愛着障害の反応性愛着障害(反応性アタッチメント障害)と脱抑制対人交流障害の比較と原因や症状などの知識を学ぶ
愛着障害(Attachment Disorder)は、乳幼児期や幼少期における養育者との安定した愛着関係の形成に失敗した結果として、情緒的および対人関係の問題が生じる状態を指します。
愛着理論は、イギリスの心理学者ジョン・ボウルビー(John Bowlby)によって提唱され、乳幼児は生まれながらにして主要な養育者(通常は母親)との絆を形成し、その絆が子どもの情緒的安定や対人関係の基盤となるとされています。メアリー・エインズワース(Mary Ainsworth)による「ストレンジ・シチュエーション」実験を通じて、愛着スタイルは次の4つに分類されます。
- 安全型(Secure Attachment)
- 子どもは養育者との関係に安心感を持ち、養育者がいない時に適度な不安を感じ、再会時に安心感を取り戻す。
- 不安-回避型(Anxious-Avoidant Attachment)
- 養育者との関係において距離を置く傾向があり、分離に対してあまり不安を示さず、再会時も接触を避ける。
- 不安-アンビバレント型(Anxious-Ambivalent Attachment)
- 養育者に対して強い依存心を持ち、分離に際して過度な不安を示し、再会時には怒りや抵抗を示すことがある。
- 混乱型/無秩序型(Disorganized/Disoriented Attachment)
- 養育者との関係において一貫性がなく、行動が混乱している。これは養育者が一貫性のない、あるいは虐待的な場合に見られる。
幼児期に養育者との愛着関係があったにもかかわらず、養育者が十分な愛着環境を提供できず、子どもが適切な愛着形成ができなかった場合に反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害(RAD)を発展させる場合があります。
一方、養育者が存在しなかった、または養育環境がないに等しい状況に置かれ、愛着関係が存在しなった場合に脱抑制対人交流障害(DSED)が発生することがあります。
また、養育者との愛着関係が大きく損なわれた場合には、RADとDSEDのどちらも発生する可能性があります。
- 反応性愛着障害(Reactive Attachment Disorder, RAD)
- 特徴: 他者への情緒的な反応が乏しく、養育者に対しても感情的に距離を置く傾向がある。適切な愛着を形成できないため、他者への信頼感や親密さを欠いている。
- 原因: 養育者からの一貫したケアの欠如、虐待やネグレクトなど。
- 症状: 過度の引きこもり、他者との関係構築の困難、感情表現の制限。
- 脱抑制型対人交流障害(Disinhibited Social Engagement Disorder, DSED)
- 特徴: 他者に対する過度の親密さや馴れ馴れしさを示す。見知らぬ人に対しても警戒心が少なく、過剰な接触を試みる。
- 原因: 養育者の頻繁な交替、一貫性のない養育環境など。
- 症状: 不適切な社会的行動、見知らぬ人に対する過度の親密さ。
愛着障害は、成長過程において様々な影響を及ぼします。情緒的な不安定、対人関係の困難、自己価値感の低さなどが挙げられますが、これらの状況においては、幼児期に適切な愛着形成ができず、その後の心理的発達に深刻な影響を与える可能性があるため、早期の介入が必要とされますが、現状では支援や援助ができることはほとんどありません。しかし、愛着障害の理解と早期介入は、子どもの健全な発達において非常に重要です。適切な支援を受けることで、愛着障害を持つ子どもたちが健全な人間関係を築くための基盤を形成することが可能となります。治療として、愛着の修復を目指すために、次のアプローチが取られます。
- 個人療法
感情表現の練習、過去のトラウマの処理など。 - 家族療法
家族全体の関係を改善し、一貫性のある養育環境を構築する。 - 養育者の支援
養育者が適切な養育方法を学び、実践するための支援。
愛着障害の主な原因は、養育者との関係における一貫性や安定性の欠如ですが、具体的には次のような状況が挙げられます。
- 虐待やネグレクト
養育者からの身体的、情緒的な虐待や無視。 - 一貫性のない養育
養育者が頻繁に変わる、一貫した愛情やケアが得られない。 - 早期の分離
子どもが長期間にわたって主要な養育者から離れている。 - 情緒的に不安定な環境
養育者自身が精神的に不安定である、あるいはストレスフルな家庭環境。
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愛着障害の歴史
愛着障害については深い歴史があります。例えば、愛着理論を基に理解され、ジョン・ボウルビーとメアリー・エインズワースによって発展していることや、従来、愛着障害はRADの反応性愛着障害(反応性アタッチメント障害)のことを指していましたが、1994年、DSM-Ⅳ(アメリカ診断基準マニュアル)で脱抑制型が発表され、2013年のDSM-5からはRADよりDSEDが分離されて診断基準が構築されていることなども歴史には含まれています。
愛着障害の歴史は、愛着理論の発展とともに進化してきました。ジョン・ボウルビーとメアリー・エインズワースの先駆的な研究を基盤に、愛着理論は心理学と精神医学の重要な理論の一つとなりました。
愛着障害の歴史とその発展の概要は愛着理論の基礎から始まり、診断基準の変遷、治療アプローチの進化、そして社会的認識の向上がこの分野の進化を支えています。次に、その歴史的発展を概観します。
ジョン・ボウルビーの研究
- 1940年代-1950年代
ボウルビーは、子どもの情緒的発達における母親との絆の重要性を研究しました。研究は、子どもの発達における早期の分離や喪失の影響に焦点を当てています。 - 1958年
ボウルビーは「母子愛情剥奪仮説(Maternal Deprivation Hypothesis)」を提唱し、母親との初期の絆が子どもの健全な心理的発達に不可欠であると述べました。
- 1970年代
エインズワースは「ストレンジ・シチュエーション実験」を通じて、子どもと養育者の愛着スタイルを分類しました。彼女の研究により、安全型、不安-回避型、不安-アンビバレント型、混乱型/無秩序型の愛着スタイルが明らかになりました。
反応性愛着障害(RAD)の登場
- 1980年
DSM-III(アメリカ精神医学会が発行する診断基準マニュアル)に初めて反応性愛着障害(RAD)が導入されました。RADは、主に養育者との不適切な愛着形成に起因する情緒的および行動的な問題を指します。
- 1994年
DSM-IVで、RADの下に「脱抑制型(Disinhibited Type)」と「抑制型(Inhibited Type)」の2つのサブタイプが認識されました。これにより、見知らぬ人に対する過度の親密さを示す脱抑制型が具体的に定義されました。
- 2013年
DSM-5でRADとDSED(脱抑制型社会的関与障害)が明確に分離されました。この改訂により、RADは抑制型の特徴を持つものと定義され、DSEDは見知らぬ人に対する過度の親密さや社会的境界の欠如を特徴とする障害として独立しました。
現代の研究と理解
- 2000年代以降
愛着障害に関する研究は進み、脳科学や発達心理学の知見が取り入れられるようになりました。虐待やネグレクトの影響が脳の発達に及ぼす影響についても研究が進んでいます。
治療アプローチの発展
- 治療法の多様化
愛着障害の治療には、個別療法、家族療法、遊戯療法、トラウマ治療など様々なアプローチが開発されました。また、養育者に対する教育や支援も治療の一環として重要視されています。
社会的認識の向上
- 啓発と支援体制
愛着障害についての理解が広まり、早期介入の重要性が認識されています。養育環境の改善や児童福祉サービスの強化が進められています。
愛着理論と愛着障害に関する研究は今後も続き、さらなる知見の蓄積が期待されます。特に、遺伝的要因や環境要因の相互作用、トラウマの影響とその治療法についての研究が進むことが予想されます。また、社会全体での理解と支援体制の充実が、愛着障害を持つ子どもたちの健全な発達を支えるために重要となります。
反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害(RAD)
反応性アタッチメント障害(RAD)または反応性愛着障害は、幼児期に不適切な養育体験に曝された子供たちが、愛着形成の過程で問題を抱える障害です。この障害は、幼児期の関係性が著しく不適切で、安定した愛着関係が形成されなかったために発生すると考えられています。
RADの概念は、初めて1940年代にボウルビー(Bowlby)によって提唱されました。ボウルビーは、子供たちが生存するために愛着関係を求める本能があることを強調し、母親などの主要なケアプロバイダーとの安定した愛着関係が形成されなかった場合に、幼児期に心理的な問題が発生する可能性があると指摘しました。
RADの症状には、社会的に引きこもりがちで、他人との関係を避ける、感情の希薄化、他人に対して冷たく、愛着を示さないなどが該当します。また、幼児期の虐待、ネグレクト、養子縁組などの不適切な養育体験が、この障害の発生に関連しています。児童養護施設にいたり、多数の養子縁組を経験した子供たちに、RADの症状がみられることが多いのです。特に養護施設で育った4歳半の幼児の15%がRADに該当する結果も示されています。
疫学的にも、養育施設で育った子どもたちや虐待を受けた子どもたちなど、不適切な養育体験を経験した子どもたちが、心理的な問題を抱えるリスクが高いとされています。これらの子どもたちが健全な成長を遂げるためには、専門的な支援や治療が必要であり、社会的な支援も必要です。
不適切な養育体験がある子どもたちの健康・発達状態を調査することが重要であり、社会的支援や心理的な治療の充実が求められます。また、不適切な養育体験を経験した子どもたちが健全な成長を遂げるためには、早期の支援が重要であることも疫学的な研究から示唆されています。
反応性愛着障害の概要
反応性愛着障害(Reactive Attachment Disorder, RAD)は、子どもの愛着形成における深刻な問題で、通常は養育者との安定した愛着関係の欠如が原因です。この障害は、幼少期の虐待やネグレクトなど、適切な養育を受けられなかった場合に発生します。
- 特徴
-
反応性愛着障害は、主要な養育者との安定した感情的な絆が形成されないことにより、対人関係や情緒的な面での深刻な問題を引き起こす精神障害です。
- 特徴
-
RADの特徴は、子どもが他人と適切な関係を築くのに困難を感じることです。具体的な症状としては次が挙げられます。
- 感情的な反応の欠如:養育者や他者に対する情緒的な反応が乏しい。
- 社会的な引きこもり:他者との交流を避ける。
- 過度の警戒心:他者に対する過度の警戒や不信感を示す。
- 安定した関係の欠如:安定した養育者が存在しない場合が多い。
- DSM-5の診断基準
-
アメリカ精神医学会のDSM-5によるRADの診断基準は以下の通りです。
- 基準A
子どもが養育者に対して持つ一貫したパターンの情緒的な引きこもり。これには、他者に対する感情的な反応が著しく乏しいことが含まれる。 - 基準B
他者に対して社会的および感情的に応答しない、あるいは非常に限られた反応を示す。 - 基準C
極端な情緒的な反応やストレスに対する不適切な反応を示す。 - 基準D
子どもの基本的な情緒的ニーズ(快適さ、愛情、安心感)に対する一貫した不適切なケアの履歴。 - 基準E
これらの症状は、発達の遅れや知的障害などの他の障害では説明できない。 - 基準F
9カ月以上の発達年齢の子どもであること。
- 基準A
- 原因
-
RADは、次のような不適切な養育環境が原因で発生します。
- 虐待:身体的、性的、または情緒的な虐待。
- ネグレクト:基本的な世話や愛情の欠如。
- 頻繁な養育者の交替:一貫性のない養育環境。
- 施設での養育:孤児院や一時保護施設での長期間の生活。
- 治療と支援
-
RADの治療には、子どもの情緒的安定を取り戻し、健全な対人関係を構築することを目指します。次の方法があります。
- 個人療法:子どもの情緒的なニーズに対応し、感情表現の練習を行う。
- 家族療法:家族全体での関係を改善し、一貫性のある養育環境を提供する。
- 養育者の支援と教育:養育者が適切なケアを提供できるようにサポートし、養育方法を学ぶ。
早期の介入がRADの予防と治療において重要であり、適切な養育環境の提供、養育者の教育、早期の心理的支援が必要とされます。
RADの主な臨床症状
反応性アタッチメント障害(RAD)は、主に幼児期に見られる、社会的な関係性に深刻な障害を引き起こす障害です。次に、RADの主な臨床症状をいくつか挙げます。
- 愛着障害
RADの子どもたちは、基本的に信頼できる大人にでも愛されることを拒否し、愛着を形成することが困難であるとされています。また、親しい大人や主要な介護者に対して、冷淡で無関心な反応を示すこともあります。 - 社会的な相互作用の障害
RADの子どもたちは、社交的な行動を示すことが困難であり、他の人との関係を確立することができません。また、感情的に自己中心的であるとされています。 - 遊びの欠如
RADの子どもたちは、遊びをすることが少なく、独り遊びも少なくなります。また、他の子どもたちと一緒に遊ぶことが困難であるとされています。 - 言葉の遅れ
RADの子どもたちは、言語発達の遅れを示すことがあります。 - 食事の問題
RADの子どもたちは、食事を拒否することがあります。 - 過剰な警戒心
RADの子どもたちは、常に環境を警戒しており、周囲の人々や物事に対して疑心暗鬼であることが分かります。
これらの臨床症状は、RADの子どもたちが健全な発達を遂げることを妨げ、重度の社会的・心理的障害を引き起こすことがあるため何回も繰り返し提唱しますが、適切な介入が必要であり早期の支援が重要であるとされています。
RADのICD-11の診断基準
ICD-11(国際疾病分類第11版)において、反応性アタッチメント障害(RAD)は「愛着障害」として分類されています。ICD-11の診断基準によると、RADの診断には、以下の2つの基準が必要です。
- 幼児期に、重大な養育の欠如または不適切な養育により、一般的に予想される対人関係の発達に悪影響を与える社交行動のパターンが形成されたことが明らかである。
- 養育者に対して反抗的な態度や無関心な態度を示すことがある。また、社交的行動の形成が妨げられることがある。
- 社会的、感情的な関係における反応性の極端な欠如がある。
- 反応性愛着障害の人は、社会的、感情的なつながりを築くことが困難であり、他人との関係に興味を持たず、極端に距離を置くことがあります。そのため、社会的なつながりが欠乏し、孤立しているように見えることがあります。
- 警戒心、感情の制御の欠如、社会的接近の拒否、他人に対する不信感などの行動や感情の態度がある。
- 反応性愛着障害の人は、警戒心が強く、他人との関係を築くことに対して強い拒否感を示すことがあり、感情の制御が不十分であり、感情を表現することが難しい場合があります。さらに、他人に対する不信感や攻撃的な態度を示すことがあります。
診断上重要な事実ですが、この障害は過去に不適切な養育環境に晒された個人に限定されるわけではありません。
反応性愛着障害の原因は、主に過去に不適切な養育環境に晒されたことによるとされていますが、必ずしもそのような環境で育った人に限定されるわけではありません。また、環境要因以外にも、遺伝的要因や神経生物学的な要因も関与しているとされています。
RADの経過と予後
反応性アタッチメント障害(RAD)の経過や予後は、早期の診断と治療の適切さに大きく影響されますので、一般的には、RADは幼児期に発症し、早期に適切な治療を行うことが望ましいとされています。
RADの典型的な経過は、養育の欠如や不適切な養育を受けた子どもが、社交的行動のパターンに問題を抱えることから始まり、年齢とともに悪化する傾向があります。幼児期には、親密な関係を形成することに困難を抱え、その後も同様の問題が持続する可能性があるということです。学齢期に入ると、RADの児童は自己認識や自己評価に問題まで抱えることがあり、思春期には問題行動を示し、同年代とも人間関係を持つことが困難になることがあります。
成人期においては、RADを持つ人は、社会的および職業的関係の形成に問題を抱えることがあり、長期にわたる不安やうつ病、人間関係性の問題、そして自己認識の問題が生じる可能性があります。
ただし、RADの予後については、治療によって、社交的行動のパターンを改善し、社交的スキルを習得することができるようになる場合がありますが、その一方で、治療の遅れや支援が不十分な場合は、問題が悪化する可能性があります。このように予後については個人差が大きくなります。
最近の研究によると、RADの児童は青年期に自己規制や感情調整の能力に問題を抱えることが示唆されていますが、青年期においても治療によって改善される可能性がありますので注意深く評価する必要があります。
RADの治療
認知行動療法(CBT)は、心理療法の一種であり、患者の思考(認知)や行動に焦点を当て、問題を解決する手法です。CBTは、感情や行動に影響を与える思考パターンを分析し、それらを変えることで問題解決を図ることを目的としていて、様々な有効なことが示されており、RADの治療にも適用されています。
心理動機的アプローチは、人の行動や思考を心理的な欲求や動機に基づいて分析する手法です。この手法では、個人の無意識的な欲求や動機に焦点を当て、問題の解決を図ります。心理動機的アプローチは、深層心理学的アプローチとも呼ばれ、主に精神分析学に基づいています。
これらの手法は、RADの治療において、感情や行動に関する問題に取り組む際に有効であるとされています。具体的には、患者の自己認識や自己受容感を高めること、過去のトラウマに対処すること、感情調整能力を改善することなどを目的としています。治療プロセスは、患者と治療者の共同作業によって進められます。治療者は、患者に対して肯定的な関係を築き、患者の自己効力感を高めることが重要です。
RADに対するCBTや心理動機的アプローチの具体的な手法として、次のようなものがあります。
- 認知行動療法(CBT)の手法
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- 認知再構成:患者の認知に焦点を当て、過剰反応や思考パターンを修正することで、感情や行動の問題を解決する。
- 行動療法:患者の問題行動を変えることで、問題を解決する。例えば、社交不安症の患者に対しては、社交的な場面に少しずつ慣れるようにすることがあげられる。
- 心理動機的アプローチの手法
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- 自由連想:患者が無意識に持っている感情や思考を引き出すための手法。
- 分析的心理療法:無意識的な心理的欲求や動機に焦点を当て、問題解決を図る。
- 心理療法:過去のトラウマや問題に対処することで、患者の問題を解決する。
治療は、患者と治療者が密接に協力し、継続的な治療が必要であることが多くなります。治療の目的は、患者の自己認識や自己受容感を高め、適切な感情調整能力を習得することです。
脱抑制対人交流障害(DSED)
脱抑制型対人交流障害(Disinhibited Social Engagement Disorder: DSED)は、愛着障害の一種で、幼少期に適切な愛着形成が妨げられた結果として、子どもが過度に他者に対して友好的で無差別的な対人交流を示す障害です。
脱抑制対人交流障害は、子どもが見知らぬ人に対して過度に親しみやすく、不適切な対人関係を築くことが特徴の障害です。この障害も、幼少期に適切な養育環境を提供されなかったことが主な原因です。
RADと養育体験との類似性は、両者とも幼児期に不適切な養育環境が原因で、対人関係に問題が生じることにあります。RADでは、養育者との接触不足が原因で、愛着形成に障害が生じるため、社交性や共感性に問題が生じます。一方、脱抑制対人交流障害では、幼児期に親からの情緒的な支援不足が原因で、社交不安症や抑うつ症状が生じるとされています。
ICD-11では、DSEDは「関連障害」のカテゴリーに分類されており、「養育に起因する愛着に関する解離性障害(DSED)」という具体的な診断名が与えられています
- 定義
-
脱抑制対人交流障害は、子どもが見知らぬ人に対して過度に友好的で、警戒心が欠如している状態を指します。この障害は、主に養育者との安定した愛着関係の欠如によって引き起こされます。
- 特徴
-
DSEDの特徴は、子どもが見知らぬ人に対して過度に親しみやすく、社会的境界を守らないことです。具体的な症状としては次が挙げられます。
- 見知らぬ人に対する過度の親密さ: 見知らぬ人に対しても友好的に接し、過度に馴れ馴れしくする。
- 無防備な行動: 他者に対する警戒心が乏しく、危険を感じない。
- 親しい関係の欠如: 安定した養育者との一貫した愛着関係が形成されていない。
- 養育者への依存の欠如: 養育者に対する依存心が低く、他者との一時的な関係を好む。
- DSM-5の診断基準
-
アメリカ精神医学会のDSM-5によるDSEDの診断基準は以下の通りです。
- 基準A
子どもが見知らぬ成人に対して以下の少なくとも2つの行動を示す。- 過度に馴れ馴れしく、親しげな行動(文化的に不適切で年齢にふさわしくない)。
- 養育者に戻ることなく、見知らぬ成人と簡単に離れる。
- 知らない成人に対して警戒心が乏しい。
- 見知らぬ成人と過度に交流し、物理的な接触を求める。
- 基準B
これらの行動は、文化的な習慣や年齢に適さない。 - 基準C
子どもが基本的な情緒的ニーズ(快適さ、愛情、安心感)に対して一貫した不適切なケアを受けたことが確認される。 - 基準D
この不適切な養育環境がDSEDの症状に直接関連している。 - 基準E
9カ月以上の発達年齢の子どもであること。
- 基準A
- 原因
-
DSEDの原因は、養育環境が適切でなかったことに起因します。具体的には次のような状況が挙げられます。
- 虐待やネグレクト: 基本的なケアや愛情の欠如。
- 頻繁な養育者の交替: 養育者が頻繁に変わる、または一貫性がない。
- 施設での養育: 長期間にわたる孤児院や一時保護施設での生活。
- 無秩序な養育環境: 養育者が精神的に不安定である、またはストレスフルな家庭環境。
- 治療と支援
-
DSEDの治療は、子どもが適切な対人関係を築けるように支援することを目指します。次の方法があります。
- 個人療法: 子どもが社会的な境界を学び、適切な対人関係を形成するための支援。
- 家族療法: 家族全体の関係を改善し、安定した養育環境を提供する。
- 養育者の支援と教育: 養育者が適切なケアを提供できるようにサポートし、養育方法を学ぶ。
DSEDの予防と治療には早期の介入が重要であり、適切な養育環境の提供、養育者の教育、早期の心理的支援が必要とされます。
脱抑制対人交流障害(DSED)の症状
脱抑制対人交流障害(DSED)は、幼児期早期に養育者が養育環境に存在しなかった、もしくは養育環境がないに等しい状況に置かれた養育環境で育った子どもたちに見られる精神障害です。次は、DSEDの一般的な臨床症状です。
- 陽気で社交的な行動
DSEDの子どもたちは、見知らぬ人に対して陽気で社交的な態度をとります。身を寄せたり、なだめたりすることなく、見知らぬ人と遊びたがることがあります。 - 偽りの欲求
DSEDの子どもたちは、過剰な注意や愛情を求め、偽りの欲求を示すことがあります。見知らぬ人に対しても過剰な親しみを示すことがあります。 - 無差別
DSEDの子どもたちは、見知らぬ人や家族の友人、知人など、あらゆる人に対して陽気に接し、親密な関係を望みます。 - 注意欠陥
DSEDの子どもたちは、短い注意力、集中力の欠如、または学習障害の兆候を示すことがあります。
脱抑制対人交流障害(DSED)の診断
DSEDは、ICD-11の診断基準として、以下のように定義されています。
- 本人が不寛容、衝動的、抑制の欠如など、広範な対人関係上の問題を示す。
- 多くの場合、過剰な依存を示し、誰かにすがろうとする傾向がある。
- 新しい大人との関係をすばやく、簡単に形成するかもしれないが、その関係は不安定である。
- 社会的な制限や責任に対して反抗的で、しばしば問題を引き起こす。
- 行動は、思春期に向けてますます問題が増大する傾向がある。
ICD-11では、DSEDは「関連障害」のカテゴリーに分類されており、次のように分類されています。
養育に起因する愛着の関連障害であり、養育に起因する愛着に関する解離性障害(DSED)である。つまり、DSEDは「養育に起因する愛着に関する障害」の一種であり、「養育に起因する愛着に関する解離性障害(DSED)」という具体的な診断名が与えられています。
DSEDの経過や予後
DSEDの経過や予後に関する研究は限られており、確定的なことはまだ分かっていません。しかし、一般的には次のようなことが言われています。
DSEDは、早期に発生する可能性が高く、発症後も長期間にわたって持続する可能性があり、治療にも長期間を要する場合があります。養育環境が安定した場合や適切な治療を受けた場合、症状が改善することもありますが、重症なDSEDの場合は治療が難しく、持続的な問題を抱える可能性が高いとされています。
DSEDは、将来の対人関係に影響を与える可能性があります。DSEDの兆候を示した幼児は、成長するにつれて人間関係に苦手意識を持つ場合があり、大人になってからも対人関係において問題を抱えることがあります。
DSEDの治療
DSEDの治療は、主に早期介入と保護者の教育と支援(早期に保護者を関与させる)に焦点を当てています。次に、DSEDの治療に用いられる一般的なアプローチをいくつか紹介します。
- 応答性養育介入 (Responsive Parenting Intervention)
保護者に子どもの信頼を獲得するための養育技術を教育することによって、DSEDの症状を軽減することを目的とした介入です。 - 応答性養育トレーニング (Responsive Parenting Training)
保護者の養育技術を向上させることによって、子どもの愛着形成に効果的な関係を築くことを目的としたトレーニングです。 - 応答性養育セラピー (Responsive Parenting Therapy)
保護者と子どもの双方に対して行われ、子どもの信頼を獲得し、愛着関係を築くためのコミュニケーション技術を教育するセラピーです。 - 家族療法
保護者全体を対象とし、家族のコミュニケーションパターンや養育スタイルを改善することによって、子どもの愛着形成に影響を与えることを目的とした治療法です。 - 個別療法
子ども自身に対して、自己認識や自己肯定感を高め、愛着形成に必要なスキルを身に付けるための療法です。
これらのアプローチは、DSEDの症状を軽減し、子どもの愛着形成に効果的な関係を築くことを目的としています。治療の効果は、個人差があるため、治療を始める前に専門家との相談が必要です。
愛着障害の二次的疾患や障害
愛着障害(RADおよびDSED)は、幼少期に適切な愛着関係が形成されなかった結果生じる深刻な障害であり、二次的な疾患や障害を引き起こすことがあります。これらの二次的障害は、情緒的、社会的、行動的な問題として現れることが多く、子どもの発達に深刻な影響を及ぼすだけではなく、長期的には成人期の生活の質にも影響を及ぼす可能性があります。
- 情緒的な問題
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- うつ病: 不適切な愛着関係により、子どもが低い自己評価や絶望感を抱きやすくなり、うつ病を発症するリスクが高まります。
- 不安障害: 愛着の欠如は、特に分離不安や全般性不安障害などの不安障害を引き起こすことがあります。
- 情緒不安定性: 感情のコントロールが難しく、突発的な怒りや悲しみが生じやすい傾向があります。
- 行動的な問題
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- 反社会的行動: RADやDSEDの子どもは、規範を無視する反社会的行動を取ることがあります。これは、盗み、暴力、学校での問題行動などとして現れることがあります。
- 衝動性: 特にDSEDでは、無防備な行動や衝動的な決定が見られます。これにより、危険な状況に巻き込まれることが多くなります。
- 注意欠如・多動症(ADHD): 衝動性や不注意が顕著で、ADHDの診断基準を満たす場合もあります。
- 社会的な問題
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- 対人関係の困難: 安定した愛着関係の欠如は、他者との信頼関係を築くことを難しくし、友人関係や家族関係に問題を引き起こします。
- 社会的スキルの欠如: 他者との適切なコミュニケーションや共感のスキルが不足しているため、社会的な孤立を招くことがあります。
- 愛着の歪み: 他者に対する過度な依存や逆に完全な無関心といった、極端な愛着パターンが見られることがあります。
- 学業の問題
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- 学習障害: 情緒的な不安定さや注意力の欠如が、学習能力に悪影響を及ぼすことがあります。
- 学業成績の低下: 学校での行動問題や対人関係の困難が、結果として学業成績の低下につながることがあります。
- 長期的な影響
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- 成人期の心理的問題: 愛着障害は、成人期においても続くことがあり、持続的な情緒的不安定、対人関係の問題、精神疾患(うつ病、パーソナリティ障害など)を引き起こすことがあります。
- 社会的および経済的問題: 長期的な対人関係の問題は、職業生活や社会生活においても悪影響を及ぼし、失業や貧困のリスクを高めることがあります。
RADとDSEDの疫学、病因、病態
反応性愛着障害(RAD)と脱抑制対人交流障害(DSED)は、共に幼少期の不適切な養育環境に起因する愛着障害ですが、症状や行動の表れ方が異なります。RADは情緒的な引きこもりや過度の警戒心が特徴であり、DSEDは見知らぬ人に対する過度の親しみやすさや無防備な行動が特徴です。
反応性愛着障害(RAD) | 脱抑制対人交流障害(DSED) |
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疫学 | |
発生率 ・正確な発生率は不明ですが、RADは重度の虐待やネグレクトを経験した子どもに多く見られます。特に養護施設や一時保護施設で生活する子ども、頻繁に養育者が交替する子どもに多いとされています。 影響を受けやすい集団 ・RADは、養育環境が不安定であったり、一貫性のないケアを受けたりした子どもに多く発生します。 | 発生率 ・DSEDの発生率も正確にはわかっていませんが、RADと同様に、養護施設や一時保護施設で生活する子どもに多く見られます。研究によると、養護施設で育つ子どもの20-30%がDSEDの症状を示すと言われています。 影響を受けやすい集団 ・DSEDは、養育環境が不適切であった子どもに多く見られます。 |
病因 | |
主な原因 ・RADは、初期の養育環境が著しく不適切であったことが原因です。具体的には、次のような状況が関与します。 身体的、性的、または情緒的な虐待 ・子どもが深刻なトラウマを経験する。 ネグレクト ・基本的な世話や愛情の欠如。 一貫性のない養育 ・養育者が頻繁に変わる、または一貫性のないケアを受ける。 施設での養育 ・孤児院や一時保護施設での長期間の生活。 | 主な原因 ・DSEDは、初期の養育環境が不適切であったことが主な原因です。ただし、DSEDの場合は特に次のような状況が関与します。 長期間の施設養育 ・一貫性のないケアや、多数の養育者との接触が多い環境。 ネグレクト ・基本的な情緒的および物理的なニーズの無視。 一貫性のない養育者 ・子どもが重要な養育者との継続的な関係を築くことができない状況。 |
病態 | |
反応性愛着障害(RAD) 情緒的な引きこもり ・養育者や他者に対して情緒的な反応が乏しい。 社会的引きこもり ・他者との交流を避ける傾向。 過度の警戒心 ・他者に対する過度の警戒や不信感。 感情表現の制限 ・感情を表現することが少なく、情緒的な交流が難しい。 | 脱抑制対人交流障害(DSED) 過度の親密さ ・見知らぬ人に対しても過度に親しみやすく、警戒心が欠如している。 無防備な行動 ・他者に対する無防備な行動、社会的な境界を守らない。 依存の欠如 ・特定の養育者への依存心が低く、他者との一時的な関係を好む。 社会的境界の欠如 ・社会的な距離感を保つことが難しい。 |
RADとDSEDの共通点と相違点
反応性愛着障害(RAD)と脱抑制対人交流障害(DSED)はどちらも幼少期の不適切な養育環境に起因する愛着障害ですが、それぞれ異なる特徴と症状を持っています。
RADは主に情緒的な引きこもりや過度の警戒心が特徴で、養育者との安定した関係が欠如しています。一方、DSEDは見知らぬ人に対する過度の親しみやすさや無防備な行動が特徴で、社会的な境界が曖昧です。どちらの障害も適切な治療と支援により、子どもが健全な対人関係を築けるようにサポートすることが可能となります。
RADとDSEDの共通点と相違点 | |
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共通点 | |
原因 両者とも幼少期の養育環境が不適切であったことが主な原因です。具体的には、虐待やネグレクト、一貫性のない養育、頻繁な養育者の交替、施設での長期間の生活などが挙げられます。 | |
基本的な症状の発生年齢 両者ともに症状は幼少期に現れ、9か月以上の発達年齢で診断されることが一般的です。 | |
診断基準 両方の障害は、DSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準マニュアル)に基づいて診断されます。 | |
社会的な問題 両方の障害は、子どもが他者との関係を築くのに困難を抱えるという点で共通しています。ただし、困難の内容や表れ方は異なります。 | |
相違点 | |
症状の特徴 | |
RAD(反応性愛着障害) ・養育者や他者に対して情緒的な反応が乏しい。 ・社会的な引きこもりや過度の警戒心が見られる。 ・安定した関係の欠如と感情表現の制限が顕著。 | DSED(脱抑制対人交流障害) ・見知らぬ人に対して過度に親しみやすく、無防備な行動を取る。 ・社会的境界が曖昧で、見知らぬ人に対しても警戒心が乏しい。 ・一貫性のない対人関係が特徴で、特定の養育者への依存が欠如している。 |
対人関係のパターン | |
RAD ・子どもは他者との交流を避ける傾向が強く、社会的に引きこもることが多い。 ・安定した養育者との関係が築けず、感情的な交流が制限される。 | DSED ・子どもは見知らぬ人に対しても過度に親しみやすく、社会的な境界を無視する行動を取る。 ・他者への過度の接触や無防備な行動が見られ、安定した関係が欠如する。 |
情緒的反応 | |
RAD ・養育者や他者に対して感情的な反応が乏しく、情緒的な冷たさや無関心が見られる。 | DSED ・見知らぬ人に対しても親しげに振る舞い、情緒的な距離感が欠如している。 |
治療の焦点 | |
RAD ・子どもの情緒的な安定と、適切な愛着関係の形成を目指す。 ・感情表現の促進と、信頼関係の構築に重点を置く。 | DSED ・社会的な境界の認識と、適切な対人関係の形成を目指す。 ・無防備な行動の改善と、安定した関係の構築に重点を置く。 |
RADもDSEDも原因は、幼児期の不適切な養育環境にありますが、DSEDはBowlbyが提唱した反応性愛着障害とは異なる概念です。Bowlbyは、幼児期に適切な愛着関係が築かれなかった場合に、子どもが反応性愛着障害を発展させる可能性があると考えました。一方、DSEDは、愛着関係が存在しなかった場合に発生すると考えられており、養育者との愛着関係が損なわれた場合には、RADとDSEDの両方が発生する可能性があります。また、DSEDはDSM-5または、ICD-11で新たに追加された診断名であり、RADとは異なる診断とされています。
養育環境が相似していますが、愛着関係が築かれなかった場合と存在しなかった場合は異なる状況を指します。
例えば、愛着関係が築かれなかった場合とは、養育者が存在し愛着関係が取れたにもかかわらず、養育者が十分な愛着環境を提供できず、子どもが適切な愛着形成ができなかった場合を指します。このような場合、RADと診断されます。
一方、愛着関係が存在しなかった場合とは、養育者が養育環境に存在しなかった、もしくは養育環境がないに等しい状況に置かれた場合を指します。このような場合、DSEDと診断されます。
両者は症状に大きな違いがありますので、診断基準や治療アプローチも異なるため注意が必要となります。
最後にまとめとして
RADとDSEDは、幼少期において症状や態度に反対性がありますが、青年期や大人になるにつれて類似性が見られることがあります。しかし、それぞれの障害の原因や診断基準は異なるため、注意が必要です。
例えば、RADは養育者との愛着関係の形成が困難であることが特徴であり、DSEDは愛着を形成できますが、他者との関係性において問題を抱えることが特徴です。幼少期においては、RADの子どもは愛着を形成できないため、DSEDのような社交的な行動を示さず、退行的な行動を示します。しかし、成長するにつれて、RADの子どもたちは社会性や対人関係において問題を抱えることが多くなるため、DSEDのような社交的な問題を抱えることがあります。ただし、それぞれの障害には個人差があり、一概に幼少期と成長後の関連性を示すことは難しいとされています。
愛着障害(Attachment Disorders)は、幼少期の不適切な養育環境や愛着形成の欠如に起因し、情緒的、行動的、社会的な問題を引き起こす深刻な精神健康の問題です。主に反応性愛着障害(RAD)と脱抑制対人交流障害(DSED)の2つの主要なタイプに分類されます。
- 愛着障害のタイプ
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- 反応性愛着障害(RAD)
- 特徴: 養育者や他者に対して情緒的な反応が乏しく、過度の警戒心や社会的引きこもりが見られる。
- 原因: 重度のネグレクトや虐待、頻繁な養育者の交替など。
- 症状: 感情表現の制限、他者への不信感、社会的孤立。
- 脱抑制対人交流障害(DSED)
- 特徴: 見知らぬ人に対して過度に親しみやすく、警戒心が欠如している。
- 原因: 長期間の施設養育、一貫性のないケアなど。
- 症状: 無防備な行動、社会的境界の欠如、他者への過度の親しみ。
- 反応性愛着障害(RAD)
- 共通点と相違点
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- 共通点
- 幼少期の不適切な養育環境に起因。
- 情緒的および社会的な問題を引き起こす。
- 早期の診断と介入が重要。
- 相違点
- RADは情緒的な引きこもりや過度の警戒心が特徴。
- DSEDは過度の親しみやすさと警戒心の欠如が特徴。
- 共通点
- 疫学
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- 正確な発生率は不明ですが、養護施設や一時保護施設で育つ子どもに多く見られます。
- 影響を受けやすい集団は、重度のネグレクトや虐待を受けた子ども、頻繁に養育者が変わる子どもなど。
- 病因
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- ネグレクト: 基本的なケアや愛情の欠如。
- 虐待: 身体的、性的、または情緒的な虐待。
- 一貫性のない養育: 養育者が頻繁に変わる、または不安定な環境。
- 施設養育: 孤児院や一時保護施設での長期間の生活。
- 病態
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- RAD: 情緒的な反応が乏しく、過度の警戒心、社会的孤立が見られる。
- DSED: 見知らぬ人に対して過度に親しみやすく、無防備な行動が見られる。
- 二次的疾患や障害
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- 情緒的な問題: うつ病、不安障害、情緒不安定性。
- 行動的な問題: 反社会的行動、衝動性、ADHD。
- 社会的な問題: 対人関係の困難、社会的スキルの欠如、愛着の歪み。
- 学業の問題: 学習障害、学業成績の低下。
- 長期的な影響: 成人期の心理的問題、社会的および経済的問題。
- 治療と支援
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- 個人療法: 子どもが情緒的安定を取り戻し、適切な対人関係を築く支援。
- 家族療法: 家族全体の関係を改善し、安定した養育環境を提供。
- 養育者の支援と教育: 養育者が適切なケアを提供できるようにサポート。
愛着障害は幼少期の不適切な養育環境に起因し、情緒的、行動的、社会的な問題を引き起こす深刻な障害です。反応性愛着障害(RAD)と脱抑制対人交流障害(DSED)はそれぞれ異なる症状を持つものの、どちらも早期の診断と介入が重要です。適切な治療と支援により、子どもが健全な成長を遂げ、対人関係や社会生活での成功を支援することができます。
- “Attachment and Loss: Volume I: Attachment” by John Bowlby
- 著者: John Bowlby
- 出版社: Basic Books
- 出版年: 1982
- “Attachment” by John Bowlby
- 著者: John Bowlby
- 出版社: Basic Books
- 出版年: 1969
- “Attachment in Psychotherapy” by David J. Wallin
- 著者: David J. Wallin
- 出版社: The Guilford Press
- 出版年: 2007
- “Handbook of Attachment: Theory, Research, and Clinical Applications” edited by Jude Cassidy and Phillip R. Shaver
- 編集者: Jude Cassidy and Phillip R. Shaver
- 出版社: The Guilford Press
- 出版年: 2016(第3版)
- “Becoming Attached: First Relationships and How They Shape Our Capacity to Love” by Robert Karen
- 著者: Robert Karen
- 出版社: Oxford University Press
- 出版年: 1998
「愛着障害:トラウマを抱えた子供たちの治療戦略」ビバリー・ジェームズ
「愛着の障害:診断と治療のガイド」ジョナサン・ベイリンとダニエル・A・ヒューズ
「愛着介入のハンドブック」テリー・M・レヴィ、ジュード・キャシディ編集
J.E.B.マイヤーズとL.ベルリナーが編集した「児童虐待」
「精神障害の診断および統計マニュアル(DSM-5)」アメリカ精神医学会
世界保健機関による「死亡率と罹患率の統計のためのICD-11」
大和田建樹氏による書籍『虐待と愛着―発達障害と心的外傷後ストレス障害の理論と治療』(金剛出版、2009年)