統合失調症の臨床経過と治療法・治療方針を詳しく説明!
統合失調症の臨床経過
統合失調症の臨床経過は患者によって異なりますが、一般的に次のような特徴があります。
統合失調症は通常、10代後半から20代前半にかけて発症します。初発期には、症状が急激に現れ、非常に深刻な状態になることがあります。初発期の症状は、幻覚、妄想、思考障害、不適切な感情表現などが該当します。
急性期の症状は、幻覚や妄想などの陽性症状に加え、思考や言語の障害、自閉的行動、意欲や感情の減退などの陰性症状が現れることがあります。急性期は、治療を開始した後、しばらくの間続くことがあります。
急性期が終わった後は、安定期に入ります。この期間中は症状が軽減し、患者の生活は回復することがあります。治療が十分な場合、症状が完全に消失することがありますが、完全に治癒することは非常にまれです。
慢性期には、症状が軽度から中等度のものになることがあります。患者は、安定期に比べて症状に対処することができるようになることが多いですが、陰性症状が残ることがあります。
治療を中止した場合や、治療が不十分な場合には、再発のリスクが高くなります。再発した場合は、再度治療を行う必要があります。
以上が統合失調症の一般的な臨床経過ですが、個人差が大きいため、必ずしも全ての患者に当てはまるわけではありません。治療は個人に合わせたものであるため、経過も患者ごとに異なる場合があります。
統合失調症の長期予後
統合失調症の長期予後は非常に個人差があります。一部の人々は完全に回復することがありますが、多くの場合、症状が慢性的で継続的に存在することがあります。
長期予後を予測するための要因として、次のようなものが挙げられます。
- 性別:女性は男性よりも良好な長期予後を持つ傾向があります。
- 年齢:症状が初めて現れた年齢が若いほど、悪い予後となる傾向があります。
- 症状の重症度:初期の症状が重いほど、悪い予後となる傾向があります。
- 病歴:症状の長期化や再発の歴史がある場合、悪い予後となる傾向があります。
- 精神医学的治療:適切な治療を受けた場合、良好な長期予後が期待されます。
統合失調症にはいくつかの亜型があり、それぞれの亜型によっても長期予後に違いがあります。例えば、パラノイド型の場合は、陽性症状に焦点を当てた治療が有効であるとされ、治療が早期に行われた場合、良好な長期予後が期待されます。一方、欠如型の場合は、より長期的な治療が必要であることがあります。
統合失調症の長期予後についてはまだ多くの不明な点がありますが、早期の治療やサポート、継続的な医療ケアが重要であることがわかっています。
近年の治療法やケアの改善により、長期予後で改善のない患者群は減少しているとされています。ただし、完全寛解や回復といった高次の治療成績を得ることは依然として難しく、不全寛解が主流となっています。
具体的には、統合失調症の臨床経過については、患者によって異なりますが、長期的に見ると、完全寛解や回復の割合は比較的低く、不全寛解が主体となります。また、一部の患者は症状が慢性化し、社会復帰が困難な状況に陥ることもあります。
ただし、治療法やケアの進歩により、不全寛解でも社会復帰が可能なケースも増えています。また、患者の自己管理やサポートの強化により、症状の再発を予防することも重要です。
再発に関する要因とリカバリー
再発に関連する要因としては、次のようなものがあります。
- 薬の服用を中止することや、薬の投与量を減らすこと
- ストレスや不安が続くこと
- アルコールや薬物の乱用
- 睡眠不足や過剰なストレス
リカバリーに関しては、統合失調症は慢性疾患であるため、完全な治癒は難しいとされていますが、患者さんの症状や生活機能の改善を目指すことが重要です。リカバリーには、次のような要素が関連しています。
- 薬物療法の継続的な投与
- 心理社会的な支援、例えばカウンセリングやサポートグループ
- 運動や健康的な食生活の習慣化
- 仕事や学業、家族との関係など、生活の各領域において自己実現感や自尊心を高めることができるような環境づくり
これらの要素が組み合わさることで、患者さんの回復や再発予防につながります。また、リカバリーには個人差があるため、患者さんの希望や目標に応じた治療計画を作成することが重要です。
統合失調症の薬物療法
統合失調症の薬物療法は、抗精神病薬が中心となります。具体的には、次のような薬物が使用されます。
- 第一世代抗精神病薬(通称:
- クロルプロマジン、ハロペリドール、フルフェナジン、トリフロペラジンなど
定型精神病薬・神経緊張型抗精神病薬、古いタイプの薬剤)
- 第二世代抗精神病薬(通称:非定型抗精神病薬、新しいタイプの薬剤)
- リスペリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾールなど
これらの薬剤は、統合失調症の陽性症状(幻覚、妄想、思考障害)を緩和する効果がありますが、副作用を考慮しなければなりません。第一世代抗精神病薬は錐体外路症状(筋肉のこわばり、震え、不随意運動)、第二世代抗精神病薬は体重増加、糖尿病、高脂血症などの代謝異常が起こる可能性があります。
その他、薬物療法の補助として、抗不安薬や抗うつ薬などが併用される場合もあります。また、投薬療法だけでなく、心理療法やリハビリテーションプログラムなどの総合的な治療が重要とされています。
統合失調症の第一選択薬
統合失調症の第一選択薬は、抗精神病薬であり、次のような種類があります。
- 第一世代抗精神病薬
-
第一世代抗精神病薬は、ドーパミン受容体に作用して神経伝達物質のバランスを調整し、陽性症状を改善する効果があります。
しかし、錐体外路ドーパミン受容体にも作用するため、副作用として、運動機能障害 (パーキンソン症候群、ジストニア、アカシジア) や、錐体外路ドーパミン過剰症状 (ジストニア、パープル、強直)、眼球障害、脱力などが報告されています。 - 第二世代抗精神病薬
-
第二世代抗精神病薬は、第二世代抗精神病薬に比べてドーパミンD2受容体への親和性が低いため、運動機能障害の副作用が軽減されています。
また、セロトニン5-HT2A受容体にも作用することから、陰性症状の改善にも効果があるとされています。
現在の研究では、第二世代抗精神病薬が第一世代抗精神病薬に比べ、寛解を達成しやすく、再発リスクが低くなる可能性があることが示唆されています。ただし、第二世代抗精神病薬にも副作用があり、体重増加、糖尿病、高脂血症、心臓病などのリスクが報告されています。
主な第一選択薬としては、リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール、クエチアピン、アセナピンなどがあります。ただし、大きな課題は個人の症状や副作用の傾向に応じて、医師が慎重に選択する必要があります。
第一世代抗精神病薬 | 定型精神病薬:一般名 |
フェノチアジン系 (興奮症状に対して) | クロルプロマジン・レボメプロマジン・フルフェナジン・トリフロペラジン・ペルフェナジン・プロクロペラジン・プロペリシアジン・オーラップ |
ブチロフェロン系 (陰性症状に対して) | ハロペリドール・ピパンペロン・スピペロン・チミペロン・ブロムペリドール |
ベンズアミド系 (抗うつ剤としても) | スルピリド・スルトピリド・ネモナプリド |
第二世代抗精神病薬 | 非定型抗精神病薬:一般名 |
多元受容体作用抗精神病薬 MARTA | オランザピン・クエチアピン・アセナピン |
セロトニン・ドパミン拮抗薬SDA | リスペリドン・パリぺリドン・ブロナンセリン・ペロスピロン・ルラシドン |
ドパミン受容体部分作動薬 DSS | アリピプラゾール |
SDAM | ブレクスピプラゾール |
(定型抗精神病薬) | 持続型注射薬セレネース・フルメジン・リスパダール持続性注射薬 |
(非定型抗精神病薬) | 持続型注射薬リスパダール・インヴェガ・エビリファイ持続性注射薬 |
治療抵抗性統合失調症
治療抵抗性統合失調症とは、抗精神病薬を使用しても十分な改善が見られず、症状が持続する場合を指します。治療抵抗性統合失調症の割合は約30%とされており、重度の病態度合い、病期の長さ、若年発症、高齢発症などがリスクファクターとされています。
治療抵抗性統合失調症に対しては、次のような治療オプションが検討されます。
- 高用量の抗精神病薬
治療抵抗性統合失調症の場合、抗精神病薬の最大投与量を超えても、症状が改善しないことがあるため、高用量の投与が検討されます。 - 異なる抗精神病薬の組み合わせ
異なる種類の抗精神病薬を併用することで、症状の改善が見られることがあります。 - エレクトロコンボルション療法(ECT)
治療抵抗性統合失調症の患者に対して、ECTが有効であることが示されています。しかし、ECTは副作用や合併症があるため、慎重に検討する必要があります。 - 第二世代抗精神病薬
治療抵抗性統合失調症に対しては、第二世代抗精神病薬が第一世代抗精神病薬よりも有効であることが示されています。 - オランザピンのロングアクチング製剤
オランザピンのロングアクチング製剤は、治療抵抗性統合失調症に対して有効であることが示されています。 - その他の治療法
精神分析的アプローチや認知行動療法、リハビリテーションなどが、治療抵抗性統合失調症の患者に対して有用であることが報告されています。
治療抵抗性統合失調症は、一般的には、最低6週間間隔をおいて2種類の抗精神病薬を使用しても、十分な症状緩和が得られない場合に診断されます。このような場合、治療法は患者の症状や病歴、副作用のリスクなどに応じて、治療戦略を再評価する必要があります。
電気けいれん療法の適用
電気けいれん療法(ECT)は、治療抵抗性のうつ病や双極性障害の治療に効果があることが知られていますが、統合失調症にも一部の患者に対して効果があるとされています。一般的には、薬物療法や精神療法が効果がない、あるいは副作用が強くて使用できない、または緊急性がある場合に使用されます。
ただし、ECTは侵襲的な治療法であるため、慎重な判断が必要です。治療には全身麻酔が必要であり、通常は毎週2〜3回のセッションを数週間にわたって行います。副作用としては、一時的な記憶障害や頭痛、筋肉痛などが報告されています。治療を受ける前に、治療内容やリスク・メリットなどについて、患者や家族が十分に理解する必要があります。
心理社会的療法の精神療法
心理社会的療法は、薬物療法に加えて患者の社会的・心理的側面を改善することを目的とした治療法です。次に代表的な心理社会的療法を説明します。
- 精神療法
患者の思考や行動の問題を修正することを目的とした治療法です。認知行動療法、対人関係療法、精神分析療法などがあります。 - 心理教育
患者や家族に対して統合失調症の理解を深め、適切な対処方法を学ばせることを目的とした治療法です。 - 社会生活技能訓練
患者が日常生活を送る上で必要なスキルを身につけさせることを目的とした治療法です。社会生活技能訓練には、自己管理トレーニング、コミュニケーショントレーニング、職業訓練、家族指導などがあります。 - 作業療法
患者が自己実現や社会復帰を達成するために、職業能力や生活技能を向上させることを目的とした治療法です。作業療法には、職業訓練や生活技能訓練などがあります。 - その他
音楽療法、アートセラピー、ペット療法など、患者が自己表現を通じてストレスを軽減することを目的とした治療法もあります。
統合失調症の治療方針
統合失調症の治療方針は、急性期・回復期・安定期(維持期)に応じて異なります。
- 【急性期の治療方針】
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急性期の統合失調症患者には、抗精神病薬の投与が主要な治療法となります。急性期には、可能な限り早期に症状を緩和することが重要です。また、入院が必要な場合もあります。
- 【回復期の治療方針】
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回復期には、薬物療法とともに心理社会的療法が重要となります。認知行動療法や認知リメディエーション、社会技能訓練などが、患者の回復を促進することができます。
- 【安定期(維持期)の治療方針】
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安定期には、継続的な薬物療法と心理社会的療法の継続が必要です。薬物療法により、再発リスクを低減することができます。また、心理社会的療法により、社会的機能の向上を促すことができます。
- 【維持期の治療方針】
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- 継続的な薬物療法
- 心理社会的療法の継続
- 必要に応じて、入院・外来管理の切り替え
以上の治療方針は、患者の症状、病歴、家族のサポート状況などに応じて、個別に決定されます。治療方針の変更や調整が必要な場合には、精神科医や治療チームとの相談が必要です。
早期介入や早期支援の重要性
早期介入や早期支援は、統合失調症の治療において非常に重要です。適切な介入が早期に行われることで、症状が悪化する前に治療が行われ、回復の可能性が高まります。具体的には、次のような点が挙げられます。
- 症状が現れた時点での早期治療が重要です。症状が重度化する前に治療が始まれば、症状を軽減させ、回復の可能性が高まります。
- 精神科医師や専門家による早期評価が重要です。症状が現れた時点で、早期に評価が行われれば、治療の適切な方針を立てることができます。
- 早期に介入することで、社会的機能の低下を防ぐことができます。仕事や学業、社会生活に影響を与える前に治療が行われれば、社会的機能の低下を防ぐことができます。
- 精神病末治療期間(DUP)を短くすることが重要です。DUPが長くなると、治療が遅れ、回復に時間がかかる可能性が高まります。早期に治療が行われれば、DUPを短くすることができます。
- 早期の治療には、心理社会的療法や薬物療法です。心理社会的療法は、認知行動療法、認知リメディエーション療法、社会生活技能訓練などがあり、症状の改善や社会的機能の向上に役立ちます。薬物療法は、抗精神病薬が中心であり、症状の改善や再発予防に役立ちます。
- 早期介入や早期支援は、長期的な経過にも影響を与えます。早期に治療が行われ、症状が軽減されることで、再発のリスクが低下することが示されています。また、社会的機能が向上し、仕事や学業、社会生活などを維持することができるため、将来的な自立支援にも繋がります。
近縁の疾患
- 急性一過性精神病性障害(Brief Psychotic Disorder)
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急性一過性精神病性障害は、統合失調症と同様に現実感覚の障害や幻覚、妄想などの症状を呈することがありますが、持続期間が1日以上1か月未満であり、持続期間が短い点が特徴です。統合失調症と異なり、早期からの症状改善がみられることが多く、完全寛解する場合も多いとされています。
- 妄想性障害(Delusional Disorder)
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妄想性障害は、妄想のみを主な症状とし、その他の統合失調症的な症状が軽微な場合があります。妄想が現実的な状況に反していることがあり、妄想によって社会的な機能や日常生活に支障が出る場合があります。治療には薬物療法や心理療法などがありますが、治療抵抗性が高いとされています。
- 統合失調感情障害(SchizoAffective Disorder)
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統合失調感情障害は、統合失調症と気分障害の症状を併せ持つ障害であり、統合失調症と気分障害の両方の診断基準を満たす必要があります。統合失調症の症状がある場合と気分障害の症状がある場合とで、症状が変化する場合があります。治療には薬物療法や心理療法がありますが、適切な治療が必要です。
『統合失調症の治療―実践ガイドライン2020年版』(日本精神神経学会編集、南江堂、2020年)
『統合失調症の臨床ガイドライン』(編者:小林宏彰、発行:精神神経学会、2019年)
『精神科看護実践ガイドブック』(編者:長崎勇、発行:医学書院、2018年)
『統合失調症―診断と治療の実際』(著者:鈴木康雄、発行:中外医学社、2017年)
『統合失調症の最新治療』(編者:近藤徹、発行:医学書院、2017年)
『統合失調症と回復―その理論と実践』(著者:森川真也、発行:金剛出版、2017年)
『統合失調症の理解と対応―精神科医・看護師・臨床心理士・社会福祉士・保健師のために』(編者:糸賀幹夫、発行:医学書院、2016年)
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