ACE「逆境的小児期体験」の概要・メカニズムと影響する10項目のスコアとACEサバイバーチェックリスト・回復の精神療法・ワーク
ACE(エース)とは、(Adverse Childhood Experiences)の略であり、「逆境的小児期体験」と呼ばれています。子ども時代(おおむね0〜18歳)に家庭内などで経験する、深刻なストレス体験やトラウマ体験を指し、これには、虐待(身体的・心理的・性的)、ネグレクト(無視や世話の放棄)、家庭の機能不全(DV、精神疾患、アルコール依存、離婚、服役など)の10項目が該当します。
ACEが注目される理由として、ACEスコアが高い人への早期支援・心理教育・環境調整が、後年の疾患や社会的問題の発症を防ぐ可能性があり、「予防と介入」の基盤になるからです。また、目に見えない子ども時代の経験が、生涯に影を落とす事実を「スコア」や「疫学」で可視化することは、「トラウマの見える化」ができるということです。これは、社会全体の認識を変える力をも持っています。
項目 | 内容 |
用語 | ACE(Adverse Childhood Experiences)=逆境的小児期体験 |
出発点 | 1990年代、米CDCとカイザーの共同研究(約1.7万人) |
主な内容 | 虐待・ネグレクト・家庭内の問題など10項目 |
影響 | 心身の健康、行動、社会的機能に長期的悪影響 |
現在の研究 | 多分野へ拡張中、拡張ACE、レジリエンス研究など |
このページを含め、心理的な知識の情報発信と疑問をテーマに作成しています。メンタルルームでは、「生きづらさ」のカウンセリングや話し相手、愚痴聴きなどから精神疾患までメンタルの悩みや心理のご相談を対面にて3時間無料で行っています。

アメリカにおけるACE研究の歴史
1. 【1990年代:ACE研究の出発点】
最初の大規模研究は、1995年〜1997年に米国CDC(疾病予防管理センター)とカイザーパーマネンテ(Kaiser Permanente)によって実施されましたが、この研究の中心人物は、ヴィンセント・フェリッティ医師(Vincent Felitti)とロバート・アンダーソン医師(Robert Anda)です。
● 研究の概要
- 対象:1万7000人超の成人(中年層、白人・中流階級が中心)
- 方法:アンケート調査によって、子ども時代の10種類の逆境的体験(ACE)と現在の健康状態との関係を分析
● 10種類のACE(最初の指標)
- 身体的虐待
- 精神的虐待
- 性的虐待
- 身体的ネグレクト
- 情緒的ネグレクト
- 家庭内の精神疾患
- 家族のアルコール・薬物依存
- 家庭内暴力(DV)
- 親の離婚・別居
- 家族の服役
2. 【研究結果のインパクト】
この研究により、ACEの蓄積(スコア)が高いほど、次のような生涯にわたる心身の健康への深刻な影響が示されました。
- 心疾患、糖尿病、がんなどの身体疾患リスクが上昇
- 鬱病、不安障害、PTSD、自殺未遂のリスク増加
- 喫煙、飲酒、薬物使用などの依存症的行動が増加
- 教育達成度の低下、就労困難、社会的孤立などの社会的影響
ACEスコアが4以上になると、精神疾患のリスクは数倍から十数倍に上昇すると報告されました。
■ ACE研究の拡張と現在の動向(アメリカ)
● 分野横断的な研究へ拡大
- 初期は医学・疫学領域が中心でしたが、現在では心理学、教育学、福祉、刑事司法、社会学など多分野で研究が進行。
- 教育現場での「トラウマ・インフォームド・ケア(TIC)」の導入など、実践応用が進んでいます。
● ACEの新しい視点:拡張版ACE
- 初期の10項目に加え、貧困、差別、学校でのいじめ、地域の暴力、災害体験などを含めた「拡張ACE」の研究も進んでいます。
- 文化的背景や構造的暴力への着目が進み、レジリエンスや保護因子(バッファー)にも関心が広がっています。
日本におけるACE研究の展開
■ 研究のはじまりと背景
- 日本では、2010年代前半よりACE研究が紹介・応用され始めました。
- きっかけの一つは、厚生労働省や自治体の児童虐待防止政策において、ACE概念が有効であると認識されたこと。
- 米国CDCの「ACE Study(1998)」をベースに、日本の社会構造や文化背景に合わせて活用されるようになりました。
■ 主な調査・研究機関
年度 | 機関・研究名 | 概要 |
2015年~ | 厚生労働科学研究費「子どもの逆境体験と健康影響」 | 全国調査の一部でACE質問票を導入 |
2019年~ | 神奈川県「ACEを知っていますか?」調査 | 医療・教育・福祉職などを対象に啓発 |
2020年~ | JACSIS研究(日本COVID-19と社会に関するインターネット調査) | 日本最大規模のACEスコア×健康影響の横断的調査(3万人規模) |
2021年~ | 東北大学大学院医学系研究科・児童虐待予防研究 | ACEスコアの文化的特徴と心理疾患リスクを分析 |
■ 特徴と課題
- 日本では、「情緒的ネグレクト」や「家庭内暴力の目撃」の割合が高く出る傾向。
- ACEの語自体は未認知の層が多く、学校・家庭・医療での認知度が課題。
- 被虐待経験の表明が控えめな文化的背景から、調査票の作成・実施方法にも配慮が必要。
ACE(Adverse Childhood Experiences)の10項目:詳細解説
■ ACEスコアとは?
下記の10項目のうち、該当する体験が1つあれば1点とし、最大10点満点でスコア化されます。
スコアが高くなるほど、トラウマの蓄積による心身・社会的影響のリスクが高まるとされています。

ACEチェックリスト(成人向け:標準的な10項目)
これは、アメリカCDCの元祖ACEスタディをベースにした成人による「自己回答式」質問票です。
10項目分類
分類 | ACEの種類 | 質問例(自己報告形式) |
虐待 | ① 身体的虐待 | 子どもの頃、親または大人に叩かれたり殴られたりしたことがありますか? |
② 情緒的虐待 | 子どもの頃、家の人にひどい言葉で傷つけられたことがありますか? | |
③ 性的虐待 | 子どもの頃、大人から性的なことをされたことがありますか? | |
ネグレクト | ④ 身体的ネグレクト | 家庭で衣食住や医療が不十分だったと感じたことがありますか? |
⑤ 情緒的ネグレクト | 愛されている・大切にされていると感じられないことがありましたか? | |
家庭機能の崩壊 | ⑥ 親の離婚・別居 | 両親が離婚または長期別居したことがありますか? |
⑦ DVの目撃 | 家庭内で家族の誰かが暴力を振るわれているのを見たことがありますか? | |
⑧ アルコール・薬物依存 | 家庭にアルコールや薬物の問題を抱えた大人がいましたか? | |
⑨ 精神疾患 | 家族にうつ病・自殺・統合失調症など精神疾患のある方はいましたか? | |
⑩ 刑務所収容歴 | 家族に逮捕され刑務所に入った方がいましたか? |
評価方法(スコア)
- 各項目 「はい」=1点、「いいえ」=0点。
- 合計点(ACEスコア)で以下のようにリスク評価されます。
ACEスコア | 概要 |
0〜1点 | ACE影響の可能性は比較的低い |
2〜3点 | 精神的・身体的影響がやや高まる可能性あり |
4点以上 | 心身の疾患・依存・社会的困難のリスクが有意に上昇 |
6点以上 | うつ病・自殺念慮・依存症等の重度精神疾患の危険性大 |
■ 注意点と補足
- ACEは「過去に起きたこと」だけでスコアを評価するが、それだけで今の健康リスクを断定してよいわけではありません。
- レジリエンス(回復力)や保護要因、サポート資源((安全基地・相談相手・自己理解)の存在が、被害影響を軽減するケースも多々あります。
- ACEスコアの使用は、「診断」ではなく「気づき」と「支援の入り口」として活用する視点が大切です。
レジリエンス自己評価セルフチェック
可能であれば「あなたの心の回復力(レジリエンス)を測ってみましょう」。次のレジリエンス自己評価も併用(子ども時代のポジティブ体験)を検討するとバランスが取れます。
以下の10の質問について、あなたが「どのくらい当てはまるか」を1 = あまり当てはまらない、2 = どちらとも言えない、3 = まあ当てはまる、4 = とてもよく当てはまる。でお答えください。
№ | レジリエンス自己評価セルフチェック |
---|---|
1. | 困難に直面しても、あきらめずに前向きに取り組める |
2. | 自分の感情をうまくコントロールできる |
3. | ストレスの多い状況でも冷静に判断できる |
4. | 自分は困難に対処する力があると思う |
5. | 過去の経験から学び、強くなっていると感じる |
6. | 自分の目標をあきらめずに追い続けられる |
7. | 周囲の支えがあって、自分は強くなれると思う |
8. | 失敗しても、そこから立ち直ることができる |
9. | 逆境を乗り越えた経験が自信になっている |
10. | 困難に対して柔軟に対応できる |
11. | 困難に直面しても、あきらめずに前向きに取り組める |
12. | 自分の感情をうまくコントロールできる |
13. | ストレスの多い状況でも冷静に判断できる |
14. | 自分は困難に対処する力があると思う |
15. | 過去の経験から学び、強くなっていると感じる |
16. | 自分の目標をあきらめずに追い続けられる |
17. | 周囲の支えがあって、自分は強くなれると思う |
18. | 失敗しても、そこから立ち直ることができる |
19. | 逆境を乗り越えた経験が自信になっている |
20. | 困難に対して柔軟に対応できる |
21. | 困難に立ち向かうとき、私は非常に粘り強い |
22. | 私は失敗してもすぐに立ち直れる |
23. | 私は自分の力で運命を切り開けると感じている |
24. | ストレスの多い状況でも冷静に判断できる |
25. | 私は自分の感情をうまくコントロールできる |
評価
- 合計スコアは0〜100点(点数が高いほどレジリエンスが高い)
合計点 | レジリエンス自己評価セルフチェック |
---|---|
0-25点 | 回復力がとても弱い傾向があります。ACE傾向が4ポイント以上であれば、専門のカウンセリングを受診することをおすすめします。 |
26-50点 | 回復力が弱い傾向があります。無理をせず、支援を求めたり、自分をいたわる時間を増やしましょう。ただし、ACE傾向が4ポイント以上であれば、専門のカウンセリングを受診することをおすすめします。 |
51-75点 | 回復力は中程度です。時にはストレスを感じやすいかもしれませんが、自己理解や支えを増やすことでさらに強くなれます。ただし、ACE傾向が6ポイント以上であり、生きづらさを感じているようであれば、無理をしている可能性があります。専門のカウンセリングを受診することをおすすめします。 |
76-100点 | あなたの心の回復力は比較的高く、困難に対しても粘り強く、柔軟に対応できています。ただし、6ポイント以上であれば、生きづらさに気づいていない可能性があります。 |
※最終的には現状の傾向が理解できるACEサバイバーのための 生きづらさセルフチェックリストの結果を照らし合わせることが重要です。

ACEスコアが高い人に多く見られる精神疾患
JACSIS調査を踏まえ、ACE(逆境的小児期体験)が関連する精神疾患に焦点を当てその背景メカニズムについて、次のように整理してご説明します。
■ 日本での知見(JACSIS 2022 調査)
- 対象者:約3.2万人(18~82歳)
- 主な結果:
- ACEスコアが4点以上の人は、うつ・自殺念慮・依存症などの発症率が著しく高い。
- ACEスコアが高いほど、慢性疾患(糖尿病・高血圧・喘息)も増加していた。
- 若年女性で特に「情緒的ネグレクト」「家庭内暴力」が多く見られた。
■ 支援的視点として重要なこと
- 「この人は病気だからこうなった」ではなく、「この人はこういう体験を生き延びた結果、今の反応がある」という視点(トラウマインフォームド・ケア)。
- ACEの影響を評価する際は、レジリエンス要因(安全基地・信頼できる他者)も併せて評価することが重要です。
ACEスコアが高い人に多く見られる精神疾患とその背景メカニズム
主に見られる精神疾患
精神疾患名 | 主な症状 | ACEとの関連性 |
うつ病(大うつ病性障害) | 無気力、抑うつ気分、睡眠障害、自責感 | 高ACE群ほど発症率が高い。特に情緒的ネグレクト・虐待の影響が強い |
不安障害群(GAD・社交不安・パニック障害など) | 常時不安感、過覚醒、予期不安、回避行動 | 情緒的虐待や家庭内暴力が強く関係し、慢性的な不安反応が形成されやすい |
PTSD/C-PTSD(複雑性PTSD) | フラッシュバック、回避、解離、対人関係の困難 | 性的虐待や家庭内暴力など、繰り返されるトラウマ経験との関連が顕著 |
解離性障害群 | 記憶の空白、自己同一性の混乱、離人感など | 重度のトラウマ体験(特に早期の性的虐待など)によって防衛機制として形成されやすい |
境界性パーソナリティ障害 | 感情の不安定さ、見捨てられ不安、自傷行為 | 幼少期の不安定な愛着・心理的虐待の影響が強いとされる |
摂食障害(拒食・過食など) | 食行動のコントロール困難、自己否定 | 自尊心の傷つき、支配・無力化体験との関係が深い |
依存症(アルコール・薬物・ギャンブルなど) | 衝動の制御困難、逃避的使用 | ACEによりストレス対処力が乏しくなり、嗜癖的行動に頼る傾向が強まる |
ADHD/反抗挑戦性障害(ODD)との誤診例も | 衝動性・不注意・攻撃性 | ACEによるストレス反応の過剰さが、注意・行動制御困難に見えることがある |
精神疾患リスクを高める3つの主要メカニズム
① 慢性的ストレス曝露による 神経内分泌系の破綻
- ACEにより HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系) の調整が狂いやすくなる。
- コルチゾール分泌異常 → 常時過覚醒状態・不安感の強化・免疫低下などを引き起こす。
- 長期的には「ストレスに対する過敏な脳構造」を形成。
② 脳構造の変化
- 長期の逆境体験によって、以下の領域に構造・機能変化が生じることが脳画像研究から示唆されています。
脳領域 | 影響内容 |
前頭前野(自己制御・判断) | 萎縮 → 衝動性や行動抑制困難、注意の問題に関連 |
扁桃体(情動反応) | 過活性化 → 過剰な恐怖・不安反応が強くなる |
海馬(記憶・情動調整) | 萎縮 → トラウマ記憶の調整困難、解離や記憶の混乱に関係 |
帯状回・島皮質など | 身体感覚や共感の異常、情動の調整困難 |
③ エピジェネティックな変化(遺伝子発現調節)
- ACEによる長期のストレスは、遺伝子そのものを変えるのではなく、特定の遺伝子の「オン・オフ」を制御する仕組みに変化をもたらす(=エピジェネティクス)。
- 例:海馬の神経成長因子(BDNF)や、ストレス反応を抑える遺伝子の発現が低下。
- 結果として、ストレス反応が過剰になりやすく、うつや不安障害への脆弱性が高まる。

ACEスコアと生涯にわたる「社会的・経済的影響」
ACE(Adverse Childhood Experiences:逆境的小児期体験)は、「個人の努力では変えられない家庭背景や子ども期の体験」が、生涯にわたって心身の健康や社会経済的格差に影響するという、極めて科学的かつ構造的な問題として捉えられています。
こうした構造的問題が示すことACEとは、「個人の生まれや育ちという選べない要素が、その後の人生全体を左右することが実証されている」という深刻な問題であり、「努力不足」「自己責任」などでは説明できない、生涯にわたる健康・社会参加・人間関係・経済活動への不利が生じます。
ACEが引き起こすとされる「社会経済的影響」について、日本・海外両方の研究から得られている知見を、信頼できるエビデンスに基づいて整理してご紹介します。
1. 健康問題のみに留まらない広範な影響
ACEスコアが高い人は、成人後に次のような問題を抱えるリスクが統計的に有意に高いと示されています。
領域 | ACEスコアが高いほど見られやすい特徴 |
精神的健康 | うつ・不安・PTSD・自傷・自殺念慮の増加 |
身体的健康 | 慢性疼痛、心疾患、糖尿病、自己免疫疾患のリスク上昇 |
行動習慣 | 飲酒・喫煙・薬物依存などの逸脱行動の増加 |
家庭生活 | 離婚率・未婚率の上昇、養育困難・虐待傾向の強化 |
社会経済的状況 | 学歴の断絶、長期失業、貧困、ホームレス化のリスク上昇 |
社会的孤立 | 支援関係の希薄化、孤立、信頼関係の構築困難 |
2. データで見る:日本での調査結果(JACSIS 2022など)
日本最大級のACE調査であるJACSIS(2022)全国インターネット調査:対象者3.2万人では、次のような関連性が報告されています。
ACEスコアと未婚・離別の関係
- ACEスコアが4点以上の人は、既婚者よりも「未婚または離別」の割合が高い。
- 特に「情緒的ネグレクト」や「家庭内暴力の目撃」は、成人後の恋愛関係・家庭関係に強く影響する。
ACEスコアと社会的孤立
- ACEスコアが高い人ほど、「相談相手がいない」「一人で問題を抱え込む傾向が強い」と報告。
- 定職に就かず非正規や無業状態の人の割合が高く、地域や会社内での社会的つながりも乏しい。
ACEと親から子への世代間連鎖
- ACEスコアの高い親ほど、自分の子どもにも暴力・無視・放置などのネグレクト傾向が出る(いわゆる「世代間連鎖」)。
- 「自分がされて嫌だったことを、気づかぬうちに繰り返してしまう」という心理メカニズムも指摘されている。
「毒親」や「ヤングケアラー」との違い
ACEは、「毒親」「ヤングケアラー」状態を含む場合もありますが、より長期的・構造的・科学的に問題を可視化する手段です。ACEは一種の社会疫学的な「構造リスク因子」と位置づけられていて、次のような違いがあります。
観点 | ACE | 「毒親」概念 | ヤングケアラー |
定義 | 客観的な逆境体験10項目 | 主観的な心理的苦痛に基づく価値観 | 家族の介護・家事を担う未成年者 |
根拠 | 疫学・脳科学・心理学のデータに基づく | 社会的な共感や運動から生まれた | 近年社会課題化された家庭内ケア労働 |
課題化の背景 | 医療・行政における健康格差対策 | SNS・書籍での自助的な表現が中心 | 少子高齢化に伴う制度の歪み |
ACEサバイバーの 生きづらさセルフチェックリスト
ACEを抱えながら生き抜いている「ACEサバイバー」は、自分の意思とは無関係に社会的に対応する困難を背負わされ、日々を生きている人とも言えます。このような生きづらさに対するセルフチェックリストとなります。このチェックリストは「ACEサバイバーが現在感じている“生きづらさ”」に焦点を当て科学的知見と臨床的な配慮の両面から構成しています。
回答は、あてはまる:2点、少し当てはまる:1点、あてはまらない:1点の合計点で傾向を把握します。
№ | ACEサバイバーのための 生きづらさセルフチェックリスト |
---|---|
【A】自己感覚・セルフイメージ(7項目) | |
1. | 自分には価値がないと感じることがよくある |
2. | どこか「空っぽ」な感じがずっと消えない |
3. | 自分がどうしたいのか、わからなくなることが多い |
4. | 何かをしても達成感や喜びを感じにくい |
5. | 人の目が過剰に気になる |
6. | 人に頼ること・甘えることが怖い |
7. | 過去の記憶がよみがえり、動悸や体の反応が出ることがある |
【B】対人関係の困難(7項目) | |
8. | 人間関係を築くのがとても疲れる |
9. | 信頼できる人がいない、または思い当たらない |
10. | パートナーや家族と感情的な距離を感じる |
11. | 本音で話すと拒絶される気がする |
12. | 「助けて」がうまく言えない |
13. | 些細なことで人に怒られたり、見捨てられた気になる |
14. | 相手に合わせすぎて、疲れてしまう |
【C】身体・行動のサイン(6項目) | |
15. | 慢性的な疲労感・だるさがある |
16. | 頭痛・腹痛・不眠など身体症状が続いている |
17. | 飲酒・喫煙・買い物などで気をまぎらわせる傾向がある |
18. | 過食・拒食など、食にまつわるコントロールが難しい |
19. | 感情が突然爆発したり、何も感じなくなったりする |
20. | 自分を傷つけたい衝動に襲われたことがある |
【D】社会的な困難・孤立感(6項目) | |
21. | 経済的に苦しく、安定した生活が送れていない |
22. | 学歴や職歴に自信がなく、劣等感が強い |
23. | 仕事が長続きせず、自分を責めることがある |
24. | 社会の中で「居場所がない」と感じる |
25. | 頼れる家族・実家がない |
26. | 将来に希望が持てず、人生を投げ出したくなることがある |
子育て・対人援助(4項目) | |
27. | 自分の子どもや後輩に、つらく当たってしまうことがある |
28. | 「自分は親になる資格がない」と感じたことがある |
29. | 親にされたことを、自分も繰り返してしまいそうで怖い |
30. | 子ども時代の記憶が子育て中によみがえってつらくなる |
評価
- 合計点を計算してください。
合計点 | 重症度 | 傾向・解釈 |
---|---|---|
0-15点 | 軽度 | ACEの影響は比較的弱く、生きづらさも状況次第で軽減されている可能性があります。 |
16-29点 | 中程度 | ACEの影響が現在の生活や人間関係に持続的に影を落としている可能性があります。支援者や安心できる他者との対話が有効です。 |
30-44点 | 強度 | ACEが自己像や対人関係、健康・生活に深刻な影響を与えている可能性が高いです。医療・心理支援とともに、トラウマインフォームドな環境が必要です。 |
45-60点 | 重度 | 安心・安全な場の中での継続的な支援、トラウマ治療、福祉的サポートが強く求められる状態です。自己責任ではなく「サバイバーとしての権利」が重視されるべき領域です。 |
このチェックリストの目的
- 「自分のつらさがどこから来ているのか」を構造的に理解する視点を提供しています。
- 「がんばりが足りない」「性格の問題」といった自己否定を和らげることにあります。
- 最終的にはACEチェックやレジリエンス自己評価セルフチェックの結果と照らし合わせることで、医療・心理支援・福祉サービスなどへの橋渡しとなります。

大人のための「PCE的支援」・精神療法・ワーク
ACE(逆境的小児期体験)によって心身に大きな影響を受けた人であっても、PCE(Positive Childhood Experiences:肯定的子ども期体験)によって、こどもの帰属意識やつながりを構築できるポジティブな体験によって、その悪影響が緩衝(バッファリング)されることが、研究で明らかになっています。
つまり、「傷つきの回復」だけでなく、「つながりの再構築」や「肯定的体験の再獲得」が、大人になってからの心理療法や支援でも非常に重要な要素となります。
PCE的回復の鍵:「関係性 × 経験 × 習慣化」
PCEは単発的な「良い出来事」ではなく、“肯定的な関係の中で、日常的に安心・承認・共感を繰り返し体験すること”です。
したがって、大人になってからでも非常に大切なこととなります。
支援のキーワード | 解説 |
リレーション(つながり) | 信頼できる他者との対話、安全な場の提供 |
リペア(修復) | 傷ついた記憶・パターンを新しい経験で塗り替える |
リフレーミング(意味づけの再構築) | 苦しみの経験に別の視点を与える |
大人のための「PCE的支援」・精神療法・ワーク(例)
ACEサバイバーの回復支援として有効な方法を【4つの柱】に整理します。
■ 対応法:
- 安心・予測可能な人間関係を提供する(トラウマインフォームドな関わり)
- 愛着スタイルを見立て、治療的関係の中で修復的経験を積む
- グループセラピーや当事者会などで「孤立からの回復」を支援
■ ワーク例:
- 「私にとって安心だった人」マップ(思い出せる人や場所を書き出す)
- 信頼できる人への「ありがとう手紙」ワーク(実際に渡さなくてもOK)
■ 対応法:
- フォーカシング、マインドフルネス、自分の感覚に丁寧に注意を向ける
- 行動活性化(できることからやって「できた感」を積み重ねる)
- ナラティブアプローチで「自分史」を編み直す
■ ワーク例:
- 「過去の自分に手紙を書く」ワーク(今の自分から過去の子どもへ)
- 「自分を支えてくれた小さな成功の記録」ワーク(肯定的記憶の発掘)
■ 対応法:
- ソマティック・エクスペリエンシング(体の感覚を使ったトラウマ処理)
- 安全な呼吸法・グラウンディング
- 自律神経の調整(ヨガ、ゆっくりしたリズムの音楽など)
■ ワーク例:
- 「いま・ここ」グラウンディングカード(五感に気づく習慣化)
- 「わたしを落ち着かせてくれるもの」コレクションワーク(触覚・視覚・聴覚)
■ 対応法:
- ロゴセラピー:苦しみの中にも意味を見出す視点を育てる
- ポスト・トラウマティック・グロース(PTG:外傷後の成長)支援
- 価値観探究(ACT、ライフラインワーク)
■ ワーク例:
- 「10年後のわたしにインタビュー」ワーク(未来を仮想体験する)
- 「生きてきた意味の小石」ワーク(これまでの意味の断片を拾い集める)
ACEサバイバー向けの配布用ワークシート集(全8枚)
ACEサバイバー(逆境的小児期体験を持つ人)向けの配布用ワークシート集の構成案です。全体を「安全の再構築 → 自己理解 → つながりの回復 → 意味の再発見」という流れにし、実践的かつ心理的に負担が少ない形で設計します。
ACEサバイバーの配布用ワークシート集(全8枚)
ワーク名:「安心の地図」
- 内容:過去・現在・未来において、自分が「少しホッとした」「守られていた」と感じた人・場所・時間を記す
- 目的:安全感の再確認と回復への土台づくり
ワーク名:「わたしの中の声たち」
- 内容:「怒りの声」「悲しみの声」「がんばる声」など、自分の中の複数の感情をパーツ(分身)として書き出し、対話する
- 目的:感情の整理とセルフコンパッションの促進
ワーク名:「支えてくれた小さなできごと」
- 内容:過去に「ちょっとだけ嬉しかったこと」「救われた一言」「思い出すとあたたかくなる瞬間」を拾い出す
- 目的:PCE的体験(ポジティブな記憶)への気づき
ワーク名:「子どもの私へ手紙を書く」
- 内容:当時の自分に今の自分から語りかける手紙形式
- 目的:自己受容・自他共感・癒しの促進
ワーク名:「安心を感じるモノ・習慣・人」
- 内容:五感・行動・環境の視点で「安心できるもの・こと・人」をリストアップ
- 目的:自己調整(セルフレギュレーション)の助けとなる資源の可視化
ワーク名:「ほんとうは誰と、どんなふうにつながりたい?」
- 内容:本音レベルでの対人関係への欲求や不安を書き出す
- 目的:孤立感の緩和と「つながりたい自分」の確認
ワーク名:「10年後のわたしに手紙を書く」
- 内容:10年後の自分に今伝えたいことや、期待していることを綴る
- 目的:希望・展望の再構築
ワーク名:「この痛みにも、もし意味があるとしたら?」
- 内容:いま抱える苦しみや過去の傷が、誰かの支えになるかもしれないという視点から再解釈する
- 目的:実存的な回復(ロゴセラピー的視点)
ACEサバイバーのワークシート・セッション構成(全8回想定)
ACEサバイバーのためのワークシート・セッション構成(全8回想定)を提案します。
1回1枚の配布ワークシート+セラピストの簡単な誘導・ふりかえり質問を含んだ流れになっています。
構成方針
- 1セッション=約50~70分
- 感情の強さに配慮し、過去→現在→未来と段階的に構成
- ワークシートは毎回1枚ずつ配布・記入(持ち帰り可)
ワークシート1:「安心の地図」
- 内容:自分が「少しでも安心・安全」と感じた場所・人・時間を思い出して書く
- ねらい:セラピーに入る前に、心理的安全を確認し、土台を整える
問いかけ例
- 今、少しでも安心できる空間や人はいますか?
- 子どもの頃、ホッとした時間はありましたか?
ワークシート2:「わたしの中の声たち」
- 内容:怒り・悲しみ・がんばり・恐れなどを「登場人物」として描き出す
- ねらい:自己理解とセルフ・コンパッションの第一歩
問いかけ例
- どんな感情の声が、あなたの中にいますか?
- その声に、どんな言葉をかけてあげたいですか?
ワークシート3:「支えてくれた小さなできごと」
- 内容:「少しうれしかった」「気にかけてもらえた」記憶を発掘
- ねらい:PCE(ポジティブな体験)の再発見と、自尊感情の回復
問いかけ例
- 思い出すと少しだけ心があたたかくなる場面は?
- 今も覚えているやさしい言葉はありますか?
ワークシート4:「子どもの私へ手紙を書く」
- 内容:当時の自分に宛てた手紙を書く
- ねらい:過去との対話・自己受容・癒し
問いかけ例
- 子どものあなたに、今伝えたいことは何ですか?
- その子どもは、どんな気持ちで日々を生きていたと思いますか?
ワークシート5:「安心を感じるモノ・習慣・人」
- 内容:現在の安心感につながる感覚・人間関係・習慣を見つける
- ねらい:レジリエンス(回復力)の可視化
問いかけ例
- 今の生活の中で「ちょっと落ち着ける」瞬間はどんなとき?
- 自分を元気にしてくれる物・人・音・香りはありますか?
ワークシート6:「ほんとうは誰と、どんなふうにつながりたい?」
- 内容:「つながりたい」「でもこわい」気持ちを整理する
- ねらい:対人関係の再構築と、孤立感の緩和
問いかけ例
- 本音では、誰とどんなふうにつながってみたいですか?
- その願いを「こわがっている自分」は、何を守ろうとしていますか?
ワークシート7:「10年後のわたしに手紙を書く」
- 内容:10年後の自分へ向けての手紙
- ねらい:希望の再構築と、自分への優しさの芽生え
問いかけ例
- 10年後のあなたは、どんな場所で、どんな気持ちで過ごしていますか?
- その人に、今のあなたが伝えたいことは?
ワークシート8:「この痛みにも、もし意味があるとしたら?」
- 内容:過去の痛みが他者や自分にどんな役割を持ち得るか、静かに見つめる
- ねらい:実存的な意味づけと、生きる意味の回復(ロゴセラピー的視点)
問いかけ例
- この経験が「誰かの支え」になることがあるとしたら、どんな人に?
- この人生に、あなたが残したい何かはありますか?
- 毒親など様々な親子関係の解釈
- 愛着障害の知識と改善策のワーク完全版
- アタッチメント障害のセルフチェックリスト3種類
- 自己肯定感向上のワークシート15種完全版
- アダルトチルドレン10種とセルフチェック
- 思考や肯定感など意欲アップの自己ワーク86例
- 毒親の概念と自己の症状回復のワークやスクリプト
『The Deepest Well: Healing the Long-Term Effects of Childhood Adversity』
- 著者:Nadine Burke Harris(ナディーン・バーク・ハリス)
- 出版社:Houghton Mifflin Harcourt(2018年)
- 内容:小児期逆境体験(ACE)がどのように生涯の健康や幸福に影響を与えるかを医学的・科学的に解説。著者はカリフォルニア州の医師で、ACE研究の啓発に尽力している。
『Childhood Disrupted: How Your Biography Becomes Your Biology, and How You Can Heal』
- 著者:Donna Jackson Nakazawa(ドナ・ジャクソン・ナカザワ)
- 出版社:Atria Books(2015年)
- 内容:逆境的な子ども時代がどのように身体的な疾患や精神的な問題に結びつくかを科学的に探求し、癒しへの道を提示。
『The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma』
- 著者:Bessel van der Kolk(ベッセル・ヴァン・デア・コルク)
- 出版社:Penguin Books(2015年)
- 内容:トラウマが身体と脳にどのように刻まれるかを詳細に解説し、ACEの影響を含むトラウマ治療の最先端知見を紹介。
『Fostering Resilience: A Practical Guide for Clinicians and Caregivers of Traumatized Children』
- 著者:Kimberly G. Hoagwood, Elizabeth S. Steiner, et al.
- 出版社:Oxford University Press(2017年)
- 内容:トラウマや逆境を経験した子どもたちの回復力を育むための実践的ガイド。臨床現場やケアギバー向けに書かれている。
『ACEサバイバー-子ども期の逆境に苦しむ人々』
- 著者:三谷はるよ
- 出版社:ちくま新書(2023年)
- 内容:子ども期の虐待体験はその後の人生の病気・低学歴・貧困・孤立などの困難と関連することをデータで明らかにし、不利にならない社会づくりを提起している。