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選択性緘黙/場面緘黙-実際の相談メール例を徹底検証⑥

目次

心とは裏腹に相手と会話ができない、声が出ない!選択性(場面)緘黙・トラウマ性緘黙・全緘黙症と治療法-6弾

「3時間対面無料メンタルケアサービスについて質問します。私は緘黙ですが、○○県○○市まで来ていただくことはできますか」。という若い方からのメールが2022年10月初めに入りました。無料サービスは、クライエントの地域まで出張していないのでお断りしました。私はお断りのメールを返信しただけで、お気持ちを察することもできなくて後悔しています。
今回は緘黙についての徹底検証をしてみます。緘黙といえば一般的には選択性緘黙(場面緘黙)のことを示しますが、全緘黙、トラウマ性緘黙がありますので、分析してみます。

児童期に発症することが多く、3歳前後から発症しピークは5歳未満とされていて年齢とともに改善される例もありますが、多くは適応が不良のままで成人期になっても慢性経過しているケースがあります。
有病率については、データが限られているため確定的な数字はありませんが、0.2 〜0.5%以下といわれます。
選択性緘黙は周りに迷惑をかけないことや、コミュニケーションが普通にできているとみなされ、選択性緘黙と診断されない場合も多いとされています。

選択性緘黙は原因が不明ですが、発達障害のように遺伝的な要因や脳の発達にも関連していて、両親の一方、あるいは両方が緘黙、または無口などの内向的な性格である場合も関係を認めています。
また、片親や施設などの養育の環境や転居などの安定した居場所を失うような生育史上も関与しています。
その他、恥ずかしがりやや、引っ込み思案などの気質を有する不安症との共通性があるともいわれています。このように原因は多因性であると考えられています。

選択性緘黙とは?

家庭など特定の安心できる環境では話せる一方で、学校や職場など「特定の状況」では話すことができない状態です。幼児期〜学童期に多く見られますが、大人になっても症状が残る場合もあります。

完全緘黙とは?

すべての場面で話すことができない状態。極度の不安やトラウマ、発達障害、統合失調症など他の精神疾患が関与している可能性もあります。

選択性緘黙/場面緘黙

選択性緘黙(SM)とは、他の状況では自発的に話しているのに、特定の社会的状況でのみ話すことが困難になる状態です。周りからは自己意思によって会話をしない場面を選択的に行っているように見える疾患です。これは一部の人や特定の場面で「不安を感じる」「緊張する」などの心的要因があって、「話したい」と思っていても話せないという疾患です。
選択性緘黙を持つ人は、一般的に自分に対する厳しい評価や、自己意識の高さ、または新しい人とのコミュニケーションにおける恐怖心、恥ずかしいなど様々な理由で会話をすることに対し不安を感じています。家族や仲間などとは問題なく会話をすることができますが、特定の場面で話したい人と会話ができないことがあります。選択性緘黙の方は性格によるものや自分の意志で話さないことを選んでいるわけではありません。また、緘黙から無言を想像させることで「話さない」をイメージしがちですが、実際は「緘動」といって身体が硬直してしまい、動かせなくなることもあります。その他には次のようにまとめられます。

  • 自発的な会話が少ない
    自分から会話を始めることが少ない傾向があります。また、会話をする際には簡潔にまとめることが多く、詳細な話を避けたりします。
  • 新しい人とのコミュニケーションに苦手意識を持つ
    新しい人とのコミュニケーションに対して苦手意識を持っていることが多く、自分を表現することに自信がないため、そのような場面を避けてしまうことがあります。
  • 不安や緊張が強い
    コミュニケーションに対して強い不安や緊張を感じることが多く、声が小さくなったり、思うように意思を伝えられずストレスを引き起こすことがあるため、場面を避けたくなる傾向があります。
  • グループで話すことが難しい
    グループで話すことに気を使いすぎるような違和感を感じていて、自分を表現することができず、グループの中で浮いてしまうことがあるため、場面を避けたくなる傾向があります。
  • 話しかけられた場合でも反応が弱い
    話し相手に対して思うように自分の気持ちを伝えられず、興味を示すリアクションも取れないことを感じているので、話しかけられても反応が弱くなることがあります。会話を続けることが難しいと感じるあまりに無言のままでいることがあります。

以上のようなことが1カ月以上持続し、学業や職業、対人的コミュニケーションを妨げていることが選択性緘黙となります。

このようなことから選択性緘黙を持つ人を支援するためには、表現や応答がしやすくなる投げかけなど、話すことに対する不安を理解することが重要です。また、コミュニケーションを行う際にストレスを感じないよう、適した方法で自己表現できるような環境を作ることが大切となります。

このページを含め、心理的な知識の情報発信と疑問をテーマに作成しています。メンタルルームでは、「生きづらさ」のカウンセリングや話し相手、愚痴聴きなどから精神疾患までメンタルの悩みや心理のご相談を対面にて3時間無料で行っています。

選択性(場面)緘黙の疫学と原因

正確な疫学データは十分に収集されていませんが、一般的に、男女1:2または1:3で女性に多く見られます。また、選択性緘黙は全世界的に広く分布していますが、文化的背景や社会的環境によって発生率が異なるとされています。

原因や背景

選択性・完全緘黙ともに多因子的な原因が絡みます。主な背景を整理します。

  • 不安障害との関連
    • 社会不安障害との関連が非常に強い(90%以上に併存)。
    • 「話すこと」が極端な不安や恐怖を引き起こす。
  • 家庭環境・養育態度
    • 過保護・過干渉型の親に育てられた場合、自己主張の練習機会が少ない。
    • 両親の不仲や家庭内不和、DV、虐待、離婚などのトラウマもリスク因子。
  • 発達的要因・神経心理学的要素
    • 発達障害(ASD、ADHD、SLDなど)や言語発達の遅れ。
    • 感覚過敏(特に聴覚過敏)が関連することもある。
  • トラウマやいじめ体験
    • 過去に人前で話して恥をかいた経験(例:「声が変」などとからかわれた)。
    • 学校や職場でのいじめや無視、否定的な評価の繰り返し。
  • 文化的要因
    • 二言語使用家庭(バイリンガル)では、一時的に言語的混乱が起きやすい。
    • 日本文化の「沈黙は美徳」的価値観も助長要因となる場合がある。

選択性緘黙(EM)セルフアセスメントチェックリスト

このチェックリストは、選択性(場面)緘黙(SM)の症状を自己評価するためのものです。過去6か月間を基に、各質問にできるだけ正確に答えてください。このチェックリストは自己評価のためのものであり、正式な診断を行うものではありません。選択性緘黙の疑いがある場合は、専門の医療機関に相談してください。

次のスケールを使用して各質問を評価してください。

  • 0: 全くない
  • 1: ほとんどない
  • 2: 時々ある
  • 3: しばしばある
  • 4: いつもある
選択性緘黙(SM)セルフアセスメントチェックリスト40問
1.特定の社会的状況で話すように求められると、非常に不安や緊張を感じる。
2.知らない人の前で話すのが難しい。
3.家では簡単に話せるが、学校や職場では話すのが難しい。
4.話すことが求められるかもしれない社会的状況を避ける。
5.公共の場で話すときに声が出ないことがある。
6.一度も会ったことがない人との会話が難しい。
7.電話での会話を避ける。
8.自分の考えを他人に伝えることに恐怖を感じる。
9.友人や家族以外の人と話すときに声が小さくなる。
10.口頭でのプレゼンテーションが苦手。
11.特定の場所(学校、職場、公共の場など)で話すことができない。
12.他人から話すように促されると、さらに緊張する。
13.話すことに対する不安が身体的な症状(震え、汗、心拍数の増加など)を引き起こす。
14.話すことが求められる状況で冷汗をかく。
15.他人と話すときに目を合わせることが難しい。
16.話すことができないために友人関係が制限されている。
17.話さないことで他人から誤解されることが多い。
18.自分の意見や感情を表現することが難しい。
19.自分が話すことを周囲の人が期待していると感じると、不安が増す。
20.話すことができないことに対する恥ずかしさを感じる。
21.話すことができないために学校や仕事で困難を感じる。
22.話さないことが他人から避けられる原因になることがある。
23.知らない人や少ししか知らない人の前で話すことがストレスになる。
24.一対一の会話でさえも緊張を感じることがある。
25.家族以外の人に自分のニーズを伝えることが難しい。
26.他人が自分の代わりに話してくれることがよくある。
27.声を出すことが怖いと感じることがある。
28.自分の声が他人にどう聞こえるかを気にする。
29.グループディスカッションで発言することが難しい。
30.話すことで注目を浴びることが嫌だ。
31.他人と話すときに緊張で声が震えることがある。
32.話すことができないために誤解されることが多い。
33.社交的な集まりを避ける。
34.自分が話すことを期待されると逃げ出したくなる。
35.話すことができないために他人との関係が制限される。
36.話さないことで他人に誤解されやすい。
37.自分が話すことを期待されるとプレッシャーを感じる。
38.話さないことで自分の意見や感情が伝わらないことが多い。
39.他人と話すときに汗をかくことがある。
40.話すことができないために他人から奇妙に見られることがある。
選択性緘黙(EM)セルフアセスメントチェックリスト40問

スコアリングと評価

各質問に対して付けた点数を合計します。合計点数によって以下のように評価します。

合計点評価内容
0-40点選択性緘黙の可能性は低い。
41-80点軽度の選択性緘黙の可能性がある。さらなる評価を検討してください。
81-120点中程度の選択性緘黙の可能性がある。専門家の診断を検討してください。
121-160点重度の選択性緘黙の可能性がある。専門家の診断と治療を強く推奨します。

トラウマ性緘黙

選択性緘黙は、通常、幼児期や学童期に発症するとされています。しかし、稀に、成人期以降に急に症状が現れることがあります。このような場合、次のような要因が関与している可能性があります。

心的外傷

成人期以降に現れる場合、緊張や不安、恐怖心などの精神症状が伴う心的外傷に晒されたことや、災害や事故などの強いショック体験の後にあらゆる場面で急に離せなくなることがあります。また、過去に経験した心的外傷などがトリガーとなっている可能性もあります。

社会的ストレス

新しい環境や職場での人間関係の構築や維持が困難になるような、精神的ストレスなどが原因で発症することがあります。

全緘黙

全寡黙症は、家庭を含むすべての生活場面で発話ができなくなり、次のようなことが特徴とされます。

発話ができない

言葉を発することができないため、コミュニケーションが困難になります。

音声を出すことができない

言葉を発するだけでなく音を出すこともできないことがあります。たとえば、咳き込んだり、くしゃみをしたり、笑ったりすることにも影響する場合があります。

声を出すための身体的な問題がない

喉や声帯に問題がある場合は、発話が不自由になることがありますが、全寡黙症は、声帯や喉に異常がなくても発話ができない状態が続きます。

選択性緘黙から全緘黙になる場合

選択性緘黙が原因で社交的な場面で話すことができないことによって、人前での発言ができなくなり、自分の意見を伝えることができなくなり緘黙の範囲が広がることがあります。

心理療法

選択性緘黙は、社交不安障害の一種であり社交的な状況で話すことができないという特徴があります。この症状を改善するために、心理療法が一般的に使用されます。次は、選択性緘黙の心理療法のいくつかの例です。

  • 認知行動療法(CBT)
    認知行動療法は、選択性緘黙の治療に有効な心理療法の一つで、自分の思考や感情、行動を変えることを学びます。CBTは、選択性緘黙の原因とも思われる認知的、行動的、情動的な問題を取り扱います。治療の目標は、患者が自信を持って自分を表現できるようにすることです。
    • 段階的暴露法:話すことへの不安を少しずつ減らしていく。
    • 不安階層表(恐怖階層表)を作って、低いレベルから練習する。
    • 自動思考の修正や自己効力感を高める訓練も有効。
  • 心理的な訓練
    社交的な状況に慣れるのを助けるために使用されます。訓練には、リラックスした状態を作り出す方法、公共の場で話すことに慣れる方法、目標を設定し達成するためのスキル、コミュニケーションスキルなどになります。この種の訓練は、患者の自己効力感を高め、社交的な状況での自信をつけていくことです。
  • 心理的サポート
    社交的な状況に対処するために必要な自己信頼心や自己受容感を高めることがで、療法士とのセッションやグループセラピーで、自分自身についての考えを共有し、自己受容感を高めることができます。また、心理的サポートは、患者が症状を克服し、適切なソーシャルスキルを身に付けるのを助けます。

言語療法や聴覚療法

選択性緘黙は、話すことができないという症状がありますが、言語療法や聴覚療法は、この症状を改善するための効果的な治療法の一つです。次は、選択性緘黙の言語療法や聴覚療法のいくつかの例です。

  • 発声練習
    発声練習では、音声発話練習を通じて、自信を持って話すことができるようにします。練習には、発声練習、音声発話練習、音声抑制練習、音声モニタリング練習などです。これらの練習を繰り返すことで、患者は自己表現に自信を持ち、社交的な状況で話すことができるようになります。
  • ロールプレイ
    社交的な状況において話すことができるようにするための方法の一つです。練習には、シチュエーションに応じた役割を演じ、相手とのコミュニケーションを練習します。ロールプレイ練習は、患者が自己表現に自信を持つことを助け、社交的な状況で話すことができるようになることが期待されます。
  • 聴覚療法
    自分の声を聞くことを通じて、自己表現に自信を持つことを助ける方法の一つです。療法には、音声録音、音声再生、音声解析などです。患者は、自分の音声を録音し、再生して、どのように聞こえるのかを理解していきます。これにより、自己受容感を高め、自己表現に自信を持つことができるようになります。
  • 言語療法
    コミュニケーションスキルを向上させるために、語彙や文法、発音などの言語能力を改善するためです。言語療法は、音声言語療法、筆記言語療法、語彙療法、文法療法、会話療法などの方法をおこないます。これらの療法は、患者が自信を持って話すことができるようになるために、コミュニケーションスキルを向上させます。

自分や家族でできる方法

  • プレッシャーをかけない環境づくり
    • 「話して」「声出して」と強要しない
    • 表情やジェスチャー、筆談、アプリなど非言語的コミュニケーションを肯定的に受け入れる
  • 家族への心理教育・支援
    • 保護者が「無理に話させようとしない」「比較しない」ことを学ぶ。
    • 家庭内でリラックスできる環境を保つ。
  • スモールステップでの会話練習
    • 最初は家族だけ、次は信頼できる大人、次は同級生と順に話す相手を広げる。
    • 「音読→録音→録音を他人に聞かせる→電話→対面」と段階を踏むことも。
  • 必要に応じて薬物療法(特に重度の場合)
    • 社会不安障害を背景に持つ場合、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が使われることも。
    • ただし薬物療法はあくまで補助的手段

選択性緘黙と不安症の関係

選択性緘黙(SM)や完全緘黙は、実は「不安症(不安障害)」の一種として理解されることが多いのが現状です。特に「社会不安症(社会不安障害)」との関連が非常に強いとされています。

DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)による分類

  • 選択性緘黙は「不安症群(Anxiety Disorders)」に含まれています。
  • これは、選択性緘黙が「強い不安が原因で話せなくなる状態」であることを示しています。
項目内容
関連疾患社会不安症(社会不安障害)との併存が非常に多い
影響不安が強くなるほど、沈黙が強化される
治療方針不安の正体を理解し、少しずつ乗り越えていく支援が有効
ポイント「緘黙=話せない病気」ではなく、「強い不安に起因する反応」

どんな不安が関係しているのか?

社会不安症(社会恐怖)との併存
  • 選択性緘黙の子どもの約90%が、社会不安症も併せ持っているという研究も。
  • 「人からどう見られるか」「失敗したらどうしよう」といった不安が強く、話すことに大きなプレッシャーを感じる。
失敗体験に対する過度な恐れ

過去に話したときに「笑われた」「注意された」といった経験がトラウマとなって話すこと自体が怖くなる。

自己否定・自己評価の低さ

「自分の声なんて聞かせたら迷惑かも」「変なことを言ったらどうしよう」といった自己否定的思考が見られやすい。

回避行動の強化

話さないことで一時的に不安が和らぐ → 話さないことが強化される → 話す機会がますます減る…という悪循環に陥る。

不安症と選択性緘黙の相互作用のイメージ

不安症と選択性緘黙の相互作用のイメージ

だからこそ「不安」に焦点を当てた治療が必要です。
治療では、話すことそのものより、「話すことへの不安」にどう向き合うかが重要になります。

  • CBT(認知行動療法)でも
    • 「不安階層表」を使い、少しずつ話す経験を積み重ねていく。
    • 「もしうまく話せなくても大丈夫」と思える認知の修正を行う。
    • 呼吸法・リラクゼーションなどで身体的な不安反応のコントロールも行う。

社会不安症と選択性緘黙の共通点・相違点

  • 共通点
    • どちらも「不安」が中心となる症状。
    • 人からの視線・評価に強いストレスを感じる。
    • 認知行動療法が効果的な治療法。
  • 相違点
    • 社会不安症は「広範な対人状況での不安」。
    • 選択性緘黙は「限られた状況でのみ言葉を発しない」のが特徴(家庭では話せるなど)。
    • 発症年齢や症状の現れ方、話せる・話せないの度合いに違いがある。
項目社会不安症
(Social Anxiety Disorder)
選択性緘黙
(Selective Mutism)
分類不安症群(DSM-5)不安症群(DSM-5)
主な症状他者の注目や評価に対する強い不安、回避行動特定の場面で一切話せなくなる(家庭などでは話せる)
発症年齢小学校高学年〜思春期〜成人(幅広い)幼児期〜小学校低学年に多く発症
原因・背景人前での評価・批判への恐怖、過去の失敗経験、自己肯定感の低さ社会不安症と同様の不安に加えて、敏感気質、過去の羞恥体験、親との関係性なども影響
話すことへの影響緊張や不安で声が小さくなる・口数が減る(ただし話せる)状況や相手によって完全に話せなくなる
日常生活への影響人前での発言、発表、会話、会食などを避けがち学校や公共の場でコミュニケーションが取れず、学習や対人関係に支障
治療法認知行動療法(CBT)、暴露療法、薬物療法(SSRIなど)不安の段階的克服+スモールステップの会話訓練、CBT、遊戯療法など
薬物療法有効な場合が多く、処方されることがある基本は心理療法中心だが、社会不安が強い場合に併用されることもある
自覚の有無不安や困りごとを自覚していることが多い幼い場合は自覚が乏しいことも多い(成長とともに苦しみが明確に)
診断基準の違い幅広い状況での不安と回避が基準特定の場面での持続的な話さない行動(家庭では話せるなどの対照性が特徴)

選択性緘黙と自己認識関係

「選択性緘黙」や「社会不安症」と自己認識(self-awareness)には非常に深い関係があります。
とくに、「自分がどう見られているか」「どう思われるか」という対人認識(social self-awareness)が過剰に強く働いているケースが多く見られます。

  • 選択性緘黙や社会不安症の中核には「自分が他者からどう見られるか」という強すぎる意識がある。
  • 自己認識そのものは悪いことではありませんが、過剰で否定的な自己認識が緘黙や不安の引き金になります。
  • 治療では「ありのままの自分」を少しずつ受け入れ、自己認識のバランスを取り戻していく支援が重要です。

自己認識との関連:概要

項目内容
過剰な自己認識
(hyper self-awareness)
他人からの評価を過度に意識し、「失敗したらどうしよう」「変に思われないか」といった不安を強める。
自己評価の低さ
(low self-esteem)
「自分の話は面白くない」「どうせ上手く話せない」という自己否定が話すことへの恐怖と結びつく。
自己観察の過剰
(excessive self-monitoring)
「ちゃんとした言い方をしなくては」「変な声が出たらどうしよう」など、内的チェックが多くなり、発話が阻害される。
対人関係スキーマ
(social schema)
「話す=危険」「声を出すと目立ってしまう」という固定化された自己イメージが背景にあることも。

自己認識と症状のつながり:具体例

状況社会不安症・選択性緘黙での反応自己認識との関連
教室で当てられた顔が赤くなり、声が出なくなる「注目されている自分」を強く意識しすぎてパニック状態に
雑談の場話すタイミングを逃す/沈黙「おかしなこと言ったらどうしよう」と頭の中で自分を検閲している
他人の視線を感じる緊張して言葉が出ない、身体が硬直「今、変に見えてないか?」という過度な自己注視
話した後に反芻する「あれ、変なこと言ったかな…」とずっと気にしてしまう過去の発言を繰り返し思い出して自分を責める

治療や支援での「自己認識」へのアプローチ

  1. 自己への優しさ(Self-Compassion)を育てる
    • 「完璧でなくていい」「話せない自分もOK」という自己受容感の育成。
    • マインドフルネス的アプローチも効果的。
  2. 他者視点の緩和
    • 「他人はそこまで自分を見ていない」「失敗しても大丈夫」といった現実的な認知の再構築
  3. 自己観察から外に注意を向ける練習
    • 「自分の内面」よりも「相手とのやり取り」「周囲の情報」へ意識を向ける訓練(注意シフト)。
  4. 成功体験の積み重ね
    • 小さな成功(例:1対1で挨拶できた)を記録し、「できた自分」を意識的に認識していく。

自己認識(緘黙・社会不安)のゆがみチェックリスト

自己認識のゆがみ(歪んだ自己意識)」に関するセルフチェックリスト(全30項目)
これは、選択性緘黙や社会不安症、対人関係の困難に関連する自己評価・自己注視・自己批判
の傾向を把握するためのツールです。

回答方法:各項目に対して、当てはまる度合いで点数をつけてください。
まったく当てはまらない:0点、あまり当てはまらない:1点、やや当てはまる:2点、とても当てはまる:3点

自己認識(緘黙・社会不安)のゆがみチェックリスト
1.人前で話すとき、変に思われていないかが気になる。
2.自分の声や話し方が気になって話せなくなることがある。
3.人と目を合わせるのが怖い。
4.自分が注目されているような気がして落ち着かなくなる。
5.「うまくやらなければ」と常に思ってしまう。
6.他人は自分の欠点を見ていると感じる。
7.自分の言動をあとで繰り返し思い出しては後悔する。
8.話しているときに「ちゃんとして見えているか」が気になる。
9.自分の意見を言うと、否定される気がする。
10.自分には他人より劣っている部分が多いと思う。
11.他人が笑っていると、自分が笑われている気がする。
12.自分の第一印象は悪いと思う。
13.自分の感情を表に出すことが苦手だ。
14.話しかけられると、急にうまく言葉が出なくなる。
15.他人に迷惑をかけているのではないかと心配になる。
16.「私は変な人に見えているのでは」と思うことがある。
17.他人の評価がとても気になる。
18.一度失敗すると、それがずっと気になる。
19.自分の外見や表情が気になることが多い。
20.いつも人と比べてしまう。
21.他人にどう思われているか想像して不安になる。
22.「完璧にできなければ意味がない」と思いやすい。
23.自分に優しくできない。
24.ささいなミスでも強く自己嫌悪する。
25.話していても、「ちゃんと伝わっているか」が不安になる。
26.「自分は浮いている」と感じやすい。
27.会話のあと、「あれでよかったのか」とぐるぐる考える。
28.他人が自分を評価している場面がとても苦手。
29.「私は〇〇な人間だ」と自分を一面的に決めつけてしまう。
30.自分を肯定的に見るのが難しい。
自己認識(緘黙・社会不安)のゆがみチェックリスト

評価

  • 各「はい」に対して1点を与えます。
  • 合計点を計算してください。
合計点評価説明
0-19点自己認識は比較的安定自己意識は過剰ではなく、柔軟性も保たれている状態です。
20-39点やや自己認識に偏りあり少し自己否定や過度な他者意識が見られます。自信を取り戻すアプローチが有効です。
40-59点
自己認識にゆがみがある
自己注視・評価への過敏さが強く、社会不安や緘黙傾向の背景となりうる状態です。
60-90点
自己認識のゆがみが強い

自己否定、過剰な自己観察、他者評価への恐怖が深く根付いている可能性があります。専門的支援を検討してもよいかもしれません。

アドバイスと今後のヒント

  • 自己認識の歪みは「性格」ではなく「心のクセ」です。
  • カウンセリングや認知行動療法などで「自分を見る目」を少しずつ変えていくことが可能です。
  • 自分へのやさしさ・現実的な認知の育成・小さな成功体験の積み重ねが有効です。

選択性緘黙の概念と診断:ICD-11 Mental, Behavioral and Neurodevelopmental Disorders
選択性緘黙の疫学:American Journal of Speech-Language Pathologyの研究(2007)
選択性緘黙の治療法:American Journal of Speech-Language Pathologyの研究(2007)、Cognitive Behaviour Therapyの研究(2017)
全緘黙の症状:

  • Encyclopedia of Clinical Neuropsychology, 2011
  • Communication Disorders Quarterly, 2017
  • Seminars in Speech and Language, 2015
DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 高橋三郎・大野裕監修/2021医学書院標準精神 尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉/医学書院
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