事例からセルフネグレクトの状態や行動・要因を学び、セルフチェックからワークと引きこもりとの違いの確認
セルフネグレクト(Self-Neglect)については、現場でよく目にするにもかかわらず、医学的・心理学的に明確な定義が統一されているわけではありません。しかし、実務や支援現場、特に高齢者福祉・精神保健・地域包括ケアの領域ではある程度の共通理解が形成されています。
定義(概念的定義)としては、セルフネグレクトとは、「自らの健康、安全、生活衛生、社会的関係を維持するために必要な行動を持続的に放棄または怠ることにより、生活機能が著しく損なわれる状態」を指します。
しかし、意図的な自己放棄ではなく、能力の低下・精神的負荷・社会的孤立などの影響によって起こることが多くなります。主に 高齢者や社会的孤立者 に見られますが、若年層や中年層にも起こり得る状態 です。
代表的な状態や行動例
- 清潔・衛生管理の放棄(入浴、洗濯、歯磨き、排泄管理など)
- 栄養管理の不足(食事をとらない、腐敗したものを食べるなど)
- 医療や支援の拒否(必要な受診や介護を拒否する)
- ごみ屋敷化、極端な物の溜め込み
- 社会的接触の回避、孤立
- 経済的混乱(収入・支出の管理ができない)
判断のポイント(参考:地域包括支援センターや精神科の判断基準)
項目 | 観察・聴取のポイント |
身体的衛生 | 明らかな不潔さ、臭い、皮膚状態、着衣の状態など |
住環境 | ごみの放置、悪臭、動線の障害物、トイレや風呂の使用状況 |
食生活 | 栄養失調、体重減少、冷蔵庫に食材がない、食事内容が極端 |
意欲・思考 | 「どうでもいい」「生きていたくないわけじゃないが、生きる理由もない」など |
支援拒否 | 必要な援助や制度に対する拒否、閉じこもり |
背景にある主な要因
- うつ状態、無気力、心的外傷後の反応(PTSD/C-PTSD)
- 愛着障害・発達障害・統合失調症スペクトラム
- 喪失体験(家族・ペット・仕事など)
- 孤独と社会的孤立
- 自己価値の極端な低下:「自分は生きていても意味がない」
- 制度や支援への不信感:「どうせ助けてくれない」「人が怖い」
単なる怠惰や「やる気のなさ」との違い
項目 | 単なる怠惰・意欲低下 | セルフネグレクト |
原因 | 一時的な疲労、モチベーションの欠如 | 複雑な心理社会的背景、慢性化 |
意識 | 本人に改善の意識や羞恥がある | 無関心や「どうでもいい」という感覚が強い |
支援 | 働きかけが届きやすい | 支援や介入が拒否される場合がある |
機能 | 日常機能は維持されていることが多い | 機能が著しく損なわれる |
対応の姿勢(心理支援として)
- 「怠けている」と決して評価しないこと。
- クライエントの「生きる気力が剥奪された背景」に共に降りていく姿勢。
- 小さな変化(例:顔を洗えた、部屋を一部片づけた)を「意味ある行動」として一緒に確認。
- 「外からの支援ではなく、内からの希望に沿った一歩」を丁寧に促す。
このページを含め、心理的な知識の情報発信と疑問をテーマに作成しています。メンタルルームでは、「生きづらさ」のカウンセリングや話し相手、愚痴聴きなどから精神疾患までメンタルの悩みや心理のご相談を対面にて3時間無料で行っています。

セルフネグレクトとひきこもりの特徴
セルフネグレクトと“ひきこもり”は、いくつかの共通点をもちながらも、それぞれに異なる背景と意味をもっています。両者を比較・整理すると、クライエントの理解や介入の糸口がより明確になります。
共通点:セルフネグレクトとひきこもり
観点 | 共通する特徴 |
---|---|
社会的孤立 | 周囲とのつながりが絶たれ、自室や自宅に閉じこもる傾向がある |
対人不信・被傷体験 | 他者との関係に強い恐れや諦めがあり、再接近を避ける |
行動の低下 | 日常生活行動(食事・入浴・掃除・金銭管理など)が困難に |
意欲の欠如 | 「やろう」とするエネルギーが湧かず、行動が停止する状態 |
意味・自己の喪失 | 「生きる意味」や「自分とは誰か」に関する問いに直面しやすい |
相違点:セルフネグレクトとひきこもり
観点 | セルフネグレクト | ひきこもり |
中核的な特徴 | 自己管理の放棄・荒廃 | 社会参加からの回避・退避 |
身体的リスク | 高(栄養失調・衛生問題・死亡リスク) | 比較的低い(清潔・衣食住が保たれている場合も多い) |
時間感覚 | 日付や時間、季節の感覚が薄れることがある | 日常の時間感覚は保たれている場合も |
意識の構え | 「どうでもいい」「生きていても意味がない」など放棄的 | 「関わりたくない」「外は怖い」など防衛的 |
関連疾患 | 認知症、うつ病、発達障害、統合失調症、PTSD など | 発達障害、社交不安障害、適応障害、家族機能の問題など |
両者が重なるケースも多い
今回のご相談者(38歳男性)は、複雑なトラウマとセルフネグレクトを伴う重い孤立状態にあります。丁寧な対応が必要であると同時に、長期的・多層的な支援体制をどう設計していくかが問われるケースです。次の臨床的な見立てと対応方針を段階的に整理してご提案します。

実例のセルフネグレクトの相談
独身で38歳の男性です。一人暮らしをして10年経ちます。母親が亡くなったのが原因なのか、虚無感に襲われ、他人を疑ったり信じることができず、誰とも関わりがない状態が2年半ぐらいになります。
私は、入浴、洗濯、歯磨き、掃除に困難を感じ、身体の痒さに負けて入浴は月に1~2回シャワーを浴びるのがやっとです。ごみの処理も怠っているので動線がとれないくらいになっています。料理をすることはありませんので、食事の回数も日に一度スーパーから買ってきたものを食べるくらいです。体重は2年余りで20キロ以上は減っていると思います。
今までは、他者の意識や評価を得たいと思い、日常の暮らしをしていましたが、現在は他者との関係に強い恐れや諦めがあり、接近を避けていることから生活に支障をきたすようになっています。
幼少期には、衣食住については普通だと思いますが、母親の心理的虐待(過干渉と厳しすぎるが同時に存在)と身体的虐待もありました。しかし、共依存とも言える状態が大人になるまでずっと続いていました。父親は私には全く興味を見せず、会話もありませんでした。
また、小学生の頃にはいじめも経験しています。
対人不振が強いため、セラピーを受けたりしましたが、インナーチャイルドとか認知の修正だとかの治療が続き、疲れるばかりで逆に日常生活にマイナスになっていて怖ささえ感じています。
生きる意味も分からず、生きていることに寂しさや悲しみ、怒りが感じられます。生活をするエネルギーもありませんが、心に抱えている悩みをゆっくりと聞いてほしい、愚痴をこぼしたい。できれば習慣や行動を変えてみたいとも思っています。しかし、カウンセリングは時間が50分と限られていて、私の話したいことは聞いてもらえずワークが主体となっていました。実はセルフネグレクト以上に話したいことはあるのですが、カウンセリングでは上記のことを話すことが習慣になっていました。
そこで、3時間の無料カウンセリングということで、時間を十分に使えるのかと思い、問い合わせをしました。
1. 状況の見立て(概観)
- 主訴:セルフネグレクト、対人不信、生活機能の著しい低下、トラウマの反復
- 背景:重度の情緒的・心理的虐待歴(母親から)、情緒的ネグレクト(父親)、いじめ被体験、孤立無援状態の長期化
- 構造的要因:
- 複雑性トラウマ(C-PTSD)に類似
- 解離傾向の可能性(話せなくなる、整理できない、感情が抑圧される)
- 慢性化したうつ的症状や、エネルギー枯渇、シャットダウン状態
- セルフネグレクトの臨床像:
- 単なる怠惰や意欲の問題ではなく、「生きるための最小限の意欲」が剥奪されている状態
- 内在的には罪悪感・恥・無力感・怒り・虚無感などが絡んでいる
2. 初期対応の目標と姿勢
【A】”今すぐ変えようとしない”関わりの構築
- ご本人は「変わりたい」と望んでいるものの、それをうまく言語化できないし、変わるエネルギーもない状態です。
- この場合、“変化志向”よりも“安全・安心の関係づくり”が先になります。
- 話し切れない、話すのが遅い、混乱する……これらを「そのままで大丈夫」と受け止める構え(コンテインメント)が第一です。
【B】明確な「構造」と「枠」の提示
- 不安が強く、混乱する方には、毎回の相談に“安全な枠組み(構造)”を用意すると安心感が増します。
例)
「今日は3つのことを大まかに一緒に見てみましょう。①今の体のこと、②最近感じたことで印象に残っていること、③子どもの頃の記憶のひとつ。この順で進めてもよいですか?」
3. 実際の面接・支援での進め方
【第1ステップ】安全・安心の感覚の回復
- 「今ここ」へのグラウンディング支援(例:呼吸、五感ワーク、身近なルーティン化)
- 会話例:
- 「今日ここに来るのは大変だったと思います。こうして言葉にしてくれてありがとうございます」
- 「『話していいんだ』『話せなくても大丈夫なんだ』と、まずは感じてもらえることが大事です」
- 「話せないことにも、意味がある」
- 「変われない自分にも、背景がある」
【第2ステップ】語る支援:メタ対話・外在化
- 「話すと整理できる」ための支援
- 例:「いま、言葉がうまく出てこないように感じますか? その“うまく出てこない感じ”って、どんな感じですか?」
- 書いて整理することが得意なら紙ベースで「困っていることリスト」を作る支援も有効
【第3ステップ】日常機能への小さな介入(スモールステップ)
- 入浴、洗顔、掃除などは「できる・できない」で見ないこと
- 会話例:
- 「週1でも入れた日があったということ、体は本当によく頑張ってきたんですね」
- 「“できるか”より、“やってみようと思えるタイミング”があるかを一緒に探したいです」
4. 多機関連携の必要性と方向
● 医療機関との連携(精神科 or 心療内科)
- うつ・C-PTSD・発達障害の可能性も含め、医療的評価が必要
- 薬物治療の適否(エネルギー底上げ)が重要になることも
● 公的支援・福祉的介入の視野(地域包括支援センター/保健師等)
- セルフネグレクトが継続する場合、生活支援サービス等の対象になる場合あり
- ご本人の同意を得つつ、連携の情報提供や支援の提案が望ましい
◆ 5. 中長期的な支援の柱:スキーマ療法的視点の導入
クライエント自身が希望している「認知の歪みやスキーマ」への理解支援は、
- 自己批判的スキーマ(「私は価値がない」「努力しない自分はダメ」など)
- 信頼のスキーマ(「人は結局裏切る」「弱音を見せると攻撃される」など)
が予測され、スキーマの見える化・共感的な再構成を支援することが可能です。

セルフネグレクト・セルフチェックリスト
臨床支援や自己理解のために使える「セルフネグレクト・セルフチェックリスト(40項目)」と、それに基づく分類・解釈ガイドです。回答形式:Yes / No(該当すればYes)
№ | セルフネグレクト・セルフチェックリスト(40項目) |
---|---|
【A. 身体・生活の自己管理】 | |
1. | 数日以上、入浴・洗顔・歯磨きをしていないことがある |
2. | 同じ服を何日も着続けている |
3. | 着る服が汚れている・破れているが気にならない |
4. | 爪を切る、髪を整えるなどのケアをほとんどしていない |
5. | 部屋の掃除やごみ出しをしばらくしていない |
6. | 食事の用意をする気力がなく、栄養が偏っている |
7. | 賞味期限切れの食品をそのまま食べている |
8. | トイレや風呂の掃除を長期間していない |
9. | 体調が悪くても病院に行こうと思わない |
10. | 処方された薬を飲まない・飲み忘れる |
【B. 対人関係・社会的つながり】 | |
11. | 誰とも会話をしない日が何日も続く |
12. | 親しい人からの連絡にも応答したくない |
13. | 他人の視線や評価が怖くて外出を避けている |
14. | 人に頼るのは迷惑だと感じる |
15. | 誰かと会う予定を立てるのが苦痛に感じる |
16. | 自分には「会ってもらえる価値」がないと感じる |
17. | 社会的なサービス(福祉・医療など)を利用しようとしない |
18. | 自分のことで誰かに相談した経験がほとんどない |
19. | 他人が信用できない |
20. | 「誰にも知られたくない」と強く思っている |
【C. 精神的・心理的状態】 | |
21. | 朝起きることがとてもつらく、何も始められない |
22. | 「どうでもいい」「もう何でもいい」と感じる |
23. | 死にたいわけではないが、生きたい理由が見つからない |
24. | 無気力な状態が数週間以上続いている |
25. | 人生の目的や希望を見失っている |
26. | 泣きたくても涙が出ない、感情が麻痺しているように感じる |
27. | 自分が無価値な存在だと思う |
28. | 「自分のことなんて誰も気にしていない」と思う |
29. | 楽しかったことが楽しめなくなっている |
30. | 記憶や集中力が以前より落ちたと感じる |
【D. 日常機能・生活の維持】 | |
31. | ゴミや物が部屋に散乱していて生活動線がない |
32. | 電気・ガス・水道が止まった経験がある |
33. | 郵便物・請求書・役所の書類を放置してしまう |
34. | 食料や日用品の買い出しができない |
35. | 家計の管理ができない、何に使ったかわからない |
36. | 洗濯物が山積みになっていて着るものがない |
37. | ゴミの腐敗や悪臭があっても放置している |
38. | 急な予定変更やイレギュラーな事態に対応できない |
39. | 仕事・学業・家事などに継続的に取り組めない |
40. | 「生きるための最小限のこと」が維持できないと感じる |
評価
- Yesの数が多いほど、セルフネグレクトの状態に近い可能性があります。
合計点 | 状態の目安 | 解釈の方向性 |
---|---|---|
0-9点 | 軽度の不調・疲弊 | 一時的なストレス、環境変化による影響の可能性。早期介入で回復可能。 |
10-19点 | 中程度の機能低下 | 慢性的疲労や対人不信の傾向あり。生活支援・心理支援の併用を要検討。 |
20-29点 | セルフネグレクト傾向あり | 明確な生活機能の障害が生じており、心理・社会的支援の介入が必要。 |
30-40点 | 高度セルフネグレクト | 支援拒否や極端な孤立が想定される状態。多職種連携と継続的支援が不可欠。 |
解釈ガイド(主な視点)
【1】どのカテゴリに集中してチェックがついているか?
- A(身体・生活)に多い → 機能的な支援の導入が急務(訪問支援、福祉サービス)
- B(対人関係)に多い → 深刻な対人不信・孤立が背景にある
- C(心理状態)に多い → うつ・トラウマ・喪失感の影響が強い
- D(日常機能)に多い → 環境や生活全体の崩壊リスクあり
【2】本人の「意味づけ」に焦点を当てる
- 「どうでもいい」感情の裏には、「どうにもならなかった」無力感があることが多い
- 「助けて」と言えなかった過去の体験や、頼ったことが裏切られた経験を尋ねると良い
支援者の関わりの基本姿勢
- 非判断的な態度:「なぜできないのか?」ではなく、「どうして、そうせざるを得なかったのか?」
- 信頼関係を急がない:最初は「この人は自分を責めないか」を試されています
- 目標は“回復”ではなく、“接続”:まずは“誰かとつながる”ことが第一歩
本人の「意味づけ」に焦点を当てる
「本人の意味づけ」に焦点を当てるためには、セルフネグレクトという行動の背後にある“個人的な文脈”や“無言のメッセージ”を丁寧にたぐり寄せる必要があります。
介入のポイント
- 行動→感情→記憶→意味の順にたどると、本人も少しずつ“言葉にできる”ようになります。
- 支援者は「励まさない」「励ます前に理解する」姿勢が鍵です。
- 「それでも、あなたはここにいる」ことを繰り返し言語化することが、回復の出発点となります。
意味づけに焦点を当てるための臨床スクリプトと質問例
行動そのものより、「その行動をしているとき、どんな気持ちだったか」をたずねる。
- 「お風呂に入れなかった日々、心の中ではどんな感じがしていましたか?」
- 「連絡を返せなかったとき、“めんどう”という言葉の裏には、どんな気持ちが隠れていそうですか?」
- 「何もしたくないと感じる時間、何を考えていることが多いですか?」
怠惰のように見える行動も、“避ける理由”があることを前提に聴く。
- 「“できなかった”のには、何か理由があるような気がしますか?」
- 「やらなきゃとは思っていた、けど身体が動かなかった──そのときの体や心の感じ、思い出せますか?」
- 「何かをすること自体に“怖さ”や“心の重さ”があったのでしょうか?」
過去の「助けを求めたのに応じてもらえなかった経験」が、セルフネグレクトの土台になっている場合があります。
- 「昔、“助けを求めても届かなかった”と感じた経験って、ありますか?」
- 「頼ることが怖くなったのは、いつごろからだったか覚えていますか?」
- 「一人で抱えなきゃと思ったのは、どんなときでしたか?」
“どうでもいい”の奥には“どうにもならなかった”という感覚があるかもしれません。
- 「“どうでもいい”と感じる前に、“どうにもならなかった”って思ったこと、ありませんか?」
- 「自分のことを大事にしないほうが、ある意味で“楽”だったり“守られている”ような感じはありますか?」
- 「希望を持つのが怖い──そんな感じに近いこと、ありませんか?」
小さな行動にも「意味」や「意志」を見つける問いかけ。
- 「そんな中でも、今日こうして話しに来た“気持ち”って、どんなものでしたか?」
- 「全部を戻すのは無理かもしれないけれど、“ちょっとだけ”何かをしようと思ったのは、どんな気持ちからでしたか?」
- 「何もできないと思いながらも、“心のどこかで”残っていた声、あったと思いますか?」
観点 | 対応する問い・態度 |
無力感の有無 | 「どれだけ頑張っても変わらなかった、と感じたことはありますか?」 |
孤立体験の記憶 | 「誰にもわかってもらえなかった、と感じた瞬間があったのでしょうか?」 |
自己価値の崩壊 | 「自分の存在が、誰にも必要とされていないように感じるときがありますか?」 |
希望と絶望の循環 | 「希望を持とうとして裏切られた経験があったのでしょうか?」 |
無関心ではなく“諦め” | 「“あきらめた”というより、“そうするしかなかった”感じに近いでしょうか?」 |
セルフネグレクトと優しさの再構築
セルフネグレクト状態にあるクライエントが、自己批判や無力感の渦から少しずつ抜け出し、「自分に対する優しさのまなざし」を取り戻すことを目的としています。
セルフネグレクトと優しさの再構築ワークシート①
「がんばる」より、「見てあげる」ことから始めよう。
今のあなたは、「生きているだけで大仕事」をしているのかもしれません。
※見るだけでもOK。書けるときは書いてみましょう。
① 今の自分に、問いかけてみる
Q1. 今、どんなことで「困っているな」と思っていますか?
(例:お風呂に入れない、片づけができない、人と会えない、など)
【わたしの答え】:
→ ___________________________
Q2. その「できなさ」を誰かが責めてきたら、どんな言葉で反論したいですか?
(例:「そんな簡単なことじゃない」「ちゃんと理由がある」「精一杯やってる」)
【わたしの言葉】:
→ ___________________________
② 小さな事実に目を向けてみる
Q3. 最近、自分が「ちゃんとやった」と思えることはありましたか?
(例:横になれた、水を飲めた、ここに相談できた、など)
【わたしができたこと】:
→ ___________________________
Q4. それを「できた」と言ってくれる人がいたら、どんな人でしょう?
(実在しなくてもOK。思い描ける存在で)
【イメージの中の人】:
→ ___________________________
③ 「優しさ」の視点を持ちなおす
Q5. “いまの自分”に声をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?
(例:「よくここまで来たね」「それでも生きてるのはすごい」など)
【わたしからのひとこと】:
→ ___________________________
Q6. こんな“優しさ”があったら、自分の毎日はどうなると思いますか?
【想像してみた】:
→ ___________________________
④ 「できなくていい」から始めてみる
Q7. 今日は“やる”じゃなくて、“やってみようかな”と思えることはありますか?
(例:歯をゆすぐだけ、椅子に座るだけ、外をちょっと眺める)
【やってみようかなと思えること】:
→ ___________________________
Q8. そのことに自分が“OK”を出せたら、どんな気持ちになりますか?
【想像した気持ち】:
→ ___________________________
セルフネグレクトと優しさの再構築ワークシート②
ワークシート②:安心の土台づくり編
― 「わたしにとっての安心」を見つけてみる ―
① 安心ってどんなとき?
Q1. 最近、少しだけでも「ホッとした」と感じた瞬間はありましたか?
(例:お茶を飲んでいたとき、誰かが優しい声で話してくれたとき)
【ホッとしたこと】:
→ _________________________
Q2. 安心できない場所・場面・言葉って、どんなものがありますか?
【安心できないもの】:
→ _________________________
② 安心のための「外の道具」
Q3. 今まで自分が「助かったな」「これに救われた」と思った物・人・習慣はありますか?
(例:毛布、音楽、ぬいぐるみ、静かな時間、ある人の言葉)
【わたしを助けたもの】:
→ _________________________
Q4. これからの自分が「安心するために使える道具」はありますか?
(例:お守り、呼吸、ルーティン、特定の音、香り、画像など)
【安心のための“外道具”】:
→ _________________________
③ 安心のための「内の場所」
Q5. 自分の中に、“少しだけ大丈夫だった過去の時間”はありますか?
(例:散歩してた時間、一人で本を読んでた時間)
【思い出せた時間】:
→ _________________________
Q6. いまこの瞬間、自分に「いていいよ」と言ってくれる存在を想像できますか?
【その存在】:
→ _________________________
スクリプト③:優しさを自分に返す言葉の練習
― 自分との関係をあたため直すためのスクリプト集 ―
※1日1つだけでもOK。「読むだけ」でも「書き出す」でも大丈夫です。
スクリプト1:名前で呼ぶ
「〇〇さん(自分の名前)、今日ここまできたね。ちゃんと生きてる。それだけで立派だよ。」
自分の名前を入れて読み上げる:_________
スクリプト2:やさしさのまなざし
「さっきの私、たしかに動けなかった。でもそれって、疲れたり、傷ついたりしてる証拠。
それを“怠け”じゃなくて、“守り”として見てあげたい。」
感情のメモ:__________________
スクリプト3:過去の自分にかけ直す言葉
「あのときの私、怒られてばかりだったけど、本当は助けてほしかったんだよね。」
「今の私が言ってあげるよ。“あなたは悪くない。つらかったね。”」
言ってあげたいひとこと:____________
スクリプト4:未来の私からの手紙
「未来の私が、今の私に手紙を書いてくれたとしたら…」
例文:
「今のあなたへ。
いま大変なことが多くて、前が見えないかもしれないね。でもあなたはちゃんと生きてるよ。
私はあなたがここまで来たことを、ちゃんと知っているし、誇りに思ってる。大丈夫、一人じゃないよ。」
自分バージョンを書いてみる(or 読み返すだけでもOK)
セルフネグレクト向け感情ワークシート
セルフネグレクト向け感情ワークシート
― わたしの「感じられなかった気持ち」と向き合う ―
● 目的
- 「感情がわからない」「感じる余裕がない」状態を可視化
- セルフネグレクト傾向の根底にある“感情放棄”や“防衛”を優しく探る
- 「自分の感情に気づいていい」という体験を重ねる
複数選んでもOK/わからなければ「?」に○をつけてください。
- □ なんとなく無感覚
- □ 泣きたいような感じ
- □ 重たい疲れ
- □ 申し訳なさ
- □ 不安定/ゆらゆらする
- □ 怒りのようなもの
- □ 落ち着いてる(ように見える)
- □ 感じないようにしてる
- □ 感じたら壊れてしまいそう
- □ わからない(?)
たとえば、「ぐったり子」「怒るフリしてるわたし」「泣いてる背中」など
※無理に書かなくてOKです。
名前:( )
「思い当たらない」場合もそのままで大丈夫です。
- □ 本当は、誰かに怒ってる
- □ 本当は、誰かに悲しかった
- □ 本当は、寂しくてたまらなかった
- □ 本当は、自分のことを嫌いだった
- □ 本当は、誰かを頼りたかった
- □ 本当は、なんでこんな人生なんだって思ってた
- □ 本当は、生きる意味がわからなかった
- □ 本当は、何も考えたくなかった
- □ 本当は、「何も感じない自分」に怒っていた
- □ わからない(それもOK)
無理に答えなくてもかまいません。
心に浮かんだ単語だけでも、ひとつ書ければ十分です。
書けそうな感情:( )
例:
- 「そう感じるのも仕方なかったよ」
- 「ちゃんとここにいるよ」
- 「ごめんね、いままで気づかなくて」
- 「ありがとう、出てきてくれて」
わたしからの言葉:( )
このワークシートに書けたことは、うまく感情を扱えたというより、
「感じてはいけない」と思ってきた感情を、“そっと開く”ことができたという証です。
書き終えたら、深呼吸をひとつ。
できれば、その気持ちを 責めずに・判断せずに 見守ってみてくださいね。
必要なのは「やれること」より「やっていい」の許可
セルフネグレクト(自己放棄)状態にある方への支援では、「生活を変える」より先に、“心の方向”を変える関わりが必要になります。
臨床的な視点から、入浴・清潔保持・家事などに向ける“最初の小さな一歩”を、心理的・行動的アプローチの観点で整理します。
まず必要なのは「やれること」より「やっていい」の許可
セルフネグレクトの背景にあるのは、次のような心理構造です。
- 自己価値の剥奪(例:「自分なんてどうでもいい」)
- 外的評価による自己維持の破綻(例:「人に見られないならやらない」)
- 行動の動機が“罰”や“恐れ”に基づいてきた(例:「怒られるから身なりを整えてきた」)
- 身体感覚や感情感覚の麻痺(例:「お風呂に入っても気持ちよさを感じない」)
したがって、「入浴しましょう」などの助言は逆効果になりやすく、その前に次のような“微細な許可”を丁寧に与える必要があります。
ワーク:「もし、あなたの“今の状態”が大切な人の姿だったら?」
例えば、
- ずっと髪をとかさず、ベッドに横たわっている子ども
- 歯も磨けず、ごはんも食べずにソファで丸くなっている大人
- 誰にも会わず、毎日同じ服で静かに暮らしている高齢者
その人に、どんな声をかけたいですか?
「あなたが、誰かにかけてあげたい言葉」は、あなたが“自分自身にかけてほしかった言葉”かもしれません。
✅ このワークは「自己を他者化」して見る力を引き出し、
✅ 自己への優しさや共感の第一歩になります。
A. 「入浴」への小さなステップの例(段階的アプローチ)
ステップ | 具体例 | ポイント |
1. 「入らなくてもいいけど、湯気だけ感じてみる」 | シャワーを出して浴室の前で深呼吸 | 五感を通じて安全感を回復 |
2. 「手だけ洗ってみる」 | 石鹸の香りを感じる | “清潔にする=罰”ではなく“快”を思い出す |
3. 「湯船に浸からなくても、足だけ洗ってみる」 | 洗面器でも可 | できる範囲で身体を扱う練習 |
4. 「週1回でいい」と決めて入る | 事前に「入っていい自分」になる準備を | 「入れた日」を“自分に対する行為”として肯定する |
✅ ポイントは、「入浴は他人のためでなく、自分のためにやっていい」と再学習させることです。
「やらねば」が心を凍らせているときは、“生活行為”より“情緒的行為”としての再定義が効果的です。
事例:「掃除=自分の“居場所”に触れること」としての語り
「誰も来ない部屋だけど、自分だけはここにいるから、ほんの少し“わたしのための場所”にしてもいいかもしれない。」
無理に“掃除”と名づけず、「クッションを整える」などからでもOK。
事例:「料理=栄養のため」ではなく「手を動かす儀式」としての再設定
「何かを“整える”動きが、自分の中のカオスを落ち着けるかもしれない」
切らずに温めるだけのレトルトでも、「整える動き」に意味を見出せる場合があります。
- 「今日は、できなかったことを“責めなかった”だけで充分です」
- 「ほんの少し、“何かやってもいい自分”を取り戻す時間にしましょうか」
- 「たとえば、“手を洗う”だけの儀式から始めてもいいかもしれません」
- 「誰かのためにじゃなく、“自分がいていい”と思える小さな動きを」
セルフネグレクトからの回復:初期対応5点セット
セルフネグレクトと自己評価の著しい低下がみられる方に向けた、初期段階の「個別対応ワーク・安心スクリプトセット」です。
【セルフネグレクトからの回復:初期対応5点セット】
―「行動より心の安心を先に」―
「一緒に深呼吸してもいいですか?」から始まる、呼吸誘導型スクリプト
「吸って……あなたが、そこにいることを思い出して……
吐いて……今は、もう終わった時間から出てきてもいい」など
✔ 初回面談の「導入」や「対話後のクールダウン」に活用
✔ 安全・許可・回復感のキーワードを含み、被受容感を高めます
Yes/Noで答える簡易セルフチェック式
- □ 今日はお風呂に入れなかったけど、それを責めないでいられた
- □ 着替えができなかったけれど、今のままでもダメじゃないと思えた
- □ ご飯を食べる気になれなかったけれど、何か飲めた
✔ 「できなかったことを責めない」ことを “行動”として記録する仕組み
✔ 非機能ではなく「自己寛容」の機能に焦点を当てます
「できないのは、あなたが弱いからじゃない。エネルギーを奪われ続けたから、蓄えがないだけなんだよ」
「掃除ができない部屋は、“心が壊れた証”じゃなく、“あなたを守った跡”かもしれない」
「あなたが今日、何か1つもできなかったとしても、わたしは話を聞きたい」
✔ クライエントが「一言でも読める日」に備える“文字の居場所”
✔ 支援者が一緒に音読する形も効果的
例:「今日はこれを“やらなくてもいい”」カードセット
- 人と比べること
- 理由を説明すること
- 無理に起き上がること
- 気丈にふるまうこと
- 過去をいまの自分で裁くこと
✔ 「行動すること」より「脱・自責」が大切な初期段階にぴったり
✔ 対話のアイスブレイクにも使えます
書き出しワーク(または口頭でも可)
- 朝のわたしに名前をつけるなら?(例:ぬけがらさん)
- 今日いちばん苦しかった瞬間のわたしを、一言で言うと?(例:がんばりきれなかった人)
- そんなわたしに、誰かが言ってくれたら嬉しい一言は?(例:それでも、いてくれてありがとう)
✔ 自己分離と再統合のワーク
✔ 自責→共感への転換ステップとして活用
