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ACT/アクセプタンス&コミットメント・セラピーの知識

目次

第三世代の認知行動療法アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の知識と病理的行動6パターンと心理的柔軟性の行動6パターンの追求

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)は、1980年代後半にアメリカの心理学者であるスティーブン・C・ヘイズ(Steven C. Hayes)を中心とした研究チームによって開発されました。スティーブン・ヘイズは高次の認知行動療法のリレーショナルフレーム理論を開発していたことが、ACTの基礎として応用されていて、後の1985年にはロバート・D・ゼトルによって検証されています。また、ACTは認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy, CBT)の枠組み内で、より柔軟で効果的なアプローチを提供するための心理療法でもあります。

ACTは、人生の苦しみや心理的な問題を解決するために、心理的柔軟性と呼ばれるスキルを発展させることを重視しています。心理的柔軟性は、自己の経験や感情に柔軟に対処する能力、自己の価値に基づいた意味のある行動を選択する能力、そして現在の状況に集中し、目標に向かって行動する能力を指します。

ACTのA(Acceptance)は、「受け入れ、容認」を意味し、自己の避けることのできない苦しみはコントロールせず柔軟性で受けるアクセプタンスを持ち、ACTのC(commitment)は、「責任、関与、専念、目標、価値」などの意味で、自己を豊かにする価値に基づいた意味のある行動を選択する能力のコミットメントのプロセスです。さらに、今・現在の瞬間への集中マインドフルネスといった要素も取り入れて展開されます。また、ACTのT(Therapy)の略称の他に「Taking action :行動する」という意味も含まれていて、心理的な問題を受け入れて価値に沿った行動ができる価値指向のアプローチも組み込まれています。

要するに、思考や感情を抑制する回避行動と思考と現実、自己の混同するフュージョン(自己の思考や感情の囚われ)を減少させ、社会的行動価値の明確化を高める動機づけにより、コミットメント(自己の価値を明確化した行動)を生起させていくということです。これはACTの概念によると内潜的な行動を変えることではなく、外顕的な行動を変えコミットメントを進めることとなります。

ACTの理論と実践は、その後の研究と発展を経て広まり、さまざまな心理的問題や臨床状況に適用されるようになりました。現在では、うつ病、不安症、摂食障害、依存症、慢性疼痛、ストレス管理など、幅広い領域で使用されています。

ACTは、認知行動療法が目指してきた「思考の修正、変容」の枠組みを拡大し、より包括的なアプローチを提供することで、個人の心理的な成長と幸福の向上を支援することを目指しています。

ACTの概念と主要なコンセプト

ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の概念と主要なコンセプトを解説します。
ACTは次のコンセプトを統合し、心理的柔軟性を高め、自己の価値に基づいた意味のある行動を促進します。これにより、苦痛や困難による制約から解放され、より充実した人生を築くことが目指されます。

1⃣ アクセプタンス(Acceptance)

ACTでは、避けがちな苦痛や不快な感情、思考、身体的感覚を避けずに受け入れることが重要であり、アクセプタンスは、苦しみを増幅させることなく、そのままの状態で受け入れる能力を養います。
要するに、ACTのAであるアクセプタンス(Acceptance)は、苦痛や不快な感情、思考、身体的感覚を避けずに受け入れることを指していて、心理的柔軟性を促進し個人が苦しい状況や困難に立ち向かうための重要なスキルです。アクセプタンスの考え方は、次のような原則に基づいています。

  • 現実の受容
    アクセプタンスは、現実の状況や自己の内面的な経験を拒絶するのではなく、受け入れることを目指します。これには、苦痛や不快な感情、嫌な思考、身体的な不快感なども受け入れます。受け入れることによって、クライエントは現実を否定することなく、そのままの状態で存在することができます。
  • 抵抗の放棄
    アクセプタンスは、苦痛や困難に対して抵抗することの放棄も意味します。通常は一時的に楽にするために苦痛や不快な感情を回避しようとしますが、長期的には問題を悪化させることになります。アクセプタンスでは、苦痛に対し抵抗することなく受け入れることで、苦痛からの解放や心理的柔軟性の向上を促します。
  • 経験の拡大
    アクセプタンスは、自己の経験の範囲を拡大することも目指します。これは、苦痛や不快な感情に焦点を当てるだけでなく、より広い文脈や経験の中で自己を捉えることを意味します。クライエントは、苦痛や困難と共存しながらも、より充実した人生を築くために自己の価値や意味に基づいた行動を選択します。

アクセプタンスは、クライエントが苦痛や困難に対して柔軟な態度を持ち、回避や抑圧に頼らずに直面することを支援することによって、クライエントは自己を受け入れることができるようになります。

2⃣ コミットメント(Commitment)

ACTのCであるコミットメント(commitment)は、自己の価値や目標に基づいた意味のある行動を選択し、それにコミットすることを指します。コミットメントは、自己の目標に忠実に向かい、困難や障害にもかかわらず行動を続けるための重要な要素です。自己の価値を明確にし、それに基づいて意味のある行動を選択し、困難や苦痛に直面しても継続する意志を持てるということです。

次に、コミットメントの特徴と関連する要点を説明します。

  • 自己の価値と目標
    コミットメントは、個人が自己の価値観や目標を明確に理解し、それに基づいて行動を選択することを重視します。自己の内なる価値や意味に基づいた行動は、個人の充実感や満足感を高めるとともに、より意味のある人生を築くための基盤となります。
  • 長期的な方向性
    コミットメントは、短期的な快楽や回避からではなく、長期的な目標や価値に基づいた行動を選択することを促します。自己の目標にコミットし、そのための努力や困難に立ち向かうことで、成長や変革を実現することが可能になります。
  • 困難への対処
    コミットメントは、困難や障害にもかかわらず自己の目標にコミットし続けることを意味します。困難や苦痛が生じたときにも、個人は自己の価値や意味に忠実に行動する意志を持ち、必要な努力や工夫を行います。これによって、困難を乗り越え、自己の成長や目標達成を実現することができます。
  • 行動の一貫性
    コミットメントは、自己の目標や価値に基づいた行動の一貫性を重視します。個人が自己の意図や方向性に忠実に行動することで、内部の矛盾や衝突を解消し、より意味のある人生を実現します。

コミットメントは、自己の成長や目標達成に向けた重要な要素であり、意味のある人生を実現するための基盤となります。

3⃣ マインドフルネス(Mindfulness)

ACTはマインドフルネスの実践を重視しています。マインドフルネスは、現在の瞬間への集中と受容的な態度を持つことを指します。過去の出来事や未来の予測に囚われず、現在の状況や体験に意識を集中させることで、自己を受け入れ、客観的に観察することができます。

マインドフルネス
今の瞬間の現実に常に気づきを向けて、その現実をあるがままに知覚し、それに対する思考や感情に捉われないでいる心の持ち方、存在のあり様のことです。要するに自分の思考、感情、身体感覚、記憶などの評価や解釈していた妄想の世界の対象を「観察する自分」に置き換わり、今の本当の現実や自分の実情が捉えられるようになることです。実際のマインドフルネスでは、一貫して「いま、ここ」での身体の動作やそれに伴う身体感覚に自発的な注意を向けさせます。

瞑想の種類
瞑想には、「瞬間に意識を向ける」「ありのままの観察」「一つの物事に集中」「不安を手放す」「マントラのチャクラ活性化」「食事集中」「歩行集中」などの瞑想があります。

サマタ瞑想は、不可避的に現れる思考や感情などの私的な対象や出来事に対しては、気付いた時点で呼吸や身体感覚に注意を戻す「注意の転換瞑想」のことです。

ヴィパッサナー瞑想は、サマタ瞑想で行われる注意の持続と転換が安定して行えるようになったうえで、注意の範囲をパノラマ的に広げ、意識的に入ってくる音や匂い風など一つに注意を向ける、交互に注意を向ける、同時に全体に注意を配るようにする「注意の分割」ができる瞑想のことです。

最終的には思考や感情などの私的対象、出来事に気付き、注意を「今ここに」戻すことでそれ以上の雑念が発展せずに消えていくことが繰り返しできるようになります。
このことで、「問題の解決などに重点を置く」スタンスではなく、「現実を歓迎し、あるがままの状態にしておく」ことで、「これからしなければならない『することモード』」と「単に今起きているだけの『あることモード』」が区別できるようになります。
この区別ができなくて、辛くて苦しかった実際には役に立たない思考や感情の心のモードを離れ、過去の経験や学習の習慣が織りなす思考や起きてもいない未来の不安から創られる思考ではなく、今現在のプロセスや文脈に注目し、必要なものにどう注意を向けるかを選択できるようになります。

認知行動療法の基礎と展開:熊野宏昭講義より一部改編

4⃣ 自己の経験からのデフュージョン(Cognitive Defusion)

自己の経験からのデフュージョン(脱フュージョン)は、自己の思考や感情との距離を取ることを促すテクニックです。通常、私たちは自己の思考に捕らわれてしまい、それらによって行動が制限されてしまうことがあります。デフュージョンの技法を使うと、自己の思考や感情を文字通り解体し、それらに囚われずに自由に行動できるようになります。

5⃣ 価値の明確化(Values Clarification)

ACTでは、自己の価値を明確にすることが重要視されます。自己の内なる価値や意味を理解し、それに基づいて意識的な選択や行動を行うことで、より豊かな生活を送ることができます。価値の明確化は、目標設定や行動の方向性を決定する際に重要な役割を果たします。

6⃣ コミットメントと行動(Committed Action)

ACTでは、自己の価値に基づいた意味のある行動を選択し、それにコミットすることが強調されます。コミットメントと行動は、状況や困難に直面しても、自己の価値に忠実に行動する意志と覚悟を持つことを意味します。

7⃣ 無意識の拡大(Expansion of the Present Moment)

ACTでは、自己の経験を広げることが重要視されます。これは、自己の思考や感情にとらわれず、現在の瞬間や体験をより包括的に捉える能力を開発することを意味します。これにより、制限された視野や思考パターンから解放され、新たな視点や選択肢を見つけることができます。

8⃣ アクションの一貫性(Consistency of Action)

ACTでは、自己の価値や目標に基づいた行動の一貫性を重視します。一貫した行動は、自己の意図や方向性を示し、自己の成長と変化を促進します。一貫した行動を通じて、自己の変革や目標の達成に向けたプロセスをサポートします。

9⃣ 問題のコンテクスト化(Contextualization of Problems)

ACTでは、問題を個別の出来事や症状として捉えるのではなく、文脈や機能との関連性を重視します。問題の背後にある文脈やパターンを理解することで、問題解決に向けたより効果的なアプローチを見つけることができます。

ACTはこれらのコンセプトを実践的な技法や演習と組み合わせてアプローチします。具体的なセラピーのセッションでは、クライエントとセラピストは共同で目標を設定し、自己の価値と意味を明確化し、心理的柔軟性を高めるための実践を行います。クライエントは、自己の思考や感情に柔軟に対処し、自己の目標に基づいた行動を選択し、苦痛や困難を受け入れるためのスキルを習得します。

🔟 心理的柔軟性(Psychological Flexibility)

心理的柔軟性は1⃣〜9⃣を取り入れたACTの中心的な概念であり、個人の心理的な成長と幸福の向上を促すための目標です。心理的柔軟性は、次の6ステップのコンポーネントで構成されます。

  • アクセプタンス(Acceptance)
    不快な感情や思考を受け入れ、避けずに受け止めます。
  • 現在の瞬間への集中(Present Moment Awareness)
    現在の状況や体験に意識を集中し、マインドフルネスの実践を通じて自己を受け入れます。
  • 自己との結びつき(Self-as-Context)
    自己に対する観察者的な意識を持ち、自己と経験との間の距離を意識します。
  • 価値の明確化(Values Clarification)
    自己の価値や意味に基づいて行動するために、自己の価値観を明確化します。
  • コミットメント(Committed Action)
    自己の価値に基づいた意味のある行動を選択し、それにコミットします。
  • 自己の経験からのデフュージョン(Cognitive Defusion)
    自己の思考や感情から距離を置き、それらに縛られずに行動します。

関係フレーム理論

関係フレーム理論(Relational Frame Theory, RFT)は、ACT(Acceptance and Commitment Therapy)の理論的基盤となる認知科学の枠組みです。関係フレーム理論は、機能的文脈主義に基づいた人間の言語や認知に関わる学習理論で、言語と思考の役割を重視し、人間の行動や認知を解釈するためのモデルとして開発されました。
次に、関係フレーム理論の主要な要点を解説します。

  • 関係フレーム
    • 関係フレームは、言語によって形成される関係の組み合わせやパターンのことを指します。
      例えば、「同じである」という関係フレームでは、物事を比較して同じであると認識します。関係フレームには他にも、「異なる」「一部が含まれる」「前後関係」など様々な認識できるタイプがあります。関係フレームは、言語や思考によって構築され、我々が世界を理解するための基本的なメカニズムとなっています。
  • 派生的関係
    • 関係フレーム理論では、関係フレーム間の関連性や関係を認識することで、新たな関係や意味が派生的に生じるとされます。
      例えば、AとBが同じであるという関係フレームがあれば、それに基づいてAとBが異なるという関係も認識できます。このような派生的関係の形成によって、人間は言語や思考を通じて複雑な意味や概念を理解し、行動することが可能となります。
  • 意味の変容
    • 関係フレーム理論では、言語と思考の役割を通じて、意味の変容が重要な概念として捉えられます。
      言語や思考は、新たな関係フレームを形成し、既存のフレームの意味を変えたり拡張したりすることができます。意味の変容は、行動や感情への影響をもたらし、新たな選択肢や柔軟性を生み出します。
  • 上位フレームと下位フレーム
    • 関係フレーム理論では、関係フレームは階層的な構造を持つとされています。上位フレームはより一般的な関係や意味を表し、下位フレームは具体的な関係や意味を表します。
      上位フレームの意味や関係が変化すると、それに基づく下位フレームの意味や関係も変化します。例えば、上位フレームで「同じである」という関係が変化すると、それに基づく下位フレームでの意味や関係も変化します。
  • 概念の形成と一般化
    • 関係フレーム理論では、人間が概念を形成し、それを一般化する能力が重要視されます。
      概念の形成は、関係フレームの組み合わせによって行われ、一般化は既存のフレームを新たな状況や対象に適用することで行われます。この概念の形成と一般化の能力によって、人間は経験から学び、新たな状況や対象に対して適応的な行動を取ることができます。

関係フレーム理論は、言語や思考の役割を強調しながら、人間の行動や認知のメカニズムを理解するための枠組みです。ACTでは、関係フレーム理論を活用して、言語や思考が個人の苦悩や制約をどのように形成し、変容させるかを理解し、柔軟な対応を促すアプローチを展開します。関係フレーム理論は、自己の変容や成長を支援するための重要な概念の一つとなっています。

機能的文脈主義

機能的文脈主義(Functional Contextualism)は、ACT(Acceptance and Commitment Therapy)の理論的基盤の一つです。機能的文脈主義は、行動や経験を文脈に基づいて理解することを重視し、行動や経験の機能や意味を考慮します。
次に、機能的文脈主義の主要な要点を解説します。

  • 文脈の重要性
    • 機能的文脈主義では、行動や経験を単独の事象としてではなく、文脈や状況に基づいて理解します。行動や経験は、それが発生する文脈や状況によって意味や機能が変化すると考えられます。
      例えば、同じ行動でも、異なる文脈や状況では異なる意味や影響を持っています。機能的文脈主義では、行動や経験を文脈に埋め込まれた現象として捉え、その文脈を考慮しながら理解することが重要とされます。
  • 関係的な変化
    • 機能的文脈主義では、行動や経験の変化を関係的な視点から捉えます。つまり、個別の行動や経験のみに焦点を当てるのではなく、それらが他の要素や関係との相互作用によってどのように変化するかを考えます。
      行動や経験は、文脈や関係性の中で相互に影響し合い、変容します。この関係的な変化を理解することで、より柔軟な対応や意味づけが可能となります。
  • 機能的な分析
    • 機能的文脈主義では、行動や経験をその機能に基づいて分析します。行動や経験は、求める価値や目標、文脈に応じた適応的な反応を達成するための手段として機能します。機能的な分析は、行動や経験の目的や意図を考慮し、その機能を評価することで行われます。
      例えば、ある行動が一時的に快適さをもたらすかもしれませんが、長期的には価値ある結果や目標の達成に障害になる場合、それは非機能的とされます。ACTでは、行動や経験の機能的な分析を通じて、より価値ある方向への行動を促すことが目指されます。

機能的文脈主義は、行動や経験を単独の要素としてではなく、それらの文脈や関係性に基づいて理解するアプローチです。この視点を活用することで、行動や経験がどのように機能し、意味を持つのかをより深く理解し、適応的な変容を促すことができます。ACTでは、機能的文脈主義の考え方を治療プロセスや介入戦略に組み込み、より豊かな意味や目的に基づいた行動を選択できるようサポートしています。

ACTとメタファー

ACTは、メタファーを活用することでクライエントの理解と変容を促します。メタファーは比喩的表現である言葉やイメージを使って抽象的な概念や経験を具体化し、クライエントの内なる世界にリンクさせるために使用されます。
次に、ACTとメタファーの関連性を説明します。

  • メタファーの理解と共感
    • メタファーはクライエントにとって理解しやすく、共感を呼び起こす力を持ちます。ACTでは、クライエントの内なる体験や苦悩を捉えるためにメタファーが使用されます。セラピストはクライエントと共有された言葉やイメージを通じて、クライエントの内的な世界に共感し、理解を深めます。
  • メタファーの言語化と認識
    • メタファーはクライエントの言語化と認識を促します。抽象的な概念や感情を具体的なイメージや物語に変換することで、クライエントは自己の内なる体験を明確に認識しやすくなります。メタファーはクライエントの内的なプロセスを言語化する手段として機能し、セラピストとのコミュニケーションや自己探求に役立ちます。
  • メタファーの新たな視点と選択肢
    • メタファーはクライエントに新たな視点や選択肢を提供します。クライエントはメタファーを通じて自己の問題や制約を別の形で捉え、より柔軟な視点を持つことができます。また、メタファーはクライエントに行動の選択肢や可能性を示し、変容への意欲と希望を喚起する役割を果たします。
  • メタファーの体験と実践
    • メタファーはACTの実践において体験と実践の一環として利用されます。クライエントはメタファーに関連するイメージや物語を実際の体験に結び付け、それを通じて自己の苦悩や制約に直面し、柔軟なアプローチを試みることができます。セラピストはメタファーを導入し、クライエントがそれを自身の生活に適用するための支援や指導を行います。

セラピストは、例え話を用いてエクササイズを行います。例えば「船の舵手(舵取り)」というメタファーを使用して、クライエントが自己の価値に基づいた方向へ進むための役割を強調していく感覚です。クライエントは自己の舵手としての責任を認識し、目標や価値に沿って航海するための具体的な行動を選択することを促されます。
また、メタファーはクライエントの内的な体験を探求し、理解を深めるための手段としても使用されます。クライエントが自己の苦悩や困難をメタファーを通じて表現することで、それらの経験に対する新たな洞察や理解が生まれることがあります。

メタファーはクライエントの内なる世界にアクセスし、自己の価値や目標に対する意識を高め、柔軟なアクションへと繋げるための効果的なツールです。セラピストはクライエントとの共同作業においてメタファーを適切に導入し、クライエントの内的な変容と成長を支援します。

ACTの理論「心理的非柔軟性」6つの病理的なコアプロセス

ACTの心理療法が目指す理論は、適応的な「心理的柔軟性」を目指す6つの行動パターンですが、その前に不適応的な6つの病理的プロセスから見てみます。これらの病理的なコア・プロセスが活発化すると、心理的苦痛や不適応の増大につながります。

  • 認知的ヒュージョン(Fusion)
    • 認知的ヒュージョンは、言葉や思考との強い結びつきを指します。これは、自分の思考や信念を真実だと受け入れ、それに囚われる状態を表します。認知的ヒュージョンは、思考が行動を規定し、自己の制約や苦痛を引き起こす要因となります。ACTでは、認知的ヒュージョンを脱し、思考を単なる出現現象として受け入れることが重要です。
  • 体験の回避(Experiential Avoidance)
    • 体験の回避は、不快な感情や身体的感覚、思考、記憶などから逃れるために行われる行動や戦略です。個人は不快な体験を避けようとし、それに対処するためにさまざまな方法を使います。しかし、この回避行動は一時的には苦痛を緩和するかもしれませんが、結果的には制限された生活や心理的な困難を引き起こすことがあります。
  • 概念としての過去や未来による支配/少ない自己知識(Dominance of Conceptualized Past or Future/Lack of Self-Knowledge)
    • このプロセスでは、過去の出来事や将来の予測に囚われ、それに基づいて自己を定義し制限する傾向があります。自己のアイデンティティや価値を過去の経験や将来の期待に基づいて定義し、その制約の中で生きています。このような固定的な「自己イメージ」は、成長や変化の機会を制限し、苦痛や不適応の原因となります。
  • 価値の明確さの欠如、価値との接触の欠如(Lack of Clarity of Values, Lack of Contact with Values)
    • 自分自身にとって本当に重要な価値や意味を明確にすることができない場合、意図した行動や生き方に欠如が生じます。また、価値との接触が不十分な場合、日常の行動や選択が自己の真の価値と一致せず、不適応や不満足感を引き起こします。ACTでは、価値を明確にし、その価値に基づいて行動することで、生活の充実感と満足度を高めることを目指します。
  • 機能しない行動(Inaction and Impulsivity)
    • このプロセスでは、目標に向けた行動を起こさないか、逆に衝動的な行動に走ってしまう傾向があります。行動の停滞や無駄な行動は、成長や目標達成を妨げるだけでなく、苦痛や不適応をもたらす可能性があります。ACTでは、目標に合わせた意図的な行動の選択と実行を促し、機能的な行動パターンを育むことが重要です。
  • 概念としての自己に囚われ(Self-as-Context)
    • このプロセスでは、自己を一つの固定的な概念として捉え、自己という概念に執着する傾向があるということです。これにより、自己の柔軟性や成長が制限され、自己の一部であるという思考や感情に囚われてしまいます。ACTでは、自己を体験する際に客観的な視点を持ち、自己の一部であるという意識を超えて、より広い視野で自己を捉えることを促します。

ACTの理論「心理的柔軟性」を目指す6つのコアプロセス

ACTの心理療法が目指す理論は、「心理的柔軟性」という言葉でまとめられる6つの行動パターンです。
人生の苦しみや心理的な問題を解決するために、心理的柔軟性と呼ばれるスキルを発展させ、自己の体験や感情に柔軟に対処する能力、自己の価値に基づいた意味のある行動を選択する能力、そして現在の状況に集中し、目標に向かって行動する能力のことです。

心理的柔軟性とは、「今ここに存在するそのままの自己を認識し、心を開きそのままの状況を受け止めて柔軟にすることで、価値や意味ある行動を選択する」状態のことです。ACTは6つの行動パターン・コアプロセスを増やすことで、心理的柔軟性で目的の達成を目指していく心理療法です。
次からは、具体的なACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の理論の説明をしていきます。

1⃣ アクセプタンス(Acceptance)

ACTにおけるコアプロセスの1つであるアクセプタンス(Acceptance)は、苦痛や不快感を抵抗することなく、受け入れる能力を指します。アクセプタンスは、心理的な柔軟性を促進し、現在の状況や内在的な経験に対して開かれた姿勢を持つことを意味します。

アクセプタンスは次のような要素があります。

  • 経験の受容
    • アクセプタンスは、喜びや楽しみだけでなく、苦痛や不快感、悲しみ、怒りなどのネガティブな感情や経験をも受け入れることを指します。過去や未来への執着を捨て、現在の瞬間に焦点を当て、経験をありのままに受け入れることが重要です。
  • デフュージョン(思考の解離)
    • デフュージョンは、自己の思考や言語との関係を変えるプロセスです。思考が現実の一部であるかのように捉えるのではなく、思考が単なる出現現象であることを認識します。デフュージョンの技法は、思考との関係性を緩め、思考に囚われずに行動するための柔軟性を促します。
  • 現在の瞬間への注意(Present Moment Awareness)
    • アクセプタンスは、過去や未来への執着ではなく、現在の瞬間に意識を集中させることが重要です。現在の瞬間への注意を高めることで、自己の経験や状況をより鮮明に受け止めることができます。マインドフルネスの練習は、現在の瞬間への注意を養う手段として有用です。

アクセプタンスの目的は、不快感や苦痛から逃れるのではなく、それらを受け入れることによって心の柔軟性を増し、自己成長や充実感を追求することです。アクセプタンスは、自己の経験や感情の幅広い範囲を許容し、それらに対して柔軟で開かれた姿勢を持つことを目指します。

2⃣ 脱ヒュージョン

脱ヒュージョン(Defusion)は、ACTにおける重要なコンセプトの一つです。ヒュージョンとは、自己の思考や言葉と完全に同一視してしまう状態を指します。脱ヒュージョンは、この思考との結びつきを緩めることを目指します。

脱ヒュージョンの目的は、自己の思考や言葉に囚われず、柔軟な認識を可能にすることです。
次に、いくつかの脱ヒュージョンの技法やアプローチを紹介します。

  • 言葉の文脈化(Contextualization of words)
    • 脱ヒュージョンでは、思考の言葉を単独の意味ではなく、それが使用される文脈や状況に関連付けることが重要です。思考の言葉は単なる記号であり、現実とは異なることを認識することで、その言葉に対する固定的な解釈や信念から自由になることができます。
  • おかしさへの変換(Silliness)
    • おかしさの技法は、思考のパターンを打ち破るために用いられます。例えば、特定の思考や否定的な自己評価に対して、「私は完璧でなければならない」という思い込みを持っている場合、それを「私は一輪車を乗り回すときにバランスを取らなければならない」という不条理な文脈に置き換えることで、思考の固執を緩めることができます。
  • メタファー(Metaphor)
    • メタファーは、脱ヒュージョンの手段として効果的です。自己の思考や言葉をある物事やイメージと関連付けることで、それらを一時的な出現現象として捉えることができます。例えば、「思考は雲のようなものであり、雲は通り過ぎていくものだ」というメタファーは、思考の流れが自己とは別のものであることを示すことができます。

脱ヒュージョンは、マインドフルネスや認知の柔軟性を養うための重要な手法です。このプロセスを通じて、自己の思考や言葉との関係性を見つめ直し、より自由な心の状態を実現することができます。

3⃣ 文脈としての自己

文脈としての自己(Self-as-Context)は、ACTにおける重要なコンセプトの一つです。自己の文脈としての役割を理解することは、心理的柔軟性を高め、自己の成長と変容を促す上で重要な要素となります。

自己の文脈としての役割は、自己を経験する主体としての「私」と、経験の内容や出来事を受け入れる「観察者」としての『自己の文脈』を理解できる二つの側面を持っています。自己の文脈は、思考や感情、感覚、記憶などの内容を受け入れつつ、それに執着せずに客観的に観察する能力を指します。

自己の文脈を意識することで、次のような効果が期待されます。

  • 観察者自己の発達
    • 自己の文脈としての役割を強化することで、自己を経験する主体としての「私」と、それを観察する「自己の文脈」との間に距離を持てます。これにより、自己の経験を客観的に見つめ、柔軟な認識や視点を持つことができます。
  • 自己の柔軟な統合
    • 自己の文脈としての役割を認識することで、自己を構成するさまざまな側面やアイデンティティを受け入れ、認めることができます。それぞれの側面は、1つ(全体)の中の一部であり、異なる文脈や状況によって変化するものであると認識します。
  • 自己との関係性の変容
    • 自己の文脈を意識することで、自己との関係性が変容します。自己の経験や思考に固執するのではなく、それを客観的に捉えることで、より広い視野や可能性を持った自己を実現することができます。

自己の文脈は、自己のアイデンティティや経験の枠組みを広げ、心理的柔軟性を高める重要な要素です。ACTでは、自己の文脈を活用することで、自己の成長と変容を促進し、より充実した生活を実現することを目指しています。

4⃣ コミットされた行動

コミットされた行動(Committed Action)は、ACTのコアプロセスの1つであり、意図的かつ価値に基づいた行動を実践することを指します。コミットされた行動は、アクセプタンスと結びついており、自己の価値観や目標に従って行動することで、より豊かで意味のある生活を実現することを目指します。

コミットされた行動の特徴や要素には次のようなものがあります。

  • 価値指向性(Value-driven)
    • コミットされた行動は、自己の価値観や目標に基づいています。自己が重視する価値や意味を明確にし、それに応じた行動を選択します。例えば、自己の価値観が家族や友情にある場合、それに基づいた行動を優先することになります。
  • 具体的な行動(Concrete action)
    • コミットされた行動は、具体的かつ実践的な行動です。単なる意図や望みだけではなく、実際の行動に移すことが重要です。具体的な行動プランや目標を立て、それを実行に移すことで、変化や成長を促進します。
  • 長期的な視点(Long-term perspective)
    • コミットされた行動は、短期的な利益や快楽だけではなく、長期的な視点を持つことを意味します。一時的な困難や不快さを乗り越えつつ、長期的な目標や価値に向かって行動を継続できるような持続的な努力や忍耐が求められることもあります。
  • 柔軟性(Flexibility)
    • コミットされた行動は、柔軟性を持って展開されます。状況や文脈に応じて、必要な修正や調整を行いながら、目標に向かって前進します。柔軟性が重視されるため、必ずしも特定の方法や手段にこだわるのではなく、臨機応変に行動を変化させることもあります。

これらの手法やアプローチを組み合わせて、個々の目標や状況に応じたコミットされた行動の実践をサポートします。コミットされた行動は、個人の成長や自己実現を促し、より意味のある生活を実現するための重要な要素となります。

5⃣ 価値の明確化

価値の明確化(Clarification of Values)は、ACTのコアプロセスの一つであり、自身の人生の価値や意味に関する明確な理解を得ることを目指します。価値の明確化は、自己の行動や選択を導く基準となる、重要な指針や原則を明確化するプロセスです。

次に、価値の明確化の特徴とアプローチについて詳しく解説します。

  • 自己の価値の洞察
    • 価値の明確化は、自己の内面に焦点を当てます。自分自身が大切にする価値観や信念について考え、内省することで自己の本質的なニーズや目的を理解することが求められます。
  • 現在の状況との整合性
    • 価値の明確化は、現在の状況との整合性を見つけることも重要です。自己の行動や選択が自身の価値と一致しているかどうかを検討し、目標や行動の方向性を価値に基づいて再評価する必要があります。
  • 具体的な行動への結びつけ
    • 価値の明確化は、抽象的な概念や理念だけでなく、具体的な行動に結びつけることが重要です。自身の価値に基づいて具体的な行動目標を設定し、それに向かって行動する意思決定を行います。
  • 調整と柔軟性
    • 価値の明確化は、固定化や頑固さを避けることも目指します。自己の価値を柔軟に調整し、状況や環境の変化に適応するための柔軟性を持つことが求められます。

価値の明確化は、自己の人生において意味と目的を見出すための重要なプロセスです。それにより、自己の行動や選択を価値に基づいてガイドし、より充実した日常を築くことが可能となります。ACTにおいては、価値の明確化が個人のコミットされた行動や心理的柔軟性の向上につながると考えています。

6⃣ この瞬間との接触

この瞬間との接触(Contact with the Present Moment)は、ACTのコアプロセスの一つであり、現在の瞬間に意識を集中し、心の中の思考や感情に囚われずに、現実の体験に入り込むことを指します。このプロセスは、過去の出来事や未来の予測に囚われず、現在の状況や感覚に注意を向けることで、心理的な柔軟性を促進します。

次に、この瞬間との接触の特徴とアプローチについて詳しく解説します。

  • マインドフルネスの実践
    • この瞬間との接触は、マインドフルネスの実践を重視します。意識を過去や未来の出来事ではなく、現在の瞬間に集中させることで、現実の体験をより鮮明に捉えることができます。
  • 自己の観察と受容
    • 自己の内面に注意を向け、思考や感情を客観的に観察し受容することが重要です。過去の反省や未来への懸念に囚われず、現在の瞬間に存在する思考や感情を受け入れます。
  • 経験の豊かさ
    • この瞬間との接触は五感を通じて現在の瞬間を体験し、周囲の環境や自身の身体感覚、感情などに敏感になることで、より深いつながりを感じることができます。
  • 自己との一体感
    • 現在の瞬間との接触により、自己との一体感を高めることができます。過去の自己イメージや未来の自己の期待に囚われるのではなく、現在の瞬間に存在する自己とのつながりを感じることで、自己のアイデンティティをより深く理解することができます。

この瞬間との接触を実践することにより、心の中の過去や未来への思考や懸念に縛られることなく、現実の体験に完全に入り込むことができます。

SMARTなゴールの設定方法

コミットされた行動とは、自己の価値を知ることだけではありません。自己の価値と一致する実践および行動があることで価値を活かすことができます。また、実践や行動の結果次第では価値の見直しを考えなければならない場合もあります。
自己の価値と実践や行動結果の不一致を少なくするためには、SMARTなゴール設定が重要です。

SMARTは、ゴールの設定において重要な要素を示すアクロニムです。次にそれぞれの要素について詳しく解説します。

  1. S:Specific(具体的)
    ゴールを具体的に設定します。これにより、何を達成したいのかを明確にします。具体的な要素については、次の質問に答えることで明確化することができます。
    • 何を(What):具体的にどのような行動や結果を達成したいですか?
    • いつ(When):ゴールを達成したい期限や時間枠はありますか?
    • どこで(Where):ゴールを達成する場所はどこですか?
    • 誰と(Who):誰と一緒にゴールを達成しますか?
  2. M:Meaningful(有意義)
    ゴールが自分の価値や意味に合致しているかを検討します。ゴールが自分自身にとって本当に重要で意味のあるものであるかを考えます。自分の内なる動機やパーソナルバリューに基づいてゴールを選びます。
  3. A:Adaptive(適合的)
    ゴールが適応的であるかを検討します。つまり、ゴールを達成することで自分の人生がより豊かになるかどうかを考えます。ゴールが自己成長や健康、幸福などの健全な方向に向かっているかを確認します。
  4. R:Realistic(現実的)
    ゴールが現実的であるかを検討します。自分の能力や制約、現在の状況を考慮して、達成の可能性を確認します。目標が過度に困難であり、実現がほぼ不可能である場合、モチベーションの低下や失望感を招く恐れがあります。現実的な目標を設定します。
  5. T:Time-framed(期限の設定)
    ゴールを達成する期限を設定します。期限を設けることで、目標に向かって行動を起こすための時間的な枠組みを持つことができます。期限を設けることで、タスクや行動の優先順位を明確にし、効果的な計画を立てることができます。

これらの要素を組み合わせることで、SMARTなゴールが形成されます。次に具体例を示します。

例: 「毎週水曜日の午後6時から8時まで、フィットネスクラブでトレーニングを行う

STEP
Specific(具体的)

ゴールは「毎週水曜日の午後6時から8時まで」という具体的な時間枠でトレーニングを行うことを示しています。

STEP
Meaningful(有意義)

このゴールは健康や体調管理といった自己の健康価値に合致しており、健康維持のための積極的な取り組みを意味しています。

STEP
Adaptive(適合的)

このゴールの達成により、身体的な健康やフィットネスレベルの向上が期待されます。また、ストレスの軽減や健康的なライフスタイルの促進にも役立ちます。

STEP
Realistic(現実的)

ゴールの内容はスケジュールや能力に合わせて調整されており、継続可能で実現可能な目標です。

STEP
Time-framed(期限が決められている)

ゴールの期限は毎週水曜日の午後6時から8時までのトレーニングを開始することです。

SMARTなゴール設定により、目標が具体的で意味のあるものであり、現実的な達成可能性を持ち、期限が設けられています。これにより、行動の方向性や優先順位が明確化され、自己の価値に基づいた行動が容易になります。

なお、SMARTなゴール設定は、パーソナルな目標設定だけでなく、組織やプロジェクトの目標設定にも適用される有用な手法です。

ACT入門――痛みから逃げずに生きる技術」 著者: スティーブン・C. ヘイズ、スペンサー・スミス、ジェシカ・ハンソン 発行社: サイエンス社

「ACT in Practice: Case Conceptualization in Acceptance and Commitment Therapy」 著者: Patricia A. Bach、Daniel J. Moran、Steven C. Hayes 発行社: New Harbinger Publications

「The Happiness Trap: How to Stop Struggling and Start Living: A Guide to ACT」 著者: Russ Harris 発行社: Shambhala

「ACT Made Simple: An Easy-to-Read Primer on Acceptance and Commitment Therapy」 著者: Russ Harris 発行社: New Harbinger Publications

「Learning ACT: An Acceptance and Commitment Therapy Skills-Training Manual for Therapists」 著者: Jason B. Luoma、Steven C. Hayes、Robyn D. Walser 発行社: New Harbinger Publications

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