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解離性健忘-物語-医学的知識編

目次

解離性健忘の架空の症例から症状の理解と知識を学ぶ 精神医学的物語-5弾

解離性健忘物語

症例1

加藤佳子(仮名)は、長年夫と娘と共に幸せな生活を送ってきた。しかし、ある日、帰宅した際に自分が何をしていたか全く思い出せなくなってしまった。家には慣れ親しんだ家具や写真、家族の声があるにも関わらず、それらが彼女にとって全くの見知らぬものとなっていた。

最初は一時的なものだと思っていたが、数日後も状況が変わらず、医師に診断してもらうことにした。佳子は解離性健忘症と診断され、治療を開始した。治療中に、佳子は過去に何があったか思い出すことができないことに苦しむことが多かった。

ある日、彼女は近所の店で昔の友人に出会い、その友人が自分が以前の状況や思い出を話してくれたことがきっかけとなったのか、驚くべきことにその出来事を思い出すことができた。彼女は、以前に出会った人たちが自分について話していたことや、健忘症が始まった前の出来事など、時間は掛かるも思い出すことができた。

過去の記憶を少しずつ取り戻す中で、佳子は、何かトラウマやストレスがあったことを感じた。治療を進めるにつれて、佳子は過去のトラウマやストレスが解消され、健忘の症状も改善された。

しかしその後、佳子は状態が一変し社会に出ることもままならなくなってしまった。医師を受診するとPTSDと診断され、再び治療を開始することになった。彼女は、催眠療法を含む様々な治療法を試した。しかし、彼女の状態は改善されず、自殺行動を起こしてしまった。

その後、佳子は治療を再開し、今度はEMDR治療によって健康を取り戻している。彼女は、解離性健忘症とPTSDを克服し、再び幸せな生活を送ることができた。

症例2

ある日、大学生の夏美は、自分が何をしていたのか覚えていないことに気付きました。授業にも出席していたはずなのに、何を学んだか思い出せませんでした。友達に尋ねると、夏美は授業中にいつの間にか席から立ち去って行ったと言われました。その後も、夏美は自分がどこで何をしていたか覚えていない日があることが続きました。検査を受けた結果、夏美は解離性健忘症と診断されました。

夏美は治療のために、心理療法を受けることになりました。初回のセッションで、夏美は自分が気になっていることを順に話し始めました。彼女は、数年前に親友が交通事故で亡くなったことを思い出し、その後、学業や人間関係のストレスが重なったことを語りました。治療を続けるうちに、夏美は自分自身が過去のトラウマや感情を抑圧し、現実から逃避していたことに気付きました。彼女は治療によって自分自身を受け入れ、過去の出来事に対処することができるようになってきました。

夏美は治療を終え、健忘症の症状が軽減されていることを医師に報告しました。しかし、治療後しばらくして、夏美は再び健忘症のエピソードを経験してしまいます。彼女は恐怖に襲われ、自分が何をしていたのか分からなくなることがありました。医師は、夏美が緊張やストレスにさらされると、過去のトラウマを抑圧し、健忘症の症状が再発する可能性があることを説明しました。夏美は、これらの症状に対処するために、再び治療を受けることを決めました。

夏美は、医師のアドバイスに従い、自分のストレスレベルを把握することを始めました。そのうえで彼女は、自分自身を楽しむためにも、趣味や友人との交流に時間を費やすようにしました。
しかし、数日後に彼女の様子が変わり、仕事でミスを繰り返すようになり、誰かが話しかけていると聞こえないフリをするようになりました。彼女の友人や同僚は彼女に何が起こったのか理解できず、彼女は孤立するようになっています。

彼女は自分自身の記憶にも疑問を持ち始め、自分が誰であるかすら分からなくなるようでした。彼女は深い恐怖に陥り、もう一度、医師に助けを求めることにしました。

解離性健忘症の概要

解離性健忘症は、一時的に自己の身分、生活の詳細や記憶の中での出来事を忘れる障害です。この状態は、精神的なストレスやトラウマ、あるいは薬物やアルコールの影響によって引き起こされます。また、一時的に記憶の一部や全体が失われるという点で、他の種類の健忘症とは異なります。

解離性健忘症の原因はまだ完全には解明されていませんが、脳内の神経伝達物質の不均衡、ストレスの影響、またはトラウマ体験が関係していると考えられています。治療は、カウンセリングや心理療法、または薬物療法などのアプローチがあります。重症の場合には、入院治療も必要となることがあります。

解離性健忘症は、重度の心理的ストレスを経験した人々によく見られ、これによって人生が脅かされてしまいます。

解離性健忘の臨床症状

解離性健忘症の主な臨床症状は、以下のようになります。

  • 記憶喪失
    突然、自己の身元、生活の詳細や過去の出来事を忘れてしまいます。この状態は、数分間から数年間にわたって持続することがあります。
  • 混乱
    自己の身元を見失い、自己の身分や周囲の人物、場所、時間の感覚に混乱してしまいます。
  • トラウマ体験
    解離性健忘症の多くの場合、トラウマ体験が前提となります。例えば、身体的、性的、感情的な虐待、重大な事故、戦争、自然災害、または重大なストレスなどが含まれます。
  • 不安
    解離性健忘症の人々は、自己の身元や過去の出来事について思い出せないため、常に不安を感じる傾向になります。

解離性健忘症には、局所的と選択的、全般的な健忘の2つの種類があります。

局所的・選択的健忘

局所的・選択的健忘は、ある時期に起こった特定の出来事や体験に関する記憶が欠落している状態を指します。
例えば、トラウマ体験に関連する記憶が失われることがあります。しかし、その他の記憶は正常に保たれていることが多く、日常生活に支障をきたすことはありません。

全般的健忘

全般的健忘は、ある期間の間、全ての出来事や体験について記憶を失う状態を指します。この状態は、トラウマ体験や重大なストレスが原因で発生することが多く、日常生活に大きな支障をきたします。

局所的・選択的健忘は、一般的には解離性健忘症のタイプとして考えられ、特定の出来事に関するトラウマを処理する際に起こることがあります。一方、全般的健忘は、解離性健忘症だけでなく、脳の損傷、アルコールや薬物の使用、または他の健忘症の原因としても起こることがあります。

解離性健忘症と解離性遁走症は、両方とも解離性障害の一種ですが、以下に挙げるように、それぞれ独自の特徴を持っています。

解離性健忘症

解離性健忘症は、過去の出来事や情報を忘れる状態を指します。一般的には、トラウマや重大なストレスによって引き起こされます。
人々は、自己の身元、生活の詳細、または過去の出来事を忘れることがあります。記憶の喪失は、局所的・選択的または全般的な形式で現れることがあります。

解離性遁走症

解離性遁走症は、身の回りの環境や人間関係を離れ、新しい場所に移動する状態を指します。この状態は、トラウマや重大なストレスによって引き起こされることがあります。

解離性健忘症と解離性遁走症は、両方とも解離性障害の一種であり、トラウマや重大なストレスによって引き起こされることがありますが、異なる症状を示します。解離性健忘症は、記憶の喪失に焦点が当てられ、解離性遁走症は、環境を変えることに焦点が当てられます。

ICD-11の診断基準

  1. 一時的な記憶喪失があること
    解離性健忘症の主要な特徴は、一時的な記憶喪失です。これは、ある出来事や特定の期間についての記憶が欠落している状態を指します。
  2. 記憶喪失が生じる期間は、トラウマやストレスの前後であること
    解離性健忘症の記憶喪失は、一般的にトラウマや重大なストレスが発生する前後に現れます。
  3. 他の障害が原因で説明できないこと
    解離性健忘症の症状が、脳損傷や物質使用障害などの他の障害によるものではなく、独自の病態によるものであることが必要です。
  4. 日常生活に重大な影響を及ぼすことがあること
    解離性健忘症は、生活の中で必要な情報を忘れることがあるため、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。

診断においては、症状の期間、程度、そして、生じる原因や影響についての情報を集めることが重要です。また、症状が他の疾患によるものではないことを確認するために、適切な検査も必要です。

経過と予後

解離性健忘症の経過と予後は、個人差がありますが、多くの場合は自然回復することが期待されます。しかし、症状が持続する場合や、繰り返し発作する場合もあります。
解離性健忘症の症状は、通常は一時的なものであり、数時間から数日、あるいは数週間で回復することが多い一方で、症状が持続的に続く場合は、治療が必要になることがあります。

解離性健忘症の患者は、複数回のエピソードを経験することがあります。これは、トラウマ体験が繰り返され、過去のトラウマが再び活性化することによって引き起こされている可能性があります。また、ストレスが増大すると、解離症状が再発することが報告されています。

また、寛解後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が発現し、自殺行動を起こすことがあります。これは、解離性健忘症の患者がトラウマを体験した際に、その情報を整理した記憶を持続させることができないため、解離が発生する可能性があります。特に、自殺のリスクが高いとされるPTSDの症状としては、自殺念慮、自殺の試み、自傷行為、酒や薬物の乱用などがあります。

解離性健忘症の疫学

解離性健忘症の疫学はまだ不確定であり、正確な発症率は不明です。しかしながら、研究によると、解離性障害全般の有病率は、一般人口で1%以上、臨床心理学の患者集団で5〜10%と推定されています。
欧米の地域調査での12カ月有病率は1.8%(男性1.0%:女性2.6%)となっています。

また、解離性健忘症は、特定のトラウマ体験が原因となって発症することが多いため、児童虐待や性的虐待のようなトラウマを経験した人によく見られます。性的虐待や身体的虐待を経験した女性の中で、解離性障害の有病率が高いことが報告されています。
一方で、解離性健忘症は診断が困難であるため、疫学的な調査の結果には様々なバイアスが含まれる可能性があります。また、患者自身が自分の症状を認識できない場合が多く、医療機関での診断率も低いとされています。

解離性健忘の治療

解離性健忘症の治療には、主に精神療法が用いられます。現在、特定の薬物療法は存在していませんが、抗不安薬や抗うつ薬が症状の軽減に役立つことがあります。

精神療法では、支持的なアプローチや力動的なアプローチが中心となります。解離性健忘症は、過去のトラウマやストレスが原因で発生することが多く、治療においては、そのトラウマを取り上げ、患者が自分自身を再び統合するのを助けることが重要です。また、認知行動療法や心理教育を行うこともあります。

催眠療法は、解離性健忘症の治療に使用されることがあります。催眠療法は、患者がリラックスして深い意識状態に入ることで、トラウマ的な出来事を取り出し、それを処理することを促進することができます。ただし、催眠療法は、患者によっては有効ではない場合があります。

EMDR治療は、解離性健忘症の治療に有効とされています。EMDRは、眼球運動に基づく療法であり、トラウマを処理するために使用されることが多く、解離性健忘症の患者に対しても効果があるとされています。EMDRは、患者が過去のトラウマ的出来事を思い出し、同時に治療者によって誘導された目の動きや音の刺激などを組み合わせることで、トラウマを処理するとされています。
EMDR治療が全ての解離性健忘症の患者に有効であるとは限りません。個人差があり、治療の効果は患者の症状や状態によって異なります。

解離性健忘症のまとめ

解離性健忘の本症の中心病像は、過去に経験したトラウマ的な出来事やストレスフルな状況が原因で、重要な自叙伝的情報が一時的に不能になることです。この病態は、通常は脳の記憶機能に何らかの障害が生じた結果として現れます。

解離性健忘症では、通常はトラウマ的な出来事が起こった前後の記憶が欠落します。これは、精神的なストレスやトラウマが脳の正常な機能に影響を与え、情報の処理や保存、回想を妨げることが原因です。このような影響は、一時的な記憶喪失として表れることがあります。

このような状態に陥ることは、人間の正常な反応であり、通常は自然に回復します。しかし、解離性健忘症では、症状が持続することで、生活に深刻な影響を及ぼします。治療には、トラウマ体験に対処するための心理療法や薬物療法が用いられることがあります。

症状の重症度や持続期間は、個人差がありますが、解離性健忘症の中心病像は、通常は自己の過去の経験を忘れ、自己同一性の喪失がある場合があることを含め、トラウマ体験に対処するためには、個々人に適した治療法を選択することが重要です。

「解離と解離性障害:DSM-Vとその先」(2018)ポールF.デルとジョンA.オニール

「解離のハンドブック:理論的、経験的、臨床的展望」(2017)フィリップM.ブロムバーグ、ジョンF.ホロウィッツ、ジョセフシャクター

“The Dissociative Mind”(2005)エリザベス・F・ハウエル

「解離性障害の治療」(2002)リチャードP.クルフト

「トラウマと回復:暴力の余波—家庭内暴力から政治的テロまで」(1992)ジュディス・ハーマン

「裏返しの多重人格障害」(1991)バリーM.コーエン、エスターギラー、リンW

尾崎紀夫・三村將・水野雅文・村井俊哉:標準精神医学第8版/医学書院

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