服従スキーマへのアプローチと具体的なワーク
服従スキーマは、他者の欲求や期待に従わなければならない、さもないと罰や拒絶があるという信念を特徴とします。このスキーマを持つ人は、自分のニーズを無視し、過度に他者に従順であることが多く、その結果、抑圧された感情(特に怒り)が蓄積しやすくなります。
治療目標
- 自己主張スキルの向上
- 自分のニーズや意見を他者に伝える能力を高める。
- 健全な境界設定
- 他者との間に適切な境界を設け、自分を守るスキルを習得する。
- 抑圧された感情の認識と解放
- 特に怒りや不満といった抑圧された感情を健全に認識し、表現する方法を学ぶ。
- 服従の背景にある恐怖の克服
- 「罰を受ける」「見捨てられる」といった恐怖を克服し、自由な選択を可能にする。
- 非服従的行動の強化
- 他者の要求に対して適切に「ノー」と言い、自分の選択に自信を持てるようにする。
具体的なワークと技法
服従スキーマへのアプローチは、自己主張スキルや境界設定能力の向上、抑圧された感情の解放が中心となります。これにより、クライエントは自分のニーズを尊重しながら、他者との関係を築くことが可能になります。具体的なワークを継続的に実践することで、恐怖を克服し、自律的な行動を促進できます。
- 目的: 服従スキーマがどのように日常で働いているかを特定する。
- 内容
- 他者に従ったときの具体的な場面を書き出す。
- その場での感情、思考、結果を記録する。
- 課題例
- 「本日の自分の意見を抑えて他者に従った場面を書き出してください。それに対する感情やその場面の結果を振り返りましょう。」
- 目的: 他者への服従が引き起こす非合理的な信念を現実的な思考に置き換える。
- 内容
- 服従せざるを得ないと感じた思考を特定する。
- それを根拠に基づいて検証し、より現実的な解釈を導く。
- 例
- 古い思考:「自分の意見を言ったら嫌われる。」
- 新しい思考:「自分の意見を伝えることは、関係を深める手段の一つになるかもしれない。」
- 目的: 他者に対して健全に自己主張するスキルを育む。
- 内容
- 自己主張を妨げる恐怖や信念を探る。
- 簡単な自己主張から練習し、徐々にレベルを上げる。
- 課題例
- 「自分の意見を言う練習として、友人や家族に1日1回、自分の気持ちを伝えましょう。」
- 「簡単な『ノー』から始めてみてください。」
- 目的: 他者の要求や期待に対して健全な「境界」を設定する練習をする。
- 内容
- 自分がどのような場面で他者に譲りすぎているかを記録。
- それに対する具体的な行動計画を立てる。
- 課題例
- 「次に誰かがあなたに無理な要求をしてきたとき、具体的な理由とともに断ってみましょう。」
- 「自分が許容できる範囲と許容できない範囲をリストアップしてください。」
- 目的: 抑圧された感情を認識し、それを健全な形で表現する。
- 内容
- 感情を記録するジャーナリング(感情日記)。
- セラピストとの安全な環境で感情を表出する練習。
- 課題例
- 「過去1週間の間に感じた怒りや不満を記録してください。その場でそれをどう処理したかも書き添えましょう。」
- 「怒りを感じた場面を思い出し、セラピストの前でその感情を言葉にしてみましょう。」
- 目的: 服従しない選択がもたらす結果を体験し、恐怖を軽減する。
- 内容
- 小さな「ノー」の練習から始める。
- 実際の状況で非服従的行動を試し、その結果を振り返る。
- 課題例
- 「次回、誰かがあなたに時間外の仕事を頼んできたとき、丁寧に断ってみてください。」
- 「断った結果、相手の反応を記録し、それが自分の恐れたものとどう違ったか分析してください。」
- 目的: 服従スキーマの形成に影響した幼少期の経験を再解釈する。
- 内容
- 過去の経験を思い出し、その場面をイメージする。
- 現在の自分がその場面に入り、幼い自分を助けたり、代弁したりする。
- 例
- 「幼少期に自分の意見が無視された場面を思い出してください。そして、現在の自分がその場に現れて、幼い自分を励ましたり守ったりするイメージをしてみましょう。」
自分で取り組む自己ワーク
服従スキーマ(Subjugation)は、自分の感情やニーズを抑圧し、他者に従うことで人間関係の衝突を回避しようとするパターンが特徴です。このスキーマを持つクライエントは、怒りや無力感を抱えながらも自分の意見や欲求を表現するのが難しいと感じることが多くなります。日常生活の中で服従スキーマに取り組むための具体的な自己ワークです。
目的: 抑圧された感情やニーズに気づき、それを認める。
- ワーク: 感情・ニーズの記録
- 日々の出来事の中で、自分の感情や欲求を無視したと感じた場面を書き出します。
- 例: 「会議中に自分の意見を言わなかった」「家族の頼みに本当は断りたかったけれど受け入れた」。
- その場で感じた感情(例: 怒り、悲しみ、恐怖)と、本当はどうしたかったか(例: 自分の意見を言いたかった、断りたかった)を具体的に記録します。
- 感情やニーズを否定せず、「これは自分にとって大切なことだ」と自分に言い聞かせます。
- 日々の出来事の中で、自分の感情や欲求を無視したと感じた場面を書き出します。
ポイント
- 自分の内面に意識を向け、感情やニーズを無視しない習慣を育てます。
目的: 健全な人間関係を築くために、自分の限界や許容範囲を明確にする。
- ワーク: 境界線リスト
- 自分が「不快だ」「嫌だ」と感じる行為や要求をリストアップします。
- 例: 「休日に仕事の電話が来る」「頼まれたことを断れない」。
- それに対して、どう対処するかを具体的に考えます。
- 例: 「次回、仕事の電話が来たら『後で対応します』と言う」。
- 実践後の感想や結果を記録し、自分を褒めます。
- 自分が「不快だ」「嫌だ」と感じる行為や要求をリストアップします。
ポイント
- 境界線を守ることで、自己尊重感を育てることができます。
目的: 他者の要求に対して断ることへの抵抗を減らす。
- ワーク: 「ノー」のシミュレーション
- 日常生活で小さなお願いや要求に対して、勇気を持って断る練習をします。
- 例: 「今日は都合が悪いので無理です」「それについては別の方法を考えたいです」。
- 断る際の自分の感情(例: 罪悪感、不安)を記録し、どのように対応したかを振り返ります。
- 小さな成功体験を積み重ねることで、自信をつけます。
- 日常生活で小さなお願いや要求に対して、勇気を持って断る練習をします。
ポイント
- 自分の時間やエネルギーを守る感覚を育てます。
目的: 自分の意見や欲求を他者に適切に伝える方法を学ぶ。
- ワーク: Iメッセージの練習
- 感情を伴う場面で、以下の形式で自分の気持ちを伝える練習をします。
- 「私は○○と感じています。なぜなら△△だからです。だから□□をしてもらえると助かります」。
- 例: 「私は疲れを感じています。なぜなら最近家事が多いからです。だから少し分担を変えてもらえると助かります」。
- 実際に伝えた後の反応や、自分の気持ちの変化を記録します。
- 感情を伴う場面で、以下の形式で自分の気持ちを伝える練習をします。
ポイント
- 攻撃的ではなく、率直に気持ちを表現するスキルを磨きます。
目的: 他者優先の行動を減らし、自分自身を優先する練習をする。
- ワーク: 自分時間のスケジュール
- 毎日、少なくとも30分間は自分のためだけの時間を確保します。
- 例: 好きな本を読む、リラックスする、趣味を楽しむ。
- 他者からの依頼があっても、この時間だけは自分のために守ります。
- その時間に感じた満足感や気づきを記録します。
- 毎日、少なくとも30分間は自分のためだけの時間を確保します。
ポイント
- 自分を優先する習慣をつけることで、自己価値を高めます。
目的: 他者の期待に基づいた行動を減らし、自分の価値観に基づいて行動する。
- ワーク: 価値観リスト
- 自分にとって大切な価値観や信念(例: 誠実さ、自由、健康)を10個挙げます。
- その価値観に基づいて、日々の行動を振り返ります。
- 「今日は私の価値観である○○を実践できたか?」
- 他者の期待と自分の価値観が衝突した場合、自分の価値観を優先する選択を練習します。
ポイント
- 他者優先の行動から、自分の価値観を重視した行動への移行を促します。
目的: すべてを一人で抱え込まず、信頼できる人に助けを求める。
- ワーク: サポートネットワークの構築
- 信頼できる友人や家族、同僚をリストアップします。
- 小さなお願い(例: 「意見を聞かせてほしい」「助けてほしい」)から始めます。
- 助けを得た経験について感じたことを記録します。
ポイント
- 他者に頼ることで、人間関係のバランスが改善されます。
目的: 「他人に従わなければ愛されない」という信念を緩める。
- ワーク: 信念の再検証
- 「従わないと他人から否定される」といった思考を紙に書き出します。
- その信念に対する証拠と反証をリスト化します。
- 例: 証拠: 「過去に断ったとき相手が怒った」。
- 反証: 「別の友人は私が断っても理解してくれた」。
- 新しい信念(例: 「私は自分の意見を持ちながらも人間関係を築ける」)を考えます。
ポイント
- ネガティブな思考パターンを修正し、健全な視点を養います。
服従スキーマに対処する自己ワークでは、「自分を知る」「表現する」「守る」という3つのステップが重要です。これらのワークを通じて、クライエントは自分のニーズと感情を認識し、適切に自己主張する力を育てることができます。