自律神経失調症は交感神経の優位と副交感神経の劣位の神経疲弊だが実際のケースのロジックとセルフチェックで考察
自律神経失調症とは、体のどこかが壊れた病気ではなく、「体を自動的に調整している神経のシステム」が疲れ切ってうまく働かなくなった状態のことを指します。自律神経は、心臓の動き、呼吸、体温、血流、消化、睡眠、ホルモン、免疫などを無意識のうちにコントロールしています。ふだん私たちは意識せずに生きていますが、実はこの神経の働きが、心と体の安定を支えています。
自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があります。交感神経は緊張や活動のためのアクセルで、危険やストレスに反応して体を守ります。副交感神経は休息と回復のためのブレーキで、体をリラックスさせ、修復を促します。健康な状態ではこの二つが状況に応じて切り替わりますが、長期間のストレスや過労、人間関係の緊張、トラウマ、更年期のホルモン変動などが重なると、交感神経が過剰に働き続け、ブレーキがかからなくなります。これが自律神経失調症の中身です。
その結果、首や肩の痛み、頭痛、動悸、めまい、ほてり、微熱、ブレインフォグ(頭がぼんやりする感じ)、不眠、強い疲労感、気分の落ち込みなど、さまざまな症状が現れます。検査では異常が見つからないことが多く、「気のせい」や「心の問題」と誤解されがちですが、実際には神経の働きが限界を超えている状態です。
自律神経失調症は「弱さ」ではなく、「長い間がんばり続けた神経の疲労」です。回復のために大切なのは、さらに無理をすることではなく、体と神経に「今は安全だ」と感じさせる時間を少しずつ取り戻すことです。適切なケアと環境があれば、神経は回復し、心と体のバランスもゆっくりと戻っていきます。
可能性をぬぐい切れない女性のケース
栃木県在住、55歳の女性のカウンセリングを4時間かけて行ったケースです。
相談の全体像は、① 親密なパートナー関係における心理的安全の破綻、② 原家族(特に母・姉)における長期的な役割固定と境界侵害が同時進行で再活性化している状態。③職場の構造上の問題(部署内での現実ではない期限を設けての大量の業務依頼『自分しかできない特殊分野』と別部署の要求の板挟みで調整役を担うことの強烈なストレス)
最終的にカウンセリングの中で、一番気になったことは上記の問題だけではありませんでした。それは、カウンセリングの終了後にクライエント様からのお話があった体調のことでした。
頭痛が酷く、首や肩の痛みが強く熱を持っていて、ブレインフォグがあります。ということでした。記憶力の低下、思考停止や不能が起きていて、頭の中に霧がかかったようにボーとして集中力が鈍くなるようです。
体の疲労は極限に達していて、今は部屋の片づけやシャワーを浴びるのも億劫になっているようです。
最近、医師には「頚性神経症候群(首こり病)」と言われているようです。しかし、治療でも効果が現れず、鎮痛剤だけは服用しているようです。5年前には、認知症を疑いMRIを受けたようですが、問題はなかったようです。また、病院を変えながら、うつ病とも双極性障害(双極Ⅱ型)だとも診断があったようです。しかし、それらの薬も効果が薄く、服用を止めて1年が経過しています。自分でも病気が何なのかわからずとても落ち込んでいました。その中で強く希望しているのは、経頭蓋磁気刺激療法や修正型電気痙攣療法でした。
この女性のお話では、更年期障害も患っているようです。
このクライエント様と4時間に及ぶカウンセリングをして気づいたことは、少しの間も気の休まる時がないということです。「とにかく仕事頑張らなければ生きていけない」。を何度か繰り返していました。
マインドフルネスをしていても脳は活発に動いていて、交感神経が常にONであるような印象を強く受けました。そのためか、少し休んでいいんですよ。などの癒しの言葉にも反感を持つようなこともありました。まったくと言っていいくらい副交感神経の働きが見受けられませんでした。
私は5年経過しているので、もう一度MRIの検査も必要かもしれませんね。などと提案しましたが、冷静に考えてみると激しい頭痛や肩こり、首の痛み、そして「熱感」といった症状は、幼少期からの迷走神経が関与する自律神経の交感神経優位(自律神経失調症)と関連の可能性があるのではとも考えられます。もし、影響があるならば、頭痛は緊張型であり、交感神経の働きが強いと首や肩への血流が悪化することで慢性的な激しい痛みが生じます。
また、自律神経は体温調整も行っているため、炎症がないのに首のあたりが熱く感じたり微熱が出るのかもしれません。
さらに、ブレインフォグは脳疲労なのではないかと推察もできます。職場のことや働きすぎ、パートナーのこと、母親や姉のことなどストレスが重なっているということから、記憶力の低下、思考停止や不能が起きているのも、頭の中に霧がかかったようにボーとして集中力が鈍くなるのも、交感神経が優位な状態が続くと脳がフル回転の緊張状態になっているのかもしれません。これは脳の疲労が蓄積されてきたという説明もできます。また、自律神経失調症はうつ症状や意欲低下なども引き起こします。
まったく楽しみを感じることがないということなどから、うつ病や適応障害も除外することになると双極性障害が残ります。そして、近年注目されている「痙性神経症候群(首こり病)」でもうつ症状や意欲低下なども引き起こします。また、5年前にMRIを受けていることからも認知症については脳血管障害や委縮などの脳の構造的な病変が原因でないとも言えます。
数パーセントの可能性があるなら、自律神経失調症について概要から臨床症状、治療まで解説させていただきたいとページを作成しました。
この55歳女性に起きていることは、「精神疾患」よりも「迷走神経の未発達」「神経系の過労崩壊」として推察してみます。そこで、あくまでも数%の仮の見立てとしてですが、医学的・神経生理的・トラウマ臨床の3層で整理します。
このクライエント様の症状の現われは、一般的に「首こり病」ですが、原因ではなく結果としての出口であり、背景にあるのは長年にわたる神経‐愛着‐トラウマの連鎖だとも感じています。。
以下、クライこの方の「首こり病」は原因ではなく結果としての出口であり、背景にあるのは長年にわたる神経‐愛着‐トラウマの連鎖として、ロジックの整理をしてみます。

頚性神経症候群(首こり病)は、首の筋緊張 → 神経圧迫 → 脳血流低下 → 自律神経の乱れという物理的経路で症状が出ます。
しかし、この女性の場合、首が緊張した「理由」が異常に強い。
- 常に身構えている
- 休むと不安
- 人の機嫌に神経が張りつく
- 働き続けないと存在価値を失う恐怖
これは首の使い過ぎではなく、「生存のために緊張し続けてきた神経」です。
この女性の神経は幼少期に学習しました。
「安心すると壊れる」
「人に近づくと危険」
「自分が頑張らないと生きられない」
これがトラウマ性過覚醒です。
交感神経が常にONになり、迷走神経が発達しなかった。
FNDとは、脳と体の信号がストレスで誤配線される状態
この女性の神経は
- 頭、首、肩の痛み
- 脳の霧
- だるさ
- 思考停止
で危険を表現するようになった。
長年の緊張姿勢とPC作業で
- 交感神経幹
- 迷走神経
- 脳幹血流
が圧迫され、 首こり病として噴き出した
- 幼少期トラウマ ⇓
- 神経の過覚醒(交感神経固定) ⇓
- FND+自律神経失調 ⇓
- 首の神経ルートで症状が出現= 頚性神経症候群
首をほぐしても「危険だと学習した神経」が緩まない限り再発します。
必要なのは:
- 神経に安全を教えること
- トラウマの脱条件づけ
- 首の緊張解除の両立
「あなたの首が悪いのではなく、あなたの神経がずっと必死に生き延びてきた結果が、首に出ているのだと感じます。」
これは「交感神経性過覚醒による神経系のオーバーヒート(Neural Overload)」として見立ててみます。この女性の症状の組み合わせは、極めて特徴的です。
| 症状 | 神経生理学的意味 |
| 激しい頭痛や首・肩の痛み | 交感神経による血管収縮+筋緊張 |
| 熱感 | 自律神経性体温調節異常 |
| ブレインフォグ | 前頭前野の機能低下 |
| 記憶低下 | 海馬のストレス抑制 |
| 思考停止 | 扁桃体過活動によるPFC遮断 |
| 意欲低下 | ドーパミン枯渇 |
| うつ様状態 | HPA軸疲弊 |
| 休めない | 迷走神経ブレーキ不能 |
これはDSMのどの診断名よりも、「神経系が安全を失って戦闘モードから抜けられなくなった状態」です。
これは決して軽い病名ではありません。
頚性神経症候群(首こり病)とは
頚性神経症候群(いわゆる「首こり病」)とは、首や肩の深い筋肉の緊張やこわばりによって、首の中を通っている自律神経や血管、神経の働きが妨げられ、さまざまな全身症状が起こる状態を指します。首の奥には、脳と体をつなぐ重要な神経や血流の通り道が集中しており、ここが慢性的に緊張すると、脳への血流が低下したり、自律神経のバランスが乱れやすくなります。
その結果、頭痛、首や肩の強いこりや痛み、めまい、耳鳴り、ブレインフォグ(頭がぼんやりする感じ)、動悸、吐き気、不安感、抑うつ感などが現れることがあります。検査では大きな異常が見つからないことが多く、心の問題と誤解されることもありますが、実際には神経と血流の機能的な乱れによる身体の症状です。長時間の緊張姿勢や強いストレス、過労などが重なると悪化しやすく、首と神経の両方を整えるケアが重要になります。
首こり病の正体は:頚部交感神経の慢性過緊張による脳血流・自律神経制御の破綻です。
首の奥には
・脳幹への血流
・迷走神経
・交感神経幹
が通っています。
ここが緊張すると:
- 脳に酸素が届かない
- 迷走神経が遮断される
- 扁桃体が過覚醒する
→ 「常に命の危険を感じる脳」になる
これがブレインフォグ・うつ様・不安・思考停止を作ります。
これは極めて重要です。
MRI正常 =構造の病気ではない → 機能の病気である
つまり:
- 認知症ではない
- 脳梗塞でもない
- 萎縮でもない
→ 「神経ネットワークの疲弊」
これはTMSやECTの適応ではありません。
この女性はこう感じています:「この地獄の状態を止めたい」
TMSやECTは脳のリセットボタンに見えるからです。
しかし、この病態でそれを行うと:
- 一時的に気分は変わる
- しかし交感神経は止まらない
- 迷走神経は回復しない
→ 再発します。
診断的には最も近いのは:機能性神経症候群(FND)+自律神経失調+トラウマ性過覚醒だと感じています。
うつ病でも双極ではないのかもしれません。
これは非常に重要な所見です。
交感神経過覚醒状態の人は、「緩め」と言われると脳が危険を感じる
なぜなら、「緩む=無防備=死ぬ」と神経が学習しているからです。
この人の神経は:休むこと=危険という条件づけを受けています。
MRI再検査の提案は論理的に正しかったと思いますが、この女性の本当の問題は「神経が休めないこと」だと感じています。
「とにかく頑張らなければ生きていけない」
これは思考ではなく、神経反射です。
この女性が必要としているのは、脳への電気刺激ではなく神経への「安全」刺激なのかもしれません。
- 首の過緊張解除
- 迷走神経刺激
- 神経の脱条件づけ
- トラウマ反応の沈静化
これが治療の本体です。
今回の55歳女性の臨床像は、精神疾患の枠では説明できず、自律神経失調(とくに交感神経過覚醒型)として理解する方が、医学的にも心理臨床的にも整合すると仮定して次に進みます。

自律神経失調症の本質
臨床家として押さえておくべき 自律神経失調症の本質 を体系的に整理します。
- Ⅰ.自律神経失調症とは何か
-
自律神経失調症とは、病名というより「脳・神経系による身体制御システムの破綻状態」を指す総称です。
自律神経は以下を制御します。
- 心拍・血圧
- 血流
- 体温
- 呼吸
- 消化
- 筋緊張
- ホルモン
- 炎症反応
- 免疫
- 脳の覚醒レベル
この統合制御が崩れた状態が「自律神経失調」です。
- Ⅱ.なぜ検査では異常が出ないのか
-
この病態の最大の特徴は、構造は正常、機能が壊れている
MRI・CT・血液検査は「壊れた組織」を見る検査であり、「壊れた制御システム」は映りません。
これは糖尿病の初期に似ています。ホルモン制御の異常であって、臓器の病気ではないのです。
- Ⅲ.中枢は「脳」ではなく「神経回路」
-
自律神経失調の中枢は:
- 扁桃体(危険検知)
- 視床下部(ホルモン)
- 脳幹(生命制御)
- 迷走神経(ブレーキ)
- 頸部交感神経
です。ここがストレスで誤作動学習を起こします。
- Ⅳ.3つのタイプ
-
自律神経失調は臨床的に3型に分かれます。
① 交感神経優位型(今回のケース)
- 緊張
- 首肩痛
- 頭痛
- 不眠
- ブレインフォグ
- イライラ
- 動悸
- 微熱
② 副交感神経優位型
- 倦怠感
- 過眠
- 低血圧
- めまい
- 抑うつ
- 無気力
③ 切替不能型
- 午前は動けない
- 夕方に覚醒
- 体調が日内変動
- 混合症状
- Ⅴ.なぜ心理トラウマと結びつくのか
-
トラウマとは、「神経が危険を学習した状態」迷走神経の崩壊です。
安全な現在でも、扁桃体が「今も危険」と誤認する。
→ 交感神経ONが止まらない
→ 副交感神経が入らないこの固定化が自律神経失調になります。
- Ⅵ.なぜうつ病や双極と誤診されるのか
-
自律神経失調は以下を引き起こします。
- 意欲低下
- 集中力低下
- 気分の落ち込み
- 思考停止
- 睡眠障害
DSMの基準に引っかかるため、神経の病気が精神の病気に翻訳されてしまうのです。
- Ⅶ.薬が効かない理由
-
抗うつ薬・気分安定薬は、神経ブレーキを作らないからです。
この病態の問題は、ブレーキ(迷走神経)が壊れていることです。
- Ⅷ.回復の本質
-
回復とは、神経に「今は安全」を再学習させること
薬ではなく
- 身体
- 呼吸
- 頸部
- 皮膚
- 安全な人間関係
- トラウマ処理
で回復するということになります。
この女性は、「壊れた心」ではなく「燃え尽きた神経」です。
カウンセリングの役割は、認知を変えることではなく神経に安全を戻すことになります。
神経系の機能破綻の臨床症候群
自律神経失調症は診断名というより「神経系の機能破綻の臨床症候群」であり、精神科・内科・心療内科の境界に存在します。臨床に直結する症状クラスターと実際の診断の考え方として整理してみます。
自律神経失調は「1つの臓器」ではなく全身症候群です。
① 中枢神経症状(脳の症状)
- ブレインフォグ
- 集中力低下
- 記憶力低下
- 思考停止
- 判断困難
- ぼーっとする
- 頭が締め付けられる感じ
② 情動・精神症状
- 不安
- イライラ
- 抑うつ
- 無力感
- 未来への悲観
- 涙が出やすい
- パニック感
③ 睡眠・覚醒障害
- 入眠困難
- 中途覚醒
- 早朝覚醒
- 眠っても疲れが取れない
- 昼夜逆転
④ 循環・呼吸系
- 動悸
- 息苦しさ
- 過呼吸
- 胸苦しさ
- 立ちくらみ
⑤ 体温・血流
- 微熱
- ほてり
- 冷え
- 首や顔の熱感
- 手足の冷感
⑥ 筋骨格系
- 首こり
- 肩こり
- 顎の緊張
- 背中の張り
- 手足のしびれ
⑦ 消化器系
- 胃もたれ
- 下痢
- 便秘
- 吐き気
- 食欲不振
⑧ 疲労・エネルギー
- 朝起きられない
- すぐ疲れる
- 何もする気が起きない
- 体が鉛のように重い
自律神経失調症は:
- 血液検査:正常
- MRI・CT:正常
- 心電図:正常
つまり、「異常が出ない病気」です。したがって、除外診断で決まります。
医師は次を除外します。
- 脳疾患(腫瘍、梗塞、萎縮)
- 心臓病
- 甲状腺異常
- 感染症
- 膠原病
- 重度うつ・双極性障害
これらが否定され、多臓器にまたがる不定愁訴
検査正常
ストレスで悪化
→ 自律神経失調症と診断されます。
実際の臨床では以下で判断されます。
A.症状条件(複数必須)
以下から5項目以上が3か月以上持続
- 疲労感
- 頭重感・頭痛
- 首肩の緊張
- 動悸
- めまい
- 微熱
- ブレインフォグ
- 睡眠障害
- 胃腸症状
- 不安・抑うつ
B.検査条件
- MRI/血液/心電図が概ね正常
C.誘因
- 慢性ストレス
- トラウマ
- 過労
- 更年期
- 対人緊張
D.機能低下
- 家事ができない
- 仕事がつらい
- 生活能力の低下
これを満たす場合、自律神経失調症と診断されます。
55歳女性は:
- ブレインフォグ
- 首肩痛+熱感
- 強度ストレス
- MRI正常
- 抗うつ薬無効
- 生活機能低下
- 更年期
教科書的に一致します。この女性は精神疾患ではなく、「自律神経系が限界を超えた結果の全身機能不全」という見方もで切るかもしれません。

医学的にも重要な部分
結論から言うと、「ストレス × 神経感作 × ホルモン変動 × 個体差」の重なりで起こります。
慢性ストレスによる神経再配線:人間の神経系は、長期ストレス下で起きます。
- 扁桃体(危険センサー)肥大
- 前頭前野(制御)萎縮
- 迷走神経トーン低下
これはPTSDと同じ神経変化です。
トラウマ・愛着・役割固定:今回の女性にある
- 母・姉からの境界侵害
- 親密関係での安全破綻
- 逃げ場のない責任役割
はすべて、「常に神経が警戒し続ける環境」を作ります。
頸部・迷走神経の機械的要因
- 迷走神経を圧迫
- 交感神経幹を刺激
→ 首こり病を引き起こします。
更年期(55歳はドンピシャ)
エストロゲンは:
- セロトニン
- 迷走神経
- 体温中枢
- 血流
を安定させます。
低下すると:
- 不安
- ほてり
- 動悸
- 自律神経失調
が一気に悪化します。
中核はこの3点
① 扁桃体の過覚醒
「危険だ!」が止まらない
② 迷走神経の機能低下
ブレーキが効かない
③ HPA軸の疲弊
コルチゾールが乱れる
これが脳・心・体すべての症状を生みます。
慢性ストレスにより:
- 海馬抑制
- 前頭前野シャットダウン
- 脳血流低下
→ 思考できない。これは神経防衛反応です。
日本での推定:
| 項目 | 数値 |
| 生涯有病率 | 約15〜20% |
| 心療内科外来 | 約30% |
| 女性比率 | 約70% |
| 好発年齢 | 30〜60代 |
| 更年期女性 | 最大リスク群 |
- 検査は正常
- 症状はバラバラ
- 精神科に回される
- 薬が効かない
- 悪化
という「医療迷子」を生みます。
長年の対人ストレスと更年期が重なった神経崩壊であり、病名よりも神経の状態であるとのあくまでも推測にすぎません。
ケースから自律神経失調症の鑑別
自律神経失調症の鑑別は、この55歳女性のようなケースでは診断の中核になります。なぜなら、この病態は多くの疾患と症状が重なり誤診されやすいからです。
これは医学的に必須です。
| 疾患 | なぜ重要か |
| 脳腫瘍・脳梗塞 | 頭痛・認知低下 |
| てんかん | 意識変容 |
| 脳炎 | 発熱・認知 |
| 甲状腺機能異常 | 動悸・不安・体重変動 |
| 副腎疾患 | 倦怠感・不安 |
| 心疾患 | 動悸 |
| 貧血 | めまい |
| 感染症 | 微熱 |
→ MRI・血液・心電図で除外されることが多い
ここが最も誤診されます。
| 疾患 | 決定的な違い |
| うつ病 | 気分が主、体は二次 |
| 双極性障害 | 明確な躁エピソード |
| 不安障害 | 不安が中心 |
| パニック障害 | 発作性 |
| PTSD | トラウマ再体験 |
自律神経失調症では:体の症状が主で、感情は二次
| 疾患 | 違い |
| 認知症 | 進行性・MRI変化 |
| パーキンソン | 運動症状 |
| MS | 局所神経症状 |
| ALS | 筋力低下 |
自律神経失調では:変動が大きく、検査は正常
| 疾患 | 鑑別点 |
| 甲状腺 | TSH異常 |
| 副腎 | 電解質異常 |
| 更年期 | ホットフラッシュ |
更年期は増悪因子として重なる
際には:
FND + 自律神経失調 + トラウマが併存することが多い
| 疾患 | 可能性 |
| 脳疾患 | MRIで否定 |
| 認知症 | 5年前MRI正常 |
| うつ病 | 薬無効・体症状強 |
| 双極 | 躁なし |
| 更年期 | 増悪因子 |
| PTSD | 併存 |
| 自律神経失調 | 核心 |

自律神経(交感神経と副交感神経)に関わるメカニズム
今回のケースを理解するうえで、自律神経のメカニズムは「補足知識」ではなく核心理論です。以下に、心理臨床と神経生理を統合した形で解説します。
「脳が無意識に身体を生かし続けるための制御ネットワーク」であり、意志では止められません。
構成は:
- 交感神経(アクセル)
- 副交感神経=迷走神経(ブレーキ)
の二系統です。
交感神経は:「命を守る戦闘システム」
役割:
- 心拍↑
- 血圧↑
- 筋緊張↑
- 血糖↑
- 痛覚抑制
- 扁桃体活性化
- 思考の狭窄
つまり、「今すぐ生き残る」モード
迷走神経は:「安全なときにだけ働く回復システム」
役割:
- 心拍↓
- 消化↑
- 炎症抑制
- 筋弛緩
- 脳の統合
- 社会的つながり
健常では:
危険 → 交感神経ON
安全 → 副交感神経ON
が数分〜数時間で切り替わります。
長期ストレスで:
- 扁桃体が過敏化
- 海馬が萎縮
- 前頭前野が抑制
- 迷走神経トーン低下
→ ブレーキが壊れる。これが交感神経固定です。
頸部には:
- 交感神経幹
- 迷走神経
- 脳幹血流
が集中しています。
慢性緊張で:
→ 神経が圧迫
→ 脳への信号異常
→ 自律神経暴走
エストロゲンは:
- セロトニン
- 迷走神経
- 血管拡張
- 炎症抑制
を支えています。
低下すると:
→ 交感神経が暴走
→ 副交感神経が入らない
交感神経が強すぎると:
- 前頭前野が血流不足
- 扁桃体が支配
- 思考が止まる
→ 霧がかかったようになる
アクセルを踏みっぱなしでブレーキが壊れた神経
この理解が、治療戦略を根本から変えます。
自律神経失調症セルフチェック(40問)
神経生理モデルに基づいた「自律神経失調症セルフチェック40問」+解釈ガイドです。これはDSM型の精神症状ではなく、交感神経過覚醒 × 迷走神経低下 × 神経疲弊の3軸評価にしています。
次の各項目について
0 = まったくない 1 = ときどきある 2 = よくある 3 = ほぼ毎日ある で答えてください。
| № | 質問項目 | 回答 |
|---|---|---|
| A. 交感神経過覚醒(1–15) | ||
| 1. | 首や肩が常にこわばっている | |
| 2. | 顎や歯を食いしばっている | |
| 3. | 心臓がドキドキしやすい | |
| 4. | 些細なことで驚く | |
| 5. | 常に気が張っている | |
| 6. | 人といると緊張が抜けない | |
| 7. | 眠りが浅い | |
| 8. | 夜中に目が覚める | |
| 9. | 頭が重い・締め付けられる | |
| 10. | 頭や首に熱感がある | |
| 11. | 急に汗をかく | |
| 12. | 体が休まらない | |
| 13. | 静かにしていると不安になる | |
| 14. | 何もしないと落ち着かない | |
| 15. | いつも「何かしなければ」と感じる | |
| B. 迷走神経低下(16–30) | ||
| 16. | 休んでも疲れが取れない | |
| 17. | ぼーっとする | |
| 18. | 思考が止まる | |
| 19. | 記憶力が落ちた | |
| 20. | 集中できない | |
| 21. | 感情が平坦になる | |
| 22. | 喜びを感じにくい | |
| 23. | 人と話すのがしんどい | |
| 24. | 何もしたくない | |
| 25. | 体が重い | |
| 26. | 眠気が取れない | |
| 27. | 食欲が不安定 | |
| 28. | 胃腸が弱っている | |
| 29. | 涙が出やすい | |
| 30. | 無力感がある | |
| C. 神経疲弊・機能低下(31–40) | ||
| 31. | 家事や身支度が億劫 | |
| 32. | シャワーが面倒 | |
| 33. | 外出がつらい | |
| 34. | 仕事に集中できない | |
| 35. | 以前できていたことができない | |
| 36. | ミスが増えた | |
| 37. | 頭の回転が遅くなった | |
| 38. | 将来を考えると疲れる | |
| 39. | 体調に不安がある | |
| 40. | 「このまま壊れてしまいそう」と感じる |
採点
各領域を合計します。
- A:最大45
- B:最大45
- C:最大30
解釈ガイド
① 自律神経失調の重症度
| 合計 | 判定 |
| 0–40 | 軽度 |
| 41–70 | 中等度 |
| 71以上 | 重度(臨床介入推奨) |
② 神経タイプ判定
| パターン | 解釈 |
| Aが高い | 交感神経過覚醒型 |
| Bが高い | 迷走神経低下型 |
| Cが高い | 神経疲弊型 |
| 全部高い | 神経崩壊型(今回のケース) |
臨床的意味
このスケールは「精神疾患」ではなく、「神経システムの状態」を測っています。
高得点=意志や性格の問題ではなく、神経が限界にある状態です。
自律神経失調 回復ステージ別支援シート
(合計71点以上/A・B・Cすべて高い)
神経の状態
- 交感神経が常時ON
- 迷走神経ブレーキがほぼ働かない
- 脳が「生存モード」に固定
主な症状
- ブレインフォグ
- 首肩の熱と痛み
- 眠れない
- 意欲消失
- 不安と抑うつの混在
やってはいけない
- 自己分析
- 問題解決
- マインドフルネス
- 頑張る励まし
- 人生の話
支援の軸
「考えさせない。安心させる。」
具体支援
- 温かい首・背中
- ゆっくりした呼吸
- 声をかける
- 生活負荷の削減
- 人にそばにいてもらう
(合計41〜70点)
神経の状態
- 交感神経は下がり始めた
- 迷走神経が断続的に戻る
主な症状
- 波がある
- 午前つらい
- 夕方少し動ける
やってはいけない
- フル稼働
- 根性論
- 「もう大丈夫」
支援の軸
「神経の安全を積み上げる」
具体支援
- 軽い散歩
- 日光
- 安全な人と話す
- 短時間の作業
(合計0〜40点)
神経の状態
- 迷走神経が戻っている
- 切り替え可能
主な症状
- 疲れやすさは残る
- 生活は回復
支援の軸
「神経の再学習」
具体支援
- トラウマ処理
- 役割の見直し
- 価値観再構築
- 安全な挑戦
自律神経失調症の薬物治療の原則
自律神経失調症は「薬の病気」ではありません。「薬を誤ると悪化する病気」です。
この女性に必要なのは脳への刺激ではなく、神経へのブレーキです。
薬は「神経が休める環境」を作るための道具であり、治療の主役は身体と安全です。
薬は「補助ブレーキ」であり、治療の本体ではないです。
この病態の中核は、交感神経過覚醒+迷走神経低下であると、抗うつ薬で治る構造ではありません。
① 自律神経調整薬
| 薬 | 作用 |
| トフィソパム(グランダキシン) | 交感神経を抑え、眠くならない |
| タンドスピロン | 迷走神経トーン↑ |
| 抑肝散 | 中枢の興奮を下げる |
→ 最優先
② β遮断薬
| 薬 | 作用 |
| プロプラノロール | 交感神経の興奮を抑える |
| アテノロール | 心拍出量を減らし、末梢血管抵抗を減少させる |
→ 動悸・震え・過覚醒を止める
③ 睡眠補助
| 薬 | 目的 |
| メラトニン | 体内時計を調節し、自然な眠気を促す作用 |
| ロゼレム | 睡眠と隔世のリズムを整えて自然な眠気を促す |
| ベルソムラ | オレキシンを抑制し自然な睡眠状態へ移行 |
→ 迷走神経の回復を助ける
④ 抗うつ薬(慎重)
SSRI / SNRI は:
- 不安が強い時のみ
- 低用量
- 交感神経悪化に注意
無効例が多い
⑤ 避けるべき薬
- ベンゾジアゼピン系(依存)
- 高用量抗うつ薬
- 刺激系抗精神病薬
この病態には、神経疲弊を治さないため適応外です。
① 心拍変動(HRV)
迷走神経トーンを数値化
- RMSSD ↓
- HF成分 ↓
→ 交感神経優位
② 起立試験
横→立ちで、心拍と血圧が乱れる
③ 深呼吸試験
迷走神経反応の低下
④ 皮膚電気反応
⑤ 頸部血流(エコー)
首こり病の評価
- MRI正常
- 抗うつ薬無効
- 症状が神経型
→ 自律神経検査が本来必要な人
心理療法
このケースにおける「心理療法」は、一般的な認知療法や支持的面接とは本質が異なります。
自律神経失調症の心理療法とは、「神経の治療」そのものです。
自律神経失調症の本質は、「安全システムの喪失」です。
脳は
- 扁桃体(危険)
- 迷走神経(安全)
のバランスで身体を制御しています。
この病態では:
- 扁桃体が暴走
- 迷走神経が沈黙
→ 常時「戦闘モード」
心理療法の目的は、「思考を変える」ではなく「神経に安全を再学習させる」ことです。
以下は悪化します。
- 認知再構成
- 内省の強要
- マインドフルネス瞑想
- トラウマ詳細想起
- 「休みましょう」という説得
これらは、前頭葉に負荷をかけ、交感神経を刺激します。
① 神経系の安定化(最優先)
目的
迷走神経を起動する
技法
- ゆっくりした声
- セラピストの同調呼吸
- 視線・姿勢の同期
- 安全な沈黙
- 首・背中の温感誘導
→ 「一緒にいると神経が落ち着く」状態を作る
② 身体ベースド・アプローチ
目的
脳を通さず神経に働きかける
技法
- ソマティック・トラッキング
- ポリヴェーガル対応呼吸
- 眼球運動
- ゆっくりした動作
→ 考えさせない
③ トラウマの脱条件づけ
※神経が安定してから
技法
- EMDRライト
- 安全化イメージ
- パーツワーク
- インナーチャイルド
目的:危険記憶を神経から外す
④ 関係性の再学習
この病態の根本は、「人=危険」という神経学習
セラピストとの関係で、「人=安全」を再学習させます。
この病態の根本は、「人=危険」という神経学習
セラピストとの関係で「人=安全」を再学習させます。
| ステージ | 何をするか |
| 神経崩壊期 | ①のみ |
| 不安定回復期 | ①+② |
| 安定回復期 | ①〜④ |
- 長時間
- 同席型
- 寄り添い型
という自律神経治療に最適な臨床スタイルを持っています。
この女性にとって「安全な他者としてそこにいる」こと自体が治療です。
この方は、話を聞いてほしいのではなく、神経を休ませてほしいのです。
それが心理療法の本質です。
治療の主体
病態において最も重要な「治療の主体」をどこに置くかという核心です。
自律神経失調症の回復は、医師でもセラピストでもなく「本人の神経」によって起こります。
「あなたは壊れていません。神経がずっと働きすぎただけです。」
特に重要なのは、次の3点です。
- 精神疾患ではなく、神経の過労と過覚醒であること
- MRIでは正常、そして薬が効かないことが、この仮説を裏づけていること
- 「休めない」のは性格ではなく神経反射であること
これを知るだけで、自己否定が下がり、回復の扉が少し開きます。
次は、臨床的に有効性が高く、かつ過覚醒型(今回の55歳女性)に適合したセルフ回復プロトコルです。
この病態の合言葉は、「頑張らないで、回復させる」
努力・意志・ポジティブ思考は、すべて交感神経を刺激して悪化します。
① 呼吸(1日5回)
- 4秒吸う
- 6〜8秒吐く
- 5分
→ 吐く方が長いのが鍵
② 首と胸を温める
- ホットタオル
- ネックウォーマー
- 蒸しタオル
→ 迷走神経は温かさでON
③ 目と顔を休める
- 目を閉じる
- 遠くを見る
- 眉間を緩める
④ 感覚接地
- 足の裏を感じる
- 椅子に体重を預ける
- 手でカップを持つ
→ 思考を使わない
この病態では、休みすぎも頑張りすぎも悪化
ルール:
- 「できる60%」で止める
- 10分活動→5分休憩
- 午前は最小限
- 未来の心配
- 自分の分析
- SNSの比較
- 長時間の集中
- 首の熱が減る
- 眠くなる
- ため息が出る
- あくび
- 涙
これは、神経が副交感に切り替わった証拠

