年齢依存性焦点性・突発性全般・年齢性非依存性焦点性と発作の臨床症状と経過・治療・予後について解説
現在てんかんは、「焦点性てんかん」「全般てんかん」「全般焦点混合てんかん」「その他のてんかん」の1〜4類型に分けられていますが、「その他のてんかん」は、稀なてんかん型を示し、代表的なその他のてんかんに以下のようなタイプが含まれます。
- 発作性脳波異常を伴うてんかん(Electrical status epilepticus during sleep; ESES)
このタイプのてんかんは、睡眠中に高頻度の脳波異常が出現し、それにより知的能力低下や言語障害などの発達障害を引き起こすことがあります。 - Lennox-Gastaut症候群
Lennox-Gastaut症候群は、児童期から若年期にかけて現れる、難治性てんかん症候群の一つです。多発性の発作形態を示し、認知能力低下や行動障害、精神症状などの症状がみられることがあります。 - Landau-Kleffner症候群
Landau-Kleffner症候群は、言語機能の発達に問題を抱える児童にみられるてんかん症候群で、てんかん発作とともに言語障害を呈することが特徴です。 - 脳卒中後てんかん
脳卒中後てんかんは、脳卒中後にてんかん発作が出現することを指し、脳卒中の部位や程度によって発症することが異なります。
なお、「その他のてんかん」に分類されるてんかんには、さらに数種類のものがあります。
年齢依存性焦点性てんかんの臨床症状
年齢依存性焦点性てんかんは、発作の特徴によって異なる症状が現れることがあります。一般的に、年齢依存性焦点性てんかんの発作は短時間で終わることが多く、大半は軽度のものです。以下に、代表的な年齢依存性焦点性てんかんの臨床症状をいくつか挙げてみます。
- 小児期特発性てんかん
- 発作の症状:突然、片側の手足が硬直し、同時に振動するようになる。痙攣が数秒から数十秒間続く。意識障害はない。
- 遷延性てんかん
- 発作の症状:繰り返し、意識障害が出現する。意識を失い、眼球が上を向いたり口の周りがピクピクしたりする。発作後の記憶障害がある。
- 側頭葉てんかん
- 発作の症状:側頭葉が発作の原因となることが多い。片側の顔面が歪んだり、不快な感覚が生じたりする。意識は保たれる。
- 後頭部てんかん
- 発作の症状:後頭部が発作の原因となることが多い。目に見えるものが見えなくなったり、一時的に失明することがある。
なお、年齢依存性焦点性てんかんには、これら以外にも様々な症状が現れることがあります。発作の症状や頻度、持続時間などは個人差が大きいため、詳しい症状は専門医による診断が必要となります。
年齢依存性焦点性てんかんの経過・治療・予後
年齢依存性焦点性てんかんの経過や治療、予後については、以下のような特徴があります。
- 【経過】
-
年齢依存性焦点性てんかんは、発作頻度が低く、多くの場合自然経過で治癒することが多くなります。発作頻度が高い場合でも、10年以上の追跡調査では、半数以上の患者が症状改善することが報告されています。
- 【治療】
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年齢依存性焦点性てんかんの治療には、抗てんかん薬が用いられます。選択する薬剤は、発作の頻度や重症度、副作用の有無に応じて選択されます。一般的に、第1選択薬としてカルバマゼピンやラモトリギン、オキサルバゼピンが用いられます。
- 【予後】
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年齢依存性焦点性てんかんの予後は、比較的良好です。多くの場合、発作は成長とともに自然に消失することが多くなります。ただし、一部の患者では、成人期になっても発作が継続する場合があります。また、治療が適切に行われない場合には、脳の機能障害や発作の増悪が起こることがあります。
突発性全般てんかんの臨床症状
突発性全般てんかんは、全身的な痙攣が発生するてんかんの一種で、以下のような臨床症状が見られます。
- 突然の意識消失
- 両腕・両脚の収縮や、手足のふるえやけいれん、舌噛みなどの全身的なけいれん
- 口から泡を出すなどの異常な呼吸
- 発作中に失禁や排尿などの自律神経症状が見られることがある
発作中は、患者が突然倒れることがあり、周囲の人々が驚くことが多くなります。また、発作後には、しばらくの間、混乱したり、倦怠感を感じたりすることがあります。突発性全般てんかんは、繰り返し発作を繰り返すことがあるため、治療が必要です。
突発性全般てんかんの経過・治療・予後
- 【経過】
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突発性全般てんかんの経過は、個人差がありますが、一般的には数分から数十秒程度の短時間で終わります。発作後にはしばらくの間、倦怠感や頭痛、筋肉痛などが残ることがあります。
- 【治療】
-
突発性全般てんかんの治療には、抗てんかん薬が用いられます。抗てんかん薬は、発作を抑制する効果がありますが、適切な薬剤の選択や投与量の調節などが必要です。また、発作が頻繁に起こる場合や薬物療法による治療が不十分な場合には、手術治療が選択されることもあります。
- 【予後】
-
突発性全般てんかんの予後は、一般的には良好です。薬物療法や手術治療によって発作をコントロールすることができれば、多くの患者は普通の生活を送ることができます。ただし、治療が不十分な場合や、重篤な合併症がある場合には、重度の障害を引き起こすことがあります。
年齢非依存性焦点性てんかんの臨床症状
年齢非依存性焦点性てんかんは、発作が局所的な脳領域から始まるタイプのてんかんであり、以下のような臨床症状が見られます。
- 焦点性てんかん発作
- 特定の脳領域から始まり、その周辺に広がっていくことが多い
- 発作の種類によっては、意識障害や運動障害、感覚障害、自律神経症状などが現れる
- 焦点性てんかんの予兆
- 発作前に特定の症状が現れることがある
- 予兆の種類によっては、視覚的な幻覚や聴覚的な幻聴、感覚異常、自律神経症状などが現れる
年齢非依存性焦点性てんかんの臨床症状は、発作の発生部位やその周辺によって異なるため、個人差があります。しかし、症状が現れる部位が比較的限定されるため、年齢依存性焦点性てんかんよりも症状の特定が容易であり、治療の選択肢も多く存在します。
年齢非依存性焦点性てんかんの経過・治療・予後
年齢非依存性焦点性てんかんの経過、治療、予後については、以下のような特徴があります。
- 【経過】
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年齢非依存性焦点性てんかんは、ほとんどが良性の経過をたどります。発作頻度が低く、薬物治療に良く反応するため、多くの患者は発作をコントロールすることができます。しかし、薬物治療が効かない場合や、手術治療が必要な場合もあります。
- 【治療】
-
年齢非依存性焦点性てんかんの治療には、薬物療法が一般的に用いられます。主にカルバマゼピンやバルプロ酸などの抗てんかん薬が使用されます。これらの薬物は、神経細胞の興奮性を抑制することで発作を防止します。薬物治療が効かない場合は、手術治療も選択肢の一つとなります。
- 【予後】
-
年齢非依存性焦点性てんかんの予後は、一般に良好です。薬物治療により発作を完全にコントロールできる患者がほとんどであり、発作が再発する場合でも、多くの場合、再び薬物治療によってコントロールできます。ただし、原因となる病態がある場合は、その病態の進行によって予後が変わる場合があります。また、手術治療が必要となる場合には、手術後の経過が重要となります。
てんかん性脳症の臨床症状
てんかん性脳症は、長期間のてんかん発作の影響により、脳に構造的・機能的な変化が生じ、精神症状や認知障害、行動異常などの症状を引き起こす状態を指します。以下にてんかん性脳症の一般的な臨床症状を挙げます。
- 記憶障害
- 集中力低下
- 感情不安定
- 不眠、昼夜逆転
- 錯覚、幻覚、妄想
- 焦燥感、不安、恐怖感
- せん妄、意識障害
- 行動異常、攻撃性、興奮
- 認知症状、知覚障害
これらの症状は、脳の一部の障害ですが、障害の範囲や程度によって異なります。また、てんかん性脳症は、てんかん発作の種類、頻度、治療方法によっても影響を受けるため、個人差があります。
てんかん性脳症の経過・治療・予後
てんかん性脳症は、てんかん発作の繰り返しによって脳に障害が生じた状態を指します。この状態は、脳の機能障害により、知能低下、認知症、行動障害、精神症状などの症状が現れることがあります。
- 【経過】
-
経過については、てんかん性脳症は発作の繰り返しや薬剤治療の不十分さなどによって進行することがあります。しかし、適切な治療や脳手術によって、進行を遅らせることができる場合もあります。
- 【治療】
-
治療については、てんかん性脳症の治療は、原因となるてんかん発作の治療が中心となります。発作を予防するために、抗てんかん薬の投与や、脳手術などの治療法が用いられます。また、脳機能の回復や改善を目的として、リハビリテーションが行われることもあります。
- 【予後】
-
予後については、てんかん性脳症の予後は、原因や症状の程度によって異なります。適切な治療を行うことで、症状の進行を遅らせたり、脳機能の回復を促したりすることができます。しかし、症状が重度であったり、治療が遅れた場合には、脳機能障害が進行していくことがあります。
棘徐波昏迷の臨床症状
棘徐波昏迷とは、てんかん性状態による意識障害の一種で、以下のような臨床症状が見られます。
- 意識の消失または意識の低下
- 目が開かない、または眼球が上を向く
- 筋弛緩、または筋緊張が認められる場合がある
- 自発的な運動がなくなり、体が硬直することがある
- 口唇などの口周りが痙攣することがある
- 患者の状態が急激に変化することがある
この状態は、通常は短時間で自然に治まることが多いですが、長時間続く場合は重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
棘徐波昏迷の経過・治療・予後
棘徐波昏迷は、てんかん発作後にしばしば見られる意識障害の一種で、重篤な状態に至ることがあります。以下に、棘徐波昏迷の経過、治療、予後について詳しく説明します。
- 【経過】
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棘徐波昏迷は、てんかん発作後にしばしば発生する意識障害の一種で、意識が深度のある障害を示します。一般的には、棘徐波昏迷の症状は、てんかん発作後すぐに現れることが多く、持続期間は数分から数時間であることが多くなります。ただし、稀に長時間にわたって持続することがあります。
- 【治療】
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棘徐波昏迷の治療は、原因となるてんかん発作の治療に焦点が置かれます。てんかん発作が止まれば、棘徐波昏迷の症状も改善することがあります。しかし、棘徐波昏迷が継続的である場合は、強制的な治療が必要となることがあります。例えば、抗てんかん薬の投与、対症療法、および重度の症例には集中治療が必要になる場合があります。
- 【予後】
-
棘徐波昏迷は、治療が適切に行われれば多くの場合、回復することができます。ただし、持続期間が長かったり、治療が遅れた場合には、予後が悪くなる可能性があります。また、重度の症例には、脳に永久的な損傷を引き起こすことがあるため、予後が悪くなります。
心因性非てんかん性発作の臨床症状
心因性非てんかん性発作の臨床症状は、以下のようなものがあります。
- 突然の失神
意識が失われ、倒れ込むことがあります。 - けいれん様の症状
手足のぴくつきや、ひきつりなどの症状が起こることがあります。 - 不随意運動
身体の一部が不随意に動くことがあります。 - 声を出す、呼吸困難
叫び声を上げたり、呼吸が苦しくなることがあります。 - 意識障害
意識が朦朧とする、現実感覚がなくなる、記憶が飛ぶなどの症状があります。
心因性非てんかん性発作は、てんかん発作と異なり、脳の異常によるものではなく、心因的な要因が原因で起こる発作です。精神的ストレスや心理的な負担、トラウマなどが原因となることがあります。ただし、発作が心因的なものであっても、患者は本当に発作を起こしていると感じ、発作によって日常生活が著しく制限されることがあります。治療には、心理的アプローチやカウンセリング、抗不安薬や抗うつ薬などが用いられます。
心因性非てんかん性発作の診断・治療
心因性非てんかん性発作の診断には、以下のようなアプローチがあります。
- 病歴の収集
心因性非てんかん性発作は、ストレスや心理的なトラウマ、抑うつなどの精神的な原因によって引き起こされることが多いため、病歴の収集が重要です。発作の種類、発生頻度、発作時の状況、発作前後の症状、過去の精神的な疾患の有無などを確認します。 - 身体検査
身体検査によって、神経学的な異常が認められないことを確認します。また、心身症状の有無や自律神経の異常などを評価します。 - 発作の録画
発作の録画によって、発作の形態や発作時の意識レベル、発作の頻度などを評価します。特に、EEGや心電図、動画などを使って発作の録画を行うことが多いです。 - 精神状態の評価
発作の原因が精神的な要因にある場合、精神状態の評価が必要となります。うつ病や不安障害などの精神疾患がある場合は、適切な治療を行うことが重要です。 - てんかんの除外
てんかんが原因の可能性がある場合は、てんかんを除外するための検査が必要となります。EEGや脳波検査、MRIなどを用いて、脳の異常がないことを確認します。
心因性非てんかん性発作の診断には、医師が症状や病歴を詳しく聞き取り、身体検査や検査を行い、総合的に判断する必要があります。
治療
心因性非てんかん性発作は、発作の原因が心理的ストレスや心理的なトラウマにあるため、治療には心理療法が主に用いられます。具体的には、認知行動療法、心理動機付け的アプローチ、心理教育などが挙げられます。
治療の過程では、まず発作の原因となる心理的なストレスやトラウマを明らかにし、それに対する認知や行動のパターンを分析します。その後、発作を引き起こす可能性のある心理的な要因を取り除いたり、ストレスや不安に対する適切な対処法を学んだりすることが目的となります。
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)は、思考・感情・行動の関係を重視し、問題解決や行動変容を促す心理療法の一つです。人が抱える問題は、その人自身の認知・評価(思考)や感情、行動パターンによって深化することがあります。認知行動療法は、これらの問題に対して、具体的な課題設定や自己評価の修正、行動実験などを通じて、患者が自分自身で問題を解決し、新たな行動パターンを身につけることを目的とします。
一方、心理動機づけ的アプローチは、人が持つ内在的なモチベーションを引き出すために、対話や面接によるコミュニケーションを重視した心理療法です。このアプローチでは、患者が自分自身で問題を解決するために必要な内在的なモチベーションを引き出すことが目的とされています。また、患者との信頼関係を築き、患者が自分自身で行動を変容し、問題を解決するための支援をすることが特徴です。
両者の心理療法は、精神疾患や生活において起こる問題に対して有効なアプローチであり、それぞれの患者に合わせて、症状の程度や個人のニーズに合わせたアプローチを取り入れることが重要です。
予後
予後については、心因性非てんかん性発作は発作の原因が心理的要因にあるため、適切な治療を受けることで発作の頻度や重症度が改善されることが期待されます。ただし、発作の原因が複雑であったり、治療が適切に行われなかった場合は、発作が再発する可能性があります。
失神発作の臨床症状
失神発作は、突然意識を失って倒れる状態です。具体的な臨床症状は以下のようになります。
- 突然意識を失う
- 瞬きやまばたき、ふらつきなどの前兆がある場合もある
- 肌色が青白くなる
- 口や指先が縮こまる、手足のけいれんが起こることもある
- 失神後、一時的に記憶を失うことがある
- 失神後、頭痛、倦怠感、めまい、吐き気などが起こることがある
失神発作は、てんかんや脳腫瘍などの疾患、低血糖症や低血圧、心臓疾患などが原因として考えられます。また、ストレスや疲れなどが原因となることもあります。
失神発作の経過・治療・予後
失神発作は、原因によって経過や治療法が異なります。以下に一般的な失神発作の経過、治療、予後について説明します。
- 【経過】
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失神発作は、発作中に意識を失い、しばらくすると自然に意識を回復します。通常、発作後に深刻な後遺症が残ることはありません。ただし、発作が頻繁に起こる場合や、発作の原因が何らかの疾患である場合は、適切な治療が必要です。
- 【治療】
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失神発作の治療は、原因によって異なります。心因性の失神発作は、心理的な治療を行うことで改善される場合があります。具体的には、カウンセリングや認知行動療法が有効であるとされています。また、薬物治療による発作の抑制が必要な場合もあります。脳腫瘍や低血糖など、疾患による失神発作の場合は、病原治療が必要です。
- 【予後】
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一般的に、失神発作自体による深刻な後遺症は残りません。ただし、原因となる疾患がある場合は、その疾患自体の治療が必要です。また、心因性失神発作の場合は、再発のリスクがあるため、適切な心理的ケアを受けることが重要です。
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