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自殺の心理的要因・サインと支援者の知識

目次

支援者が自殺の危険性度の高い人への対応

自殺に関わるリスクの理解と対応に焦点を当てていますので、ポイントを強調し、当事者への効果的なサポートを提供できるよう心掛けます。

自殺念慮の理解
  • 一過性と両価的な気持ちの理解
    この概念は自殺念慮が安定していないことを示しています。一過性であることがあるため、状況や感情が一時的なものである可能性も考慮する必要があります。
  • 振り子のような揺れ動き
    死にたい気持ちと生きたい気持ちが揺れ動いている様子は、当事者の心理状態の複雑さを強調しています。
自殺念慮の揺れ動き
  • 行動の際のサイン
    自殺行動の際に命が助かるような行動である場合、自殺念慮の揺れ動きを示す重要なサインです。これに気づくことが予防に繋がります。
思考と行動のレベルへの働きかけ
  • 死にたい気持ちについての話し合い
    死にたい気持ちについて話せるようにすること、および感情や思考を言葉にすることは、当事者にとって負担を軽減し、サポート者が理解する上で重要です。
  • カウンセリングや医療面接での質問
    質問は具体的にすることで、当事者の状態を深く理解するのに役立ちます。
    • 死のうとして、何か行動したのか?
    • いつから行動しようと思ったのか?
    • 行動した結果はどうなったと思ったのか?
    • 死んだらどうなると思ったのか?
  • 死にたい気持ちの揺れを評価
    揺れる気持ちを正確に評価することは、適切なサポートプランの構築に役立ちます。
ブレーキをかける能力の評価
  • 思考と行動レベルの違い
    当事者がどれだけ深刻な気持ちを抱えているかを理解することは、思考のレベルと行動のレベルの違いなどの適切なサポートを提供できるようになります。
  • 本人がブレーキをかけられるか
    行動に移りそうな際に、本人が自制心を持てるかどうかの評価が重要です。これはサポート者が具体的な行動プランを立てる上で役立ちます。
自殺を防ぐ防御因子(保護因子)
  • 良好な家族、対人関係、社会生活と充実した生活、経済状況、地域とのコミュニティなど自殺を妨げるような結びつきが支援に役立ちます。

自殺の危険度の段階

自殺に関連する危険度の段階について理解することは、支援者にとって重要です。次は各段階に対する解説です。支援者やカウンセラーが出会うケースは自傷や自殺念慮の段階です。これらの段階においては、当事者が危機に陥っている可能性が高まっていて、特に自殺念慮の段階では、具体的な計画や実行意図の有無を確認し、適切なサポートを提供することが重要です。支援者は慎重にコミュニケーションをとり、当事者の状態を正確に理解し、適切な介入を行うよう心がけます。

段階
要因の蓄積と危険因子

ストレスや心理的な苦痛が蓄積し、自殺の危険が高まる。

段階
自傷

死は意図していないケースが多いが、自己(身体)を傷つける行為。

段階
心理状態の変化

うつ状態、絶望感、無力感が現れ、自殺の危険が一段階上がる。

段階
希死念慮

「死にたい」と思うが、自殺行動の意図を伴わない。

段階
自殺念慮の出現

具体的な死のイメージが出てくる段階にあり、死に対する関心が高まる。

段階
自殺念慮(自殺願望)

実際の自殺の企図がないこともあるが、死にたいという思いが強く存在する状態。

  • 自殺の具体的計画や実行する意図を伴う
  • 自殺の具体的計画や実行する意図を伴わない
段階
自殺の計画

具体的な手段や方法に関する計画ができ、危険がさらに一段階上がる。

段階
危険な手段の入手

危険な手段(薬物、縊首用具など)を手に入れ、実際の自殺に向けた段階。

段階
自殺企図

自殺の実行に踏み切る段階で、これが最も危険な状態であり、迅速な介入が必要。

段階
自殺未然

具体的な計画をもち、自殺を試みる意志が全開の状態。

  • 中断された企図
  • 他人によって止められる
  • 本人が自ら止める
段階
自殺未遂

死を意図して行動したが、死に至らなかった事例。

  • 自殺行動の後、生存
段階
自殺既遂(完遂)

死に至った自殺の事例。

  • 自殺行動の後、死亡

治療の方向性を考える

「死にたい」気持ちの理解

自殺念慮には一過性と両価的な側面があります。一過性な気持ちは一時的で、感情が高ぶっている時に現れます。また、両価的な気持ちは死にたい気持ちと生きたい気持ちが同時に存在し、揺れ動いています。
死にたい気持ちは一定の状態が続くものではなく、時間とともに弱まっていくか、消えてしまうことがあり、死にたい気持ちがある人は、死にたいだけでなく、生きたい気持ちも抱えているとういうことです。

自殺行動の階層モデル

自殺の危険の高まりは段階的に進行すると考えられます。

STEP
自殺の要因と危険因子を複数を持つ

ストレスの高い状態や困難な生活状況に直面している段階

  • 要因は個人的要因と社会的要因が複雑に絡み合っています。
  • 危険因子は精神疾患や特性、遺伝的・生物学的要因などで、リスクが高まります。
STEP
自殺者の一定の心理状態になる

うつ状態が進行し、自責、焦燥感、絶望、視野の狭窄などの心理症状が顕在化

  • 強い要素と動揺する要素で自殺念慮
    • 死にたい/生きたいの振り子のような揺れ動きがあります。
  • 心理的視野狭窄
    • 解決策も考えられなくなり、自殺で家族が悲しむ、迷惑をかけるなどが見えなくなり、自殺しか考えられなくなります。
  • 焦燥感
    • 自殺に関する理論的立方体モデルにおいて焦燥感は重要な軸の一つであり、具体的にはそわそわした感覚、動き回る行動、イライラ、衝動的な行動、暴力を振るうなど観察可能な行動に現われます。
STEP
自殺行動に移る準備をする

生きたい・死にたいの葛藤を抱えながら、自殺念慮、計画、手段の確保、自殺企図などが現れる段階

  1. 自殺の具体的計画や実行する意図を伴います。
  2. 具体的な手段や方法に関する計画を立てます。
  3. 自殺の手段(薬物、縊首用具など)を手に入れます。
STEP
自殺行動を起こす

実際に自殺を試みる段階

  • 自殺の主な手段は縊首、飛び降り、薬物、溺死 、ガス、飛び込み、溺死などになります。
  • その他、薬物とビニール袋の使用、縊首以外の窒息死、練炭など一酸化炭素中毒、低体温死、刃物使用、感電、銃、などがあります。

自殺の介入の方向性

自殺願望者から「死にたい」と打ち明けられた際には適切な対応が求められます。相手の感情を尊重し、サポートすることが重要であり、この時の対話は、心の絆を築き、孤独感を和らげる機会でもあります。一方で、励ますことが逆効果となる可能性があるため、相手を理解し、共感を示すことが重要です。死を選ぶ決断をしている人に対して、価値観や批判的な言葉を用いることは避け、相手の気持ちに真摯に向き合い、安心感を提供することが求められます。死に関する話題を避けず、相手の気持ちに寄り添いながら、無理に会話を進めないよう心がけることも重要です。
何より、相手を受け止める方向性が大切となります。

介入を行う方向性

STEP
先ずは、死にたいという気持ちを受け止める

その人の気持ちを否定せず、受け入れることが重要です。感情や思いは尊重されるべきであり、受け止めることが第一歩です。

STEP
誠実な態度をとる

誠実であり、安心感を与える態度が大切です。相手が本気で話すことができる雰囲気を作ります。

STEP
時間をかけて傾聴する

まず最初に、相手の話に耳を傾けます。急いで解決策を出すのではなく、ゆっくりと相手の話を聞くことが必要です。自分の気持ちや経験を押し付けず、ただ相手の言葉を受け止めることが重要です。傾聴を通じて相手の感情や状況を理解します。

STEP
共感する

相手の感情を理解し、共感することが大切です。そして、感じたり考えたりしていることを理解していることを示します。

STEP
沈黙を共有する

時には言葉にならない感情や思いを共有するために、沈黙も大切です。相手が話すペースを大切にします。

STEP
自殺について話せる信頼関係

相手が安心して自分の気持ちを話せるような信頼関係を築くことが重要です。そして、自殺に対する理解と無理な干渉を避け、共感と支援を提供します。

STEP
希望や支援の意思表示

相手に対して、まだまだ希望が持てることがあるということと、これからの支援があることを伝えます。「あなたは一人じゃない。助けを求めることは強さの表れです。」などの言葉が適切です。

STEP
自殺の手段を遠ざける

具体的な手段は縊首、飛び降り、薬物、溺死 、ガス、飛び込み、溺死、ビニール袋の使用、縊首以外の窒息死、練炭など一酸化炭素中毒、低体温死、刃物使用、感電、銃などになりますが、アクセスの制限することで、自殺のリスクを低減させます。

STEP
危険因子の減少

可能な限り本人の特徴や持ち得ている多くの危険因子や原因となる要因を特定し、まずは身近な変えられる要因から変化を促します。例えば、社会的サポートの向上、ストレスの軽減、健康状態の安定などになります。

STEP
心理状態の安定化

危険因子を変えることが難しい場合は、相手の心理状態を安定させることが重要です。うつ症状、焦燥感、絶望感などの症状の軽減を目指し、安定した心理的状態を保つことが中心となります。これには支援者と専門分野のカウンセラーなどの協力が必要となるケースがあります。

  • 令和4年に自殺統計原票を改正し、遺書等の生前の言動を裏付ける資料の他、家族等の証言から考えられる原因・動機も含め、自殺者一人につき4つまで計上することとしたため、原因・動機特定者数と原因・動機数の和が一致するとは限りません。

自殺願望者に対して良い言葉と悪い言葉の例

支援者やカウンセラーが、自殺願望者に「死にたい」と打ち明けられた際に、使って良い言葉の意識だけでなく、実際には相手の感情を尊重し、サポートすることを第一の目的とします。理解と共感を示すことが大切であり、対話を通じて心の絆を作り、孤独を癒すことが目指します。
自殺願望者は饒舌でないことがおおく、沈黙に徹する場合もありますが、焦らず沈黙を共有するだけでも十分で、無理に質問を繰り返すようなことはマイナスとなります。また、励ますことによって元気を取り戻す人もいますが、相手は既に死を選択しており、頑張れと励ますことは逆効果になる可能性があります。このことからも自殺のことから話をそらさず、相手の気持ちに向き合い、じっくり話を聞くことが重要です。そのうえで、共感することは自殺の肯定ではなく、相手の状況を理解しようとしていることを示します。

会話のタブーとなるありがちなことは、良かれと思っての言葉でも、相手に対し自殺することは臆病者だとか、問題を残して逃げるのか、などのように相手の批判や指導のように社会的常識を引き合いに、例えば、「親や残された人に迷惑がかかる」、「親からもらった命を粗末にするな」のような価値観を押し付けるようなことです。

次に自殺願望者に「死にたい」と打ち明けられた時、使って良い言葉と悪い言葉を例として挙げますが、支援者やカウンセラーの話し方のトーンの加減や相手の状況や年齢、性別、自殺の階層・段階など個々のケースによっては当てはまらない場合もあります。

使って良い言葉

支援者が自殺願望者に使っても良いと思われる言葉
「あなたはもう一人じゃないです。助けを求められたことは強さの表れです。」
「あなたがここに来られたことの勇気ある行動と思いに感謝しています。」
「あなたの気持ちを少しでも理解させていただきたいと思っています。」
「一緒に話し合い、もういちど解決策を考えてみたいたいのです。」
「一人で抱え込まずに、私たちも一緒に対処できることがあるかもしれません。」
「あなたが苦しい気持ちでいることが十分に伝わっています。」
「あなたの感情を私に受け止めさせてください。」
「私があなたの力になることが運命だと思っています。」
「専門家の助けを受けることはとても大切です。一緒に相談に行きませんか?」
「あなたがそう感じるのは間違いないことだと思います。これは辛いことですね。」
「あなたが話したいことがあれば、なんでも聴かせてください。」
「あなたがここにいることは、もう一人じゃありません。私はこれからもいます。」
「あなたの気持ちを真剣に考えさせてください。」
「あなたの苦しみの一部でも理解させてください。」
「あなたが今、どれほど辛い思いをしているか想像させてください。」
「あなたを大切だと思っていますので、私は絶対に軽視することはありません。」
「あなたの存在は意味を持っています。既に私には大切な存在になっています。」
「一緒に解決策を見つけるために、私はあなたと共にいることを望んでいます。」
「苦しみを少しでも取り除けることがあるのか、私はあなたと一緒に考えたいです。」
「自分の気持ちを打ち明けてくれたことに感謝していて、ありがたく思っています。」
「あなたの心の重荷を教えていただき、問題が見えてきたことを嬉しく思います。」

使ってはならない言葉

支援者が自殺願望者に使ってはならないと思われる言葉
「自殺なんて馬鹿げたことを言わないでください。」
「自殺を考えるなんて、おかしいと思いませんか。」
「みんな辛い時があるんだから、我慢しなさい。」
「自殺は自分を傷つけるだけです。」
「自殺なんて、弱気なことを考えないでください。」
「自殺という逃げ道を探すのは甘えです。」
「自殺は、家族や友人を裏切ることです。」
「自殺なんて、怖いことを考えないでください。」
「自殺は、愚かな行動です。」
「自殺は、決して許されないことです。」
「自殺するなんて、弱虫みたいなことを考えないでください。」
「死ぬことなんて、誰でもできることです。」
「自殺は、最終手段です。」
「死ぬことで、問題を解決しようとすることはずるいと思います。」
「自殺願望なんて、気持ちが甘えているだけです。」
「死ぬことなんて、簡単な逃げ道を探すのは情けない。」
「自殺するのは、臆病者の行動です。」
「死んでどうするんですか?もっと頑張れることはないですか?」
「死にたいなんて、自分の問題を他人に押し付けることです。」
「死ぬことなんて、最悪の選択肢です。」

「生き抜く力」

「生き抜く力」(1987年 ジュリアス・シーガル著者、小此木啓吾訳)

ジュリアス・シーガルの「生き抜く力」では、戦争捕虜や人質となった人々が普通の生活に戻る際の特徴を5つのCとして提示しています。これを自殺危機に陥っている人の心理状態の理解や支援者のアプローチ、危機状態にある人に語りかける際の手がかりとして応用することができます。

Communication(コミュニケーション)

生き抜くための生命線
自殺行動リスクが高い場合:支援者やカウンセラーとのコミュニケーションが生死を分ける要因となります。これに対する抵抗がある場合は、残念ながらできることが限られてしまうこともあります。

Control(コントロール)

自分の支配感覚
自殺行動リスクが高い場合:生活のリズム、睡眠、食事、入浴などの要素や身体的な痛みや身体状態、精神症状をコントロールすることが必要です。医療(薬剤など)も含めてこれらの要素を早急に取り戻すことが求められます。

Conviction(信念)

苦痛に対する精神的な意味付け
中・長期的な自殺リスク低減:環境や経験、苦しみに対する「意味」を一緒に考え、理解することが重要です。

Conscience(正しい良心)

誤った自責感の放棄
中・長期的な自殺リスク低減:追い詰められた状態では物事を正しく(歪みなく)見ることが難しくなります。常識や法的なルールを守り、誤った自責感を放棄することが必要です。

Compassion(思いやり)

他人を助けることで自分を癒す
中・長期的な自殺リスク低減:人は一人では生きていけません。他人への思いやりは生きる力につながります。自殺危機の人が他者を助けることや思いやりを持つことで、生きる力の過程に入っていく可能性があります。

自殺に共通する 10 の特徴

自殺に共通する 10 の特徴 (Shneidman ES. Definition of suicide. 1985)は、心理的なプロセスや行動の理解に役立ちます。

  • 目的は問題解決
    自殺の目的は、個々の問題を解決しようとする行為である。当事者が自らを解放し、問題から逃れようとしている。
  • ゴールは意識活動停止
    自殺のゴールは、個体のすべての意識活動を停止させること。これは痛みや苦しみから解放されるための手段としての自殺行動を指す。
  • 動機は精神的苦痛
    自殺の動機は、通常、耐え難い精神的な苦痛や苦しみに起因している。これは感情的な痛みや絶望感と結びついていることが一般的である。
  • ストレッサーは欲求不満
    自殺の共通な原因は、個体が持つ欲求が満たされないこと。これは物理的な欲求だけでなく、社会的、感情的な欲求にも関連する。
  • 感情は絶望感と無力感
    自殺に共通する感情は、絶望感と無力感が主体となる。個人は将来に対して望みを見いだせず、現状からの脱出が見いだせないと感じている。
  • 認知の両価性
    自殺に至る個体は両価的な認知の状態にある。つまり、死にたい気持ちと同時に生きたい気持ちが共存している。
  • 認識の狭窄
    自殺に共通する認識の状態は、心理的な視野狭窄を示す。問題や解決策に対する視野が狭まり、他の選択肢が見えなくなる。
  • 行動は脱出
    自殺に共通する行動は、現状からの脱出を求めるものである。個人は苦痛やストレッサーから逃れるために自殺を選ぶ。
  • 対他的行動は意図の伝達
    自殺に共通する対他的行動は、他者に対して自らの意図や感情を伝えること。これは自殺予告や自殺を示唆する行動を指す。
  • 対処パターンの繰り返し
    自殺に共通する対処パターンは、個人がこれまでの人生で繰り返してきたもの。同様の困難や問題に対する反応が繰り返され、最終的に自殺に至る。

自殺を相談するという心理

自殺願望者が自殺について相談する心理は複雑であり、一概には言えませんが、一般的に、自殺願望者が相談する背景にはさまざまな感情や動機が絡んでいます。

助けを求める気持ち

一部の自殺願望者は、実際には死にたくないという気持ちや、苦しみを共有し、支えて欲しいという願望があります。対話を通じて感情や心の状態を理解してもらい、共感を得たいと考えています。

気持ちの整理

自殺願望者が誰かに相談することで、自分の気持ちや状況を整理しようとしています。相手に話すことで、混乱した感情や思考を整理し、問題に向き合う助けになることもあります。

死への願望と生への渇望の葛藤

一部の人は、自殺と生の葛藤に直面して、一方で死への願望を感じつつも、他方では生きることへの渇望も抱えています。相談を通じて、その葛藤を理解し、解決に向けての一歩を踏み出そうとしている可能性があります。

孤独感の軽減

自殺願望者は孤立感や孤独感を感じています。相談することで、その孤独感を軽減し、他者とのつながりを感じようとしていることがあります。

上記の心理とは逆に、自殺を押し進めてくれることを望んで相談する場合もありますが、これは極めて複雑で重大な状況です。このような場合には、適切な専門家や支援機関にすみやかに連絡することが重要です。自殺の危機に直面している場合は、信頼できる専門家や緊急支援機関に連絡して適切な援助を受けるようにします。

防御因子(保護因子)

自殺のリスクを減少させるための保護因子や防御因子は次のような要素が挙げられます。

自殺の保護因子(防御因子)

  • 子ども(産後精神病、気分障害は除く)
    子供への責任感や子供との関わりは、自己価値感や生きがいを提供し、自殺のリスクを低減させます。
  • 妊娠
    妊娠中の女性は、母親としての責任感や将来に対する期待感などが保護因子となり得ます。
  • 家族への責任感
    家族やパートナー友人への深い結びつきや責任感は、自己中心的な考え方を和らげ、安定感を提供し、自殺の抑制要因となります。
  • 社会・生活への満足感
    楽しい経験、満足感のある生活、自分の成果や達成感は、精神的な安定を促進し、自殺のリスクを低減させる可能性があります。
  • 信仰心
    宗教や信仰心がある場合、信仰の力が支えとなり、希望や意味を見出す手助けとなります。

支援者による保護因子

  • 現実検討能力
    現実的で客観的な視点をもつことは、危機的な状況において冷静な判断を下す助けとなります。
  • 積極的社会的サポート
    家族や友人、専門家などからのサポートは、孤立感を減少させ、精神的な安定をもたらします。
  • 積極的対処技能
    問題解決やストレスへの対処スキルを持つことが、危機に強く立ち向かう力を強化します。
  • 積極的な治療関係
    精神的な困難に対処するための専門的な治療関係があると、適切なサポートと指導を受けることができます。

危険度の高い場合の連携と情報伝達

アメリカのプロビデンス病院の看護教育連携の際の情報提供の方法としてSBAR があります。SBARは、連携の際に効果的なコミュニケーションを確立するための手法です。
情報提供において、明確で具体的な情報を伝えることが重要です。また、患者のプライバシーと法的規制にも留意しながら、必要な情報を適切に共有することが求められます。

伝達
S:Situation (状況)

自殺に関しての問題
例: “現在、患者さんは自殺の危機に瀕しています。”

伝達
B:Background(背景)

自殺の危険因子を含めた情報を整理
例: “患者さんは過去に自殺未遂歴があり、抑うつ症状が増しています。また、仕事の失業や家庭内の問題も影響しているようです。”

伝達
A:Assessment(評価)

自殺の危険から見た評価
例: “患者さんの自殺の危険因子は高まっており、自殺企図や具体的な計画を立てている可能性があります。また、精神的な不安定さも見受けられます。”

伝達
R:Recommendation(提案)

今後、何が必要なのか事柄を伝える
例: “患者さんには即時の精神的なサポートが必要です。専門の精神科医と連絡をとり、可能な限り早急な評価と治療を始めるべきです。また、家族や支援ネットワークとも連携し、安全な環境を提供するようにしてください。”

自殺の危険度が高いときの情報提供

通常のカウンセリングなどの相談では本人の守秘義務を負います。しかし、自殺の危険が高いときは、例外として守秘の原則には従わないことです。そして、専門家や家族に連絡を取り、本人の安全を確保することになります。 しかし、自殺の危険の判断に迷うこともあります。その場合は 、複数の支援者や他機関との間で協議することや評価表を用いながら評価を行います。 そして、根拠を明らかにする際に、多くは過小評価になりがちであることにも注意をするべきです。
また、「自殺しない」の約束は、あまり意味のないものとして捉えられています。そのため、約束とするならば支援者側であり、例えば「自殺の危険があると思ったら、私ができるあらゆる手を使って自殺を防ごうとする努力を約束します」ということになります。

「自殺の危険が高いとき」に関する情報を整理

次の情報のアプローチは、自殺の危険性を適切に評価し、対応する上でのガイドラインとなります。情報の適切な共有と連携を通じて、本人の安全を確保する努力が求められます。

  • 守秘義務と例外
    • 通常の相談では守秘義務がありますが、自殺の危険が高い場合は守秘の原則には従わず、専門家や家族に連絡を取り、本人の安全を確保します。
  • 危険の判断の迷い
    • 危険の判断が迷う場合は、複数の支援者や他機関と協議し、評価表を使用して客観的な評価を行います。
    • 過小評価になりがちであることに注意し、慎重に判断します。
  • 「自殺しない」約束
    • 「自殺しない」の約束は意味がないとされます。
    • 代わりに、「自殺の危険があると思ったら、私ができるあらゆる手を使って自殺を防ごうとする努力を約束します」といった形で約束を求めます。

自殺に関連する心理的用語

自殺念慮 (Suicidal Ideation)

自分自身に対して自殺の考えを抱く状態を指します。これは単なる「自殺の思考」であり、実際の計画や行動には結びついていないことがあります。

  • 強い要素: 自殺念慮は自殺に対する考えや思いを指し、これは強い要素となります。自分や他者に対して自傷行為や自殺を考えることがあります。これは精神的な苦痛やストレス、感情の混乱などから生じます。
  • 動揺する要素: 強い要素が増幅され、動揺する要素が追加されると、自殺念慮はより深刻になります。例えば、孤立感、絶望感、悲嘆、人間関係の問題などが動揺を引き起こす可能性があります。
心理的視野狭窄 (Tunnel Vision)

自身の問題や苦痛に焦点を絞り、全体の状況や可能な解決策を見失う状態です。これは自殺の危険因子の一つとなります。

  • 強い要素: 心理的視野狭窄は、問題や状況を否定的な側面だけに焦点を当て、ポジティブな視点を見落とす状態です。これは自殺において強い要素となります。例えば、自分の問題が解決できないと感じ、将来に希望を見いだせない状態です。
  • 動揺する要素: 動揺する要素が加わると、心理的視野狭窄はより深刻になります。適切なサポートや認識の歪みを修正する手段が不足していると、視野狭窄が悪化する可能性があります。
焦燥感 (Agitation)

不安、興奮、不安定さといった感情が高まり、身体的・精神的な興奮状態にある状態を指します。焦燥感が高まると冷静な判断が難しくなり、自殺の危険性が増すことがあります。

  • 強い要素: 焦燥感は不安や興奮が高まり、身体的・精神的な不安定さを伴う状態です。自殺において、行動の加速や衝動的な行動のリスクが高まる要素となります。
  • 動揺する要素: 強い要素に加え、さらなるストレスや苦悩が増えると、焦燥感が動揺する要素として悪化します。焦燥感が高まると、自制が難しくなり、冷静な判断ができなくなる可能性があります。
無気力感 (Anergia)

活動やエネルギーの欠如感を指します。無気力感が強い場合、日常生活に対する関心やモチベーションが低下し、自殺の危険性が増します。

希死念慮 (Passive Suicidal Ideation)

自分が死ぬことを考えることですが、積極的な計画や行動には至らない状態を指します。具体的な手段や計画はありませんが、死ぬことに対する希望や願望がある場合があります。

解離症状 (Dissociation)

現実感の喪失や自分自身との疎外感など、意識と身体の分離が起こる状態を指します。解離症状が強い場合、自殺の危険性が高まります。

抑うつ感 (Depersonalization)

自分自身が現実とは別の世界にいるかのような感覚を経験することを指します。これは抑うつ障害に発展する可能性があり、自殺の危険因子の一部となります。

自殺の危険因子

自殺者と一般の人を比較して、自殺者の頻繁に見られる特定の要因や特徴です。例えば、精神疾患や病態、自殺未遂歴や自殺家族歴、重要人物の喪失体験などで、これらの危険因子は一般的に、自殺のリスクが高まる可能性を示唆します。

自殺の保護因子(防御因子)

自殺の危険性を減少させ、心理的な安定や回復を促進する要因やリソースです。例えば、子どもや家族への責任感、社会的繋がり、信仰心などで、これらの要因が存在することで、自らの苦悩や危機に対処しやすくなります。

自殺のサイン

自殺願望者は「死にたい」「生きたい」と、振り子のように心が揺れ動いています。そして普段と違う顕著な言動の変化で、家族や職場関係、友人などにいくつもの自殺のサインを出すことで気づいて欲しいと思っています。

自殺への認知の両価性

両価的な認知の状態にあります。つまり、死にたい気持ちと同時に生きたい気持ちが共存しています。

周産期の自殺問題
  • 周産期の自殺者の多くには精神科既往歴があることが多く、家庭内トラブルが関与していることがあります。
  • 妊婦期や出産後3ヶ月以内が自殺のリスクが高まる時期であり、この期間には適切なサポートが必要です。
  • パートナーとのトラブルが自殺の原因となることが多く、関係の修復やサポートが重要です。
無料相談窓口
  • 「こころといのちのホットライン」年中無休15時から22時30分 東京都自殺相談ダイヤル(0570-087478)lineアプリあり
  • 「東京自殺防止センター」年中無休夜8時から深夜2時30分まで(03-5286-9090)
  • #いのちSOS(特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク) 月曜日~日曜日00:00~24:00(毎日24時間) (0120-061-338)
  • いのちの電話(一般社団法人 日本いのちの電話連盟) 毎日16時から21時まで (03-6634-7830)
  • 「自殺予防ハンドブック」
    • 著者: 日本自殺予防協会
    • 発行社: 医学書院
  • 「生き抜く力」(小此木啓吾訳)
    • 著者: ジュリアス・シーガル
    • 発行社:日本実業出版社
  • 「自殺を考えたときに読む本」
    • 著者: 大西直宏
    • 発行社: KADOKAWA
  • 「自殺を考える人たちへ」
    • 著者: カール・M・トンプソン
    • 発行社: 新曜社
  • 「死にたい気持ちを乗り越えるための心理療法」
    • 著者: アレクサンダー・ロイン
    • 発行社: ナツメ社
  • 「自殺と向き合う 臨床的アプローチ」
    • 著者: ジョン・R・ジョーダン
    • 発行社: 金剛出版
  • 「心の病気の本」
    • 著者: 岩下志麻
    • 発行社: PHP研究所
  • 「臨床心理学の基礎」
    • 著者: ブルース・M・キャップス
    • 発行社: 医学書院
  • 「精神医学入門」
    • 著者: 大石清
    • 発行社: 南山堂
  • 「カウンセリングの基礎と技法」
    • 著者: E. L. カウンセリングセンター
    • 発行社: 医学書院
  • 「臨床心理士試験のための心理学基礎」
    • 著者: 神山尚子
    • 発行社: 医学書院
  • 「精神保健看護学」
    • 著者: 藤本昌子
    • 発行社: 医学書院
  • 「カウンセリング心理学」
    • 著者: グレゴリー・J・ニール、ロイド・ツォンディク
    • 発行社: 丸善
  • 警察庁自殺者数統計データWebサイト
  • 厚生労働省自殺の統計:各年の状況
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