アヘン、大麻、コカイン、カフェイン、幻覚剤、揮発性溶剤の身体依存・精神依存・耐性・離脱の解説とICD-11の「物質使用障害及び依存行動障害」
DSM-5の「物質関連障害及び嗜癖性障害」の構成マップには、アルコール以外の「その他の物質依存」精神作用物質として、アヘン類、大麻類、睡眠薬類、コカイン、カフェインを含むその他の精神刺激薬、幻覚剤、タバコ(ニコチン)、揮発性溶剤があります。麻薬類は、薬理的に分類されるのではなく「麻薬及び向精神薬取締法」と「覚せい剤取締法」で麻薬と指定される物質のことを示しています。
ICD-11では「その他の物質依存」という包括的なカテゴリがなくなり、「物質使用障害及び依存行動障害」に変更され、『有害な物質使用(Harmful Use)』と『依存症候群(Dependence Syndrome)』に区別されました。このことは、物質ごとに分類される形に変更されたということになります。特に、ICD-11では指定薬物(日本の脱法ドラッグ)」や「合成カンナビノイド」などが適切に分類されるように「新精神活性物質(NPS: New Psychoactive Substances)」という独立したカテゴリーが作られました。
また、診断基準においてもDSM-5の診断カテゴリの「軽度・中等度・重度」と重症度を3段階に分類していたものを、ICD-11では有害な物質使用(Harmful Use)と依存症候群(Dependence Syndrome)を区別し、「渇望(Craving)」が主要な診断基準の1つに強化されました。
ここでは、各物質の特徴とDSM-5による診断基準、薬理作用と中毒症状、依存形成と離脱症状、精神病性障害の解説をします。2ページ目では、ICD-11の変更点と「麻薬及び向精神薬取締法」と「覚せい剤取締法」について解説します。先ずは、概論と予防・一般治療についてまとめてみます。
「その他の物質依存」の概論と予防・一般的治療
DSM-5において、物質関連障害及び嗜癖性障害は、大きく次の2つに分類されます。
- 物質使用障害(Substance Use Disorders)
- 依存症や乱用を含む継続的な使用に関する障害
- 物質誘発性障害(Substance-Induced Disorders)
- 使用によって引き起こされる精神疾患(精神病、抑うつ、不安など)
このうち、「その他の物質依存」には、次の物質が該当します。
各物質の概要
- アヘン類(Opioids)
-
- 作用: 強力な鎮痛作用を持つが、高い依存性を有する。中枢神経を抑制し、多幸感を引き起こす。
- 影響: 呼吸抑制、意識障害、慢性的な使用で禁断症状(不眠、悪寒、吐き気、筋肉痛など)。
- 例: ヘロイン、モルヒネ、フェンタニル、オキシコドン。
- 大麻類(Cannabis)
-
- 作用: 気分高揚、リラックス、幻覚・認知機能の低下を引き起こす。
- 影響: 長期使用による記憶力・注意力低下、精神病症状(幻覚、妄想)。
- 例: マリファナ、ハシシ(樹脂状大麻)。
- 睡眠薬類(鎮静剤、催眠剤、抗不安薬)
-
- 作用: 中枢神経を抑制し、不安・緊張を和らげる。
- 影響: 乱用による依存、不安感の増加、呼吸抑制、離脱症状(震え、不眠、不安)。
- 例: ベンゾジアゼピン系(ジアゼパム、アルプラゾラム)、バルビツール酸系。
- コカイン(Cocaine)
-
- 作用: 強力な興奮作用を持ち、ドーパミン放出を促進する。
- 影響: 強烈な幸福感・覚醒感、急性中毒による不安、心血管障害(心筋梗塞、不整脈)。
- 例: パウダー状コカイン、クラック・コカイン。
- カフェインを含むその他の精神刺激薬
-
- 作用: 覚醒効果、集中力向上。
- 影響: 過剰摂取で不安、震え、不眠、高血圧を引き起こす。
- 例: カフェイン、アンフェタミン、メタンフェタミン。
- 幻覚剤(Hallucinogens)
-
- 作用: 知覚・感情・思考を歪める。
- 影響: フラッシュバック(使用後しばらく経ってからも幻覚が再発)、情緒不安定。
- 例: MDMA(幻覚剤と精神刺激薬)、LSD、マジックマッシュルーム、DMT。
- タバコ(ニコチン)
-
- 作用: 一時的なリラックス効果、ドーパミン分泌の促進。
- 影響: 長期使用で肺疾患、心血管疾患、発がんリスク増加、強い依存性。
- 例: 紙巻タバコ、電子タバコ。
- 揮発性溶剤(Inhalants)
-
- 作用: 有機溶剤の吸引による中枢神経抑制、多幸感。
- 影響: 呼吸抑制、脳障害、突然死(心臓への負担)。
- 例: シンナー、ガソリン、接着剤、スプレー塗料。
各物質の比較表(身体依存・精神依存・耐性・離脱・急性中毒)
物質名 | 身体依存 | 精神依存 | 耐性 | 離脱症状 | 急性中毒 |
---|---|---|---|---|---|
コカイン | なし | 極めて強い | あり (急速) | 抑うつ、不安、不眠、疲労感、渇望 | 興奮、幻覚、妄想、心拍数増加、不整脈、けいれん |
大麻類 | なし | 中程度 | あり (緩やか) | 不安、不眠、食欲低下、イライラ | 知覚変容、判断力低下、記憶障害、心拍数増加 |
揮発性溶剤 | なし | 強い | なし | 不安、震え、頭痛、倦怠感 | 酩酊状態、錯乱、幻覚、呼吸抑制、突然死(心臓発作) |
睡眠薬類 | あり(ベンゾ系) | あり | あり (漸増) | 不安、不眠、けいれん、せん妄 | 昏睡、呼吸抑制、低血圧、死のリスク(過剰摂取時) |
幻覚剤(LSD・MDMAなど) | なし | あり | あり(主に心理的) | 軽度の不安、抑うつ感 | 強い幻覚、妄想、不安発作、交感神経過剰興奮 |
解説(身体依存・精神依存・耐性・離脱症状)
各物質には依存性や中毒リスクに違いがありますが、コカイン・揮発性溶剤は精神依存が極めて強く、睡眠薬は身体依存が強い という特徴があります。
身体依存 | ・睡眠薬(特にベンゾジアゼピン系) は身体依存を形成しやすい。 ・コカイン・大麻・幻覚剤・揮発性溶剤 は身体依存を形成しない。 |
精神依存 | ・コカイン・揮発性溶剤 は精神依存が極めて強い。 ・大麻・睡眠薬・幻覚剤 は中程度の精神依存がある。 |
耐性 | ・コカイン・睡眠薬・幻覚剤 は耐性が形成されやすい。 ・揮発性溶剤 は耐性が形成されにくい。 |
離脱症状 | ・コカイン は抑うつ・不安・疲労感が強く、精神的離脱が顕著。 ・睡眠薬 は不安・不眠・けいれんが生じることがあり、長期使用では離脱が危険。 ・大麻・幻覚剤・揮発性溶剤 の離脱症状は比較的軽度。 |
急性中毒 | ・コカイン は心臓発作や脳卒中のリスクがある。 ・大麻 は精神症状(知覚変容・幻覚)が主体。 ・揮発性溶剤 は最悪の場合、突然死(心停止)を引き起こす。 ・睡眠薬 は過剰摂取で昏睡や呼吸抑制による死亡のリスクがある。 ・幻覚剤 は強い幻覚やパニック、精神病的症状が出現する。 |
予防と一般的治療

アヘン類(Opioids)の特徴
アヘン類(オピオイド)は、ケシの実から抽出される天然のモルヒネや、合成されたフェンタニル、オキシコドンなどを含む強力な鎮痛作用を持つ物質です。医療用として使用される一方で、乱用による強い依存性が問題視されています。
アヘン類は、強力な鎮痛作用と高い依存性を持つ物質であり、乱用による健康被害が深刻です。診断基準(DSM-5)では、使用パターン、社会的影響、耐性・離脱などを評価し、依存の程度を判断します。急性中毒時はナロキソン、離脱症状にはメサドンやブプレノルフィンが使用されます。特に、精神的渇望が長期間続くため、包括的な治療が必要です。
代表的なアヘン類
分類 | 物質 |
---|---|
天然オピオイド(アヘン由来) | モルヒネ(Morphine) コデイン(Codeine) |
半合成オピオイド | ヘロイン(Heroin) オキシコドン(Oxycodone) ヒドロモルフォン(Hydromorphone) |
合成オピオイド | フェンタニル(Fentanyl) メサドン(Methadone) トラマドール(Tramadol) ブプレノルフィン(Buprenorphine) |
作用の特徴
- 鎮痛作用:強力な痛み止めとして使用される
- 鎮静作用:中枢神経を抑制し、リラックス効果をもたらす
- 多幸感(Euphoria):高揚感や幸福感を引き起こす(乱用の原因)
- 呼吸抑制:過剰摂取により致命的な呼吸不全を引き起こす
- 強い依存性:短期間の使用でも身体的・精神的依存が形成されやすい
薬理作用と中毒症状
薬理作用
アヘン類は、脳のオピオイド受容体(μ、κ、δ)に結合し、次のような作用を示します。
受容体 | 作用 |
---|---|
μ受容体(Mu) | 鎮痛、多幸感、呼吸抑制、身体的依存 |
κ受容体(Kappa) | 鎮痛、鎮静、幻覚作用 |
δ受容体(Delta) | 鎮痛、抗うつ作用 |
- 中毒症状
-
急性中毒(オピオイド過剰摂取)では、次の症状が現れます。
- 呼吸抑制(最も致命的)
- 瞳孔の縮小(縮瞳、pinpoint pupils)
- 意識障害(昏睡、意識混濁)
- 血圧低下、徐脈(心拍数低下)
- 低体温
- 筋緊張の低下
- 治療
-
- ナロキソン(Naloxone)(オピオイド拮抗薬)を投与で呼吸抑制
依存形成と離脱症状
依存形成
オピオイドは、急速に耐性が形成され、依存に移行しやすいのが特徴です。
- 身体的依存
- 体内でオピオイド受容体が適応し、使用をやめると離脱症状が発生
- 精神的依存
- 多幸感や鎮静作用を求め、渇望が強くなる
離脱症状の段階 | 主な症状 |
---|---|
初期(6-12時間後) | 不安、あくび、流涙、くしゃみ、発汗 |
中期(24-72時間後) | 筋肉痛、不眠、下痢、悪寒、血圧上昇、頻脈 |
後期(3-7日後) | 精神的不安定、抑うつ、強い渇望 |
- 離脱症状
-
オピオイドを中止すると、激しい離脱症状が現れます(特に短時間作用型のヘロインやモルヒネ)。通常、1週間以内に身体症状は軽減するが、精神的渇望は数カ月~数年続きます。
- 治療
-
- メサドン(Methadone):長時間作用型オピオイドで徐々に減薬
- ブプレノルフィン(Buprenorphine):部分作動薬で離脱を和らげる
- ナルトレキソン(Naltrexone):完全拮抗薬で再発防止

コカイン(Cocaine)の特徴
コカインは、南米のコカの葉から抽出される強力な中枢神経刺激薬(精神刺激薬, Stimulant)です。即効性が高く、短時間で強い快楽や多幸感やエネルギー増大をもたらしますが、強い依存性があり、乱用による精神的・身体的影響が深刻です。特に精神病症状や心血管系リスクが重大な問題です。
形態
- 粉末状コカイン(Cocaine Hydrochloride)
- 鼻から吸引(スニッフィング)または静脈注射
- 効果持続時間:約30~60分
- クラック・コカイン(Crack Cocaine)(アルカリ化したコカイン)
- 蒸発・加熱して吸入(フリーベース)
- 効果持続時間:約5~15分(短時間だが強烈な高揚感)
作用の特徴
- 短時間で強力な多幸感(euphoria)を引き起こす
- エネルギーの増大、興奮、集中力の向上
- 食欲減退、疲労感の軽減
- 強い精神依存を形成しやすい
- 頻繁な使用で精神病症状(妄想、幻覚)を引き起こす
薬理作用と中毒症状
薬理作用
コカインは、脳内の神経伝達物質(ドーパミン、ノルエピネフリン、セロトニン)の再取り込みを阻害し、強力な覚醒作用をもたらします。
影響を受ける神経伝達物質 | 作用 |
---|---|
ドーパミン(DA) | 強い快楽、報酬系の活性化(依存の主因) |
ノルエピネフリン(NE) | 血圧上昇、心拍数増加、興奮状態 |
セロトニン(5-HT) | 気分の高揚、幸福感 |
- 中毒症状
-
急性中毒(コカイン過剰摂取)では、次の症状が現れます。
精神的症状
- 強烈な興奮、多幸感
- 反応過敏、不安、パニック発作
- 妄想、幻覚(特に「虫が這うような感覚」=コカインバグ)
身体的症状
- 高血圧、頻脈、不整脈(心筋梗塞・脳卒中リスク)
- 発汗、発熱(体温上昇)
- 瞳孔散大
- けいれん、興奮性の異常行動
- 治療
-
- ベンゾジアゼピン(ジアゼパム):興奮を抑える
- βブロッカー(メトプロロール):高血圧や頻脈の管理
依存形成と離脱症状
依存形成
コカインは短時間で強い精神依存を形成します。
- 繰り返し使用すると、ドーパミンシステムが適応し、より高用量が必要になる(耐性)
- 断続的使用により、精神病的症状(妄想、幻覚)が出現
離脱症状の段階 | 主な症状 |
---|---|
初期(数時間~1日) | 強い抑うつ、不安、疲労、渇望 |
中期(2~3日) | 無気力、眠気、集中力低下 |
後期(1週間~数週間) | 強いコカイン渇望、抑うつ |
- 離脱症状
-
コカインを中止すると、強い精神的離脱症状が発生します。
- 身体的離脱は比較的軽微(嘔吐や発熱は少ない)
- しかし、精神的渇望が非常に強く、再発率が高い
- 治療
-
- 薬物療法は限定的(現在、FDA承認の特効薬はない)
- 認知行動療法(CBT):依存行動の修正
- 動機づけ面接(MI):使用をやめる意欲の強化
コカインによる精神病性障害
コカイン乱用者は、精神病症状(Cocaine-Induced Psychosis):妄想・幻覚を呈することがあります。
- 主な症状
-
- 被害妄想:「誰かに追われている」「監視されている」
- 幻覚:特に虫が這うような感覚(コカインバグ)
- 興奮・暴力的行動:突然の攻撃性、不可解な行動
- 発症メカニズム
-
- ドーパミン過剰による脳の異常興奮
- 慢性的な睡眠不足も影響
- 治療
-
- ベンゾジアゼピン(ジアゼパム):興奮・不安を抑える
- 抗精神病薬(リスペリドン):幻覚・妄想を抑える

大麻類(Cannabis)の特徴
大麻(Cannabis) は、マリファナ(Marijuana)やハシシ(Hashish) などの形で使用される幻覚作用を伴う中枢神経抑制薬です。比較的依存性が低いと誤解されがちですが、長期使用で精神病症状や認知機能低下を引き起こすリスクがあります。
主成分であるΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)が、脳内のカンナビノイド受容体(CB1・CB2)に作用し、多幸感やリラックス効果をもたらします。
形態
- マリファナ(Marijuana)
- 乾燥した大麻の葉・花・茎を喫煙・摂取する
- THC含有量:3~25%
- ハシシ(Hashish)
- 大麻樹脂から抽出し、濃縮されたもの
- THC含有量:15~60%(マリファナより強力)
- オイル(Hash Oil)
- THCをさらに抽出したオイル状のもの
- THC含有量:40~80%
- 電子タバコ(Vape)
- THCのリキッドを加熱・吸引する形式
使用方法
- 喫煙(ジョイント・パイプ・ボング):即効性があり効果が30分~3時間持続
- 経口摂取(クッキー・ブラウニー):効果発現が遅いが長時間持続(6~8時間)
主な作用
- 多幸感(euphoria)・リラックス
- 時間の歪み(slow motion effect)
- 感覚の鋭敏化(音・色・味の強調)
- 思考の飛躍・妄想的思考
- 食欲増進(マリファナ・マンチーズ)
副作用
- 短期記憶障害
- 注意力・判断力の低下(運転能力の低下)
- 不安・パニック発作
薬理作用と中毒症状
薬理作用
大麻の主要成分THC(Δ9-テトラヒドロカンナビノール)は、脳内のカンナビノイド受容体(CB1, CB2)に作用し、次のような変化を引き起こします。
影響を受ける部位 | 作用 |
---|---|
側坐核(報酬系) | ドーパミン増加 → 多幸感(Euphoria) |
海馬(記憶) | 短期記憶の障害 |
小脳・大脳基底核(運動) | 運動能力・反射速度の低下 |
視床下部(食欲) | 食欲増進(マンチーズ) |
中毒症状
大麻の過剰摂取は次の症状を引き起こします。
- 精神症状
- 強い多幸感・恍惚感
- 不安・パニック発作
- 幻覚・妄想(高濃度使用時)
- 身体症状
- 血圧上昇・頻脈
- 運動失調・めまい
- 口渇・結膜充血(赤目)
長期使用による依存形成と離脱症状
離脱症状
大麻の離脱症状は比較的軽度ですが、次のような症状が現れます。
離脱症状 | 発症期間 |
---|---|
不安・イライラ | 1~2週間 |
不眠 | 1~2週間 |
食欲低下 | 1週間程度 |
悪夢・生々しい夢 | 1週間 |
- 依存形成
-
- 精神依存が主(身体依存は軽度)
- 耐性が形成され、より高濃度のTHCを求める
- 長期使用者は慢性的な意欲低下症候群(Amotivational Syndrome)を示す(無気力・倦怠感)
- 治療
-
- 認知行動療法(CBT)が有効
- 支持的精神療法でストレス対処を強化
大麻による精神病性障害
- 主な症状
-
大麻の高濃度摂取や長期乱用により、精神病症状(Cannabis-Induced Psychosis):妄想・幻覚が発生することがあります。
- 被害妄想(Paranoia):「誰かに監視されている」
- 幻覚(特に聴覚幻覚):「声が聞こえる」
- 思考の混乱・解体:「言葉がまとまらない」
- 興奮・暴力行動
- 発症メカニズム
-
- CB1受容体の過剰刺激 → ドーパミン過剰放出
- 脳の報酬系・前頭葉機能の低下 → 認知の混乱
- 治療
-
- 抗精神病薬(リスペリドン・オランザピン)を使用
- 大麻の完全断薬が必須

精神刺激薬(Stimulants)の特徴
精神刺激薬(Stimulants)*は、中枢神経を興奮させ、覚醒度の上昇・集中力の向上・疲労感の軽減をもたらす薬物群です。短期的には多幸感や集中力の向上をもたらしますが、長期使用により依存形成・精神病症状・神経変性が進行します。
主に次の3つの種類がありますが、本ページでは、特に依存性の強いアンフェタミン系(メタンフェタミン・覚醒剤)について解説します。
分類 | 代表的な薬物 | 主な作用 |
---|---|---|
アンフェタミン系 | アンフェタミン、メタンフェタミン(覚醒剤) | 強い覚醒作用、興奮、多幸感 |
コカイン系 | コカイン | 短時間で強い多幸感、精神依存が強い |
カフェイン・ニコチン | カフェイン、ニコチン | 軽度の覚醒作用 |
薬理作用と中毒症状
精神刺激薬はドーパミン(DA)、ノルアドレナリン(NA)、セロトニン(5-HT)の分泌を促進し、強い覚醒作用をもたらします。
影響を受ける部位 | 作用 |
---|---|
側坐核(報酬系) | ドーパミン増加 → 多幸感・興奮 |
扁桃体・辺縁系(感情) | 恐怖・不安の増大 → 被害妄想 |
大脳皮質(注意・思考) | 集中力・判断力の向上(短期的) → 長期使用で低下 |
脳幹(自律神経) | 交感神経刺激 → 心拍数増加・血圧上昇 |
中毒症状(急性使用時の影響)
- 精神症状
- 強い多幸感(Euphoria)
- 興奮・不眠
- 焦燥感・衝動性の増大
- 被害妄想・幻覚(高用量時)
- 身体症状
- 頻脈・高血圧
- 発汗・悪心・震え
- 筋緊張の亢進(歯ぎしり・顎の締め付け)
- 高体温(中枢神経興奮による) → 重症時は熱中症・脳障害リスク
- 過剰摂取時のリスク
- 脳卒中・心筋梗塞(血管収縮作用による)
- 痙攣・昏睡(ドーパミン過剰放出)
依存形成と離脱症状
依存形成
- 強い精神依存(快感が強いため、渇望が激しい)
- 耐性が形成され、使用量が増加
- 長期使用で神経変性が起こり、自然な快感が得られなくなる
離脱症状 | 発症期間 |
---|---|
抑うつ・不安 | 1~2週間 |
強い疲労感 | 1~2週間 |
睡眠障害(過眠・不眠) | 1~2週間 |
食欲増加(反動的過食) | 1~2週間 |
自殺念慮 | 数週間続く場合あり |
- 離脱症状
-
精神刺激薬の離脱症状は、主に抑うつ・疲労感・渇望が特徴的です。
- 治療
-
- 支持的精神療法で離脱症状の対処
- 抗精神病薬(急性精神病症状に対して)
- 抗うつ薬(離脱後の抑うつ症状に対して)
精神刺激薬による精神病性障害
- 主な症状
-
精神刺激薬の長期使用や大量摂取により、精神病症状(Stimulant-Induced Psychosis):妄想・幻覚が発生することがあります。
- 被害妄想(Paranoia):「監視されている」「盗聴されている」
- 幻覚(特に視覚・触覚幻覚):「虫が這っている(フォーミケーション)」
- 思考の混乱・解体:「言葉がまとまらない」
- 興奮・暴力行動
- 発症メカニズム
-
- ドーパミン過剰 → 幻覚・妄想
- セロトニン異常 → 感情の不安定化
- 治療
-
- 抗精神病薬(リスペリドン・オランザピン)を使用
- 精神刺激薬の完全断薬が必須

睡眠薬類の特徴
睡眠薬類は適切に使用すれば不眠症の治療に有効ですが、長期使用は依存形成のリスクが高く、急な中断は危険な離脱症状を引き起こす可能性があります。
特にバルビツール酸系は依存性・致死性が高いため、現在では非ベンゾジアゼピン系が推奨される傾向にあります。
概要
睡眠薬類(Hypnotics, Sedatives)は、中枢神経系を抑制し、睡眠を促進する薬剤群です。
主に次の3つのカテゴリーに分類されますが、近年では「Z薬」と呼ばれる非ベンゾジアゼピン系が主流となり、バルビツール酸系は安全性の問題から使用が減少しています。
分類 | 代表的な薬物 | 主な作用 |
---|---|---|
ベンゾジアゼピン系(BZD) | ゾルピデム(マイスリー)、エスゾピクロン(ルネスタ) | GABA受容体を活性化し、睡眠を促進 |
バルビツール酸系 | フェノバルビタール、ペントバルビタール | 強力な鎮静・催眠作用(過量摂取リスクが高い) |
非ベンゾジアゼピン系(Z薬) | ゾルピデム(マイスリー)、ゾピクロン(アモバン) | BZDより依存性が少ないが、長期使用で耐性形成あり |
薬理作用と中毒症状
薬理作用
睡眠薬類は主にGABA(γ-アミノ酪酸)の作用を増強し、脳の興奮を抑制します。
影響を受ける部位 | 作用 |
---|---|
大脳皮質(認知・判断) | 思考の鈍化、判断力低下 |
辺縁系(感情) | 不安・緊張の軽減 |
脳幹(睡眠・呼吸調節) | 催眠作用・呼吸抑制(高用量時) |
- 中毒症状(急性使用時の影響)
-
- 精神症状
- 鎮静・眠気
- 記憶障害(前向性健忘:服薬後の出来事を覚えていない)
- 精神運動機能の低下(運転や作業能力の低下)
- 高用量で昏睡・呼吸抑制
- 身体症状
- ふらつき、運動失調
- 低血圧、頻脈
- 呼吸抑制(特にアルコールとの併用で危険)
- 精神症状
- 過剰摂取時のリスク
-
- 昏睡・呼吸抑制 → 死亡リスク
- アルコール・オピオイドとの併用で危険性増大
依存形成と離脱症状
依存形成
- 精神依存(心理的渇望):睡眠薬なしでは眠れないと感じる
- 身体依存(耐性形成):効果が減少し、服用量が増加する
- 長期使用で自然な睡眠リズムが崩れる
離脱症状 | 発症期間 |
---|---|
反跳性不眠(Rebound Insomnia) | 数日間 |
不安・焦燥感 | 1~2週間 |
手の震え(振戦) | 1~2週間 |
発汗・動悸 | 1~2週間 |
筋痙攣・けいれん発作(重症時) | 1週間以内 |
幻覚・妄想(離脱精神病) | 数週間続く場合あり |
- 離脱症状
-
- 睡眠薬の離脱症状は、特にベンゾジアゼピン系・バルビツール酸系で強く現れる。
- 特にバルビツール酸系は、急な断薬で けいれん・昏睡・死亡のリスクがあるため注意が必要。
- 治療
-
- 漸減療法(徐々に減薬)
- 抗けいれん薬(てんかん発作予防)
- 抗不安薬(不安・興奮の管理)

幻覚剤(MDMA)の特徴
MDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)は、幻覚剤と精神刺激薬の両方の特性を持つ薬物であり、多幸感・社交性向上・知覚変化をもたらしますが、セロトニン神経の破壊・高体温・精神病性障害などの重大なリスクがあります。
一般に「エクスタシー」「モリー(Molly)」と呼ばれ、クラブ・パーティー文化で乱用されることが多いようです。
分類 | 特性 |
---|---|
幻覚剤(サイケデリックス) | 知覚の変化(視覚・聴覚・時間感覚の歪み) |
精神刺激薬(アンフェタミン系) | エネルギー増加、多幸感、社交性向上 |
- 特徴的な作用
-
- 多幸感(Euphoria)
- 社交性の増加(Emotional Openness)
- 知覚の変化(色彩・音の歪み、時間感覚の変容)
- 共感・愛情の増大(Empathogen)
- 乱用によるリスク
-
- 神経毒性(長期使用でセロトニン神経の破壊)
- 脱水・高体温(過剰摂取で致命的になることも)
- 精神病性障害(フラッシュバック・妄想)
薬理作用と中毒症状
薬理作用
MDMAは主にセロトニン(5-HT)、ドーパミン(DA)、ノルアドレナリン(NA)の放出を促進し、多幸感・覚醒・知覚変化を引き起こします。
影響を受ける神経伝達物質 | 作用 |
---|---|
セロトニン(5-HT) | 幸福感・共感・情動の増幅 |
ドーパミン(DA) | 興奮・報酬系の刺激(依存性の形成) |
ノルアドレナリン(NA) | 覚醒・エネルギー増加 |
- 中毒症状(急性使用時の影響)
-
- 精神症状
- 高揚感、多幸感
- 社交性の増加(親密な感情・愛情の増幅)
- 視覚・聴覚の変化(色の強調、音楽の響きが増す)
- 焦燥感・不安
- 身体症状
- 瞳孔散大
- 頻脈・高血圧
- 発汗・体温上昇
- 脱水(過度な水分摂取による低ナトリウム血症のリスク)
- 精神症状
- 過剰摂取時のリスク
-
- セロトニン症候群(Serotonin Syndrome)
- 高熱、意識混濁、けいれん、昏睡
- 致死的高体温症(Hyperthermia)
- 体温上昇による臓器障害(特に長時間のダンス・運動時に危険)
- セロトニン症候群(Serotonin Syndrome)
依存形成と離脱症状
- 依存形成
-
- 精神依存(心理的渇望):幸福感・社交性向上を求める
- 耐性の形成:繰り返し使用すると効果が弱まる
- 身体依存(禁断症状)は比較的少ないが、精神依存は強い
- 離脱症状
-
- 気分の落ち込み(セロトニン枯渇)
- 疲労感・倦怠感
- 集中力低下
- 不安・抑うつ
- 睡眠障害(不眠・悪夢)
- 長期使用でセロトニン神経が損傷すると、抑うつ症状が持続する可能性がある。
精神病性障害
- フラッシュバック:幻覚剤持続性知覚障害(HPPD)
-
- 過去に使用した際の幻覚が突如再現される(視覚の歪み、色の変化など)
- ストレスや疲労時に発生しやすい
- 妄想・幻覚(薬物誘発性精神病)
-
- 長期使用で統合失調症様の症状が出現(被害妄想、幻覚)
- ドーパミン過剰による精神病状態
- 特に統合失調症の素因がある人では、長期的な精神病症状を引き起こす可能性がある。
診断基準(DSM-5)
DSM-5では、アヘン類は「オピオイド使用障害(Opioid Use Disorder)」、コカイン類は「刺激薬使用障害(Stimulant Use Disorder)」の一種、大麻は「大麻使用障害(Cannabis Use Disorder, CUD)」、精神刺激薬は「精神刺激薬使用障害(Stimulant Use Disorder)」、睡眠薬は「鎮静剤・睡眠薬・抗不安薬使用障害(Sedative, Hypnotic, or Anxiolytic Use Disorder)」、MDMAは「幻覚剤使用障害(Hallucinogen Use Disorder)」に分類され、以下の11の基準のうち、2つ以上が12カ月以内に該当すると診断されます。
- 軽度:2~3項目
- 中等度:4~5項目
- 重度:6項目以上
- 本来の目的や期間を超えて使用する
- 使用を減らそうとしてもできない
- 物質の入手・使用・回復に多くの時間を費やす
- 使用への強い欲求(渇望)がある
- 使用のために仕事・学校・家庭の責任を果たせない
- 使用のために社会的・対人関係に問題が生じても継続
- 重要な社会的・職業的活動を放棄または減少
- 危険な状況下での使用(運転中など)
- 使用による身体的・精神的問題を認識しても続ける
- 耐性の形成(同じ量では効果が減少し、使用量が増える)
- 離脱症状の発生(使用を中断すると疲労感や渇望、抑うつ症状、不安感などが生じる)
ICD-11の変更点と「麻薬及び向精神薬取締法」と「覚せい剤取締法」については、2ページ目をご覧ください。