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意思疎通が苦手なコミュニケーション障害の症状の理解

目次

コミュニケーション症群は発達症に含まれ、社会的相互作用や言語的コミュニケーションにおいて重要な障害を示します。言語症、語音症、吃音、社会的コミュ症がその一つです。

コミュニケーション症群(CD)の概念

コミュニケーション症群(コミュニケーション障害)は知的機能の遅れや聴覚などの感覚器官には問題がないにもかかわらず、他者と十分な意思疎通ができない状態のことを指します。症状には、発話の遅れ、発話の不自然さ、音声の不明瞭さ、語彙の貧困、文法の誤り、言語理解の困難、記憶の問題、表情やジェスチャーの不自然さ、社交的な行動の問題などがあります。分類では言語症や語音症、小児期発症流暢症(吃音)、社会的(語用的)コミュニケーション症などです。

ICD-11(国際疾病分類第11版)において、「コミュニケーション症群(Communication Disorders)」は、言語や発話、社会的コミュニケーションに関する発達上の障害「神経発達症群(Neurodevelopmental Disorders)」の一部として分類されています。​

コミュ障について
最近では、コミュ障とコミュニケーション障害は同じ意味合いとしてとらえられることもありますが、コミュ障の用語は特にインターネットなどオンラインコミュニティで使用されていて、医学的な診断基準はありません。ただし、コミュニケーション症群の分類の一つである社会的コミュニケーション症の言語的、非言語的を持続的に行うことが困難な状態や行動パターンを示す俗語や略語のような表現として使用されています。
例えば、適切な言葉の選択の困難、社会的言語スタイルの認識の問題、感情の認識や表現の困難、空気を読む力の不足、適切なタイミングで話すことの難しさなどによって、パフォーマンス不安や回避的対人スタイル、選択性緘黙(場面緘黙)のような行動パターンを示すようになります。

コミュニケーション症群の分類

 発達性言語症:言語症の症状

発達期において、言語の習得、理解、産出、または使用に持続的な困難があり、年齢や知的発達水準に比して著しく劣っている状態であり、話し言葉、書き言葉、サイン言語などの獲得や習得が困難な状態で、同年齢と比較すると単純な構文表現で、文法的な間違いも多くなります。

  • 言葉の遅れ
    発語の遅れ、単語や文章の構成の遅れが見られることがあります。児童期に発症することが多く、周囲の子どもたちと比較して言葉の発達が遅れていることが多いです。
  • 言葉の理解障害
    周囲の言葉を理解することが困難で、指示に従うことができない場合があり、物を指し示されたときに指差されたものを理解できない場合があります。
  • 語彙の制限
    言葉の量や多様性が不足している場合があり、熟語や慣用句の理解ができないことがあります。
  • 文法の制限
    文法的な誤りが多く見られることがあり、語順や時制、単複などの文法的なルールに従わない文章を作成することがあります。
  • 発語の流暢性の問題
    文章の作成や話し方において、継続的な流暢性の問題がある場合があり、文章を作成する際にフリーズすることがあります。
 発達性語音症:語音症の症状

発達期において、年齢相応の明瞭な発話が困難で音の誤りや発音の問題が持続する状態であり、正しい発音に困難があるために会話に支障をきたす状態です。

  • 発声障害
    言葉を発することが困難です。声が小さく、不明瞭であることが多く、発音やイントネーションにも問題が生じることがあります。
  • 発語障害
    言葉を発することができない、または話すスピードが遅い場合があり、語彙が限定され、言葉を組み立てることが困難なことがあります。
  • 言語リズム障害
    発声や発語に際して、リズムや音の長さが不安定であることがあります。
  • 構音障害
    発音が不正確で、音が省略されたり、置き換えられたり、追加されたりすることがあります。例えば、「かわいい」を「かいい」、「リンゴ」を「インゴ」、「ヒコーキ」を「コーキ」、「オニギリ」を「オニリギ」、「イス」を「イシュ」と発音することがあるなど、音の置換、脱落、転倒、歪曲、省略が起こることが多くなります。
  • 話し言葉の遅れ
    言語の発達に遅れがあることがあります。特に、児童期において、周囲の人々とのコミュニケーションに問題を抱えることが多くなります。
小児期発症流暢症:吃音/どもり

発話の流暢性と時間的パターンに障害があらわれ、音や音節の繰り返し、音の引き伸ばし、言葉の詰まりなどが頻繁に生じる状態であり、特に発話においてリズムや流暢性に問題が生じる症状で、次のような症状が見られます。

  • 繰り返
    音や音節、単語を繰り返し発言することが多く「わ、わ、わ、わたし」「あああ、今日はあああ…」のように、同じ音節を繰り返して言うことがあります。
  • 引き延ばし
    音や音節、単語の一部を引き延ばして発言することがあり、「あの、これは、ほんとうに…」「わーーーたし」のように音を引き延ばしたり、伸ばしたりすることがあります。
  • ブロック
    発話の途中で、口が開かなくなってしまうことがあり、言葉を発する前に「・・・・・・・わたし」のように一瞬停滞するような感覚があります。また、口を開くことができないだけでなく、音を出すことができなくなることもあります。
  • 避ける行動
    流暢障害が出やすい言葉や発言の場面を避ける傾向があることがあり、流暢障害があると認識されることを嫌がることがあります。
社会的(語用論的)コミュニケーション症

社会的にコミュニケーションに言語的、非言語的使用を持続的に行うことが困難な状態です。

  • 適切な言葉の選択の困難
    語用論的コミュニケーション障害を持つ人は、特定の状況で適切な言葉を選択することが難しい場合があり、話し相手や話題に応じて適切な話し方や言葉遣いを選択することができない場合があります。
  • 社会的言語スタイルの認識の問題
    社会的(語用論的)コミュニケーション障害を持つ人は、適切な社会的言語スタイルを認識することができない場合があり、異なる社会階層や文化に属する人々との会話で適切な言葉遣いや敬語の使い方を理解することが難しい場合があります。
  • 空気を読む力の不足
    社会的(語用論的)コミュニケーション障害を持つ人は、会話の進行や相手の感情や意図を理解することが難しい場合があり、相手が興味を持っていない話題を続けたり、相手が不快に感じるような言葉遣いを使ったりすることがあります。
  • 適切なタイミングで話すことの難しさ
    社会的(語用論的)コミュニケーション障害を持つ人は、会話の適切なタイミングで話すことができない場合があり、相手の話が終わった後に返事を言ったり、相手の発言に割り込んだりすることがあります。

このページを含め、心理的な知識の情報発信と疑問をテーマに作成しています。メンタルルームでは、「生きづらさ」のカウンセリングや話し相手、愚痴聴きなどから精神疾患までメンタルの悩みや心理のご相談を対面にて3時間無料で行っています。

CDをICD-11の定義では

コミュニケーション症群・障害(CD)は、社会的相互作用や言語的コミュニケーションにおいて重要な障害を示す神経発達障害の一群です。ICD-11では、以下のように定義されています。

  • 社会相互作用の障害(SCI)
    社会的相互作用の能力が明らかに低下しており、同年齢の人々との間の相互作用が制限されている。
  • 言語コミュニケーションの障害(LCI)
    言語の獲得、理解、使用、およびコミュニケーションに関する能力が明らかに低下しており、言語的コミュニケーションの適切な使用が制限されている。
  • 社会的・言語的コミュニケーションの混合障害(MCI)
    社会相互作用と言語コミュニケーションの双方について、明らかな障害が認められている。

これらの障害は、幼少期に始まり、成人期に至るまで持続する可能性があります。また、この障害には、個人の興味や専門分野、知的能力などに対する特定の偏りがある場合があります。

  • 発症時期:​すべての障害は発達期(通常は幼児期または学齢期)に発症します。
  • 除外診断:​感覚障害(例:聴覚障害)、神経学的疾患、知的障害、または他の神経発達症では説明できないことが必要です。
  • 機能的影響:​日常生活、学業、職業、社会的交流などにおいて、顕著な制限や困難を引き起こすことが診断の要件となります。​

CDの治療には、個々の症状に応じた多様なアプローチがあります。たとえば、言語療法、行動療法、社会的スキルトレーニング、職業訓練などが一般的な治療法です。また、合併症の治療に焦点を当てた薬物療法も有効とされることがあります。

ICD-11では、CDの診断に関して、以下のような注意点が挙げられています。

  • 診断は、マルチプロフェッショナルアプローチに基づく包括的な評価を必要とする。
  • 診断のためには、言語、社会的相互作用、コミュニケーション能力などの包括的な評価が必要である。
  • 診断は、個々の人々の文化的背景、言語的背景、教育、社会的状況などに合わせて行われるべきである。
  • 診断は、身体的な状態や他の精神障害に関して、適切な評価を含む必要がある。

CDは、重度の社会的、言語的および学校上の問題を引き起こすため、早期発見および治療が重要です。特に、幼少期に始まる場合、早期干渉により、CDの症状を改善することが可能です。

CDは、発達障害の一部であるため、ICD-11では、自閉スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの他の発達障害と関連することがあります。CDは、ASDやADHDと同様に、さまざまな要因が原因となる複雑な障害です。したがって、CDの治療には、個人の症状、状態、およびニーズに応じた包括的かつ多面的なアプローチが必要です。

コミュニケーション症群の治療

コミュニケーション症群(Communication Disorders:CD)に対する精神療法は、発達段階・症状の種類・社会的機能への影響に応じて多層的に設計されます。代表的な障害(発達性言語症・語音症・社会的コミュニケーション症など)を対象とした小児期の精神療法的アプローチのステップと具体的ワークをご紹介します。

STEP
評価と関係形成

目的:信頼関係の構築と問題の全体像把握

発達歴・言語機能評価・家庭環境・学校状況の聴取/描画・遊戯での観察/親子面接

STEP
心理教育と動機づけ強化

目的:保護者・本人への障害理解の促進

言語発達の仕組み説明/「困っていること」より「できていること」に注目/動画教材や絵カード使用

STEP
セラピー導入(行動・認知・関係)

目的:機能的コミュニケーション能力の支援

絵カードで選択練習/視線・表情・順番待ちの練習/物語づくりやロールプレイ

  • 発達性言語症(DLD)向けワーク
    • 語彙拡張:絵カードを使った「○○はどこ?」「これは何するもの?」クイズ
    • 文章構成:写真や絵を並べて「物語づくりごっこ」
    • 文法支援:語尾や助詞を変えて遊ぶ「文づくりパズル」
    • 対話例のスクリプトや「おしゃべり絵本」を使うと効果的
  • 社会的(語用的)コミュニケーション症向けワーク
    • 視線トレーニング:2人1組で表情カードを読み取りながらの会話練習
    • 会話の順番・話題の維持練習:話題カードで「Yes/Noトーク」「話題リレー」
    • 非言語理解の促進:動画を見て「この人はどう思ってる?」を考えるエクササイズ
    • 特にASDとの鑑別が重要で、構造化された対話スキル練習が中心となる
  • 小児期発症流暢症(吃音)への対応
    • 流暢性形成法(fluency shaping):呼吸や発話速度を調整するリズム練習
    • 認知再構成:「どもるのはダメ」という思い込みをやわらげる
    • 感情表出支援:「どもった時の気持ち」を絵や言葉で表現
  • 親子関係への介入(特に低年齢層)
    • 親子プレイセラピー:言葉のやりとりを楽しむ共同活動(例:人形遊び・ごっこ遊び)
    • 家庭内での言語刺激の支援:「待つ」「繰り返す」「選ばせる」会話スタイルの学習
    • 動画フィードバック法:親子の会話を録画してよい関わりを強化
STEP
一般化と転移練習

目的:学校・家庭での使用の定着化

教師・家族へのフィードバック共有/実際の会話録音をもとにフィードバックセッション

STEP
終結と再発予防

目的:自己理解と支援リソースの確認

強みの言語化/支援先の整理/不調時のサインと対応のリスト作成

幼少期以降の治療例

  • 言語療法
    言語療法は、発達障害や言語障害、流暢性障害などのコミュニケーション障害に対して、言語療法士が患者の言語能力の評価や、適切な治療計画の策定、言語療法の実施などを行います。
  • 認知行動療法
    認知行動療法は、社交不安障害や自閉症スペクトラム障害などの社会的コミュニケーション障害に対しておこないます。構音や発声の異常が気になり他者との話す意欲が低下してしまうなどの要因から自己評価が低下していますので、認知行動療法は思考や行動のパターンを変え、自信をつけるためのトレーニングや、ストレス管理などを行います。
  • 薬物療法
    注意欠陥多動性障害(ADHD)や抑うつ症状がある場合には、薬物療法が有効な場合があります。
  • ソーシャルスキルトレーニング
    社会的コミュニケーション能力の向上を目的としたトレーニングで、コミュニケーション技術や社交技能の習得、相手の気持ちを理解するためのエンパシーのトレーニングなどが含まれます。
  • セラピー犬やセラピー動物を使用した治療
    自閉症スペクトラム障害などの社会的コミュニケーション障害に対して有効です。動物に触れることでストレスが軽減され、コミュニケーション能力の向上につながるとされています。

治療方法は、患者の症状や状況に合わせて個別に決定されます。

大人のコミュニケーション障害

次のような症例は、一見「普通」に見えるが、社会的なやり取りのズレが慢性的に生じ、本人の自尊感情や生活機能に影響を及ぼす点で、臨床的な配慮が必要です。

【症例紹介】

32歳の男性Aさんは、幼少期から周囲との会話がうまくかみ合わないという違和感を持たれていた。成績は平均的で、大学も卒業し、現在は一般企業に勤務しているが、職場での人間関係の不和が続き、心療内科を受診した。Aさんは、「どうして自分だけ話が通じないのか分からない」「人と話すときに正解が分からない」と語る。主訴は「職場で孤立している感じ」「会話がうまくいかないストレス」であった。

診察では、会話のやり取りにおいて相手の発言の文脈を取り違えることが多く、突拍子のない返答や、相手の意図を読み違えた発言が目立った。例えば、同僚が「昨日の飲み会、ちょっと飲みすぎちゃってさ」と軽く笑った時、Aさんは「肝臓に悪いので控えるべきです」と真顔で返答した。比喩や冗談の理解も乏しく、皮肉を文字通りに受け取る傾向がある。

語彙や文法構造には問題はなく、知的能力も平均範囲内だったが、「会話の開始」「話題の共有」「相手に合わせた応答」「非言語的合図の読み取り」など、語用論的なコミュニケーション機能に著しい困難が認められた。自閉スペクトラム症の診断基準には該当しなかったため、社会的(語用的)コミュニケーション症と診断された。

心理療法では、ロールプレイや動画教材を使って、会話の文脈理解や非言語情報の読み取りの練習を実施。現在は就労支援プログラムも併用しながら、対人関係のストレス軽減と社会適応力の向上を目指している。

鑑別が必要な障害・症状

コミュニケーション症群・障害(CD)と類似し、コミュニケーションの困難を呈するが異なる診断が必要となる障害・症状は複数あります。鑑別が重要な代表的な障害・症状を挙げ、それぞれの特徴とCDとの違いを簡潔に解説します。

【鑑別のための重要な観点】

  • 知的機能の水準
     → CDでは基本的に知的水準は正常。
  • 限定的・反復的行動や興味(ASDとの鑑別に重要)
     → CDではこれらの症状は見られない。
  • 言語の構造 vs. 使用
     → CDは「文法や語彙は正しい」が「適切に使えない」ことが中心。
  • 発語の有無(選択性緘黙など)
     → CDでは発話はあるが、文脈に応じた調整が困難。
  • 対人不安の有無(SAD・SMなど)
     → CDは「不安」ではなく「語用機能の障害」が中心。

【鑑別が必要な主な障害・症状】

障害・症状名主な特徴CDとの違い
自閉スペクトラム症(ASD)社会的コミュニケーション障害+限定的・反復的行動様式CDでは限定的興味や感覚過敏などは見られず、会話の語用的側面のみが障害される
知的発達症(ID)知的機能の全体的な遅れ、学習や適応行動の困難CDは知的機能は正常範囲にあるが、言語使用や会話の実用面に困難を持つ
注意欠如・多動症(ADHD)衝動性・注意の持続困難により会話が逸脱ADHDの会話のずれは注意制御の問題であり、CDの語用的障害とは質が異なる
選択性緘黙(SM)特定状況での話しことばの使用拒否SMは不安由来で発話自体が起こらないが、CDでは話すが会話の調整が困難
社会不安症(SAD)他者の評価への強い不安により会話回避CDは不安ではなく、構造的に会話の調整(開始・終結・話題の共有など)が困難
発達性協調運動症(DCD)運動や表情など非言語コミュニケーションの障害CDとの重複もあるが、DCDは言語以外の運動協調性に主軸がある
統合失調症スペクトラム(軽症含む)思考・言語のまとまりのなさ、対人妄想などCDは言語自体の使い方の問題であり、現実検討や認知的歪みとは異なる
聴覚情報処理障害(APD)聴覚的な情報理解の困難(聞き取りにくさ)CDは聴覚の機能は正常で、意味の把握や会話の使い方に障害がある

アレキシサイミア(Alexithymia/失感情症)との鑑別

アレキシサイミア(Alexithymia/失感情症)は、コミュニケーション症群・障害(CD)との鑑別において重要な補助的視点となりますが、厳密には別のカテゴリー(パーソナリティ特性/情動処理の障害)に属します。

アレキシサイミアはCDとは異なる現象ですが、コミュニケーションの質に大きく影響するため、鑑別・理解が必要であり、特に成人例では、会話に問題がある=CDとは限定せず、アレキシサイミアが隠れている可能性もあることを考慮すべきです。

鑑別の際の臨床的ヒントとして、CDは言語の「使い方」に焦点を当て、アレキシサイミアは情動の「気づき・表現」に焦点があるとしていますが、両者は併存しうることを考慮し、特にASDやトラウマ関連障害の中ではCD的な語用論障害とアレキシサイミア的特性が共に存在することがあります。

【アレキシサイミアとは】

アレキシサイミアは、次のような特徴を持つ情動処理の困難がある症状です。病名ではなく、ICD-11やDSM-5では独立した診断名としては登場せず、特性概念として扱われ、さまざまな精神疾患(ASD、うつ、不安、PTSDなど)に共通して見られる症状でもあります。

【CDとの鑑別ポイント】

観点CD(社会的コミュニケーション症)アレキシサイミア
定義領域言語使用の実用的(語用論的)困難感情認知・情動処理の困難
会話の特徴話し方・文脈の不適切さ(会話の開始・維持・順応など)感情的語彙の少なさ/感情を話題にしない傾向
他者との関係会話のずれによる対人関係困難共感性の低下、感情的やりとりが乏しい
言語機能構文や語彙は保たれるが使い方に障害構文・語彙は正常、感情語に偏りあり
自己報告会話のずれに気づきにくいことが多い「自分の気持ちがよく分からない」と自覚していることが多い
発症・背景発達的・神経発達障害として現れることが多い性格特性や情動的トラウマとの関連が強い

CDとアレキシサイミア併存例

併存の臨床的意義としては、「会話がずれる+感情の共有も難しい」ため、対人関係が一層孤立的で表層的になりやすくなりますので、感情理解を補う自己モニタリング訓練と、CDに対する対話スタイルの改善を並行して行う必要があります。なお、ASDとの鑑別や併存リスクも考慮しなければなりません。

【症例紹介:CD+アレキシサイミア併存例】

 概要(成人男性・33歳・事務職)

Aさんは職場の人間関係で「空気が読めない」「話がかみ合わない」と指摘され、同僚との雑談や会議で浮いた存在となり、心理相談に訪れた。話し言葉における文法や語彙に大きな問題はなかったが、会話の文脈を読み違える、冗談や比喩をそのまま受け取る、相手の表情を見ずに自分の話を一方的に進めるといった語用論的な困難が確認された。

さらに、「自分の気持ちを聞かれても答えられない」「怒っているのか悲しいのか分からない」と語り、感情に関する語彙の乏しさや自己認識の弱さが明らかだった。セルフチェックリストでの評価ではアレキシサイミア傾向が高く、特に「感情を識別しにくい」「空想傾向の乏しさ」が顕著だった。

診断としては、社会的(語用的)コミュニケーション症に加え、情動認識と表現の障害としてのアレキシサイミアの併存が示唆された。心理療法では、会話の実践的なトレーニングに加え、「感情の名づけ」や「気分日記」など情動への意識化ワークも併用されている。

【臨床面接での見分け方ガイド】

観点CD(社会的コミュニケーション症)アレキシサイミア併存例での特徴
発語普通に話すが、会話の文脈や相手への配慮がずれる話すが感情に関する語彙が極端に乏しい文脈に合わず、かつ感情語が極端に出ない
感情への気づき一般にはできる(語用上使い方が問題)「感情が分からない」「気持ちを言葉にできない」感情を問う質問に沈黙/混乱/話題回避が生じる
共感性語用的ズレで誤解されるが、意図的でない他者の感情にも気づきにくい表情の変化や語調に無頓着+反応が空白的
内省的語彙(例:つらい・嬉しい)比較的使えるが文脈が不適切極端に少ないか、非常に抽象的使わない/使っても意味が空疎/ロボット的語調
ファンタジー・イメージ絵本や物語の理解がある(比喩苦手なことも)空想や物語を「意味がない」と切り捨てる「話の気持ちが分からない」「空想=嘘」と否定的
対人関係の主訴話のずれによる誤解・衝突感情的距離感・つながりの薄さ両者が混在し、人間関係が「曖昧・重く・わずらわしい」と表現されることがある

【見分けるための面接・介入】

方法内容観察ポイント
感情カードを使った気持ち確認今日の気分を選んでもらう迷いが強い/「よく分からない」反応でアレキシサイミアを示唆
「最近印象に残った出来事」への自由語り内容よりも表現形式を見る起承転結があっても情動語が皆無なら両者併存の可能性あり
絵や写真を用いた気持ちの言語化人の表情を見て感情を推測させる「分からない」「怒ってる?でも冗談?」など曖昧な反応に注目
ロールプレイ+振り返り会話中のズレ・違和感に気づけるか認知では理解していても「なぜ違和感をもたれたか」が理解できないとCD傾向が強い

コミュニケーション障害(CD)セルフチェックリスト

次の40問のセルフチェックリストを使用して、ご自身のコミュニケーション障害(CD)の可能性を評価できます。各質問に対して「はい」または「いいえ」で答えてください。

このチェックリストは自己評価のためのものであり、正式な診断を行うものではありません。疑わしい場合は、専門の医療機関や心理カウンセラーに相談してください。

コミュニケーション障害(CD)セルフチェックリスト
1.言葉がうまく出てこず、会話が途切れがち。
2.話している途中で何を言おうとしていたか忘れてしまうことがある。
3.他人の話を理解するのに時間がかかる。
4.会話の中で適切な言葉を選ぶのが難しい。
5.話し方が単調で、抑揚がないと言われることがある。
6.他人の感情や意図を読み取るのが苦手。
7.ユーモアや皮肉を理解するのが難しい。
8.他人の話に適切に応答するのが難しい。
9.社交的な場面で緊張しやすく、会話がぎこちなくなる。
10.新しい人との会話が苦手。
11.言葉をうまくつなげて説明するのが難しい。
12.口頭での指示を理解するのが難しい。
13.自分の意見を他人に伝えるのが難しい。
14.会話の中でよく言葉に詰まる。
15.電話での会話が苦手。
16.質問に対して適切な答えができないことがある。
17.物語やジョークを話すのが難しい。
18.言葉の意味やニュアンスを理解するのが難しい。
19.会話中に頻繁に話題が飛ぶ。
20.グループディスカッションで発言するのが難しい。
21.長い説明を理解するのが難しい。
22.読み書きが得意ではない。
23.書面でのコミュニケーションが苦手。
24.他人のボディランゲージや表情を読み取るのが苦手。
25.会話中に適切なタイミングで発言するのが難しい。
26.他人の話に割り込んでしまうことが多い。
27.社会的なルールやマナーを理解するのが難しい。
28.ストーリーを論理的に組み立てるのが難しい。
29.自己紹介や自己表現が苦手。
30.難しい単語や専門用語を使うのが苦手。
31.同じことを何度も繰り返してしまうことがある。
32.他人との会話で話題を見つけるのが難しい。
33.会話中に目を合わせるのが難しい。
34.言いたいことが伝わらず、誤解されることが多い。
35.会話の流れを把握するのが難しい。
36.会話の中で適切な量の情報を提供するのが難しい。
37.一度に複数の指示を理解するのが難しい。
38.会話の中で突然黙ってしまうことがある。
39.他人の感情や反応に敏感でないことが多い。
40.会話の終わり方がわからないことがある。

コミュニケーション障害(CD)セルフチェックリスト

評価

  • 各「はい」に対して1点を与えます。
  • 合計点を計算してください。
合計点評価内容
0-10点コミュニケーション障害の兆候はほとんど見られません。
11-20点軽度のコミュニケーション障害の可能性があります。専門家の診断を受けることをお勧めします。
21-30点中度のコミュニケーション障害の可能性があります。日常生活に支障をきたす可能性があるため、専門家の診断とサポートを求めることをお勧めします。
31-40点重度のコミュニケーション障害の可能性があります。専門家の診断と治療が必要です。

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成重竜一郎:多動性障害(注意欠如/多動性障害ADHD)・精神科治療学
金生由紀子、浅井逸郎:チックのための包括的行動介入セラピストガイド/丸善出版
次良丸睦子、五十嵐一枝:発達障害の臨床心理学/北大路書房
柴崎光世、橋本優花里:神経心理学/朝倉書店
村上宣寛:IQってなんだ・知能をめぐる神話と真実/日経BP社
DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 高橋三郎・大野裕監修/医学書院

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