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ゲーム障害の診断・要因とセルフチェックリスト

目次

ゲーム障害(GD)は行動嗜癖で依存症の一種:症状と診断、要因・メカニズムと脳内変化

ゲーム障害(Gaming Disorder, GD)は 、「行動嗜癖(Behavioral Addiction)」 の一種として分類されています。ICD-11(国際疾病分類 第11版) において、2019年5月に正式に新たな依存症の一種として認定された疾患となります。

主要な3つの定義としてとして、一つ目がゲーム行動の制御ができなく、ゲームの頻度、開始や終了のタイミング、プレイ時間、状況などの制御が困難になる場合、二つ目がゲームが他の生活より優先されてしまい、日常生活や社会活動よりもゲームを最優先する状態、三つ目がゲームによる悪影響が生じても継続する状況で、ゲームが原因で深刻な問題が生じてもやめられないなどの症状が、少なくとも12か月以上継続する場合、ゲーム障害と診断される可能性があります(ただし、症状が重篤な場合はより短期間でも診断されることがあります)。
このゲーム障害には、オンライン・オフラインを問わず、ゲーム依存全般が対象となり、ゲームの制御不能・優先度の変化・持続的な悪影響の3要素が診断基準となります。

症例:30歳男性のゲーム障害

Aさん(30歳・男性)は、大学卒業後に就職したものの、仕事のストレスから逃れるためにオンラインゲームに没頭するようになった。最初は帰宅後の数時間だけだったが、次第にプレイ時間が増加し、休日は食事や睡眠を削ってまでゲームを続けるようになった。仕事中もゲームのことが頭から離れず、ミスが増え、上司から注意を受けることが多くなった。

やがて仕事を辞め、親の援助を受けながら昼夜逆転の生活を送るようになった。現実の人間関係は疎遠になり、家族との会話も減少。母親が心配して声をかけると、イライラして暴言を吐くこともあった。経済的に苦しくなり、ゲーム内課金のために借金をするようになった。

医療機関を受診したAさんは、「ゲームをやめたいがやめられない」と訴えた。診察の結果、自己コントロールの低下、現実生活への悪影響、離脱症状が認められ、ゲーム障害と診断された。現在、認知行動療法を受け、ゲーム時間の制限や生活リズムの回復に取り組んでいる。

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主な調査結果と疫学的データ

ゲーム障害(Gaming Disorder)は、近年、世界的に注目されている問題であり、さまざまな調査や研究が行われています。

日本におけるゲーム障害の有病率

久里浜医療センターの研究によると、日本の10~29歳の若年層におけるゲーム障害の推定有病率は、男性で7.6%、女性で2.5%、全体で5.1%と報告されています。特に15~19歳の男性では12.0%と高い割合が示されています。

コロナ禍における子どものゲーム依存傾向

長崎大学の研究チームは、COVID-19の影響による全国一斉臨時休校後、小・中・高校生を対象に調査を実施しました。その結果、調査対象の児童・生徒のうち約7%にゲーム依存症の可能性があると報告されています。これらの子どもたちは、ゲームに費やす時間や金額が多いだけでなく、不登校や情緒・行動の問題、インターネット依存など、さまざまな問題を抱えていることが明らかになりました。

大学病院での診療

ある大学病院では、インターネット・ゲーム依存に関する実態調査と診療を行っています。ICD-11の診断基準を用いて評価を行い、実際の診療に役立てています。このような医療機関での取り組みは、ゲーム障害の理解と治療に先駆けて注目しています。

ゲーム障害の治療施設における実態調査

国内の治療施設を対象とした実態調査では、ゲーム使用問題を持つ患者の約3~5割にゲーム障害の疑いがあるとされています。また、これらの患者の多くが睡眠障害やうつ状態、希死念慮などの問題を抱えており、健康関連のQOL(生活の質)が低いことが明らかになっています。

ゲーム障害( GD)の診断と症状

ICD-11におけるゲーム障害(ICD-11, 6C51: Gaming Disorder)の診断基準世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第11版 では、「物質使用または嗜癖行動による障害群」に分類され、精神的・社会的・身体的健康に重大な影響を及ぼすゲームの使用パターンとして定義されています。

ICD-11ではゲーム障害を「依存症の一種」として明確に認定し、ゲームのコントロール障害・生活の優先度の変化・悪影響があっても継続するという3つの基準を満たす場合に診断されます。特に、12か月以上継続する深刻なケースが対象となるため、一時的なゲーム熱中とは異なる点が重要です(ただし、症状が重篤な場合は12か月未満でも診断可能)。

ゲーム障害の具体的な症状を 「主要症状と診断基準」「依存に特有の症状」 に分けて詳しく解説します。

主要症状(診断基準に基づく特徴)と診断基準

症状
ゲーム行動の制御ができない(コントロール障害)
  • プレイ時間や頻度を自分で調整できない
  • 予定よりも長時間プレイしてしまう
  • 「今日は1時間だけ」と決めても守れず、何時間も続けてしまう
  • 仕事・学業・家事を後回しにしてしまう
  • ゲームをプレイする時間や頻度を自分で制御できない。
  • 「やめよう」と決意してもやめられない。
  • ゲームをする時間を意識的に減らそうとしても失敗する。
症状
ゲームが生活の最優先事項になる(優先度の変化)
  • 趣味や日常生活よりもゲームが最優先になる
  • 友人や家族との会話や食事を避け、ゲームを選ぶ
  • 学業や仕事の成績が低下する
  • 休日に外出せず、ずっとゲームをしている
  • ゲームが最優先事項となり、他の生活活動(学業・仕事・家庭・趣味など)が疎かになる。
  • 食事・睡眠・運動などの基本的な生活習慣を無視してゲームを続ける。
  • 社会活動や人間関係よりもゲームを優先する。
症状
ゲームによる悪影響があっても継続する(問題の持続)
  • 健康や人間関係に悪影響が出てもゲームを続ける
  • 睡眠不足や体調不良があってもやめられない
  • 仕事や学校を欠席・遅刻してでもプレイを続ける
  • ゲームによって学業不振・仕事の遅刻・人間関係の悪化・経済的損失などの問題が生じても、ゲームをやめられない。
  • 家族や友人からの指摘を受けてもプレイを続けてしまう。
  • ゲーム時間が徐々に増え、生活全般に悪影響を及ぼす。
診断
補足事項(診断を強化するポイント)
  • ゲーム行動が持続的または反復的に起こることが重要。
  • 一時的な熱中や娯楽目的でのゲームプレイは診断基準に該当しない。
  • 特にオンラインゲーム(MMORPGなど)では、没入感が強く依存症状を引き起こしやすい。
  • SNSや動画視聴などのインターネット使用障害とは別の概念として扱われる。
診断
診断の目安
  • 3つの主要症状が12か月以上続き、かつ生活に支障をきたしている場合に診断される。
  • ただし、症状が特に重度の場合は、12か月未満でも診断されることがある。
診断
ゲーム障害のICD-11における診断分類

ICD-11では、ゲーム障害には以下の2つのサブタイプが存在します。

  1. オンライン型ゲーム障害(Gaming disorder, predominantly online)
     ➡ インターネットを介したオンラインゲームに依存するタイプ。
  2. オフライン型ゲーム障害(Gaming disorder, predominantly offline)
     ➡ オンラインではなく、主にオフラインのゲームに依存するタイプ。
診断
ICD-11におけるゲーム障害の特徴と注意点
  • 娯楽目的のゲームと依存症のゲームプレイを区別することが重要。長時間プレイしていても、日常生活や健康に問題がなければゲーム障害とはみなされない。
  • 他の精神疾患(うつ病、不安障害、ADHDなど)と併存することが多いため、慎重な診断が求められる。
  • DSM-5では「インターネットゲーム障害(Internet Gaming Disorder, IGD)」として提唱されているが、ICD-11ではオンライン・オフライン両方のゲームを含めた「ゲーム障害(Gaming Disorder)」として認定されている。

依存に特有の症状(嗜癖・依存症の特徴)

ゲーム障害は 物質依存(アルコール・薬物など)と共通する依存症の特徴 を持ちます。

特徴
耐性の形成(Tolerance)
  • 満足感を得るためにプレイ時間が増えていく
  • 最初は1日1時間で満足していたが、次第に2時間、3時間と増加する
  • ゲームの「刺激」に慣れてしまい、新しいゲームやより難易度の高いプレイを求める
特徴
離脱症状(Withdrawal)
  • ゲームをできないと精神的・身体的に不調を感じる
  • イライラする、怒りっぽくなる、落ち着かない
  • 頭痛や不安感、抑うつ、集中力の低下などの症状が出る
  • スマホやゲーム機を取り上げられると極端に不機嫌になる
特徴
失敗を繰り返す(Unsuccessful Attempts to Quit)
  • 「やめよう」と思っても、やめられない
  • 一時的に制限しても、またプレイ時間が増えてしまう
  • 家族や友人に「もうやめる」と約束しても守れない
特徴
ゲーム以外の活動への興味の喪失(Loss of Interest in Other Activities)
  • ゲーム以外のことに楽しさを感じなくなる
  • 以前好きだった趣味やスポーツに興味を持てない
  • 家族や友人と過ごすより、ゲームのほうが楽しいと感じる
特徴
嘘をついてゲームを続ける(Deception)
  • ゲームの時間を隠す、プレイしていないと嘘をつく
  • 「勉強している」「仕事している」と言ってゲームをしている
  • 家族が寝た後や外出中にこっそりプレイする
特徴
ゲームをストレスの逃避手段として使う(Escape from Reality)
  • ストレスや不安を和らげるためにゲームをする
  • 学校や仕事での嫌なことを忘れるためにゲームに没頭する
  • 「ゲームの中の世界」の方が現実より楽しく、ゲームがないと不安になる
特徴
経済的な問題(Financial Problems)
  • ゲーム課金に多額のお金を使う
  • 生活費を削ってまでゲームに課金する
  • クレジットカードを無断で使う、借金をする
  • 仕事を辞めたり、失業してもゲームを続ける

身体的・精神的・社会的な悪影響

ゲーム障害は、自己コントロールの低下が問題の根本にあり、身体的健康の悪化、精神的ストレスの増加、社会生活の崩壊といった多方面に影響を及ぼします。

身体への影響

  • 睡眠障害
    • 長時間のゲームにより就寝時間が遅れ、睡眠不足や昼夜逆転が発生。
    • メラトニン分泌の抑制により、慢性的な不眠症になることもある。
  • 運動不足と生活習慣病
    • 長時間座ったままゲームを続けることで運動不足となり、肥満や筋力低下を招く。
    • 高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病のリスクが増加。
  • 視力低下・眼精疲労
    • 画面を長時間見続けることでドライアイや眼精疲労が発生。
    • ブルーライトの影響で視力が低下することもある。
  • 頭痛・肩こり・腱鞘炎
    • 猫背や不適切な姿勢が続くことで肩こりや頭痛を引き起こす。
    • キーボードやコントローラーの使用による腱鞘炎(ゲーム依存性腱鞘炎)が発生することも。

心理への影響

  • 依存症状(強迫的使用)
    • ゲームをやめようとしてもやめられず、時間管理ができなくなる。
    • ゲームをしていないと不安になり、イライラや焦燥感が生じる(離脱症状)。
  • 感情の不安定化
    • ゲームの失敗や勝敗によって気分が大きく変動しやすい。
    • 攻撃的・暴力的なゲームに没頭すると、怒りのコントロールが難しくなることも。
  • うつ症状・不安障害
    • ゲームの世界に依存し、現実世界の問題を避けるようになる。
    • 孤独感が強まり、自己肯定感の低下や抑うつ状態を引き起こす。
  • 認知機能の低下
    • ゲームに没頭することで集中力や記憶力が低下。
    • 物事を計画的に進める能力や問題解決能力が低下する。

生活への影響

  • 学業・仕事の支障
    • 学生の場合、宿題や試験勉強を怠るようになり、成績が低下。
    • 社会人の場合、遅刻や欠勤が増え、最終的に仕事を失うこともある。
  • 人間関係の悪化
    • 家族や友人とのコミュニケーションが減り、孤立する。
    • ゲーム仲間との交流が中心になり、現実の対人スキルが低下する。
  • 経済的な問題
    • 課金ゲームに多額の金銭を費やし、借金を抱えるケースも。
    • ゲームのために生活費を削り、金銭管理ができなくなる。
  • 社会性の欠如
    • 現実社会での適応能力が低下し、社会復帰が難しくなる。
    • 社会的責任や義務(学校、仕事、家庭の役割)を放棄する傾向が強まる。

ゲーム障害のセルフチェック(40問)

ゲーム障害のセルフチェックリストです。このセルフチェックは、ゲームへの依存度や影響の度合い を測るためのものです。40の質問に「はい」「どちらかといえばはい」「いいえ」 で答えてください。ただし、このセルフチェックはあくまで自己評価の参考であり、正式な診断ではありません。しかし、50点以上の方は、生活習慣の見直しや専門家(精神科・カウンセラー)への相談を検討してください。

ゲーム障害(Gaming Disorder)セルフチェック(40問)
【ゲームの使用頻度・時間】
1.ゲームをしている時間が以前よりも増えていると感じる。
2.1日の大半をゲームに費やすことがある。
3.食事や睡眠の時間を削ってでもゲームを続けることがある。
4.休日には長時間ゲームをし続け、気づいたら何時間も経過していることがある。
5.ゲームを始めると、予定していた時間よりも長くプレイしてしまう。
6.1日に3時間以上ゲームをしないと落ち着かない。
7.学校や仕事の前後にもゲームをする習慣がある。
8.深夜や明け方までゲームをしてしまうことがある。
9.トイレや食事中でもゲームをすることがある。
10.ゲームをしていないと、そわそわして落ち着かなくなる。
【ゲームに対する執着】
11.ゲームが頭から離れず、プレイしていない時も考えてしまう。
12.ゲームをしていないと、退屈で何もやる気が起きない。
13.ゲームをやめることを考えると不安やストレスを感じる。
14.学校や仕事中もゲームのことを考えてしまう。
15.他の趣味よりもゲームを優先することが多い。
16.現実世界よりもゲームの世界のほうが楽しいと感じることがある。
17.自分の価値や達成感は、ゲームの成果に大きく影響されると感じる。
18.新しいゲームやイベントがあると、生活の予定を変更してでもプレイしたくなる。
19.友人や家族よりもゲームのキャラクターや仲間と過ごす時間のほうが多い。
20.ゲームのレベルやランクを上げることに異常な執着を感じることがある。
【ゲームの影響(生活・健康・人間関係)】
21.ゲームのせいで食事の時間が不規則になったことがある。
22.ゲームのために睡眠時間を削ることが習慣化している。
23.ゲームのやりすぎで体調が悪くなることがある(頭痛・疲れ・視力低下など)。
24.ゲームのしすぎで運動不足になっていると感じる。
25.友人や家族との会話よりもゲームを優先することが多い。
26.親や家族にゲームをやめるように言われてケンカになったことがある。
27.ゲームをするために学校や仕事を休んだことがある。
28.ゲームに熱中しすぎて、身の回りのこと(掃除・洗濯・買い物など)をおろそかにしたことがある。
29.ゲームをしていない時にイライラや不安を感じることがある。
30.ゲームをするとストレスが軽減されると感じるが、やめた後に虚無感を感じることもある。
【ゲームをやめられない・コントロール困難】
31.ゲームをやめようとしても、結局また始めてしまうことがある。
32.「今日は短時間だけプレイしよう」と思っても、予定より長くプレイしてしまう。
33.一度ゲームをやめても、しばらくすると強い衝動が出てきて再開してしまう。
34.ゲームをやめると、退屈で何もやる気が起きないと感じることがある。
35.「あと少しだけ」と思いながら、何時間も続けてしまうことがよくある。
36.ゲームのために大事な予定(試験・仕事・約束)をキャンセルしたことがある。
37.以前よりもゲームをする時間が長くならないと満足できなくなってきている。
38.ゲームをやめたら「もっと上手くなれたかも」と後悔し、また再開してしまうことがある。
39.ゲームをプレイするためにお金を使いすぎたことがある(課金など)。
40.自分がゲーム依存になっているのではないかと心配したことがある。
ゲーム障害(Gaming Disorder)セルフチェック(40問)

評価

合計点数の計算方法

  • 「はい」:2点
  • 「どちらかといえばはい」:1点
  • 「いいえ」:0点
  • 合計点を計算してください。
合計点評価・依存の度合い
0-20点依存の可能性は低い(ゲームを適度に楽しめている状態)
21-40点軽度の依存傾向(ゲーム時間が長め、注意が必要)
41-60点中程度〜重度の依存(生活への影響が出始め〜深刻な影響がある可能性)
61-80点ゲーム障害の可能性が極めて高い(専門的な対策が必要)

ゲーム障害の治療法と合併症

ゲーム障害は行動嗜癖(行動依存)の一種であり、精神療法(心理療法)を中心に、必要に応じて薬物療法が併用されることがあります。治療の目的は、ゲームへの依存を減らし、日常生活のバランスを取り戻すことです。また、ゲーム障害は他の精神疾患と併存することが多いため、合併症への対応も重要です。

精神療法(心理療法)

認知行動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)

ゲーム障害の治療に最も効果的とされるのが認知行動療法(CBT)です。CBTでは、ゲームへの依存を引き起こす認知の歪みや行動パターンを修正し、適応的な生活習慣を確立します。CBTは、依存症の行動パターンを改善する最も有効な治療法の一つとされています。

  • ゲーム使用のトリガーを特定する(ストレス、不安、孤独感など)
  • ゲームの代替行動を見つける(運動、趣味、対人交流など)
  • ゲーム時間の管理を強化する(制限ルールの設定)
  • ゲームに対する認知の修正(「ゲームがすべて」という考えの変容)

動機づけ面接(MI: Motivational Interviewing)

ゲーム依存の当事者は、自分が問題を抱えていることを認めたくない場合が多いため、動機づけ面接(MI)が役立ちます。特に、依存の初期段階で治療に前向きでない場合に有効となります。

  • ゲーム依存による問題点とメリットを整理し、バランスを考えさせる。
  • 内発的動機(自分の意思)による変化を促す。
  • 治療への抵抗を和らげ、行動変容をサポートする。

家族療法・家族支援

子どもや若年層のゲーム依存では、家族の関与が非常に重要です。

  • 家族との関係がゲーム依存を悪化させる要因となっている場合がある。
  • 家族がゲーム依存を理解し、サポートする方法を学ぶ。
  • ゲーム依存の当事者と家族の間の適切な境界設定(制限やルール作り)を行う。

薬物療法(薬剤療法)

現時点でゲーム障害専用の薬剤は存在しませんが、併存症(合併症)の治療として以下の薬剤が用いられることがあります。また、薬物療法はあくまで補助的な役割であり、精神療法と組み合わせることが重要です。

症状・合併症使用される薬剤の例
衝動制御の障害(ゲームをやめられない)SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):フルオキセチン、パロキセチンなど
抑うつ・不安(ゲームをやめると落ち込む、不安になる)SSRI、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬):デュロキセチンなど
ADHD(不注意・多動が影響)メチルフェニデート、アトモキセチンなど
衝動的な行動抑制抗精神病薬(アリピプラゾールなど)や気分安定薬(リチウム、バルプロ酸など)

合併症(併存症)について

ゲーム障害の患者は他の精神疾患を併発していることが多いとされています。精神疾患がある場合、ゲーム障害が悪化しやすいため、並行して治療が必要です。


精神的合併症

身体的合併症
  • うつ病(抑うつ気分、自己否定感の増大)
  • 不安障害(ゲームをしていないと強い不安を感じる)
  • 注意欠陥・多動性障害(ADHD)(衝動的なゲーム行動)
  • 強迫性障害(OCD)(ゲームに関する強迫観念)
  • 社交不安障害(SAD)(ゲーム内の人間関係に依存)
  • 生活習慣病(肥満・糖尿病):長時間座りっぱなし+運動不足
  • 睡眠障害:夜遅くまでプレイ→昼夜逆転
  • 眼精疲労:ブルーライトの影響+画面の見過ぎ
  • 筋骨格系の問題:長時間の姿勢維持による肩こり・腰痛・腱鞘炎
  • 栄養不良:食事を抜いてゲームを続ける(インスタント食品中心)

ゲーム障害の要因・メカニズムと脳内変化

ゲーム障害(Gaming Disorder, GD)は、単なる「ゲームのやりすぎ」ではなく、脳の報酬回路や自己コントロール機能の異常 によって生じる依存症の一種とされています。本記事では、ゲーム障害の要因・原因、脳内の変化、ドーパミンの役割、報酬回路、自己コントロールの障害 について詳しく解説します。

ゲーム障害の主な要因・原因

ゲーム障害は、生物学的要因、心理的要因、社会的要因が複合的に絡み合って発症します。

  • 生物学的要因(脳機能・神経科学的メカニズム)
    • 報酬系(ドーパミン)に関連する脳の異常
    • 前頭前野(自己制御機能)の低下
    • ストレスや不安を軽減する神経伝達物質(セロトニンなど)の異常
  • 心理的要因
    • ストレス、不安、抑うつからの逃避
    • 低い自己肯定感(ゲーム内での成功体験による自己価値の補填)
    • 現実逃避や社会的不安の回避
  • 社会的要因
    • ソーシャルゲームやMMORPGによる他者とのつながり依存
    • ゲームのアルゴリズム(報酬・課金システム)による強化学習の影響
    • 家庭環境(親の放任、厳しすぎる育て方など)
脳内メカニズムとゲーム依存の形成

ゲーム障害の根底には、脳内の報酬回路の異常自己コントロール機能の低下 が関与しています。

報酬回路(ドーパミン系)の異常

ドーパミンとは?

ドーパミンは快感や報酬を司る神経伝達物質 で、ゲーム中に放出されることで「楽しい」「もっとやりたい」という感覚を生み出します。
しかし、ゲーム障害の人では ドーパミンの過剰放出や、報酬系の過敏化 が見られます。

ゲーム中にドーパミンが放出されるメカニズム
  1. ゲームをプレイする → 快感(報酬)を得る
  2. ドーパミンが放出される → 脳が「ゲーム=楽しい」と学習
  3. 報酬を求めてプレイ時間が増加 → 依存の形成

この回路は 薬物依存やギャンブル依存と類似 しており、「ゲームによる快感」が強化されると 日常生活での報酬(勉強、仕事、人間関係)が物足りなく感じる ようになります。

前頭前野(自己コントロール)の機能低下

前頭前野とは?

前頭前野は、自己制御・計画・判断・衝動抑制を司る部位 であり、ゲーム障害の人ではこの領域の活動が低下 していることがわかっています。

自己コントロールができなくなるメカニズム
  1. ゲームの刺激に対して前頭前野が適切に「ストップ」をかけられなくなる
  2. 「もう少しだけ…」という衝動を抑えられず、プレイ時間が増加
  3. 結果として、現実生活よりもゲームを優先する行動が強化される

特に幼少期からゲームを過度にプレイしていると、前頭前野の発達が未熟なままとなり、自己コントロールが弱くなる可能性があります。

強化学習とゲームデザインの影響

「ランダム報酬」システムによる依存形成
  • ガチャ(ランダム報酬)やボスドロップ(希少アイテム)などの「不確実な報酬」が依存を強化
  • 予測不可能な報酬は「次こそ当たる!」という期待を生み、ドーパミン放出を増やす
ソーシャル要素による継続プレイ
  • MMO(大規模オンラインゲーム)では、仲間との協力プレイが必要
  • 「仲間を待たせたら申し訳ない」 というプレッシャーがゲームを続ける要因に
毎日ログインボーナスによる習慣化
  • 「毎日ログインでアイテムGET!」 という仕組みが強化学習を促進
  • ゲームに触れる習慣が定着し、抜け出せなくなる
ゲーム障害とその他の精神的影響

ゲーム障害は、次の精神的問題と深く関連しています。

  • 抑うつ・不安障害のリスク
    • ゲームが唯一の楽しみになると、現実世界での活動が減り、抑うつ傾向が強まる
    • ゲーム中の失敗(課金で負ける・負け続ける)が自己否定感を強め、不安を助長
  • 社会不安障害との関連
    • 対人関係が苦手な人は、ゲーム内での交流を好み、リアルの人間関係を避ける
    • その結果、社会的スキルが低下し、より現実世界でのコミュニケーションが困難に
  • ADHD(注意欠如・多動症)との関連
    • ADHDの人はもともと 衝動性が高く、前頭前野の働きが弱い ため、ゲーム依存になりやすい
    • 刺激の多いゲームは、ADHDの「飽きっぽさ」を補い、長時間の集中を促す
ゲーム障害を防ぐための対策
  • 自己コントロールを高める
    • プレイ時間を決め、タイマーで管理する
    • ゲーム以外の趣味や運動を取り入れ、脳の報酬系をバランスよく刺激する
  • 脳の報酬回路を正常化する
    • ゲーム以外でも達成感を得られる活動を増やす(勉強・運動・趣味)
    • 食事・睡眠を整え、脳機能を安定させる
  • 親や周囲の関わりを増やす
    • ゲームのルールを決め、家族と話し合う
    • リアルの交流を増やし、社会的なつながりを強化する

『ゲーム障害 ゲーム依存の理解と治療・予防』

  • 著者:ダニエル・キング、ポール・デルファブロ
  • 監訳:樋口 進
  • 訳者:成田 啓行
  • 出版社:福村出版
  • 出版年:2020年8月25日

本書は、DSM-5やICD-11で注目を浴びるゲーム障害について、その理論とモデルを解説し、臨床の全体像を総説しています。ゲーム依存の理解と治療・予防に関心のある方にとって、貴重な情報源となります。

『ゲーム障害再考』

  • 編者:佐久間 寛之、松本 俊彦、吉川 徹
  • 監修:松本 俊彦、井原 裕、斎藤 環
  • 出版社:日本評論社
  • 出版年:2023年6月

本書は、ゲーム障害が依存症か発達障害の現れか、あるいは過度の医療化なのかといった議論を深く探求しています。多角的な視点からゲーム障害への向き合い方を考える一冊です。

『心が壊れる「ゲーム依存」からどう立ち直るのか』

  • 監修:樋口 進
  • 出版社:ミネルヴァ書房
  • 出版年:2023年12月30日

スマホの普及に伴い、ネットゲームにはまり生活が破綻してしまう子どもや若者が急増しています。本書では、ゲーム依存治療の第一人者が、ゲーム依存の理解と克服方法をイラストや資料とともにやさしく解説しています。

『行為プロセス依存症の診断・治療と再発防止プログラム作成の手引き』

  • 著者:西村 光太郎、斉藤 章佳、竹村 道夫、大石 雅之、菅原 直美
  • 出版社:診断と治療社
  • 概要:インターネット・ゲーム・SNS依存、性依存症、クレプトマニア(窃盗症)、ギャンブル依存症など、行為(プロセス)依存に対する診療をまとめた一冊です。診断・治療から再発防止プログラムまでを、経験豊かな執筆陣が実践的に解説しています。
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