20. 「ゴーレム効果」他人の低い予想や期待が自己評価も低下させる
ゴーレム効果(Golem Effect)
ゴーレム効果とは、他人の期待や評価が低いと、その人々のパフォーマンスや能力が低下する傾向を指します。つまり、他人からのネガティブな予想や期待が、個人の行動や自己評価に悪影響を及ぼす現象です。この効果は、自己成就予言の一形態と言えます。
例: 教師が特定の生徒を低い能力や成績の生徒だと予想し、その生徒に対する期待を低く持っている場合を考えてみます。その結果、教師の低い期待に影響を受けた生徒は、自己評価を下げ、努力する意欲が低下する可能性があります。このような状況において、生徒は教師の期待に合わせてパフォーマンスが低くなることがあります。これがゴーレム効果ということです。
ゴーレム効果は、他人からの評価や期待が個人の自己評価や行動に影響を与えることを示しています。他人の期待が高い場合はその逆である「ピグマリオン効果」(Pygmalion Effect)も存在します。教育や職場などの環境において、他人の期待や評価が人々の成果や能力に影響を与える可能性があることから、ゴーレム効果を理解し、意識的な評価や期待の形成に注意を払うことが重要です。
21. 「囚人のジレンマ・ゲーム」協力と裏切、安全のジレンマの実験
囚人のジレンマ(Prisoner’s Dilemma)
囚人のジレンマは、ゲーム理論における有名な問題であり、協力と競争の間のジレンマを説明するために使用されます。このゲームは、協力するか競争するかを選択する2人のプレイヤーの戦略的な決定を模倣したもので、その結果によって報酬や罰が与えられるという基本的な構造を持たせて実験しています。
解説:2人の重罪の犯罪者が逮捕され、それぞれが警察に自白(協力)するか黙秘(裏切)にするかを決める場面を考えます。次のような選択肢が与えられました。
- 両者が自白(警察への協力・相手との協調)すれば、どちらも軽い罪状2年の懲役で有罪判決を受ける選択肢が与えられました。
- どちらかが黙秘(警察への競争・相手への裏切)すると黙秘した囚人は懲役は免れますが、自白(警察への協力・相手との協調)したもう一方は10年の重い罪状で有罪判決を受ける選択肢が与えられました。
- 両者が黙秘すると5年の中間の罪状で有罪判決を受ける選択肢が与えられました。
ゲームの概要: 2人の囚人、AとBがいるとします。それぞれが自白(警察への協力・相手との協調)するか黙秘(警察と競争・相手への裏切)するかを選択します。次に報酬と罰(懲役年数)の組み合わせを示します。
囚人のジレンマ 相手を信じるか?裏切るか? 安全を守るのか? | 囚人B | ||
自白(協力・協調) | 黙秘(競争・裏切) | ||
囚人A | 自白(協力・協調) | A懲役 2年・B懲役 2年 | A懲役10年・B懲役 0年 |
黙秘(競争・裏切) | A懲役 0年・B懲役10年 | A懲役 5年・B懲役 5年 |
- AとBが自白(相手との協調):A・Bお互いに懲役2年
- Aが黙秘(相手への裏切)でBが自白(相手との協調)の場合:Aが懲役10年、Bが懲役0年出所
- Aが自白(相手との協調)でBが黙秘(相手への裏切)の場合:Aが懲役0年出所、Bが懲役10年
- AとBが黙秘(相手への裏切):A・Bお互いに懲役5年
結果:A・Bとも黙秘で懲役5年の中間の罪状で有罪判決を受けることになります。
相手と自分を考えた選択である両者とも自白することは、両者とも軽い2年の罪状になります。ただし、一方が自白し、一方が黙秘の場合には黙秘した囚人は罪から免れますが、自白(協調)した側は一方が黙秘したことにより、重い罪状の10年の懲役となってしまいます。いずれにしろ黙秘を選ぶと自分は出所か、最悪の10年は免れ5年になります。そこで、考えることは個人の最悪のリスクを避け両者とも黙秘(相手を裏切る選択)することで自分の安全を選んだことになります。
囚人のジレンマは、協力(協調)と裏切(競争)の間、そして安全がもたらすジレンマを説明し、一見合理的な選択があるにもかかわらず、個人の最善の選択が全体の最善とは限らない場合を示唆します。このゲームは、社会的協力や競争の複雑さを理解する上で有用なモデルとされています。
22. 「初頭効果」最初の情報が記憶に残りやすい
初頭効果(Primacy Effect)
初頭効果とは、情報を一度に複数提示された場合に、最初に提示された情報がより強く記憶され、後に提示される情報よりも影響を与える現象を指します。つまり、最初の情報が後に続く情報に比べて記憶に残りやすいという効果です。初頭効果は、情報処理や記憶のメカニズムを理解する上で重要です。
例: ある人に対して、ある特定の項目に関する情報をリストで提示します。その後、他の項目に関する情報が続きます。この場合に最初に提示された項目が、後に続く項目よりも記憶に残りやすい傾向があるのが初頭効果です。例えば、商品の特徴をリストアップしている広告において、最初に示されている商品の特徴が強く印象付けられる可能性が大となります。
初頭効果は、情報処理において最初の情報が注意を引きやすいことや、記憶に残りやすいことを示しています。この効果は、広告、プレゼンテーション、教育などのコミュニケーションにおいて、情報の提示順序を工夫する際に考慮されることがあります。
23. 「心理的拘泥現象」自己概念は変化し難い
心理的拘泥現象(Psychological Entrenchment)
心理的拘泥現象とは、過去の信念や意見に執着し、それらを変えることを難しく感じる心理的な現象を指します。この現象は、一度形成された信念や意見が個人のアイデンティティや自己概念に結びついているため、新しい情報や証拠が提供されてもそれに変化することが難しいことが特徴です。
例: ある人が特定の政治的信念を持っており、その信念が個人のアイデンティティと結びついている場合、その人にとってはその信念を変えることは難しくなります。例え、政治の新しい情報やデータが提供されたとしても、その信念は過去の経験や環境と密接に結びついているため、変更を受け入れることが難しくなります。
心理的拘泥現象は、認知的なバイアスや確証バイアスと関連があります。人々は自分の信念や意見を強化し、それに反する情報を排除する傾向があるため、新たな視点や意見に対して思考を閉じてしまうことがあります。この現象が存在するため、新しいアイデアや情報を受け入れるためには、オープンマインドで柔軟な姿勢を持つことが重要です。
24. 「心理的リアクタンス」制限や強制的な要求に反発する
心理的リアクタンス(Psychological Reactance)
心理的リアクタンスとは、人々が自分の自由や選択が制限されると、その制限に反抗し、逆にその行動や選択を強化する傾向を指します。つまり、人々は制約や強制に対して反発し、自分の意志や自由を守ろうとする心理的反応が生じるという現象です。心理的リアクタンスは、人々の自己決定感や自己主張に関連する重要な概念です。
例:親が子供に対して特定の行動を禁止すると、子供は逆にその行動に興味を持ち、禁止された行動を試みることがあります。これらの例は、心理的リアクタンスが働いている典型的な状況です。
心理的リアクタンスは、人々の自己決定感や選択の自由に関する重要な原則を強調しています。制限や強制的な要求が行われると、その自由を守るために反発することがあります。この現象を理解することで、コミュニケーション戦略やマーケティング戦略の適切な設計が求められます。
ジャック・W・ブレーム(Jack W. Brehm1928–2009)の心理的リアクタンス理論
25. 「スタンフォード監獄実験」役割や環境に影響されて行動する
スタンフォード監獄実験(Stanford Prison Experiment)
スタンフォード監獄実験は、1971年にアメリカの心理学者フィリップ・ジメノが行った社会心理学の実験です。この実験は、人々が与えられた役割や環境によってどのように行動するかを調査するために行われました。しかし、実験が過度に暴力的な状況を再現し、倫理的問題が生じたことで議論を巻き起こしました。
実験の概要: スタンフォード大学の地下に仮想の刑務所を設置し、学生ボランティアを「囚人」と「看守」に分けて参加させました。最初は平和的な状況を想定していたものの、実験は急速に暴力的な状況に変化しました。看守役の学生たちは、与えられた権限を乱用し、囚人役の学生たちを虐待したり屈辱したりする行動をとりました。
実験は予定されていた2週間で中断されました。実験参加者のうち、多くの学生たちが役割に没入し、現実との区別が曖昧になるなど、精神的・感情的な影響を受けたとされています。
影響: スタンフォード監獄実験は、人々が特定の役割や環境に影響されて行動する可能性を示した重要な研究とされています。しかし、実験が過度に暴力的な状況を再現したことや、被験者の安全や倫理的懸念が無視されたことから、実験の倫理的問題に対する批判が多くあります。
スタンフォード監獄実験は、倫理的な問題を考慮に入れながら、人々の行動が環境や役割によってどのように変化するかを理解する上での重要な教訓を提供しています。
26. 「ストループ効果」文字の意味と色の情報が異なると認識遅延になる
ストループ効果とは、人々がその単語の意味に対応する色の情報が異なる場合に、色の情報を正確に認識するのに時間がかかる現象を指します。つまり、文字の意味と色の情報が競合して処理されるため、正確な認識に時間がかかることがあるという効果です。
例: 実験の一例として、被験者に色のついた文字列(例えば「赤」「青」「緑」)を提示し、その色を言うように求めます。しかし、文字の意味と色の情報が競合する場合、被験者は反応時間が遅くなることがあります。例えば、「赤」という文字列が青色で表示された場合、被験者は本来の色(青)を正確に認識するまでに時間がかかることがあります。
ストループ効果は、情報の処理における注意や認知の競合に関する重要な示唆を提供しています。この効果は、色や言葉の情報が異なる脳領域で処理されるために生じると考えられており、心理学の実験や研究で広く用いられています。ストループ効果は、人々が自動的に意味を処理し、それに基づいて正確な情報を抽出することの難しさを示しています。
27. 「スノッブ効果」特別なものに価値を見出す
スノッブ効果(Snob Effect)
スノッブ効果とは、人々が一般的な人気や一般的な選択肢に反対して、特に高級な、希少な、または他の人々とは異なる選択肢を好む傾向を指します。つまり、他とは違うものや特別なものに価値を見出す心理現象です。スノッブ効果は、他の人々との差別化や自己表現の一形態として起こることがあります。
例: スノッブ効果の一例は、高級ブランドや限定商品への需要の増加です。人々は高級なブランドや限定商品を選ぶことで、自分のステータスや個性を表現しようとします。これは他人との差別化や、自分を特別な存在と感じる欲求が影響していると言えます。
スノッブ効果は、消費行動や商品選択に関連する心理現象として、マーケティングや広告の分野で重要視されています。高級ブランドや限定商品は、スノッブ効果を活用して、一般的な選択肢とは異なる価値や魅力を提供することを試みることがあります。
28. 「スポットライト効果」自己への注目が実際よりも大きく感じてしまう
スポットライト効果(Spotlight Effect)
スポットライト効果とは、他人から見られる自分の行動や立ち振る舞いの注目や評価が実際よりも大きいと感じる傾向を指します。つまり、自分が他人からどれだけ注目されているかを過大評価することがあり、その影響によって過度に緊張したり、自己評価が低下したりすることがあるという現象です。
例: 集まりやパーティーに参加する際、自分の服装や行動、話し方などについて過度に気にすることがあります。しかし、実際のところ、他の人々は自分に対してあまり注目していないことが多いのが現実です。スポットライト効果が働いて、自分が注目されていると感じるため、些細なことでも過度に気にすることがあるのです。
スポットライト効果は、社会心理学や自己認識の分野で研究されています。この効果により、人々は他人からの視線や評価に対して過敏になり、自己評価や自尊心に影響を与えることがあります。自己中心的な視点や他人の視線を気にしすぎることを避け、客観的な視点で自己評価を行うことが重要とされています。
29.「スリーパー効果」 時間の経過とともに影響を高める
スリーパー効果(Sleeper Effect)
スリーパー効果とは、最初は影響が少なく見える情報やメッセージが、時間の経過とともに影響を高める現象を指します。つまり、最初は信憑性や影響力が低い情報でも、忘れられた後にその情報が徐々に影響を与えるという効果です。この効果は情報の認知と評価のプロセスに関連しています。
例: ある広告を最初に見たときには印象的でなく、他の情報との競合では劣っていたように見えていました。しかし、時間の経過とともにその広告のメッセージが徐々に浸透し、最初の印象や評価を変えることがあります。このように、初めは影響が低いように見える情報でも、後には意外な影響をもたらすことがあるのがスリーパー効果です。
スリーパー効果は、情報の影響が時間とともに変化することを示しています。特に、情報の発信者や信憑性、コンテキストなどが影響を与える要因となります。この効果を理解することで、情報の効果的な伝達や影響を高めるためには、時間の経過を考慮して戦略を構築することが重要です。