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不器用さや運動オンチの発達性協調運動症の理解

目次

生活に支障が出るくらいの不器用さや運動オンチを感じているなら、発達性協調運動症を疑ってみてください。職場での工夫や自己治療を紹介します。

発達性協調運動症(DCD)の概念

発達性協調運動症は運動機能の特異的な発達障害で、手と手、手と目、手と足など個別な動きを同時に行う協調運動の苦手な特性があります。例えば、日常生活の食事では片方の手でお椀を持ち、片方の手では箸を使って食べます。キャッチボールは目で追いながら手でキャッチし、縄跳びは手で縄を回し足でジャンプします。このような運動を協調運動と言います。
協調運動は人間に先天的に備わった寝返り、歩く、走る、階段を上るといった全身を使った運動や泳ぐ、自転車に乗るなど学習や環境から得られる大きな運動を「粗大運動」と呼びます。また、粗大運動や感覚から得られた小さな動きを「微細運動」と呼び、生活動作では主に指先を使って行う動作となります。例えば、洋服のボタンをかける、パズルを組み立てる、ハサミや定規などの道具を使うなどにあたります。
このような粗大運動や微細運動の中で、物を落とす、物にぶつかるなどの「不器用」さや、刃物を使う、自転車に乗るなどの「運動技能」の遂行の遅さや不正確さ、獲得度で判断します。その判断としては、身体機能に異常がないにもかかわらず、年齢や経験値などの期待から、明らかに劣っていて生活に支障あるものを発達性協調運動症と診断しています。

発達性協調運動症(DCD)の概要

DCDは、年齢に見合った運動スキル(例えば、走る、書く、ボタンをかけるなど)を獲得・遂行するのが困難な状態で、日常生活や学業、社会的活動に支障をきたす神経発達障害です。

【診断基準(DSM-5を基に)】

  • 協調運動能力の著しい障害
    • 年齢相応の運動スキルがうまくできない(例:不器用、手先が不精巧、スポーツが苦手など)。
  • 日常生活に影響を及ぼす
    • 学業、遊び、日常動作(衣服の着脱、食事など)に支障が出る。
  • 幼少期から発現する
    • 通常は5歳以前から症状が見られる。
  • 他の障害では説明できない
    • 知的障害や視覚障害、神経疾患などが主な原因ではないこと。

【主な症状】

  • 細かい運動(微細運動)の困難:字を書く、はさみを使う、箸を使うのが苦手
  • 大まかな運動(粗大運動)の困難:走る、ジャンプする、階段の上り下り、ボール遊びがうまくできない
  • 動作がぎこちない、遅い、不正確
  • 転びやすい、よく物を落とす

【有病率】

  • 学齢期の子どもの約5~6%程度が該当するとされており、比較的一般的な障害です。
  • 男児にやや多くみられる傾向があります。

【関連しやすい障害】

  • 注意欠如・多動症(ADHD)
  • 学習障害(LD)
  • 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 注意欠如・多動症(ADHD)
  • 学習障害(LD)
  • 自閉スペクトラム症(ASD)

※これらの障害と併存することは少なくありません。

【原因】

明確な原因は不明ですが、脳の運動制御を司る領域(小脳、運動野、基底核など)の機能的未成熟や情報処理の異常が関与していると考えられています。

【支援と対応】

  • 作業療法(OT):微細運動や日常動作の練習
  • 理学療法(PT):姿勢やバランス、粗大運動の支援
  • 学校や家庭での合理的配慮:課題のやり方を変える、評価の工夫をするなど
  • 心理的サポート:自己肯定感の低下やいじめの予防

このページを含め、心理的な知識の情報発信と疑問をテーマに作成しています。メンタルルームでは、「生きづらさ」のカウンセリングや話し相手、愚痴聴きなどから精神疾患までメンタルの悩みや心理のご相談を対面にて3時間無料で行っています。

DCD臨床

有病率は5〜11歳の5〜6%と報告されていて、50〜70%が成人期まで持ち越します。ところが、発達性協調運動症の症状での主訴は少なくASD、ADHD、LSDでの併発症状として気づくことが多くなります。
原因はまだ解明されていませんが、ASDに63.2%、ADHDに50.6%、LSDに50%と併発が多いため、遺伝的な要因があるのではないかとされていて、男女比率は2:1〜7:1と男性が多くなります。また、母親の早産や低出生体重児、妊娠時のストレス、栄養不良、アルコール、薬物使用などの環境要因が影響されることも指摘されています。

薬物療法としては、ADHDに有効性を示しているメチルフェニデートが改善させる効果が示されていて、アトモキセチンも示唆されています。
薬剤以外では、身体機能の向上の筋トレや感覚統合療法や心理療法、活動参加指向のアプローチがあります。

DCDの診断基準:DSM-5とICD-11の診断基準

DSM-5の診断基準

  1. 協調運動技能の獲得や遂行が、その人の生活年齢や技能の学習および使用の機会に応じて期待されるものよりもはるかに劣っている。その困難さは、不器用(例:物を落とす、または物にぶつかる)、運動技能(例:物を掴む、はさみや刃物を使う、書字、自転車に乗る、スポーツに参加する)の遂行における遅さと不正確さによって明らかになる。
  2. 診断基準1における運動技能の欠如は、生活年齢にふさわしい日常生活動作(例:自己管理、自己保全)を著明および持続的に妨げており、学業または学校での生産性、就労前および就労後の活動、余暇、および遊びに影響を与えている。
  3. この症状の始まりは発達段階早期である。
  4. この運動技能の欠如は、知的能力障害(知的発達症)や視力障害によってはうまく説明されず、運動に影響を与える神経疾患(例:脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患)によるものではない。

診断基準

診断基準ではわかりにくいのですが、四肢協調運動の障害は「できない」のではなく遅さや不正確が問題ですので、時間をかけて上手とは言えない程度に仕上がります。そのため、周りからはもっと頑張ればできるんだと見られがちになります。また、起立がしにくい、ふらつきや歩幅がコントロールできなく歩行に困難がある場合も診断基準に含まれています。
四肢以外では、発声するための口内の筋肉がうまく使えなく発声や呂律がうまくできない症状もあります。その他には眼振があり、眼球のコントロールができない症状もあります。これがSLDやADHDと併存していることで学習の際に影響を受けてしまい困難が増します。

文献:「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院

ICD-11(国際疾病分類第11版)では、発達協調性運動症(発達性協調障害、略称DCD)は、神経発達障害の一種として分類されます。以下は、ICD-11におけるDCDの診断基準の詳細です。

ICD-11の診断基準

  1. 神経発達障害に伴う、持続的で発達遅滞につながる、運動能力の妨げとなる協調性の欠如があること。
  2. その運動能力の欠如が、日常生活の様々な活動、学校や職場の活動において、通常の期待に対して明らかな不適応をもたらすこと。
  3. その欠如が、他の発達障害、知的障害、視覚、聴覚、神経、身体的な問題、運動やスポーツ活動への興味の欠如、または環境要因によるものではないこと。
  4. 運動の欠如が、通常の発達期間に現れること。
  5. この欠如の症状は、少なくとも6ヶ月以上持続していること。
  6. 上記の基準に合致しているが、運動の欠如が軽度である場合は、他の障害と併存している場合でも、発達協調性運動症と診断できる。

ICD-11におけるDCDの診断基準では、神経発達障害による、持続的で発達遅滞につながる、運動能力の協調性の欠如が必要です。また、その欠如が日常生活の様々な活動、学校や職場の活動において、通常の期待に対して明らかな不適応をもたらすことが必要です。診断にあたっては、他の発達障害、知的障害、視覚、聴覚、神経、身体的な問題、運動やスポーツ活動への興味の欠如、または環境要因によるものではないことを確認する必要があります。さらに、運動の欠如は通常の発達期間に現れ、少なくとも6ヶ月以上持続していることです。

 少年期DCDのアセスメント方法(評価)

発達性協調運動症(DCD)の支援には、評価(アセスメント)を適切に行い、その結果に基づいて個別的な支援を提供することが重要です。DCDの評価では、「診断的アセスメント」と「機能的アセスメント」の両面から捉えることが重要です。

アセスメント方法(評価)

標準化された運動機能検査

検査名内容対象年齢
MABC-2(Movement Assessment Battery for Children-2)微細・粗大運動スキルを評価する国際的に広く使われている検査。手先の操作、バランス、投球動作など。3歳〜16歳
BOT-2(Bruininks-Oseretsky Test of Motor Proficiency-2)より詳細に運動スキルを評価。精密さ、協調性、筋力、敏捷性など。4歳〜21歳

※整備状況は検査ごとに異なります。

行動観察・アンケート・質問紙

評価方法内容
親・教師への質問紙(例:DCDQ’07:Developmental Coordination Disorder Questionnaire)子どもの運動能力や日常的な不器用さについて主観的に把握
日常動作観察(OTによる)書字、着替え、道具操作などの様子を観察し、困難の具体的場面を把握
学習・情緒面のチェックADHDやLD、ASDとの併存を確認するためのスクリーニングも重要

支援方法

支援は、「運動技能の改善」と「心理社会的な支援」の2つの柱で行います。

STEP
運動技能の支援

作業療法(OT)・理学療法(PT)

  • 目標指向型アプローチ(CO-OP法:Cognitive Orientation to daily Occupational Performance)
     → 子ども自身が「できるようになりたい動作」を決め、段階的に習得していく認知行動的アプローチ。自己モニタリングと問題解決スキルを養う。
  • 模倣と分割練習
     → 複雑な動作を段階に分けて練習する方法。例:靴紐結びを「輪を作る」「通す」「引く」に分けて練習。
  • 粗大運動の強化
     → バランスボール、トランポリン、ボール投げなどで全身協調運動を鍛える。
STEP
教育現場での配慮
  • 書字代替手段の検討:タブレット、音声入力などの活用
  • 評価方法の調整:口頭試問や実演での評価、時間延長など
  • 座席配置・移動支援:安全に配慮した教室内の動線確保
STEP
心理社会的支援
  • 自己肯定感の支援:成功体験を重ねるプログラム、できる活動の強調
  • 対人関係サポート:グループ活動時のフォロー、いじめや孤立への配慮
  • 保護者支援:理解を深めるペアレントトレーニングや相談体制の整備
STEP
 ICTの活用
  • タブレットを使った「視覚的手順提示(ビジュアルスケジュール)」
  • 動作学習アプリによるモデリング学習(動画を見てまねる)
  • 手書き補助アプリやタイピング練習ゲームの活用

大人のDCDの治療法・職場での工夫・自己ワーク

成人男性のDCDは「性格や不注意の問題」と誤解されやすく、見逃されがちです。診断と自己理解によって環境調整が進むと、大きく改善するケースがあります。

症例紹介:30代男性会社員の場合

Aさん(35歳・男性)は、製造業に勤務する会社員である。子どもの頃から運動が苦手で、縄跳びや球技などでは他の子についていけなかった。細かい作業も苦手で、プラモデルや折り紙は避けてきたが、学業成績は良好で、高校・大学と進学した。成人後も「少し不器用」と認識される程度であったが、社会人になってから業務上の困難が顕著になった。

製造現場では工具や部品を扱う工程が多く、組み立て作業で部品を落とす、手順を間違える、ミスを繰り返すといったトラブルが続いた。本人は真面目に取り組んでいたが、周囲からは「注意が足りない」「やる気がない」と誤解され、強いストレスを抱えるようになった。うつ症状が見られたため心療内科を受診し、そこで作業療法士によるアセスメントを受けた結果、発達性協調運動症(DCD)の可能性が高いと指摘された。

診断後は、自分の特性を理解した上で、作業を分解してメモに残す、作業台の配置を変えて部品が落ちにくいようにする、チェックリストで確認を徹底するなどの工夫を重ねた。上司にも相談し、ミスの起きにくい業務への配置転換と職場内の理解が得られたことで、ストレスは大幅に軽減。現在では、自分に合った環境の中で安定して業務に取り組めており、「不器用でも工夫すればできる」と自己肯定感も回復している。

発達性協調運動症の治療法

  • 身体療法は、体操、バランス運動、アーティキュレーション、手書き練習、マッサージ、温熱療法、電気療法など、身体的なアプローチを取る治療法があります。これらの治療は、筋肉の強化、運動制御の改善、身体の柔軟性の向上などを目的としています。
  1. 作業療法(Occupational Therapy)
    • 目的: 日常生活のスキル向上を目指し、運動機能や協調性を改善する。
    • アプローチ:
      • グロスマーター(Gross Motor Skills): 大きな筋肉群を使った動き(歩行、走行、ジャンプなど)を改善するトレーニング。
      • ファインモーター(Fine Motor Skills): 細かい筋肉群を使った動き(書字、ボタン留めなど)を改善するトレーニング。
      • 感覚統合療法(Sensory Integration Therapy): 感覚情報の処理を改善し、協調運動をサポートする。
  2. 理学療法(Physical Therapy)
    • 目的: 筋力、柔軟性、バランス、協調性の向上。
    • アプローチ:
      • バランスエクササイズ: 平衡感覚を養うためのトレーニング。
      • 筋力トレーニング: 筋肉の強化と持久力の向上を目指すエクササイズ。
      • 協調運動トレーニング: 手と足の協調を改善するエクササイズ。
  • 認知療法は、発達性協調運動障害に対する治療として、認知療法を用いることもあります。これは、個人が自分自身の思考や行動を認識し、それらを変えるための技術を学ぶ方法です。認知療法には、緊張や不安を減らすリラクゼーション技術や、自己観察、反省、問題解決スキルの開発などが含まれます。
  1. 認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy, CBT)
    • 目的: 不安やストレスを軽減し、運動への取り組みを改善する。
    • アプローチ:
      • 自己モニタリング: 自分の思考や行動を観察し、運動の取り組み方を評価する。
      • ポジティブリインフォースメント: ポジティブな行動を強化するためのフィードバックを提供。
      • 問題解決スキルの向上: 具体的な運動課題に対するアプローチを学ぶ。
  2. 認知運動療法
    • 目的: 認知機能と運動機能を統合し、協調運動を改善する。
    • アプローチ:
      • マルチタスクエクササイズ: 認知課題と運動課題を同時に行うエクササイズ。
      • 視覚運動統合トレーニング: 視覚情報を運動に統合するトレーニング。
  • ビジョンセラピーは、目の筋肉のコントロールや視覚調和力を改善することで、身体的なバランス感覚を改善する治療法です。ビジョンセラピーには、光線療法、色覚調和療法、視力矯正などが含まれます。
  1. ビジョンセラピー(Vision Therapy)
    • 目的: 視覚機能の改善と視覚運動の統合をサポートする。
    • アプローチ:
      • 眼球運動エクササイズ: 眼球の動きを訓練し、視覚情報の処理を改善する。
      • 視覚認知トレーニング: 視覚的な認識力を向上させるトレーニング。
      • 視覚運動コーディネーショントレーニング: 視覚情報と運動反応を統合するためのトレーニング。

補助的な治療法

  1. 教育サポート
    • 特別支援教育: 学校での特別支援プログラムを活用し、学習と運動の両方でサポートを受ける。
    • 個別指導プラン(Individualized Education Plan, IEP): 個別のニーズに合わせた教育プランを作成し、進捗をモニタリングする。
  2. 家庭でのサポート
    • 家庭エクササイズプログラム: 家庭で簡単にできるエクササイズや遊びを取り入れる。
    • 日常生活の調整: 適切な環境を整え、ストレスを軽減する工夫をする(例:適切な机と椅子、静かな学習環境など)。

治療法は、患者の症状や状況に応じてカスタマイズされ、個別に合わせた治療を受けることで、症状の改善が期待されます。また、身体的な治療に加えて、家族や学校、職場などの環境を改善することも重要です。

薬物療法

DCDは主にリハビリテーション(作業療法・理学療法)や環境調整、認知的アプローチ(CO-OP法など)によって支援される障害です。ただし、次のようなケースでは薬物療法が併用されることがあります

併存症状への対処としての薬物療法

DCDは他の神経発達症(特にADHD、自閉スペクトラム症)と高い頻度で併存します。これらに対して処方される薬が、間接的にDCDの困難の軽減につながる場合があります。
次のように、DCDに直接効くわけではありませんが、併存症の改善によって全体的な生活機能が向上することがあります

併存症主な症状処方される薬の例
ADHD不注意・衝動性・多動メチルフェニデート(コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)
不安障害・抑うつ避け行動、自己肯定感の低下SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)など
チック・強迫性傾向動作のぎこちなさに関与することも抗不安薬、抗精神病薬など(症状に応じて)

 研究段階の薬剤(あくまで参考)

一部の研究で、メチルフェニデート(ADHD治療薬)の使用により運動機能や注意力が改善したとの報告があります(※特にADHD併存例)。
ただし、これはDCD単独への処方として認められているものではなく、臨床的には慎重に判断されます。また、DCDが疑われる方で、強いストレス反応や気分の落ち込みがある場合は、薬物療法を視野に入れた精神科・心療内科の受診が有効なこともあります。

大人向の自己でできる治療法

発達性協調運動症(DCD)は子ども時代に気づかれにくく、大人になってから「不器用さ」や「ぎこちなさ」が原因で生活や仕事に困難を抱える方も多いのが現状です。
大人の場合は、自分の困りごとを具体的に把握し、代替手段や工夫を通じて適応する力(コーピング)を高めることが、自己支援の柱となります。

大人のDCD:自己でできる治療・セルフサポート法

自己治療・サポート
日常生活の困りごとに対する「問題解決的アプローチ」

方法:CO-OP法の応用(GOAL-PLAN-DO-CHECK)

  • GOAL(目標):たとえば「スムーズにシャツのボタンをかけたい」「人前で飲み物をこぼさず注ぎたい」など
  • PLAN(計画):どういうステップでやれば良さそうか考える(手順をメモする、動画を見るなど)
  • DO(実行):実際に試す
  • CHECK(振り返り):何がうまくいって、どこが難しかったか確認し、次の改善へつなげる

→ 自分のクセや苦手な動きを「分析して対策を練る」習慣が役立ちます。

自己治療・サポート
動作を「見える化」して練習する
  • 鏡の前で動作確認:姿勢や動き方を客観的に把握
  • スマホで動作を撮影・分析:自分のぎこちない動きをチェックし、改善点を探す
  • 手順カードやメモの活用:料理、掃除、道具操作の手順を1つずつ可視化
自己治療・サポート
微細運動スキルのトレーニング

練習例(できるだけ日常に組み込む)

  • キーボード入力の練習(ホームポジション・音声入力との併用も◎)
  • お絵描き・日記を書く(グリップ補助器具の使用も検討)
  • レゴ、模型、刺しゅう、手芸など趣味を兼ねた作業で楽しく継続
自己治療・サポート
 粗大運動・バランス感覚のトレーニング

自宅でできる方法

  • バランスボード、ストレッチポール
  • ヨガやピラティス(動画を見ながらゆっくり反復)
  • リズム運動(音楽に合わせて足踏み、ダンス系ゲームも可)

→ スポーツが苦手な人でも、楽しく取り入れられる軽運動が効果的です。

自己治療・サポート
環境・道具を工夫する(代替手段の活用)
困りごと工夫・代替手段
よく物を落とす・ぶつかる家具の角にクッション、床に滑り止め、物の定位置管理
書くのが遅い・疲れるタイピング、音声入力、太めのペン使用
シャツのボタンが苦手スナップボタン、マジックテープ式、ボタン補助具
調理が苦手安定板、滑り止めつき包丁、電子レンジ調理活用
自己治療・サポート
心理面のセルフケア
  • 失敗や不器用さを責めないセルフトーク:「時間がかかっても大丈夫」「やり方を工夫すればいい」
  • できたことリスト:1日1つ「うまくいったこと」を書き留める
  • 自己理解の深掘り:自分の特性を言語化して他者に伝えられるようにする(例:「私は動作が遅いので、少し時間をもらえると助かります」)

大人のDCDにおける職場での工夫

大人の発達性協調運動症(DCD)における職場での工夫は、「苦手を避ける」よりも、「苦手をカバーできる環境・道具・やり方を整える」ことが重要です。場面別の工夫例と、上司や同僚との関わり方を紹介します。

職場での工夫
 職場でのDCDのよくある困りごとと工夫例
困りごと工夫・代替手段
メモを素早く書けないパソコン・タブレットに直接入力、音声入力、録音許可の確認
字が読みにくいフォーマットやデジタル入力の活用、清書は後回しにしてもOKなルールを
飲み物をこぼす/書類を落とす蓋付きボトルを使う、書類トレーを活用、重要書類はクリアファイルに
会議資料の操作が不器用事前に確認、紙ベースを持参、スライド操作は他の人に任せる提案も
パソコン操作がぎこちないキーボード配列に慣れる練習 or 音声入力ソフト活用、マウスの感度調整
立ち仕事や道具の扱いが苦手安定する道具(滑り止めなど)の使用、配置変更の提案
段取りや順序が混乱しやすいチェックリスト、ToDoリスト、付箋、アラームで行動を可視化
よくぶつかる・落とすデスクや通路の整理整頓、小物は専用トレイに収納
職場での工夫
人間関係・職場での伝え方の工夫

DCDの特徴は外から見えづらく、怠慢や不注意と誤解されやすいため、部分的な自己開示が有効なことがあります。

自己開示の例(必要に応じて)

  • 「手作業が少し苦手なので、チェックリストで確認しながらやっています」
  • 「段取りに時間がかかることがあるので、余裕を持って取りかかるようにしています」
  • 「書類の準備にミスが出やすいので、ダブルチェック用にメモを残しています」

→ 言い方を工夫すれば、特性を「工夫する力」として伝えることもできます。

職場での工夫
職場で利用できる工夫アイテム
アイテム用途
チェックリストアプリ(Trello、Todoistなど)作業漏れ・段取り支援
マウスやキーボードのカスタムツール微細運動の負担軽減
音声入力ソフト(Google音声入力、スマホアプリ)書く作業の代替
書類整理グッズ(仕切りファイル、書類ボックス)視覚的整理の補助
タイマー・ポモドーロ法アプリ作業時間管理の支援
職場での工夫
環境調整の例(合理的配慮)
  • 電話応対を他の業務と分担
  • 納期の余裕を設ける
  • 操作手順書を整備する
  • 席の位置(静かな場所など)を調整

※本人が望む場合、職場に「発達障害者支援センター」などを通じて配慮をお願いすることもできます。

発達協調性運動症(発達性協調障害)セルフチェックリスト

次の40問のセルフチェックリストを使用して、ご自身の発達協調性運動症(DCD)の可能性を評価できます。各質問に対して「はい」または「いいえ」で答えてください。

このチェックリストは自己評価のためのものであり、正式な診断を行うものではありません。疑わしい場合は、専門の医療機関や心理カウンセラーに相談してください。

発達協調性運動症(発達性協調障害、DCD)セルフチェックリスト
1.書くことが苦手で、文字が読みにくいと言われることがある。
2.自転車に乗るのが難しいと感じる
3.スポーツや運動が苦手で、クラスメートと比べて遅れていると感じることがある。
4.手先が不器用で、細かい作業が苦手。
5.紐を結ぶ、ボタンを留めるなどの手作業が難しい。
6.ダンスやリズムをとる運動が苦手。
7.階段の昇り降りでバランスを崩しやすい。
8.食器を運ぶときによく落としてしまう。
9.キーボードのタイピングが遅い。
10.作業を終えるのに他の人より時間がかかる。
11.工具や道具を使うのが苦手。
12.料理や掃除などの日常の家事でつまづくことが多い。
13.製図や図を描くのが難しい。
14.車の運転が難しいと感じる。
15.歩くときによくつまずいたり、物にぶつかったりする。
16.着替えや身支度に時間がかかる。
17.文字を書くときに手が疲れやすい。
18.チームスポーツでの動きが遅く、ついていけないと感じることがある。
19.鍵を開ける、閉めるのに時間がかかる。
20.トレーニングやフィットネスの動作を覚えるのが遅い。
21.リズムをとって歩くのが難しい。
22.身の回りの整理整頓が苦手。
23.ショッピングカートやベビーカーを操作するのが難しい。
24.音楽の楽器を演奏するのが苦手。
25.コンピュータのマウス操作が苦手。
26.針に糸を通すのが難しい。
27.図形やパズルを解くのが苦手。
28.バランスをとるのが難しい。
29.室内ゲームやパーティーゲームでの動きがぎこちない。
30.フォークやナイフを使うのが難しい。
31.人ごみの中を歩くときに他人とぶつかりやすい。
32.早く歩くのが苦手。
33.手書きの文字が安定しない。
34.バドミントンやテニスなどのラケットスポーツが苦手。
35.図や表を正確に描くのが難しい。
36.動きを指示されると混乱しやすい。
37.料理中に材料をこぼしやすい。
38.物を拾うときに手が震えやすい。
39.身の回りの物をよく失くす。
40.自転車や車の運転で事故を起こしやすい。

発達協調性運動症(発達性協調障害、DCD)セルフチェックリスト

評価

  • 各「はい」に対して1点を与えます。
  • 合計点を計算してください。
合計点評価内容
0-10点発達協調性運動症の兆候はほとんど見られません。
11-20点軽度の発達協調性運動症の可能性があります。専門家の診断を受けることをお勧めします。
21-30点中度の発達協調性運動症の可能性があります。日常生活に支障をきたす可能性があるため、専門家の診断とサポートを求めることをお勧めします。
31-40点重度の発達協調性運動症の可能性があります。専門家の診断と治療が必要です。

標準精神医学第8版:尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉/医学書院
成重竜一郎:多動性障害(注意欠如/多動性障害ADHD)・精神科治療学
金生由紀子、浅井逸郎:チックのための包括的行動介入セラピストガイド/丸善出版
次良丸睦子、五十嵐一枝:発達障害の臨床心理学/北大路書房
柴崎光世、橋本優花里:神経心理学/朝倉書店
村上宣寛:IQってなんだ・知能をめぐる神話と真実/日経BP社
DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル 高橋三郎・大野裕監修/医学書院

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