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適応障害はストレスとなる環境調整で回復し、心理療法で耐性ができる

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適応障害は抑うつ症状や不安症状が現れることからうつ症候群と勘違いされますが、原因となるストレス要因があるため心的外傷およびストレス関連障害群の精神疾患です。適応できなかった環境の調整と認知的、心理的修正ができれば改善、回復する病気です。

適応障害とは、ストレスや人生の変化に対する適応能力が弱く、その結果として身体的・精神的な症状が出る状態を指します。

具体的には、次のような症状が現れることがあります。

・憂鬱感、不安感、イライラ感 ・食欲不振、睡眠障害、疲れやすさ、身体的な不調 ・仕事や学業への集中力の低下、社交不安、社会生活への適応の困難

適応障害は、一般的には時間とともに改善することが期待されますが、症状が軽度であっても、適切なケアを受けないと慢性化することがあるため、早期の治療が重要です。

自身の対応できないストレッサー(ストレスになる出来事)によって、ストレス反応が情動に起こります。ストレッサーは対人関係、職業、学業、経済、環境の変化、家庭、恋愛、健康上などの問題が一般的です。ストレス反応は抑うつ状態や不安状態の精神症状や身体症状、行動に現れます。これはうつ病に似ていますが、ストレッサーから離れることによって比較的落ち着き、趣味や楽しみに対しては症状が出ないような特徴もあります。また、適応障害はストレスとなる環境を変えることや、出来事に対する考え方や捉え方を見直すことで改善や回復、そして今後のストレスへの耐性も作り出します。

現在は適応障害の治療薬はありませんが、症状に合わせて抗うつ薬や睡眠薬、気分安定薬、抗不安薬を対処的に投薬し症状を安定させます。投薬より重要なことは、ストレスの要因となる環境の調整や回避、乗り越えるために趣味や運動、心身のリラクゼーション、友人やパートナーとの会話などはもちろんのことですが、精神療法などで認知の修正することで情動が変化し、ストレスに対する耐性を強めていく今後の対策となります。

DSM-5とICD-11の適応障害の診断の比較

DSM-5の適応障害の診断基準
以下A~Dをすべて満たす場合に適応障害と診断する
A. はっきりと確認できるストレス因に反応していて、始まりから3ヶ月以内に情動面または行動面の症状が出現
B. これらの症状や行動は臨床的に意味があるもので、それは以下のうち1つまたは両方の証拠がある。
 ⑴そのストレス因に不釣り合いな程度や強度を持つ著しい苦痛
 ⑵社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の重大な障害
C. ほかの精神疾患の基準も満たさず説明もできない
D. そのストレス因、またはその結果がひとたび終結すると、症状がその後6カ月以上継続することはない
DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアルより

適応障害の診断基準はストレッサー(出来事)から3ヶ月以内に発症し、ストレッサー関連の社会や職業の活動に困難を要しますが、ストレッサーの解消から6カ月以内に症状が消退されるという事になります。

ICD-11(国際疾患分類第11版)における適応障害の定義とガイドラインは以下のとおりです。

【定義】 適応障害は、一つ以上のストレス因子によって引き起こされる、生活の継続的な不安定感、抑うつ、または身体的な不調を特徴とする状態です。これらの症状は、適応障害の存在が示唆されるストレス要因と不釣り合いであり、適応能力の不足が示されます。この状態は、通常の生活や職場への適応に障害を引き起こす場合があります。

【ガイドライン】

  • 適応障害は、一つ以上のストレス要因が存在する場合にのみ診断されます。
  • 症状は、適応障害の存在を示唆するストレス要因と比較して不釣り合いである必要があります。
  • 診断に必要なストレス要因は、一般的なストレス、人生イベント、および個人的ストレス要因などが含まれます。
  • 診断に必要な症状の期間は、ストレス要因が継続する限り持続する必要があります。
  • 診断に必要な症状の重度は、臨床上の障害を引き起こす必要はありませんが、通常の生活や職場への適応に障害を引き起こす必要があります。
  • 適応障害の治療には、ストレス要因の排除または緩和、心理社会的介入、薬物療法が含まれます。
  • 診断に必要な症状は、他の精神障害によるものではないことが必要です。

疫学・要因

ストレッサー・ストレスとなる要因-例(自身のストレスに対する耐性のキャパオーバー)
経済・健康・対人関係・恋愛・友人・職業・学業・親子関係・結婚・家庭・進学・就職・結婚・離婚・死別・事故・人事異動や引っ越しなど重要な領域における問題(環境や社会が原因である状況依存性がいくつか重なることもある)
どんな人が適応障害になりやすいー例(同じ環境でストレッサーを受けていても耐性に個人差がある)
真面目・責任感が強い・神経質・繊細・敏感・相手を優先する・几帳面・他人の評価を気にする・心配性・完璧主義・人に頼らない・気持ちの切り替えができない・傷つきやすい・物事の徹底性が強い・人から頼まれると断れない

適応障害の疫学データ】は国や地域によって異なるため、以下は一般的な情報です。

適応障害は、一般的な精神障害の中でも最も一般的なものの一つであり、世界中で広く存在しています。米国では、一般人口の1〜2%が適応障害を発症すると推定されています。また、日本でも、ストレスや変化に敏感な人が多く、学生や社会人などの人々の間で一定の頻度で見られます。

適応障害は、年齢、性別、人種などの要因によってリスクが異なります。例えば、女性は男性よりも適応障害を発症するリスクが高いとされています。また、若年層に多く見られる傾向があります。

さらに、適応障害はストレス要因が存在する限り症状が持続することが多いため、早期の発見と治療が重要です。治療を受けることで、多くの人が症状を軽減し、生活の質を向上させることができます。

抑うつ気分を伴う不安を伴う不安と抑うつ気分を伴う
素行の障害を伴う情動と素行の障害を伴う特定不能
臨床症状の分類
精神症状身体症状行動の変化
抑うつ・不安感・喪失感・絶望感・焦り・緊張・意欲の低下・涙もろさ…不眠・食欲不振・動悸・吐気・疲労感・めまい・頭痛・倦怠感・耳鳴り…過度な飲酒・ギャンブル依存・暴食・攻撃的・生活リズムの乱れ…

適応障害とうつ病の違いの一覧

適応障害病名うつ病
心的外傷およびストレス因関連障害群分類うつ症候群
・ストレス要因が確認できる(ストレス反応・不適応状態)
・心の不調(個人的不幸・心理社会的ストレス)
原因・脳の不調
・遺伝的
・特定されるストレスが見つからないが環境要因
・抑うつ気分をや不安など情緒の障害
・素行や情動の障害
・身体愁訴
などが主症状
症状ほぼ1日中憂うつな気分が続く
・気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、希死念慮、
無気力、不眠、自責感、悲哀感などが2週間以上続く
・時には妄想が現れることもある
・明確な基準がなく、他の診断基準を満たさない程度
・通常のストレスには不釣り合いな抑うつ気分の強さ
(ストレスの性質や強度は特定されていない)  
診断DSM診断の9項目のうつエピソードが挙げられ、
5項目以上の該当で診断される
・ストレスの元になる活動は困難性がある
・好きなことに関しては活動でき元気が出る
活動・ほぼすべての活動に意欲がない、楽しめない
・生活するうえで強く支障が出る
強いストレスとなる出来事から3ヶ月以内に発症発症慢性的、複合的なストレスが1つの要素となる
認められていないが、セロトニン不足も疑われる脳因HPA系の障害、モノアミン濃度に関する要素
①環境調整によりストレス要因の対策や除去
➁認知の偏り修正の認知行動療法など
③補助的薬剤療法
適応障害に対する薬剤はないが、抑うつや不安、
不眠など対症療法
最近ではSSRIの投与がされている
④自宅静養
治療①休養
休養に重点を置き、休職や休学なども考慮
➁薬剤療法
SSRI・SNRI・NaSSAで寛解、回復が望める
③精神療法
再発予防のために認知行動療法などを併用
④その他の治療法
電気けいれん法や磁気刺激療法などが普及
・ストレス要因の除去により6カ月未満で消退
・ストレスとなる出来事から6カ月以上経過してから
発症することもある(遅延発症型)
・6カ月以上障害が持続して2年未満の
持続性適応障害もある
経過ストレスから離れても改善しない
・薬剤による反応まで2〜4週間
・寛解まで4〜12週間
・回復まで6カ月
・再発予防期まで1〜3年
自殺念慮や自殺企図のリスクが高まる
対応が遅れると症状は悪化し、うつ病になる危険性もある
自殺自殺念慮や自殺企図がおきる
重症のうつ病の場合、6人に1人という報告がある
・内的要因として発達障害の存在の可能性
・時間の経過に伴って、うつ病、不安障害、
パニック障害、社交不安障害に病名の変更がされる
場合がある(もともと潜んでいた可能性)
合併・社交不安症・パニック症・全般不安症・強迫症
PTSDなどいずれかの合併率57%
・依存性、境界性、強迫性パーソナリティ障害が
10%前後
調査が少ないために有病率は2%〜10%となる有病日本の有病率5.7%
適応障害とうつ病との違い

ストレスの環境調整

ストレスが職場などの場合、一旦ストレスの原因から回避するために休養や連休を活用し精神科に行きます。医師から診断書を発行してもらい症状に合わせた薬を服用し、安定した状態で職場の上司やメンタルの専門部署、人事担当、産業医などと話し合いを持ち職場の環境調整を行っていきます。

外的要因の環境調整

・休暇、休職・テレワークの利用・フレックスタイムの利用・部署移動・配置転換・業務量や業務内容の調整
・残業制限・出勤時間、勤務時間の調整・ストレスの強い対人関係の調整・役職の変更・転職

内的要因の環境調整

・考えの癖、偏りの調整、対処能力を高める(認知行動療法、問題解決法、スキーマ療法)
・対人技術の向上(アサーション、ソーシャルスキルトレーニング、社会生活技能訓練)
・気持ちの安定のための自立訓練(リラクゼーション)
・目標、方向性の設定・運動や健康状態の改善・生活リズムの改善・ストレス対処法(ストレスコーピング)
・家庭での役割検討・長期旅行・習い事やスクールに通う

適応障害(Adjustment Disorder)のセルフチェックリスト

適応障害(Adjustment Disorder)の自己評価のためのセルフチェックリストは、ストレスや生活の変化に対する自分の反応を評価するのに役立ちます。次に30問のセルフチェックリストを示します。各質問に対して、「はい」・「いいえ」で回答してください。

適応障害のセルフチェックリスト30問
1.最近の生活の変化に対して強いストレスを感じる。
2. 変化に対応するのが難しいと感じることが多い。
3.最近、仕事や学校でのパフォーマンスが低下していると感じる。
4.仕事では集中力がないが、他人との交流は問題なくできる。
5. 好きなことに関しては活動ができ元気が出る。
6.日常生活で集中力が続かないことが増えた。
7.眠れない夜が多くなった。
8.最近、食欲の変化があった(増えたまたは減った)。
9. 頻繁に気分が沈む、またはイライラする。
10.将来について強い不安や悲観的な気持ちを抱くことが多い。
11. 自分自身や周囲の人々に対して怒りっぽくなった。
12.最近、涙が出やすくなった。
13.自分の感情をコントロールするのが難しいと感じる。
14.最近、身体的な症状(頭痛、胃痛など)が増えた。
15.趣味や楽しみに対しては症状が出ないような特徴がある。
16.小さな問題でも非常に大きく感じることがある。
17.自分の価値を低く感じることが多い。
18.他人からの支援を求めることが難しいと感じる。
19.新しい環境や状況に対して抵抗感がある。
20.自分の考えや感情を表現するのが難しいと感じる。
21.ストレスの原因を避けるために努力している。
22.自分の問題が他人には理解されないと感じることが多い。
23.最近、友人や家族との関係が悪化したと感じる。
24.最近、リラックスするのが難しいと感じる。
25.他人の意見や評価に過敏になっている。
26.自分の将来に対する希望が持てなくなった。
27.最近、自己否定的な思考が増えた。
28.自分の生活に対して無力感を感じることが多い。
29.最近、普段以上に過度の心配をしている。
30.自分の感情や行動が生活に悪影響を与えていると感じる。
適応障害のセルフチェックリスト30問

これらの質問に「はい」が多い場合、適応障害の可能性が考えられます。しかし、これはあくまでセルフチェックであり、正式な診断には専門家の評価が必要です。適応障害が疑われる場合は、精神科医や専門のカウンセラーに相談することを強くお勧めします。

参考書籍

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル:高橋三郎、大野裕(監訳)/医学書院

標準精神医学第8版:尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉/医学書院

ストレスと適応障害:岡田尊司/幻冬舎

うつ、適応障害、双極性障害 心の名医7人が教える最高の治し方大全:三村將・奥平智之・貝谷久宣・
野村総一郎・中村敬・熊野宏昭・清水栄司

『適応障害:ストレスと感情調整』(小田切茂、金剛出版、2006年)

『適応障害ケア』(藤本仁、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2018年)

『ストレス対処のための認知行動療法:適応障害に対するアプローチ』(中野正雄、金剛出版、2011年)

【学術文献】
・”Adjustment disorders: epidemiology, diagnosis and treatment”(Psychiatry (Edgmont). 2009 Jun; 6(6): 16–20.)
・”Clinical features of adjustment disorder with depressed mood: a comparison with major depressive disorder”(Compr Psychiatry. 2013 Feb;54(2):119-25.)
・”Adjustment disorder: current perspectives”(Psychol Res Behav Manag. 2018 May 22;11:191-202.) ・”Adjustment disorders in DSM-5: a review of the literature”(Psychiatry Investig. 2019 May;16(5):327-335.)

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