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ACT療法をセッション話法で楽に学ぶ

目次

アクセプタンス&コミットメントセラピーの療法や手順をセラピストとクライエントの実践的セッションの会話から読書のように楽しく学べる

ACTが高く評価される理由

アクセプタンス&コミットメントセラピー:ACT(Acceptance and Commitment Therapy)が従来の認知行動療法(CBT)と比較して「第3世代の認知行動療法」として高く評価され、支持を得ている理由はいくつかの重要な特徴とアプローチの違いがあるためです。

ACTは従来の認知行動療法に比べて、より包括的で柔軟なアプローチとして評価されていて、次のように心理的苦痛を軽減しながら、人生をより豊かにするための方法として、多くのクライアントにとって有益であるとされています。

症状の制御よりも「心の柔軟性」に焦点を当てる

従来のCBTでは、否定的な思考や不適応な行動パターンを特定し、それを論理的に修正・置き換えることが主な目標でした。一方、ACTは、苦痛や不快な感情、思考、感覚を避けたり変えたりすることよりも、それらを受け入れ、自分の価値観に基づいて行動する「心の柔軟性」を高めることを目指します。これにより、クライアントは症状に対してより柔軟に対応できるようになり、困難な状況においても適応的な行動を取りやすくなります。

回避行動を克服するアプローチ

従来のCBTでは、不快な思考や感情を「再構成・再構築」することで回避しようとする傾向がありましたが、ACTでは、これらを「そのまま受け入れる」ことを学びます。不快な感情や思考が生じたとき、それに巻き込まれず、ただそこに存在させることで、回避行動を克服します。このアプローチは、特に慢性的なストレスや感情的な問題に対して有効であるとされています。

価値観に基づいた行動の強調

ACTは、クライアントが自分の価値観を明確にし、それに基づいて行動することを重視します。これは、クライアントが自分にとって本当に重要なものに焦点を当て、それを実現するために努力することを促します。価値観に基づいた行動は、クライアントに充実感と満足感をもたらし、心理的な幸福感を高めることに繋がります。

柔軟性のあるアプローチ

ACTは、様々な心理的問題に対して柔軟に適応できるアプローチであることから、多くの支持を集めています。うつ病、不安障害、ストレス、慢性的な痛み、依存症など、幅広い問題に対して効果的であるとされています。また、ACTはマインドフルネスの要素を取り入れているため、内面的なプロセスに焦点を当て、自己認識と自己受容を深めることが可能です。

エビデンスに基づく効果

ACTは、その有効性が多数の研究で証明されており、エビデンスに基づく治療法として広く認められています。特に、従来の治療法では効果が限定的であった場合でも、ACTが有効であることが示されています。これにより、ACTは臨床心理学や精神医療の分野で高く評価されています。

自己の受容と自己観察

ACTは、クライアントが自己を非評価的(客観的)に観察し、自己の受容を促進する点でユニークです。これにより、クライアントは自己批判を減らし、自己に対する柔軟で優しい態度を養うことができます。自己観察(Self-as-Context)の概念は、クライアントが思考や感情に囚われず、それらを客観的に見る能力を育むことを助けます。

長期的な効果

ACTは、クライアントが長期的に心の柔軟性を維持し、より意味のある充実した人生を送るためのスキルを提供することです。クライアントは、セラピーが終了した後もこれらのスキルを活用して、自分自身で問題に対処し続けることができます。

このページを含め、心理的な知識の情報発信と疑問をテーマに作成しています。メンタルルームでは、「生きづらさ」のカウンセリングや話し相手、愚痴聴きなどから精神疾患までメンタルの悩みや心理のご相談を対面にて3時間無料で行っています。

ACTとCBTの比較と使い分け

ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)と従来のCBT(認知行動療法)は、それぞれ異なるアプローチと目的を持っており、一方が他方より効果的であるとは言えません。むしろ、クライアントのニーズや特定の問題に応じて使い分けることが推奨されます。

アプローチの違い
  • CBT
    不快な思考や感情に対して「再構成」(Cognitive Restructuring)を行い、思考の選択肢を増やすことに重点を置きます。これは、否定的で歪んだ思考パターンを認識し、それをより現実的で建設的な考え方に置き換えるプロセスです。CBTは、具体的な問題解決や症状の軽減に焦点を当てており、短期的な効果が得やすいという利点があります。
  • ACT
    ACTは、不快な思考や感情に対して戦わずに「受け入れる」アプローチをとります。これにより、クライアントはそれらの思考や感情に囚われず、自分の価値観に基づいて行動することを学びます。ACTは、クライアントが自分の内面的な経験を受け入れ、それを柔軟に扱うことで、より豊かな人生を送ることを目指します。
効果的な状況
  • CBTが効果的な場合
    • クライアントが具体的な問題に対して直接的な対処方法を学びたいとき。
    • クライアントが特定の思考や行動パターンを改善したい場合。
    • 症状の軽減が急務であり、短期的な介入が求められる場合。
  • ACTが効果的な場合
    • クライアントが思考や感情に過度に巻き込まれている場合。
    • 過去のトラウマや慢性的なストレス、痛みなどが問題となっている場合。
    • クライアントが自己の価値観に基づいた行動を優先し、長期的な心の柔軟性を育てたい場合。
使い分け

ACTとCBTのどちらか一方が優れているわけではなく、クライアントの状況や目標に応じて使い分けるのがベストです。場合によっては、両者を統合的に使用することもあります。例えば、最初はCBTを使って具体的な問題を解決し、その後ACTを導入して、クライアントがより柔軟に対応できるようにサポートすることが考えられます。

  • 併用の例
    • 併用
      クライアントが不安を感じる場面に直面している場合、最初にCBTを用いて、その不安に対する歪んだ思考を再構成し、適応的な行動を促すことができます。その後、ACTを導入して、クライアントが不安な思考や感情に対する受容と柔軟な対応を学び、長期的な成長を支援します。
個別対応の重要性

心理療法においては、クライアントの個別の状況に応じた対応が重要です。クライアントのニーズ、目標、価値観を理解し、それに基づいた治療法を選択することで、最も効果的な支援が可能になります。

まとめると、ACTとCBTはそれぞれ異なる強みを持つアプローチであり、クライアントのニーズや問題に応じて使い分けることが最も効果的です。両方のアプローチを柔軟に活用することで、クライアントにとって最も適切な支援が提供できるようになります。

実際のACTセッションの具体的会話を公開

アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)の手順と、セラピストとクライエントの具体的な会話の例を解説していきます。ACTは、苦痛を避けるのではなく、それを受け入れ、価値観に基づいた行動を促進することで、セラピストはクライエントの心の柔軟性を高めることを目指します。

クライエントの具体的ケース

クライエントは、人間関係のコミュニケーションが苦手であり、会社やコミュニティ、友人や恋人との付き合いが長続きしないことに悩んでいます。そのため、人間関係を回避することを繰り返すようになりますが、回避の反動で孤独や寂しさを感じ、過去の失敗を反芻するようになり、鬱傾向や社交不安が強まっています。また、自分の目標ややりたいことも見つからず、現時点での意欲の対象も見いだせず、活動や行動にも移せないでいます。こんな自分の状況では、将来への不安感だけでなく恐怖も感じています。

ACTの手順-簡潔編

STEP
導入とラポール形成

セラピスト: 「こんにちは。今日は、あなたが感じていることや、何に悩んでいるのかをお話ししていただけますか?」

クライエント: 「はい。私は、どうしても人間関係がうまくいかなくて、いつも孤独感を感じています。会社や友人関係でも、うまくコミュニケーションが取れず、結果的に距離を置いてしまうことが多いんです。それが原因で、ますます人と会うのが怖くなってきました。」

セラピスト: 「それは大変ですね。そのような感情や状況が続くと、かなり苦しいと思います。今日は、そのことについて少し深く考えてみると同時に、どのようにして今後それに対処できるかを一緒に探してみましょう。」

STEP
アクセプタンス(Acceptance)

セラピト: 「まず、今感じている不安や孤独感について話しましょう。その感情をどう感じますか?」

クライエント: 「正直に言うと、すごく嫌です。できるだけ避けたいと思っています。でも、避ければ避けるほど悪化している気がします。」

セラピスト: 「その気持ちは自然な反応です。ACTでは、不快な感情や思考を否定したり、避けたりするのではなく、まずそれを受け入れることが大切であり、あなたが今感じているその不安や孤独感も、ある意味であなたの一部として大切に扱うことができるようになります。」

STEP
認知デフュージョン(Cognitive Defusion)

セラピスト: 「例えば、過去の失敗や孤独感に関する考えが浮かんできたとき、それを『真実』として受け取るのではなく、ただの『思考』としてとらえる練習をしてみましょう。例えば、『私は人間関係が下手だ』という考えが浮かんだとき、それを『私は今、“人間関係が下手だ”と考えている』という風に言い直してみてください。」

クライエント: 「なるほど。それだけで少し距離を置けるような気がします。」

セラピスト: 「その通りです。この方法は、思考と自分自身を少し分けて考える手助けになります。」

STEP
現在の瞬間に焦点を当てる(Present Moment Awareness)

セラピスト: 「次に、今この瞬間に意識を集中してみましょう。過去や未来に思いを馳せることが多いかもしれませんが、今ここで何が起こっているかに注意を向けることが重要です。今、目の前にあるものを見て、聞いて、感じてみてください。」

クライエント: 「それをすると、少し落ち着いてきました。」

セラピスト: 「そうですね。現在の瞬間に焦点を当てることで、過去の失敗や未来の不安から一時的に解放されることができます。」

STEP
自己観察(Self-as-Context)

セラピスト: 「あなた自身を、固定された存在としてではなく、常に変化し、成長しているプロセスとして捉えてみましょう。過去のあなたと今のあなたは違いますし、未来のあなたもまた違った存在になるということです。」

クライエント: 「それを考えると、少しだけ未来に希望が持てる気がします。」

セラピスト: 「そう感じることができるのは素晴らしいことです。私たちは皆、変化し続ける存在です。」

STEP
価値観の明示(Values Clarification)

セラピスト: 「あなたが本当に大切にしている価値観は何でしょうか?例えば、人間関係の中で何を重視したいと考えていますか?」

クライエント: 「そうですね…正直であることや、お互いを尊重することが大切だと思います。」

セラピスト: 「それは素晴らしい価値観です。それに基づいて、今後どのように行動していくかを一緒に考えてみましょう。」

STEP
コミットメント行動(Committed Action)

セラピスト: 「では、あなたの価値観に基づいて、次の一歩として何ができるかを考えてみましょう。価値観に基づくことで、誰かに自分から話しかけてみることや、正直な気持ちを伝えられるようにです。」

クライエント: 「それは少し怖いですが、少しずつでも試してみる価値はありそうです。」

セラピスト: 「怖さを感じることは当然です。しかし、それを受け入れつつ、価値観に基づいた行動を取ることで、少しずつ自信がついてくるはずです。」

ACTの手順-詳細編

ACT6ステップのための一人でできるトレーニング「マインドフルネス・エクササイズ・フレームワーク」をご覧ください。

STEP
導入とラポール形成の重要性

導入とラポール形成は、セラピーを効果的に進めるための基盤です。この段階では、クライエントとセラピストが信頼関係を築き、クライエントが安心して自分の問題や感情について話せるような環境を整えることが目的です。クライエントは、自分の苦しみや悩みを率直に共有できることが重要であり、セラピストはそれを共感的に受け止める姿勢が求められます。

具体的なアプローチと会話例

導入とラポール形成の段階では、クライエントがセラピーに対して信頼と安心感を持てるようにすることが最も重要です。セラピストは、共感的かつ受容的な態度を持ち、クライエントが自身の感情や思考を自由に表現できるように支援します。このプロセスがスムーズに進むことで、クライエントはセラピーに対して前向きな姿勢を持ち、効果的な治療が期待できるようになります。

STEP
初回の挨拶と自己紹介

セラピスト: 「こんにちは、初めまして。私は〇〇(セラピストの名前)と申します。今日はあなたが抱えているお悩みについてお話をお伺いし、それについて一緒に考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。」

クライエント: 「よろしくお願いします。」

セラピスト: 「まずは、あなたがここに来所していただいたご理由や、どんなことに悩んでいるかを教えていただけますか?」

STEP
クライエントの話を聞き、共感を示す

クライエント: 「最近、仕事や人間関係がうまくいかなくて、どうしても孤独を感じるんです。過去のことも色々思い出してしまって、気分が沈むことが多くて…。」

セラピスト: 「それはとても辛いですね。仕事や人間関係がうまくいかないと、孤独感や不安感が強まってしまうのは自然なことです。あなたがそう感じるのも無理はありません。」

STEP
クライエントにリラックスを促す

セラピスト: 「ここでは、どんなことでも自由に話していただいて構いません。私はあなたの話をしっかりお聴きし、共に考え、サポートさせていただきます。ですから、この場所ではリラックスして、自分のペースで話してもらえれば大丈夫ですよ。」

クライエント: 「ありがとうございます。それを聞いて少し安心しました。」

STEP
セラピーの目的を共有し、協働の姿勢を示す

セラピスト: 「今日から、あなたが抱えているお悩みについて一緒に探っていき、どのように対処していけるかを考えていきましょう。あなたが日常生活の中で少しでも楽になれるような方法を見つけることを目指していきます。」

クライエント: 「はい、それができれば嬉しいです。」

セラピスト: 「具体的には、あなたがどのようにお考えになられて、感じているかを一緒に見つめ直しながら、あなたの価値観に基づいてどのような行動を取っていけるのかを考えたいと思います。どうでしょうか?」

クライエント: 「そういうアプローチなら、やってみたいと思います。」

STEP
クライエントのゴールを確認し、動機づけを強化する

セラピスト: 「では、今後のセッションで何を目指していきたいのか、一緒に考えてみましょう。例えば、人間関係の問題についてどのように向き合いたいですか?」

クライエント: 「そうですね、まずは少しでも孤独感を減らせるように、人ともう少し上手く関われるようになりたいです。」

セラピスト: 「それは素晴らしい目標です。そのために、どのようなステップが考えられるか、これから一緒に考えていきましょうね。」

STEP
クライエントの価値観に触れ、セラピーの方向性を確認する

セラピスト: 「あなたにとって、どのようなことが大切ですか?例えば、人間関係において、どのような価値観を大切にしていますか?」

クライエント: 「正直に言うと、信頼と誠実さが大切だと思います。でも、それをうまく表現できていない気がします。」

セラピスト: 「信頼と誠実さを大切にしたいと思っているんですね。その価値観を基に、これからどのように行動していくかを一緒に考えていきましょう。」

STEP
セッションの進め方を説明し、クライエントに安心感を与える

セラピスト: 「これからのセッションでは、あなたが抱えている感情や思考について深く掘り下げると同時に、それにどう対処していくかを一緒に考えていきます。リラックスして、自分のペースで進めていけるようにしましょう。」

クライエント: 「はい、わかりました。」

セラピスト: 「それでは、今日はここまでにして、次回のセッションでさらに進めていきましょう。何か質問や不安な点があれば、いつでも言ってくださいね。」

クライエント: 「ありがとうございます。それを聞いて安心しました。」

STEP
アクセプタンス(Acceptance)


アクセプタンス(Acceptance)は、ACTの重要なコアプロセスの一つであり、不快な感情や身体的な感覚などを否定せずにそのまま受け入れることを指します。セラピストは、クライエントがこうした経験を避けようとせず、むしろそれらを受け入れることで、心理的な苦痛を和らげる手助けをします。

クライエントの背景

クライエントは、会社での人間関係に悩んでおり、職場で孤立していると感じています。過去の人間関係の失敗やトラウマが原因で、他人と接することに対して強い不安感や恐怖感を抱いています。この不安感を避けようと、クライエントは積極的に他者と関わることを避けてきました。

アクセプタンスに焦点を当てたセラピーの具体的な会話例

アクセプタンスはクライエントが抱える不快な感情や感覚に対して、それを無理に変えようとせず、ありのままを受け入れるというアプローチです。セラピストはクライエントに対して、こうした感情や感覚を観察し、受け入れることができるようにサポートし、それによってクライエントがより柔軟に行動できるように導きます。このプロセスを通じて、クライエントは自身の価値観に基づいた行動を取ることができるようになり、心理的な苦痛を軽減することが期待されます。

STEP
不快な感情の認識と共感

クライエント: 「職場に行くのがすごく憂鬱で、誰かと話すたびに不安になります。だから、なるべく人と接しないようにしているんです。でも、そうすると孤独感が強くなって、もっと辛くなるんです。」

セラピスト: 「その不安感はとても辛いですね。避けることで一時的に楽になるかもしれませんが、長い目で見ると、孤独感や他の問題が増してしまうこともありますね。」

STEP
アクセプタンスの概念を紹介する

セラピスト: 「今感じている不安や孤独感を避けようとするのではなく、その感情や感覚をそのまま受け入れることができるとしたら、どんな感じがすると思いますか?」

クライエント: 「受け入れる…ですか?それって、ただ苦しみを我慢するってことですか?」

セラピスト: 「いいえ、我慢するというよりも、その感情がそこにあることを認めて、それと共にどう生きていくかを考えるということです。例えば、その不安感がある中でも、自分にとって大切なことを続けるということです。」

STEP
実際の体験を通じてアクセプタンスを試みる

セラピスト: 「今ここで、少しアクセプタンスの練習をしてみましょうか。目を閉じて、深呼吸をしてみてください。そして、その不安感がどこにあるか、体のどの部分に感じるかに注意を向けてみてください。」

クライエント: 「胸のあたりが苦しい感じがします。」

セラピスト: 「その感覚に注意を向けてみましょう。苦しいことかもしれませんが、それを否定せずに、そのまま胸のあたりにあることをじっくりと感じてみてください。その感覚はどんな感じですか?」

クライエント: 「重くて、押しつぶされそうな感じです。」

セラピスト: 「その重さを感じながら、もう少しそれをじっと見つめてみましょう。それがただそこにあるだけだということを認めてみてください。そして、それをどうすることもせずに、ただその存在を受け入れてみましょう。」

クライエント: 「…少し、落ち着いてきたような気がします。」

セラピスト: 「素晴らしいですね。その感情や感覚があることを認め、それを受け入れることで、今までより、その感覚と共存できるようになったと思います。これがアクセプタンスです。不安が消えるわけではありませんが、その存在を認めることで、不安という感情や感覚に対して少し余裕が持てるようになります。」

STEP
アクセプタンスを日常に取り入れるための方法を考える

セラピスト: 「このアクセプタンスの感覚を、日常の中で少しずつ取り入れていくことができれば、どんな状況でも自分を保つことができるようになっていきます。例えば、職場で不安を感じたときに、その不安を感じながらも仕事を続けることができるようになるとどうでしょうか?」

クライエント: 「そうですね、少しは前に進めるかもしれません。でも、やっぱり怖いです。」

セラピスト: 「怖いという感情があることも、またそのまま受け入れてみましょう。怖いと感じても、それに捉われずに、あなたが大切にしたいことに集中できるように練習していきましょう。それが、人とのつながりであったり、仕事での達成感であったりします。」

STEP
セッションのまとめと次回への準備

セラピスト: 「今日のセッションで試したアクセプタンスの練習を、次回までの日常生活で少し意識して取り入れてみてください。どんな感情や感覚が出てきても、それを否定せずに、そのままそこにあることを認めてみてください。そして、その感覚と共にどのように過ごしたか、過ごせたか、次回教えてください。」

クライエント: 「わかりました、やってみます。」

セラピスト: 「いいですね、無理のない範囲で試してみましょう。あなたが感じたことや、うまくいったこと、難しかったことを次回話し合いましょう。」

STEP
認知デフュージョン(Cognitive Defusion)

認知デフュージョン(Cognitive Defusion)は、ACTにおいて重要なコアプロセスであり、思考をそのまま事実として受け取るのではなく、それらから距離を取る技法です。このプロセスを通じて、クライエントは自分の思考を客観的に観察し、それにとらわれずに柔軟に行動できるようになります。

クライエントの背景

クライエントは、社交不安を抱えており、他人にどう思われているかを過度に気にしてしまいます。特に「自分はダメな人間だ」「人に嫌われるに違いない」という思考が強く、それが原因で人間関係を避けるようになっています。

認知デフュージョンに関する具体的なセラピーの会話例

認知デフュージョンは、クライエントが自分の思考の捉われを現実と混同して受けているただの「言葉」として認識することで、その影響を減らし、より柔軟な行動を取る手助けをします。セラピストはクライエントに対して、思考がどのように行動や感情に影響を与えているかを理解させ、デフュージョンの技法を使ってその影響を和らげる方法を教えます。このプロセスを通じて、クライエントは自分の思考に対してより客観的で柔軟な態度を取ることができるようになります。

STEP
思考と現実の区別を理解する

セラピスト: 「あなたが他人と接する時に感じる『自分はダメだ』という思いがありますね。この思考が出てくると、どのような気持ちになりますか?」

クライエント: 「すごく不安になります。自分がダメだと思うと、何もかもがうまくいかない気がして、人と話すのが怖くなります。」

セラピスト: 「その思いが強くなると、それがまるで真実であるかのように感じられているのかもしれません。でも、実際にはそれはただの思考(言葉)であって、必ずしも現実ではありません。」

STEP
デフュージョンの実践: 思考にラベルをつける

セラピスト: 「今から、その『自分はダメだ』という思考に少し距離を置く練習をしてみましょう。この思考が浮かんできた時に、単に『ああ、またこの「自分はダメだ」という思考が浮かんできたな』とラベルを付けてみてください。どんな感じがするか、試してみましょう。」

クライエント: 「わかりました。(しばらくして)…確かに、それがただの思考だと少し客観的に見られる気がします。」

セラピスト: 「そうですね。その思考にラベルを付けることで、それがあなたそのものではなく、ただの一つの考えや言葉であることが見えてきます。それをただの『ダメだと思っている思考』として認識することで、その影響力を少し減らすことができます。」

STEP
デフュージョンのバリエーション: 繰り返し法

セラピスト: 「もう一つ、面白いデフュージョンの方法を試してみましょう。今度は、その『自分はダメだ』という言葉を何度も繰り返してみてください。例えば、30秒間ぐらい、『自分はダメだ、自分はダメだ…』と繰り返し言ってみましょう。」

クライエント: 「(言葉を繰り返す)…なんか、だんだんその言葉が変な感じになってきました。意味が薄れてきたというか。」

セラピスト: 「そうなんです。思考を繰り返し言うことで、その言葉が持つ力が少し薄れて、単なる音のように感じられることがあります。これがデフュージョンの効果です。私たちは、思考を事実だと思い込んでしまうことがありますが、実際にはそれはただの言葉に過ぎないのです。」

STEP
思考の物語性を認識する

セラピスト: 「また、あなたの思考を一つの物語として見てみるのも効果的です。例えば、『自分はダメだ』というのは、過去の経験や恐れから生まれた「ただの言葉が作りだした思考」の物語であり、一つのストーリーとして見ることができます。『自分はダメだ』は、この「ただの言葉」に捉われた影響の可能性だとしたら、どんな感じがしますか?」

クライエント: 「それは、自分がそのストーリーの中に必ずしも生きる必要がないと感じられるかもしれません。」

セラピスト: 「そうですね。それが「ただの思考(言葉)」のストーリーであることを認識することで、あなたはそれに捉われずの価値観に沿った行動を選ぶことができるようになります。」

STEP
日常でのデフュージョンの練習方法を提案する

セラピスト: 「このデフュージョンの練習を、日常生活の中で取り入れてみましょう。『自分はダメだ』という思考が浮かんだ時に、それがただの思考(言葉)であることを認識し、そこにラベルを付けたり、繰り返し言ってみたりすることで、少しずつその影響を弱めることができます。」

クライエント: 「やってみます。でも、それでもまだ怖いと感じるかもしれません。」

セラピスト: 「それは自然なことです。新しいことを試す時は不安がつきものです。でも、これを少しずつ練習していくことで、あなたの思考に対する柔軟性が高まり、今までと違う行動が取れるようになります。」

STEP
セッションのまとめと次回への準備

セラピスト: 「今日は、思考と距離を置く方法として、デフュージョンをいくつか試してみました。次回までに、この方法を少しずつ日常生活の中で試してみてください。そして、その効果や感じたことを次回教えてください。」

クライエント: 「わかりました、頑張ってみます。」

セラピスト: 「いいですね。無理のない範囲で、自分のペースでやってみましょう。何か気になることや難しいと感じることがあれば、次回一緒に考えましょう。」

STEP
現在の瞬間に焦点を当てる(Present Moment Awareness)

現在の瞬間に焦点を当てる(Present Moment Awareness)は、ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)の中核プロセスの一つであり、クライエントが過去の後悔や未来の不安に捉われず、現在の瞬間に意識を集中させるための技法です。このプロセスは、マインドフルネスに基づいており、現在の瞬間に意識を集中させることで、現実に起こっていることをより明確に認識し、より効果的に対処できるようになることを目指しています。

クライエントの背景

クライエントは、社交不安と過去の失敗を繰り返し反芻してしまう傾向があり、これが現在の生活に悪影響を与えています。特に、過去の人間関係の失敗や将来の不安が頭から離れず、常に心配している状態です。

現在の瞬間に焦点を当てる具体的なセラピーの会話例

現在の瞬間に焦点を当てるプロセスは、クライエントが過去の後悔や未来の不安に捉われることなく、今この瞬間に集中する能力を高めるための重要なステップです。セラピストは、クライエントが現在の瞬間に意識を向けるための具体的な方法を提供し、その練習を日常生活に取り入れるよう促します。これにより、クライエントは心の静けさを取り戻し、より効果的に人生に向き合うことができるようになります。

STEP
現在の瞬間に意識を向けるための導入

セラピスト: 「最近、過去のことや未来の心配に捉われて、現在の瞬間に集中できないと感じることがありますか?」

クライエント: 「はい、よくあります。特に過去の失敗や未来の不安が頭から離れなくて、今何をしているのかよくわからなくなることが多いです。」

セラピスト: 「それはとてもつらいことですね。今、この瞬間に焦点を当てる練習をしてみましょう。これによって、過去や未来に捉われく、今目の前にあることに集中できるようになっていきます。」

STEP
呼吸に意識を向けるマインドフルネス練習

セラピスト: 「まずは、簡単なマインドフルネスの練習をしましょう。ここでの目的は、今この瞬間に注意を向けることです。まず、目を閉じて、自分の呼吸に意識を向けてみてください。息を吸って、そして吐く。それだけです。」

クライエント: 「(目を閉じ、呼吸に集中する)…」

セラピスト: 「呼吸に集中しているときに、過去のことや未来の心配が頭に浮かんでくるかもしれません。それが浮かんできたら、それをただ『今、これが浮かんできた』と認識して、また呼吸に意識を戻してみてください。」

クライエント: 「はい…何度か、いろんな考えが浮かんできました。でも、呼吸に戻ることで、少し落ち着いた感じがします。」

セラピスト: 「素晴らしいですね。このように、今の瞬間に意識を戻すことで、心が落ち着き、より現実的に物事に対処できるようになります。」

STEP
五感に注意を向ける練習

セラピスト: 「次に、五感を使って今この瞬間に注意を向けてみましょう。今、あなたが座っている椅子の感触に集中してみてください。それはどう感じますか?」

クライエント: 「少し硬い感じがしますが、座り心地は悪くないです。」

セラピスト: 「いいですね。では、次に部屋の中の音に耳を傾けてみましょう。何が聞こえますか?」

クライエント: 「時計の音が聞こえます。それから、外で車が通り過ぎる音も聞こえます。」

セラピスト: 「そうですね。それらの音にただ気づいてみてください。何か特別なことを考えずに、その音をそのまま受け入れるだけです。」

クライエント: 「やってみると、今ここにいることが実感できる気がします。」

セラピスト: 「そうですね。五感に意識を向けることで、今この瞬間に集中することができます。」

STEP
日常生活での実践

セラピスト: 「このように、呼吸や五感に意識を向ける練習を日常生活に取り入れてみましょう。例えば、歩いている時に足の感触に注意を向けたり、食事をしている時に味や食感に集中したりすることができます。」

クライエント: 「それなら、やれそうな気がします。何かをしながらでもできる練習ですね。」

セラピスト: 「そうです。簡単にできることから始めてみてください。これを続けることで、過去や未来に捉われこの瞬間を生きる感覚が少しずつ身につくはずです。」

STEP
現在の瞬間に焦点を当てることの意義を確認

セラピスト: 「これまでの練習で、現在の瞬間に焦点を当てることがどのように役立つか、何か感じたことはありますか?」

クライエント: 「はい、頭の中が少し静かになった感じがします。今までは常に何かを考えていて、それがストレスになっていたんだと思います。」

セラピスト: 「そうですね。現在の瞬間に集中することで、余計な思考に捉われず、心が静まる感覚が得られることが多いです。これを少しずつ練習していくことで、今の瞬間に対する意識を強化し、過去や未来に捉われることなく、より充実した生活を送れるようになります。」

STEP
自己観察(Self-as-Context)

自己観察(Self-as-Context)は、ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)のコアプロセスの一つであり、クライエントが自分自身を固定的な自己像(自己概念)として捉えるではなく、より広い視点から自己を観察する能力を養うためのアプローチです。これにより、クライエントは自分の思考や感情に囚われず、それらを客観的に捉え、柔軟に対処できるようになります。

クライエントの背景

クライエントは、自分自身に対して厳しい批判的な思考を持ち続けており、それが自尊心を低下させ、人間関係や日常生活に悪影響を及ぼしています。クライエントは、「自分は失敗者だ」「自分には価値がない」といった固定的な自己評価に悩んでいます。

自己観察の具体的なセラピーの会話例

自己観察(Self-as-Context)は、クライエントが自分の思考や感情に対して距離を置き、それらを客観的に観察する能力を養うための重要なプロセスです。セラピストは、クライエントが自己批判的な思考や感情に囚われることなく、それらをただの思考や感情として認識する練習を通じて、柔軟な自己観察能力を高めることをサポートします。これにより、クライエントは自分をより広い視点から理解し、自己評価に囚われずに行動できるようになります。

STEP
自己観察の概念を導入する

セラピスト: 「最近、自分自身についてどのように考えているか教えていただけますか?」

クライエント: 「よく、自分は失敗者だとか、何をやってもうまくいかないと感じています。周りの人たちは自分よりもずっと優れているし、そう思うと何もかもが嫌になってしまうんです。」

セラピスト: 「そうですね。自分に対して厳しい評価をしてしまうと、とても辛くなりますよね。今日は、少し違った視点から自分を見つめる練習をしてみましょう。それは、自分を単なる一連の思考や感情としてではなく、それらを観察できる存在として捉えるというものです。」

STEP
自己観察の練習(自己と感情の分離)

セラピスト: 「例えば、今ここに座っているあなた自身と、あなたの頭の中で『自分は失敗者だ』という思考が浮かんでいるあなたは、同じものだと思いますか?」

クライエント: 「そうですね…普段は同じだと思っていました。でも、言われてみると、考えや感情は自分の一部だけれど、それが全てではないかもしれません。」

セラピスト: 「その通りです。あなたは『自分は失敗者だ』という考えを持っている一方で、その考えを観察することもできる存在です。では、その考えが浮かんできたときに、その考えをただ『思考』として認識してみましょう。たとえば、『自分は失敗者だ』という考えが浮かんできたら、『あ、またその考えが浮かんできたな』と気づくようにします。」

クライエント: 「なるほど…考えをただ観察するということですね。」

セラピスト: 「そうです。これを『自己観察』と呼びます。あなたは自分の考えや感情を観察できる存在であり、その考えや感情に完全に囚われる必要はありません。」

STEP
自己観察を強化するための比喩

セラピスト: 「自己観察を理解するために、ちょっとした比喩を使ってみましょう。あなたは空のような存在だと考えてみてください。雲が空に浮かんでいるように、思考や感情はあなたの中に浮かんでいますが、それらは常に変わり、移りゆくものです。あなた自身は、そのすべてを包み込んでいる広い空です。」

クライエント: 「面白いですね…そう考えると、思考や感情がただの一時的なものだと思えてきます。」

セラピスト: 「そうですね。そのように、あなたは思考や感情を観察する空のような存在であり、それらに囚われずにいることができます。次に、その感覚を実際に体験してみましょう。」

STEP
自己観察の体験を深めるエクササイズ

セラピスト: 「今度は、少し目を閉じてみてください。ゆっくりと呼吸しながら、自分の体の感覚や心の中に浮かんでくる思考や感情に注意を向けてみましょう。それらが浮かんできたら、それらをただ『ああ、これが今浮かんできた』と観察してみてください。」

クライエント: 「(目を閉じて実践)…色々な思考が浮かんできましたが、それをただ観察することができました。」

セラピスト: 「素晴らしいですね。それが自己観察のプロセスです。この練習を続けることで、自分の思考や感情に対する距離感を持ち、それらに飲み込まれることなく、より柔軟に対処できるようになります。」

STEP
日常生活での実践方法を提案

セラピスト: 「この自己観察の感覚を日常生活の中で意識的に取り入れてみてください。例えば、何か嫌なことがあったときや、自己批判的な思考が浮かんできたときに、その思考や感情をただ観察してみるんです。『またこの思考が浮かんできたな』と気づいて、それを空の雲のように見つめることができます。」

クライエント: 「やってみます。それなら、今までよりも自分を責めずに済むかもしれません。」

セラピスト: 「そうですね。自己観察を実践することで、思考や感情に囚われることなく、より多面的に自分を捉えることができるようになるでしょう。」

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価値観の明示(Values Clarification)

価値観の明示(Values Clarification)は、ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)の重要なコアプロセスであり、クライエントが自分にとって本当に大切なもの、つまり価値観を明確にし、それに基づいて行動することを目指します。これにより、クライエントは自分の行動や選択が価値観と一致しているかどうかを理解し、より充実した人生を送るための道筋を見つけることができます。

クライエントの背景

クライエントは、仕事でもプライベートでも目標が見つからず、日々の生活に充実感を感じられずにいます。以前は仕事に情熱を持っていたが、最近はその情熱も薄れてしまい、何のために生きているのか、どこに向かっているのかがわからなくなっています。

価値観の明示の具体的なセラピーの会話例

価値観の明示(Values Clarification)のプロセスは、クライエントが自分にとって本当に大切なものを明確にし、それに基づいて行動するための重要なステップです。セラピストは、クライエントが自分の過去の経験や今の状況を振り返りながら価値観を探求し、それに基づいて行動計画を立てることをサポートします。これにより、クライエントはより充実感や満足感を得られる生活を築くことができるようになります。

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価値観についての導入

セラピスト: 「最近、日々の生活の中でどんな感情を感じることが多いですか?」

クライエント: 「正直に言うと、あまり充実感がありません。何をしても楽しく感じられなくて、目標も見つからず、ただ毎日を過ごしている感じです。」

セラピスト: 「それは辛いですね。充実感を感じられないというのは、何か大切なものが見えなくなっているからかもしれません。今日は、あなたが本当に大切にしている価値観について考えてみましょう。価値観とは、あなたがどんな人間でありたいか、どんな人生を送りたいかを示す指針です。」

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価値観の探索

セラピスト: 「では、少し想像してみましょう。あなたが一番誇りに思う瞬間や、人生で最も充実感を感じた出来事を思い出してみてください。それはどんな時でしたか?」

クライエント: 「そうですね…以前、仕事で大きなプロジェクトを成功させたとき、チーム全員が協力して目標を達成できたことがありました。あのときは本当にやりがいを感じました。」

セラピスト: 「その経験から、どんな価値観が浮かび上がってきますか?例えば、チームワーク、成長、達成感などがありますが、あなたにとって何が一番大切だったと思いますか?」

クライエント: 「たしかに、チームワークと達成感が大きかったですね。みんなで一緒に目標に向かって努力し、その成果を感じられることが、自分にとって大切だと感じました。」

セラピスト: 「素晴らしいですね。チームワークと達成感は、あなたの価値観の中で重要な位置を占めているようです。この価値観が、あなたの今後の行動や選択にどのように関わってくるかを考えてみましょう。」

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価値観を現実に反映するための対話

セラピスト: 「これらの価値観が明確になったところで、今の生活の中でそれらがどのように反映されていますか?また、どのように反映されていないと感じていますか?」

クライエント: 「正直言うと、今の仕事ではあまりチームワークを感じられないし、達成感も薄いです。だからこそ、今の自分が迷っているのかもしれません。」

セラピスト: 「そうですね。価値観が今の生活に反映されていないと感じることは、満足感や充実感を減少させる原因となり得ます。では、これらの価値観をもっと意識的に日々の生活に取り入れるために、どんな行動ができるかを一緒に考えてみましょう。」

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価値観に基づく行動計画

セラピスト: 「たとえば、今の職場でチームワークを強化するために何かできることはありますか?」

クライエント: 「うーん…プロジェクトが一人で完結してしまうことが多いのですが、同僚にもっと意見を求めたり、共同作業を増やしたりすることはできるかもしれません。」

セラピスト: 「それは良い考えですね。達成感についてはどうでしょう?今の仕事で目標を立て、それを達成するための計画を立てることは可能ですか?」

クライエント: 「そうですね。小さな目標からでもいいので、少しずつ達成感を得られるようなタスクを設定してみようと思います。」

セラピスト: 「素晴らしいです。価値観に基づいて行動することで、あなたが望む充実感や満足感を得るための道が開けるはずです。このプランを実行しながら、またセッションでその進捗について話し合いましょう。」

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価値観を日常に取り入れるための確認

セラピスト: 「最後に、これからの一週間、どのようにしてこの価値観を意識的に取り入れて生活していくか、具体的な計画をまとめてみましょう。」

クライエント: 「毎朝、自分の価値観を確認する時間を取ることにします。そして、毎日の仕事の中で、チームワークや達成感を感じられるような行動を少しでも取り入れるよう心がけてみます。」

セラピスト: 「それは素晴らしいプランです。価値観を意識的に取り入れることで、より充実した人生を送るための一歩を踏み出せると思います。次回、どのように感じたかをぜひ教えてくださいね。」

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コミットメント行動(Committed Action)

コミットメント行動(Committed Action)は、ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)の最終段階であり、クライエントが自分の価値観に基づいて具体的な行動を起こすことを促します。このステップでは、価値観に基づいた行動計画を立て、その計画を実行するために必要な意志とスキルを養います。

クライエントの背景

クライエントは、自分の価値観を明確にし、仕事においてチームワークと達成感を大切にしていることを再確認しました。しかし、現在の仕事ではこれらの価値観が十分に反映されていないと感じています。クライエントは、日々の生活においてこれらの価値観を反映するための行動を起こしたいと考えていますが、どこから始めればよいのか迷っています。

コミットメント行動の具体的なセラピーの会話例

コミットメント行動(Committed Action)のプロセスでは、クライエントが自分の価値観に基づいた行動を実際に起こすための具体的な計画を立て、それを実行するための支援を行います。セラピストは、クライエントが行動する際に直面する可能性のある障害や不安に対処する方法を一緒に考え、行動を起こすための自信を持たせることが重要です。このプロセスを通じて、クライエントはより充実した、価値観に基づいた生活を築くことができるようになります。

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行動計画の立案

セラピスト: 「前回、あなたが大切にしている価値観を明確にしましたね。今日は、その価値観に基づいて具体的な行動計画を立ててみましょう。まず、今の職場で、チームワークと達成感を感じられるような小さな行動から始めてみることでしたね?」

クライエント: 「そうですね。たとえば、今のプロジェクトで、もっと同僚の意見を聞く機会を作るとか、共同でアイデアを出し合うミーティングを提案することができそうです。」

セラピスト: 「それは良いアイデアですね。具体的にどういう形でそのミーティングを提案しますか?また、いつそれを実行しますか?」

クライエント: 「まず、今週中にチームのリーダーに相談して、ミーティングの目的やメリットを伝えます。そして、来週には実際にミーティングを開催できるようにします。」

セラピスト: 「その計画は素晴らしいです。実際に行動に移すために、何か不安や心配なことはありますか?」

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障害への対処

クライエント: 「少し不安なのは、チームリーダーが提案を受け入れてくれるかどうかです。反対されたらどうしようという気持ちがあります。」

セラピスト: 「その不安は当然のことです。もし反対された場合、どのように対応しますか?事前にどんな準備ができるでしょうか?」

クライエント: 「リーダーに提案を受け入れてもらえるように、ミーティングのメリットをしっかりと説明できるように準備しておきます。また、反対された場合には、代替案を考えておくことも大事ですね。」

セラピスト: 「その通りです。不安があるときこそ、準備が重要になります。また、反対されてもそれは終わりではなく、次のステップを考える機会です。どんな状況でも、価値観に基づいた行動を取り続けることが大切です。」

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具体的な行動のコミットメント

セラピスト: 「では、具体的に何日に誰にどう提案するかを決めてみましょう。そして、実行するための第一歩として、何が必要かを確認してみましょう。」

クライエント: 「今週の水曜日にチームリーダーに話をすることにします。その前に、提案内容をまとめて、プレゼンテーション資料を作成します。」

セラピスト: 「いいですね。プレゼンテーションの内容をしっかり準備して、自信を持って提案できるようにしましょう。また、実行後はその結果や感想を振り返ってみましょう。次回のセッションで、どう感じたかを話しましょう。」

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結果のフィードバックと次のステップ

セラピスト: 「提案がうまくいったかどうかにかかわらず、その経験から学べることはたくさんあります。次のセッションで、その振り返りを一緒に行いましょう。そして、今後の行動計画をさらに具体的にしていきます。」

クライエント: 「わかりました。提案を成功させることが目標ですが、たとえうまくいかなくても、その経験を活かして次に進むことができるようにしたいです。」

セラピスト: 「その意識はとても大事です。どんな結果でも、それを成長の糧にして、さらに価値観に沿った行動を続けていきましょう。」

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評価と調整 (Assessment and Adaptation)

評価と調整 (Assessment and Adaptation) は、クライエントが実際に行動を起こした後、その結果を振り返り、行動や計画の調整を行う段階です。ここでは、クライエントが設定した目標に対する進捗を評価し、必要に応じてゴールやアプローチを見直すことが重要です。

クライエントの背景

クライエントは、会社でのチームリーダーに対して、チームワークを強化するための提案を行うことをコミットしました。その提案は、クライエントの価値観に基づいて設定されました。今回のセッションでは、提案を実行した後の振り返りを行い、次の行動計画を立てることを目指します。

評価と調整の具体的なセラピーの会話例

評価と調整 (Assessment and Adaptation) のプロセスの行動の振り返りとして、目標に対する行動がどの程度達成されたかを振り返り、成功した点と改善が必要な点を確認します。その後は、成功と失敗から学び、次にどのような行動を取るべきかを計画することと、必要に応じて、目標を調整したり、新たな目標を設定するアプローチにより、クライエントは自分自身の進歩を客観的に評価し、より効果的な行動を続けていくことができるようになります。
セラピーのフォローアップとしては、クライエントが実際に行動を起こし、その結果を評価することを通じて、クライエントの成長や次のステップへの意識を高めています。このプロセスにより、クライエントは価値観に基づいた行動を継続的に取り、それに応じて必要な調整を行うことで、自己成長を促進できます。

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行動の振り返り

セラピスト: 「前回のセッションで、チームリーダーに提案をするという目標を立てましたね。どのように進められましたか?」

クライエント: 「はい、実際に提案しました。でも、思ったほど反応が良くなかったんです。リーダーは聞いてくれたんですが、あまり関心がないように見えました。」

セラピスト: 「提案をするという行動自体は、しっかりと実行できたのですね。それは素晴らしいことです。まずそのことを評価しましょう。提案内容についてはどう感じましたか?」

クライエント: 「うーん、もう少し具体的に伝えられたかもしれませんし、他のメンバーを巻き込んでから話をすればよかったかもしれないと感じています。」

セラピスト: 「そう感じたんですね。では、今回の経験から学んだことを整理してみましょう。どの点がうまくいったと思いますか?そして、どの点を改善したいと思いますか?」

クライエント: 「うまくいった点は、自分の考えを伝えられたことです。ただ、リーダーの反応をもっと引き出すために、提案をもっと具体的にしておくべきだったかもしれません。」

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学びと改善

セラピスト: 「具体的な提案内容や、他のメンバーのサポートを得ることで、もっと効果的な結果が得られると感じたんですね。これから、その改善点を踏まえて、どんな行動をとりたいと思いますか?」

クライエント: 「次回は、事前にチームメンバーに意見を求めて、チームのサポートを得た上で、もう一度リーダーに提案をしてみたいと思います。」

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ゴールの再設定

セラピスト: 「良いアイデアですね。それによって、提案の効果が高まりそうですね。次回は、その新しいアプローチを試してみて、また結果を一緒に振り返りましょう。実行する前に、何か準備が必要なことはありますか?」

クライエント: 「はい、まずメンバーに話をしてみます。その後、リーダーに再提案します。」

セラピスト: 「素晴らしいです。その計画を進める際に、何かサポートが必要であれば、いつでも相談してくださいね。次回のセッションで、どんな成果があったか一緒に見ていきましょう。」

ACT6ステップのための一人でできるトレーニング「マインドフルネス・エクササイズ・フレームワーク」をご覧ください。

阻害する要因「FEAR(恐れ)」

ACTでは、心の柔軟さを阻害する要因の一つとして「FEAR(恐れ)」を挙げていますが、 実践でのそれぞれの要素について、セラピストとクライエントのセッションでどのように捉え、調整するかを具体的な会話例を交えて説明します。

その前に「FEAR」という言葉を、心の柔軟さを阻害する要因の頭文字として説明しています。

  • F: Fusion with your thoughts(思考との融合)
    融合(フュージョン)とは、思考や言葉と自己の結びつきが非常に強くなる状態を指します。つまり、思考と自己の区別がつかなくなり、思考が真実や指示として受け入れられてしまうことを意味します。例えば、「私はダメな人間だ」という否定的な思考にフュージョンしてしまうと、それを真実と受け入れ、自己価値の低下や自己批判的な感情が湧き上がる可能性があります。
  • E: Evaluation of experience(経験の評価)
    過去の経験や現在の経験を判断し、評価する傾向を指します。特定の経験を「良い」「悪い」とラベリングし、それに基づいて自己や他者を評価します。経験をラベリングすることで、その経験に固執し、過去の出来事や現在の状況に縛られてしまう傾向があります。
  • A: Avoidance of discomfort(不快感の回避)
    不快な感情や経験から逃れようとする傾向を指し、苦痛や不安、恐怖といった不快な感情を回避しようとします。この回避の試みは、一時的には不快感を軽減させるかもしれませんが、長期的には心の柔軟性を制限し、問題や困難に対処する能力を阻害する結果となります。
  • R: Reason-giving for behavior(行動の理由付け)
    苦痛や不快感から逃れるために、自己正当化や理由付けを行う傾向を指します。人は、自分の行動や選択に対して合理化や正当化の理由を見つけることで、不快感や心の葛藤から逃れようとします。長期的には問題や困難から逃れるための制約を生み出し、自己の成長や意味づけを妨げる結果となります。
FEAR
F: Fusion with your thoughts(思考との融合)

クライエントが自分の思考と融合し、それに強くとらわれると、思考が現実のように感じられ、行動の自由が制限されます。思考と距離を取ることで、心の柔軟性を高めることができます。

思考との融合の具体的な会話例

クライエント: 「私はいつも、他人に迷惑をかけるんじゃないかって考えてしまいます。だから、あまり人と関わらないようにしています。」

セラピスト: 「その『他人に迷惑をかける』という思考は、迷惑をかけてしまった経験から刺激になっていて、イメージとして浮かぶことによって現実が見えなくなっている言語行動というものなのですよ。『他人に迷惑をかける』という「言葉」だけなのに、思考と現実を混同して影響を受けているだけなんですよ。そして、毎回あなたの行動を制限しているんですね。」

クライエント: 「うーん…それでも他人に迷惑をかけてしまったら、どうしようと思えてしまいます。」

セラピスト: 「今から、その『他人に迷惑をかける』という思考に少し距離を置く練習をしてみましょう。その『他人に迷惑をかける』という言葉を何度も繰り返してみてください。例えば、30秒間ぐらい『他人に迷惑をかける…他人に迷惑をかける…』と繰り返し言ってみましょう。」

クライエント: 「(言葉を繰り返す)…なんか、だんだんその言葉が変な感じになってきました。意味が薄れてきたというか。」

セラピスト: 「そうなんです。思考を繰り返し言うことで、その言葉が持つ力が少し薄れて、単なる音のように感じられることがあります。私たちは、思考を事実だと思い込んでしまうことがありますが、実際にはそれはただの言葉に過ぎないのです。」

クライエント: 「確かに、その思考(言葉)にとらわれて、自由に行動できていない感じがします。」

セラピスト: 「そうですね。このように、思考をただの言葉として観察することで、少しずつその影響を和らげることができるかもしれません。」

FEAR
E: Evaluation of experience(経験の評価)

クライエントが自分の経験を評価し、それに対して良し悪しを判断すると、その評価が行動を制限することがあります。経験をそのまま受け入れることで、より柔軟な行動が可能になります。

経験の評価の具体的な会話例

クライエント: 「昨日、同僚と話をしたんですが、会話がうまくいかなかったんです。私はやっぱり社交が苦手なんだと思います。」

セラピト: 「その会話がうまくいかなかったと感じたのは、どんな評価をしているからでしょうか?」

クライエント: 「私が何を言っても、相手があまり反応しなかったからです。きっと私がつまらない話をしていたんだと思います。」

セラピスト: 「その評価が、あなたにどのような感情や行動をもたらしていますか?」

クライエント: 「恥ずかしくて、もう同僚と話したくないと思っています。」

セラピスト: 「あなたは『会話がうまくいかなかった』という考えを持っている一方で、その考えを観察することもできる存在です。この思考が浮かんできた時に、単に『ああ、またこの『会話がうまくいかなかった』という思考が浮かんできたなとラベルを付けてみてください。どんな感じがするか、試してみましょう。」

クライエント: 「わかりました。(しばらくして)…確かに、それがただの思考だと少し客観的に見られる気がします。」

セラピスト:その客観的な見方で、ただ『会話があった』という事実だけを見てみましょう。それに対して、何か新しい視点が見えてきますか?」

クライエント: 「うーん…確かに、ただの会話だっただけで、必ずしも失敗だったわけではないかもしれません。」

FEAR
A: Avoidance of discomfort(不快感の回避)

クライエントが不快感を避けることで、かえってその不快感が強まることがあります。回避行動を減らすことで、心の柔軟性を高めることができます。

不快感の回避の具体的な会話例

クライエント: 「私は緊張するとき、必ずその場から逃げたくなります。だから、重要な会議には出たくないんです。」

セラピスト: 「その不快感から逃げることで、何か得られるものがありますか?」

クライエント: 「一時的には安心感が得られますが、後で自己嫌悪に陥ります。」

セラピスト: 「その場から逃げずに、不快感を少しだけ感じながら、その状況にとどまるとどうなるでしょうか?それについて考えたことはありますか?」

クライエント: 「正直言って、とても怖いです。でも、その不快感に耐えることで何か変わるのでしょうか。」

クライエント:「その不快感を感じながら、もう少しそれをじっと見つめてみましょう。それがただそこにあるだけだということを認めてみてください。そして、それをどうすることもせずに、ただその存在を受け入れてみましょう。」

クライエント: 「…少し、落ち着いてきたような気がします。」

セラピスト: 「そうですね。少しずつその不快感を感じながら、逃げずにその場にとどまる練習をしてみましょう。初めは小さな場面から始めてみてもいいですよ。」

FEAR
R: Reason-giving for behavior(行動の理由付け)

クライエントが自分の行動を合理化することで、行動の幅が制限されることがあります。行動を理由ではなく、価値観に基づいて選択することが大切です。

行動の理由付けの具体的な会話例

クライエント: 「私は仕事が忙しくて、家族との時間をとれないんです。だから、家族との関係がうまくいかないのは仕方ないと思っています。」

セラピスト: 「忙しい仕事が、家族との時間を制限しているという理由ですね。それがどのように感じられますか?」

クライエント: 「ちょっと言い訳っぽいかもしれません。でも、どうしようもないんです。」

セラピスト: 「その理由の背後には、どんな価値観がありますか?家族との時間を大切にしたいという価値観はありますか?」

クライエント: 「あります。でも、仕事を優先しなければならないと思ってしまうんです。」

セラピスト: 「仕事も大切ですが、家族との時間もあなたにとって大切な価値ですね。その価値観に基づいて、どんな行動がとれるか一緒に考えてみませんか?」

クライエント: 「そうですね。少なくとも、週に1回は家族と一緒に過ごす時間を意識的に作るようにしてみたいと思います。」

セラピスト: 「素晴らしいですね。その小さな行動が、家族との関係をより良いものにする一歩になるかもしれません。」

このように、セッションの中で「FEAR」に関連する要素を認識し、それぞれに適したアプローチを用いることで、クライエントがより柔軟に行動できるよう支援することが可能です。各要素に対して具体的な対処法を提供することで、クライエントが自分の価値観に基づいた行動を取りやすくなるよう導くことができます。

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