用されます。

主な解離症状

自己認識やアイデンティティの解離
  • 部分的な解離性同一性障害(DID)
    • 交代人格は存在するが、明確な人格交代がない
    • 一部の人格状態が意識されないまま表出される(「行動が勝手に変わるが、なぜかわからない」)
  • 「なりすまし」感覚(Feeling as if you are pretending)
    • 自分が本当の自分ではないと感じる
    • まるで「役を演じている」ような感覚
記憶の断絶(解離性健忘)
  • 重要な個人的記憶の喪失
  • 一時的な失踪(解離性遁走に近いが、完全ではない)
離人感・現実感喪失(DPDR)
  • 自分が現実世界から切り離されている感覚
  • 自分の体や感情が自分のものではないように感じる
解離性転換症状(Dissociative Conversion Symptoms)
  • 解離性発作(非てんかん性発作)
  • 感覚・運動機能の喪失(麻痺、視覚・聴覚異常など)
時間の喪失・ブラックアウト
  • 「気づいたら時間が経過していた」
  • 「知らない間に何かをしていた」
  • 自分の行動や発言を覚えていない

疫学・病因病態(Epidemiology & Pathophysiology)

疫学
  • 解離性障害全体の中で最も多い診断カテゴリー(かつてはDIDよりも多く診断されていた)
  • 生涯有病率:約2〜5%
  • 性差:女性に多い(男性も見られるが、女性の方が診断を受けやすい)
  • 発症年齢:思春期〜青年期が多い
病因(Etiology)

トラウマモデル(Trauma Model)

  • 幼少期の虐待(身体的・性的・心理的)
  • 家庭内暴力、ネグレクト
  • PTSDやC-PTSDとの関連が深い
  • 複雑性トラウマ(Complex Trauma) による解離の適応反応

解離脆弱性モデル

  • 解離しやすい体質(解離性傾向)が遺伝的または環境的に形成される
  • 空想傾向の強い子供が解離を発展させる可能性

情動調節障害

  • 強いストレス下で感情を適切に処理できず、解離として表れる
  • 過覚醒と情動麻痺の間を行き来するパターン
病態生理(Pathophysiology)
  • 前頭前野(PFC)の抑制低下 → 自己認識の不安定化
  • 扁桃体の過活動 → 恐怖記憶の強化
  • 海馬の容積減少 → 記憶の統合障害
  • 島皮質(Insular Cortex)の異常 → 自己感覚の歪み

ICD-11による診断基準「その他の特定される解離性障害」

  • DIDや解離性健忘、離人感・現実感喪失障害などの主要な解離性障害の診断基準を満たさないが、明らかに解離的な症状が存在する
  • 個別の診断基準はないが、以下の特徴を含む:
    • 部分的DID(人格交代はあるが完全ではない)
    • 強い離人感・現実感喪失
    • 解離性健忘のエピソード
    • 解離性運動・感覚障害(転換症状)

OSDD/DDNOSの詳細な診断概要

OSDDは、DIDに非常に近い症状を持つが、人格の交代が完全には成立しない場合 や、解離性健忘・離人感などの症状があるが、他の解離性障害の診断には合致しない場合 に適用されます。

OSDDには、特にDIDに近い症例(OSDD-1型) と、その他の解離性症状が目立つ(OSDD-2型)があります。

OSDD-1(DIDに近いが完全な人格交代がないタイプ)
  • DIDの診断基準をほぼ満たすが、交代人格が完全に独立していない
  • 人格の交代は部分的で、意識の分裂や強い解離はあるが、明確な独立した人格が形成されていない
  • 患者は「自分が部分的に変わる感覚」を持つが、「完全に別の人格に切り替わる」わけではない
  • 例: 異なる性格・感情・記憶があるが、それぞれの部分が互いに明確な「別の存在」とは認識されていない
  • DIDに比べ、健忘の程度が軽度

具体的な症状(OSDD-1型)

  • 部分的な人格交代感覚
    • 「自分が変わった気がする」「いつもとは違う自分がいる感じがする」
    • しかし「完全に別の人格」ではなく、連続した自己感覚が残る
  • 記憶の抜け落ち
    • DIDほど顕著ではないが、日常的に「自分がしたことの記憶がぼんやりしている」
    • 突然、意識が「飛ぶ」ように感じるが、全く別の人格として振る舞ったわけではない
  • 異なる感情状態・思考パターン
    • ある瞬間は冷静で、ある瞬間は極端に怒りっぽくなるなど、極端な気分変動がある
    • その際、「これは本当に自分なのか?」と疑問を抱くことが多い
  • 外部からの刺激で「人格スイッチ」する感覚
    • ある特定の状況(例:ストレスやトラウマ関連の出来事)で、急に自分の感じ方や振る舞いが変わる
    • ただし、「明確に別の人格になる」わけではなく、「なんとなく違う人のような気がする」
  • 強い自己同一性の混乱
    • 「自分が何者なのかよくわからない」
    • 「自分には違う側面があるけど、それが本当に自分なのか確信が持てない」
項目OSDD-1DID
人格交代部分的明確な交代
記憶の抜け落ち軽度顕著
自己同一性の混乱強いが統合されている部分もある完全に分裂
人格の独立性ある程度の連続性がある各人格が明確に独立
OSDD-2(主に解離性症状が強く、DIDに近くないタイプ)
  • DIDやOSDD-1のような「交代人格」の問題よりも、現実感の喪失や強い解離症状が主体
  • 離人感や現実感喪失を伴い、自分の行動を制御しにくい感覚がある

具体的な症状(OSDD-2型)

  • 強い離人感(Depersonalization)
    • 「自分が自分ではないような感覚」
    • 自分の身体を外から見ているような感覚
    • 感情が麻痺している、現実感がなくなっている
  • 強い現実感喪失(Derealization)
    • 世界が「夢の中」のように感じる
    • 周囲のものが「遠く」「ぼやけて」見える
    • 物理的に存在しているものが、まるで現実ではないかのように感じる
  • 記憶の不連続(Dissociative Amnesia)
    • 自分が何をしていたかの記憶が部分的に抜け落ちる
    • 生活の一部が「抜けている」感覚がある
  • トラウマ関連のフラッシュバック
    • PTSDのようにトラウマ的記憶が突然蘇ることがある
  • 感情がコントロールできない
    • 急に極端な恐怖や怒りを感じるが、理由がはっきりしない
    • 自分の感情がまるで「他人のもの」のように感じる
項目OSDD-2解離性障害(離人感・現実感喪失障害など)
離人感・現実感喪失強いあり
解離性健忘ある程度ありなし(もしくは軽度)
人格交代なしなし

経過・予後(Course & Prognosis)

経過・予後
経過
  • 発症は急性または慢性
  • 慢性化しやすいが、適切な治療で改善可能
  • トラウマ記憶の処理が進まないと症状が長期化しやすい
  • ストレスやトラウマの再体験で悪化
経過・予後
予後
  • 軽度の場合は適切な治療で改善
  • 重度のトラウマ歴がある場合、DIDへ移行する可能性
  • PTSDの症状が強い場合、長期的な治療が必要

治療(Treatment)

STEP
心理療法(Psychotherapy)
段階的トラウマ治療
  • 安全確保・安定化(Stabilization)
    • 感情調整スキルの習得(グラウンディング、マインドフルネス)
    • 現実感を取り戻す訓練
  • トラウマ処理(Trauma Processing)
    • EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
    • 曝露療法(Trauma-focused CBT)
    • スキーマ療法
  • 統合と再構築(Integration & Reintegration)
    • 自己認識の確立
    • 過去の経験を受容し、現在の自分に統合する
認知行動療法(CBT)
  • 自動思考や認知の歪みを修正
  • 解離性エピソードの予兆を特定し、対処する
STEP
薬物療法(Pharmacotherapy)

DDNOS自体を治療する薬はないが、以下の薬剤が補助的に使用される。

  • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
  • 気分安定薬(ラモトリギン)
    • 解離性症状の軽減に有効とされる
  • 低用量非定型抗精神病薬
    • 解離性フラッシュバックが激しい場合
  • 『Dissociation Made Simple: A Stigma-Free Guide to Embracing Your Dissociative Mind and Navigating Daily Life』
    • 著者:Jamie Marich
    • 出版社:North Atlantic Books
    • 概要:解離性障害に関するスティグマを取り除き、日常生活の中で解離と向き合うための実践的なガイドです。
  • 『Coping with Trauma-Related Dissociation: Skills Training for Patients and Therapists』
    • 著者:Suzette Boon, Kathy Steele, Onno van der Hart
    • 出版社:W. W. Norton & Company
    • 概要:トラウマ関連の解離症状に対処するためのスキルや技法を、患者とセラピスト双方に向けて提供しています。
  • 『The Stranger in the Mirror: Dissociation – The Hidden Epidemic』
    • 著者:Marlene Steinberg, Maxine Schnall
    • 出版社:HarperCollins
    • 概要:解離性障害の症例や治療法について、具体的な事例を交えて解説しています。
  • 『もっと知りたい解離性障害 -解離性同一性障害の心理療法-』
    • 著者:岡野 憲一郎、松井 浩子 他
    • 出版社:創元社
    • 概要:解離性同一性障害(DID)の心理療法に焦点を当て、最新の治療法や臨床知見を詳しく解説しています。
  • 『解離性障害のことがよくわかる本影の気配におびえる病』
    • 著者:柴山 雅俊
    • 出版社:講談社
    • 概要:解離性障害の症状、診断、治療法について、イラストやチャートを用いてわかりやすく説明しています。
  • 『わかりやすい「解離性障害」入門』
    • 著者:岡野 憲一郎
    • 出版社:星和書店
    • 概要:解離性障害の症状や治療法を、豊富な事例とともに解説し、最新の治療スタイルについても紹介しています。
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