
呼吸法と心理療法の関係
呼吸法は心理療法の要とも言われており、多くの人が関心を持つ分野ですが、実践は奥が深く、単なるリラックス技法にとどまらないほどの影響を持っています。その難しさの一因は、呼吸法には多くの種類があり、それぞれが異なる生理的・心理的作用をもたらすことにあります。
心理療法では、最終的に思考や感情のコントロールを重視しますが、呼吸を意識的に調整することで、思考・感情・身体症状・行動に直接的な影響を及ぼすことが可能です。これは、単に気分を整えるだけでなく、行動の活性化や心の安定にも寄与し、いわば気やエネルギーの調整にも関わる可能性があると考えられます。
呼吸と自律神経の関係
呼吸のリズムを変化させることで、自律神経のバランスを調整できます。
- ゆっくりと深い呼吸 を行うと、心拍数が低下し、副交感神経が優位になります。これにより心がリラックスし、ストレスの軽減や安定した心理状態が促されます。
- 速く浅い呼吸 を行うと、心拍数が上昇し、交感神経が優位になります。これにより覚醒レベルが上がり、活動的になりますが、過度になると不安や興奮状態を引き起こすこともあります。
呼吸と神経伝達物質の関与
呼吸法は、神経伝達物質の分泌にも影響を及ぼします。
- 幸福感を高めるホルモン
- セロトニン:安定した気分をもたらす
- オキシトシン:安心感や信頼感を高める
- エンドルフィン:痛みを和らげ、幸福感を高める
- 興奮やストレスに関与するホルモン
- ノルアドレナリン:注意力を高め、覚醒状態を維持
- グルタミン酸:興奮性神経伝達を促進し、学習や記憶を向上
呼吸法を適切に活用することで、これらの神経伝達物質のバランスを整え、心の安定やストレス耐性を向上させることが可能になります。
呼吸と脳波の変化
瞑想や深い呼吸法を実践することで、脳波にも変化が生じることが研究で示唆されています。
- β波:13-36Hz(覚醒・集中):忙しい状態や緊張時に優位になる
- Loβ波:15-18Hzは集中状態、Hiβ波:23-36Hzは緊張状態
- α波:8-12Hz(リラックス・集中):心が落ち着き、ストレスが軽減される
- Loα波:8-10Hzはリラックス状態、Hiα波:10-12Hzはリラックスにやや集中がともなった状態
- シータ波:4-7Hz(瞑想・創造性):深いリラックス状態や瞑想時、または変性意識状態(意識はある程度保たれたまま外部刺激に敏感になり、内面の想像力や感覚が活性化するような催眠状態)に見られる
- デルタ波:1-3HZ(深い睡眠):睡眠、または熟睡時に現れる
適切な呼吸法を活用することで、これらの脳波の変化をコントロールし、心身の調整を図ることができます。
日常生活への応用
呼吸法は、日常生活に簡単に取り入れることができます。
- ストレスを感じた時 → 深呼吸や腹式呼吸を行う
- 集中力を高めたい時 → やや早めの呼吸を意識する
- 寝る前やリラックスしたい時 → ゆっくりと長い呼吸を行う
- 瞑想やマインドフルネスと併用 → 心の安定や自己認識の向上
このように、呼吸法は心理療法において欠かせない要素であり、正しく実践することで、心と身体の健康を総合的に向上させることができます。

完全呼吸法
完全呼吸法(フルブレス)/ディルガ呼吸法とは、腹式呼吸・胸式呼吸・鎖骨(肩)呼吸を組み合わせた深い呼吸法です。この呼吸法を実践すると、肺全体を最大限に活用し、酸素を効率よく体内に取り入れることができます。ヨガや瞑想、リラクゼーション、発声練習などにも活用され、心身の安定や自律神経の調整に効果的です。
完全呼吸法の基本的な流れ
完全呼吸法は、腹式呼吸 → 胸式呼吸 → 鎖骨呼吸の順に息を吸い、同じ順序で息を吐く方法です。次の手順で実践します。
- 姿勢を整える
・座る場合は、背筋を伸ばし、肩の力を抜き、リラックスする。
・寝る場合は、仰向けで全身の力を抜く。
・手はお腹と胸に軽く添える(呼吸の動きを感じやすくするため)。 - 意識を呼吸に向ける
・口を軽く閉じ、鼻呼吸を意識する。
・できるだけゆっくり、深い呼吸を行う。
- 腹式呼吸(腹部:横隔膜):鼻で吸う
- 息を吸う:鼻からゆっくり息を吸い、お腹を膨らませる(横隔膜を下げる)。
- 意識する点:
・胸や肩は動かさず、腹部の動きに集中する。
・丹田(へその少し下)を意識すると、深い呼吸がしやすい。
- 胸式呼吸(胸部:肋骨/胸郭):続けて鼻で吸う
- 息を吸う:お腹を膨らませた後、さらに息を吸い、肋骨を広げるように胸を膨らませる。
- 意識する点:
・お腹の動きに続いて、胸の動きを意識する。
・肩をすくめないように注意する。
- 鎖骨呼吸(鎖骨部:鎖骨):続けて鼻で吸う
- 息を吸う:胸が膨らんだ後、さらに息を吸い、鎖骨の周辺を持ち上げるようにする。
- 意識する点:
・肺の上部まで空気を入れるイメージで行う。
・肩の力を抜いて、無理に持ち上げすぎない。
- 腹式呼吸(腹部:横隔膜):鼻で吐く
- 息を吐く:鼻(または口)からゆっくり息を吐き、お腹をへこませる(横隔膜を上げる)。
- 胸式呼吸(胸部:肋骨/胸郭):続けて鼻で吐く
- 息を吐く:胸を縮めるように息を吐き、肋骨を元の位置に戻す。
- 鎖骨呼吸(鎖骨部:鎖骨):続けて鼻で吐く
- 息を吐く:鎖骨を下げるようにゆっくり息を吐く。
- 鼻から息を吸う(4〜6秒かけて腹→胸→鎖骨の順に膨らませる)。
- 一瞬息を止める(1~2秒ほど)。
- 鼻(または口)から息を吐く(6〜8秒かけて鎖骨→胸→腹の順にゆっくりしぼませる)。
- 繰り返す
目安の時間
- 吸う時間:4〜6秒
- 止める時間:1~2秒
- 吐く時間:6~8秒
- 5~10分程度の練習を推奨
- おすすめの練習呼吸時間
- 横隔膜への吸う時間:3秒
- 肋骨への吸う時間:2秒
- 鎖骨への吸う時間1秒
- 止める時間:1秒
- 吐く時間:8秒
完全呼吸法の効果
- 自律神経を整える(リラックス・ストレス軽減)
- 酸素供給量の増加(疲労回復・集中力向上)
- 横隔膜の強化(発声力アップ・内臓機能の活性化)
- 呼吸の浅さを改善(不安感の軽減・睡眠の質向上)
分解呼吸法(完全呼吸法の練習)
分解呼吸法/セクショナル・ブリージングとは、「完全呼吸法」をマスターするために、呼吸の各段階(腹式・胸式・鎖骨式)を個別に鍛える練習法です。
完全呼吸法では、腹部 → 胸部 → 鎖骨部の順に空気を取り込みますが、最初からスムーズに行うのは難しいため、分解して練習することで各呼吸の動きを明確にし、コントロールできるようになります。
分解呼吸法の実践方法
3ステップで練習し、各呼吸法をしっかり身につけた後、完全呼吸法に統合します。
目的:横隔膜を鍛え、深い呼吸の基礎を作る。
練習ポイント:
- 初めは手でお腹の動きを確認しながら行う。
- 吐くときに完全に息を吐き切ると、より効果的。
- 姿勢を整える(座位または仰向け)
- 手をお腹に当て、鼻からゆっくり息を吸う
- お腹を膨らませる(横隔膜が下がるのを感じる)
- 胸や肩は動かさない
- ゆっくり息を吐く(鼻または口)
- お腹をへこませる(横隔膜を上げる)
- 呼吸のリズムを一定にする(吸4秒・吐6~8秒)
- 呼吸リズムの練習
- 吸4秒・止2秒・吐6秒・止2秒の繰り返し
目的:肋骨を広げ、肺の中部までしっかり使う練習。
練習ポイント:
- 手を肋骨に当て、吸うときに肋骨が外に広がるのを感じる。
- 胸を意識することで、横隔膜の動きとは別に胸を広げる感覚をつかむ。
- 手を両脇に当てる(肋骨を感じる位置)
- 鼻から息を吸い、肋骨を広げるように胸を膨らませる
- お腹の動きは意識せず、胸部だけを動かす
- 肩をすくめず、胸だけが広がる感覚を得る
- 息を吐きながら胸をしぼませる(肋骨を閉じるように)
- ゆっくりとしたリズムで繰り返す(吸4秒・吐6~8秒)
- 呼吸リズムの練習
- 吸4秒・止2秒・吐6秒・止2秒の繰り返し
目的:肺の上部まで空気を入れ、浅い呼吸のコントロールを強化する。
練習ポイント:
- 初めは動きが小さいため、意識的に鎖骨周辺の微細な変化を感じる。
- 吸うときに肩がすくまないよう注意する。
- 手を鎖骨のあたりに軽く添える
- 鼻から息を吸い、鎖骨を持ち上げるように胸の上部を膨らませる
- お腹や胸を動かさず、肩と鎖骨の周辺だけを意識
- 息を吐きながら、鎖骨をゆっくり下げる
- 吸う・吐くのリズムを一定にする(吸4秒・吐6~8秒)
- 呼吸リズムの練習
- 吸4秒・止2秒・吐6秒・止2秒の繰り返し
1つずつの呼吸をコントロールできるようになったら、統合練習を行う。
統合練習の流れ(8カウント)
- 腹式呼吸 (3秒)→ 胸式呼吸(3秒) → 鎖骨呼吸(2秒)の順に息を吸う
- 1~2秒キープ(吸い切った感覚を味わう)
- 鎖骨 → 胸 → 腹の順(8秒)にゆっくり息を吐く
- 自然な呼吸に戻し、繰り返す

ブラーマリー呼吸法(蜂の羽呼吸)の実践ガイド
ブラーマリー呼吸法(Bhramari Pranayama)は、「蜂の羽音」のようなハミング音(ブーンという音)を発しながら行う呼吸法です。
この呼吸法は、副交感神経を活性化し、ストレスを軽減し、心を落ち着かせる効果があります。
特に、不安や緊張、イライラを感じるときに有効で、ヨガや瞑想の前後にも推奨されるテクニックです。
ブラーマリー呼吸法の効果
- ストレス・不安の軽減(副交感神経を活性化)
- 心を落ち着かせ、リラックス状態を作る
- 集中力アップ(脳の過剰な興奮を抑える)
- 不眠症の改善(寝る前の実践が効果的)
- 高血圧の抑制(血圧を安定させる)
- 静かな場所で、あぐら(パドマ・アーサナ)または椅子に座る
- 背筋を伸ばし、肩の力を抜く
- 目を閉じ、リラックスする
- 両手の親指を耳の穴に当て、軽く押さえる
- 他の指は額や目元に添える(以下の3パターンのいずれか)
- 人差し指を眉の上、中指を瞼、薬指を鼻の横に軽く添える(シャンムキムドラ)
- 手のひらを頬に添える
- 指は使わず、そのまま目を閉じる(初心者向け)
- 鼻から深く息を吸い込む
- お腹(横隔膜)を膨らませるように、腹式呼吸を意識
- 口を閉じたまま、ハミングするように「ブーーーン」と長く吐く
- 低めの音で行うと、胸に振動を感じやすい
- のどや唇ではなく、鼻の奥が共鳴するように意識
- 鼻腔と頭部に響く音を意識する(骨伝導のような振動を感じる)
- 音を出しながらゆっくり息を吐き切る
- 息の長さの目安:6~10秒
- 肺の空気をすべて吐き出すイメージ
- 吐く息を長くするほどリラックス効果が高まる(無理に長くしない)
- 目を閉じることで、内面に集中しやすくなる
- 肩の力を抜き、首や顔の筋肉をリラックスさせる
- 自然な呼吸に戻し、数秒休む
- 5~10回 繰り返す(無理のない範囲で)
- 終了後、目を閉じたまま静かに座り、リラックスを味わう
ブラーマリー呼吸法は、音の振動を利用した呼吸法で、心を落ち着かせる効果が抜群です。
「ブーン」という音を意識しながら、ゆっくりと吐く呼吸を繰り返し、リラックスした深い静寂を体感しましょう。
カパラバティ呼吸法(頭すっきり浄化の呼吸)実践ガイド
カパラバティ(Kapālabhāti)とは、サンスクリット語で「カパラ=頭蓋」「バティ=輝く」という意味を持ち、脳を浄化し、頭をすっきりとクリアにする呼吸法です。
この呼吸法は、肺の奥に溜まった空気を浄化し、内臓を刺激しながらエネルギー(プラーナ)を活性化させます。
カパラバティ呼吸法の主な効果
- 脳の活性化・集中力向上
- 頭をスッキリさせる(脳への酸素供給UP)
- 呼吸器の強化(肺活量UP)
- 血行促進(冷え性やむくみ改善)
- 内臓のマッサージ(消化機能をサポート)
- デトックス効果(老廃物を排出)
カパラバティ呼吸法の実践方法
- あぐら(パドマ・アーサナ)や正座で座る
- 背筋を伸ばし、肩の力を抜く
- 手は膝の上に軽く置く(チン・ムドラなど)
- 目を閉じ、リラックスする
- まずはゆっくりと深呼吸(吸う・吐くを2~3回)
- 呼吸を落ち着かせることで、効果を高める
- 鼻から素早く息を「フッ!」と勢いよく吐く
- お腹を強く引き締める(腹筋を使って息を押し出すイメージ)
- 鼻腔から短く鋭い音が出るのが理想
- 吸う息は自然に任せる(意識的に吸わない)
- 吐くたびに自然に肺に空気が入るため、吸うことを意識しない
- リズミカルに「フッ!フッ!フッ!」と繰り返す
- 1秒に約1回のペースが目安(初心者は1秒に1回、慣れたら1秒に2回)
- 「吐くこと」だけを意識し、吸うことは自然に
- 腹筋を使って「フッ!」と強く吐く(胸ではなくお腹の動きに意識)
- 最初はゆっくり(1秒に1回)から始め、慣れたら速く
- 肩や顔に力を入れず、リラックスして行う
- 片鼻ずつ行うこともおすすめ
- 1セット30回(約30秒)を目安に行う
- 1~3セット行い、間に休息を入れる(30秒程度の普通の呼吸)
- 慣れてきたら、回数を増やす(最大100回程度)
- 朝の練習が最適(頭がスッキリし、一日の集中力UP)
- 1日5分程度(3セット×30回)から始める
- 瞑想やヨガの前に行うと効果的
- 最後に深く息を吸い、ゆっくりと吐く
- 目を閉じたまま、数十秒間リラックス
- 頭がスッキリと軽くなっているのを感じる
カパラバティ呼吸法は、頭をスッキリさせ、エネルギーを活性化させる強力な浄化法です。
「フッ!」と強く吐き、お腹を引き締めるリズミカルな呼吸を意識し、集中力UPやデトックスの効果を実感しましょう!
シータリー呼吸法 & シートカリー呼吸法実践ガイド
シータリー(Sitali)呼吸法とシートカリー(Sitkari)呼吸法は、体を冷却し、リラックスさせる効果があるヨガの呼吸法です。
特に、暑い時期やストレスによる興奮状態、心を落ち着かせたい時に効果的です。
シータリー呼吸法 | シートカリー呼吸法 |
舌を丸めて息を吸う | 歯を噛み合わせたまま息を吸う |
期待できる効果
- 体温を下げ、クールダウン(暑い時に最適)
- ストレス・イライラの軽減(心を落ち着ける)
- リラクゼーション効果(自律神経のバランス調整)
- 喉・口内の乾燥緩和
- 消化機能の向上
シータリー呼吸法(Sitali)の実践方法
- あぐら(パドマ・アーサナ)または正座で座る
- 背筋を伸ばし、肩の力を抜く
- 目を閉じてリラックス
- 舌を筒状に丸めて前に出す(できる範囲でOK)
- 舌を丸めるのが難しい人は「シートカリー呼吸法」を代用
- 舌を筒状にしたまま、ゆっくりと息を吸う(「スーッ」と音を立てる)
- 冷たい空気を感じながら肺に取り込む
- 口を閉じ、鼻からゆっくりと息を吐く
- 息を吐く際に、体の熱やストレスを手放すイメージを持つ
- 5〜10回繰り返す(約1〜3分)
シートカリー呼吸法(Sitkari)の実践方法
舌を丸めるのが難しい人は、シートカリー呼吸法を実践します。
- シータリーと同じく、背筋を伸ばして座る
- 上下の歯を軽く噛み合わせ、唇は軽く開いた状態にする
- 歯の隙間から息を「スーッ」と音を立てて吸い込む
- 冷たい空気を感じながら吸う
- 口を閉じ、鼻からゆっくりと息を吐く
- 身体の熱が放出される感覚を味わう
- 5〜10回繰り返す(約1〜3分)
シータリー・シートカリー呼吸法は、「体を冷やす」ヨガの呼吸法として、暑い季節やストレス解消に役立ちます。どちらも簡単にできるので、リラックスしたい時や暑さ対策として取り入れてみましょう!
その他の呼吸法
- 火の呼吸:バストリカ呼吸法
- ハート呼吸:ソーハム呼吸
- 勝利(征服)の呼吸:ウジャイ呼吸
- 交互片鼻孔呼吸:ナディ・ショーダナ
- 波のような呼吸(赤ちゃん呼吸)
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