「ステップ2:過去に意識を向ける」
「ステップ2:過去に意識を向ける」は、クライエントが過去の出来事や経験に穏やかにアクセスし、それを観察するプロセスです。このステップの目的は、過去をただ思い出すだけでなく、その出来事が現在にどのような影響を与えているかを柔軟な視点で理解することです。
目的
- 過去の出来事を具体的に思い出し、それを観察する。
- 過去に対する感情を特定し、それを受け入れる。
- 過去と現在の自己のつながりを認識する準備を整える。
STEP1
安全な環境の確保
- クライエントが過去に意識を向ける際、安心感を持てる環境を作ります。
- 例:深呼吸や瞑想を行い、リラックスした状態を保つ。
- 確認:「このプロセスを進めても大丈夫ですか?少し不安があれば教えてください。」
STEP2
過去の出来事を具体的に思い出す
- クライエントが特定の記憶や経験に意識を向ける手助けをします。
- 指示例:「心に残っている過去の出来事の中で、特に印象深いものを思い浮かべてみてください。その場面で何が起こり、どんな感情を感じたか、できるだけ具体的に思い出してみましょう。」
- ポイント:
- 時期や年齢を特定する質問をすると具体的になりやすいです。
- 「いつ頃の出来事でしたか?」
- 「そのときどこにいましたか?」
- 「誰が一緒にいましたか?」
- 時期や年齢を特定する質問をすると具体的になりやすいです。
STEP3
感情や身体感覚に注意を向ける
- 過去を思い出す中で生じる感情や身体感覚を観察します。
- 指示例:「その出来事を思い出すと、どんな感情が浮かんできますか?そのいくつかの感情の強弱も感じてみてください。また、身体に何か反応があるなら教えてください。」
- ポイント:
- 怒り、悲しみ、不安、喜びなど、感情の種類を特定する。
- 身体感覚(胸の圧迫感、手の震えなど)にも注意を向ける。
STEP4
できるだけ評価を控える
- クライエントが過去の出来事を評価せずに観察することを促します。
- 指示例:「その出来事について、良い・悪いと判断する必要はありません。ただ、その出来事があったことを認識し、どのような影響を受けたのかを静かに見てみましょう。」
STEP5
自己と過去の分離を試みる
- クライエントが過去の自己と現在の自己を分けて考えられるようにします。
- 指示例:「そのときの自分を、今の自分が優しく見守っているようなイメージを持ってください。その出来事を体験している過去の自分に何か言葉をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?」
質問例
過去を掘り下げるために、以下のような質問を使います。
- 「その出来事が起きたとき、何を考えていましたか?」
- 「その場面ではどんな感情が中心的でしたか?」
- 「その出来事が今のあなたにどのような影響を与えていると思いますか?」
エクササイズ後の確認
過去に意識を向けた後は、クライエントがどのように感じたかを確認します。
- 質問例:
- 「過去を振り返った後、どのような感情が残っていますか?」
- 「今の自分にとって、その出来事はどんな意味がありますか?」
注意点
- トラウマの扱いに注意
- 過去の記憶がトラウマである場合、クライエントが過度に感情的にならないよう、セラピストの慎重なサポートが必要です。
- 必要に応じて、回想を途中で中断し、リラクゼーションに戻す。
- 適切なペースを保つ
- クライエントが過去の記憶に圧倒されることがないよう、無理のないペースで進めます。
- 安全な着地点を用意する
- エクササイズの最後に必ず現在に意識を戻し、安定した状態に戻します。
- 指示例:「今、もう一度深呼吸をして、現在の自分に意識を戻してみましょう。ここにいる自分に集中してください。」
このステップの効果
- クライエントが過去の出来事を新しい視点で理解できるようになります。
- 感情を受け入れ、過去に縛られずに今後に目を向ける準備を整えます。
- 観察者の視点を取り入れることで、過去の自己と現在の自己を柔軟に分離し、より客観的な理解を得られます。
「ステップ2:過去に意識を向ける」の具体的なセッション
セッションの目的
- クライエントが過去の出来事や体験に対する意識を深め、自分の感情や行動にどのような影響を与えているのかを理解する。
- 安全な環境で過去を振り返ることで、感情を整理し、現在とのつながりを探る。
セラピストとクライエントの具体的な会話例
1. セッションの導入
セラピスト:
「今日は、過去の出来事に焦点を当ててみましょう。過去の体験を振り返ることで、現在の感情や行動にどのような影響を与えているのか、一緒に探ってみたいと思います。まず、リラックスした状態で始めましょう。」
(セラピストがリラクゼーションや呼吸法をガイドし、クライエントが安心感を得られるようにします。)
2. 過去の具体的な体験を掘り下げる
セラピスト:
「あなたにとって、印象的だった過去の出来事について、1つ話していただけますか?その出来事が特に記憶に残っている理由や、どんな感情が湧いてきたのかを思い出せる範囲で構いません。」
クライエント:
「中学生の頃、親友だと思っていた人に突然無視されるようになった経験が忘れられません。そのときは何が起こったのかわからず、とても混乱していました。」
セラピスト:
「その出来事は、あなたにとって大きな衝撃だったんですね。その時、具体的にはどのような感情を抱きましたか?」
クライエント:
「とても悲しくて、同時に怒りや恥ずかしさも感じました。自分に何か悪いところがあったのかと考えていました。」
3. 感情を深掘りする
セラピスト:
「その悲しみや怒り、恥ずかしさをもう少し詳しく教えてもらえますか?どの感情が特に強かったと思いますか?」
クライエント:
「おそらく悲しみが一番強かったです。でも、怒りもありました。『なぜこんな仕打ちを受けるのか』という気持ちが湧いてきました。」
セラピスト:
「その怒りや悲しみを感じていたとき、どんなことを考えていたか覚えていますか?」
クライエント:
「『自分は友達にとってどうでもいい存在なんだ』と思っていました。」
4. 過去と現在のつながりを探る
セラピスト:
「そのときの『自分はどうでもいい存在』という思いは、現在のあなたの人間関係や感情にどのように影響していると思いますか?」
クライエント:
「今でも、新しい人間関係を築くのが怖いです。いつまた同じことが起こるのかと思うと、心を開くのが難しいんです。」
セラピスト:
「その感情を振り返ることで、過去の出来事が現在の行動に影響を与えていることに気づきましたね。この気づきはとても重要です。」
5. 安全な感情の整理
セラピスト:
「その頃の自分に、もし今のあなたが声をかけられるとしたら、どんな言葉をかけてあげたいですか?」
クライエント:
「『君が悪いわけじゃない』と言いたいです。そして、『ちゃんと君を理解してくれる人がいるから、諦めないで』と言いたいです。」
セラピスト:
「それは素敵な言葉ですね。その言葉を過去の自分に届けたイメージを持ちながら、少し深呼吸してみましょう。」
セッションの締めくくり
セラピスト:
「今日は過去を振り返りながら、大切な気づきがありましたね。この体験を振り返ったことで、何か感じたことや考えたことがあれば教えてください。」
クライエント:
「過去の出来事が今に影響を与えていることを理解できて、少し心が軽くなった気がします。でも、まだ怖さも残っています。」
セラピスト:
「その怖さも自然な感情です。今日はここまでにして、必要に応じて次回またこのテーマを探求しましょう。自分のペースで進めていけば大丈夫です。」
ポイント
- 安全な環境を提供する
過去を振り返る際には、クライエントが安心感を持てるように配慮します。 - 感情を具体的に言語化させる
感情や体験を言葉で表現することで、自己理解が深まります。 - 現在とのつながりを探る
過去の出来事が現在にどう影響しているのかを明確にすることで、変化の可能性を見出します。 - 肯定的な視点を強調する
クライエントが自分の過去の体験に対して温かい視点を持てるようサポートします。
このセッションスタイルは、過去に焦点を当てながらも、クライエントの負担を軽減し、自己洞察を深める効果的な方法です。