33歳の女性からの怒りや発狂の相談
特にお酒を飲んでいる最中に気に入らないことがあると我慢できずに怒りを爆発してしまう。自分では、怒りなのか、不満なのか、不安なのかよくわからない状態でパートナーに発狂してしまう。相手に物を投げつけたり、暴力を振ったり、物を壊すことが止められななくなる。疲れて動けなくなるまで狂ったようになる。そのうちお酒が効いてきているのか知らない間に眠りにつくようだ。警察沙汰になったこともある。
父親は自分の気持ちを表現することに困難があり、不満があると感情的になり母親に暴力を振るっていたが、母親だけでは物足りないのか、私も幼少期には、体罰を幾度となく経験をしている。父親は、アルコール中毒なのかは確認できなかったが、毎晩のように多量のアルコールを摂取している姿しか見たことがない。
父親の怖さと辛さが常にあったせいか、小学生の時から学校では変わり者のように扱われ、会話する友達もできなく孤独を感じていた。中学生でも同じようなことが続き、リストカットで心を紛らわすようになっていた。
幼少期の虐待に対する考察
複雑性PTSD (C-PTSD)の可能性
幼少期の父親からの虐待や家庭内での暴力体験が、現在の感情反応や自己傷害行動に影響していることが示唆されます。複雑性PTSDでは、感情のコントロールが難しくなるほか、自己認識や他者との関係にも問題が生じやすくなります。
虐待を行う養育者には、過去のトラウマや未解決の心理的な問題が影響している場合が多く、これが子どもへの接し方や感情表現に影響を与えることがあります。養育者が自己中心的な価値観を形成し、自身の欲望やニーズを優先するようになったり、愛情表現が不適切になっていた可能性も考えられます。
また、養育者がうつ病やアルコール依存症、攻撃的な性格傾向などの精神的な問題を抱えていても、子どもへの対応に影響することがあります。
このように、感情調節障害やASD、ADHD、知的障害といった発達障害、さらに自らも幼少期に虐待を経験したことから、その影響が子育てに現れている場合もあります。加えて、養育者自身が、子どもに同じような苦しみを与えてしまうことへの罪悪感や不安に悩んでいたり、夫婦関係の不和や経済的な問題といった生活上のストレスを抱えていたことが考えられます。社会的に孤立し、支援が不足していた養育者が、自身の抱える問題によって愛情表現が制限され、子どもとの感情的な結びつきが築きにくくなっていた可能性もあります。
感情調節障害の可能性
幼少期からのトラウマや家庭環境の影響により、自分の感情を適切に把握したり、表現するスキルが十分に育っていない可能性があります。このため、怒りや不満の感情が爆発的に表出され、制御が難しくなっている可能性が考えられます。
感情調節障害の主な要因は、幼少期における養育者との不適切な関わりや虐待経験です。特に、養育者が共感や内省を通じて子どもの感情に寄り添い、それを適切に受け止めて反映する対応やフィードバックを受け入れられなかった場合に感情の認識や調整に必要なスキルを発達させる機会を失い、感情調節の困難さにつながることがあります。
本来であれば養育者が子どもの感情に名前をつけて理解を助けるはずの場面で、虐待などにより感情表現が抑圧されたり、誤った感情ラベルがつけられる経験は、子どもの感情認識を混乱させる要因になります。
例えば、子どもの泣く感情表現を汲むことがなく暴力を受けた場合「感情を表に出すと危険」と学習し、感情を抑え込む傾向が生まれてしまいます。
こうした体験は、軽度なストレスにも過剰に反応して圧倒される感覚や、逆に感情を麻痺させたり解離したりする状態に影響を及ぼします。このように幼少期に適切な感情のサポートが得られなかった場合、子どもは感情を自覚することや、それを保持し調整する力を発達させるのが難しくなり、成長後の感情調節障害につながることがあります。
アルコール依存や感情調節に対する影響
お酒を飲むことで感情の抑制が効かなくなる状況があるため、アルコールが怒りや攻撃性を引き起こす引き金となっている可能性が高いようです。アルコール依存のリスクも含め、飲酒のコントロールについても検討が必要です。
不安や怒りが内在化されていくと、否定的自己概念が強まり、結果として情緒不安定や不満の爆発といった「感情調節障害」の症状が引き起こされます。特に、飲酒で感情を麻痺させようとすることで、逆に暴力的な感情反応が激化するなど感情調節の問題が顕在化します。
また、幼少期に虐待経験がある場合、その記憶や感情的な葛藤が無意識に再現され、パートナーや子どもとの関係に過去の自分と父親の関係を投影し、意図せず「父親の継承とも言える生き写し」として、同じ行動パターンを繰り返してしまう「アクティングアウト(行動化)」が起こることがあります。さらに、心の中で切り離された矛盾や葛藤などが、無意識的にパートナーや子供の関係性の中に持ち込まれる「エナクトメント(実演や再演などの表現)」が起こることがあります。
感情不耐性がある人は、感情を抱えておくことが難しく、衝動的な行動や依存行動に頼ることで気分を調整しようとします。これには、アルコールや物質依存、自傷行為(リストカットなど)、浪費行動といった「気分解消行動」が含まれます。また、恥や自責の念から抑うつ状態に陥り、漠然とした不安や些細なことへの過剰なこだわりを持つようになる場合もあります。
感情不耐性の可能性
感情不耐は、特定の感情、特に否定的な感情を耐えることが難しい状態を指します。感情に対する耐性が低く、わずかな不快感でも強い不安やストレス反応を引き起こしやすい傾向があります。このように、感情不耐性がある人は、感情を抱えておくことが難しく、衝動的な行動や依存行動に頼ることで気分を調整しようとします。これには、アルコールや物質依存、自傷行為(リストカットなど)、浪費行動といった「気分解消行動」があります。また、恥や自責の念から抑うつ状態に陥り、漠然とした不安や些細なことへの過剰なこだわりを持つようになる場合もあります。
例えば、怒りを耐えることができず、すぐに大声で怒鳴ったり、ものを壊してしまう場合が考えられます。また、些細なことで強い不安を感じ、他人からの否定的なフィードバックに対して極度に傷つくこともあります。
感情調節障害における「感情不耐」と「自己攻撃状態」は、困難な感情の処理や対処がうまくいかないことで生じる特徴的な反応です。これらは、ストレスフルな状況や未処理の感情が高まったときに自己に対して厳しくなったり、感情を過剰に回避または過激に表現したりする傾向に結びつきます。
特徴
- 感情に対する過敏さ
- 不安、怒り、悲しみなどの負の感情に過度に反応し、通常よりも激しいストレスや苦痛を感じやすいです。
- 感情が発生するたびに、その強さや苦痛の大きさが増幅され、日常生活にも大きく影響します。
- 感情をコントロールできない感覚
- 感情を適切に調整する方法が見つからず、何度も強い不快感が湧き起こることで自己を無力に感じやすくなります。
- 感情があふれ出して対処しきれなくなることを避けるために、感情を閉じ込めたり、抑圧しようとするケースも見られます。
- 衝動的行動への傾向
- 感情不耐の状態にあると、衝動的に感情を表現したり、他者に攻撃的な行動をとる、自己破壊的な行動に走ることがあります。
自己攻撃状態の可能性
自己攻撃状態は、内的な感情の痛みや不快感を自分自身に向けてしまうことを指します。感情を外に表現することができず、自己を責める形で内に向けることが多く、精神的および身体的に自己に対する害を及ぼす可能性があります。
例えば、仕事でミスをした場合に、自分を「絶対に失敗してはいけない」と追い詰め、「無能だ」と自己攻撃することがあります。また、友人からの軽い注意に対しても、過剰に自責の念を感じ、自己価値を否定するような言葉を心の中で繰り返すことも見られます。
特徴
- 自己批判の激化
- 自分を責める思考が強くなり、失敗や欠点に対して過度に厳しい自己評価を行います。
- 自分に対して「無価値」「無能」などの極端な批判的表現を使うことが多くなります。
- 罪悪感と羞恥心の増幅
- 小さなミスや問題に対しても極端に罪悪感を感じたり、恥を感じやすくなり、それが自己否定の感覚に結びつきます。
- 自分が他人や社会に迷惑をかけていると感じ、価値がないと感じるケースも多くなります。
- 自己破壊的な行動の出現
- 感情の痛みやストレスを緩和するために自己に対して身体的な害を与える行動(たとえば、リストカットや過食、拒食など)に至ることもあります。
- 内的な苦痛を外に表現できずに、自分に向けてしまうことが原因です。
感情不耐と自己攻撃状態は密接に関連しています。耐えがたい感情が発生した際に、それを外部に表現することができずに自分に向けてしまうと、自己攻撃的な反応が出やすくなります。感情の耐性が低いために、否定的な感情が増幅され、自己否定の連鎖に陥りやすくなります。
心理教育の内容
怒りや不満の感情をより適切に表現するスキルを身につけることで、感情爆発の頻度が減り、ストレスの対処方法を増やすことが期待されます。また、必要に応じて専門的なトラウマ治療(EMDRやCPT)やアルコール依存に対するサポートも検討することになります。
- 感情の自己認識と言語化
「自分の気持ちを把握する能力に欠けている」と感じています。そのため、感情を意識的に認識し、言葉で表現するためのスキルを学ぶことが重要です。具体的には、日々の感情を記録する感情日記や、感情を数値化してみるといったアプローチが有効です。 - トリガーと反応の理解とコントロール
自身がどのような状況や言葉で強い感情反応を起こすのか、トリガーの特定が重要です。その後、反応を和らげるスキルとして、深呼吸や注意分散法、マインドフルネスなどを学ぶことで、感情が暴走する前に対処できる方法を身につける支援が考えられます。 - 幼少期のトラウマへの対応
幼少期のトラウマが現在の感情爆発の原因の一つと考えられるため、トラウマに関する心理教育も役立ちます。例えば、トラウマが脳と感情に与える影響について学ぶことや、フラッシュバックを和らげるための方法(例:エンプティチェアー、EMDR、CPT、曝露療法)も必要かもしれません。 - 自己傷害と自己肯定感の向上
自己傷害行為が再発していることから、自己傷害に対する心理教育も役立ちます。具体的には、自己傷害がどのように一時的な安心感をもたらすか、それが長期的には感情調整を妨げることを理解することです。また、自己肯定感を高め、感情を否定せず受け入れる方法を学ぶことも推奨されます。 - 飲酒習慣の見直しと依存の予防
アルコールが感情爆発のトリガーになっているため、飲酒の量や頻度、飲むタイミングなどを見直し、飲酒が引き金になる感情暴発を防ぐ心理教育が必要です。代替行動(例:リラクゼーション法や趣味の活動)を見つけ、飲酒以外でストレスを解消する方法も提案されます。 - コミュニケーションスキルの向上
自身の感情を上手に伝えるためのコミュニケーションスキルを学ぶことが、パートナーとの衝突を防ぐ手助けになります。特に、自己表現やアサーティブコミュニケーション(相手に対して自己主張をするが攻撃的ではないコミュニケーション)を学ぶと、互いに理解し合う関係性を築きやすくなります。
治療法と支援
- 認知行動療法(CBT)
認知の歪みや自己認識を改善し、感情に対処するスキルを学ぶことが目指されます。自己攻撃に繋がる考え方を再構築し、自己を受け入れ、肯定的に捉えられるよう支援します。 - マインドフルネス療法
感情の波を無理に抑えるのではなく、現在の状態を受け入れて感情に適切に向き合う訓練が行われます。 - 弁証法的行動療法(DBT)
感情調節を学び、自己破壊的な行動を抑制するためのスキルを養うことが目的です。マインドフルネスや感情認識スキルの習得が、複雑性PTSDや感情調節の困難に対して有効です。 - トラウマフォーカスド療法
複雑性PTSDに特化したアプローチとして、トラウマの記憶と向き合いながら安全な感情表現を学びます。これは感情調節機能の改善に重要です。 - 愛着に焦点を当てた治療
乳幼児期の愛着トラウマが原因である場合、愛着に関する問題を改善するアプローチが有効です。安全な関係を築く経験を通じて、感情調節のスキルが徐々に回復していきます。 - 感情の認識訓練
段階的に感情調節スキルを習得し、自分の感情を正確に認識することで、それが自分にどのような影響を与えているかを理解する支援を行います。
カウンセリングアプローチ
初回から数回のセッションを通して、クライエントの理解を深め、自己調整力の向上や感情コントロールの方法を学ぶことを目指します。セッションの一部の例を挙げます。
セラピストはクライエントとの信頼関係を築き、クライエントが自由に話せる安心感を提供します。さらに、女性の悩みの本質や生活への影響について具体的に理解していきます。
- セラピスト:「今日は、〇〇さんが感じているお悩みや不安について、少しずつお話しいただければと思います。無理に話さなくていいですので、心の準備ができたらで大丈夫ですよ。」
- クライエント:「最近、特にお酒を飲んでいる時にパートナーへの感情が抑えられなくなって…物を壊してしまうこともあって。怒りの感情が爆発してしまうんです。」
- セラピスト:「それはとても辛いですね。そのような感情が湧いてくる時、自分がどんなことを感じているか、少し一緒に探ってみましょうか。」
クライエントがどのような状況で強い感情が引き起こされるのか、特に「トリガー」となる出来事や相手の言動について、セラピストが共に整理します。
- セラピスト:「その強い感情が出てくる時に、何か共通して思い出すようなことや、引き金になる出来事がありますか?」
- クライエント:「そうですね…パートナーが無関心に感じたり、私の意見を無視された時に、幼少期の父がキレていた記憶が蘇るような気がします。」
- セラピスト:「そうですか。過去の体験と現在の出来事が重なる時に、特に強い反応が出てくるのかもしれませんね。このことを意識することで、少しずつ現在の出来事と過去の経験を区別していくことができます。」
クライエントが怒りや不満を感じたときに、それを爆発させるのではなく、適切に表現するための方法を学びます。この段階で、セラピストは感情を言葉にする練習やアサーティブな伝え方についてアプローチします。
- セラピスト:「例えば、『無視されている』と感じた時に、少し落ち着いてからIメッセージとして『私の意見を聞いてもらえないと悲しい』と伝える方法を練習してみましょう。」
- クライエント:「それを言葉にするのは難しいですね。すぐに怒りが湧いてきてしまいます。」
- セラピスト:「そうですよね。まずは、その瞬間に一旦深呼吸をして、『今、私は悲しみを感じている』と自分に言い聞かせるだけでも良いです。これを繰り返すことで、少しずつ自分の感情を理解していけるようになりますよ。」
過去のトラウマをどのように今後対処するか、具体的な手法や認知行動療法のスキルを活用して、トラウマのフラッシュバックや感情の暴発に対処する方法を学びます。
- セラピスト:「幼少期の辛い経験が今に影響を与えていることはとても理解できます。その時の感情が繰り返し蘇るのは自然な反応です。ただ、今は安全な場所にいると再確認することが一つの助けになります。」
- クライエント:「そういう風に考えたことはなかったです。つい同じような反応をしてしまっていました。」
- セラピスト:「まずは小さなステップから、過去の出来事と現在の状況を区別する練習をしていきましょう。必要であれば、トラウマ治療も視野に入れてみましょう。」
お酒が感情の爆発に関係しているため、飲酒習慣を見直し、他のストレス解消方法(運動、趣味、リラクゼーション)を増やすサポートを行います。
- セラピスト:「飲酒が感情を増幅させているようですので、お酒に頼らずストレスを解消できる方法も一緒に見つけていきましょう。例えばリラクゼーションの方法や趣味を活かす時間を増やしてみるのも良いかもしれません。」
- クライエント:「確かに、お酒に頼りすぎていたかもしれませんね。試してみます。」
自己認識を深め、適切な感情表現や対処法を継続していくため、定期的なセッションを通じてサポートを行います。
セラピスト:「〇〇さんがここまで感情と向き合い、新しい方法を身につけてきたことは大きな進歩ですね。今後も少しずつ自己理解を深めながら進んでいきましょう。」
このような段階を踏むことで、クライエントは自分の感情や行動を理解し、コントロールする力を徐々に身につけていけます。また、再発防止に向けたサポートも続け、必要に応じて他の支援(グループサポートやトラウマ治療)も検討していきます。