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幼少期の虐待や機能不全家族による感情調節障害

目次

幼少期の虐待環境や機能不全家族による感情調節障害の症状と発症機序、セルフチェックリスト

感情調節障害(Emotional Dysregulation Disorder)とは、自分自身の感情を適切に認識し、調節することが難しい状態を指します。この障害により、日常生活や人間関係において感情が過度に強く反応しやすくなり、安定した感情の維持が難しくなることが特徴です。また、感情が過剰に反応することで、制御できずに衝動的な行動をとってしまい、人間関係や自己評価にも悪影響を与えやすいのが特徴です。この障害を持つ人は、自分の感情を「一時的なもの」として捉えるのが難しく、その瞬間の感情が持続して自分や周囲を大きく左右することが多くなります。

感情調節障害の原因は、遺伝的要因、幼少期のトラウマや環境的な影響、精神的ストレスなどが複雑に絡み合って発生すると考えられています。また、家庭内暴力やいじめ、虐待などの経験も感情調節機能に大きな影響や困難を与えるとされています。

感情調節障害の症状と特徴

症状
感情の過度な強さと変動

感情が通常よりも強く反応しやすく、落ち着くのに時間がかかるため、気分が極端に変わりやすい傾向があります。

例: 些細なことで強い怒りや悲しみを感じやすく、感情が高ぶると長時間冷静になることが難しくなります。例えば、友人からの返事が少し遅れただけで「自分が嫌われているのではないか」と感じて不安や怒りに襲われ、その感情が何時間も続くことがあります。また、職場での些細な指摘に強いショックを受け、「自分は価値がない」と感じて急に気分が沈むなど、日常的に気分のアップダウンが激しくなります。

症状
衝動的な行動

感情が高ぶった際に衝動的な行動を取ってしまうことがあり、後悔や自己嫌悪を伴う場合もあります。例えば、怒りから人間関係に悪影響を及ぼす発言や行動をしてしまうことなどが挙げられます。

例: 感情が高ぶると、衝動的に後悔するような行動を取ることがあります。例えば、パートナーと喧嘩した際に怒りのまま「もう別れたい!」と感情に任せて言ってしまうことがあり、その後に言葉を後悔するケースです。また、友人と意見が合わずに腹が立った際、思わず冷たく無視してしまったり、後になって友人関係を壊したくないと後悔してしまうこともあります。このように、感情が行動に直結してしまい、その行動が長期的な後悔につながる場合が多くなります。

症状
認知の歪み

自分や他者の意図や行動を誤解しやすく、被害的な考え方や極端な解釈をすることが多くなります。

例: 他者の言動を悪意や否定的に解釈しやすく、被害的な考え方に陥ることがあります。例えば、同僚が自分を見て笑っているのを見た時に「自分のことを馬鹿にしているに違いない」と思い込んでしまい、それが事実かどうかを確かめる前に傷ついたり怒りを覚えたりします。また、親しい人がちょっとしたミスや失言をしただけで、「この人は本当は私を大切に思っていない」と感じやすく、極端な考え方に偏りがちです。

症状
人間関係の不安定さ

感情調節が難しいために、特に親しい人との関係において距離感が不安定になりやすく、信頼関係が築きにくいと感じることが多くなります。

例: 親しい関係でも不安や恐れを感じやすく、相手に対する信頼が揺らぎやすくなります。例えば、恋人が忙しくて連絡が少しでも減ると「もう愛されていないのでは?」という不安に駆られてしまい、それが高じると相手を責めたり、逆に急に冷たく振る舞ってしまうこともあります。このような行動が関係性に悪影響を与え、結果として親しい人との関係が不安定になることが少なくありません。

症状
慢性的な空虚感や絶望感

感情の不安定さが続くことで、長期的には空虚感や生きる意味への疑念を抱きやすくなります。

例: 感情の不安定さが続くことで、「自分は何も価値がない」「このままでは何も変わらない」という空虚感や絶望感に陥りやすくなります。例えば、仕事でミスをした時に「自分は何もできない」と過剰に自己否定し、やる気や希望を失ってしまうことが頻繁にあります。また、何か新しいことに挑戦しようとしても、「どうせ自分は成功しないだろう」という考えが浮かび、前向きになれないこともあります。

このページを含め、心理的な知識の情報発信と疑問をテーマに作成しています。メンタルルームでは、「生きづらさ」のカウンセリングや話し相手、愚痴聴きなどから精神疾患までメンタルの悩みや心理のご相談を対面にて3時間無料で行っています。

感情調節障害および複雑性PTSD(C-PTSD)セルフチェックリスト

このセルフチェックリストは、感情の調整やトラウマに関する問題を自己評価するためのものです。以下の40
項目について、あなたがどの程度当てはまるかを評価してください.

「全く当てはまらない(0点)」「あまり当てはまらない(1点)」「どちらともいえない(2点)」「やや当てはまる(3点)」「とても当てはまる(4点)」の5段階で回答してください。

感情調節障害およびC-PTSDセルフチェックリスト(40問)
1.ちょっとしたことで感情が大きく揺れ動きやすい。
2.他人の行動や言葉に対して強い怒りやイライラを感じることが多い。
3.自分の気持ちを表現するのが難しいと感じる。
4.トラウマとなった過去の出来事が何度も思い出される。
5.過去の出来事について考えると、強い不安や恐怖を感じる。
6.日常的に不安感が強く、気が休まらないと感じる。
7.怒りや悲しみを感じたとき、それをうまく抑えることができない。
8.自分にとって重要な人に対しても信頼が難しいと感じる。
9.急に過去のトラウマの記憶が蘇り、動揺することがある。
10.自分が何を望んでいるのか、分からなくなることがある。
11.突発的に大きな感情が湧き出し、それを抑えられないと感じる。
12.他人からの些細な一言で感情が爆発してしまうことがある。
13.自分を守るために、感情を完全にシャットアウトすることがある。
14.自分が不安定であると周囲に感じさせているかもしれないと不安になる。
15.周囲に気を使いすぎて、疲れてしまうことが多い。
16.自分の考えがすぐに変わり、決断が難しいと感じることが多い。
17.些細なことで人間関係に問題が生じることが多い。
18.過去の痛みや怖い思い出に執着してしまう。
19.他人が自分を裏切るのではないかという不安を持つ。
20.感情を爆発させた後に深い後悔や自責の念を感じる。
21.何か問題が起きると自分が悪いと感じてしまうことが多い。
22.強い孤独感を抱え、誰も理解してくれないと感じることが多い。
23.安全で落ち着けると感じる場所が少ない。
24.物事を楽しむのが難しいと感じる。
25.感情的になった後に、感情が収まらずに長く続く。
26.誰かに少しでも批判されると、傷つきやすい。
27.何かに強く反応した後、気分が落ち込むことがある。
28.自分の感情が予測できず、他人に迷惑をかけてしまうことがある。
29.感情を抑えきれずに、物を壊したり叫んでしまうことがある。
30.自分の人生が制御できないと感じることがある。
31.夜に寝る前、過去の嫌な出来事が頭に浮かんでくる。
32.他人からの助けやサポートを頼ることができない。
33.不満や怒りが蓄積して、コントロールできなくなることがある。
34.急に感情が高ぶり、体が震えることがある。
35.自分の感情に振り回されてしまうと感じることが多い。
36.過去の出来事に対して、恨みや憎しみが消えない。
37.誰かに対して愛着を持つことが難しいと感じる。
38.感情をコントロールできないことで、自己嫌悪に陥る。
39.感情のコントロールが難しくなった時に、自傷行為をしてしまうことがある。
40.日常生活において、自分が普通ではないと感じてしまうことがある。
感情調節障害およびC-PTSDセルフチェックリスト(40問)

評価

  • 合計点を計算してください。

このセルフチェックリストにより、クライエントが自身の症状やその影響度合いについて自己理解を深め、カウンセリングやセラピーのステップを明確にします。

合計点評価内容
0-40点感情調節やトラウマへの影響は比較的軽度であり、セルフケアや日常生活の見直しで改善できる可能性があります。
41-80点感情調節やトラウマの影響が中程度であり、カウンセリングやサポートを受けることで安定が期待できます。
81-120点感情調節の問題がやや強く、トラウマが生活に影響している可能性があります。専門家による継続的なカウンセリングやセラピーを検討してください。
121-160点感情調節やトラウマの影響が非常に強く、生活や人間関係に大きな支障が生じている可能性があります。専門的なサポートや心理療法を検討することが強く推奨されます。

他診断カテゴリーの一部と鑑別診断

ICD-11の世界保健機構(WHO)が策定した国際疾病分類には、感情調節障害(Emotional Dysregulation Disorder)としての特定の診断基準は設けられていませんが、類似する症状が見られるいくつかの障害が診断分類に該当します。感情調節障害に関する特徴的な症状は、次のような診断カテゴリーの一部として記述されています。

また、複雑性PTSD(C-PTSD)による感情調節障害は、多彩な症状を呈することから、さまざまな診断名がつけられてしまいます。よくある診断としては、境界性パーソナリティー障害、双極性障害、ADHD、学習障害、、適応障害、不安障害、感覚情報処理障害、大うつ病や気分変調症、身体表現性障害、物質乱用や依存、摂食障害、睡眠覚醒障害、反抗挑戦性障害、素行性反社会性障害、分離不安障害などです。このような障害と一致する症状を訴えることが多いため、診断カテゴリーの一部の記述は鑑別診断を確立する上で役立つ可能性があります。

  1. 境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder; BPD)
    • 境界性パーソナリティ障害は、感情調節の困難さや極端な感情の変動、不安定な対人関係、自傷行為や衝動的な行動が見られるため、感情調節障害の症状に関連性が高いとされます。
    • ICD-11では、BPDの診断において「情緒不安定性」「自己の不安定性」「衝動性」などが重視されています。
  2. 双極性障害(Bipolar Disorder)
    • 双極性障害は、感情の過度な高揚(躁)と著しい抑うつ(うつ)が交互に現れる特徴があり、感情調節に関する困難が見られます。ただし、感情の変動が周期的である点が感情調節障害と異なります。
  3. 注意欠如・多動症(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder; ADHD)
    • ADHDの一部の症状として、衝動的な行動や感情の制御が困難であることがあり、感情調節の問題が関連することがあります。ADHDでは、不注意や多動性も診断基準に含まれますが、感情面での衝動性が強い場合は、感情調節の障害と混同されることがあります。
  4. 適応障害(Adjustment Disorder)
    • 適応障害は、ストレスフルな出来事に対する不適応な反応が原因で、感情的な不安定さや絶望感を伴うことが特徴です。持続的な感情調節困難が見られる場合、特定の状況下で適応障害が発生することがあります。
  5. 気分調節障害(Disruptive Mood Dysregulation Disorder; DMDD)
    • ICD-11では特に小児期の障害として分類されることが多いですが、怒りの発作や慢性的なイライラが続く場合、気分調節障害と関連する診断が行われることがあります。

乳幼児期における感情の発達や発症機序

乳幼児期の感情の発達は、脳の成長や環境との相互作用を通じて進みます。この時期の感情発達は、乳幼児の社会的・情緒的発達にとって極めて重要であり、その後の人生における感情調節の基礎を築きます。特に、養育者との愛着関係が深く関わり、これが十分に形成されると、安心感や自己肯定感が育まれ、ストレスや困難に対処できる力が養われます。一方で、適切な感情発達が阻害されると、情緒面での問題や感情調節の困難が生じやすくなります。

乳幼児期における感情の発達の基本的な流れ

発達
生後0〜6か月
  • 基本的な感情の表出:この時期の乳児は、主に快・不快という感情で反応します。不快なときには泣く、快いときには微笑むといった表情や行動を通じて、養育者とコミュニケーションを図ります。
  • 養育者との絆形成:乳児は養育者の顔、声、匂いなどに反応し、基本的な信頼感を育んでいきます。この時期に適切に養育者と接することで、他者とのつながりや安心感を体験し、将来的な感情の安定に適応します。

感情調節障害の理解には、乳児期の感情表現と養育者の対応が重要な役割を果たします。
生後0〜6か月の乳児は、泣くや微笑むといった行動で、自分の欲求や満足感を養育者に伝えます。この時期の養育者の応答の仕方によって、乳児の感情表現がどのように発達するかが大きく影響されます。

例えば、養育者が乳児の要求をすぐに満たし続けると、乳児は不快感を感じることが少なくなり、快・不快といった感情の区別が十分に発達しない可能性があります。一方、養育者が過度に要求を抑えようとすると、乳児は強い不快感を経験し、泣いたり叫んだりといった強い感情表現を示すようになりますが、微妙な感情の意識が育ちにくくなります。

つまり、乳児期には、養育者が乳児の表現に適切に応答することで、感情の区別が進み、適切な頻度と強度の感情表現が形成されていきます。

発達
生後6か月〜2歳
  • 複雑な感情の発達:恐れ、怒り、喜び、興味といった、より複雑な感情が芽生え始めます。特に恐怖心は、周囲の状況や見慣れない人に対して警戒心を持つため、自己防衛の基盤としても機能します。
  • 愛着の形成と分離不安:特定の養育者との愛着が形成され、分離不安が見られるようになります。安心できる養育者の存在が、自己安定感や自己価値感を確立する基礎となります。

乳児期に学んだ感情表現の適切な強度や頻度は、成長とともに様々な場面で適応され、言語による表現を通じて社会に受け入れられる方法を学んでいきます。これにより、幼児は未分化な感情から喜び、興味や恐れ、怒り、悲しみといった「カテゴリー感情」を理解し、やがて複数の感情が重なり合った自分の内面や他者の感情も理解できるようになります。

発達
2歳〜5歳
  • 自己意識の芽生え:子供は自分の存在や自分を他者と異なる存在として認識し始めます。自己認識の発展に伴い、羞恥心、誇り、罪悪感などの自己意識を伴う感情が発達します。
  • 感情の自己調整:この時期に子供は少しずつ自分の感情を抑制したり、表現を調整する能力を養っていきます。養育者の指導や模範、言葉かけが重要であり、「泣かない」「怒ってもいい」といった感情の扱い方を学びます。
  • 共感と他者意識の発達:他者の気持ちに共感し始め、社会的な絆が深まります。この発達は対人関係の基礎を築く上で重要です。

2歳を過ぎて象徴遊びや言葉が発達すると、幼児は自分の感情をより明確に認識し、区別できるようになります。この時期には、養育者や周囲のフィードバックを通じて「自分の感情表現が内面の感覚と一致しているか」「社会的に適切か」を学び、感情を言語化する力が養われます。このプロセスによって、幼児はより複雑で多様な感情を体験し、理解を深めていきます。

発達
発達における感情調節の困難と長期的影響

乳幼児期に健全な愛着形成が妨げられると、感情調節が困難になる傾向が高まります。この問題は思春期以降にも続くことが多く、次のような影響を及ぼすことがあります。

  • 対人関係の困難:他者との信頼関係が築けない、過度に依存的・回避的になるといった問題が現れることがあります。これは、乳幼児期の不安定な愛着や感情調節の難しさからくる影響です。
  • 心理的問題のリスク増加:不安障害や抑うつ、衝動制御の障害(例:境界性パーソナリティ障害)などが発症するリスクが高くなる傾向があります。これらは未熟な感情調節能力が影響するためと考えられます。
  • 自己肯定感や自尊心の低下:愛着形成の失敗は、自己価値観にも影響を及ぼし、自分を肯定できない、あるいは自己嫌悪感が強くなることが多いです。これは感情調節の困難さとも密接に関連しています。

感情を細かく区別し認識できる力は、混沌とした不安に陥らないためにも重要です。例えば、幼児が「恥」という感情を理解していれば、その体験を意味付けて自己に統合できますが、もし「恥」という概念がなければ、その感情は強い自己嫌悪として感じられ、嫌な体験として回避する可能性が高まります。

発達
発症機序と影響要因

養育環境

  • 愛着の質:乳幼児が安定した愛着関係を養育者と築けるかどうかが、感情の発達や調整力の発達に重要です。安心感と受け入れられる体験を多く経験するほど、感情的な安定が保たれやすくなります。
  • 虐待やネグレクトの影響:幼児期に虐待やネグレクトを経験すると、脳の発達に負の影響が及びます。特に、ストレスを処理する領域である扁桃体や、感情制御に関わる前頭前皮質が過敏になりやすく、持続的な不安や抑うつに陥りやすくなります。

神経生物学的要因

  • 脳の発達と可塑性:乳幼児期は神経の可塑性が高く、経験が脳の構造や機能に直接的な影響を及ぼします。肯定的な環境であれば健全な発達が促されますが、逆にストレス過多な環境では感情制御の機能が未発達のまま成人期を迎える可能性があります。
  • ストレスホルモン(コルチゾール)の影響:虐待や不安定な環境で育つと、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が慢性的に増加し、情緒面や認知面の発達に悪影響を及ぼすことがあります。感情調節の障害や注意集中の困難さが生じやすくなるとされています。

乳幼児期のC-PTSDと感情調節障害

乳幼児期に養育者から虐待を受けた場合、特に発達期における脳や心の発達に大きな影響を及ぼし、複雑性PTSD(Complex PTSD)や感情調節の困難につながる可能性が高まります。虐待やネグレクトといった深刻なトラウマ体験を乳幼児期に受けると、安全な愛着形成が妨げられ、心理的な支えがない中で不安や恐怖、孤立感にさらされやすくなります。

複雑性PTSD(Complex PTSD)とその特徴

複雑性PTSDは、主に幼少期から繰り返し経験する慢性的な虐待や放置により発症しやすく、通常のPTSDとは異なり次のような症状が見られます。

  • トラウマ関連症状
    • フラッシュバックや悪夢、過剰な警戒心などの一般的なPTSD症状が見られますが、複雑性PTSDではこれらに加えて感情面や自己認識、人間関係においても深刻な影響が出ます。
  • 感情調節の困難
    • 幼少期から虐待を受けた場合、正常な情緒発達が妨げられるため、感情が過度に高ぶったり、逆に麻痺したような感情の欠如が見られることがあります。このため、些細な出来事でも極端に感情が揺さぶられやすくなり、感情をうまく抑えたりコントロールすることが困難です。
  • 否定的な自己認識
    • 乳幼児期のトラウマ体験により、「自分は愛されない」「自分は価値がない」といった否定的な自己認識が深く根付くことがあり、これが自己嫌悪や自己破壊的な行動につながることもあります。
  • 対人関係の問題
    • 信頼関係の構築が困難であり、対人関係が不安定になる傾向があります。養育者からの虐待を受けた子どもは他人への信頼や愛情を持ちにくくなり、成人期になっても不安定で依存的な関係を繰り返しがちです。

感情調節障害や感情調節の困難

感情調節の機能は、幼少期の養育者との安定した関係を通じて発達するため、虐待を受けると次のような問題が生じやすくなります。

  • 感情の強さと制御の困難
    • 虐待の経験から、脳の感情調節に関わる領域(たとえば扁桃体や前頭前皮質)が過度に敏感になるため、通常の状況でも過度に反応してしまいます。また、感情が持続的に高ぶりやすく、怒りや悲しみ、恐怖などの強い感情を感じ続けやすくなります。
  • 衝動的な行動や自己破壊的な行動
    • 感情をうまくコントロールできないため、極端な怒りや絶望に駆られると、衝動的な行動や自己破壊的な行動を取ることが多くなります。例えば、激しい怒りから相手を攻撃したり、感情の発散のためにリスクの高い行動を取ることが増えがちです。
  • 心理的な麻痺や感情の遮断
    • 過度の感情負荷に対する防衛反応として、感情を一切感じない、あるいは感情を遮断する状態に陥ることがあります。これにより、周囲からは無関心に見えることがある一方で、本人は内側で強いストレスや孤独を抱えている場合が多くなります。

複雑性PTSDと感情調節の困難の相互作用

乳幼児期に虐待を受けたことによる複雑性PTSDと感情調節障害は、互いに影響し合いながら症状を複雑にし、次のような状況が引き起こされます。

  • 反応の過敏性
    • 複雑性PTSDによるフラッシュバックや強い不安感が引き金となり、感情が一気に高ぶりやすくなります。これは、感情調節の困難と重なり、心身にとって極めて消耗が激しい状態を作り出します。
  • 対人関係への悪影響
    • 感情の制御が難しいため、人間関係で頻繁に誤解や衝突が生まれやすくなります。また、周囲が本人の感情を受け止めきれない場合、孤立感がさらに強まり、症状が悪化する場合もあります。
  • 自己破壊的行動や回避行動の助長
    • 自分の感情をコントロールできないことに対する無力感や自己嫌悪が強くなり、これが原因で自己破壊的な行動や逃避行動(アルコールや薬物、暴力的な行動など)を引き起こす可能性があります。

アレキシサイミア(失感情症)と感情調節障害

アレキシサイミア(失感情症)と感情調節障害は、どちらも感情をうまく認識し、調整することが難しいという点で共通点がありますが、それぞれの特徴や発現の仕方が異なります。アレキシサイミアは主に感情の認知や表現に関する障害を指し、感情調節障害は認知された感情を制御し適切に表現する力に関する問題を指します。

アレキシサイミアと感情調節障害は、どちらも「感情の適切な処理が難しい」という点で共通していますが、違うレベルの問題を持っています。そのため、両者は共存することがあり、アレキシサイミアが感情調節障害に影響を与えるケースも多く見られます。

アレキシサイミアの特徴

アレキシサイミア(失感情症)は、感情を自覚することや他者に伝えることが困難な状態を指します。主な特徴には次のようなものがあります。

  • 感情の認識困難:自分の感情が何であるのかがわからない。
  • 身体症状への集中:感情を身体的な症状として捉えることが多く、「胸が苦しい」「頭が重い」などの感覚はあるが、それが「悲しみ」や「怒り」といった感情と結びつかない。
  • 想像力や空想の欠如:内面的な経験が少なく、表現力が乏しい。
  • 感情表現の困難:他者に対して自分の感情を伝えることが難しいため、対人関係にも影響が出やすい。
  • 感情の認識不足が調節困難を引き起こす
    アレキシサイミアを持つ人は、そもそも感情を明確に認識できないため、感情調節の第一歩が踏み出せません。例えば、ストレスや怒りを感じているのにそれが「怒り」であると認識できないため、適切な対応(深呼吸、冷静になるなど)が取れず、結果として衝動的な行動に走ったり、長時間不快な感情に囚われたりします。

このような特性から、アレキシサイミアの人は自分の感情に気づくことができず、その結果、感情調節が非常に難しくなります。

感情調節障害の特徴

感情調節障害は、感情の強さや持続時間をコントロールすることが難しいという特徴を持ちます。主な症状は次のようになります。

  • 感情反応の過度な強さ:些細な出来事に対して強い感情反応を示す。
  • 感情の持続時間が長い:一度感じた感情が長時間続き、なかなか収まらない。
  • 衝動的な行動:感情の高まりにより衝動的に行動してしまうことがある。
  • 対人関係の不安定性:感情の抑制が難しいため、対人関係が不安定になることがある。
  • 感情調節障害が感情の自覚を妨げる
    感情調節がうまくいかないことによってアレキシサイミア的な傾向が強まることもあります。感情が高まりすぎると、混乱や過剰なストレスが生じ、自己の感情を意識することがますます難しくなります。その結果、感情を認識する力が低下し、アレキシサイミアのような症状が現れることがあります。

感情調節障害では、感情そのものが強く表出しやすい反面、感情をどうコントロールするかに問題が生じます。このため、対人関係や社会生活にも影響が現れます。

臨床現場では、アレキシサイミアと感情調節障害を併せ持つクライエントには、まず感情の認識と表現方法を学ぶ支援が行われます。その後、認識された感情を適切に調整するスキルを身につけるための段階を踏みます。

  • 感情ラベリングの練習:まず、日常の中で自分が感じた感情に「名前」を付ける練習を通じて、感情を認識するトレーニングを行います。
  • マインドフルネスや自己洞察:今の感情に気づくこと、感情にとらわれずに観察することを促すためのマインドフルネスが効果的です。また、過去の経験に基づいた感情のパターンを洞察することで、自己理解が深まります。
  • 感情調節スキルの導入:感情が強く出すぎるときの対処法や、リラクゼーションテクニックを用いることで、感情の強さを和らげ、持続時間を短縮することができるようにサポートします。

アレキシサイミアと感情調節障害は、それぞれ感情の認識と調節の異なる側面で困難を抱えているものの、密接に関わり合い、互いに影響を及ぼし合うことが多くなります。クライエントに対しては、感情認識の支援から始め、徐々に感情調節の技術を身につけさせる支援が有効です。

心理臨床場面

感情の認知に困難を抱えるクライエントとの心理臨床場面での関わりには、感情の言語化と自己認識の促進、信頼関係の構築、さらに感情調節の技法の導入が重要です。このようなクライエントは、感情を明確に認識したり適切に表現することが難しいため、次のアプローチを通して心理的支援が進められます。

STEP
ラポール(信頼関係)の構築

感情認知が困難なクライエントは、自身の感情を表現することに不安や戸惑いを抱く場合が多いため、まずは信頼関係を築くことが最優先です。心理臨床家はクライエントに共感し、無条件の受容を示すことで、クライエントが安全に自己を開示できる環境を整えます。

  • 非指示的アプローチ:クライエントが自由に話せるように、過度な質問や解釈を控え、受け止めながら傾聴することで安心感を与えます。
  • 受容的な態度:クライエントが表現する内容や感情に対して否定的な反応を避け、受容的な態度を示すことで、自己開示がしやすくなります。
STEP
感情の認識とラベリングを支援する

クライエントが自分の感情を理解できるようにするためには、感情のラベリングをサポートすることが効果的です。これは、自身の体験を振り返り、感情に「名前」を付けることで、徐々に自己の内面を理解していくプロセスです。

  • 身体反応の意識化:感情が身体にどのように現れるかに注意を向け、例えば「胸が締め付けられる感じがする」「肩が重い感じがする」といった身体感覚と感情の関連を確認します。これにより、身体反応を通じて感情の存在を認識できるようになります。
  • 感情ラベルの提供:クライエントが感情を認識する際に言葉で表すのが難しい場合、臨床家が「それは怒りに近い感情ですか?」「不安という感覚かもしれませんね」などと、適切な感情のラベルを提供してサポートします。
STEP
感情表現の促進

感情を表現することに慣れていないクライエントには、表現方法を練習する機会を提供します。例えば次の方法が用いられます。

  • イメージワーク:感情を言葉ではなくイメージや絵で表現することも効果的です。「自分の気持ちを絵や色で表してみましょう」という指示で、クライエントが直感的に感情に近づくことが可能になります。
  • 役割演技(ロールプレイ):仮想の場面で感情を表現する練習を行い、自分の気持ちを言葉や仕草で表す経験を通じて、感情表現のスキルを向上させます。
STEP
感情調節のスキルの導入

クライエントが感情を認識できるようになった後は、感情調節のスキルを学び、感情の扱い方を向上させる段階に進みます。具体的なスキルには次のようなものがあります。

  • マインドフルネス:現在の瞬間に意識を集中し、感情を否定せずに観察する練習を通じて、感情に流されることなく冷静に対処できるようになります。
  • ディストラクション(気分転換):強い感情が湧いたときに、意図的に異なる活動に取り組んで気を紛らわせることで、過度な感情反応を緩和する技法です。
  • 思考のリフレーミング:感情を引き起こす思考パターンに気づき、異なる視点から捉え直すことで、感情の変化を促します。例えば「失敗するかもしれない」から「学びの機会と捉えてみよう」といった具合です。
STEP
感情的経験の振り返りと統合

感情に対する理解と調整スキルが向上した段階では、過去の感情的な体験を振り返り、どのような感情が生じたのか、その感情の意味を再評価することで、自己理解が深まります。このプロセスは、クライエントの感情に対する内省的な態度を育て、自己を肯定的に捉える力を養います。

  • 自己洞察:感情を振り返り、過去の出来事や関係性の中で自身が感じたことを深く理解するようにサポートします。例えば、特定の場面で抱いた恐れや怒りが、現在の対人関係にも影響を及ぼしている可能性もあります。
  • 意味の再構築:過去の経験を肯定的に捉え直し、新たな自己認識を形成することで、将来的な感情調節においても安定感が生まれます。
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